デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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潜入・折紙

四糸乃と握手を交わした十香は、静かに四糸乃から手を離して、士道の方を向く。

 

「それで、十香、その・・・・」

 

「シドー。少し話がある」

 

「ぐえっ!」

 

士道の胸ぐらを掴んだ十香は、そのまま四糸乃を置いてリビングを出る。

リビングを出ると、十香は士道の胸ぐらを掴み上げてた。

 

「シドー。お前はあの娘を、あの精霊を、四糸乃を救おうとしているのだな?」

 

「えっ・・・・?」

 

「正直に答えろ」

 

「あ、あぁ・・・・」

 

「・・・・そうか。では、四糸乃が家に居る訳を教えろ」

 

「わ、分かった・・・・」

 

≪(こりゃ尻に敷かれているな)≫

 

十香は憮然となりながらも、一応納得してくれたのか、士道の説明を聞いてくれた。

四糸乃が左手に着けていたパペットのよしのんを無くしてしまって困っていたから、士道も一緒に探していた。途中で四糸乃がお腹を空かしたので家に戻り、親子丼をご馳走したのだ。

 

「親子丼・・・・?!」

 

「十香、どうした?」

 

「い、いや何でも・・・・」

 

誤魔化そうとした十香だが、クゥゥゥゥッ、とお腹の虫か盛大に悲鳴を上げたのを見て、士道は察した。

 

「・・・・十香、腹へったのか?」

 

「う、うむ。令音との外食は、後回しにしてしまったのだ・・・・」

 

「分かった・・・・・・・・四糸乃ーーー」

 

『ピィッ! ピィッ!』

 

『ヒヒィィィンッ!』

 

『キュキュッ!』

 

「あだっ!?」

 

士道は再びリビングに入ると、プラモンスター達が慌てて士道の顔面にぶつかってきた。

 

「な、なんだよお前ら・・・・!」

 

《士道。四糸乃が消失<ロスト>したわ》

 

「なぬぃっ!!?」

 

リビングを見ると、さっきまでテーブルの近くにいた四糸乃の姿が消えていた。

士道はモニタリングしているであろう琴理に小さく話しかける。

 

「琴理! 四糸乃はどうしたんだ!?」

 

《貴方と十香がリビングを出て行った後、十香と握手した手を何度か握っていたら、急に顔を真っ赤にして消失<ロスト>したのよ。どうやら気恥ずかったようね・・・・》

 

気弱で内気な四糸乃にとって、相当勇気を持った行動だったようだ。

 

「し、シドー。四糸乃はどこに行ったのだ? まさか、私のせいなのか・・・・?」

 

≪小僧。フォローしろ≫

 

「だ、大丈夫だ。ただ、照れ臭くなって、隣界に行っただけだ。十香のせいじゃねえよ」

 

「そう、なのか?」

 

「ああ・・・・それじゃ、十香の分の親子丼を作るから、ちょっとガルーダ達と待っててくれ」

 

『ピィ』

 

『ブルルル』

 

『キュゥッ』

 

「うわ!」

 

頭の上に乗っかるガルーダと、両肩に乗るユニコーンとクラーケンに少し驚くが、すぐに打ち解け戯れる十香。

 

≪・・・・・・・・・・・・≫

 

「(どうしたドラゴン? 妙に黙っちゃって?)」

 

四糸乃がいなくなって、黙んまりしているドラゴンが気になった士道は調理する手を休めず、ドラゴンに聞いてみた。

 

≪あの精霊、〈ハーミット〉とパペットの事だ・・・・≫

 

「(四糸乃とよしのん・・・・?)」

 

≪うむ。あの〈ハーミット〉とパペットの口調や雰囲気、さらに性格があまりにも違うのでな。そこに妙な違和感を感じるのだ・・・・≫

 

「(妙な違和感、か・・・・)」

 

実を言うと士道も、四糸乃とよしのんに妙な違和感と既視感、そしてそれと同じ感覚を抱いていた。

まるでそう、今まさに自分と自分の体内にいるウィザードラゴンのような、“親近感”に近い感覚に。

 

「(まるで俺とドラゴンみたいに、“二人存在するみたいだな”?)」

 

≪っ! 小僧。今何と言った?≫

 

士道の言葉に、ドラゴンはまるで頭に鋭い閃きが走ったように士道に問い返す。

 

「(えっ? “二人存在する”って・・・・)」

 

≪・・・・二人・・・・〈ハーミット〉とパペット・・・・二つの存在・・・・。小僧、妹に連絡を入れろ≫

 

「(ん? 何でだよ?)」

 

≪もしかしてだが、〈ハーミット〉はーーーーーーなのかもしれん≫

 

「えっ?・・・・・・・・っ」

 

ドラゴンが言った言葉を聞いて、士道も、四糸乃とよしのんに感じていた違和感と既視感が、まるで最後のパズルのピースをはめたかのように繋がった。

 

「・・・・琴理。1つ気になる事があるんだが、調べてくれないか?」

 

《何?》

 

士道は簡潔に、疑問を伝えた。

 

《・・・・ふうん。いいわ、令音が戻ってきたら調べてもらいましょ》

 

「おう、頼む。・・・・十香、親子丼お待ちどうさま」

 

「おおっ!」

 

ずっとプラモンスター達と戯れていた十香が、親子丼を見て、目を輝かせ、テーブルの椅子に一瞬で移動していた。

 

「いただきますなのだ!」

 

「おかわりは沢山作ったから、それ食べたら少し休んでいてくれ。俺は少し四糸乃を探してくる」

 

「む。それなら私も行くぞ!」

 

「少し休んでからにしろよ。夕べもあんまり寝てないんだろ?」

 

士道に指摘され、眠気を自覚したのか、十香は弱冠うつらうつらと眠そうに頭が船を漕いだ。

 

「うぅぅ~~~~~~・・・・」

 

それでもしっかり親子丼を食べている十香は不平そうだが、納得してくれた。

すると琴理が、思い出したように声をかける。

 

《ああ、そうそう。士道、朗報があるわ》

 

「ん?」

 

《映像を洗ってみたところ、パペットの所在が判明したの》

 

「本当か!? どこにあるんだ?」

 

《それはねーーーーーー》

 

琴理が発した言葉に、士道は頬を痙攣させ、ドラゴンは唖然となった。

 

 

 

 

 

 

それから数日ほど経ちーーーーーー。

 

「ここ・・・・で、合ってるよな」

 

≪〈プリンセス〉に内緒で来て良かったな。絶対に面倒な事になっていたぞ≫

 

ここ何日か学校が終わって帰宅すると、四糸乃を探しに行っている十香をプラモンスター達に任せた士道は、左手に菓子折の入った紙袋、右手に地図の描かれたメモ用紙を持って、重苦しいため息を吐いてから、目の前に聳える『鳶一折紙の住むマンション』を見上げた。

 

「しかし何でまた、こんな泥棒みたいな・・・・」

 

《仕方ないでしょ。鳶一邸に招き入れられるのなんて、士道くらいしかいないんだし》

 

ぼやく士道の右耳に装着したインカムから、琴理の声が聞こえた。

そうーーーいま士道は鳶一折紙の自宅であるマンションに訪れていたのだ。

デパートで四糸乃が消失<ロスト>した際の映像を丁寧に洗ってみたところ、基地に帰投する折紙が、よしのんを拾い上げ、持ち去った事が分かったのだ。

どうにかそれを入手しようと、先日十香がトイレに行っている隙に折紙に、家に遊びに行って良いか?と訊ねると、招いてもらう事になった。

 

「おい琴理、〈ラタトスク〉で回収出来なかったのかよ?」

 

《・・・・やったわよ、とっくに》

 

「え?」

 

≪あ?≫

 

ため息交じりに発せられた言葉に、士道&ドラゴンは首を傾げた。

 

《数日前から三度に渡って侵入を試みたけれど、全部失敗したって言ってるの。部屋中に赤外線が張り巡らせてあるわ、催涙ガスは噴射さるるわ、要所に自動追尾歩哨銃<セントリー・ガン>まで設置されているわ・・・・うちの機関員六名が病院送りよ。一体何と戦っているのよ彼女は》

 

「は、はあ・・・・」

 

≪使えない機関員だな・・・・≫

 

《数に物を言わせて強引に行けば可能だけど、向かうからお誘いいただけるなら、それに越したことはないじゃない?》

 

「・・・・了解したよ」

 

≪基本小心者のお前に出来るのか?≫

 

「(うるせぇよ。四糸乃を助けるためだし、それに、俺自身、鳶一とはきちんと話しておきたいんだよ)」

 

≪なんだ? あの娘に精霊は良い子達だからお友達なってくださいとでも言うつもりなのか? それならつくづく救いようがないな、お前の甘ちゃん脳ミソは≫

 

「(だからうるせぇって!)・・・・・・・・よし」

 

士道は意を決してマンションの入り口に足を踏み出し、のエントランスに設えた機械で折紙の部屋番号を入力し、折紙に促されるまま、エレベーターでマンションの六階まで上がり、折紙の部屋番号の前に到着した。

 

「・・・・じゃあ、手はず通りに」

 

《ええ。任せてちょうだい》

 

士道の周りには、〈ラタトスク〉の操作する超小型カメラが虫のように飛び、士道が折紙の相手をしている間に、探索してもらう手はずなのだ。

 

「・・・・ふう」

 

士道は一度大きく深呼吸してから呼び鈴を鳴らすと、すぐさまーーーそれこそ折紙が玄関で待ち構えていたかのようなタイミングで、扉が開けられた。

 

「お、おう鳶一。悪いな、今日は無理言っちゃっーーー」

 

≪・・・・・・・・は?????≫

 

士道は手を軽く上げて挨拶しようとし、そのまま停止し。ドラゴンも思考停止状態となった。

左手に携えたお菓子の箱が落下し、グチャッと、後でスタッフが美味しくいただかねばならなくなるような音を立てる。

理由は単純。ーーー折紙の、装いだ。

濃紺のワンピース、フリル付きのエプロン、頭には可愛らしいヘッドドレス。そう、今彼女は、頭頂から爪先まで、完璧なメイドさんスタイルだった。

あろうことか学校一の天才様、永久凍土、鳶一・コキュートス・折紙嬢が、だ。

 

「ア、アノ・・・・トビイチサン・・・・?」

 

「なに」

 

あまりにも、想定外過ぎる格好に、士道は顔中に玉のような汗がびっしり浮かべ、なんとか声を発すると、折紙はいつものように人形の如く無味な表情で、小さく首を傾げた。

 

「(なあドラゴン。実は目の前に彼女は鳶一の双子の妹で、『コスプレ好きの色紙ちゃん』って、事はーーーーーー)」

 

≪・・・・・・・・現実逃避したい気持ちは果てしなく分かるが。これは現実だ、受け入れろ≫

 

士道の儚い望みは早々に打ち砕かれた。

 

「・・・・なんて格好してんだ、お前・・・・」

 

「きらい?」

 

「や・・・・そ、そういうことではなく・・・・」

 

≪出鼻をくじかれまくりだな≫

 

直視できない士道は顔を真っ赤にしたまま目を泳がせまくった。

 

「入って」

 

「お、お邪魔します・・・・」

 

折紙は気にする素振りを見せず、士道を部屋の中へ招き入れ、士道は地面に落ちた紙袋を拾い上げ、微かに震える指でノブを掴んで扉を閉め、靴を脱いで上がった。

その瞬間。

 

「・・・・っ(インカムが・・・・?!)」

 

急に右耳に着けたインカムから、ノイズのような音が鳴り、琴理の声がノイズに紛れて微かに聞こえる。

 

《く・・・・っ、まさーーージャミングーーー士ーーー、通ーーーないーーー、なんとかーーー》

 

そこまで聞こえたところで、プツン、と音声が途切れ、何も聞こえなくなる。

 

「・・・・!? お、おい・・・・」

 

「どうしたの」

 

インカムに問いかけると、前方にいた折紙が振り返る。

 

「あ・・・・っ、い、いや・・・・なんでもない」

 

「そう」

 

折紙が顔の向きを元にもどしてから、士道は大きく息を吐く。

 

「(ドラゴン、これってまさか・・・・)」

 

≪どうやらジャミングされているようだ。これでは浮遊カメラも使い物にならなくなっているかもな。まったく、お前の妹の組織は肝心な所でクソの役にも立たないな。知ってはいたが≫

 

「(つまりこっからは俺とドラゴンだけでやるのかよ)」

 

前髪をくしゃくしゃとかきむしり、士道は覚悟を決めるように唾液を飲み下すと、折紙の後をついていった。

そして、折紙に促されるままに、リビングに足を踏み入れる。

 

「・・・・ん? この匂い・・・・」

 

≪なんだ? この妙に甘ったるい匂いは?≫

 

リビングに入った瞬間、ふわっとあまりの香りがした。

 

「鳶一? お香でも焚いているのか?」

 

「そう」

 

「へ、へえ・・・・」

 

こういった趣味や娯楽にあまり興味を示さないような気がしていた折紙の、いつもとは違った顔を見た気がして、少し照れ臭くなった。

 

「(しかし、随分とリラクゼーション効果が高いお香だな。気を抜くと意識が飛んで行きそうだ)」

 

≪おい、気を抜くなこの平和ボケ≫

 

ボカッ

 

「あてっ!」

 

「???」

 

「い、いやなんでもない・・・・」

 

体内のドラゴンが、士道の頭を尻尾で叩いたような衝撃で、士道は正気に戻り、何事かと首を傾げる折紙に小さく手を振る。

 

「座って」

 

「あ、ああ・・・・」

 

言われて、リビング中央に置かれた背の低いテーブルの前に座る。

 

「・・・・・・・・」

 

そして、士道が座ったのを見届けると、折紙も腰を落ち着けた。

士道のすぐ隣に。

 

「え・・・・? ええと・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「その・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「(ドラゴン、これって俺の常識がおかしいのか?)」

 

≪いや、この状況が異常なのだ。まあとりあえず会話を続けろ。この娘の不審点を調査するためにもな≫

 

「と、鳶一?」

 

「なに?」

 

「や、素朴な疑問なんだが・・・・鳶一って、一人暮らしなのか?」

 

折紙は小さく首肯した。

 

「・・・・そ、そうか。い、いつ頃から一人で?」

 

士道が問うと、折紙は捕捉するように続ける。

 

「五年前に両親が死んでから、しばらく叔母と一緒に暮らしていたけれど、高校に入るときに、一人でここに移った」

 

≪(ピクッ!)≫

 

「高校から一人暮らしか・・・・大変じゃないか?」

 

「そうでもない」

 

必要最低限にしか表情の筋肉を動かさないまま、士道の顔をジッと見据え、そう言ってくる。しかもかなり近い距離で、ドラゴンは折紙の言った“五年前”と言う言葉に反応した。

 

「(・・・・なんか、ただ会話しているだけなのに、この妙なプレッシャーはなんだ?)」

 

≪いいから話を続けろ≫

 

「いや、はは、は・・・・でもやっぱりすげえと思うよ。俺もそのうち一人暮らしすることになるだろうけど、なんか一人だと飯とか掃除とか手ぇ抜いちまいそうでさ」

 

「問題ない」

 

「え?」

 

「私がやる」

 

きっぱりと言いきる折紙に、士道は一瞬全身を凍らせた。

 

「っ・・・・!? えと・・・・それって・・・・」

 

が、士道が言うより速く、折紙がその場からすくっと立ち上がった。

 

「え・・・・?」

 

「待っていて・・・・」

 

そしてそのまま足音もなく、キッチンの方へと歩いていった。お茶の準備をしているらしい。

士道はキッチンへ立った折紙の背をボーッと眺め、ハッとして首をブンブン振った。

 

「(・・・・ドラゴン、よしのんは?)」

 

≪どうやらこの部屋には無いようだな。しかし飾り気皆無な部屋だ≫

 

士道が折紙と会話している間、体内から部屋を見回していたドラゴンは、女の子らしさどころか、生活感さえまったく感じられない、まるでモデルハウスの内装のようなリビングに呟く。

 

「・・・・ん」

 

物自体は少ないが、構造上収納スペースは多そうで、探すのは骨が折れそうだ。

加えて、折紙の目をどう誤魔化すかも問題だ。これならプラモンスター達を連れてくれば良かったかな? と士道はボヤキそうになるが、四糸乃を探す十香も心配だったので諦める。こうなったらトイレに立つフリをして探すかな。と、そこで折紙がトレイに、ソーサーとティーカップを二つずつ、それに砂糖とミルクを載せて戻ってきて、無言のままテーブルにそれらを配置した。

 

「どうぞ」

 

そう言って折紙は再び士道の隣に寄り添うように腰を下ろした。

 

「あ、ああ、ありがとう」

 

≪おい、さっきより距離が近くなってないか?≫

 

お香の匂いと別に、仄かに漂う折紙のシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐり、ドラゴンの言葉が耳に入らなかった。

士道は自然と噴き出る汗を袖で拭ってから、ティーカップに手を伸ばすが、その寸前で、手を止め、思わず眉をひそめる。

 

「・・・・!?」

 

≪なんだこの茶は??≫

 

そのお茶は、カップの底が窺い知れない程に淀んだ泥のような液体。

一瞬コーヒーかと思ったが、違う。

液体の正体を見取る為に顔をカップに顔を近づけた瞬間、生物兵器みたいな刺激臭が、鼻腔をキックストライクされたような衝撃がした。

 

「ーーーウェイッ!?」

 

思わず身体を弓なりに退け反らせた。

 

「どうしたの?」

 

「ど、どうしたって・・・・これ、一体何だ?!」

 

「お茶。外国の」

 

「ず、ずいぶん個性的なお国で・・・・」

 

士道はしかめ面で鼻をつまみながら再びカップを覗くと、生物としての本能が頑なに摂取を拒む色をしていた。

 

「(あれかなドラゴン? 飲み干せたら成人として認められるとか、そんな類いのお茶かな?)」

 

≪ド阿保。そんな儀式に使うような茶を客に出す大馬鹿がいるか。これは明らかにヤバめな薬物が入っているぞ≫

 

士道も激しく同意する。

 

「あー・・・・鳶一? 貴重なモン用意してくれて悪いんだけど、俺、これ苦手かもーーー」

 

士道が遠慮しようとしたが、折紙がティーカップを士道の方へ進めてきた。

 

「や・・・・鳶一?」

 

「どうぞ」

 

「いや、どうぞじゃなくて・・・・」

 

「どうぞ」

 

「あの、だな」

 

「どうぞ」

 

「・・・・・・・・いただきます」

 

結局断り切れず、再びカップに向かい、手に取ると、ドラゴンの心底呆れ果てた声が脳内に響いた。

 

≪何で断れないのだお前は? 何故毅然と断れないのだ? 馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、ここまで救いようない程の糞馬鹿だったとはな・・・・≫

 

「(なんか俺も自分の性格が嫌になってくるよ・・・・)」

 

士道は、少しでも味をマイルドにしようと、テーブルに置かれたミルクを1つカップの中に注ぎ込んだが・・・・結論から言って、溶けなかった。まるで重油の流出した海のように、ミルクの油分がお茶の表面に浮かんだ。

 

「・・・・ええい、ままよ!」

 

≪(スッ)・・・・・・・・≫

 

士道は意を決してカップを持ち上げて、液体を喉に流し込み、ドラゴンは十字を切った。

 

「ーーーおぼふ・・・・ッ!?」

 

≪ーーーうおぅ・・・・ッ!?≫

 

匂いに負けない刺激的でハザードな味が、士道の味覚とを蹂躙し、士道の体内のドラゴンにもその影響を与えた。

苦いとか辛いとかではなく、とにかく痛い。割れる! 食われる! 砕け散る! オラァ! キャー! と、腸が抉れるような味に、士道はもがき苦しみながら、咄嗟に持って来た菓子折の開いて、天宮銘菓の潰れた人型焼きを口に放り込む。

 

「はぁ・・・・っ、はぁ・・・・っ」

 

優しい甘みが口内に広がり、士道の身体は力なく後方にバタンと倒れ、ようやく息を吐いた。

 

「・・・・あ?」

 

と、士道は胸元を押さえる。何故だろうか、妙に身体が熱く火照るような感じがする。

 

「(ドラゴン、これってなんだ? 今日って気温高かったけ?)」

 

≪大馬鹿者が・・・・! あの茶のせいに決まっているだろうが・・・・!! オエッ・・・・!!≫

 

ドラゴンはさっきのお茶に吐きそうになるが、そんな無様を晒したくないのか、必死に堪えていた。

するとそこに。

 

「・・・・・・・・」

 

何故か折紙が、仰向けに倒れる士道の頭の横に手をつき、腹の辺りに跨がり、マウントポジションを取るような格好で覆い被さる。

 

「・・・・・・・・っ!? と、鳶一!?」

 

「なに」

 

折紙が平然とした調子で返してくる。

 

「い、いや、お前何を・・・・」

 

「だめ?」

 

「だ、駄目だ・・・・と思う」

 

≪おい、しっかりしろ・・・・オゥっ!≫

 

士道は沸騰しそうになる頭を、ドラゴンの苦悶の声を聞きながら何とか堪える。

折紙のほどよい重量、女の子特有のいい香り、柔らかい感触、メイド服の衣擦れ、そんなものが全てぐるぐるない交ぜになってもう、ヤベーイ!な状態。少しでも気を抜けば、士道は即座に、ウェイクアップ! してしまいそうだ。

 

「そう」

 

折紙はそう言うと、ぱちりと瞬きをした。

 

「では、交換条件」

 

「は・・・・?」

 

≪ウプッ?≫

 

「ここから退くかわりに、私の要求を1つ、無条件で呑んで欲しい」

 

「な、なんだ・・・・?」

 

折紙は珍しく逡巡するように間をおいてから、小さな声で言ってきた。

 

「貴方は、夜刀神十香の事を『十香』と呼ぶ」

 

「え・・・・? ああ・・・・そ、そうだな」

 

「これは非常に不平等」

 

言って、折紙はぷいと顔を背けた。

 

「へ・・・・? や、えと・・・・」

 

士道は折紙の意図を図れず、頭に疑問符を浮かべながらドラゴンの話しかける。

 

「(つまり、十香の事を『夜刀神』って呼べって言ってるのか?)」

 

≪無知蒙昧で脳足りんのボンクラが・・・・。そうではなくて、自分の事も、名前で呼べと言っているのだ。そんな事も察することもできないのか? この覆しようも救いようもないゴミクズめが・・・・!≫

 

ようやくドラゴンもお茶の毒気が無くなったようで、その分の毒を含んだ猛毒舌を放った。

 

「あ・・・・つまり、鳶一の事も名前で呼べと、言っているのか?」

 

「そう。だめ?」

 

その時の折紙の声音は、いつも通り抑揚の無かったが、少しだけ不安そうな響きを孕んでいるような気がした。

 

「や・・・・それは、駄目じゃない、と・・・・思う」

 

「そう」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

またしばし沈黙が流れるが、士道はコホンと咳払いをしてから、喉を震わせる。

 

「ええと・・・・お、『折紙』」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

士道が折紙の名を呼ぶと、折紙は無言で士道の腹から腰を浮かせ、その場に立ち上がり、そしてその場で無表情のまま、ぴょん、と跳び跳ねた。

 

「へ・・・・?」

 

≪・・・・・・≫

 

なんともシュールな光景に、身を起こした士道とドラゴンは目を丸くしたが、折紙は気にする素振りもなく、小さく唇を開いた。

 

「ーーー士道」

 

「・・・・!」

 

そういえば、折紙に名前で呼ばれたのは初めてだった。いつも『五河士道』とフルネームだったからだ。

 

「お、おう」

 

むず痒い感じがしながらもそう返事をすると、折紙はもう一度その場でぴょん、と跳ねた。無論、表情筋はピクリとも動いていなかったが。

 

 

ー十香sideー

 

「四糸乃~! 四糸乃~! どこに行ったのだ~!!?」

 

四糸乃を探す十香は、建物の隙間、自販機の下、ゴミ箱の中、はては空のビンの中まで覗きながら四糸乃を探していた。

 

『『『・・・・・・・・・・・・・・・・』』』

 

その様子をプラモンスター達はギャグ汗を流しているような雰囲気で十香を見ていた。

 

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