デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
琴里達からチョコを貰ってから20分後。身支度を整え、皆に見送られながら家を出ると、門の前に十香の姿があった。
「! おお、シドー! ドラゴン! おはようだ!」
士道に気づくなり、十香が元気よく手を振ってくる。
《おはよう十香。今日も元気ハツラツな眩しい笑顔だな》
「ああ、おはよう、十香。何だ、待たせちゃったか?」
「いや、そんな事は無いぞ! さっき来たばかりだ!」
言いながら、十香はズズッと鼻を啜った。よく見ると、ほんのりと鼻の頭が赤くなっている気がする。
《・・・・随分と長い時間待たせてしまったようだな》
2月の中旬は冬のピークと呼べる時期の朝早くだ。そんな寒い時間帯から待っていたようだ。
しかし十香は全く気にしていない様子で、手にしていた紙袋から綺麗にラッピングされた箱を取り出し、十香にズイと差し出してきた。
「シドー! ハッピーバレンタインだ!」
そしてそう言い、太陽のような眩しい笑顔を向けてくる。
「お、おう」
既に琴里達にチョコを貰っている訳ではあるし、予想も覚悟もできていた筈なのだが、やはりこうして贈り物をされると嬉しいし、少し照れる。士道はほんのりと頬を赤くしながらソレを受け取った。
「ありがとうな、十香」
《ありがたくいただかせてもらうぞ》
「うむ! 自信作だ!」
十香が頷き、キラメーイとして目で士道を見てくる。明らかにチョコの感想を待っている顔だった。
《早く我を出せ》
「はは・・・・」
[トラゴライズ プリーズ!]
ドラゴンの思念体が出ると、包装をを解く。士道も、少々お行儀が悪いが、仕方ないと思い、包装を解いて箱を開けてみる。
中には、黄色い粉がまぶされたトリュフチョコが幾つも並んでいた。仄かに香る匂い。
これはーーーー。
「あ、もしかして、きな粉か?」
「おお! 良く分かったな!」
『ほぉ、きな粉トリュフとは凝っているな』
十香がパチパチと拍手する。成る程、ある意味この上なく十香らしい1品だ。
士道とドラゴンはチョコを1粒摘むと、ヒョイッと口に放り込んだ。優しいガナッシュの甘味と香ばしいきな粉が口の中に混ざり合う。誰の手解きを受けたのか分からないが、非常に良い出来である。
「うん、美味い! やるじゃないか、十香ーーーー」
と、ソコで士道は言葉を止め、ドラゴンも苦笑した。
十香が、物凄く物欲しそうな顔をして士道とドラゴンを見ていたからだ。
「・・・・十香も食べるか?」
「! い、いや、大丈夫だ。それはシドー達にあげた物だからな!」
「そうか。じゃあ、俺達が十香にあげる分には問題無いよな?」
士道が言うと、士道は目をまん丸に見開いた。
「む!? そ、それは・・・・そうだな」
「じゃあ、ほら」
『ほれ、十香』
士道とドラゴンは十香の口にヒョイとチョコを放り込んだ。
すると十香がピンと背筋を伸ばし、次いで蕩けるような表情をした。
「あむ・・・・う、美味い! シェフを呼べ!」
『「いや、お前だろ」』
「はっ! そうか!」
士道とドラゴンが苦笑しながら言うと、十香が驚いたような顔をした。
ここで全て食べきってしまう訳にもいかないので、残りは後で堪能させてもらおうと、箱は丁寧に鞄にしまい込んだ。
「さ、じゃあ行くか。ーーーーっと、そう言えば今日は狂三はいないんだな」
「む? おお、言われてみればそうだな」
十香がキョロキョロと辺りを見回しながら言う。士道はフムで顎に手を当てた。
今日は決戦の日。恐らく放課後に重きを置いているのだろう。
「ーーーーよし!」
『ふん』
士道は気合いを入れるように拳を握ると、ドラゴンは士道の体内に戻り、十香と共に通学路を歩き始めた。
そして、それから20分。
「・・・・ん?」
学校組が前まで辿り着いた所で、士道は目を丸くした。
校門の左右に、金剛力士像よろしく待ち構えている八舞姉妹がいた。
「耶俱矢に夕弦? こんな所で何して・・・・」
「来たか士道! くく、我が金色の十字陵此処に聳えり!」
「贈呈。待っていました。受け取って下さい」
士道の言葉を遮るように、耶俱矢と夕弦が士道とドラゴン用に箱を手渡してくる。辺りを歩いていた生徒達も、今日の日付から即座にその行動の意味を察したらしい。あまりに堂々たるチョコの渡し方に、チラホラと拍手が聞こえてきた。
「お、おう・・・・ありがとう。でも、ワザワザこんな所でなくても」
「くく、何を言うかと思えば。同じ学舎に通っているというのに、そのアドバンテージを手放す愚を犯す訳は無かろう」
「首肯。皆の前でコレを示す事により、敵への牽制にも繋がるのです」
八舞姉妹は自信満々といった様子でそう言うと、竜巻の如くグルンと身を翻した。
「目的は果たした! さらば!」
「解説。格好付けては見たものの、やっぱり実際皆の前で渡してみたら恥ずかしかったので一刻も早く立ち去りたい、と言ってます」
「そんな事言ってないんだけど!?」
耶俱矢が悲鳴じみた声をあげると、一足早く逃げた夕弦を追って校舎へと走っていった。
因みにその後確認した処、耶俱矢のチョコは金箔の貼られた十字架形に、ドラゴンの形。
夕弦のチョコはアラザンのまぶされた綺麗な銀色の物だった。
「相変わらず、嵐みたいな2人だな・・・・」
《ま、それがあの2人のアイデンティティみたいなものだな・・・・》
2人は頬に汗を垂らしながらそう言うと、受け取ったチョコを携え、校舎へと入っていった。
がーーーー自分の教室に足を踏み入れた所で、またも目を見開く。
「な・・・・」
《なんじゃこれは・・・・》
しかし、士道とドラゴンのリアクションも当然であった。自分の机の上に、精巧な天使の彫像が立っていたのだ。当然の反応だろう。
近づいて見やると、その彫像が全てチョコレートで出来ていた。あまりに精緻な匠の技に、士道もドラゴンは揃って額に汗を滲ませた。因みに天使像の足元には、チョコが入った小さな箱も置かれており、『ドラゴン用』とメモが置かれていた。
そして、犯人は分かり切っている。
「(なぁドラゴン、これって・・・・)」
《こんな前衛的で悪ふざけのような狂気の産物を作る奇人など、1人しかおるまいて・・・・》
「・・・・折紙」
「何?」
士道がポツリと名を呼ぶと、士道のすぐ隣の席の折紙‹犯人(奇人?)›が短く返事した。
そう。その天使の彫像の顔は、何処からどう見ても、誰が何と見ても、折紙そのものだった。
「何ていうか・・・・何だ、その・・・・凄いな。ありがとう」
「嬉しい/」
他にコメントが思い浮かばず、素直な感想を言うと、折紙がポッと頬を赤らめながら微かに口元を緩めた。
「でも、流石に今は食べられないから、しまっておけるとありがたいかなって・・・・」
「抜かりはない」
折紙がそう言うと、複雑な形に生成されたプラスチックのカバーをチョコに被せ、1分と持たず、チョコが美少女フィギュアのように綺麗にパッケージングされた。
「これで大丈夫」
「あ、ありがとう・・・・流石だな」
士道が苦笑しながらそう言うと、机に鞄と、耶俱矢達から貰ったチョコレートを置いた。
《おい小僧。あっちで何やら面白そうな事をしているぞ》
「・・・・ん?」
と、ドラゴンに示した方向を見ると、教室の端から、何やら怨念の声がブツブツと聞こえてきた。
「・・・・クソ、クソ、クソ、クソッ」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね・・・・」
「爆弾・・・・材料・・・・作り方・・・・」
「兄貴、五河は良いよねぇ、チョコを貰えて・・・・」
「どうせ俺達は闇の住人さ・・・・」
「もしもし、『FFF団』の皆さんですか? 我が校に最低最悪のリア充クソ野郎がいるのですが・・・・」
そう。それは、士道の持ち物を目にした、男子生徒達の暗い怨嗟の声であった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
《今日この日に、男の『ゲート』達がどれだけ絶望しているのやら》
ドラゴンの言葉にも、男子生徒達の様子にも、頬をピクつかせる士道だが、去年まで琴里と母だけだったのだから彼らの気持ちも分からなくもない。琴里は義妹なのは置いておく。
【フッフッフ・・・・近所の店の限定チョコを買い占めてやったぜ。この日の為にバイトを掛け持ちしまくったからな。これで誰もチョコを贈れない・・・・】
と、殿町がやたら高そうなチョコをお裾分けしてきたが、ノーカンにしておく。
因みにその殿町は今、他の男子達と同様に、悲しみと怒りと憎しみが混ざったような顔で士道を見つめてきた。
「皆の者・・・・これより儀式を執り行う」
と。教室の端で、殿町が手にしていた箱を開ける。
中には、ホワイトチョコで『五河士道』と書かれた人形のチョコが入っていた。
殿町がその箱をゆっくりと掲げていくと、男子生徒達が奇妙な踊りを踊りながら、ドンドコドンドコドンドコドンドコドンドコ・・・・と太鼓の音の(のような声)を発し始める。その様はまるで、どこぞの邪神信仰か悪魔崇拝の儀式であった。
「ちょわーっ!」
そしてその声がクライマックスに達した所で、殿町がおもむろにポケットから五寸釘を取り出すと、奇声を上げながら『五河士道』の胸元に打ち込んだ。
チョコのボディに亀裂が入り、『五河士道』がバラバラになる。
すると辺りに蠢いていた男子生徒達が、そのチョコの破片に群がり始めた。
「ヒャッハー! 五河がバラバラだァ!」
「うめぇ! うめぇよォ!」
「オレ、い、喰ウ・・・・ソシテ五河ノモテ力手二入レル・・・・」
《おい、言語を失っている奴までいるぞ・・・・》
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
そんな世紀末感極まる光景を見ながら、士道は頬に汗を流した。
普段はアソコまでおかしな連中ではないのだが・・・・やはりバレンタインデーと言うのは男子にとっても特別なものらしい。
そして、そんな惨めな男子達を見かねたのか、クラスの名物3人娘、亜衣麻衣美衣トリオがため息交じりに立ち上がった。
「ったく、仕方ないわねぇ男子達は・・・・」
「ほらほら、寄っといでー」
「マジ引くわー。るーるるるー」
そう言って、亜衣麻衣美衣が鞄からビニール袋を取り出し、中に満載されていた、一目で『義理』と分かるチョコを辺りにバラ撒いていく。
すると、生け贄の祭壇に群がっていた男子達がバッと顔を上げ、凄まじいスピードで空中のチョコをキャッチしていった。
撒かれたチョコは目算で30個。しかし、床に触れた物は、1つとしてなかった。ーーーー何故か床に横たわり、背中に無数の足跡を付けた殿町以外は。
「ありがてぇ・・・・ありがてぇ・・・・」
「女子から貰ったチョコって・・・・こんなに甘かったんだ・・・・」
「五河ノ毒ガ・・・・浄化サレテイク・・・・」
殿町以外の男子達の集団から、ドス黒いオーラが霧散していく(ように見えた)。
この時、亜衣麻衣美衣トリオの慈悲溢れる行為に感動を覚えた1人の美術部員が、後に名画『民衆にチョコ撒く自由の女神』を描く事となるとは、誰も想像だにしなかった。
ードラゴンsideー
《(惨めだな・・・・ん?)》
と、苦笑している士道と同じく、憐れみの視線を男子達に送っていたドラゴンが、その中でも特に惨めな男子に視線を向けた。
「お前らぁ・・・・! 俺を見捨てるのかぁ・・・・!?」
唯一チョコが手に入らかった殿町だ。
床に這ったまま怨嗟の声を上げるが、誰も見抜きもしなかった。
さて、何故殿町がチョコを手に入れられなかったかというと、チョコが撒かれたその時、僅かに反応が遅れ、飛び出した男子生徒達の波に呑まれて床に倒れ、そのまま踏みつけられてしまったからであった。
「オロロ〜ン!!」
仲間だと思っていたクラスメート達に裏切られ、絶望に叩き落され泣きじゃくる殿町。
「・・・・しゃーないな。殿町くん。これあげるよ。マジ引くわー」
「えっ・・・・?」
すると美衣が鞄の中から、明らかに『義理』とは思えないラッピングがされた『本命』としか思えないチョコの箱をコッソリと殿町に渡した。上体を起こした殿町は、目をパチクリさせながら、美衣からの箱を受け取る。
「藤袴・・・・?」
「お、おじさんのチョコのついでに作ったモンだから、変な勘ぐりしないでよね。マジ引くわー/////」
頬を若干赤らめる美衣がそう言うが、ラッピングが凝っている箱を殿町が開けると、手作りのようなチョコが入っており、恐る恐ると殿町が口にすると、先ほどまで纏っていたドス黒いオーラが消滅したように見えた。
「あ、ありがとう、メッチャウメェよ。今までで1番ウメェよ・・・・/////」
「っ、そ、そう。マジ引くわー・・・・/////」
代わりに、2人の間にだけピンク色の空間が広がっていた。
《(現実か? あの猿に? これは幻覚か? 今から世界が滅びるのではないか?)》
唖然となるドラゴンは、亜衣と麻衣の囁き声が聞こえ、そっちにも視線を向ける。
「亜衣は岸和田くんに渡すんでしょ?」
「ほ、放課後に勝負します! 麻衣は?」
「う~ん、私も放課後かな・・・・」
と、何やら亜衣と麻衣の鞄にも、綺麗にラッピングされた『本命のチョコ』と思しき箱が入っていた。
《(ほう、あの3馬鹿がなぁ・・・・!)》
ドラゴンは意外な展開に驚いていた。
ー士道sideー
級友達のラブロマンスに全く気づいていないが士道は、半眼で苦笑していた。
「むう、何だ? 騒がしいな」
「・・・・まあ、うん、ソッとしといてやってくれ」
とーーーー。
「・・・・!」
ソコで、精霊達が一斉に同じ方向を向き、士道もその視線の意味を理解し、その方向に目を向けた。
視線の先に狂三が立っており、士道と目が合った瞬間、ニコリと微笑んできた。
「うふふ、おはようございます、士道さん。朝から賑やかですわね」
「ああ・・・・おはよう、狂三」
士道は挨拶を返すと、思わずコクンと息を呑んだ。
昨日と一昨日と、士道と狂三は激しい攻防を繰り広げていた。
だが、今日の放課後は事情が違う。狂三が本気で、士道を籠絡しにかかってくるのだ。
「・・・・・・・・・・・・」
ーーーーペチンっ。
「いって・・・・!」
ドラゴンが尻尾ド突き(威力弱)で、緊張する士道に喝を入れた。そんな士道の様子を見て、狂三がフフッと唇の端を上げる。
「ふふ、焦っては駄目ですわ、士道さん」
言って狂三が足を1歩前に踏み出し、士道の耳元に唇を近づけてくる。
「お楽しみは後でーーーーですわ」
「・・・・っ」
不意に鼓膜を震わせた淫靡に過ぎる響きに、身体がビクッと震えそうになる。が、何とか狂三に動揺を悟られぬよう耐え、士道はニッと笑みを作った。
「ああ、楽しみだ。ーーーー安心していいぞ。精霊マンションの部屋はもう用意してあるからな」
「あら、あら」
狂三が笑みを濃くすると同時、始業を報せるチャイムが鳴り響いた。
ー狂三sideー
「きひひひひひ」
「きひひひひひ」
「クスクスクス」
「クスクスクス」
「さて、さて、次の『ご予定』は?」
「今から丁度1時間後ですわ」
「あら、あら」
「何ともせっかちな事ですわね」
「飽くという事を知りませんのね」
「きひひ、ひひ」
「それはそうですわ」
「彼女達にとってこれは」
「精々数度目の出来事ですもの」
「ああ、ああ、それに」
「ええ、ええ、彼女達にも理由があるのでしょう」
「それを咎める事はできませんわ」
「勿論、わたくしにも理由がある以上」
「そしてその道がぶつかり合う以上」
「容赦するつもりはございませんけれど」
「さて、さて、では次は」
「わたくし達が参りますわ」
「ええ、ええ」
「お願い致しますわ」
「どうか、佳き死を」
「どうか、意味ある終焉を」
「『わたくし』の為に」
「『わたくし』の為に」
「『わたくし』の為に」
「ーーーー士道さんの、為に」
ー士道sideー
ーーーー今日は時間が過ぎるのが、早い。
教室に鳴り響く終業のチャイムを聞きながら、士道はそう思った。
と言うよりも、放課後の事を考えている内に、いつの間にか授業が終わっていた。補足すると、この時の授業が分からずテスト期間中はドラゴンにつきっきりで勉強をする羽目になる。
たが、責められる者はいない。何しろ今日のデートの相手は、最悪の精霊〈ナイトメア〉・時崎狂三。
見目麗しい少女だがその実体はーーーー。
「・・・・いや」
そんな事を考えた所で、士道は思い直すように唇を引き結んだ。
確かに狂三は時の天使〈刻々帝‹ザフキエル›〉を持つ精霊である。恐ろしくないと言えば嘘になるが、そんな彼女を今日、デレさせなければならないのだ。怯えて逃げ腰なっている男に心を開く女などいない。
ーーーー恐怖は、怯えは、此処に置いていく。心臓を激しく脈打たせるのは、デートへ臨む高揚感と緊張感だけで十分だ。
《どうやら、何も言う必要はないみたいね》
と、そんな士道の決意に合わせるようにして、右耳に装着したインカムから琴里の声が響いてくる。
既に来禅高校上空に浮遊している〈フラクシナス〉には、琴里達が待機していた。教室の中にも自律カメラが幾つも飛ばされ、狂三の様子を窺っている。
《・・・・ま。自律カメラの監視など、〈ナイトメア〉はお見通しだろうがな》
「(だろうな・・・・さて、行くか!)」
士道は意を決すると、ゆっくりと椅子から立ち上がると、隣の席から、十香が話しかけてくる。
「シドー・・・・」
「十香・・・・」
見やると、十香が少し不安そうな視線を送っていた。士道はフッと微笑むと、鞄の中からーーーー今朝、十香がくれた箱を取り出した。
そして士道の行動に驚く十香の前でそれを開け、中に入っていった『きな粉トリュフ』を1粒口に放り込むと、グッと親指を立ててみせた。
「うん。美味い。ーーーーこれで百人力だ」
「おお・・・・!」
十香が目を見開き、次いで嬉しそうにブンブンと手を振る。
すると今度は、十香の反対側ーーーー左隣の席から折紙がジトッとした視線を注いだ。
「士道。私のチョコは千人力」
折紙が無表情だが、妙な迫力で言ってくる。
しかし、折紙の精巧な人形のようなチョコを齧るのは、中々凄惨な光景になりかねない。士道は苦笑しながら頬をかき、折紙の方に向き直る。
「折紙のは、後で食べさせてもらうよ。ーーーー狂三の霊力を封印した、後でな」
「・・・・・・・・・・・・(コクン)」
士道の言葉に、折紙が納得したように頷いた。
士道は2人を交互に見やると、決意と共に言葉を発した。
「行ってくる」
「うむ・・・・!」
「幸運を」
2人のエールを背に浴びて、士道は足を踏み出した。そしてゆっくりとした足取りで、狂三の前に立つ。
「よう、狂三」
「あら、士道さん。いかがなさいましたの?」
今日この日を決戦に指定してきたのに、狂三は白白しく、面白がるように言ってくる。
士道は小さく息を吐くと、それに合わせるように少し芝居がかった調子で手を差し出した。
「これから、君をデートに誘っても?」
「あら、あら」
狂三はわざとらしく目を丸くして見せると、フフッと頬を緩めた。
「わたくしでよろしければ、喜んで」
そうして名家の御令嬢のような優雅さで士道の手を取り、狂三が立ち上がる。
逢瀬に誘う男と、それに応える女。旗から見たならそのやり取りは、そんな風に見えたに違いない。実際にそうだし、その光景を目にしたクラスメート達は、ヒソヒソと噂話をし始めた。
だが、十香と折紙の反応は皆とは異なる。
彼女達は知っている。ーーーー一見優美なその言葉が、士道と狂三の、開戦の狼煙に他ならないと。
「では、参りましょう」
「ああ、そうだな」
士道はコクリと頷くと、身支度を整え、狂三と共に教室を出ていった。
途中、隣のクラスから八舞姉妹が顔を出し、グッと親指を立ててくる。士道は同じようにサムズアップしてそれに返すと、そのまま廊下を歩いていった。
その奇妙な光景に、他の生徒達は何やらザワメイていたものの、士道の耳にはそれらの声が一切入ってなかった。
クラスでの評判等は最早気にしても仕方がない。ただでさえ士道にはこの1年で、『転入生ハンター』・『高速の五河』・『前世で徳を積み、今世で業を背負いすぎた男』などなどの不名誉な異名が付けられてしまっているのである。今更1つ2つ醜聞が増えた所で、絶妙に根も葉もある噂話と、藁人形に打ち込まれる五寸釘の数と、男子生徒と1部の趣味の女子からの怨嗟の声が増えるくらいだろう。
まさか殿町と美衣がなぁ!