デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー琴里sideー
朝の五河家の騒動から数時間後。
元の姿に戻った琴里達は、天宮市大通りにある製菓材料専門店にやってきた。
因みに士道はドラゴンの監視の元、〈ラタトスク〉が用意した年上お姉さんのヒロインばかりのギャルゲーで、耐性を付ける訓練をさせられていた。士道本人は文句を言っていたが、浮遊カメラとプラモンスターズがスマホで記録していた今朝の醜態の数々を見せられてグウの音が出なくなる程に黙らせた。
さて、琴里は皆を見渡しながら、腰に手を当て、声を発する。
「はい、注目。えー、第1次士道訓練は、皆のお陰で一定乃成果を挙げる事ができたわ」
「ホントかにゃあ。大体令音っちのお手柄だった気がするんだけど」
「やっぱり私達も参加しておいた方が良かったですよねー」
「うおっほん!」
二亜と美九がヒソヒソと話を始めたが、琴里は聞こえているぞ、と言わんばかりに、わざとらしく咳払いをした。
「と言う訳で、次の作戦に移ろうと思うわ」
そう。琴里達が訪れた理由はーーーーバレンタイデーに士道に贈るチョコの制作だ。
「各自好きな材料を探して見て、最低限必要な物はさっき説明したけど、もし何を買えば言のか分からない場合は、私か令音に聞いて頂戴。いい?」
「うむ!」
「はい・・・・!」
「了解」
精霊達が思い思いの返事をして、店の中へと散開していく。
「さて、じゃあ私達も行きましょうか」
「・・・・ああ、そうだね」
琴里が言うと、隣に立った令音がそう返してきた。
今の令音の服装は、上品な色合いのチュニックに身を包み、ポケットから顔を覗かせるツギハギだらけのクマのぬいぐるみが、何だかやけにシュールである。
令音が五河家に訪れたのは、元々琴里が、チョコの材料選定及び製作監督を頼んでいたのだ。
「さてと、じゃあ先ずはベースになるチョコから・・・・っと」
呟きながら、琴里は令音を伴って奥のエリアへと歩いていった。
店としてもバレンタインデーは書き入れ時の為か、大きな陳列棚に、何種類ものチョコレートが並べられており、ソコにポップや手作りチョコのレシピ等が飾られていた。
「へぇ、結構種類があるのね」
いずれも、既製品ては異なり、透明な包装が施され、成分表等が記されただけの簡素なパッケージである。それぞれカカオ豆の産地や配合比率が異なっているらしく、遠くから見ると綺麗なグラデーションになっていた。
そしてその棚の前に、十香、四糸乃、七罪、耶俱矢、六喰が、真剣そうな眼差しで、並んだチョコとにらめっこをしていた。
「どう、皆。良さそうなのはあった?」
琴里が声をかけると、十香達がクルリと振り向いてくる。
「おお、琴里。むう・・・・どれも美味しそうなのだが、沢山あり過ぎてな」
「はい・・・・どれが良いのか迷います」
「・・・・ね。ちょっと甘く見てたわ」
「ふむん。妹御。このベネズエラ産とコロンビア産のカカオというのは、一体何が違うのじゃ?」
「え・・・・っ?」
六喰に問われ、琴里は頬に汗を垂らした。
偉そうに【手作りでしょ】等と言ったが、琴里のチョコ作りの経験等、昔母に手伝って貰いながら市販の手作りキットで不格好な物を仕上げた事くらいだ。産地による細かな風味の違い等説明できる筈がない。
とは言え、【分からない事があったら聞いて】、と言ってしまった手前、分かりませんとも答えられない。琴里は答えを窮し、目を泳がせた。
「え、えーと・・・・それはあれよ」
と、そこで、そんな琴里の懊悩を察したように、ポンと手が肩を叩かれる。ーーーー令音である。
「令音・・・・?」
「・・・・ん」
令音が任せろ、と言うように頷くと、皆の方に視線を向け、カカオに関する説明をするが、十香達は分からないという顔をしていた。が、令音は分かりやすく説明した。
「・・・・どちらかと言うと、それらの区分よりも、カカオやミルクの配合比率を見た方が分かりやすいだろう。基本的に、色が濃い方が苦く、薄い方が甘いと考えれば間違いない」
「おお! 成る程!」
十香はポンと手を叩くと、再び陳列棚の方を向き、四糸乃、七罪、六喰もそれに続き、チョコを物色し始める。
「悪いわね、助かったわ」
「・・・・構わないさ」
琴里が言うと、令音はそう返しながら琴里の方に視線を向けた。
「・・・・それより、琴里は一体どんなチョコを作るつもりなんだい?」
「うーん・・・・正直まだ迷ってるのよね。ただチョコを溶かして型に流すだけじゃ芸が無いけど、あんまり凝った物だと失敗しそうだし・・・・」
「・・・・ふむ。別にソコまで難しく考える必要もないと思うがね。固めた後に、ホワイトチョコレート等でデコレーションすれば個性は十分に出るだろう。陳腐な表現になるが、大事なのは気持ちさ」
「うーん・・・・そう言うものかしら」
「・・・・ああ。では聞くが、君達がチョコレートを贈ろうとしている相手は、作業手順が簡単だからと言って難色を示すような男なのかな?」
「・・・・!」
言われて、琴里は目を丸くした。
次いで、ハハッと言う笑いが口から漏れる。
「それもそうね。確かにちょっと、難しく考え過ぎてたみたい」
琴里は肩を竦めながらそう言った。確かに士道であれば、どんなチョコでも喜んで受け取ってくれる気がした。
「ありがと、令音」
「・・・・ああ」
琴里は令音に礼を言うと、十香達と共に棚を物色して、その中から甘味のバランスが良さそうなミルクチョコレートを選び、買い物カゴに入れた。
そして今度は、隣のペン状になったチョコや、小さなハート形をした砂糖菓子等、お菓子のデコレーションに使う材料!ズラリと並んだエリアに目を向ける。
先にソコを見ていた八舞姉妹が、銀色に光るアラザンや食用の金箔等を手に取り目を輝かせていた。
「おお・・・・えっ、ウソ、これ食べられるの? 包装紙とかじゃなくて?」
「確認。パッケージに食用と書いてあります」
「マジで・・・・? く、くく・・・・これさえあれば、我が燐光の十字架‹クロイツ›を現世に顕現させる事さえ可能・・・・」
耶俱矢が金箔を手にしながら悪そうな笑みを浮かべる。と、そんな光景に琴里が苦笑していると、横から美九と二亜と言った『問題児精霊トリオ』の2人が話しかけてくる。
「琴里さん、令音さん、私作りたいチョコがあるんですけど、どういう材料集めたら良いですかねー?」
「あ、アタシもアタシもー。困った事に料理とは縁が無くてねぇ」
「どんな物が作りたいの?」
嫌〜な予感しかしない琴里が聞き返すと、美九と二亜がジェスチャーをしながら言葉を続ける。
「えっとですねぇ、こう、常温でもトロトロしていて固まらない物が作りんですけどぉ・・・・あ、でも完全な液体じゃない感じでー。具体的には私の身体に塗れる位の粘度が欲しいんですどぉー」
「アタシはね、あれ、1粒食べたら少年の股間の紳士が、ブルァアア! ベリーメロン! って感じになっちゃうようなヤツ作りたいんだけど、何入れれば良いかな? やっぱスッポン?」
「そんなの作ったらドラゴンに問答無用でオシオキしてもらうからね!」
2人に一喝してから、ハアと大きな溜め息を吐いた。
美九と二亜は一応精霊達の年長者なのだが、四糸乃達よりも小さな子供を相手にしている気がする。
と。
「・・・・ん?」
ソコである事に気づき、琴里は不意に辺りを見回した。
チョコレートの棚に、デコレーション材料の棚。そのどちらにも見受けられない"1番の問題児である精霊の姿があったからだ"。
「・・・・あれ。どこ行ったのかしら、折紙」
もう買う物を購入したのだろうかと、店の入り口付近を見やると、姿が見えなかった折紙が、琴里達のいる店の向かいにあるホームセンターから出てきたのが見えた。
「・・・・え?」
琴里が訝しげに眉をひそめていると、両手に買い物袋を抱えた折紙が製菓材料専門店の中へと戻ってくる。
「折紙、え、どこ行ってたの? チョコ作りって分かってるわよね?」
「勿論。必要な物を調達してきた」
自信ありげにそう言って、折紙が買い物袋を示したので覗き込むと、何やら円筒形の容器が沢山詰まっていた。
「・・・・何これ?」
「シリコン」
「・・・・・・・・何に使うの?」
「型取り」
「・・・・・・・・・・・・何の?」
「私」
微塵も迷いなく答える折紙に、琴里は察した。ーーーー要は折紙は、1分の1スケールの折紙型のチョコを作ろうと言うのである。
琴里は、先ほどよりも更に大きな溜め息を吐いた。
「・・・・いや、やめときなさいって。いくら寛容な士道や身内の精霊には優しいドラゴンでもドン引きするわよ、流石に」
「でも、時崎狂三に対抗する為にはこれしかない」
至極真面目な顔で言う折紙。・・・・表情を見るに、心からそう思っているようだ。
聡明な少女の筈なのに、何故こんな考えに至ってしまうのか、まるで『告白したら負け』という、しょうもない理屈から相手に告白させようと、くだらない茶番劇な頭脳戦を繰り広げる(残念な)天才達のようだ。
と、ソコでまたも令音が、任せろ、というように前に出た。
「・・・・成る程、スゴイ物を考えたね、折紙。・・・・たが、1つ問題があるのではないかな」
「問題?」
「・・・・量さ。人間の体積というのは想像を絶する程の量になる。だが心優しいシンは、君からの贈り物を粗末にする事を望まないだろう。結果、彼は賞味期限内に、明らかに過剰な糖質を摂取する事になってしまう」
「・・・・・・・・!」
令音の言葉に、折紙は目を見開く。
「考えが至らなかった。恥ずかしい」
「・・・・それも君がシンを思うがゆえさ。今度は、シンの健康を視野に入れたプランにするといい」
言われて、折紙はコクリと頷いた。
「そうする。クオリティを保ったままのダウンサイジングは手作業では困難。至急3Dプリンターを用意しなければ」
「・・・・・・・・」
折紙が決意に満ちた眼差しで、グッと拳を握ってみせる。それを見ながら、令音は何とも言い難い表情でポリポリと頬を掻いた。
琴里は溜め息を吐きながら、令音の肩にポンと手を置く。
「・・・・折角の休みだって言うのに、世話かけるわね、令音。・・・・手当に色を付けておくから勘弁してちょうだい」
「・・・・いや、構わないさ。元より買い物には出るつもりだったしね。折角だから私の分の材料もここで買わせてもらう事にしよう」
令音がいつもの眠たげな調子で言う予想外の返答に、琴里は目を丸くした。
「令音もチョコ作るの? え、誰にあげるのよ」
「・・・・ん? まあ、日頃世話になっている皆にね。〈フラクシナス〉のクルーや学校の同僚に・・・・シンにも用意しようと思うが、流石に精霊達の物で手一杯かな?」
顎に手を当て思案を巡らせるようにしながら令音が言う。
琴里は、ハァ、と小さく肩をすくめた。
「なぁんだ、そういうやつか。てっきり、令音に良い人でもできたのかと思っちゃった」
「・・・・ご期待に沿えなくてすまないが、ここのところ、そう言った話にはあまり縁が無くてね」
そう言って令音が、フウと息を吐いてみせる。
琴音は視線を上にやると、改めて令音の容貌を見回した。
スラリと伸びた手足と括れた腰回り、それとは不釣り合いなくらい豊満なバストと形も綺麗でハリのあるヒップ。目元に蓄えられた分厚い隈は少々不健康そうではあるが、それを補って余りあるくらいに美しい顔立ち。
頭もよく、あらゆる事をそつなくこなし、歳の離れた琴里をウッドマン卿以外の〈円卓会議‹ラウンズ›〉の馬鹿共のように見下すでも、神無月のようにウザったく崇敬し過ぎない。顕現装置‹リアライザ›操作能力が必要なければ、今すぐにでも神無月を〈フラクシナス〉から追い出して副司令にしたい位の、心地よい友人関係を築いてくれる度量を持った大人の女性。
琴音が、憧れの女性を挙げろ、と言われたなら、間違いなく上位に食い込むだろう逸材だ。世の男性も放っておかないだろうに、何故か令音からはそう言った色恋話を聞かない。
「ここのところ・・・・ね」
「・・・・ん?」
琴里が令音の言葉を復唱すると、令音は首を傾げながら琴里の方を向けてきた。
「そう言えば、あんまり令音からそう言う話を聞いた事無かったなぁって。やっぱ昔はいたの? ほらーーーー恋人とかさ」
「・・・・・・・・ふむ」
琴里が好奇心に目を輝かせながら言うと、令音は少し困ったように頭を掻いた。
いつもはあまり見せない反応に、琴里は何だか楽しくなってきてしまって、口元をニマニマさせながら令音の脇腹をツンツンとつついた。
気づくと、他の精霊達も聞き耳を立てていたのは、やはり年頃の女の子だと思うが、十香のように皆が集まっているから来てみた、という顔の者も1部いるが。
「良いじゃない、減るもんじゃなし。ホラホラ、白状しなさいって」
琴里が皆の言葉を代弁するように楽しげな調子で言うと、令音は諦めたようにフウと息を吐いた。
「・・・・ん、まあ、そうだね。いたよ。ーーーー1人だけ、ね」
『ほぉー』
そしてどこか物憂れげな調子で遠くを見ながら、溢すように告げる。精霊達が興味深げに声を発した。
「へえ、そうなんだ。令音ならもっとモテたんじゃないの?」
「そうそう。やる事やってんでしょうぉー? ここは合コン会場じゃないんだしカマトトぶらなくて良いんだぜー? 言っちゃいな〜♪ 言っちゃいな〜♪ ちゃいな〜チャイナ♪ フカヒレスープ〜♪」
「ですですぅー。私が男の人だったら、令音さんに花束持って口説きに行きますよー」
「・・・・さて。どうかな。皆が思う程、私は異性に興味を持たれる方ではないよ」
「はいはい」
「・・・・いや、令音くらいの美女が異性に興味持たれないって、ソイツら女を見る目が無いのか、ブス専なのか、ホモなのかと疑うわよ・・・・」
令音の誤魔化しのような謙遜を琴里はいなし、七罪が半眼でツッコムと、琴里は言葉を続ける。
「まあいいわ。それより、その恋人ってどんな人だったの? 令音が好きになるくらいだから、良い人だったんでしょう?」
「・・・・そうだね。優しい人・・・・だったよ。とても、優しい人だった」
反芻するように繰り返し、令音がフッと目を閉じる。
「・・・・恐らく後にも先にも、私の中で彼を超える人は現れないだろう。私の最初の恋人で、きっと最後の恋人さ」
「・・・・・・・・・・・・」
哀愁に満ちたその言葉は、琴里の問いかけを数瞬の間中断させた。するとそれと入れ違いになるように、耶俱矢が不思議そうに首を傾げる。
「・・・・え、じゃあ何で別れたの? 何か今でも好きみたいに聞こえ(ドシュっ)ズゴックっ!?」
「ーーーーこら」
「阻止。耶俱矢、デリカシーがないです」
琴里が短く言うのと同時に、夕弦が耶俱矢の脇腹に肘鉄をおみまいしてその言葉に黙らせる。
「えっーーーーあっ・・・・」
耶俱矢も漸くソコで察したらしく、申し訳なさそうに視線を逸す。
ーーーー令音の口ぶりから言って、それは『過去』の話だろう。だけれども令音は、今もなおその彼を想い続けている。
離れ離れになったのか、別の女性と結ばれたのか、それとも故人になったのか、興味が湧かないと言えば嘘になる。が、無理に探るのは無粋に過ぎる。琴里は細く息を吐くと、1言、胸の裡に湧き上がった言葉を溢した。
「素敵」
その言葉に、令音は少し驚いたように目を開く。
「・・・・そうかな」
「ええ。あなたにソコまで想われるだなんて、その人は幸せ者ね」
琴里が言うと、精霊達も同意するようにコクコクと頷いた。
「はい・・・・とても、素敵だと思います」
「首肯。令音にそんな甘酸っぱい過去があったとは驚きです」
「ねー。現実は漫画より奇なりってねー。どうしてもそう云うのって、捜索はリアルに及ばないトコ在るんだよねぇ。現実は伏線とか展開とか気にせず襲ってくるしー」
「うふふ・・・・本当に、美しいお話ですわね。少し、羨ましいですわ」
「ーーーん?」
と。
皆が口々に言う中、何処かで聞いた事のある声が交ざってきて、琴里は微かに眉を揺らし、その声の主を記憶からサルベージする事3秒。琴里は瞬時に身体を緊張させると、バッと振り返った。
「狂三・・・・!?」
「な・・・・!」
「ーーーーっ」
琴里の声に弾かれ、或いは琴里に先んじて他の精霊達も気づいた。ソコには、最悪の精霊〈ナイトメア〉こと、時崎狂三が立っており、全員が表情を詳しくして、『スピリッドライバー』を取り出そうと懐に手を突っ込み、二亜はコッソリ、令音の背中に隠れようとする。
しかし狂三は、そんな反応を目にしても別段慌てた様子もなく、ただ可笑しそうに微笑むのみだった。
「あら、あら。いかが致しましたの、皆さん」
「・・・・、いえ、急に声をかけられて驚いただけよ」
琴里はフンと鼻を鳴らしながら居住まいを正すと、不敵な調子を漂わせながらそう返した。
改めて見やると、狂三はその身に霊装を纏っておらず、代わりに可愛らしいモノトーンのコートを着ていた。見た限りでは、臨戦態勢という様子ではない。ーーーーあくまで、見た限りでは、だが。
「それで、狂三。あなたこそ一体どうしたのかしら。私達に何か用?」
琴里が腕組みしながら問うと、狂三は思い出したようにポンと手を打った。
「ああ、そうですわ。わたくし、お買い物に来ましたの」
「買い物・・・・?」
「ええ、ええ。ーーーー士道さんに贈るチョコレートの材料を揃えようと思いまして」
『・・・・!』
狂三の言葉に、精霊達が微かにざわめく。
予想通り、決戦を2月14日に設定したのは、『バレンタインデー』というイベントを味方に付ける為だった。
するとソコで、狂三が何かに気づいたように目をパチクリとさせていた。
「もしかして、皆さんもチョコレートの材料を買いに?」
「・・・・まあね。良くわかったじゃない」
「うふふ、それはそうですわ。この時期に製菓材料店に来るとなれば、目的は限られてまいりますし。それに皆さんの買い物カゴの中身を見れば一目瞭然ーーーー」
と。皆を順繰りに眺めていた狂三が折紙の手元を見た所で言葉を止め、数瞬思考が停止した後、何やら不思議そうな顔をする。・・・・まあ、当然とも言える程無理からぬ事ではある。
「・・・・チョコ作り、ですわよね?」
「・・・・一応そのつもりよ」
琴里も返答にかなり困ったが一応肯定し、狂三はしばしの間疑問符を浮かべていたが、その内気を取り直すように小さく咳払いをして、頭を上げてきた。
「なら、わたくしから1つ、提案があるのですけれど」
「提案・・・・?」
狂三の言葉に、琴里は訝しげな表情を作った。
ードラゴンsideー
思念体になり、精霊達の様子に耳を傾けているドラゴン。
現在、彼は士道の部屋で、中津川が用意した『あなたと繋がる物語』というフレーズのゲームで、サキュバス女教師、母性溢れるエルフのお姉さん、ダウナーな女闇医師、姉御感溢れる女侍、男前な女騎士、意味深な笑みのドラゴンお姉さんのヒロイン達を攻略しようとしてドギマギし、その度にブザーが鳴らしている士道に尻尾ド突きでオシオキするという特訓の最中であった。
《・・・・・・・・・・・・》
ドラゴンは、令音の恋バナを聞いてから、何やら物思いに耽るように黙り、自分の胸元に手を置いていた。
《(まだ眠っていろ・・・・)》
妙に高鳴っていた胸の鼓動が、徐々に静かになっていく。
ドラゴンはホッと安心したように息を吐いた。
ーグレムリンsideー
そしてここは、五河家から離れ、ドラゴンの感知範囲からギリギリ離れた地点の森の中。
ソコに、士道に奇襲を仕掛けようとしていたグレムリンが、戦力として連れてきていたグールとインプのーーーー屍を眺めながら、死屍累々の中心に立ちこの惨状を作った人物、〈ナイトメア〉を見ていた。
『うわ~、物の見事に全滅♪ 流石は最悪の精霊と呼ばれている狂三ちゃんだね☆』
「あら、あら。随分と落ち着いてらっしゃるのですわね?」
『僕としては、こんな形で士道くんに消えられるのは本意じゃないしねぇ〜。寧ろ来てくれてありがとう、狂三ちゃん♪ 例えーーーー"分身体"でも嬉しいよ☆』
そう。ここにいる狂三は本体ではなく、分身体である。その証拠に、目の前の狂三の他に、周りの木々の影に隠れている時計の眼が、幾つもグレムリンに向けられていた。
「きひひ、ひひ。流石に『魔獣ファントム』の幹部をわたくし1人で相手するのは分が悪いので、わたくし見ての通りーーーーか弱い乙女ですので」
『そうだねぇ。僕としても嬉しいよ。・・・・前々からーーーー狂三ちゃんには興味があったから♪』
グレムリンがハサミの刃を取り出すと、嬉々として狂三に標的を定めた。
それを見た狂三は淑やかな笑みを浮かべながらも、その視線を僅かに鋭くなる。
「・・・・・・・・わたくし、知っていますわよグレムリンさん。ーーーーあなたの正体を」
『アハッ☆ 流石に情報通だね♪ で・も・僕の事は、『ソラ』って呼んで欲しい、なぁ!!』
グレムリンが加速すると、狂三達も〈刻々帝‹ザフキエル›〉の【一の弾<アレフ>】を使って加速し、森の中で激しい高速戦を繰り広げるのであった。
令音のこの『恋』が、まさか絶賛進行中とは・・・・。