デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
「んな・・・・ッ!?」
《ぬぅッ!》
一晩かけて入念に作り上げた士道の(脆い)平常心は、アッサリと崩れ落ちた。何故ならーーーー。
「ーーーーうふふ、おはようございます、士道さん。ドラゴンさん。良い朝ですわね」
学校に行く為に玄関の扉を開けた所に、黒のコートを纏った狂三が、とびきりの笑顔で待ち構えていたのだ。
「く、狂三・・・・!?」
「ええ、ええ。いかが致しましたの、士道さん。そんな顔をなさって」
狂三が大層可笑しそうにクスクスと笑う。士道はハッとドラゴンのド突きを気配を感じて、心拍を落ち着かせようと深呼吸をする。
《・・・・ちっ》
ドラゴンが舌打ちして尻尾を引っ込めた気配がした。士道は狼狽えないように唇を動かす。
「いや・・・・そりゃ驚くだろ。何でこんな所にいるんだよ」
「あら、あら。クラスメートが一緒に通学するのはそんなにおかしな事ですの?」
「・・・・・・・・、そうだな。何もおかしくない」
士道は頬に汗を垂らしながらそう返した。
そう。何もおかしくはない。狂三との勝負はもう始まっているのだ。寧ろ油断をしてしまっていた士道が反省をせねばならない位だった。
とは言え、やられっぱなしではいられない。士道は不敵な笑みを作りながら口を開いた。
「でも、わざわざ迎えに来てくれるなんて・・・・さてはお前、俺に気があるな?」
「うふふ、どうですかしら」
狂三は面白がるようにそう言うと、トン、トンと軽快なステップで士道に歩みを寄せ、その腕に自分の腕を絡ませた。
そしてそのまま、グイと身体を寄せてくる。突然の事に、士道は目を白黒させた。
「ーーーーっ」
「さ、参りましょう」
そのまま、半ば強制的に道を歩かされ始める。
しかし、されるがままにしているのは上手くない。士道は取られていない方の手をコッソリポケットに忍ばせると、ソコに入れてあった小型インカムを耳に嵌めた。
それと同時にインカムのスイッチが入り、数秒間、声が聞こえてくる。
《・・・・ん、何かあったかね、シン》
令音の声が聞こえた。その眠たげだか、何処が俯瞰とした感じに聞こえる声に心が幾分か落ち着く。
《・・・・・・・・・・・・》
が、ドラゴンは何故か、令音の声に僅かな緊張をしているように感じたが、士道は構わず、狂三に気取られないよう小さな声で話す。
「・・・・すみません、令音さん、緊急事態です」
《・・・・、ーーーー狂三か》
一拍置いて、令音が察したように言ってくる。士道は無言の肯定する。
《・・・・存外早く仕掛けてきたね。すぐに琴里を呼ぼう。今はとりあえず、彼女と話を合わせてくれ。無言でいるのも上手くないだろう》
士道は了解を示すようにトンと叩く。琴里の方には、今ドラゴンが念話で状況を話している。
「ーーーーそれにしても、今日は寒いな。2月だから当然と言えば当然だろうけど」
「ええ、ええ。でも、こうしていれば温かいですわ」
言って狂三が、さらに身体を密着させてくる。
「・・・・!?」
士道は身体を固くなりそうになる。歩き方がロボットのようになりそうだが、そうはならなかった。
《・・・・・・・・・・・・》
ドラゴンが尻尾を士道の頭に乗せてグリグリとしており、「何を鼻の下を伸ばしそうになってんだ? あぁ? 死にたいのか? 死にたいんだな? ならばいっその事我が直々にその命を閻魔の元に送ってやろうか? お?》と、無言の圧力と殺気か送られ、狂三のトキメクが収まった。
「(改めてだけど、狂三って恐ろしい・・・・)」
それは、幾人もの人間を喰らってきた『最悪の精霊』の異名に違わぬ精霊だ。
しかしそれ以前にーーーー彼女はあまりに可憐だ。
艷やかな黒髪、白く滑らかな肌、それらによって形作られた端整な容姿ーーーーのみならず。ふとした瞬間に香る微かな芳香に、触れれば折れてしまいそうに儚げな指の感触、細かな所作の1つ1つに至る全てが、士道の、否、男という生き物の本能に強烈な刺激を与えてくる。
「うぐ・・・・」
《・・・・落ち着くんだシン。心拍数が上がっている》
それが狂三の魔性とも言える魅力からか、ドラゴンの圧力の恐怖からかは判断がつかないが。
しかし。
「・・・・ふ・・・・っ」
「ひゃふっ(バシンっ!)ぎゃふんっ!!」
不意に狂三が、士道の耳に息を吹きかけてくる。予想外の感触に、士道は思わず息を漏らしてしまい、ドラゴンのド突き(激強)が炸裂した。
「あら、あら」
そんな士道を面白がってか、狂三が心底楽しそうに笑う。
「士道さんたら、お可愛いお声」
「お前な・・・・」
《簡単に手の平の上で踊らされるな。このチョロ雑魚童貞》
「(うるせぇっての!)」
このままではいけないと、士道は一旦仕切り直そうとコホンと咳払いをした。
だが、丁度そのタイミングで、またも狂三がグイと士道を引っ張ってきて、そしてそのまま、いつもと違う方向へと進み出した。
「おい狂三、何処行くんだよ」
「うふふ、始業まではまだ余裕がありますわ。少しだけ寄り道しても良いではありませんの」
「は・・・・? 何を言って・・・・」
言いながら士道は、脳内会議でドラゴンと話し合おうとする。が、インカムから自宅から〈フラクシナス〉に駆けつけた琴里の声が聞こえてくる。
《ーーーーここは狂三の意に沿っておきましょう》
《(コクン)》
ドラゴンも同意するように頷いた事を察した士道は、了解を示すように頷いた。
「・・・・オーケー。たまにはいいだろう。どこか寄りたい所でもあるのか?」
「いえ。ただ、士道さんと少しでも長くいたいだけですわ」
「はは・・・・嬉しい事言ってくれるね」
笑いながらそう言うが、このままでは防戦一方なので、少しでも狂三の余裕を打ち砕く手はないかと考えを巡らせる士道は、口を開いた。
「あそうだ。じゃあ、ちょっと付き合ってくれないか? 1度狂三に見せたい場所があったんだ」
「・・・・へぇ?」
士道の言葉に狂三は、まるで士道の反撃を楽しむように目を細める。
「それは楽しみですわね。うふふ、ではお願いしますわ」
「おう、じゃあ行こうか」
「ええ」
狂三が笑顔で応えてくる。狂三とシッカリ腕を組んだまま道を歩き出す士道。すると次の瞬間、腕にピクリと言う感触が伝わってきた。
「・・・・士道さん、ここは?」
狂三が、目の前に広がる光景を見ながら、微かに震えた声を発してくる。
何しろその路地裏には、様々な種類の猫達が、何匹も集まってきていたのだから。
そう。他の精霊達に比べて情報の少ない精霊である狂三がーーーー動物(特に猫)好きである事だけは分かっていたのだ。
「ああ、少し前に偶然見つけたんだ。この辺の野良猫が良く集まっているスポットみたいでさ。ーーーー狂三、猫好きだろ?」
「べ、別にそんな事はありませんけれど」
少し無理をしている様子でそう言う狂三だが、その顔の頬はほんのり紅く染まっていた。
思いの外いい反応であった。士道は猫達を刺激しないようソロリソロリとソチラに歩み寄っていくと、そのまま膝を折り、丸くなっていた虎猫の背を優しく撫でた。
「ほら、結構人に馴れているみたいだぞ。狂三もどうだ?」
「・・・・! まあ、士道さんがそこまで、そこまで言うなら吝かではありませんけれど」
狂三は、その言葉を待っていましたと言わんばかりに嬉しそうな顔をすると、士道の隣に腰を下ろし、虎猫に手を伸ばしていった。
が、狂三の手が触れる寸座、虎猫が警戒するかのようにピクリと顔を上げると、ソコで狂三が、士道もドラゴンも予想だにしなかった行動に出た。
「大丈夫、怖くないですわよ。にゃー」
なんと、文字通りの猫撫で声でそう言って、指先を猫じゃらしのように小刻みに揺らしだしたのだ。
「・・・・うおっ?」
《ぶふっ・・・・!》
思わず驚愕の表情を作る士道と、吹き出すドラゴン。猫好きなのは知っていたが、まさかあの狂三が、こんなキャラ崩壊レベルの声を発するとは思わなかった。
「にゃー、にゃー」
狂三はそんな2人の反応に気づかぬ様子で、ゆっくりと指先を近づけていく。
が、虎猫はそんな狂三を怪訝そうに見ると、そのまま素早く起き上がり、走り去って言ってしまった。
「あっ・・・・」
狂三が「ガーン!」とショックを受けたような顔をして、虎猫が去っていった方向を見る。
普段はあまり見せないコミカルな表情に、士道は気の毒と思いつつも小さく笑ってしまう。・・・・ドラゴンは爆笑していたが。
「・・・・っ!///」
するとそれに気づいた狂三が、ハッと恥ずかしそうに息を詰まらせてくる。
「な、何がおかしいんですの、士道さん」
「いや・・・・はは、すまん。別に悪気があった訳じゃなんだが・・・・」
士道が口元を綻ばせながら言うと、狂三が不満そうに唇を尖らせた。
そんな表情も非常に可愛らしいのだけれど、狂三を不機嫌にしてしまうなは本意ではない。士道は未だ地面に丸まっている別の猫を指さした。
「ほら、他の猫もまだいるし、撫でてみたらどうだ?」
「良いですわ、別に、ソコまで撫でたかった訳ではありませんし。どうせまた逃げられるのが落ちですわ」
ツン、とヘソを曲げてしまったように狂三が言う。士道は苦笑しながら狂三を宥めた。
「そんな事言わずに、ホラホラ。今度は大丈夫だって。にゃー」
「・・・・!///」
士道は先程の狂三を真似るようにそう言うと、狂三はカァっと頬を赤くし、恨めしそうに士道を見た後、何かを思いついたように目を細める。
「・・・・そう、ですわねぇ。ではーーーー」
「うひゃっ!?」
狂三はそう言うと、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、士道の喉元をくすぐってきた。
「うふふ、本当ですわ。今度の子は大人しいですわね」
「お、お前なぁ・・・・」
突然の攻撃に、士道が頬を赤くしながら返すと、狂三はウフフと笑いながら今度は頭を撫でてきた。
「うふふ、いい子ですわね。ほうら、先ほどのように鳴いて下さいまし。にゃー」
「・・・・うぐ。にゃ、にゃあ」
《・・・・・・・・・・・・後でしばく》
今度は大丈夫、と言ってしまった手前、手を払いのける事もできない。士道は後でドラゴンにシバカれるのを覚悟で、やたらと楽しそうな狂三の愛撫を受け入れるのであった。
◇
それから20分後。始業のチャイムが鳴る寸前に士道と狂三は学校に到着した。
「シドー!」
「士道」
教室へと入るなり、先に到着していた十香に折紙が少し慌てた様子で声を上げてくる。士道は小さく手を上げながらそれに返した。
「おお、十香、折紙。おはよう」
「うむ、おはようだ。・・・・ではなく、大丈夫かシドー、心配したのだぞ!」
いつも一緒に登校していたからか、士道が今朝いなかった事を気にして、十香が眉根を寄せながら言ってくる。狂三と一緒にいるなんて知れば、先日のように屋上の扉に張り付いていたように(ドラゴンからの情報)後を付けてくると思ったからだ。
しかし。士道がそれを詫びようとすると、それより早く折紙が口を開いてきた。
「今朝、2丁目の交差点で交通事故があった。登校が遅いから、それに巻き込まれてしまったのではないかと心配した」
「え・・・・?」
その交差点は、士道が毎朝通っている通学路だが、今その話を聞くまで事故があった事など全く知らなかった。
《(小僧が通った後に事故が起こった訳ではない。小僧は今日はーーーー)》
「ーーーーうふふ、おはようございます、十香さん、折紙さん」
その瞬間、士道の後方から狂三の声が響き、2人の顔に警戒の色に染まる。
「むう・・・・狂三」
「やはり、あなたの仕業」
「仕業、とは人聞きが悪いですわね。わたくしはただ、士道さんと一緒に学校に来ただけですわよ? 何か問題がございまして?」
2人の穏やかならぬ視線を、狂三は飄々とした様子で返す。周りのクラスメート達は修羅場とヒソヒソと話していた。
「さ、そろそろ先生がいらっしゃいますわ。うふふーーーー今日も1日、楽しみですわね、士道さん」
可愛らしい仕草でそう言って、狂三が自分の席へと歩いていく。
「・・・・・・・・」
士道は無言で、その背を見送った。別段それだけなのだが、ゆっくりと歩く狂三の背中に、士道は何となく不思議な雰囲気を感じてしまったのだ。
ーーーーバシンッ!
「んごっ!?」
《鼻の下を伸ばしているでないわ。このチョロ河チョロ道》
「〜〜〜〜!! 分かってるよ。十香、折紙、席に着こう」
いって、机の上に鞄を置く。
暫しの間不思議そうに首を傾げていたが、教室に先生が入ってくると、大人しく自分の席へと戻った。
ー狂三sideー
「クスクスクスクス」
「クスクスクスクス」
「如何でして、『わたくし』」
「ええ、ええ。こちらは『予定』の通りに」
「193番目の『わたくし』は」
「連絡は途絶えましたわ」
「恐らく、もう」
「あら、あら」
「238番目の『わたくし』も」
「そちらも」
「先ほど」
「あら、あら、あら」
「悲しいですわね」
「哀しいですわね」
「無情ですわ」
「無常ですわ」
「ああ、ああ、でも」
「ええ、ええ、足を止めている暇はございませんわ」
「そろそろ次の『予定』の時間ですわね」
「では、行って参りますわ」
「ええ、ええ」
「いってらっしゃいませ、『わたくし』」
「またいつか、お会い致しましょう」
「ええ、ええ」
「いつか黄泉路で」
「いつか地の獄で」
ードラゴンsideー
《・・・・・・・・・・・・・・・・》
その日の夜、ドラゴンは士道のアンダーワールドの中で瞑目していた。
昼休みにて、士道と狂三がそれぞれのお弁当を見せ合い、食べさせ合いを始めて、何やらお互いのお弁当の出来や味で戦う凄まじい雰囲気を漂わせていたりしていた(同席していた十香、折紙、耶俱矢と夕弦曰く、達人同士の決闘との事)。
その際、狂三が士道の頬にご飯が付いていると嘯きながらキスをして、士道がドキドキさせた(勿論即尻尾ド突きをおみまいした)。お陰で狂三の感情値も士道の感情値も揺れっぱなしであった。しかし、ドラゴンから見ても、狂三と士道のデレさせ合いは狂三が圧倒的に優勢にしか見えない。士道の姿はまるで、余裕たっぷりな歳上のお姉さんを必死に口説こうとしているお子様ボウヤにしか見えない。
そして、狂三から次の水曜日、恋人達の最大のイベント『バレンタインデー』に勝負を決すると宣言され、今琴里達が対策会議の準備を進めている。
《・・・・・・・・・・・・・・・・》
ドラゴンは今日1日の狂三の行動を見ながら、その思惑と目的に思案を巡らせていた。
折紙からは、まだ推測の域を出ていないから、深読みは危険と言われていたが、ドラゴンには思い当たる節が多々あった。
ーーーー狂三は士道の体内にある十香達の霊力、ドラゴンが生成した魔力と霊力の混合エネルギーを狙っている。
ーーーー士道とドラゴン、それと折紙が実際に体験した、過去に戻る事ができる弾、【12の弾<ユッド・ベート>】の存在。
ーーーー5年前の過去に行った際に狂三が発した、【過去をやり直す事のできる可能性と言うものは、人を狂わせる美酒にして毒杯】という意味深な言葉。
ーーーー二亜の天使、全知の天使〈囁告篇帙‹ラジエル›〉から知った、『始原の精霊〈ファントム〉を殺す方法』。
まだこれだけのピースだけでは推測の域を出られるかは分からないが、ドラゴンはここから1つの仮説を生み出した。
『まさか、〈ナイトメア〉は、過去をーーーー』
ー琴里sideー
「ーーーー良く集まってくれたわね、皆」
そしてその夜、精霊マンションの1室で、琴里が皆を見渡しながらそう言った。
何故か部屋の照明は暗く設定されており、テーブルの上にのみスポットライトのように明かりが灯されている。
そんな中、琴里はテーブルに肘を突き、指を組み合わせるというまるで何処かの特務機関の司令のようなポーズを取っており、琴里の司令官度がいつもより増している気がする。
部屋の中には既に、十香、折紙、四糸乃、耶俱矢、夕弦、美九、七罪、二亜、六喰という精霊オールスターズが勢揃いしている。皆円卓に着き、頬杖を突いたり伸びをしたりと思い思いの姿勢を取っていた。
「ふむん、一体何の用なのじゃ。こんな時間に・・・・」
六喰がふぁあ・・・・と可愛く欠伸をしながら問う。現在の時間は午前0時。良い子はとっくに夢の世界にいる時間だ。六喰以外にも数名、眠そうにしている者の姿があった。・・・・まあ、何故か昼間よりも元気そうな二亜のような例外もいるのたが。
琴里は小さく頷くと、
六喰の問いに答えるように言葉を続けた。
「状況は既に説明した通りよ。ーーーー今日の昼、時崎狂三が士道をデートに誘った。2月14日、『バレンタインデー』に」
それを聞いて、十香は腕組みしながら首を傾げた。
「むう、そもそもその『バレンタインデー』というのは何なのだ?」
「ああ・・・・ゴメンゴメン。そう言えばそれを説明していなかったっけ。えっと、『バレンタインデー』って言うのは・・・・」
と、琴里が説明しようとした処で、二亜が乱入してきた。
「それはねぇ・・・・恋人達の守護聖人と呼ばれる聖ヴァレンティヌスが、惨たらしく処刑された日の事だよー!」
「な・・・・っ!?」
「こ、怖い日・・・・なんですか?」
十香と四糸乃が驚いた顔をする。琴里は二亜の頭をペシ、とはたいた。
「起源としては間違ってないけど、言い方!」
「えっへっへっへ、ゴメンゴメン。まーあれよ。そのヴァレンティヌスにちなんで、女の人が男の人に贈り物をする日、みたいに思えばいいよ」
「ふむ、贈り物とな」
「質問。何を贈れば良いのですか?」
八舞姉妹が左右対称に首を傾げて言う。
「そうね・・・・別にコレじゃなきゃ駄目って決まりはないでしょうけど、日本ではチョコレートが一般的ね」
「ほう!」
琴里の言葉に、十香は目をキラキラと輝かせた。
「チョコレートを贈る・・・・か。そんな素敵な日があったんだな!」
「・・・・いや、十香。喜んでるトコあれだけど、女から男に、だからね。アンタあげる側だからね?」
十香が手をブンブン振りながら興奮していると、七罪が半眼でそう言ってきた。
「む? うぬ、分かっているぞ。・・・・ぬ? そうか、私は食べられないのか。いや・・・・うむ、大丈夫・・・・シドーに贈り物が出来るのは嬉しいぞ・・・・」
「目に見えてテンション下げ下げじゃないの・・・・」
七罪が頬に汗を垂らしながら言う。琴里がやれやれだわと息を吐きながら肩を竦めた。
「大丈夫よ、十香。最近は『友チョコ』って言うのも流行ってるし・・・・何より、来月の14日には『ホワイトデー』があるわ。これは、バレンタインデーにチョコを貰った男子が、チョコをくれた女の子にお返しする日よ」
「お、おお・・・・!」
神託を受けた聖職者のような調子で琴里を見る十香。その様子に、周りの皆が微笑ましげに苦笑する。
そんな中、美九が可愛らしい仕草で顎に指を触れさせながら言う。
「えっと、琴里さん。それがどうしたんですかー? 確かにだーりんとバレンタインデーなんて妬けちゃいますけどぉ・・・・」
すると琴里が、コクリと頷きながらそれに返した。
「狂三は、その日のデートで勝負を決めるつもりと言っていたわ。それに負けてしまったなら、士道はドラゴンごと霊力と命を奪われる事になる。となれば、黙って見ている事はできないわ」
「・・・・でも、いくらチョロい士道でも、自分の命が掛かってるっていうのに負けを認めたりするとは思えないけど・・・・もしそうなりそうだったらドラゴンが物理的に修正するだろうし・・・・」
「私もそう思うわ。でも、あの狂三が何の勝算もなくこんな話を持ち出すとも思えないのも事実。用心しておくに越した事は無いでしょ」
「質問。用心とは具体的に何をすれば良いのでしょう」
夕弦が手を挙げ質問すると、琴里は首肯しながら指を2本立てた。
「大きく分けて方針は2つ。1つは、私達も士道にチョコを贈る事」
「妥当な手段。元々チョコは贈るつもりだった」
「そーねー。つかアタシが男でも、チョコくれたながくるみん1人だけだった、とかなったら正直キュンときちゃうもん」
二亜が冗談めかすように肩を竦める。すると琴里も、その気持ちは分からなくもないといった様子で苦笑した。
「とは言え、それはあくまで14日の話。チョコを作るにしても、当日までに用意があれば問題ないわ。ーーーーどちらかと言うと、問題はここからよ。その前までに可能な限り、士道に耐性を付けておきたいの」
「耐性・・・・?」
十香は腕組みしながら首を傾げた。琴里が補足をするように続けてくる。
「そう。本番で狂三に籠絡されないように、前もって『免疫』を付けて置くって事」
「ふむん。しかしその『免疫』とやら、何に対してのものなのじゃ?」
六喰が問うと、琴里は指を1本ビシッと立てながら言った。
「ズバリーーーー『大人の魅力』よ」
『・・・・ッ!?』
琴里の言葉に、精霊達はザワ・・・・ザワ・・・・と、ざわめいた。