デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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あけましておめでとうございます! 第十七章です!


狂三リフレイン
再登校・狂三


ー士道sideー

 

「狂、三・・・・(バシンっ!)あたっ!?」

 

《呆けるなアンポンタン。目の前にいるのは夢幻ではない。生身の〈ナイトメア〉だ。腑抜けていれば命はない》

 

「(あ、ああ!)」

 

ドラゴンにド突かれて正気に戻った士道は、改めて彼女を見た。

艷‹つや›やかに光る射干玉‹ぬばたま›の髪。

艶‹あで›やかな色を帯びた白磁の肌。

艶‹なま›めかしく笑みの形を取った淡紅の唇。

そしてそのあいだから僅かに覗くーーーー時計の瞳。

それは間違く、時崎狂三その人だった。時を操る天使〈刻々帝‹ザフキエル›〉を駆る、曰く『最悪の精霊』。

幾度となく士道達の前に現れ、時に命をねらい、時に立ちふさがり、そして時に、隣に並び立った精霊であった。

 

「何で、ここにいるんだ?」

 

そう。今狂三は、朝の来禅高校の士道達の教室にいたのだ。

 

「ーーーーふふ」

 

内心の緊張と動悸をドラゴンがド突きによって強制的に沈めていると、椅子に座った狂三がそんな士道の様子をお見通しと言わんばかりに頬を緩め、戯けるような調子で言葉を続けてきた。

 

「何で・・・・とは異な事を仰いますのね、士道さん? 久々に復学してきた級友に対する言葉とは思えませんわ」

 

「お前・・・・」

 

言って、自らの纏った来禅高校の制服を示すように身を反らしてきて、士道は眉を潜めながら、疑わしげな声を発した。

確かに狂三は数ヶ月前、士道の身を狙ってこのクラスに在籍し、どうやったのかは知らないが、正規の手続きで休学扱いになっていた話も聞いてはいたが、その言葉を額面通りに受け取る程、士道もマヌケで能天気ではない。

 

「あら、あら」

 

そんな士道の視線から剣呑な空気を察したようで、狂三は可笑しそうに微笑みながら立ち上がると、士道に向かって1歩足を踏み出してきた。

 

「シドー!」

 

「ーーーー」

 

そんな狂三の動きを警戒してか、十香と折紙が士道を守るように前に躍り出た。

2人の行動は予想の範疇であったようで、狂三はさして驚く事なく微笑を浮かべると、伸ばしていた手を自分の口元に持っていった。

 

「うふふ、相変わらず人気者ですわね、士道さん」

 

狂三はからかうようにそう言うと、ネットリと舐るような視線を十香と折紙に向けた。

 

「ご安心下さいまし。わたくしも、こんな所で事を構えるつもりはありませんわ」

 

「何を・・・・!」

 

「あなたの言う事を信じろと言うの?」

 

「あらあら、嫌われてしまいましたわね。悲しいですわ」

 

「む・・・・」

 

《騙されるな十香。この女が学校の連中にやらかした事を思い出せ》

 

「っ!」

 

わざとらしい仕草で泣き真似をする狂三に、十香は一瞬怯みかけたが、ドラゴンの言葉で数ヶ月の事を思い出し、険しい表情に戻った。因みに折紙は微塵も表情を変えず狂三を睨んでいる。

すふと狂三が、泣き真似をしてままクスクスと笑い声を漏らし、他のクラスメートに聞こえぬよう少し声をひそめながら、続けてくる。

 

「・・・・わたくしがもし、なりふり構わず暴力的な手段で訴えようと言うのなら、今ここで天使を顕現させておりますわよ?」

 

「なーーーー」

 

思わず息を詰まらせる士道の反応に、狂三は笑みを濃くすると、歌うように続けた。

 

「〈時喰みの城〉で校舎を覆い、意識を失った生徒さんや教師の皆さんを、わたくしの分身体が人質に取る・・・・如何に士道さんとドラゴンさんの力が強大になっても、ご学友全員に銃口を突きつけられた状態では、ドラゴンさんは兎も角、士道さんが一体どんな反応をするのか、楽しみではありますわね」

 

「狂三・・・・!」

 

「きひひ、ひひ」

 

士道が表情を険しくしながら名を呼ぶと、狂三は不気味な笑い声を以てそれに返してきた。

 

「今ソレをしていない『事実』を、わたくしの言葉の証明に代えさせて頂ければ幸いですわ。それでもまだ信じていただけないと言うのであればーーーー士道さん達の意に沿う事も吝かではございませんけれど」

 

「・・・・ッ、お前ーーーー」

 

怪しい口調で彩られた明確な脅迫に、士道は息を呑み、十香と折紙が更に警戒を強めるように拳に力を込める。しかし士道は、それを止めるように2人の肩に手を置いて返答する。

 

「・・・・・・・・、分かったよ」

 

「うふふ、相変わらず甘い、いえ、優しいお方ですわね」

 

狂三は満足げに微笑み、髪をかき上げてくる。その妖艶な仕草にたじろぎつつも、士道は警戒を解かなかった。

狂三が士道とドラゴンを狙っているなら、復学してきた理由が分からないからだ。 

 

「狂三、お前は一体」

 

「うふふ、怖いお顔しないで下さいまし。ーーーーわたくしは、士道さんとの学生生活を謳歌しにきただけですわ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その言葉に、士道は無言になると、狂三は戯けるように肩を竦めながら言葉を続けた。

まるで周囲の生徒達に聞かせるように。

 

「非道いですわ、非道いですわ。わたくしは士道さんと一緒に学校に通いたかっただけですのに。ーーーーちゃんと士道さんの言いつけを守っているではありませんの。士道さんの家では常に裸でおりますし、呼ばれればすぐにお側に侍ってご奉仕をいたしておりますのに。これくらいのご褒美があってもよいではありませんのー」

 

「んなッ!?」

 

狂三が口走った出鱈目に、士道は思わず声を裏返らせた。

 

「な、何適当な事言ってるんだよ! そんな事ーーーー」

 

慌てて訂正をしようと声を張り上げようとするがもう遅い。狂三の言葉を聞いたクラスメート達が、士道を見ながらヒソヒソと小声で話を始めた。

 

「うっわ・・・・五河のヤツ、ソコまでやってたのかよ。ーーーー友人辞めようかな?」

 

「え・・・・今の本当? 五河君まぁた何かやったの?」

 

「ていうかアレって、6月に転入してきた時崎さんだよね?」

 

「うん。確か休学してた筈・・・・ってもしかして今までずっとあの女の敵なドグソ野郎の家に!? マジ引くわー・・・・」

 

等と、殿町と亜衣舞衣美衣トリオを中心に、根も葉もない噂が凄まじいスピードで広まり、只でさえ底辺の士道の評価が、またもや下降していく。

 

《貴様は本当に級友達からの信用が欠片もないな》

 

「・・・・おぉぅ・・・・」

 

ここまで評価が低かった事に、士道は絶望的な心地で額に手を当てる(こんな事で絶望されるのはドラゴンとしても不本意極まりない所だろうが)。

反して狂三は、大層楽しそうにクスクスと笑う。士道は元より悪評が広まっている事に構っている場合ではないと、気を取り直して、大きな溜め息を吐いてから狂三に視線を戻し、眉根を寄せたまま声を発した。

 

「・・・・学生生活を楽しみに来ただけ、か。本当にそれだけが目的なら、俺はお前を歓迎するよ。何ならウチで歓迎パーティーを開いたって構わない。ーーーー勿論、霊力は封印させてもらうけどな」

 

無論、本気ではない。本心からの言葉ではあるが、狂三がマトモに取り合うとは思っていない。

ーーーーだが。

 

「ええ、ええ。構いませんわよ」

 

「・・・・、へ?」

 

《む・・・・?》

 

狂三の返答と反応が、予想に反しており、言葉とその意味を反芻。思考が停止してしまう・・・・。

 

ーーーーバシンっ!

 

「あてっ!?」

 

《この女の言葉に一々思考停止するな。何か『条件』があるに決まっているだろう》

 

が、ドラゴンのド突きですぐに正気に戻り、チラと十香と折紙の顔を見ると、2人の表情が驚愕に染まっている事を理解して、空耳でない事を確認した。

 

「狂三・・・・? 今、何てーーーー」

 

「わたくしの霊力を士道さんに託しても構わない、と言ったのですわ。ただし・・・・」

 

狂三がピンと指を1本立てながら、妖艶に微笑んでくる。

 

「1つ、『条件』がございますけれど」

 

《そら来たぞ》

 

「・・・・・・・・」

 

士道はゴクリと息を呑んだ。

あの狂三が、そう簡単に自分の霊力を手放すとは思えない。その『条件』とやらが実現不可能な無理難題である事は想像に難くない。何なら、それを含めての冗談とも考えられる。

しかし、士道はそれを聞き返さざるを得なかった。例え僅かであろうと、狂三の霊力を封印できる可能性があるのなら縋るしか選択肢は無かったしーーーーそれに何より、常にこちらを翻弄するように歪んでいる狂三の瞳に、微かではあるがいつもとは別の色が見えた気がした。

意を決して、問う。

 

「・・・・その『条件』ってのは、一体何なんだ?」

 

「それはーーーー」

 

と。狂三が唇を動かした瞬間。

 

ーーーーキーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン・・・・。

 

始業を知らせるチャイムが教室に鳴り出した。

 

「あら、あら。もうそんな時間ですの。残念ですけれど、仕方ありませんわね」

 

そう言って狂三がクルリと士道に背を向け、自分の席へと歩こうとする。

 

「狂三!」

 

たまらず呼び止めた士道。その声に驚いてか、数名のクラスメートが顔を向けてくる。

しかし当の狂三は別段驚いた様子も見せず、クスクスと微笑むと、指を1本口の前に立てて見せた。

 

「詳しくは放課後に致しましょう。今は人が多過ぎますわ。それにーーーー学生の本分は勉強でしてよ?」

 

その言葉だけ残して、狂三は士道の元から去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時が過ぎ、授業が全て終わった放課後。オレンジ色の夕陽が差し込んでくる。

 

「ドラゴン」

 

《間もなく時間だ。気を引き締めていけ》

 

クラスメート達は既に下校し、教室には士道とドラゴン、十香と折紙の他に、隣のクラスの耶俱矢・夕弦姉妹しかいなかった。

無論、彼らが残っている理由は1つ。

ーーーー狂三と、改めて話をする為だ。

狂三が校舎の屋上を指定してきたので、士道は意を決するように拳を固め、向かおうとする。

 

「ーーーーじゃあ、そろそろ行ってくるよ、皆」

 

士道が言うと、十香は不安そうに眉を八の字にした。

 

「むう・・・・大丈夫かシドー、やはり私達も付いていった方が良いのでは・・・・」

 

十香の言葉に、他の精霊達も同意を示すようにコクコクと頷く。

 

「十香の言う通り。危険過ぎる」

 

「闇を纏いし漆黒の精霊を相手取るには、我らの力が不可欠だろう」

 

「同意。夕弦達もお供します」

 

士道は苦笑しながら十香の頭を撫でると、首をゆっくりと横に振った。

 

「ありがとうな、皆。でも、大丈夫だ。確かに狂三は危険な精霊かも知れないけど・・・・自分の言葉をひるがえしたりはしない。ーーーーそれに」

 

士道はグッと拳を握りながら言葉を続けた。

 

「これから狂三の霊力を封印しようって男が、1対1で会話もできないようじゃ、先が思いやられるもんだろ?」

 

「シドー・・・・」

 

十香は未だ不安そうな顔をしていたが、すぐにブンブンと首を振って、表情を無理矢理明るいモノに変貌させる。

 

「・・・・うむ、分かったぞ。武運を祈る」

 

「ああ」

 

士道は力強く頷くと、十香達を残して教室を出て、階段を上がり、屋上に繋がる扉の前で。

 

《威勢の良い言葉をほざくのは良いが。そういう時が1番大ポカをするのが貴様だがな。六喰の時みたいのように》

 

「(ガクッ!) うるせぇっての!」

 

ドラゴンの痛烈な言葉を聞いて、折角の決意に水が差される。

するとそこで、右耳の小型インカムから、琴里の声が響いてくる。

 

《分かってると思うけど、くれぐれも無茶はしないでちょうだい。いくら〈フラクシナス〉で監視しているとは言え、狂三の天使〈刻々帝‹ザフキエル›〉は六喰の〈封解主‹ミカエル›〉に匹敵する程の規格外よ。何が起こるか分からないわ》

 

朝、狂三と教室で遭遇してから、ドラゴンから狂三が来た事を教えられ、琴里は〈フラクシナス〉に行き、狂三を徹底的に監視し、今は士道達の様子を見守っているのだ。

 

「ああ、分かってる。でも、精霊を助けるのが〈ラタトスク〉だろ? 狂三がどんなに恐ろしかろうが、話し合う事もなく逃げ出したら、今度こそドラゴンに殺されちまうよ」

 

《あら、その時は立派なお墓を造って、『世紀のプレイボーイ五河士道 童貞を貫いてここに眠る』、と記してあげるから、安心しなさい》

 

「・・・・はは」

 

冗談めかして士道が言うと、琴里がフンと鼻を鳴らしながら返してくる。士道は額に汗を垂らしながら小さく笑う。

先程から身体に纏わり付いていた緊張感が、幾分か和らいだ気がする。士道は気合いを入れるように頬を張ると、扉を開けて屋上へと出た。

 

「ーーーーーーーー」

 

廊下にいた時とは比べ物にならないの光が視界に広がる。士道は夕陽の赤に染められた世界に思わず目を細めーーーーゆっくりと、その直中にいる少女の姿に焦点を合わせていった。

 

「ーーーーあら」

 

フェンス越しに街を眺めていた狂三が、士道の登場に気づいてか、クルリと振り向いてくる。

 

「うふふ、ようこそ。良くいらして下さいましたわね、士道さん」

 

狂三はそう言うと、トン、トンとステップを踏むような歩調で、数歩コチラに歩み寄った後、スカートの裾を摘み上げて仰々しく礼をしてみせた。

だが今は、そんな事に気を取られている場合ではない。思い直すように頭を振り、ジッと狂三の顔を見据えた。

 

「さあ、狂三。約束通り来たぞ」

 

「・・・・・・・・」

 

士道が言うと、狂三は暫しの間士道の顔を見つめた後、ニイッと唇を歪めた。

 

「朝も思いましたけれどーーーー少し、変わりましたわね、士道さん」

 

「え・・・・?」

 

「初めて会った時よりも、顔つきが大人びている気がしますわ。まあ、あれだけの修羅場を潜って来られたのですから、当然かも知れませんけれど。うふふ・・・・素敵になられましたわね」

 

「・・・・か、からかうなよ」

 

《今が夕刻である事に感謝しろよ。さもなくば真っ赤に染まった顔を見られていたからな。このチョロボウヤ》

 

「(うるせっ!)」

 

ドラゴンの呆れた声に反発する士道は、改めて狂三に向けて声を発する。

 

「それより、教えてもらおうか。朝の話の続きを。ーーーーお前の霊力を封印する『条件』ってやつを」

 

士道の言葉に、狂三が再び唇を歪める。

その、あまりに美しくーーーーそれでいてあまりに恐ろしい笑みの形。

背に夕陽を背負う彼女の姿は、誇張なく、士道を冥府へ誘う死の使いにすら見えた。

 

「ええ、ええ。ではお話しますわ。わたくしはーーーー」

 

《小僧! 上だっ!!!》

 

ーーーーと。

落日の光に塗れた狂三が、言葉を零し、ドラゴンが、何やら焦った声を発した、その瞬間。

 

「・・・・っ!?」

 

突然、士道は強い目眩を覚えた。

否・・・・少し違う。まるで、何者かによって強制的に電源を落とされたかのような感覚。苦痛や病苦を飛び越えて、一瞬にして身体を闇に蝕まれるかのような喪失感。この表現しがたい感覚を、士道は何度も、受けていた。

戦い初めの頃、グールの槍で身体を貫かれた時。

ファントムによって身体の1部を破壊された時。

折紙の誤射で身体を銃弾で貫かれた時。

十香に変身したパピヨンに胸を突き刺された時。

そして先日ーーーー『鍵』によって身体の1部を消失させられた時。

人体の生命活動の範囲を容易く超えた『何か』に、身体を蹂躙される、一瞬の感覚。

つまるところそれは、『死』の感覚でーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーエレンsideー

 

1730時、東京都天宮市上空。

〈仮面ライダーヘルキューレ〉となったエレンは、遥か眼下にある高等学校の校舎を注視していた。

彼我の実距離は1万メートルをゆうに越えるが、ヘルキューレの仮面ではソコに蠢く人間の影がハッキリと捉えていた。

〈ナイトメア〉を始めとする数体の精霊と、不倶戴天の怨敵、五河士道の姿を。

 

「準備はいいですか?」

 

ヘルキューレ‹エレン›は、視線を地上に注いだまま、独り言のように呟くと、通信機から、別ポイントで、ヘルキューレ‹エレン›と同じ目標を捉えているヘルキューレⅡ‹アルテミシア›の声が聞こえる。

 

《勿論。いつでも良いけど・・・・エレンはいいの? 『彼』との決着がこんな形でさ?》

 

ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›がそう言うと、ヘルキューレ‹エレン›は苦い声を上げる。

 

「ーーーー不本意極まりないに決まっているでしょう・・・・!」

 

ヘルキューレ‹エレン›としても、何度も自分に、『世界最強』の称号に泥土を塗りまった〈仮面ライダーウィザード〉こと五河士道との決着がこんな形で終わってしまうのは屈辱の極地である。しかし、これもアイクの目的の為と、私情を完全に封殺して、ダーインスレイヴを構える。

 

「ーーーー行きますよ」

 

ヘルキューレ‹エレン›は短く言うと、五河士道へと向かって空を両断しようとしたその瞬間ーーーー。

 

ーーーー[ハーイパー! マグナムストライク!]

 

ーーーーガォオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

「ッ!? はッ!」

 

突然、キマイラビーストの魔力砲弾が飛んできて、イージスで防ぐと、

 

「ぐううううううううううっ! つぁあっ!!」

 

イージスで吸収しきれないと瞬時に判断したヘルキューレ‹エレン›は、砲弾を空高くに放り投げると、砲弾が飛んできた方角に目を向けるとソコにはーーーー。

 

「ーーーーひゅう。仕留めるつもりでやがりましたが、流石ですね、エレン」

 

「あなたは真那! 何故ここに!」

 

「はッ!」

 

ミラージュマグナムを構えた〈仮面ライダービーストH‹ハイパー›〉、崇宮真那がいた。

ヘルキューレ‹エレン›は、眉根を寄せるが、ビーストH‹真那›は裂帛の気合いとダイスサーベルを取り出すと、さらなる追撃を仕掛けてきた。

 

「ちーーーー」

 

悪態を吐くヘルキューレ‹エレン›は、その1撃を打ち払い、後方に離脱して距離を取る。

 

「真那! 何故あなたがここにっ!?」

 

「さて、何故でやがりますなねぇ?」

 

とぼけるビーストH‹真那›に苛立つが、冷静に思考してみる。

ーーーー真那が何故、エレンが五河士道を狙う事を知っていたのか?

真那は現在白い魔法使いに協力している〈国安0課〉に所属しているので、ソコから情報が来たのか、と思考してみるが、それならば自分のいるポイントまで読まれていたのが気になる。

 

「・・・・ふん」

 

幾つ物可能性を否定し、ヘルキューレ‹エレン›は別ポイントにいるヘルキューレⅡ‹アルテミシア›に通信を行う。

 

「アルテミシア。邪魔が入りました。態勢を立て直します。一時・・・・」

 

と、そこで通信機に、断続的なノイズが響いてきた。

 

「これは・・・・」

 

ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›がやられたのではなく、通信を阻害されているのか、襲撃され戦闘をしていると考え、ヘルキューレ‹エレン›は小さく舌打ちをして、ビーストH‹真那›を睨むように視線を向けた。

 

「何をどうしたか知りませんが、見事な手並みです」

 

すると、何故かビーストH‹真那›までもが、何処か忌々しげな様子の声を発する。

 

「・・・・本当に。見事過ぎて嫌になりやがります。エレン、あなたさえ出てこなかったなら、まだ笑い話で済んだのに」

 

「・・・・? 何ですって?」

 

その不可解な言葉に眉根を寄せる。が、それ以上説明するつもりは無いと、ビーストH‹真那›は小さく頭を振ってから、ダイスサーベルとミラージュマグナムを構えた。

 

「あなたには関係のねー話です。ーーーーそれよりも、どうしますか? 絶好のタイミングはもう過ぎちまったみたいですけど」

 

「ふん」

 

ビーストH‹真那›が、挑発するように言うが、ヘルキューレ‹エレン›は内心、こんな形で五河士道との決着を付けずに済んだ事に感謝しつつも、ダーインスレイヴの切っ先をビーストH‹真那›に向けた。

 

「私の襲撃を止めてみせた事は褒めてあげましょう。ですがそれは、あなたが私に勝てて初めて意味を成すものです」

 

「ふぅん? じゃあやってーーーー」

 

ビーストH‹真那›が受けて立つ、と言おうとするが、ヘルキューレ‹エレン›は最後まで聞かず、言葉を続ける。

 

「ーーーーと、あなたは言って欲しいのでしょうけれど」

 

すると、それに応じるように小さな魔法陣を展開すると、それに手を突っ込み、中にあった物を空に広げる。

ーーーーその、何枚もの本のページが。

 

「・・・・紙?」

 

《油断するな真那! あの紙から、魔王の臭いがするぞ!》

 

「っ!」

 

ライオンキマイラの言葉でビーストH‹真那›の警戒心がフルになる。

魔王。つまり、ウェスコットが手に入れた〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉の事である。

ヘルキューレ‹エレン›は左手を前方に掲げると、それに合わせて何枚もの紙が規則的に並ぶ。

エレンとしても、五河士道との決着は正々堂々と付けたかったが、今は私情を抜きにする。

 

「ーーーー出なさい、〈ニベルコル〉

 

言って、ヘルキューレ‹エレン›が、パチンと指を鳴らす。

 

 

 

 

ー真那sideー

 

ヘルキューレ‹エレン›が指を鳴らした瞬間、周囲に展開していた紙が、まるで躍動するかのように蠢いたかと思うと、その中から、何人もの少女が這い出た。

黒衣に身を包んだ、同じ貌をした少女がーーーー幾人も。

 

「アアーーーー」

 

「何・・・・もう出番?」

 

「まあ、良いけどさ。"お父様"の為だし」

 

少女達が気だるけに言い、それぞれ伸びや欠伸をしながら、ビーストH‹真那›に視線を向けた。

 

「・・・・っ!」

 

ビーストH‹真那›は思わず息を詰まらせるが、いつでも斬りかかり、撃ち抜く気構えを取る。

眼の前に現れた目算で20人の少女達は、幻影なのではない、確かな存在感と濃密な力を感じた。

まるでそう、〈ナイトメア〉時崎狂三の分身体と対面した時のような感覚だ。

 

「あなたの相手は彼女達で十分でしょう。ーーーー〈ニベルコル〉。私は目標に向かいます。後は頼みましたよ」

 

ヘルキューレ‹エレン›が少女達、〈ニベルコル〉に向けて指示を出すと、彼女達は一瞥し、ヒラヒラと手を振った。

 

「ああ、はいはい。行ってらっしゃい」

 

「ていうかエレンって、お父様とどういう関係なの? 愛人?」

 

「えぇー、それはないって。いくらなんでもお父様趣味悪ーい」

 

「・・・・な」

 

キャハハ、と笑い合う彼女達の反応が予想外だったのか、ヘルキューレ‹エレン›が声を発するが、すぐに気を取り直してら下方ーーーー士道達のいる高校へと視線を向けた。

 

「ッ、行かせねーです・・・・!」

 

ビーストH‹真那›はヘルキューレH‹エレン›に向けて飛ぼうとした瞬間、一瞬前まで女子高生のように姦しく笑い合っていた〈ニベルコル〉が、一斉に針のような鋭い視線を向けてきた。

 

「く・・・・」

 

仮面越しに渋面を作る。1対1なら遅れは取らないが、20体による足止めを振り切り、ヘルキューレ‹エレン›の妨害。明らかに手勢が足りない状況だ。仁藤も現在は地上だ。ヘリで来ても良い的になるだけだからだ。

 

「(ちっ! 皆! 『アレ』をやるでやがりますよ!)」

 

《『応/ええ!!』》

 

ビーストH‹真那›が、『キマイラーズの顔か掘られたリング』を指に嵌め、ドライバーに押し込もうとした瞬間ーーーー。

 

「ーーーーあら、あら」

 

「・・・・うん? この気持ち悪い声は・・・・」

 

と。

ビーストH‹真那›の背後から、不快極まる笑い声が響いてきて、ビーストH‹真那›の腕が止まった。

 

「何あれ。同じ顔が幾つも。うわ、なんか怖い」

 

「あはは、アタシ達が言っちゃお終いじゃない? それ」

 

〈ニベルコル〉達が口々に言うと、それに応えるように、ビーストH‹真那›の背後から、幾人もの人影が進み出た。

赤と黒の霊装。左右不均等に括られた髪。そしてーーーーカチカチと時間を刻む左目。

精霊・時崎狂三と寸分違わぬ姿をした分身体達が、まるでビーストH‹真那›を助勢するかのように並び立った。

 

「・・・・〈ナイトメア〉」

 

左方に目を向け、忌々しげに言うと、狂三は大層可笑しそうに笑みを向けてきた。

 

「奇遇ですわね、真那さん。お困りでしたら仁藤さんの代わりに手を貸しますわよ? わたくしこれでも、弱い者いじめは嫌いですの」

 

「どの口がほざきやがるんですか。その脂が乗ってよく回る舌、素っ首ごと落としてやがりますよ」

 

「あら、怖いですわ、怖いですわ。・・・・でェ、もォ、そんな強情を張っていられる状況ですの? 真那さん達だけで、彼女達を止めるのは時間が掛かるとおもいますけれど」

 

「・・・・ち」

 

嫌悪感を欠片も隠す事もせず舌打ちを零したビーストH‹真那›は、嵌めていたリングをドライバーに押し当てた。

 

[キマイラ! フルアームド!!]

 

「ーーーーはぁっ!!」

 

音声が響き、ビーストH‹真那›の身体に金色の魔法陣が展開されると、ソコから、橙のファルコンの頭部。赤いバッファの頭部。紺色のドルフィンの頭部が。緑のカメレオンが小さな姿で飛び出し、〈ニベルコル〉を数人程弾き飛ばし、再びビーストH‹真那›に集まるとーーーー。

 

「ファルコ!」

 

『よっしゃぁっ!!』

 

ファルコンの頭部がビーストH‹真那›の左肩に乗り、ビーストH‹真那›の背面にファルコの橙の翼が生えた。

 

「カメレ!」

 

『ほいきた!』

 

左腕にカメレオンが引っ付き。

 

「ドルフィン!」

 

『OK!』

 

ドルフィンの頭部が右肩に乗り、両肩にヒレのようなローブが流れる。

 

「バッファ!」

 

『モォォっ!』

 

両足に2つになったバッファの頭部を装備した。

それを見て、狂三はヒュウ〜っと、口笛を吹いた。

 

「あら、新装備ですの?」

 

「ニュースタイル、〈仮面ライダービーストH‹ハイパー›・フルアームドスタイル〉でやがります! 全員片付け終えやがったら、次はあなたをぶッ殺してやります!」

 

ビーストH‹真那›はダイスサーベルをミラージュマグナムに合体させ、銃剣‹ガンソード›のようにすると、〈ニベルコル〉とヘルキューレ‹エレン›に向かって切りかかった。

 




ー『仮面ライダービーストH・フルアームド』ー

本作オリジナルフォーム。ビーストハイパーの強化体。ビーストハイパーにそれぞれのキマイラを装備する。両足のバッファだけは2つに別れて装備される。
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