デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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今年最後の投稿です!


幕間10
最悪の過去 魔王の子


ー狂三sideー

 

時崎狂三が善良な少女であると言うのは、彼女を知る全ての人間が共通して持つ評価である。

裕福な家に生まれ、子煩悩な両親に蝶よ花よと育てられた彼女は、幼い頃から不自由も不満もなく、誰かを憎んだり、逆に恨まれたりせず、平穏極まる日々の人生を17年も歩んできた。

それはきっと幸せな事なのだろうと、他者や自分でもそう思っていた。

しかし、そんな彼女にも悩みはあった。

ーーーー漠然とした、無力感。

何不自由ない環境で育った故なのか、生来の性分なのか分からないが、狂三の胸中には、常にそれが蟠っていた。

世を見渡せば、様々な艱難辛苦に苛まれている人々がいる。

戦争に巻き込まれて命を落とす人、生まれながら病に冒され長く生きる事ができない人。衣食もままならない人、謂われない差別を受ける人。あらゆる弱者を痛めつける寒風が、世界には吹き荒れている。

テレビで、新聞で、雑誌でーーーーそして己の両の目で。

それらを見る度、狂三の心は途方もない無力感で埋め尽くされるのだ。

もしかしたらそれは、誰もが1度は感じるモノかも知れないが。しかし、やがて皆世界は理不尽である事を知り、心に折り合いを付け、手の届かない世界の不幸から目を逸していく。

けれど狂三の心の中には、いつまで経っても、それが残り続けたままだった。

自分にも何かができるかも知れない。

困っている人に手を差し伸べたい。

良く言えば純粋な、悪く言えば、幼稚で甘い正義感。

それが、誰にも見せる事のない、時崎狂三の心の根にある感情だった。

 

 

 

そして、もしかしたらそんな彼女だったからこそ、“それ”は起こったのかもしれなかった。

 

 

 

ーーーーその日。

その日も、いつもと何ら変わらぬ日だった。

時刻はおよそ午後の5時。友人である『山打紗和』と共に帰路に就いた狂三は、オレンジ色の夕日に向かって歩きながら、何くれとない会話を交わす。

 

「ーーーーねぇ、紗和さん」

 

「はい?」

 

狂三が名を呼ぶと、栗色の髪を三つ編みに結わえた素朴な少女である紗和が、目をパチクリとさせながら首を傾げてきた。

 

「明日、何か予定はありまして? もし何もなければ、またお家にお邪魔したいのですけれど」

 

「はい。それは良いですけど・・・・あ、もしかして、また『マロン』を撫でたいんですか?」

 

フフッと紗和が微笑みながら言ってくる。『マロン』とは、紗和の家で飼われている猫の名だ。人懐っこいアメリカンショートヘアで、初対面の人間にも甘えてくる可愛い子である。

 

「い、いえ、そう言う訳ではないのですけれど。ほら、また一緒にお勉強がしたいと思いまして・・・・」

 

「ふふ、ではそう言う事にしておきましょう。是非いらしてください。ーーーーでも、そんなに猫がお好きなら、狂三さんも飼えばよろしいのに」

 

紗和の言葉に、狂三はムムウと眉をひそめた。

 

「・・・・母が猫アレルギーですの」

 

「なるほど。では将来1人暮らしをするまでお預けですね」

 

そう言ってまた笑う紗和は、ヒラヒラと手を振って自分の家の方へと歩いていった。狂三は手を振り返しながらそれに応えると、その背が見えなくなってから再び歩き出した。

何の文句も付けようのがない。平和な毎日。友人にも恵まれ、飢える事のなければ、これと言って病もない。

きっとこれからも、こんな日々が続くのだろう。狂三は心の奥にチクリと小さな痛みを覚えながらも、それを無視するように家路に就いた。

ーーーーそれから間もなく、狂三は『違和感』に気づいた。

 

「・・・・え?」

 

幾度目かの路地を曲がった所で、狂三は目を瞬かせると、辺りをキョロキョロと見回した。

いつの間にか周囲から、人が、動物が、あらゆる音が、消えたいたのである。

まるで、異世界にでも迷い込んだかのような感覚。

一瞬、自分の聴覚に異常でも現れたかと思ったがーーーー違う。自分の声や衣擦れの音は、未だハッキリと聞こえた。

 

「な、何ですの、これは・・・・」

 

困惑しながらも、兎に角この場から離れようと走り出す狂三。

だがーーーー。

 

「な・・・・?」

 

狂三はすぐに足を止めた。

彼女の前に、正体不明の『怪物』が現れたのだ。

黒い影が人の形に凝り固まったかのような生物である。身体からはボンヤリとしたオーラのような物が立ち上がり、時折悲鳴とも咆哮ともつかない声を上げていた。

 

「ひーーーーッ!?」

 

明らかに、尋常な存在ではない。

狂三は思わず息を詰まらせると、その場から逃れようとした。

が、焦燥に駆られた身体はそう上手く動かなかった。足がもつれ、その場に尻餅ついてしまう。

 

「きゃ・・・・!」

 

『ーーーーーーーーーーーーーーーー』

 

すると、そんか狂三に気付いたかのように、『怪物』がゆっくりと狂三に近づいてきた。

 

「い・・・いや・・・・っ!」

 

狂三はどうする事もできず、身を竦ませた。

がーーーー次の瞬間。

 

「・・・・!?」

 

視界が光に包まれたかと思うと、凄まじい爆発音がして、狂三は目の前に迫っていた『怪物』の姿が消え去った。

そしてそれと入れ替わるような格好で、1人の少女が姿を現す。

 

「ーーーー大丈夫?」

 

「え・・・・あーーーーえ、ええ・・・・」

 

狂三は、戸惑いながらも顔を上げ、その少女の容貌を目にした。

長い髪を風に遊ばせた、端正な顔立ちの少女である。何処か物憂げで陰のある表情も、彼女の持つ神秘性を引き立てている。身に纏っているのはボンヤリとした光を帯びた美しいドレス。その全ての要素が、彼女を天使か女神のように見せていた。

一拍置いて、理解する。彼女があの『怪物』を倒し、狂三を助けてくれたのだと。

 

「あ、ありがとうございます。助かりましたわ」

 

震える声で礼を言う狂三に、少女はゆっくりと手を差し伸べてきたので、その手を握ってどうにか立ち上がる。

 

「でも・・・・今のは、一体・・・・」

 

狂三が問うと、少女はフッと目を伏せて言葉を発してきた。

 

「ーーーー『精霊』。世界を殺す、存在だよ」

 

「精霊・・・・」

 

「・・・・そう。それより、君は一体誰? 何故こんな所にいるの?」

 

「あ・・・・申し遅れました。時崎狂三と申しますわ。何故こんな所にいるのかは・・・・わたくしが聞きたい処ですけれど」

 

狂三が言うと、少女はフム、と何やら考え込むように顎に手を当てた。

 

「・・・・自然に迷い込んだ? フム、もしかしたら君には適正があるのかも知れないな」

 

「は・・・・?」

 

首を捻る狂三の目を真っ直ぐに見つめる少女。

 

「ーーーー突然ですまないのだけれど、狂三。君は、“『力』が欲しくないかい“?」

 

「『力』・・・・ですの?」

 

「・・・・ああ。私と同種の力が、欲しくないかい? きっと君ならば、霊結晶‹セフィラ›に適合する。もし君さえ良ければーーーー私と、"世界を救って欲しい"」

 

「ーーーーーーーー」

 

突然発された、荒唐無稽な言葉。

きっと常人であれば一笑に付すか、不信感を覚える所だろう。狂三とて、そんな考えが無かった訳ではない。

けれど、それよりも強く、父に母、親友である紗和にすら打ち明けていない、心の裡にあったとある感情が、狂三の首を、半ば無意識の内に前に倒していた。

 

「良かった。君がいてくれたら、百人力だ」

 

少女はそう言うと、嫋やかな笑みを作り、言葉を続ける。

 

 

 

「ーーーーよろしく、狂三。私は『嵩宮澪』。所謂・・・・『正義の味方』だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーアルテミシアsideー

 

「・・・・鳶一折紙。元AST隊員。当時の階級は1等陸曹。魔術師‹ウィザード›ランクB+。数ヶ月前、一身上の都合により退職・・・・」

 

DEMインダストリー日本支社の一室にて、アルテミシア・アシュクロフトは、モニタに表示された情報を読み上げながら、フムと顎に手を当て、微かにその貌に、困惑と疑念の色に染まっている。

 

「ーーーー間違い無い。この子だ」

 

アルテミシアは小さく呟くと、コンソールわ操作して詳細情報を表示させた。

身長、体重、顕現装置‹リアライザ›の練度など、様々なデータがモニタに映し出されていく。

今アルテミシアがアクセスしているのは、DEMインダストリーが保有する。各国魔術師‹ウィザード›データベースである。DEM制の顕現装置‹リアライザ›を扱う魔術師‹ウィザード›のデータは、全てこのデータベースに記録されていた。

凡そ1ヶ月前。アルテミシアはヘルキューレⅡとなり、宇宙空間にいた精霊〈ゾディアック〉を襲撃しようとした際、識別名称〈仮面ライダーエンジェル〉と相まみえ、彼女の詳細な情報を見てみたくなり、精霊〈デビル〉と同一だと言う事を知った。そして〈デビル〉の顔写を良く見ると、奇妙な"既視感"を感じて調べて見れば、彼女のデータが存在していたが、基本データのみで、アルテミシアが望む情報は無かった。

 

「うーん・・・・」

 

「ーーーー何をしているのですか、アルテミシア」

 

不満そうに唇を尖らせ、椅子の背もたれに体重を預ける格好で伸びをするアルテミシアに話しかけたのは、エレン・ミラ・メイザース。DEMの第2執行部部長にして、最強クラスの魔術師‹ウィザード›である、かつては『人類最強』と言われた彼女だが、〈仮面ライダーウィザード〉に敗北してからは、彼を倒すまで自らの戒めとして、『最強クラス』に甘んじているのだ。

 

「ああ、エレン。少しね」

 

曖昧な調子で答えるが、エレンは少し身を屈めてアルテミシアの手元を覗き込んだ。

 

「鳶一折紙のデータ・・・・ですか。彼女がどうかしたのですか?」

 

「知ってるの?」

 

「ええ、少し」

 

アルテミシアが問うと、エレンは微かに目を細めながらそう言った。何故だろうか、少し忌々しげな色が浮かんでいるような気がした。

 

「何かあったの? この子と」

 

「いえ、別に」

 

プイと視線を外すエレン。プライドがチョモランマ級に大きい彼女は、こうなると答えない。アルテミシアは諦めて、質問を戻す。

 

「この子って、精霊・・・・だよね?」

 

「ええ。識別名〈エンジェル〉。この世界においては、かつて〈デビル〉の名でも呼ばれていた精霊です」

 

「そんな子が元ASTだったの?」

 

「そう言う事になります。恐らく、精霊化を機にASTを辞めたのでしょう」

 

「ふうん・・・・」

 

アルテミシアは顎を撫でながら再度モニタに表示された折紙の写真を見やると、数秒後、呟くように続けた。

 

「ねえエレン。"私ってこの子と会った事、ある“?」

 

「・・・・、何故ですか?」

 

「この子、私の事を知ってるみたいだったんだよね」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

アルテミシアの言葉に、エレンが不意に無言になる。

だが数秒後、小さな吐息と共に言葉を続けてきた。

 

「アルテミシア。あなたはどうも自己評価が低いきらいがある。SSSのアルテミシア・アシュクロフトの事を元AST隊員が知っていたとしても、何も可笑しくはないでしょう」

 

「うーん・・・・そうかなあ」

 

「ええ。と言うかそれ以前に、あなたが彼女に会った事があるか等、あなたが分からないのに私が知っている筈がないでしょう」

 

「あはは・・・・それはそうかも?」

 

アルテミシアが肩を竦めながら苦笑すると、エレンがヤレヤレとため息を吐いてきた。

 

「そんな事より、アイクから招集です。行きますよ」

 

「あ、うん。ちょっと待って」

 

アルテミシアはパソコンをスリープモードにすると、エレンの背を追って部屋を出ていった。

 

 

 

 

ーエレンsideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

無言で廊下を歩きながら、エレンはアルテミシアを一瞥した。気配に敏感な彼女はその視線に気づき、ニコリと微笑んでくる。エレンはばつが悪そうに視線を前に戻した。

鳶一折紙の事を訊かれた時は少々驚いたが、どうやら『前の世界』の記憶を取り戻した訳ではないらしい。

確かアルテミシアは先の戦いで、折紙と切り結んでいる筈である。成る程、その時の会話を疑問に思うのも無理からぬ事であった。

戦場で言葉を交わした位で記憶処理が解ける事は無いだろうが、念の為後で会話のログを確認しておいた方が良いかも知れない。そんな事を考えながら、エレンはアルテミシアを伴ってエレベーターに乗った。

 

「ねえエレン。招集って、何が新しい作戦?」

 

「さあ。ただ、見せたいものがある、とは言っていました」

 

「見せたいもの?」

 

「ええ」

 

そんな何くれない会話を交わしながら、エレン達はビルの最上階ーーーーDEMインダストリー業務執行取締役‹マネージング・ディレクター›、アイザック・ウェスコットの部屋の前へと至った。

が。

 

「ーーーーーーーー」

 

ソコでエレンは不意に足を止めた。扉の向こうに、何やら異様な気配を察知したのである。

確かにウェスコットは常人にはない威圧感を持つ男ではあるが、今扉1枚を隔てて蠢く『ソレ』は、そういったモノとは明らかに別種の雰囲気を放っていた。

まるでーーーーそう、『魔獣ファントム』が夥しい数で犇めいているような感覚だ。

 

「エレン」

 

「ーーーーええ」

 

[[ドライバーオン]]

 

アルテミシアもそれに気づいたらしい、微かに眉を歪め、険しい表情を形作り、いつでもヘルキューレに変身できるようにドライバーを召喚しリングを嵌めると、ノックも無しに扉を開け放つ。

 

「アイク! 無事ですか、アイーーーー」

 

しかし、エレンは部屋に入った所で足と言葉とドライバーに押そうとしていたリングを嵌めた腕を同時に止めた。

理由は単純。部屋の中には魔獣はいた。

『魔獣ファントム』の首魁ワイズマンに、幹部のグレムリンが人間の姿でいるだけであった。後はウェスコットが1人椅子に腰掛けているだけであった。

 

「これは・・・・」

 

「ーーーーああ、来たね、エレン。どうしたんだい、そんな血相を変えて」

 

「・・・・いえ、何でもありません」

 

エレンが僅かに乱れた襟を整えながら言うと、エレンの後を追うように入室してきたアルテミシアが、同じように意外そうな顔をした。

 

「あれ・・・・? 確かにファントム達と違う何かがいるような気がしたんだけど・・・・」

 

ウェスコット達はそんな2人の様子を可笑しそうにもしくは無関心に眺めてから、ウェスコットはゆっくりと立ち上がり、窓の方へと歩いていった。

 

「さて、2人共。今日来てもらったのは他でもない。ーーーー宇宙空間を漂っていた先の精霊〈ゾディアック〉が〈ラタトスク〉の手に落ちた事で、彼らの元には累計10体もの精霊が集まった事になった」

 

「・・・・、面目次第もございません」

 

ウェスコットの言葉に、エレンは苦々しい表情をしながら顔を下げた。

宇宙空間での戦いにおいてエレンの駆る〈ゲーティア〉が、敵の空中艦〈フラクシナス〉に敗北を喫した事は忌々しい記憶として新しい。あの時エレンが落ちていなければ、結果は違っていただろう。

しかしウェスコットは、それを責めるような様子もなく言葉を続けた。

 

「別に糾弾しようと言う訳じゃあない。君達は良くやってくれているさ。それに、寧ろ私は今この状況こそ、最高の結果に繋がると思っているのだがね」

 

「最高の結果、ですか」

 

「ああ。十分な精霊の精霊が揃い、私の手には、不完全な状態とは言え魔王が在る。ーーーーエリオットがここにいない事が、心残りと言えば心残りだがね」

 

「・・・・っ」

 

エリオット。その裏切り者の名に、エレンは思わず表情を険しくした。ウェスコットはそんなエレンに肩を竦めながら続ける。

 

「ともあれ、そろそろ頃合いだろう。以前した話を覚えているかい、エレン。ーーーーイツカシドウに、『鍵』としての役割を果たして貰うとしよう」

 

「・・・・! それはーーーー」

 

エレンは目を見開くのを見て、ウェスコットはニッと笑みを浮かべ、右手を掲げると、漆黒の闇が溢れ出し、黒い装丁の書物が出現した。ーーーー魔王〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉。精霊〈シスター〉から奪い取った本の魔王。その力は『全知』。この世で起きているありとあらゆる事象を『知る』事ができる、最凶にして最悪の能力だ。

 

「〈シスター〉の手によって検索妨害が施されているものの、1点の調査にのみ力を注げば、〈ラタトスク〉の警戒の隙を衝く事は不可能じゃあない。ーーーーそろそろ、本気で殺りに行こうか。容赦はいらない。人類最強の魔術師‹ウィザード›の称号に泥を塗った事を、後悔させるといい」

 

「お任せ下さい。必ずや、最高の成果を貴方に」

 

「ああ。期待しているよ、2人共。ーーーーそれに、Mr.ワイズマン。君達はどうするのだね?」

 

ウェスコットが視線を向けると、ワイズマンが静かに口を開く。

 

『現在、メデューサがDEM本社‹向こう›で作ったファントム達を呼び寄せている。そして、グレムリン』

 

「もう、『ソラ』って言って欲しいなぁ」

 

グレムリンがタブレットを操作すると、ある一室にいる"3人の女性達"が映し出された。

 

「・・・・アイク。彼女達は?」

 

「うん。イツカシドウと同じように、"自ら生まれた魔獣を屈服させた魔法使い達"さ」

 

「っ! つまり、全員が〈仮面ライダーウィザード〉になれる者達、という訳ですか?」

 

エレンの言葉に、ウェスコットは頷く。

 

「そうーーーーそして彼女達と、イツカシドウが、"新たな世界を作りあげる"」

 

ウェスコットの言葉に、エレンとアルテミシアが首を傾げ、ワイズマンはクツクツと笑い声を上げ、グレムリンは目を細めてウェスコットを見る。

 

『っ・・・・ワイズマン。今士道くんを監視している配下から連絡があったよ。狂三ちゃん、〈ナイトメア〉が動いたってさ』

 

『ほぅ』

 

グレムリンの言葉に、全員が反応する。最悪の精霊〈ナイトメア〉が遂に動き出したのだ。これは最早状況が佳境を迎えたと言っても良い。

とソコで、グレムリンの報告を聞いたウェスコットは、ゆっくりと手を掲げ、パチンと指を鳴らす。

 

「〈ナイトメア〉も動くならば追加要員として、"彼女達"にも活躍してもらおう」

 

指を鳴らした瞬間、まるで突風でも吹いたかのように、ウェスコットの座っていた椅子の後方から、何枚もの紙が部屋中に舞い踊った。

 

「なーーーー」

 

「わっ!」

 

エレンとアルテミシアは突然の事に驚くが、ワイズマンとグレムリンは平然と座っていた。するとその紙が部屋の壁にビッシリと張り付いていき、ソコで漸くその紙が、古びた本のページのような様相をしている事が分かった。

 

「これは・・・・っ!」

 

エレンはその紙を目を細めて見るとーーーーその紙の中から、幾人もの少女達が這い出てきて、すぐに目を驚愕に見開いた。

黒に近い灰色の髪。エレン達について興味深そうに見つめる緑青の双眸。だが最も特徴的なのはーーーー彼女達が全員、寸分違わず同じ貌をしている、という事だった。

 

「・・・・! エレン」

 

「ええ・・・・」

 

アルテミシアとエレンの頬に汗が滲む。そう。『ソレ』は、エレン達がこの部屋に入る前に感じ取った、無数の気配そのものだったからだ。

 

「紹介しよう。魔王の娘達ーーーー〈ニベルコル〉だ」

 

錆び付いたような色の声の双眸で笑みを作りながら、ウェスコットはそう言った。

 

「(・・・・・・・・狂三ちゃん)」

 

が、グレムリンの心は、士道に接触した時崎狂三へと向けられていた。




次章で、物語はクライマックスに突入する!
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