デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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再びデート・狂三

ー士道sideー

 

《ーーーー士道》

 

士道が狂三と廊下を歩いていると、不意にインカムから琴里の声が聞こえてくる。

 

《選択肢が出たわ。学校から出る前に、何処に向かうか決めておきましょう》

 

《「・・・・・・・・・・・・」》

 

士道とドラゴンはお互いに無言になる。別に〈フラクシナス〉の、マリナの選択肢を疑っている訳ではーーーー半分あるが、2人はもう決まっているのだ。

 

「ーーーーちょっと待ってくれ」

 

昇降口で靴を履き替えながら士道は声を発する。狂三とは少し離れている。

 

「ーーーー何処に行くかは、俺達でもう決めてあるんだ」

 

《え?》

 

士道が言うと、琴里は意外そうな声を発してきた。俺『達』と言うのが、入るという事は、既にドラゴンと予定を組み上げていた事だ。

すると今度は、マリアの声がインカムに響いてくる。

 

《それはつまり、私の性能が信じられないと言う事ですか?》

 

「・・・・・・・・いや、そうじゃなくてだな・・・・」

 

《何故一瞬、間を置いたのですか?》

 

《(これまでの攻略をふり返ってこい)》

 

拗ねたような声を発するマリアに、困り顔を作りながら返し、ドラゴンがスナギツネのような半眼となる。すると数秒後、マリアが笑うように息を漏らす音が聞こえてきた。

 

《冗談です。ーーーー私達はあくまでサポート役です。確固たる意志があるのなら、それを突き通すのが男の子でしょう》

 

「マリア・・・・」

 

士道が言うと、マリアが伺い立てるように続けた。

 

《いかがですか、司令?》 

 

いつもは『琴里』と呼んでいるのに、わざとらしくそう言う。

すると数瞬の後、琴里がハアとため息を吐いた。

 

《全く・・・・ここで駄目だなんて言ったら、私だけ分からず屋みたいじゃない》

 

そして、クシャクシャと髪を掻くような音の後、

 

《ーーーーいいわ。士道とドラゴンは間違いなく世界で最高の、対精霊におけるスペシャリストコンビだもの。あなた達がそう言うのなら、それに相乗りしてあげる。ーーーーマリアの言う通り、私達はサポート約よ。好きにやりなさい。もしも無残に失敗したら、ソコからのフォローが私達の仕事よ》

 

「ああ・・・・ありがとう、琴里、マリア」

 

《ーーーーさて、では行くか》

 

士道が謝辞を述べ、ドラゴンの言葉に合わせるようにして、靴を履き替えた狂三がやって来た。

 

「お待たせしましたわね、士道さん。ドラゴンさん」

 

「いや、じゃあ、行くか」

 

《ふん・・・・》

 

「ええ、処でーーーー」

 

言って、狂三が指を1本立て、ピト、と唇に触れさせてみる。

 

「わたくし、行きたい所があるのですけれど」

 

「・・・・!」

 

狂三の言葉に、士道はピクリと眉を動かした。すぐにインカムから琴里の声が聞こえる。

 

《あちゃあ、バッティングしちゃったわね。誘導できるなら良し、難しそうなら、狂三の希望を優先しましょ》

 

「いや・・・・」

 

しかし。士道はあまり焦りが無かった。

 

《焦ってはいないな》

 

「(ああ。何となくたけど、狂三も俺と同じ事を考えている気がするんだ・・・・)奇遇だな。実は俺も、行きたい所があるんだ。ーーーー多分、お前と同じ、な」

 

「あら、あら」

 

狂三は士道の言葉を面白がるように笑うと、士道の手を取った。

 

「面白いですわね。では、答え合わせを致しましょう。ーーーー士道さんが思った場所へ連れて行って下さいまし」

 

「ああ。任せとけ」

 

一瞬、ヒンヤリとした狂三の手の感触にドキリとするが、どうにか動揺を表に出さないまま、士道はその手を握り返した。

そしてゆっくりと、駅の方へと歩みを進めていく。

 

《・・・・・・・・・・・・・・・・ん?》

 

が、ドラゴンはその時、狂三の雰囲気に、『奇妙な違和感』を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー数十分後。士道と狂三は何くれとない会話を交わしながら、天宮駅前に聳える駅ビルへと辿り着き、中に入った。

 

《ここは・・・・》

 

とあるショップの前で足を止めた所で、インカムから琴里の声が聞こえてくる。

ソコはーーーー『時崎狂三』と初めてデートした時に訪れたランジェリーショップであった。

 

「ふうん・・・・士道さんが来たいと思っておられたのはここですの?」

 

狂三が、ショーウインドウを眺めなから口元を緩め、士道はコクリと頷いた。

 

「ああ、そうだ」

 

「うふふ・・・・そうですの。士道さんはそんなにわたくしの下着姿が見たいんですのね」

 

「・・・・ッ、そうじゃなくてだな。いや、そうじゃなくもないんだがそうじゃないと言うか・・・・」

 

《乱されてどうするこのヘナチョコ》

 

からかうような狂三の反応に、思わず士道はシドロモドロになってしまい、ドラゴンが呆れる。狂三はそんな士道を見てか、クスクスと笑った。

そしてその後、再度店の方を見ながら、言葉を濁す。

 

「ーーーー正解ですわ」

 

「え?」

 

「わたくしが来てみたかった場所ーーーー正確に言えばその1つ、ですけれど。ここに、間違いありませんわ。ーーーーうふふ、『わたくし』とここに来た事を覚えていて下さいましたのね。士道さん。嬉しいですわ」

 

言って、狂三がニッと微笑む。

そう。今ここにいる狂三と、かつて士道と共にここに来た『狂三』は、〈刻々帝‹ザフキエル›〉で生み出された分身体であったのだ。

 

「『あの日』から、ずっと思っておりましたの。士道さんと一緒にここを訪れた『わたくし』は、一体何を感じたのだろうと。ーーーー士道さんに心奪われた『わたくし』は、一体何を思ったのだろう、と」

 

《「・・・・・・・・・・・・」》

 

 

狂三の言葉に、士道とドラゴンは押し黙った。

あの時、共に街を歩き、笑い合った狂三は、そして校舎の屋上で士道に向かって手を伸ばしてくれた狂三は、今はもう存在しないのである。

 

「狂三、お前はーーーー」

 

士道は口を開きーーーーしかしすぐに言葉を止めた。

それを口にする狂三の横顔が、何処か物憂げで、寂しそうに見えたからだ。

 

「・・・・未熟な子達ではありましたけれど、アレも、わたくしですのよ」

 

《「・・・・・・・・・・・・」》

 

士道とドラゴンがまたも無言になると、数秒後、息を細く吐いた。

そして狂三と繋いでいた手に、グッと力を込める。

 

「・・・・? 士道さん?」

 

「良いんだな、本当にあの時のコースで」

 

「え?」

 

狂三が士道の言葉に驚いたように目を向けてくる。士道は唇の端を上げながらその視線を見返した。

 

「分身体とは言え、俺は1度、『時崎狂三』を落とした男だぜ。そんな俺に、その時と同じコースを辿らせてみろ。ーーーー今日1日が終わった後、お前は俺の事しか考えられなくなっているのだろうな」

 

「まあ」

狂三が目を丸くした後、フフッと口元を緩める。

そして士道の手を握る手が、より強く握り返された。

 

「それは楽しみですわ。うふふ、士道さんに、このわたくしを落とす事ができますかしら?」

 

2人はニッと微笑み合うと、並んで店へと入っていった。

ここはランジェリーショップ。当然店の中には、幾つもの女性用下着が並んでいる。

そんか中、狂三が颯爽と歩く。

 

「ーーーーねぇ、士道さん。勿論わたくしにも、下着を選んでくださるのでしょう?」

 

狂三が振り返り、悪戯っぽく微笑みながらそう言ってくる。その可愛らしい様に、士道は不覚にも少しドキリとしてしまった。

 

《シャンとしろボケナスビ!》

 

「・・・・っ、ああ、勿論だ」

 

「うふふ、楽しみですわね。さあーーーーどれがよろしいと思いまして?」

 

戯けるように小首を傾げながら、狂三が問うてくる。

その背後には、色とりどりの下着がある。男性の士道の視界には、とてつもなく刺戟的だ。

するとソコで、伺い立てるようにインカムから琴里の声が聞こえてくる。

 

《ーーーー選択肢は必要かしら、士道》

 

「・・・・いや、ここは、俺にやらてくれ」

 

士道は小声で言うと、怯む事なく足を踏み出し、店に並べられた下着を物色していった。

 

《(とは言え、これはデレさせ勝負。性格は最悪だが身体付きの良い〈ナイトメア〉に過激な下着を装備させては、チョロい小僧など簡単に鼻の下を伸ばすな)》

 

ドラゴンがそう思って数分後。狂三に似合いそうだが、それでいてエロ過ぎない絶妙なラインの下着を見繕い、士道は狂三を呼んだ。

 

「狂三、こんなのはどうだ?」

 

「あら、あら、随分可愛らしいですわね。わたくし、てっきりああいった物を選ばれるかと思いましたのに」

 

言いながら、マネキンが着ている扇情的な下着を指す。確かに、魔性の女の狂三にピッタリだと思える。

士道はタラリと頬に汗を垂らした。

 

「いやいや、意外とこういうのも似合うかも知れないぞ?」

 

「うふふ、そうですの? 士道さんがそう仰るのなら、試してみますわ」

 

楽しげにそう言った狂三は、士道の選んだ下着を手に取って、試着室へと入っていった。

 

数分後。地味な下着を清楚であり妖艶。可憐であり艶麗な美しさを放つ狂三の姿に、士道は息を詰まらせ、ドラゴンにド突かれたのは言うまでもない。

 

 

 

 

ー琴里sideー

 

「ふむ・・・・」

 

デート開始から2時間。

〈フラクシナス〉の艦橋で2人の様子をモニタリングしながら、琴里は口に咥えたチュッパチャップスの棒を小刻みに上下させた。

メインモニタには、ランジェリーショップを後にした二人が、次の目的地に向かう為に並んで歩く姿が映し出されていた。

士道と狂三はお互いの手をしっかり握り、狂三も嫌がっておらず、好感度は決して悪くない値だ。

のだが・・・・。

 

「・・・・妙だね」

 

「ええ」

 

令音も同じ事を思ったのだろう。顎に手を当てながら唸るように言うと琴里も同意し、画面端の狂三の精神状態を示す数値に目をやる。

 

「・・・・明らかに、平時の狂三と数値に差が見られる。まるで、極度のストレス下にあるような状態だ。だが、反応から言ってシンとのデートが原因ではない。これは一体・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

令音の言葉に、琴里は渋面を作った。

精霊がストレス下にある。それは望ましくない状態だ。しかし画面の中に映る狂三は非常に楽しげで、そんな数値を微塵も感じさせてはいない。その事が逆に、正体不明の不穏な雰囲気を匂わせている。

 

「ーーーー兎に角、皆。油断せずに行きましょう」

 

『了解!』

 

琴里が言うと、クルー達が一斉に声を上げた。

 

 

 

 

ー士道sideー

 

午後10時。士道と狂三は並んで、夜の世界となった公園のベンチに腰掛けていた。

ランジェリーショップを出た後も、2人はあの時辿ったルートを巡り続けた。

あの時と同じ道を歩き、あの時と同じ店で食事を摂りーーーーそして、最後はここへやって来た。

 

「士道さん、ドラゴンさん、覚えておられまして? この場所を」

 

「・・・・ああ、覚えてるさ。嫌って程にな」

 

《忘れられていたらそっちの方がスゴイわ》

 

そうソコは、士道とドラゴンが初めて狂三の凶行と、狂三の亡骸を目にし、精霊の恐ろしい部分を見た場所であった。

 

「ふふ」

 

狂三は士道の言葉に応えるでもなく曖昧に笑うと、思い出したように鞄から可愛らしい箱を2つ取り出した。

 

「そう言えば、忘れる所でしたわ。ーーーー士道さん、ドラゴンさん、ハッピーバレンタイン」

 

言って、その箱を士道に差し出してくる。士道は苦笑しながらそれを受け取った。

 

「ありがとう。・・・・って、忘れる所だったのかよ」

 

「ええ。だってーーーー」

 

狂三は細く息を吐くと、そのまま士道にもたれ掛かってきた。心地の良い重みが肩に加わり、狂三の美しい黒髪が頬をくすぐってくる。

 

「それくらい・・・・今日は、楽しかったのですもの。それこそ、わたくしの記憶の中でも、指折りと言って差し支えないくらいに」

 

「狂三・・・・」

 

士道ㇵ優しく言うと、フッと微笑み、鞄の中から2つの小さな包みを取り出した。

 

「じゃあ、俺とドラゴンからもだ。いっとき流行った逆チョコって事で、ハッピーバレンタイン、狂三」

 

「あら、あら・・・・?」

 

士道が包みを手渡すと、狂三が驚いたように目を丸くした。

 

「ドラゴンさんから・・・・? まさか、毒でわたくしを抹殺しようと?」

 

「いや大丈夫だから! 俺も一緒作っていたから、大丈夫。恐らく。多分。もしかしたら・・・・」

 

《おい、何で徐々に自信を無くす?》

 

ドラゴンが半眼になってそう言ってくる。狂三は可笑しそうに笑って

 

「うふふ、士道さんを信じましょう。ーーーー開けてもよろしいですの?」

 

「ああ、勿論」

 

双方は頷き合うと、互いの箱を開けた。

士道が作ったのは、蜜漬けにしたオレンジピールのダークチョコでコーティングされた物。

ドラゴンは士道と同じ物だが、形が精巧な『エンゲージウィザードリング』の形である。

対して狂三の箱の中には、猫の形をした一口大のチョコが沢山詰め込まれていた。

 

「へぇ、可愛いじゃないか」

 

「士道さんにドラゴンさんも、美味しそうですわ」

 

2人は言葉を交わしながらチョコを食べた。

ひとしきりに笑い合いながら食べていると、暫しの間無言となる。

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

別に、話す事が無くなった訳では無い。ただーーーーこうして、見つめ合っていたくなったのだ。

 

「・・・・・・・・」

 

士道は狂三の肩に腕を回してその身体をぐっと引き寄せ、慈しむようにその頭を撫でた。

狂三は抵抗せず、寧ろその行為を望んでいたとでも言わんばかりに、スッと身を寄せて来た。

傍から見れば、仲睦まじいカップルに見える。このまま狂三の顎を持ち上げれば、容易に口づけが可能だろう。

だがーーーー。

 

《・・・・悪くないわ。悪くはーーーーないのよ》

 

インカムから聞こえる琴里の声から、まだキスによる封印はできない事を示していた。

さらに令音の声が聞こえる。

 

《・・・・狂三は嘘を吐いていない。彼女は今日のデートを本当に、心から楽しんでいた見ても良いだろう。シン、君に全く心を許している訳でもない。寧ろ憎からず思っていると言っていい。・・・・だが、彼女の心に、大きな『壁』がある。『決意』・・・・『覚悟』・・・・それに類するものだ。修験者が道の為に快楽を断つように、狂三は自らに、大きな『枷』を課している。その正体を知り、取り去らない限り、彼女の力を封印する事は不可能だろう》

 

「(ーーーー大きな、『枷』)」

 

《・・・・・・・ふむ》

 

士道は無言で狂三の頭を優しく撫でながら、その言葉を心中で反芻したと同時に、士道とドラゴンの脳裏に、二亜と折紙が言っていた。

【狂三は〈始原の精霊〉を殺そうとしている】。

【30年前の時点で、その精霊の存在を『無かった』事にする】。

それはつまりーーーー狂三は【12の弾<ユッド・ベート>】を以て30年前に戻り、“精霊の存在を消し去ろうとする理由"。

彼女があらゆる犠牲を払い、“万の屍を積み上げてもそれを成そうとする意味"。

それを2人は、まだ知らないのだ。

 

「(ーーーードラゴン)」

 

《・・・・不本意と不愉快極まりないが、貴様とは一蓮托生だ。貴様の思う通りにやってみろ》

 

「(ありがとう)・・・・なあ、狂三」

 

だから、士道は口を開いた。

確かに、この勝負に勝たねば、自分だけでなくドラゴンまで死んでしまう、というのもある。

しかし今はそれ以上に、自分に身を寄せるこの少女が心の裡に抱く『願い』を、『想い』を、そして『決意』を、知りたかったのだ。

 

「はい、士道さん」

 

「教えてくれないか。ーーーーお前が、〈始原の精霊〉を倒そうとしている、『理由』を」

 

「ーーーーーーーー」

 

士道がそう言った瞬間。

狂三の表情が、一瞬張り詰めた物になった。だがすぐに、ヤレヤレと言った様子でフウと吐息をする。

 

「二亜さんから聞きましたの? おしゃべりな方ですわね」

 

狂三はそう言うと、ゆっくりとベンチから立ち上がり、そのまま前に数歩歩いた後、クルリと士道の方に振り返る。夜空な下、街灯がスポットライトの如く狂三を照らす。それはまるで、演劇のワンシーンのようだった。

 

「士道さん。貴方に知る『覚悟』がございまして? わたくしのーーーー全てを」

 

闇夜に浮かび上がった血のように赤い右耳と、カチリカチリと時を刻む金の左目が、士道を射貫くように見つめてくる。

 

「・・・・っ」

 

心の中を覗き込まれるような錯覚をし、息を呑む。

ドラゴンの名は出さなかった。それは、彼には確認など必要ないと思っているからだろう。

士道は、寒さと緊張に震える手を制し、狂三の双眸を見据えながら力強く頷く。

 

「ーーーーああ。そのつもりだ」

 

「そうーーーーですの」

 

狂三は静かにそう言うと、優雅ささえ感じる所作で左手をユラリ、と上げた。

するとその瞬間、地面に蟠った狂三の影がグニャリと歪んだかと思うと、ソコから〈刻々帝‹ザフキエル›〉の短針に当たる短銃が飛び出て、狂三の手に収まる。

 

「!」

 

突然の事に士道が驚いていると、狂三は虚空に銃口を向け、躊躇いなく引き金を引くと、辺りに、タン、タン、という乾いた音が数度響き渡る。

するとそれと同時、士道が付けたインカムから、狼狽に染まった琴里達の声が聞こえてきた。

 

《・・・・!? これはーーーー》

 

《映像、遮断されました!》

 

《自律カメラが破壊されたようです!》

 

「え・・・・?」

 

〈フラクシナス〉クルーの動揺が鼓膜を震わせ、思わず眉根を寄せた。

が、狂三の行動はそれに終わらず、トン、と足を1歩前に踏み出すと、士道に肉薄し、その頬を撫でるように片手を伸ばした次の瞬間、狂三が士道の耳からインカムを摘んで外していた。

 

「・・・・!」

 

驚愕する士道を尻目に、狂三が指に力をいれ、バチッと音を立ててインカムを握り潰し、彼女の白い指先から煙が立ち上がる。

時間にすれば5秒にまならない。

そんな僅かな時間で、士道は〈フラクシナス〉との交信が断絶させられた。

狂三はニィと唇を歪めると、再度士道を見つめてきた。

 

「ーーーーこれでも、ですの?」

 

「ーーーーそれでも、だ」

 

が、士道はその目を逸らす事なく答えた。

士道だけであれば、孤立し、狂三に容易く『喰われて』しまう。

だが士道には、背中を叩いてくれる『相棒』がいてくれる。

 

《・・・・・・・・》

 

例え退路が塞がれても、士道にはドラゴンがいる。それは狂三自身も良く分かっている。

今の狂三の行動は、退路を塞いだと言うよりも、誰にも明かしなくなかった『秘密』を、士道とドラゴンの2人だけには教えても構わない、と言っているように見えた。

ならば、それに応えられなければ、狂三にもう1度、『あの言葉』を宣う資格はない。

 

「・・・・・・・・」

 

狂三はそんな士道の反応に、フッと目を伏せると、短銃を影に放り、クルリと士道の背を向けた。

 

「ついてきて下さいまし」

 

そしてそう言って、暗い道をスタスタと歩いていった。

 

《ーーーー追うぞ》

 

「あぁ・・・・」

 

士道は無言でその背を追い、そのまま歩く事20分。

狂三は士道を伴って、路地裏に聳える雑居ビルに入っていった。今は使われていない廃ビルで、アチコチ壊れていたり落書きされていたりするものの、一応電気は通っているらしい。明滅する証明を辿って階段を上がり、3階の1室へと辿り着く。

 

「どうぞ、士道さん。ドラゴンさん」

 

「ここは・・・・」

 

言いながら、部屋を見回すと、廃ビルの1室なのだが、廊下とは異なりキチンと掃除され、窓にはカーテンが引かれ、簡素ながらもベッドが置かれていた。

 

「市内に数カ所あるわたくしの拠点の1つですわ。何もありませんけれど、楽にしてくださいまし」

 

「・・・・成る程。光栄だな。女の子の部屋に呼ばれるなんて」

 

「うふふ、今日はお上手ですわね、士道さん」

 

狂三はクスクスと微笑むと、コートを脱いでハンガーに掛けた。次いで士道の方に手を伸ばし、小首を傾げるようにしてくる。

 

「ああ、ありがとう」

 

士道は狂三に倣うようにコートを脱ぐと、それを手渡した。

狂三は2人の上着をハンガーラックにかけると、ゆっくりと士道の方に近づいてきてーーーー。

 

「・・・・・・・・」

 

そのまま、士道の胸元にポスン、と身を預けてきた。

 

「狂三・・・・?」

 

「士道さん、仰いましたわね。わたくしの全てを知る『覚悟』があると」

 

「・・・・、ああ」

 

士道が答えると、狂三は数秒の間士道の胸に顔を埋めて押し黙った後、

 

「ーーーーなら、受け止めて下さいまし」

 

そう言って、ユラリと左手を動かすと、いつの間にか再度短銃が握られて左手を。

 

「〈刻々帝‹ザフキエル›〉ーーーー【10の弾<ユッド>】」

 

狂三の影が蠢き、短銃の銃口に影が吸い込まれて聞く。

狂三は流れるような動作で短銃をコメカミに当てるとーーーー自分の頭部を通して士道を射貫くように、引き金を引いた。

 

「(ドラゴン・・・・【10の弾<ユッド>】って・・・・)」

 

《ーーーー『撃ち抜いた対象が有する過去の記憶を伝える弾』、だったな。〈ナイトメア〉は・・・・時崎狂三は、我らに何を、見せる気だ・・・・?》

 

そして2人の頭の中にーーーーある情報が入ってきた。




次回、遂に明かされる狂三の過去。
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