デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー狂三sideー
【・・・・はぁ・・・・っ、はぁ・・・・っ】
影の中を移動し、漸く狂三は外界へと顔を出した。
先程までいた来禅高校が一望できる高台だ。公園のように整備されていない為、足場は悪いが、辺りに人影が無い為好都合である。
【大丈夫ですの、『わたくし』】
影の中から分身体の1体がヌッと顔を出し、心配そうに言ってくる。
するとそれに次いで別の分身体が、先程ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›に斬り捨てられた右腕を持って影から這い出てきた。
【『わたくし』、これを】
【・・・・ええ。〈刻々帝‹ザフキエル›〉ーーーー【4の弾‹ダレット›】】
額に脂汗を浮かべて応える狂三は、残った左手で影の中を探り、時を戻す弾丸が装填された短銃で自分のコメカミを撃ち抜くと、時間が撒き戻ったように切断された腕が宙を舞い、切断された箇所にくっつくと、右腕は元に戻った。
【・・・・!】
とーーーー狂三が張り付いた腕を握ったり開いたりしていると、俄に視界の先から、来禅高校の屋上から、凄まじい閃光が幾条も迸り、天を、地を灼いていった。
断続的に響く轟音。一瞬にして崩れ落ちる校舎。校舎上空に現れる4体の巨大な異形。
ソコで漸く町中にけたたましい警報が鳴り響くが、最早手遅れ。瓦礫と化した校舎を中心とした巨大な竜巻が巻き起こり、辺りの建物を次々ト破壊していったかと思うと、次いでその中心部から放射状に闇を凝縮したような漆黒の光線が迸り、見渡す限りの風景を焦土と変えていく。
【あれは・・・・十香さん達の、『魔獣ファントム』ですの?】
【十香さん達が戦っていますの?】
訝しげな顔を作る分身体達が光の方向を見る。
しかし狂三は気づいていた。あれはただの霊力光ではない。
これだけ距離があると言うのに、肌にちりつくような錯覚と、絶望。憤怒。憎悪。あらゆる負の感情を抜き身のままぶつけられたかの様な感覚。
あまりにも異質なソレに、狂三は1つの結論が生まれ、呻くように声を漏らす。
【反転ーーーーしてしまいましたのね】
【【・・・・!】】
その言葉に、分身体達が息を詰まらせる。
間違いない。あの場にいた十香に、折紙に、八舞姉妹。全員が反転精霊となってしまったのだ。
だがそれも無理もない。何しろ、目の前で士道の首が飛ばされ、ドラゴンが消滅してしまったのだ。彼女達の絶望がいかばかりか、想像に硬くなーーーー。
【ふーーーーっ】
【・・・・っ】
狂三の思考を遮るようにそんな声がして、狂三は思わず息を詰まらせた。
見やると、影の中から新たな分身体が顔を出している事が分かる。
否ーーーーそれだけでは無かった。その分身体は、真っ赤な血に濡れた士道の亡骸を抱きかかえていたのである。
【『わたくし』、それは・・・・!】
【ええ、ええ・・・・間一髪でしたわ。あのままにしておくのも気が咎めまして】
そう言って、分身体が士道の亡骸を地面に横たえる。
【・・・・・・・・、【4の弾‹ダレット›】】
狂三は暫しの間無言になった後、手にした天使で士道の身体を撃ち抜いた。
先程の狂三の腕のように、離ればなれになっていた首と胴体が綺麗に繋がり、胸元に空いた大穴が塞がっていく。
しかしーーーーそれだけだ。
士道は目を閉じたまま、声は愚か息1つしておらず、試しに士道の身体を動かしてウィザードライバーを起動させようとするが、全く反応がない。
【4の弾‹ダレット›】は時を戻す弾だが、1度失われた命を取り戻す事はできなかったようだ。
【・・・・・・・・】
心を落ち着けるように深呼吸をし、これから何を成すべきか考えを巡らせる。ーーーー安らかに眠る士道の亡骸と、ドラゴンの亡骸の代わりに『ドラゴライズウィザードリング』を士道の胸元にソッと置くと、視界の先で広がる、世界の終わりのような光景を眺めながら。
だが。暫しの無言の後、喉から漏れたのは。
【わたくしは・・・・失敗、しましたの・・・・?】
そんな諦観に彩られた言葉だった。
ーーーーつい数分前までは、上手くいっていた筈だった。狂三は血が滲まんばかりに拳を握り締めた。
士道とドラゴンが力を手に入れ、【12の弾‹ユッド・ベート›】で以て30年前に舞い戻り、始原の精霊の存在を『無かった事』にする。
そうすれば、全てが報われる筈だったのだ。
狂三の歩んだ幾千の月日が。
狂三の足元に横たわる幾万の命が。
それが、瞬きをするような僅かな時間で、全てが無に帰した。
無にーーーーされた。
憎き魔術師‹ウィザード›、エレン・メイザースの手によって。
【あ・・・・ああッ!】
激情に任せて、狂三は繋がったばかりの右腕で地面を殴りつけた。
いつも超然とした狂三の行動に、分身体達がビクッと肩を震わせる。
しかし、今の狂三に、そんな分身体達の反応を気遣う余裕等は無かった。幾度も、幾度も、拳を地面に叩きつける。
望みを、絶たれた。『希望』を、打ち砕かれた。ーーーー士道を目の前で殺されると言う、最悪な手段で以て。
【・・・・っ】
そこまで考えて、息を詰まらせる。
狂三の胸の裡を筆舌に尽くし難い憎悪が荒れ回っているのは無理からぬ事である。生涯をかけた目的へ至る道を潰された。
しかも、その因縁の起点を作った1人である女に。
それこそ、年若い狂三であったなら、十香達と同様に反転し、『魔獣』を生み出していてもおかしくない絶望的な状況である。
しかし狂三は、そんな憤懣の中に、別の感情が交じっている事に気づいてしまったのだ。
【(嗚呼ーーーーそう、だったん、ですのね・・・・)】
狂三は愕然と目を見開きながら、血と土埃で汚れた手で額を覆った。狂三は、目の前で士道が殺された事が、悔しくて悔しくて仕方が無ったのだ。悲しくて悲しくてーーーー仕方が無かったのだ。
頭がグルグルと混乱する。自分で至った『答え』の筈なのに、意味が分からない。
途方もない矛盾。狂三は士道を殺そうとしていたのに、何故そんな事を思ってしまったのだろうか。
【士道・・・・さん・・・・】
脳裏を、士道との様々な記憶が駆け巡る。その度に頭の中で様々な感情を混ざり合って、狂三の思考をかき乱した。
士道。五河士道。精霊を愛し、精霊に愛された少年。時崎狂三を前にしても、恐怖を乗り越え、「『最後の希望』になる」と言って手を差し伸べてみせた人間。
狂三は半ば無意識の内に、士道の亡骸の肩を抱きーーーーその唇に、自分の唇を触れさせていた。未だ柔らかさの失われていない、しかし冷たい唇。
その感触を覚えて、狂三は漸く気づいた。
士道との勝負にーーーー負けてしまったせていた事を。
【・・・・“2度目のキス”まで意識のない時だなんて、不運な方】
狂三はフッと目を細めた。
士道と出会った去年の6月。琴里によって深手を負い、逃げ延びた。
その際、琴里と狂三の間に割って入ったのが、他ならぬ士道だった。あの時はドラゴンへの不信感によって、〈仮面ライダーウィザード〉に変身できなくなっていたにも関わらずに、だ。
少し不格好な騎士‹ナイト›ではあったけれど、命を救われた事には変わりない。狂三は影の中に逃げる寸前、お礼代わりに士道の唇にキスを残してきた。
今となっては、全てが無為に帰してしまったが。
ーーーーだが。
【・・・・・・・・え?】
次の瞬間、狂三は奇妙な感覚に眉をひそめた。
何なら、温かなモノが身体の中に流れ込んでくるかのような感覚。
それはまるで、かつて澪に霊結晶‹セフィラ›を手渡された時にも似てーーーー。
【・・・・〈刻々帝‹ザフキエル›〉!】
ソレを思い出すと同時、狂三は反射的に天使の名を唱えると、影の中から巨大な時計盤が現れる。
【・・・・!】
【『わたくし』、これは・・・・】
分身体達が、驚愕の声を上げる。
何故ならーーーー琴里との戦いから色が失われていた『Ⅵ』の数字が燦然と輝いていたのだ。
【どういう事ですの・・・・】
狂三はユラリと立ち上がると、その文字盤の数字を順に撫でていった。
『対象を加速させる【1の弾‹アレフ›】』。
『対象の時間の進みを遅くする【2の弾‹ベート›】』。
『対象を成長させる【3の弾‹ギメル›】』。
『対象の時間を巻き戻す【4の弾‹ダレット›】』。
『僅か先の未来を見通す【5の弾‹へー›】』。
『対象の時を止める【7の弾‹ザイン›】』。
『過去の自分を再現する【8の弾‹ヘット›】』。
『異なる時間軸にいる相手と意識を繋ぐ【9の弾‹テット›】』。
『撃った対象の記憶を伝える【10の弾‹ユッド›】』。
『精霊の霊力を直接喰らい、時を超える【11の弾‹ユッド・アレフ›】と【12の弾‹ユッド・ベート›】』。
そして、狂三の手は最後に、文字盤の1番下に位置する数字に触れた。
ーーーー今まで1つだけ色を失っていた、『Ⅵ』に。
【・・・・【6の弾‹ヴァヴ›】】
狂三は小さく呟くと、士道の亡骸をチラと見た。
明らかに【6の弾‹ヴァヴ›】が輝きを取り戻したのは、士道とキスを交わしてからである。
士道はキスによって霊力を封印する。それは狂三もとっくに知ってはいたが、まさか【6の弾‹ヴァヴ›】は、琴里に破壊されたのではなく、あの戯れの口づけによって今の今まで“封印されてしまっていた”と言う事なのか。
もしそうだとしたら、完全ではないにしろあの時の時点で、狂三は士道に心を開いてしまっていた事になる。
【・・・・ふっ・・・・】
狂三は自嘲気味に唇を歪めた。ーーーーデレた方が負けの勝負。元より、狂三に勝ち目等無かったのかも知れない。
しかし、狂三は額に汗を滲ませながら、鬼気迫る笑みを浮かべた。
【6の弾‹ヴァヴ›】。今の今まで封印されていた、〈刻々帝‹ザフキエル›〉の1撃。
思いがけず取り戻したその『力』があったなら、この結末を変えられるかも知れない。
それは『希望』と呼ぶには酷く薄弱なモノであるけれどーーーー狂三を再度奮い立たせるには十分過ぎる物だった。
けれど、狂三はまだその『代償』を払い終わっていない。
正確言うのであればーーーー狂三の『目的』を達する為には、今以上の犠牲が必要だ。
【ーーーー『わたくし達』】
狂三が静かに声を上げると、ズラリと並んだ分身体達が、一瞬でその意図を解したように頷いた。
そして、宣言する。
【士道さんの為にーーーー死んで下さいまし】
すると分身体達は、全ての意図を察したようにカラカラと笑った。
【ええ、ええ、喜んで】
【さあ、さあ、参りましょう】
【元よりこの身は仮初めの命】
【存分に使い潰して下さいまし】
【この命が『わたくし』の礎になるならば】
【士道さん達を救う事ができるならば】
【喜んで彼岸へと参りましょう】
【今更可笑しな事を仰いますわ】
【『わたくし』もわたくしなれば】
【断る事などありえないと分かるでしょうに】
【クスクスクスクス】
【クスクスクスクス】
分身体達が楽しげに笑う。
きっと誰も無事ではすまない。きっと誰も生き残るまい。
しかし彼女達の顔に、陰りは一欠片も見えない。
狂三はフッと苦笑した。自分と同じ顔をした少女達の姿が、この上なく頼もしく、誇らしく思えて仕方なかったのである。ーーーーこう言うのも、ナルシズムと言うのか。
【ーーーーならば。わたくしに付いてきて下さいまし、『わたくし達』。この、先のない死出の旅に】
そして狂三は銃を握る右手を掲げると、かつて失い、大きな代償を払って取り戻した力の名を、この世界を作り変える可能性を待つ、もう1つの『弾』の名を、高らかに唱えた。
【〈刻々帝‹ザフキエル›〉ーーーー【6の弾‹ヴァヴ›】】
狂三は『弾』の込められた銃を自分のコメカミに突きつけるとーーーー分身体達に笑みを向けながら、引き金を引いた。
ーーーーパァンッ・・・・!
◇
【・・・・・・・・・・・・】
目覚めは、唐突な物だった。
否・・・・それが果たして一般的な『目覚め』に当てるのかどうかは議論を呼ぶが。
兎に角、意識を取り戻した狂三は、即座に周囲の状況を確認する。
場所は、市内に幾つか持っている狂三の拠点の1つ。最低限の家具のみが置かれた薄暗い部屋。
壁にはクリーニングしたての来禅高校の制服が掛かっており、情報収集用に用意したスマホの画面(カワイイ猫の壁紙付き)には、『2月8日』と表示されていた。
そう。狂三は戻って来たのだ。
『2月8日』。狂三が、来禅高校に復学する日の前日に。
【・・・・どうやら、成功したようですわね】
〈刻々帝‹ザフキエル›〉ーーーー【6の弾‹ヴァヴ›】。
その能力は、『撃った対象の意識のみを、過去の身体に飛ばす弾』である。
使用する『時間』にもよるが、遡れるのは精々数日が限度である為、【12の弾‹ユッド・ベート›】には遠く及ばないがーーーー今この時に置いては、何の比喩でもなく世界を救う1発となり得る弾であった。
ーーーーだが、大変なのは寧ろここからだ。狂三は身を翻すと、掛けてあったコートを羽織り、扉を開けて部屋を出て行き、廃ビルの階段を下り、ひとけの無い路地裏をカツカツと歩きながら、独り言のように声を発する。
【ーーーーさて、動きますわよ、『わたくし達』】
するとそれに応えるように、影の中から夥しい数遥かに返事があった。
【《ええ、ええ》】
【《時間がありませんわ》】
【《敵は、エレン・メイザースこと〈仮面ライダーヘルキューレ〉に、アルテミシア・アシュクロフトこと〈仮面ライダーヘルキューレⅡ〉》】
【《そして、謎の少女達》】
【《彼女達が動いているのなら、ワイズマン達『魔獣ファントム』も動くでしょう》】
【《さしあたって、士道さんを呼び出す場所を屋上から変更しては?》】
【いいえ。それでは相手が襲撃方法を変えてくるだけですわよ。『行動を知っている』と言う優位性を手放すのは悪手ですわ】
【《では、襲撃を行おうとしている彼女達を、わたくし達で押さえましょう》】
【《ええ、ええ、それしかありませんわ》】
【彼我の戦力差を考えてくださいまし。あの少女達だけならまだしも、ヘルキューレ達は士道さんの最強形態『インフィニティスタイル』でなければ対処できない怪物ですわ。如何に『わたくし達』を投入しても、両方を同時に止めるのは難しいですわ。少なくとも1人、士道さんとドラゴンさんと同等の力を持つ味方がいなくては】
【《しかし、都合よくそんな方がいらっしゃるとは思えませんわ》】
【《いえ、いえ。1人、いえ、“6人”だけ》】
【《あまり頼りにしたくない心当たりが、いらっしゃいますわ》】
【それはーーーーあぁ】
問おうとして、狂三はフッと苦笑した。分身体が思い描いたであろう人物達、すぐに思い当たったのだ。
分身体達があまり頼りにしたくない、と言うのも道理である。何しろ、『彼女達』は、恐らく今までで最も多く狂三の分身体を殺してきた〈仮面ライダー〉なのだから。
【なるほど、それは不愉快ですわね。しかし、彼女達ほどの適任者はいらっしゃいませんわ】
狂三は歩みを緩める事なく、指示を絞り出すように手を掲げた。
【ーーーー『わたくし達』。真那さんの居場所である仁藤さんのマンションの部屋は押さえてありますわね。至急交渉に向かって下さいまし】
【《ええ、ええ》】
【《心得ましたわ》】
【加えて別働隊を組成、DEMインダストリーの動きを探って下さいまし。ーーーー琴里さん達が何もできなかった所から見て、〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉で警戒の穴を衝いている可能性がありますわ】
【《了解ですわ》】
【《抜かりなく》】
【恐らく、相手方も勝負に出ているのでしょう。襲撃が1度限りとは思えませんわ。常に士道さんの周りを警戒、隙を作らないようにしてくださいまし。ーーーー士道さんを殺すのは、この時崎狂三を置いて他におりませんわ】
狂三が言うと、分身体達がクスクスと笑った。
【《あら、あら》】
【《流石〈わたくし〉》】
【《物騒な告白ですわね》】
【《猟奇的な愛ですわね?》】
【《お可愛い事》】
【・・・・っ///】
狂三は頬を『フレイムスタイル』ばりに赤くして息を詰まらせると、苛立たしげに地面を踏む足に力を入れた。
そうしてから、気を取り直すように前を向き、告げる。
【征きますわよ、〈わたくし達〉。ーーーー不本意ながら、世界を救って差し上げますわ】
ーーーーそうして、時崎狂三の戦いが始まった。
時間にすれば僅かに6日。
しかしその間に、狂三は幾度も士道を護り、幾度も士道を喪ってきた。
敵は狡猾なるDEMインダストリー。魔王〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉を以てこちらの隙を衝き、悪魔の種子〈二ベルコル〉。精霊の天敵『魔獣ファントム』。そして、最強のカード・ヘルキューレ‹エレン›とヘルキューレⅡ‹アルテミシア›を用いて、執拗に士道とドラゴンの命を付け狙ってきた。
幾人もの『狂三』を犠牲にし、幾千の策謀を巡らせ、狂三は戦い続けた。
士道達が死ぬ度、口付けを交わして【6の弾‹ヴァヴ›】を取り戻しては、ソレを以てもう1度、世界をやり直す。
不幸中の幸いであったのは、【6の弾‹ヴァヴ›】で戻されるのは狂三の記憶のみと言う事だった。
士道が死ぬ前、【6の弾‹ヴァヴ›】を取り戻す前の身体に意識が戻る為、【6の弾‹ヴァヴ›】を使用のするのに使った『時間』や、敵を止める為に散っていった分身体達も、元の状態にリセットされるのだ。【6の弾‹ヴァヴ›】を撃つ為に要する『時間』は膨大であるし、分身体を作る【8の弾‹ヘット›】も無尽蔵に撃てる訳では無い。
もしもそのリセットが成されなければ、狂三の保有する『時間』はすぐに底を突いてしまっているだろう。
しかしーーーーそれは敵方にも言える事であった。
幾人〈二ベルコル〉を殺そうと、幾度ファントム達を、ヘルキューレ‹エレン›を退けようと、彼女らの受けた損害は、狂三が【6の弾‹ヴァヴ›】を撃つ度、全てリセットされてしまうのである。
嫌ーーーー正確に言うのなら。
彼女らは、狂三と戦った事すら知らず、毎回初めてのつもりで士道達を殺しにくるのだ。
狂三が持つ唯一のアドバンテージにして、己が身を焼く業火。
1度。
10度。
100度を超えて。
殺し殺されを繰り返しながら、狂三は段々と、自分の心が疲弊していくのが分かっていくのが分かってしまった。
同じ事を機械的に消化し。
前の世界と異なる異常‹バグ›を叩いて潰す。
その中で、元より狂っていた狂三の心が、磨り減り始めたのである。
けれどーーーー狂三は銃を収めなかった。
士道とドラゴンが殺される度。
そして、その冷たい唇に触れる度。
ただのアクセサリーとなったリングに触れる度。
狂三は、もう1度その手に抱かれたいと思ってしまったのだ。
「士道さん・・・・ねぇ、士道さん?」
一体これで幾度目だったか。
冷たい士道の唇に己の唇を重ねーーーー。
「また、お会いしましょう・・・・?」
狂三は、自分の頭目がけて引き金を引いた。