デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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暴走・六喰

ー六喰sideー

 

十香(反転)とデビル<折紙>が空にいる『魔獣ファントム』と戦いながら、天高く飛び上がていき、その光景を地上から見上げた後、ブツブツと小さな声を漏らしている六喰に目を向けた。

 

「殺す・・・・殺す。主様を奪おうとする者は、敵じゃ。むくは・・・・むくはひとりは嫌じゃーーーー」

 

「六喰!」

 

「・・・・!」

 

と。不意に名を呼ばれ、六喰はハッと目を見開いた。

 

「ーーーー主様」

 

そう。六喰の前にいたのは、『魔法使い』の姿になった五河士道その人であった。

 

「おお・・・・主様。主様。安心するのじゃ。すぐに、むくがあの黒い女を無に帰してくれるからの。そうするとーーーー」

 

「六喰!」

 

その言葉を遮るように、士道が六喰の肩を掴みながら、再度名を呼んでくる。その必死な様子に、六喰は思わず驚いてしまった。

 

「どうしたのじゃ、主様。後はむくに任せておけばよい」

 

「違うんだ・・・・そうじゃないんだよ、六喰・・・・! もうこんな事は止めてくれ。俺は、十香ちゃん消えちまったり、折紙が俺の事を忘れちまったりするのは嫌なんだ・・・・! 2人共・・・・いや、皆々、俺の大切な人達なんだ!」

 

「・・・・っ」

 

士道の言葉。

六喰は、引きつけを起こすように息を詰まらせた。

 

≪おい小僧。この娘、引きつけを起こしているぞ。これ以上踏み込むのは逆効果だ≫

 

ドラゴンが制止するが、士道は止まらない。もう我慢の限界なのだ。彼女が何故ここまでの行動に及んだのか知ろうと、訴えかけるように続ける。

 

「何で・・・・何でなんだ? 教えてくれ、六喰。何でお前はソコまで、皆を排斥しようとするんだ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

士道は静かに、しかし震える声を、喉から漏らした。

 

「ーーーー何ゆえ?」

 

「え?」

 

「何ゆえ、そのような事を言うのじゃ。主様は・・・・むくの事が好きなのじゃろう? むくも、主様が好きじゃ。ならば、それでよいではないか。なのに何故! 何故じゃ!」

 

目に涙を滲ませながら、続ける。

 

「嫌じゃ。1人は嫌じゃ・・・・! 主様は誰にもーーーー」

 

≪っ! マズイ・・・・!!≫

 

「ーーーー十香さんっ! 折紙さんっ!」

 

と。

ソコで、六喰の言葉を遮るように、何処かからそんな声が聞こえてきた。

 

「な、何でメデューサ達ファントムまでいるのよ・・・・!」

 

「きゃー! 二亜さんのファントムさんまでいるじゃないですかー! 大変ですー!」

 

「しかし・・・・くっ、折紙の新たな仮面ライダーの姿、漆黒ではないか・・・・! 我が闇の力が疼く・・・・!」

 

「溜息。そんな事を言ってる場合ではないですよ耶俱矢。二亜。あのファントム、何とかできませんか?」

 

「いやそんな事言ってもさゆづるん、アタシでもどうにもできないよ!」

 

「ーーーー」

 

見やると、いつの間にかソコに、6人の少女達の姿があった。

六喰が記憶を『閉じた』筈の精霊達である。皆、空を舞い、ファントム達と派手な激戦を繰り広げる十香(反転)とデビル<折紙>を見上げ、困惑したような表情を作った。

 

「あーーーー」

 

その姿を見て、六喰は、ドクン、と心臓が収縮するのを感じた。

 

「うぬら・・・・!」

 

「「「ん・・・・げっ! 六喰(ちゃん)!!ーーーーあっ!」」」

 

一応まだ記憶が『戻った』事を知られる訳にはいかなかったが、六喰の姿を見て、七罪と耶俱矢と二亜が思わず声を発してしまい、慌てて口を塞いだ。

が、六喰は彼女達の『閉じた』記憶が戻っている事を察する程の冷静さが無くなっており。

 

「ーーーーうぬらまで。皆、皆むくから主様を奪おうと言うのじゃな。許さぬ。許さぬ。最早ーーーー」

 

頭の中がグルグルと回り、グシャグシャになっていく感覚に支配され、六喰は〈封解主<ミカエル>〉を両手で握ると、その切っ先を下方に向けーーーー。

 

≪不味い! 止めろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!≫

 

ドラゴンの制止の叫びは六喰に届かずーーーー。

 

「〈封解主<ミカエル>〉ーーーー【閉<セグヴア>】・・・・ッ!」

 

地面にーーーー否、正確には地球に、その鍵を差し込み、廻した。

その瞬間。

その箇所を起点とし、凄まじい地鳴りが、辺りにゆっくりと広がっていき、まるで絶え間なく駆動する工業機械の上にでも立っているかのように。

地球が、1個の脈動する巨大な生命体にでも変貌したかのように。微かな、しかし終わる事の無い地震が、周囲を覆い尽くす。

 

「・・・・ッ!? う、うおッ!?」

 

「な、何ですか・・・・これ・・・・」

 

「狼狽。地震ーーーーですか」

 

士道と精霊達の驚愕の声が鼓膜を震わせる。

六喰は薄い笑み浮かべると、士道の頬に手を伸ばし、優しく撫でていった。

 

「もう・・・・安心じゃ。これでもう・・・・だれにも邪魔はさせぬ」

 

「六喰・・・・? お前、一体何をしたんだ?」

 

「ーーーー星に、【閉<セグヴア>】を施した。対象が巨大に過ぎるが故時は掛かるが、やがてこの星は巡りを止めるじゃろう」

 

『はーーーー?』

 

士道が呆然とした調子で目を見開き、それを聞いていた精霊達も、唖然となり、二亜が七罪に話しかけた。

 

「・・・・ね、ねぇ、なっつんさんや。地球の自転が止まると、一体どうなっちゃうんでしょうかね?」

 

「ま、前に、皆で、ある宇宙特番の番組を見ている時に、ゲストの学者が説明していたけど・・・・」

 

【地球の自転が停止すると昼夜の交代もなくなり、地球の片側は常に明るくなり、逆に裏側は暗い状態となります。 加えて、地磁気によるシールドも消失してしまい、宇宙空間から降り注ぐ放射線や太陽風によって、地球上のあらゆる生命が深刻な被害を受ける事になるでしょう】

 

「ーーーーって」

 

その場にいる六喰以外の全員が顔を青ざめていく。しかし、今の六喰はそんな様子など気にならなかった。笑みを濃くし、後を続ける。

 

「これで、邪魔者は皆消える。主様は、むくと一緒に、ずっと宙で暮らすのじゃ。ふふ・・・・楽しみじゃのう」

 

「何を・・・・言ってーーーー」

 

困惑する士道だが、六喰は気にせず顔を上げた。ーーーーそう。六喰がこの手で倒さねばならない敵が、まだ残っているからだ。

 

「お、おい、六喰! おいっ!」

 

六喰は、士道の声を背に聞きながら、空に舞う影達を見上げ、震える大地を蹴った。

 

 

 

 

 

ー七罪sideー

 

「きゃー! 地震ですー! 地球のおしまいですー! 怖いですー! 恐ろしいですー! 七罪さんに抱きついてしまいますー!」

 

「台詞で説明するくらい余裕あるじゃないの・・・・っ!」

 

地震にかこつけて抱きついてこようとする美九の頭を押さえる七罪。・・・・まあ無論、体格と腕力、そして欲情の差で敢えなく御用となったが。

しかし、今はそんな漫才を繰り広げている場合ではない。反転した十香と変身した折紙がワイズマン達に『シスター・ファントム』と空中戦を繰り広げ、空間震警報は鳴り響き、あまつさえ地球の自転が止まって地震が起こっているのだ。最早危機的状況である。

 

「い、一体・・・・どうすればいいんでしょう?」

 

「んー・・・・とにかく、六喰ちゃんを封印しないとマズイんじゃない? このままじゃ本当に今日が地球最後の日になっちゃうよ」

 

「首肯。十香とマスター折紙の方にも加勢に行かなければーーーー」

 

「ーーーー皆!」

 

『あっ、士道(さん/くん)/だーりん/少年!!・・・・ぁっ・・・・』

 

士道が声をかけ、全員が顔を向けるが、同時に面目ない気持ちにもなる。

六喰によってあっさりと記憶を『封じ』られ、士道にあんな態度を取ってしまったのだ。正直、合わせる顔がないと言わんばかりだ。

が、士道はそんな皆の気持ちに構わず、深々と頭を下げてくる。

 

「皆・・・・頼む! 力を貸してくれ!」

 

『え・・・・?』

 

正直、深々と頭を下げるべきなのは自分達の方なのだが、士道は顔を上げ、言葉を続ける。

 

「六喰が、地球に『鍵』を掛けちまった。このままじゃ、大変な事になっちまう! 頼む・・・・皆の力を・・・・貸してくれ!」

 

士道が必死に訴えかけてくる。頭を下げたいのはこっちの方なのに、順序が逆になってしまった。

 

「勿論です。“士道さん”」

 

四糸乃がそう言って、コクリと頷く。普段は控え目な性格なのに、こう言った状況だと凄まじい胆力を発揮する女神様だ。

 

「呵々、案ずるな“士道”よ。元より我らはその為にここに来たのだからな」

 

「首肯。寧ろ汚名返上と名誉挽回のチャンスです、“士道”」

 

「あぁーん! ごめんなさい“だーりん”! “ハニー”! お2人の事を忘れるなんて、まさに一生の不覚ですぅ!」

 

「いやー何か燃える展開だねぇ! 安心して“少年”! アタシは皆の邪魔にならないように、安全な場所で皆を応援してるから!」

 

「親指立てて何情けない事を堂々と言ってんのよ。・・・・まぁ、確かに、“士道”に申し訳ないしね」

 

「皆・・・・記憶が・・・・!」

 

「あぁうん。ドラゴンに脳天チョップかまされたけど。ーーーーんで、私達は何すれば良いの? 六喰を封印する為にも、邪魔なファントム達を防ぐの?」

 

士道が感動したように目を潤ませ、益々申し訳ない気持ちが沸いてきそうになったので、七罪が話の軌道を直した。

と、ソコでドラゴンが声を発する。

 

≪いや、先ず地球への侵食を止めなければならん。このままではどんな天変地異が起こってしまうか分からんからな≫

 

「んでもドラゴン。どうすれば良いんだ?」

 

≪・・・・・・・・汚名返上の機会を来たぞ。やれるだろうなぁ? 琴里≫

 

「当たり前でしょう」

 

「いやー、これまた凄い鉄火場でやがりますなぁ」

 

と、琴里の声が響き、士道達の近くに、〈仮面ライダーイフリート〉に変身し、『カマエルブレイカー』を持った琴里と、ビーストH<ハイパー>になった真那がそこにいた。

 

「琴里! 真那!」

 

「ありゃ妹ちゃんコンビ、どしたの?」

 

「ーーーーメデューサが出てきたからね。彼女とは、私が決着を着けないと・・・・」

 

上空で戦うメデューサを見上げながら、『カマエルブレイカー』を握る手に力を込めて言うイフリート<琴里>の言葉に、全員が理解した。

メデューサの『ゲート』である『稲森美紗』の人生を歪めたのは他ならぬ琴里である。メデューサとの決着を着ける事が、彼女なりの贖罪なのだろう。

 

「私は『白い魔法使い』に、助っ人として派遣されたでやがります」

 

「それじゃ、仁藤さんに『白い魔法使い』も?」

 

「いやですね、『白い魔法使い』はこの間の〈ラタトスク〉の基地での戦いで、かなり無茶したそうで、まだ体力も魔力も回復しきって無いんでやがります。仁藤さんもその戦いで、負傷しちゃいましてね、現在は治療中なんでやがりますよ」

 

仁藤達国安0課も、あの戦いで、機関員達の避難誘導をしてくれていたのは知っていたが、どうやらあちらも結構な無茶をしたようだ。

 

≪話を戻すぞ。ーーーー琴里。今の地球はどうなっている?≫

 

「ーーーー地面に六喰の霊力が侵食しつつあるわ。これが地球にどんな影響を及ぼすのか、想像もできないわ。たがら、皆には所定の6ヵ所のポイントに〈世界樹の葉<ユグド・フオリウム>〉を打ち込むから、それを起点として、それぞれの霊力を送り込んでちょうだい。それで、暫くの間侵食は防げる筈よ」

 

「ほう、成る程な。やるではないか琴里! 我が眷属にしてやろう」

 

「遠慮しておくわ。ーーーーでも、あくまで時間稼ぎよ。根本的な解決は、元凶の六喰と〈封印主<ミカエル>〉をどうにかしないとね。・・・・メデューサ達は私と真那が押さえるから、頼むわよ。“士道”」

 

「ああ・・・・本当にありがとう、皆。ーーーー宜しく頼む」

 

言って、士道は仮面を展開させ、六喰の元へ飛んだ。

それを見届けながら、ビースト<真那>は口を開いた。

 

「ーーーーありがとう、でやがりますか。皆さん、名誉挽回と汚名返上を頑張りやがって下さいね」

 

「・・・・分かっとるわ」

 

「当然。後で士道にしっかり謝ります」

 

「何でしたら、だーりんの肉奴隷になるのも辞さないですー」

 

「うわっ、人気アイドルが肉奴隷って、少年、みっきーのファン達に晒し首にされそう・・・・」

 

「皆さん、行きましょう・・・・」

 

「ええ」

 

四糸乃達は一瞬沈んだ顔を上げて、所定ポイントへと向かった。

 

「琴里さんも」

 

「ええ」

 

ビースト<真那>とイフリート<琴里>も、メデューサ達へと向かった。

 

 

 

 

ー六喰sideー

微細な震動を続ける大地の上で。

 

「主様はーーーー渡さぬ」

 

六喰はキッと視線を鋭くすると、上空で鍔迫り合いを繰り返す十香(反転)と蛇の異形を睨み付けた。

今十香(反転)は、蛇の異形との戦闘に気を取られている。そして六喰ならば、その背後を確実に取る事ができた。

 

「〈封解主<ミカエル>〉ーーーー【開<ラータイブ>】!」

 

六喰は叫ぶと同時に、手にした〈封解主<ミカエル>〉を捻った瞬間、ソコに天使の先端がギリギリ通り抜けられる程度の小さな『扉』が開く。

無論、『扉』の先は十香(反転)の死角である。ーーーーソコに天使を突き刺し、廻す。それで、全てが終わる筈だ。【解<ヘレス>】。〈封解主<ミカエル>〉秘中の秘たる物質分解の形態。その比類なき力の前には、この世のあらゆる物質が無へと帰す。それは如何に十香(反転)とて例外ではない。

 

「【解<ヘレス>】・・・・ッ!」

 

六喰は十香(反転)がメデューサから距離を取った瞬間を見計らい、鍵の天使を空間の『扉』目掛けて突き刺した。

がーーーー。

 

「駄目だ! 六喰ッ!」

 

〈封解主<ミカエル>〉が『扉』に突き刺そうとした瞬間、ウィザード<士道>が両手を広げ、六喰の前へと立ち塞がった。

 

「ーーーーッ!?」

 

ウィザード<士道>の予想外の行動に、六喰は目を見開き、身体をビクッと震わせた。しかし、遅かった。反射的な腕の筋肉の緊張によって少し狙いが外れたものの、〈封解主<ミカエル>〉の切っ先は、ウィザード<士道>の肩口に突き刺さろうとする。

 

「≪なんのぉーーーー!≫」

が、ウィザード<士道>から、士道の声とは違う声が響くと、両腕が動き、〈封解主<ミカエル>〉の切っ先を白刃取りするように両手で挟んだ。六喰は慌てて〈封解主<ミカエル>〉を抜こうと腕に力を込める。

が。

 

「ーーーーーーーーえ?」

 

次の瞬間襲いに来た機長な感覚に、六喰は呆然と声を発した。

ウィザード<士道>が止めた戟を介して、怒濤のようにイメージが流れ込んでくるかのような感覚。否、正確に言うならば、六喰側からも何かか漏れ出ていく。

それが何かは分からない。だが、士道と六喰と言う2つの個体の中身が混ざり合っていくかのような感覚だった。

 

「≪これは、共鳴現象・・・・か?≫」

 

ウィザード<士道>が何か言うが、六喰はその奇妙な感覚に流されていく。

嗚呼ーーーーだがこの感覚は初めてではない。そう。これはあの時。宇宙で士道の扱う偽の〈封解主<ミカエル>〉を挿し入れられた時と同じーーーー。

 

「ーーーーーーーー」

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

ーーーーそうだ。あの時。

あの、寒い冬の日。

失意に沈んでいた自分の前に、『何か』が現れたのだ。

まるで水で滲んだような、モザイクに覆われたような、奇妙な姿をした『何か』が。

そして『何か』は自分に、黄金に輝く宝石のような物を渡してきた。

その時からだ。自分がーーーー星宮六喰が、精霊になったのは。

けれど、不思議と恐怖は無かった。否、どちらかと言うと、大きな歓喜があったと言った方が適当かも知れない。

六喰が手にした〈封解主<ミカエル>〉。物体は元より、目に見えないモノーーーー人間の記憶さえも『閉じる』事ができる鍵の天使。

その力を使えば、姉は、父は、母は、六喰だけを愛してくれるに違いなかったからだ。早速六喰は、喜び勇んでその力を行使した。空間に『扉』を開け、父母や姉の知人、友人全てに〈封解主<ミカエル>〉を挿し入れて、六喰の家族の記憶を『閉じた』のだ。

 

ーーーーしかし、結果は、六喰の望んだ通りにならなかった。

 

その日家に帰ってきた家族の反応は、ただひたすらの混乱。自分の事を誰1人覚えていないと言う異常事態に困惑し、六喰の事など構ってくれなかったのだ。

六喰は信じていた。周りに誰も自分を知る者がいなくなったなら、皆六喰の事を愛してくれると。

だが、この事態を引き起こしたのが六喰であると知った家族の反応は、愛とか情とかとはかけ離れたモノだった。

驚愕。怒り。狼狽。動揺。恐怖。そしてーーーー拒絶。

父は、母は、姉は、得体の知れない力を手にした六喰を恐れ、拒んだのだ。

何を言われたかは良く覚えていない。その光景は鮮明に思い出せると言うのに、断片的な言葉だけが浮かんでは消えた。

【化物!】、【何をして】、【殺さないで】、【出ていって】、【アンタなんて】、ーーーー【家族じゃない】。

正しく言えば、それを文脈通り正確に記憶してしまっては、六喰の心が耐えきれないと思った脳が、気を利かせてくれたのかも知れなかった。

けれど、胸の痛みだけは、ハッキリと思い出せた。

辛くて、苦しくて、悲しくて、寂しくてーーーーそんな感情が頭の中でグルグルと渦巻き、気づいた時には六喰は、父に、母に、そして姉に、〈封解主<ミカエル>〉を突き刺し、彼らの中にある、“六喰の記憶に鍵を掛けていた”。

ーーーーそれ以上の言葉を聞いていては、どうにかなってしまいそうだったから。

そして六喰は、また独りになった。

元に戻った訳ではない。家族の温かさを知ってしまった後で、独りになった。

思えば。六喰にはそもそも、何かを愛する資格が無かったのだろう。

愛を知らずに生まれ落ちたから、その形が歪な事に気づいていなかったのだ。

愛したならば、愛して貰わなければならなくなってしまう。

愛したならば、自分だけを見て貰わなければならなくなってしまう。

だから、六喰は鍵を掛けたのだ。

自分の『記憶』に。

自分の『心』に。

『家族』がいたと言う事を、『家族の温かさ』を思い出してしまわぬように。

ーーーーもう2度と、何かを愛してしまわぬように。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

「あーーーー」

 

空間の開いた『扉』の前で。

〈封解主<ミカエル>〉を受け止めたウィザード<士道>は、自分の喉から声が漏れるのを、何処か他人事のように聞いた。

天使を介するようにして、とある少女の記憶が流れ込んできた。

それは、ここ数日の間、士道が見ていた夢ーーーー否、鍵を掛けられた六喰の、記憶だ。

思えば、士道がこの夢を見始めたのは、宇宙空間で六喰に〈贋造魔女<ハニエル>〉が変身した〈封解主<ミカエル>〉を挿し、心の鍵を開けてからだ。

 

「これって・・・・」

 

≪ーーーー詳しい原理は分からないが、恐らくあの時に、〈ゾディアック〉の記憶に鍵を掛けられていた鍵にも綻びができ、それが〈封解主<ミカエル>〉を伝って小僧と、小僧の中にいる我にも流れ込んだのだろう。そして再び、〈封解主<ミカエル>〉に触れた事によって共鳴現象のようなものが起き、その記憶が混ざったのだ・・・・!≫

 

「六喰・・・・お前は、嫌、お前もーーーー」

 

士道が微かに震える声を発しながら、六喰に手を伸ばそうとしたーーーーその時、六喰も記憶がシェイクされたのか呆然となっており、白刃取りから外れた〈封解主<ミカエル>〉が、ウィザード<士道>の鎧の隙間から、右肩に突き刺さったその瞬間ーーーー。

 

ーーーーパンッ!

 

「ーーーーえ・・・・あが・・・・ッ!?」

 

刺さった部分に激痛が走ったかと思うと、右肩から右腕にかけて弾けとんだ。僅かに残った手首から先が地面に落下していき、血飛沫を散らす。

 

「五河くーーーーん!!」

 

「おにーちゃんっ!!」

 

「兄様ーーーー!!」

 

グレムリンとインプ達を相手取っていたデビル<折紙>とイフリート<琴里>、ビーストH<真那>が叫び声を上げた。

 

「ぐ・・・・っ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

≪しまったっ! 〈破軍歌姫<ガブリエル>〉! 【耐痛みを和らげ、回復力を高めろ】!〈贋造魔女<ハニエル>〉 〉! 傷口を塞げ!≫

 

その衝撃的な痛みに、ウィザード<士道>は喉が潰れんばかりの絶叫を上げ、ドラゴンが天使を使って、痛みを和らげ、出血を抑える為に回復力を高め、さらに申し訳程度だが傷口を塞ぐ。

右腕の方は、切断された、押し潰された、のではなく、ソコに存在する事を否定されたかのように消滅してしまった。

 

≪不味いな・・・・〈灼絢殲鬼<カマエル>〉の治癒でも時間が掛かるし、それにーーーー≫

 

「六、喰ーーーー」

 

ウィザード<士道>とドラゴンが六喰を見る。

 

「あ・・・・あ、ああーーーー主様、違うのじゃ・・・・むくは、むくは、主様を殺そうなど・・・・」

 

しかし六喰は焦点の合っていない目で虚空を見つめながら、怯えたように身体を震わせていた。手にしていた天使を取り落とし、地面に落下していくのに気づかず、うわ言のような言葉を続ける。

 

「嫌じゃ・・・・むくを、独りにしないでくれ。あ、あああああ、主様、あねさま・・・・むくは、むくは・・・・・・・・ッ」

 

『ーーーー善い瞬間だ』

 

「≪っ! ワイズマン!!≫」

 

と、夢と記憶と現が頭の中で混ざり合っているかのように、混乱した様子で頭を抱える六喰の背後に、いつの間にか、ワイズマンが手にしていた結晶ーーーーニ亜の時に見た『魔力の核』であった。

それが何を意味するのか、知るウィザード<士道>とドラゴンが戦慄した。

 

「まさか・・・・!」

 

『魔力の核』が、六喰からエネルギーを吸収するように霊力を吸い込むと、核が砕け、ソコから新たな『魔獣 ファントム』が生まれた。

今の六喰の霊装を禍々しく変え、星空のような煌めきを出し、刺々しい鍵が両手の同化し、巨大な体躯よりも長く、くすんだ金色の髪が触手のようにウネウネと動き、顔は大量の髪で隠れていたが、その眼には妖しい光がギラついている姿ーーーー『ゾディアック・ファントム』であった。

 

『Kiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!』

 

『ゾディアック・ファントム』が雄叫びを上げると、同時に、六喰の目から涙が落ち、六喰の身体から、何処か濁った色を帯びた霊力の奔流が発され始めた。

 

「うーーーーぁ、あ、あぁぁあぁぁぁああぁーーーー」

 

≪これはーーーー反転だ!≫

 

「っ!」

 

自らの手で士道に致命傷を追わせてしまったと言う事実。そしてーーーーそれと同時に、甦った、自分が心を閉じるに至った記憶。

確かにそれらは、六喰の心を絶望で塗り込めるには、十分過ぎるファクターだ。優美且つ勇猛であった霊装に赤いヒビが入っていき、混沌を具現化したような色を帯ていく。流れる涙は闇のような漆黒に変貌し、地面に落ちた〈封解主<ミカエル>〉が塵と消え、それと入れ替わるように、六喰の背後に巨大な鍵が姿を現していった。

 

「駄、目・・・・だ、六喰ッ!」

 

このままでは、六喰が本当に反転してしまう。

ウィザード<士道>はよろめく身体を奮わせ、六喰の元に向かおうとする。が、六喰の身体を中心てして渦を巻く濃密な霊力が、その行く手を阻まんと襲いかかってくる。

 

「ぐーーーーっ」

 

≪しっかりしろ・・・・!≫

 

ドラゴンが背中を支えてくれているような感覚があるが、その霊力を避ける事も、弾く事も困難だった。どうにか耐えられた。

が、次の瞬間。凄まじい斬撃が飛んでくるかと思うと、ウィザード<士道>に迫りつつあった六喰の霊力塊を掃討し、霧散させた。

 

「えーーーー?」

 

≪これは、〈暴虐公<ナヘマー>〉のーーーー≫

 

ウィザード<士道>は呆然と目を丸くし、ドラゴンは訝しそうにする。

 

「ふん」

 

上空から、十香(反転)が忌々しげに声を発する。

 

「勘違いをしてくれるなよ。理由はどうあれ私に屈辱を与えた貴様らに、そのような安易な死など相応しくないと言うだけだ」

 

それだけ言うと、十香(反転)はワイズマンをジロリと睨むと、〈暴虐公<ナヘマー>〉の切っ先を向けた。

 

「ーーーー丁度良い。蛇の異形は、焔の精霊に奪われて退屈していたのだ。相手のしてもらうぞ」

 

『ーーーーほう。〈プリンセス〉の反転体、か。少しは楽しませてくれるかな?』

 

十香(反転)が〈暴虐公<ナヘマー>〉を振り下ろし、漆黒の斬撃を放つが、ワイズマンは手のひらに魔力を集め、漆黒の魔力で形作られた剣を生み出すと、蝿でも払うかのように、斬撃を切り裂いた。

十香(反転)はソレを見て、フンと鼻を鳴らし、〈暴虐公<ナヘマー>〉を持って、ワイズマンと切り結んだ。

他を見ると、インプ達は既に全滅され、イフリート<琴里>がメデューサと刃を交えて火花を散らし。デビル<折紙>はグレムリンと超速の速さで戦い。ビーストH<真那>は、黒い影の異形を生み出す『シスター・ファントム』と激しくぶつかり合っていた。

 

「皆・・・・」

 

ウィザード<士道>は、今にも動き出しそうな『ゾディアック・ファントム』を見据えた。

 

「ドラゴン・・・・六喰の、ファントムを、頼む・・・・」

 

≪・・・・・・・・1人で出来るのか?≫

 

「ここで、怖じ気づいたら・・・・それこそ、俺は“成長しない”ままだ・・・・」

 

≪・・・・アバターの我を置いていく。それで飛行ができるから、やってみろ・・・・≫

 

「ああ・・・・!」

 

ウィザード<士道>の残った左腕をドラゴンが動かし、『ミラクルウィザードリング』を片手で器用に取り出して嵌めると、ドライバーに読み込ませた。

 

[ミラクル プリーズ!]

 

ウィザード<士道>から魔法陣が現れ、ソコから魔人形態のドラゴンが出てくると、インフィニティからフレイムスタイルに戻る。

 

「ーーーー(コクン)」

 

『ーーーーふっ!』

 

お互いに視線を合わせると、ドラゴンは超速で『ゾディアック・ファントム』の眼前に出ると、その顔に拳を叩きつけた。

 

『ーーーーKiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!』

 

『ーーーーガァァァァァァァァァァァァ!!』

 

お互いに敵と認識したのか、雄叫びを上げてぶつかり合う2体。

 

「ーーーー六喰・・・・」

 

仮面を解除したウィザード<士道>が呟くと、顔を六喰へと向けた。




原作で腕が消えた士道を読んで、マジで琴里達が役立たずに思えました。
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