デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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ーーーーあの日に何が起こったのか。


屋上で起こった真実

ー士道sideー

 

狂三の拠点の1つである廃ビルの1室に突然現れたーーーー全く同じ貌をした少女達。

 

「見ぃーつーけた」

 

「・・・・って、あら? もしかしてお楽しみ中だった?」

 

「それは悪い事したわね。良いわよ。済ませちゃっても。女も知らずに死ぬって言うのも可哀想だし」

 

「なーーーー」

 

《ーーーーっ!》

 

突然現れたその少女達に士道とドラゴンは、驚愕の眼差しを向けた。

何しろソコにいたのは、数日前士道の悪夢に出てきた少女達だったのだ。

 

「・・・・あら、あら」

 

しかし、狂三の反応は2人とは少し異なっていた。

彼女の顔に浮かんだのは、驚きよりも、苛立ちと怒りであった。

 

「"精霊の『贋作』風情"が、わたくしと士道さんの逢瀬を邪魔するだなんて、いい度胸をしているではありませんの」

 

裸身のまま、狂三がユラリと立ち上がる。

すると"精霊の贋作風情"と言われたのが効いたのか、少女達の表情にも、ピクリと変化が現れた。

 

「・・・・へぇ? 『贋作』、ときたかぁ」

 

「それはお父様を侮辱していると思っていいのね?」

 

「許せないなあ」

 

言って、少女達は視線をキッと鋭くしたかと思うと、一斉に狂三に飛びかかる。

 

「狂三・・・・!」

 

が、狂三は慌てるでもなく身を翻すと、いつの間にか手にしていた〈刻々帝‹ザフキエル›〉の銃口を少女達に向け、連続してその引き金を引いた。

 

「〈刻々帝‹ザフキエル›〉ーーーー【7の弾‹ザイン›ッ!】」

 

「が・・・・!」

 

弾に触れた少女達が、狂三に飛びかかった姿勢のまま、空中でピタリと静止する。

撃った対象の時間を止める、【7の弾‹ザイン›】。〈刻々帝‹ザフキエル›〉必殺の弾丸だ。

 

「ーーーーふん」

 

不機嫌そうに鼻を鳴らした狂三は、少女達に背を向ける。

すると動作に合わせて、部屋の壁床天井に広がっていた影から何本もの『手』が伸び、少女達の身体を影の中へと引きずり込む。

 

「〈刻々帝‹ザフキエル›〉ーーーー【4の弾‹ダレット›】」

 

次いで狂三は、撃った対象の時間を巻き戻す、【4の弾‹ダレット›】を放った。ーーーーバラバラになった窓ガラスの破片がまるで、映像を逆再生するかのように、宙を浮いて窓を形作っていった。

数秒の後、部屋に先程までと同じ静寂が満ちる。

狂三は小さく息を漏らすと、2つの銃を影の中に落とし、士道に向き直ってきた。

 

「・・・・邪魔が入りましたわね。全く、こんな時に押しかけてくるだなんて・・・・」

 

と。狂三がそう言いかけたが、不意によろめき、壁に手を突いた。

 

「狂三・・・・?」

 

「大丈夫・・・・ですわ。何ともーーーー」

 

狂三は笑みを作って士道を返そうとしたがーーーーそのまま、糸が切れた操り人形のように、ガクンとその場に倒れ込んでしまった。

 

 

 

 

 

ーエレンsideー

 

「ーーーー失敗、ですか」

 

DEMインダストリー日本支社の1室にて。部下から伝えられた報告に、エレンは不快感と嘲りを孕んだ表情を以て返した。

 

「妙な話ですね。アイクの〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉で隙を衝いていると言うのに、ここまで失敗の記録を積み重ねるとは。一体何が問題なのでしょうか。実行者の純粋な能力不足以外に理由があるのなら伺ってみたいものですね」

 

「うっわぁ〜。エレンちゃん毒弁〜」

 

「凄いなあエレン。発言にトゲしかないや」

 

人間態のグレムリンがおどけた態度で、アルテミシアが苦笑しながら言う。エレンはフンと鼻を鳴らし、大仰な仕草で足を組んだ。

するとそれに合わせるようにして、部屋の入り口から数枚の紙が、風に運ばれるようにヒラヒラと舞ってきた。

そしてその中から、同じ容貌をした少女達、〈ニベルコル〉が数名、ニュッ途顔を出す。

 

「ふうん、言ってくれるじゃない」

 

「いの1番に失敗してくれた人がさぁ」

 

「おばさんはヒステリーでイヤね。歳は取りたくないわ」

 

「・・・・なんですって?」

 

「きゃあ、きゃあ、グレムリンさ〜ん、助けてぇ〜!」

 

ギロリと視線を鋭くし、エレンは〈ニベルコル〉がわざとらしく怯えたようにグレムリンの背後に隠れて身を震わせる。

別に〈ニベルコル〉の戯言に腹を立てたと言う訳では無いけれど、全く無いが、〈ニベルコル〉達に『礼儀』を教えようと、顕現装置‹リアライザ›が発動させようとした。

が、部屋にウェスコットがワイズマンとメデューサ‹ミサ›と共に部屋に入ってきたのだ。

 

「やあ、皆集まっているようだね」

 

「ーーーーアイク」

 

エレンは椅子から立ち上がって姿勢を正し、それに倣って、アルテミシアもまた直立する。

 

「! お父様!」

 

〈ニベルコル〉達は表情をパァッと輝かせ、ウェスコットの元へと駆け寄っていった。

ウェスコットは、顔筋の運動のみで形作られたように無味無臭の笑みを浮かべると、〈ニベルコル〉の頭をゆっくりとエレン達の方に歩いてきた。

 

「どうやら難航しているようじゃないか。まだ手が足りないのなら、Mr.ワイズマンからMr.ソラ以外の戦力を要請しようかな?」  

 

『ならば、メデューサ、お前も行ってくれるか?』

 

「ご命令とあれば」

 

ワイズマンがチラっとメデューサ‹ミサ›が恭しく頭を下げた。

 

「いえ、そのような事は」

 

エレンが一瞬、ワイズマン達を忌々しそうに睨んでから、ウェスコットにそう答えようとすると、〈ニベルコル〉達がその言葉を遮るように声を発した。

 

「聞いても、お父様。毎回毎回邪魔が入るの」

 

「そうそう。嫌になるわ。何なのあの子」

 

「〈ナイトメア〉って言ったっけ? 本当に邪魔。アイツさえいなければ、もう何回か五河士道の首を落としてるのに」

 

「ふむ・・・・」

 

ウェスコットは〈ニベルコル〉達の言葉に小さく唸ると、考えを巡らせるように顎に手を当てた。

 

「〈ナイトメア〉ーーーーか。『最悪の精霊』が人間を守るとは、奇妙な事もあった物だ。〈ニベルコル〉の物量に唯一滞納できるのはあの分身体たろうが・・・・」

 

「でもそれにしたって、少し凄過ぎじゃないかな。〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉で調べたポイントを、〈ニベルコル〉の圧倒的物量と、『ファントム』って精霊の天敵で攻めてるのに、その悉くを阻止されるだなんて」

 

「ねぇ〜。まるでこっちが〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉で調べているように、狂三ちゃんもこっちの状況を予め知っているようだよねぇ?」

 

アルテミシアとグレムリンがそう言うと、ウェスコットはもう1度小さく唸ってから、ニッと唇の端を上げた。

 

「もしかしたらーーーーMr.ソラの言う通り、"既に知っているのかも知れないな"。ではなければ、〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉の目を欺けるとは思えない」

 

「コチラの情報が漏れていた、と言う事ですか?」 

 

エレンの問いに、ウェスコットとワイズマンの声が同時に発され、合わさる。 

 

『「襲撃計画を、ではなく。襲撃そのものを、さ(だ)」』

 

『「・・・・?」』

 

2人の言葉に、エレンとミサは不思議そうに首を傾げた。

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

「ーーーー狂三! 狂三!」

 

そして場所は狂三の拠点の1室に戻ると、突然倒れ伏してしまった狂三に、士道が駆け寄った。

その裸体にシーツを被せてから、慎重にその身体を仰向けにし、口元に耳を近づけて、息がある事を確認する。

とりあえず安堵するが念の為、もっと詳しく調べようとする。

 

[ドラゴライズ プリーズ!]

 

思念体のドラゴン(子犬サイズ)が呼び出すと、ドラゴンは狂三の真上や左右を飛びながら狂三の身体を、まるでバイタルチェックする医療機器のようにジッと見つめる。

 

「どうだドラゴン?」

 

『何だこれは? 〈ナイトメア〉の身体に、とてつもない疲労と霊力の消費が見られる。まるでそうーーーーここ何日か自分の身体を限界にまで酷使していたかのような』

 

「えっ、それって?」

 

「ーーーーお待ち下さいまし、士道さん。ドラゴンさん」

 

「・・・・っ!?」

 

『・・・・』

 

静かな声でそう呟いたのは、部屋の壁に蟠った影から狂三の分身体が現れ、2人を制するように人差し指を口元に持っていき「しぃっ」と言うと、複雑そうな顔をしながら狂三の側で膝を折った。

 

「ご安心下さいまし、士道さん。ドラゴンさん。眠っているだけですわ。少し、『わたくし』を休ませてあげて下さいまし」

 

「そ、それは良いけど、狂三は一体何で倒れたりなんか・・・・」

 

『尋常ではないぞ、この疲労と消耗は』

 

士道がそう言うと、分身体は狂三の頬を優しく撫でてから、士道の方に視線を戻してきた。

 

「無理が祟ったのですわ。ただでさえ疲弊状態にあったと言うのに、あんな大立ち回りをしたりするものですから」

 

「ど、どう言う事だ・・・・?」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

ドラゴンが思考を巡らせ、士道は問いかけると、分身体はフッと逡巡のようなものを覗かせた。恐らく、伝えて良いのか迷っているのだろう。

すると、その分身体の背後から、人影がもう1つ、ヌッと姿を現した。

勿論分身体だがその姿は、レースとフリルで飾られたモノトーンのブラウスにスカート。髪は括っておらず、その代わり薔薇の飾りが付いたカチューシャを着けていた。しかし、最も特徴的だったのはその顔だろう。時計の文字盤を覆い隠すように、左目に医療用の眼帯を装着していたのだ。

 

「お前は・・・・」

 

その分身体を見て、士道は目を丸くした。

それはかつて会った。『5年前の狂三』である。

まぁ、狂三の能力であれば、『5年前の狂三』が分身体としていてもおかしくないが。

そして、眼帯の狂三は、躊躇する分身体の肩にポンと手を置くと、赤い隻眼で士道とドラゴンの2人をジッと見つめてきた。

 

「士道さん、ドラゴンさん、あなた達にそれを聞く『覚悟』はありまして?」

 

「え・・・・?」

 

『・・・・・・・・』

 

「何も聞かず、知らぬ振りをして、『わたくし』が目覚めるまで待てば、全ては丸く収まりますわ。それでも、あなた方は真実を知りたいと仰いますの?」

 

眼帯の狂三が、微かに目を細めながら言ってくる。まるで心の中の友達と迷いを見透かすかのような視線に、士道は一瞬たじろぎそうになる。

だが、『覚悟』はとうにできているのか、ドラゴンは泰然としている姿勢と眼差しを見て、士道は奥歯をグッと噛みしめると、眼帯の狂三を見返しながら力強く首肯する。

すると、眼帯の狂三が、冗談めかすようにクスクスと笑う。

 

「あら、あら。黙って待っていれば、"続き"ができたかもしれませんのに」

 

「・・・・っ! お、おま(バシィィンっ!!) エヴァンゲリオンっ!?」

 

『一々コヤツの冗談に過剰反応するでないわ。さっさと話せ』

 

頬を赤くする士道に、ドラゴンの尻尾ド突きが炸裂した。士道がギャーギャー文句を言うが、ドラゴンは「煩い」と言わんばかりにド突きをして黙らせた。

眼帯の狂三は2人のやり取りに妙な安心感が生まれたのか、クスクスと微笑むと、改めて口を開く。

 

「ーーーーお2人の決意に、感謝を」

 

心なしか嬉しそうにそう言うと、ゆっくりと姿勢を正し、両手を銃の形にすると、士道とドラゴンを指差した。

まるでーーーー銃で2人を狙い撃つかのように。

そして、告げる。

その、あまりに非現実的で、あまりに荒唐無稽な言葉を。

 

 

「結論から言いますとーーーー士道さん、ドラゴンさん、"お2人は既に死んでおられますの"」

 

 

眼帯の狂三がそう言って、パン、と弾を撃つように、2人に向けた指を上に向ける。

 

「・・・・は?」

 

『・・・・・・・・』

 

眼帯の狂三が何を言っているのか分からない士道は間の抜けた声を、ドラゴンが何かを察したのか、推察を構築していく。

 

「何かを言っているんだ・・・・? 俺達が・・・・死んでる? おいおい『まさか、そう言う事なのか?』ドラゴン?」

 

ドラゴンが推察を終えて、神妙な顔つきで眼帯の狂三に声を発する。

 

『〈ナイトメア〉。ここ何日かーーーーそう、貴様が再び来禅高校に現れた時から、我は、否、この水虫小僧にも、『奇妙な違和感』が時々まとわりついていた。貴様・・・・【12の弾<ユッド・ベート>】を使ったな。それも、何度もな』

 

「っ!」

 

「・・・・・・・・」

 

ドラゴンの言葉に、士道は息を詰まらせ、眼帯の狂三は何処か悲しげに微笑んでから話を始めた。

 

 

 

 

 

 

ー狂三sideー

 

それはーーーー2月9日の放課後。

時崎狂三は1人、校舎の屋上に立ち、フェンス越しにボウッと天宮市の街並みを眺めていた。

別段意味があっての事ではない。郷愁に駆られた訳でも無ければ、物思いに耽っていると言う訳でもなかった。そもそも、風景を見つめてそんな物を覚えるような健全な感性が、狂三の中に残っているか自体が怪しい物である。

勿論狂三だって、笑いもすれば怒りもする。何かを楽しいと思う事もあるしーーーーきっと悲しければ涙くらい流れるだろう。

けれど、人の身に生まれながら、人生の大半を精霊として、復讐者として、そして殺人者として過ごしてきた狂三の頭の中身が、昔とまるっきり同じとは、到底思えなかった。

今覚える享楽はきっと昔のそれとは違い。

今覚える悲哀はきっとかつてのソレとは異なる。

ただ、胸の奥に燃え続ける憎悪だけが、長い時を経てなお同じ貌を示していた。

 

【・・・・・・・・】

 

陽は既に傾きかけ、ビル群に飲み込まれてしまうのももう時間の問題であり、そろそろ約束の時間だと何となく知れた。

 

【・・・・待ち侘びましたわ、待ち侘びましたわ】

 

フェンスに指をかけながら、狂三は小さい声で呟いた。

するとそれに応えでもするかのように、足元の影の中から、くぐもった声が聞こえてくる。

 

【《・・・・ねぇ、『わたくし』。本当に、よろしいんですの?》】

 

【何を、世迷い言を】

 

分身体の言葉に、狂三はギロリと視線を鋭くしながら返した。

 

【今更後戻りはできませんわ。幾千幾万の命を喰らい、ここに立っている意味を知ってくださいまし。わたくしは、士道さんとドラゴンさんのお2人を・・・・殺しますわ。それが、わたくしが世界を作り変える唯一の方法でしてよ】

 

狂三が言うと、暫しの無言の後、影の中から先程とは別の分身体の思しき声音が響いてきた。

 

【《今の『わたくし』は『よろしいんですの?』としか言っておりませんでしたけれど、一体何を思いましたの?》】

 

【・・・・・・・・・・・・】

 

狂三は分身体の物言いにピクリと眉を歪めると、靴の踵で自分の影を強く踏みつけた。

するとそれと、入れ替わるように、士道がやって来た。狂三は気を取り直すようにフウて息を吐くと、ゆっくりと屋上の入り口の方へと振り向くと、決意と緊張に表情を強張らせながら、狂三をジッと見つめる士道がいた。

 

【ーーーーあら。うふふ、ようこそ。良くいらして下さいましたわね、士道さん】

 

頬を緩めながら言う狂三は、スカートの裾を摘みながら恭しくお辞儀をする。士道はそんな狂三の姿を見てか、一瞬微かに頬を赤らめかけたが、すぐに思い直すようにして首を振った。

と。ソコで狂三はチラと士道の後方を見た。

今し方士道がやって来た扉が微かに動いていた。恐らく士道が心配で十香達が様子を伺いに来ているようだ。

仕方ない事だが、信用のない事である。狂三は自嘲気味に息を吐いた。

するとそれに合わせるように、士道が口を開く。

 

【さあ、狂三。約束通り来たぞ】

 

狂三を真っ直ぐ見据える瞳には、確固たる意志の輝きが灯り、覚悟がアリアリと示している。

まだ出会って1年しか経っていないが、随分と逞しくなった気がして、フッと頬を緩める。

 

【朝も思いましたけれどーーーー少し、変わりましたわね、士道さん】 

 

【え・・・・?】

 

【初めて会った時よりも、顔つきが大人びている気がしますわ。まあ、あれだけの修羅場を潜って来られたのですから、当然かも知れませんけれど。うふふ・・・・素敵になられましたわね】

 

【・・・・か、からかうなよ】

 

照れるように返してくる士道。夕陽の中にあっても、頬を赤くしているのがはっきりと分かる。そう言う可愛らしい処は、まだ変わっていないようだ。

 

【それより、教えてもらおうか。朝の話の続きを。ーーーーお前の霊力を封印する『条件』ってやつを】

 

【・・・・・・・・】

 

士道の言葉に、狂三は笑った。

それは敵意が無い事を示す表情ではあるが、もしかしたら自身の優位性や余裕を示す結果になっているのかも知れなかった。士道が、緊張した面持ちでコクンと喉を鳴らす。

 

【ええ、ええ。ではお話しますわ。わたくしはーーーー】

 

ーーーーと。

狂三がそう言いかけた、次の瞬間。

視界を1条の線が過ぎったかと思うと、目の前が真っ赤に染まった。

 

【え・・・・?】

 

突然の事に、一体何が起こったか分からず、呆けた声が漏れた。

一拍置いて漸く、視界を染めた赤が、士道の胸から噴き出した血の色であると理解した。

 

【ーーーーーーーー】

 

一瞬。

まさに刹那の瞬間、士道は空から飛来した仮面の戦士に、胸を刺し貫かれていたのである。

白金に輝くその鎧。聖騎士を思わせるような風貌のその姿は。

ーーーー〈仮面ライダーヘルキューレ〉、エレン・メイザースによって。

 

【あ・・・・、が・・・・ッーーーー?】

 

床に伏した士道が、苦しげに声を上げる。その口から夥しい血が引き出された瞬間、屋上の扉が、勢い良く開かれた。

 

【シドー!】

 

【士道・・・・!】

 

【『[プリンセス!(エンジェル!/テンペスト!/ストーム!) プリーズ!]』】

 

精霊達が、慌てて駆け出してきて、血を吐く士道に余程動揺したのか、走る精霊達が〈仮面ライダー〉に変身した。

だがーーーー。

 

【ーーーーふん】

 

ヘルキューレ‹エレン›はそんな精霊達を嘲るように一瞥すると、バッと左手を掲げた。

すると、金色の魔法陣が展開されると、何枚もの紙が射出され、ヘルキューレ‹エレン›と士道を取り囲むように宙を舞った。

そして次の瞬間、その紙の中から、同じ貌をした何人もの少女達が姿を現す。

 

【・・・・っ!?】

 

それはまるで、自分の分身体のような既視感を覚えた。

霊装のような衣を纏った少女達が、消炭色の髪を靡かせながら、精霊達の行く手を阻むように立ちはだかる。

 

【はぁい】

 

【悪いけど邪魔はさせないよ】

 

【まあどっちかって言うと邪魔しているのはアタシ達だけどね】

 

【な・・・・ッ!? 何よコイツら!】

 

【狼狽。何者ですか】

 

テンペスト‹耶俱矢›とストーム‹夕弦›が驚愕の声を上げ、武器を構える。

プリンセス‹十香›とエンジェル‹折紙›も同様に、武器を振るい、少女達に攻撃を仕掛けた。

 

【退けぇぇぇッ!】

 

【ふーーーーッ】

 

がーーーー少女達は避けなかった。

その顔に薄ら笑いを浮かべたまま、サンダルフォンブレードの斬撃を、メタトロンウィングの砲撃を、真正面から受けて切り裂かれ、或いは風穴を開けられる。

しかし、少女達は苦悶を漏らすどころか痛みに顔を歪める事さえなく、カラカラと笑った。

そしてその隙を衝いて、別の少女達が、プリンセス‹十香›の剣に、エンジェル‹折紙›の羽に、次々て組み付いてくいく。

 

【・・・・!】

 

狂三は思わず表情を歪めた。ーーーー恐らく、少女達はその身に霊力を帯びているものの、十香達を相手取る力はない。しかし、問題はその数。そして『個』の死を恐れぬ『総体』としての力だ。

少女達の正体は分からないが、同じく『数』を武器として立ち回る狂三には、その厄介さが痛い程良く知っている。

 

【ーーーー『わたくし達』!】

 

それを理解した瞬間、狂三は叫んび、それに応えるように狂三の影が屋上に広がっていき、その中から夥しい数の『狂三』が姿を現す。

そして『狂三達』は本体の意に応え、十香達の行方を阻む正体不明の少女達に組み付いていった。

このまま放っておいては、士道とドラゴンがエレンに殺されるのは、狂三にとって許容し難い事態なのだ。

 

【きひひ、ひひひひひ!】

 

【それは、わたくし達の専売特許でしてよ?】

 

【あはは、何これ】

 

【へえ、アンタが噂に聞く〈ナイトメア〉? 想像以上に気色悪ーい】

 

『狂三達』と少女達が入り交じり、学校の屋上が地獄絵図と化す。

が、分身体にできるのは、少女達の相手まで。

狂三は短銃を影から抜くと、士道の背に足を乗せるヘルキューレ‹エレン›に銃口を向ける。

 

【ーーーーッ!?】

 

引き金を引こうとした瞬間、その腕が綺麗に切断され、宙を舞った。

いつの間にか狂三の直ぐ側に、もう1人のヘルキューレが現れていた。

 

【させないよ、〈ナイトメア〉】

 

【・・・・っ、アルテミシア・アシュクロフト・・・・!】

 

狂三が顔を歪めると、赤と銀の〈仮面ライダーヘルキューレⅡ〉の変身者の名を忌々しげに呼んだ。

ダーインスレイヴに斬られた腕に激痛が生じる。狂三はギリと奥歯を噛み締めそれに耐えながら、ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›の追撃を紙一重で避けた。

乱戦。混戦。剣林弾雨。

僅か数十秒で平和な学校の屋上が戦場と化す。

最早周囲で何が起こっているのかさえ把握できない。ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›の剣閃が連続で繰り出され、避けるのに精一杯で【4の弾‹ダレット›】を放つ間さえない。

だがその直中で、1つだけ確かな事がある。

士道とドラゴンの命が、今まさに摘み取られようとしているのだ。

 

【・・・・こんな形で、決着を付けたくありませんでしたよ】

 

ヘルキューレ‹エレン›は静かに、何処か悲壮を交えて呟き、

 

【さよならです。我が愛しきーーーー『2人の宿敵』よ】

 

無慈悲にダーインスレイヴを振り下ろした。

 

【やめろぉぉぉぉぉぉッ!】

 

プリンセス‹十香›の絶叫が、戦場に響き渡る。

だが、ヘルキューレ‹エレン›の手は止まらない。

その刃は、いとも容易く、士道の首を斬り捨てた。

 

【ーーーーーーーー】

 

ごぷ、と夥しい血が溢れて。

強張っていた士道の手足から力が抜けていく。

そして必死に傷口を塞ごうと、士道の胸元に揺らめいていた〈灼爛殲鬼‹カマエル›〉の炎が、ゆっくりと消えていく。

まるで、士道の命の灯火が消えた事を示すかのように。

 

ーーーーすまない・・・・皆・・・・。

 

ーーーービキビキ・・・・ガッシャァァァンン・・・・!

 

ドラゴンのそんな声が聞こえた気がした狂三が、精霊達を見やると、精霊達の身体に纏っていた〈仮面ライダー〉のアーマーが音を立てて砕け、更に、それぞれの『リング』までもが、塵となって消えた。

それは、ドラゴンの命も、この世から失ってしまったかのように。

 

【あーーーーーーーー】

 

変身が消失してしまい、その光景を目にした精霊達が、あまりの事態に呆然となってしまった。

顔が蒼白になり、指先が小刻みに震え始める。悲哀。喪失。無力感。いくら言葉を並べようと言い表せない程の感情が、彼女らの中で荒れ狂っているのが有り有りと分かる。

有り体に言うのであればーーーー『絶望』に、満ちていた。

 

【ウフフフフ!】

 

【アハハハハ!】

 

分身体達と戦っていた少女達が懐から、『魔力の核』を手に持ち、十香達精霊に向けて翳すと、精霊達からドス黒いエネルギーを吸収していくと、『魔力の核』が変貌していく。

 

【っ! はッ!】

 

【ぐーーーー】

 

幾度目とも知れないヘルキューレⅡ‹アルテミシア›の攻撃を避け、狂三は悔しげに歯噛みしながらも影の中へと潜っていった。




士道とドラゴンが死に、謎の少女達が、十香達の絶望から、再び『魔獣』を生み出す。
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