デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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開戦・十香(反転)と六喰

ー六喰sideー

 

「・・・・・・・・・・・・むん」

 

道を歩きながら、六喰は不機嫌そうに息を吐いた。

ーーーー先程から、心臓が針で刺激されるかのような苛立ちが収まらないのだ。

しかしそれも当然である。士道と2人だけになる為に、絶大な力を持つ〈封解主<ミカエル>〉で、邪魔者達の記憶を『閉じた』筈なのに、その邪魔者達から2人も記憶が甦って現れ、士道との逢瀬を邪魔している。六喰はそれが耐え難い程に不快で仕方なかった。

喫茶店を出た後、折紙に先導されながら、六喰達は街の様々なデートスポットを巡らされた。

映画館、ゲームセンター、ショッピングモール・・・・まあいずれも十香(反転)が六喰と士道のキスを妨害し、水入りになっているが。

何が腹立たしいかと言えば、それら全てが、士道と2人きりであったなら最高に楽しい場所だったに違いないのに、邪魔者2人が存在しているせいで、少しずつ少しずつ士道との時間が削られていく。それは六喰にとって極大のストレスに他ならなかった。

士道は六喰だけのものなのだ。六喰だけを愛してくれる人なのだ。六喰だけが愛していい人なのだ。その自分達の間に入ってくるなど、何人たりとも許されないのだ。

邪魔者2人に侮られるのは気に喰わない為、先ほどからどうにか余裕を見せつけながら対応をしてはいる。が、それもそう長くは続きそうになかった。六喰の腹の中は今、熱湯の如くグラグラと煮え滾っているのだ。

この2人がいる事で、士道との時間がどんどん削られていく。

士道が六喰以外の誰かに話しかけ、反応し、笑いかける。

それを考えるだけで、六喰は思わず肌を掻き毟ってしまいたくなるような衝動に襲われるのだった。

 

「・・・・何だと言うのじゃ、一体」

 

誰にも聞こえないくらいのちいさな声で呟きながら、カリカリと親指の爪を噛む。

本来であれば、即座に邪魔者2人の頭に〈封解主<ミカエル>〉を突き刺して、記憶に鍵を掛けてしまいたいのだが、折紙はまだしも十香(反転)の方は六喰を警戒しきっている為、動けなかった。それに、そもそも、何故この2人が〈封解主<ミカエル>〉の力から逃れられたのかが分かっていない。それを知らぬままでは、再び記憶に鍵を掛けたとしても、また何食わぬ顔で現れる可能性がある。

もしかしたら、士道がしたように、〈封解主<ミカエル>〉の力をコピーする天使がいたのか、何かしら別の要因による物なのか。それに、他の少女達の記憶は『閉じ』られたままなのかも気にかかる。

いや、もしかしたら皆既に記憶を取り戻していて、六喰から士道を奪う策を講じているのでは・・・・。

 

「ーーーーえ、えっと、じゃあ、次はここです」

 

と。六喰がそんな事を考えていると、、3人を先導していた折紙が足を止め、そんな事を言ってきた。

どうやら、六喰と十香(反転)が士道を取り合う次の戦場<デートスポット>に到着したようだ。六喰は苛立たしげに眉をひそめながら、折紙が指し示す方向に目をやりーーーー。

 

「ーーーー、(ドクン)・・・・っ」

 

思わず、息を詰まらせた。心臓が収縮し、呼吸が荒くなる。

何故かは自分でも分からない。しかし、ソコに聳えるモノを目にした瞬間、異様な動悸が襲ってきたのである。

ソコにあったのはーーーー尖塔のような形をした、大きな建造物だった。

 

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

「・・・・まあ、確かにデートスポットではあるけど」

 

士道達の目の前にあったのは、天宮タワーと呼ばれる尖塔の建物である。30年前の南関東大空災の後、新しい建てられた総合電波塔であり、内部には展望台が設えられ、タワー周辺には様々な商業施設が建ち並んでいた。観光地でもあるので、休日にはカップルや家族連れで良く賑わっている。

 

「・・・・て言うか改めて思うけど、天宮市ってホント色んな物があるよな」

 

「うん。30年前の大空災で1回何にも無くなっちゃったからね・・・・昔ながらの街並みって言うのが乏しい代わりに、新しい施設は多いよね」

 

士道の言葉に答えるように、折紙が言ってくる。すると腕組みした十香(反転)が、人差し指で肘を叩きながら視線を向けてきて。

 

「で、この塔がどうしたと言うのだ」

 

「あっ・・・・ええとですね、このタワーの展望台でキスしたカップルは幸せになれるって言う噂、と言うか都市伝説がありまして・・・・今回の勝負にはピッタリなんじゃないかと・・・・」

 

「くだらん。ーーーーだが、まあいい。その男の心を折るのに、場所など些末な問題だ。せいぜい這いつくばり場所を選べ」

 

「「(・・・・この人、実は結構脳筋なのでは?)」」

 

フンと息を吐いてタワーを見上げるように顔を上げた十香(反転)か、士道を見て、まだ何か勘違いしているような事を言う。士道と折紙は一瞬顔を見合わせると、お互いの顔に汗が浮かんでいた。

そうこうしている間に、十香(反転)がのしのしと先に歩いていってしまう。彼女1人にするのは危険過ぎると判断し、2人が慌てて後を追うとする。

がーーーー。

 

「ん・・・・?」

 

士道は後方を振り向くと、先ほどまで士道にピタリとくっついて歩いていた六喰が、その場で足を止めていた。

 

「六喰? どうかしたか?」

 

「・・・・・・・・・・・・やじゃ」

 

「え?」

 

六喰が小さな声で何かを言ってきて、士道は首を傾げて聞き返した。

 

「・・・・いやじゃ。行きとうない。ここは・・・・いやじゃ」

 

「六喰・・・・?」

 

そのただならぬ様子に、士道は眉をひそめた。

今の今までーーーーそれこそ、十香(反転)や折紙が現れてなお動揺らしきモノを見せなかった六喰が、旗から見ても分かるくらいに顔色を変えている。否・・・・それどころか、怯えていると言ってもいい。

 

「お、おい、大丈夫か、六喰」

 

流石に心配になった士道が、六喰の顔を除き込んだ。先に行っていた十香(反転)と折紙もまた、六喰の様子に気づいてか、足を止めて後方を振り向いている。

 

「一体何事だ」

 

「む、六喰ちゃん?」

 

士道は微かに震える六喰の肩に手を置くと、折紙達に視線を向けた。

 

「良くわからないんだが、六喰はここが苦手らしい。別の所にしてくれないか?」

 

「そうなの? えっとじゃあ何処か他のーーーー」

 

「それはつまり、負けを認めると言う事だな?」

 

折紙の言葉を遮るように、十香(反転)の冷徹な声が発せられる。士道が手を置いていた六喰の肩が小さくピクリと揺れた。

 

「私は別に構わんぞ。そもそも貴様との勝負などもののついでだ。私がソコの男を屈服させる様を黙って見ているが良い」

 

「・・・・ッ、戯れ言を・・・・吐かすでないわッ」

 

キッと視線を鋭くした六喰が、十香(反転)を睨み付けたかと思うと、そのままゆっくりと、1歩1歩を踏みしめるような調子で前へと進んでいった。

 

「お、おい六喰。無理はするなよ?」

 

「・・・・問題ない。主様をあの女になど渡さぬのじゃ」

 

顔を蒼白にしながらも、六喰は有無を言わさぬ調子で歩を進めていく。

士道と折紙は心配そうな表情で視線を交わし合ったが、もはや止める事は難しそうである。六喰と共に、十香(反転)の後を追った。

チケット売場でチケットを買い、エレベーターに乗って目的の展望台へと辿り着くが、六喰の顔色は優れないままであった。

 

「(・・・・一体どうしたってんだ、六喰は?)」

 

六喰の様子が気になるが、士道は展望台を見渡す。

エレベーターを囲うような形に広がるガラス張りの空間に、土産屋や小さなカフェ、それに恋愛成就の神様を祀った簡易的な社まである。

 

「ほう」

 

と、十香(反転)が小さく呟くと、街の景色が広がる窓の方へと歩いていき、折紙が慌ててその後を追った。

しかしそれとは対照的に、六喰の調子はドンドン悪化していく。

 

「六喰、大丈夫か?」

 

「・・・・むん、平気じゃ」

 

大仰に首肯した六喰は、わざとらしく背筋を伸ばして歩き始める。が、士道にはその姿が、虚勢を張っているようにしか見えなかったので、士道が心配そうに問うた。

 

「なあ、六喰。一体どうしたんだ? 高い所が苦手なのか?」

 

宇宙を漂っていた精霊が高所恐怖症なんてないだろうと、士道自身、マヌケな事を聞いていると思うが、あの時はあくまで心に鍵が掛かっていた状態だった。今の六喰がどういったモノに恐怖を覚えているかは別の話だ。

だが六喰は、ゆっくりと首を横に振った。

 

「・・・・違う。ただ・・・・何か分からぬが、ここはイヤな感じがするのじゃ」

 

「イヤな感じ・・・・か。六喰、もしかしてここに来た事があるのか?」

 

「・・・・っ」

 

士道が言うと、六喰はピクリと肩を揺らした。

 

「・・・・分からぬ。覚えておらぬのじゃ」

 

「そうか・・・・」

 

「ーーーー成る程。空を飛んだ状態で見るのとは趣が違うな。ふん」

 

と、ソコで、窓に張り付いていた十香(反転)がクルリと身体の方向を変え、こちらに向き直ってくる。

 

「さて、では再開しようか。どちらがその男の唇を先に奪えるかの勝負をな」

 

「あ、あの、十香さん。分かってるとは思いますが、さっき説明したように・・・・」

 

「分かっている。手足を残したまま奴を蘢絡すれば良いのだろう」

 

「全然分かってない!?」

 

「冗談だ。ーーーーさあ来い、鍵の精霊。貴様の矜持ごと打ち砕いてやる」

 

十香(反転)がそう言って、両手で先ほどのメイドカフェで覚えたばかりのハートマークを作ってくる。

・・・・何だか、ハンターの漫画に出てくる会長のようにも思えた。

六喰が、よろめきながらそれに応じるように足を1歩前に踏み出す。

 

「・・・・応とも。むくと主様の間に、うぬが付け入る隙など無いことをーーーー、・・・・ッ」

 

しかし、六喰はそこで、目眩と嘔吐感に襲われるように、腹部と口元を押さえながら身体をくの字に折った。

 

「む、六喰!?」

 

「六喰ちゃん!?」

 

観客達のざわめきの中、士道と折紙は、慌てて六喰に駆け寄った。

 

 

 

 

ー六喰sideー

 

「大丈夫、六喰ちゃん」

 

「・・・・・・・・むん」

 

女子トイレで折紙に背中をさすられながら、六喰は力無く返事を返した。

未だ頭はグワングワンと痛み、数秒おきに鉄球が腹部に落とされたような嘔吐感が襲ってきたりはするものの、先ほどよりは幾分かマシである。六喰は姿勢を直すと、呼吸を整えるように大きく深呼吸をした。

 

「(・・・・何故むくは、こんなにもこの場所に拒否感があるのじゃ・・・・? 分からぬ・・・・)」

 

何らかの結界か兵器の類ならば、士道達にも影響がある筈である。何故六喰だけがこんなにも・・・・。

 

【ーーーー六喰、もしかしてここに来た事があるのか?】

 

と、ソコでふと、先ほど士道が発してきた問いが頭を掠める。

六喰の記憶には未だ鍵が掛けられている為、昔の事は良く思い出せていないのだが、もしかしたら、六喰はかつてこの場所を訪れ、ソコで何か嫌な事があったのかも知れない。

無論〈封解主<ミカエル>〉の力は絶対であるが、士道に鍵を掛けられた際、そちらにも綻びができてしまったのかも知れないし、身体が『何か』を覚えていて反応を示してしまうと言う事がないとは言えなかった。

ならば、〈封解主<ミカエル>〉で自ら記憶の鍵を開けば、その原因と対処法が分かるのではーーーー。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

が。〈封解主<ミカエル>〉を顕現させようと右手を翳した所で、六喰はゴクリと息を呑んだ。

何故だろうか。凄まじい拒否感が身体を縛る。

それを開けてしまったなら、自分の心が自壊してしまいかねないような予感が、強烈な禁忌感となって、六喰の手を止めたのだ。

 

「・・・・六喰ちゃん?」

 

そんな六喰の様子を不思議に思ったのか、折紙が問うてきた。

 

「・・・・・・・・なんじゃ」

 

六喰はもう1度深呼吸をしてからそれに応じる。

 

「え、えっと、大丈夫かなって」

 

「問題ない。・・・・主様の所に戻るぞ」

 

「あ、うん・・・・」

 

六喰がノロノロとした足取りで歩き始めると、折紙が心配そうな調子でそう言って、後をついていく。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

六喰は先ほどさすって貰った背の感触を思い出し、一瞬足を止めた。

 

「・・・・折紙と申したの」

 

「あ、うん」

 

「うぬの記憶を再度『閉じる』時は、あの黒い女よりは優しくやってやるのじゃ」

 

「へ?」

 

六喰の言葉に、折紙は意外そうな声を返してきた。

 

「え、えっと、ありがとう・・・・なのかな?」

 

「・・・・むん」

 

六喰は小さくピクリ鼻を鳴らすと、折紙に顔を向けないままトイレを出ていった。

 

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

「一体どうしたんだ、六喰の奴・・・・」

 

展望台で士道は難しげな顔をしながら、チラッと隣で不機嫌そうな顔で腕組みをしている十香(反転)の方を見やった。

 

「・・・・何だ、貴様」

 

すると十香(反転)が目聡くそれに気づき、ギロリと視線を返してくると、士道はビクッと身体を震わせた。

 

「・・・・! い、いや・・・・」

 

折紙が六喰に付き添ったので、必然的にこの緊張感が半端ない状況になってしまった。もしこの暴君が何かの理由で暴れ出したら、即戦いになるのだ。当然とも言える。

しかし、こうして反転精霊と戦い抜きで向き合うのも始めてなので、不思議な物だ。

 

「おい」

 

と、不意に十香(反転)が口を開いてきた。

 

「! な、何だ?」

 

「先ほどからーーーーいや、以前から気になっていたが、貴様らが言う『十香』と言うのは私の名か」

 

十香(反転)が、冷たい視線を向けながらそう言ってくる。

士道は彼女から話しかけてきた事に意外そうなに目を丸くしながら、頷いた。

 

「ああ・・・・そうだけど」

 

「私がーーーーいや、こちらの私が自分で付けたのか?」

 

「いや。それは・・・・俺が」

 

「・・・・・・・・」

 

十香(反転)は無言で士道の足をゲシ、と踏みつけた。

 

「うあたっ! な、何だよいきなり・・・・」

 

「何となくだ」

 

「えぇ・・・・」

 

渋面を作りながらも、言葉を続ける。

 

「・・・・お前には、別に名前があるのか?」

 

「いいや。だから不本意だかその十香と言う名前で構わん」

 

「そっか。ーーーーじゃあ、十香」

 

士道が名を呼ぶと、再び十香(反転)が足を踏みつけた。

 

「な、何でだよ・・・・」

 

「何となくだ。ーーーーそれに、貴様ではなく、“奴”に呼んで欲しかった」

 

「え?」

 

最後の辺りは聞こえなかったが、士道は気を取り直して続ける。

 

「・・・・なあ、十香。お前は一体何者何だ? 反転と言うのは一体何なんだ? って言うか、そもそも精霊って言うのは・・・・」

 

「反転、か。つまりこちらの私から、私に変わる現象の事をそう呼んでいるのか?」

 

「ん・・・・まあ、そう・・・・なるな」

 

「フンーーーーその言い方は好かぬ。元はと言えば、私こそが、霊結晶<セフィラ>の化身たる精霊なのだからな」

 

「え・・・・? ど、どういう事だ?」

 

困惑の表情を作りながらも問う。

あくまで反転状態は、断片的な情報と推論の混ざった物しかなかったからだから仕方ない反応である。

十香(反転)は面倒そうに眉を歪めながら返してきた。

 

「始原の精霊が己の力を分割し、霊結晶<セフィラ>を創り上げた時、その属性は貴様の言う反転状態であったと言う事だ。しかし、始原の精霊がそれを変化させ、今の状態にした。つまりは、前提が逆なのだ」

 

「そんな、一体何の為に・・・・?」

 

「こちらの世界の人間に適合しやすい形にする為であろうよ。元々霊結晶<セフィラ>は現世<うつしよ>の物ではない。そのままの状態では、人間の身体を蝕み過ぎるからな」

 

「は・・・・?」

 

十香(反転)が事も無げに発した言葉に、士道は顔を困惑の色に染めた。

 

「ち、ちょっと待ってくれ。理解が追い付かない。始原の精霊が、人間に適合しやすいように・・・・? どういう事だよ、それ!」

 

思わず十香(反転)の肩を掴みながら問い詰めるように言ってしまう。十香(反転)が不快そうに顔をしかめた。

 

≪馬鹿が・・・・!≫

 

と、その瞬間、士道はドラゴンの声が聞こえたかと思うと、首根っこを思いっきり引っ張られたような感覚で後方に退くと、十香(反転)が左手で士道の胸倉があった処を掴もうとしたが、虚しく空を切った。

 

「(っ、ど、ドラゴン!?)」

 

≪この大たわけ者! 余計な行動を取るでないわ!≫

 

やっと戻ってきたドラゴンが怒声を士道に浴びせると、十香(反転)が視線を鋭くして、士道に冷酷な言葉を発する。

 

「調子に乗るな、人間。私が言葉を発したのは貴様に請われたからではない。ただの気まぐれだ。あまり図に乗るようならば、こう言うやり方で貴様の心を屈服させてやろうか?」

 

十香(反転)が手の平に霊力を集中させようとする。魔王を召喚する構えだ。

 

「ま、待ってくれ! 俺が悪かった!」

 

士道が謝罪しようとした、その時。

 

「ーーーーはぁぁぁぁッ!」

 

そんな絶叫と共に視界の端に何かが閃いたかと思うと、剣呑な表情をした六喰が、〈封解主<ミカエル>〉を手にして十香(反転)の脳天に、その鍵の天使を振り下ろしたが、十香(反転)はヒラリと回避した。

 

「何のつもりじゃ、主様に手を掛けるとは・・・・?」

 

「・・・・ふん、貴様には関係あるまい」

 

十香(反転)が鬱陶しげに言い、士道に向けていた冷酷な視線を六喰に向けた。

 

「何じゃと・・・・!?」

 

しかし六喰は怯む事無くーーーー寧ろ、烈火に灼かれるかのように、その表情を怒りの色に染めると、十香(反転)の胸倉をグッと掴んだ。

 

≪不味いぞ! このままでは一気に開戦だっ!≫

 

「ま、待ってくれ、六喰! 俺なら大丈夫ーーーー」

 

士道が慌てて止めようとするが、六喰は構わず、射殺すような視線で十香(反転)を睨み付ける。

 

「うぬは、むくから主様を奪おうと言うのじゃな? むくの愛する人を、むくを愛する人を、奪おうと言うのじゃな?」

 

「知った事か。鬱陶しい。離さんか、貴様」

 

十香(反転)は封印そうに顔を歪めると、右手を手刀にして、ピッと閃かせると、六喰の頬に細い傷が走り、その前髪が1房切れて、空気に舞う。

 

「ーーーーーーーー」

 

六喰は息を詰まらせると、十香(反転)の胸倉から手を離し、ゆっくりと地面に落ちていく自分の金色の髪を呆然と見つめる。

 

≪最悪だ・・・・!≫

 

「あーーーーあ、あ・・・・」

 

ドラゴンの声に焦りを帯び、六喰は、目を見開きながら声を震わせそしてーーーー。

 

「ーーーー貴・・・・ッ、様ァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 

次の瞬間、士道の目の前がカッと明るくなったかと思うと、ソコにいた十香(反転)の身体が吹き飛ばされ、展望台のガラスを突き抜けて空へと踊った。

 

≪小僧!≫

 

「っ!」

 

[ディフェンド プリーズ!]

 

士道は乱れ舞うガラス片を魔法陣の障壁で防御する。

ーーーー展望台の中は、一瞬にして混乱と動揺に支配された。辺りにいた観客達が悲鳴を上げてエレベーターへと殺到する。

六喰と十香(反転)は、平然とした様子で展望台の外壁に立ち対峙する。

 

「貴様」

 

「ーーーー許、さぬ・・・・許さぬ、許さぬ、許さぬ・・・・ッ」

 

双方、重力を無視しているように、壁面に対して垂直に立っていた。

 

「むくの髪を・・・・切ったな。主様が、ーーーーさまが・・・・褒めてくれた、むくの・・・・髪をーーーー」

 

ギロリと十香(反転)を睨みながら、六喰が唱えるように言うと、それに合わせるようにーーーー六喰が霊装を纏った。

 

「・・・・! 六喰! やめるんだ! 十香はそんなつもりじゃーーーー」

 

士道が慌てて声を上げるが、六喰は聞く耳を持たず、〈封解主<ミカエル>〉を握る手に力を入れると、そのまま天使の先端を、自分の豊満な胸目掛けて突き刺す。

 

「な・・・・!?」

 

「〈封解主<ミカエル>〉ーーーー【放<シフルール>】!」

 

そして、カチリと回す。

するとその瞬間、六喰の霊装が輝きーーーーその形状を変えていく。優美であったシルエットが先鋭的に引き絞られ、六喰の怒りを反映したような様相へと変貌すると同時に、彼女が手にした〈封解主<ミカエル>〉もまた、別の形になっていった。錫杖の形から、長大な戟を思わせるフォルムに。

今までの霊装と天使が、世を捨てた女仙とするなら、今はさながら荒ぶる猛将だ。

霊結晶<セフィラ>の反転ではないが、六喰がその姿を変えた瞬間から、六喰からは、周囲の空気が震えるかのような濃密な霊力が放出されていた。

 

「こ、これは・・・・!?」

 

≪〈封解主<ミカエル>〉の権能で、潜在能力を引き出したのか!?≫

 

「六喰ちゃん!?」

 

士道と、後方から駆け寄ってきた折紙の声が重なった。

 

「ほぉぅ・・・・?」

 

しかし、十香(反転)は、1人興味深げに目を細めた。

 

「ーーーー良いだろう。唇を奪う勝負は終いだ。やはり、こちらの方が分かりやすくて良い」

 

そして不敵に顔を歪めると、右手を大きく翻すと、その瞬間、十香(反転)の身体を闇色の霊装が覆っていき、その手に、魔王〈暴虐公<ナヘマー>〉が握られる。

 

「最早、最早、許さぬ。塵も残さず無と消えよ!」

 

「良いだろう。かかってこい。その素っ首、落としてくれる」

 

六喰と、十香(反転)。

強大な力を有した精霊と反転精霊が、相対した。




次回、驚異の決戦! フル装備精霊VS反転精霊!
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