デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
手が届きそうな星空とはよく言うが、実際に宇宙空間を泳いで、ついでに流星群に巻き込まれた身からすれば、伸ばしたいとは思えない。『ウルトラマンエックスの世界の五河士道』は、宇宙でも戦っているのかと思うと、敵わない気がしてしまう。
やはり星は、遠く離れているからこそ美しいのだ。視界に広がる満天の星空を眺めながら、士道は細く息を吐いた。
六喰の霊力を封印してから数日。士道は、精霊マンションの屋上で夜空を仰いでいた。
理由は単純ーーーー今士道の隣に仰向けに寝転んだ少女が、それをご所望だったからだ。
「ーーーー六喰」
士道が小さな声で名を呼ぶと、長い前髪で避けながら、六喰がコチラに視線を寄越してきた。
「むん。何じゃ、主様」
「本当に良かったのか? 夜空が見たいなら、琴里がもっと見晴らしの良い場所を用意してくれるって言ってたけど・・・・」
「良いのじゃ。むくはこれからここに住まう事になるのじゃろ。ならば、ここがよい。『おじさま』も許可してくれての」
「(プッ・・・・)そっか」
《ーーーーはぁ、できる事なら父‹とと›様と呼んで欲しいのだがな》
「(ふふ、良かったじゃあねえか、『おじさま』?)」
《死にたいのか?》
ドラゴンとも和解をしてから、どうやら六喰はドラゴンの事を『おじさま』と呼ぶようになったらしい。それを少し可笑しそうにフッと口元を弛めた士道に、ドラゴンはギロリと睨み、十香(反転)以上の冷酷な殺意を向けると、士道は再度星空に目をやった。
そうして瞬く星々を見つめながら、右手を伸ばし、数度開いたり閉じたり繰り返してみる。
別に星を掴もうとしている訳ではない。単純に、漸く〈灼爛殲鬼‹カマエル›〉と顕現装置‹リアライザ›の力をフルに使ったのだ。
しかし、治療及び六喰の収容、事態の隠蔽を可及的速やかに手を尽くしてくれたのだ。
《それくらいの役に立たなければ、本当に能無ししかいないがな》
と、ドラゴンが毒を吐くのを、士道は苦笑するしかなかった。
あの後、士道のケガを見て、改めて自分が士道達の事を忘れてしまっていたせいだと、自分を責める精霊達へのフォローが大変だった。
六喰は今までの調子が嘘のように素直になり、琴里や零音の言う事を聞いて、各種検査を受けていた。
そして士道の治癒と六喰の検査が終わった今日この日、久方ぶりに顔を合わせた六喰が、一緒に星が見たいと言ってきたのである。
「ーーーー昔」
「え?」
無言で夜空を見上げていた六喰がポツリと呟き、士道は視線を六喰の方にやった。
「こうして、姉様と星を眺めて事がある。むくは・・・・その時間がたまらなく好きじゃった」
「ああ・・・・そうだな」
士道は同意するように、静かにそう返した。
それは、士道と知っている〈封解主‹ミカエル›〉が擬似的な経路の役割を果たし、2人の記憶が混じり合っていた際に見た夢だ。
その夢を見ていた時の士道は、心から安堵と幸せを感じていた。きっとそれは、その時六喰が覚えた感情なのだろう。
「何故・・・・あの時気付かなかったのかのう。むくが心配せずとも、姉様は・・・・ととさまは、かかさまは、むくの事を愛してくれていたと」
「・・・・六喰」
士道は小さく首を横に振り、続けた。
「仕方ねぇよ。誰だって、1人になんてなりたくない。どうにかして自分の場所を守ろうとするのは当然の事だ。・・・・俺にだって、分かる。少しばかり、やり方を間違えちまっただけさ」
「主様・・・・」
六喰はチラと士道の方を見ると、ゆっくりと目を伏せた。
「そうか・・・・そうであったの。主様も、むくと同じじゃった。じゃからむくは・・・・主様といると安心したのかも知れぬの」
そして頬を緩めがながら、そんな事を言う。
そう言えば、士道が六喰の過去を追体験していたように、六喰もまた、士道の記憶を夢として共有していたのだ。少し照れ臭くなった士道は、頬をポリポリとかく。
「むん、そう言えばいくつか見た夢の中で、良く分からぬ物があったのじゃが」
「へえ、どんなだ?」
「何やらの、家で1人留守番をしている折、両手を腰だめに構えて、奥義・瞬閃轟爆破とーーーー」
「ああそれは俺とは全く無関係だなきっと本当に夢を見ただけだろう」
士道は六喰の言葉を遮るように声を上げた。六喰が、不思議そうに首を捻ってきた。
「ふむん? そういう物か・・・・まあよい」
六喰は納得したようなしていないような顔をしながら、再び夜空に顔を向けた。
《ーーーー後で六喰に、貴様が暴走した時の醜態の数々の映像を見せてやろう。確かその奥義を使った愉快な映像があった筈だからなぁ》
「(ドラゴン様! さっき笑った事は心の底から謝罪致しますから! それだけはご勘弁の程を!!)」
ドラゴンと士道が漫才を始め、また暫く、2人(3人)は無言で夜空を眺める。
どれ位そうした頃だろうか、六喰がポツリと呟いてきた。
「のう、主様」
「ん、何だ?」
「いつか、髪を・・・・切ってくれるかの?」
「え?」
その言葉に、士道は目を丸くした。
六喰が十香(反転)と戦う事になるきっかけとなったのは、十香(反転)が六喰の髪を切ってしまったからだ。その六喰が、髪を切って欲しいと言ったのだ。
「いいのか、六喰」
「・・・・むん。何やら少し・・・・サッパリとしたい気分なのじゃ」
六喰はどこか物悲しそうに微笑みながら、長い前髪を指に巻き付けた。
「勿論、主様が切ってくれるのじゃろう? 家族以外にこの髪、触れさせる気はないぞ?」
そうしてから、冗談めかしたような調子で言ってくる。
士道は一瞬呆気に取られた後ーーーー。
「ーーーーああ、任せとけ」
コクリと頷き、六喰の頭を優しく撫でた。
「♪~」
気持ち良さそうに笑みを浮かべる六喰の右手の中指には、黄金に輝き、『星空と鍵が装飾された琥珀のリング』、『ミカエルリング』が、キラリと綺麗に光った。
◇
ーーーー聞き慣れた予鈴の音が、校舎に響き渡る。
来禅高校の自分の教室に入る士道。
「おっと、もうホームルームか。ギリギリだったな」
間一髪校舎に飛び込んだ士道は、フウと息を吐きながら、巻いていたマフラーわ取って首元をパタパタと扇いだ。
通学路はいつも通り冷え込んでいたのだが、途中から走ってきた為汗ばんでいたのだ。
「うむ、危ないところだ。・・・・それもこれも、折紙が道の真ん中でシドーのコートに潜り込もうとするからだぞ」
「その件については反省している。恥ずかしくて言葉もない。穴があったら入りたい」
士道と一緒に登校してきた十香が腕組みしながら言うと、折紙が珍しく殊勝に頭を下げた。
が、次の瞬間、折紙がグンと姿勢を低くし、士道のコートの裾に頭を突っ込んでくる。
「うひゃあっ!?」
「こ、こら! 何も反省していないではないかっ!」
「穴があったから入ろうとしただけ、それに『士道成分』がまた不足しそうだから補充している。何も問題はない」
「問題だらけだっ!」
等と、元に戻った十香と折紙が、いつも通りの小競り合いを始め、士道は小さくため息を吐いてから仲裁に入った。
ーーーー六喰の件からおよそ1か月。先の戦いの後も天宮市はほぼ完全に修復され、いつも通りの日常が戻ってきた。
無論、基地を失った〈ラタトスク〉は未だ体制を立て直す為に動いているし、DEMやファントム達の脅威は変わっていない。
が、こうして何気ない日常を享受できる位には、街は平和な顔を取り戻していた。
あれ程の事をした六喰は、皆と打ち解けられるか不安がっていたが、美九が、
【あぁぁぁぁぁん! 可愛い可愛い可愛いですぅぅぅぅッ! ちっちゃくてムチムチで今までいなかったタイプですぅぅぅぅっ!】
という洗礼を受けた事により、予想よりも早く精霊達に馴染んでいた。と言うか・・・・同情と言うか被害者同士のシンパシーと言うか。十香に対しても、当初はかなり警戒されていたが、今では和解を済ませた。代わりに美九に対しては警戒心を抱かせてしまったが。
因みに当の美九はその後ドラゴンに、前に皆で漫画制作に使った作業部屋の防音室に連れ込まれ、出てきた頃には。
【暫く私、露出の多い衣装は着れないです〜〜♥】
と、言葉とは裏腹に、恍惚の貌をしていた。
「ほらほら、落ち着けって。そろそろ教室に入ろう。折角間に合ったのに遅刻になっちまうぞ?」
「むう・・・・仕方ない。シドーに迷惑はかけられんからな」
「了解した」
士道が間に入って宥めると、2人は素直に矛を収めた。
毎度のように小競り合い(主に士道が原因)する2人たが、心の底ではお互いを認め合っている。敵対していた頃とは考えられないような好転だ。
きっと六喰も、いやーーーー例えどんな精霊だって、分かり会える筈だ。十香と折紙の様子を見ていると、そんなドラゴンが聞けば妄想とも呼べる夢見がちな、しかし自分にとっては確固たる想いが士道の心の中に芽生えるのであった。
「む? どうしたのだ、シドー」
「教室に入らないの?」
「え? ああ、いや、何でもないよ。早くしないとな」
2人に言われ、誤魔化すように苦笑した士道が手にしたマフラーをクルクルと纏めながら、教室の扉を開いたその瞬間ーーーー。
《ーーーー小僧ぉぉぉぉぉっ!!!》
「うわっ!?」
突然、六喰を四糸乃&よしのんに七罪と、『ドラゴン(思念体)のお勉強会』に入れて一緒に勉強をさせようとしていたドラゴンが、大声を上げて本体が飛び起きたのだ。
「(ど、どうしたんだよドラゴン? 今日は六喰達に勉強を教える日じゃ・・・・)」
《今はまだ準備中なのだ! 嫌な気配がしたから飛んで来たのだが!ーーーー見ろ! 『ヤツ』だっ!!》
「・・・・へ?ーーーーな・・・・」
士道はドラゴンが示した方を見る。ソコは士道の席なのだが、1人の少女が腰掛け、その少女を見て息を詰まらせた。
教室のクラスメート達も、その少女を見て、ソワソワして落ち着かない様子だった。
そしてその少女は士道達の存在に気づいたように、楽しげに目と口元を歪めた。
闇を塗り込めたかのような漆黒の髪。抜けるような白い肌。何の比喩もなく、文字通り“ゾッとする”程に美しい少女である。
「お前、はーーーー」
士道が震える声を発すると、少女は桜色の唇を笑みの形にし、声を発してきた。
「ーーーーうふふ。ご機嫌よう、士道さん。お久しぶりですわね」
「な・・・・!」
「士道」
十香と折紙がその少女の姿を捉えると、即座に反応して、士道を守るように前に進み出た。
しかしその少女は、そんな十香と折紙を警戒するでもなく、ただ楽しげに笑うのみだった。
「あら、あら。如何なさいましたの? そろそろホームルームが始まりますわよ?」
「ふざけるな! 一体何のつもりだ!」
「あなたがなぜ、ここにいるの」
十香と折紙は油断なく少女を睨み付けながら言う。
すると少女は、手招きをするような妖しい手つきをしながら、士道を見つめてきた。
「うふふ。わたくし、今日から復学する事に致しましたの。これからまた宜しくお願いしますわね、十香さん、折紙さん、ーーーー士道さん」
穏やかな、しかし狂気の滲んだ笑みを浮かべて。
ーーーー最悪の精霊・時崎狂三は、そう言った。それはまさに、最悪との再会であった。
ー『六喰ファミリー』・FINー
遂に物語の佳境へとーーーー。
次回、デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚
来禅高校に復学し、再び士道達の前に現れた最悪の精霊・時崎狂三。
「ーーーーわたくしと士道さん、相手をデレさせた方が勝ち・・・・というのは如何でして?」
遂に士道が今まで封印してきた霊力と、強大な力を有するドラゴンを欲する狂三。
「今度は・・・・俺がお前を、救う番だ・・・・ッ」
狂三の霊力を封印したい士道。迫る2月14日のバレンタインデー向けて、互いの全てを懸けた2度目のデートが始まる!
『(何故〈ナイトメア〉は『最悪の精霊』と呼ばれるようになったのか、ヤツの『真の目的』が、分かるやも知れんな・・・・)』
かつてデレさせられなかった精霊を、今度こそ攻略できるのか!?
第十七章 『狂三リフレイン』
《まさか、〈ナイトメア〉は、過去をーーーー》