デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー十香sideー
「まったく! (ムグムグ)四糸乃は一体(モグモグ)何処に行って(バクバク)しまったのだ~!」
四糸乃を捜索している途中。お腹が空腹を訴えたので、休憩がてら『ど~なっつ屋はんぐり~』でオスペドーナッツを頬張る十香。
そんな十香に、店長と店員がワルツのステップを踏みながら話しかける。
「んも~。十香ちゃんったらそんなに難しい顔しちゃって、その四糸乃ちゃんって子に会いたいの?」
「うむ。青い髪の毛に青い目をした琴理と同じ年頃で、同じ背丈をした娘だ。店長殿達は見たことないのか?」
「そうね~。青い髪に青い目をしたコトちゃんと同い年くらいで、背丈も同じくらいの女の子ね~」
店長は店員と今度はタンゴを刻みながら記憶を探っていた。端から見ると、実に珍妙な姿だが、『はんぐり~』では結構頻繁に見られる光景なので、他のお客や通行人は特に気にしなかった。時たま二人のダンスに手拍子したり拍手したりするくらいだ。
「あっ、店長。もしかして『雨の少女』じゃないですか?」
「あっ! そういえば遠目だったけど、あの子の髪の毛の色って、青色だったわね」
「(ゴクン!)知っているのか!?」
最後のドーナッツを食べ終えた十香は、ガタッ、と音をたてて立ち上がった。
「ええ。よく雨の日とかに見かける女の子でね。緑色のウサ耳のフードを着ていたけど、突然の風でフードが外れてね。その時に見たんだけど、フワフワとした髪の毛で、まるで海か青空のように綺麗な青色だったから、よく覚えているわ~」
「緑色のウサギの耳のフード・・・・間違いなく四糸乃だ! 店長殿! どこで見たのだ!?」
「確か、神社の境内だったーーー」
「よし分かった! 店長殿! 金子はここに置くぞ! 今度はシドーと四糸乃と琴理も連れてくるからな!!」
十香は土煙を上げんばかりに走り去り、そのあとをプラモンスター達が人目に触れないように追いかけた。
「十香ちゃん。僕達がその子を見たのは、二週間ほど前なのに・・・・」
「もう。慌てん坊ちゃんなんだから!」
ー士道sideー
士道&ドラゴンは無表情に、ピョン、とひょっとしたら喜んでいるのように跳ねる折紙を半眼で見ていると、折紙はそのまま数秒間、余韻に浸るように目を伏せた後、小さく息を吐き、そして。
「待っていて」
何故かそう言って、踵を返す。
「あ・・・・おい、鳶ーーー」
「・・・・・・・・」
≪・・・・おい、名前だ・・・・≫
「・・・・折紙。どこに行くんだ?」
「シャワー」
「は・・・・?」
≪・・・・まさかこの女・・・・≫
折紙は、チラッと士道も顔を向け、それだけ言ってリビングを出ていった。
「・・・・・・・・・・・・」
≪正気に戻れこの色ガキ・・・・!≫
バシンッ!
「いでっ!」
≪呆けているんじゃない。パペットを探す好機だろうが≫
「あっ・・・・! そうだよしのん!」
呆然となった士道の頭を体内のドラゴンが尻尾で殴って正気に戻り、折紙の衝撃的な体験の連続で忘れかけていたが、よしのんを探す千載一遇のチャンスだ。
「でもアイツ・・・・なんでいきなりシャワーなんて浴びに行ったんだ? 汗でもかいたのか?」
≪(このド阿呆は。・・・・いつか襲われるかもしれんな。まあそれで少しは女に馴れるか、戦闘以外に危機感を持つようになるならば、それも良いかもしれんがな)≫
折紙の意図にまっっっっっっっっっったく気づかない士道に呆れるドラゴンの様子にも気づかず、起き上がった士道は、一応リビングの棚の中身を探るが、よしのんは見つからず、ダイニングテーブルをへだてたキッチンも一応探ると。
「ん・・・・これは?」
士道はピクリと眉を動かしながら、キッチンの最奥にあるゴミ箱の中に、いくつもの小さな空き瓶を発見し、ラベルを見ると。
『必殺・赤まむし』、『大絶倫・黒天狗』、『スッポンゴールド1000』、『マカの魔力』、エトセトラエトセトラ・・・・。
一本数千円はくだらない、高級精力剤のオンパレードだった。
どう見ても女子高生が栄養ドリンク代わりに飲むような代物ではない。
≪こんなものを“茶に仕立てて飲んだら”、さぞや凄まじい味の茶になるな?≫
「(いや、まさか・・・・。こんなものをお茶だと言い張って、異性に飲ませるわけねぇだろ・・・・)」
一瞬、もしかしてと思った士道だが、そんなまさかと、そんな考えを捨てた。
仮に士道がさっき飲んだお茶がこれだったとしてら、今頃士道の身体は即座に『エボリューションキング』か『ハイパームテキ』になって全身が金色に輝き、下腹部の一部だけがそれはもう真っ赤な『闘魂ブースト』か『Fire! All Engines!!』になりそうだなぁと考えた。
「ま、まあ、個人の好みを詮索するのはマナー違反だな」
≪女の部屋を家捜しなんて、最上級のマナー違反を犯している分際でほざくな。この現実逃避小僧≫
「(だから五月蝿いっての!!)」
リビングによしのんはいないと思い、廊下に出ると、15分以上経過し、廊下の奥の部屋の扉が怪しいとドラゴンが言ったので、その扉に手をかけて開け放った。
「・・・・っ、ここは・・・・寝室か」
六畳くらいのスペースに、ベッドや洋服棚が並べられていた。
「・・・・んん?」
部屋に入ってすぐ、士道は違和感を感じた。部屋が狭い・・・・と言うよりもこれは。
「・・・・アイツ、随分とデカいベッドで寝てんな」
≪そうだな。まるで二人で一緒に寝るために設られたみたいだな≫
ダブルサイズのベッドが部屋を狭くさせ、さらにそのベッドは最近、それも昨日今日新調したようにピカピカだった。
さらにベッドの枕元にはホテルのベッドメイクもかくやと言うほどに、ピンと美しく張られたシーツの上には、枕が2つ並べられており、しかもそのカバーにはポップな文字で、『問題ない』と刺繍が施され、裏返してみると裏には、『構わない』と書いてあった。
≪なんだこれは? どっちにしろ選択の余地ゼロではないか?≫
「・・・・・・・・・・・・・・・・さ、さてと・・・・よしのんはどこかな・・・・?」
≪分かりたくないからって思考停止するな、この思考放棄の臆病者≫
長い沈黙の後、改めて寝室を見渡すと、そこで部屋の脇に置かれた背の高い洋服ダンスの上に、ちょこんと見覚えのあるコミカルな意匠の施されたウサギ形のパペット。ーーー間違い無く、四糸乃のよしのんが鎮座していた。
「こんなところにあったのか・・・・」
これで四糸乃を助ける事ができると、士道は息を吐いた。しかしーーー。
≪おい、あの女の気配が動いたぞ≫
「・・・・っ」
ドラゴンの言葉に反応すると、寝室の外から、ガチャッ、という音が聞こえた。浴室の扉が開いたのだろう。
どうやら、折紙がシャワーを終えたらしい。
「やっべ・・・・」
士道は足音を殺してすぐにリビングに戻った。よしのんの方は『コネクト』を使えば回収できる。
『コネクト』の弱点は、欲しい物がどこに置いてあるかを脳内の記憶からイメージしなければ、魔法陣と欲しい物を繋げる事ができない。だからわざわざ折紙の部屋に潜入して、よしのんを探していたのだ。
よしのんの置いてある場所が分かったので、後は折紙の部屋を出てすぐに『コネクト』を使えば、よしのんを回収して無事帰還するだけである。
≪無事に帰る事ができればの話だがな≫
ドラゴンの呟きに、士道もその最後の項目が、やったら難易度が高い気がしたが、気のせいだと信じたい。
「あ・・・・そうだ」
よしのんの発見は一応達成したが、士道にはもう1つ個人的な目的があった。
一度折紙とちゃんと話したかったのだ。精霊の事に、ついて。
ドラゴンにも何度も無駄な事だ、と言われたが、それでも士道は折紙と話したかったのである。
と、そこで、士道の思考を中断するように、リビングの扉が開き、折紙が戻ってきた。
士道はそちらに顔を向けると。
「お、おう、折紙。ちょっと訊きたい事が・・・・ぃッ!?」
≪ここまでやるか・・・・≫
折紙の姿を目にした士道は、その姿勢のまま停止し、ドラゴンは予想していたのか呆れ目になっていた。
リビングに入ってきた折紙の格好は、先ほどのメイド服ではなく、裸身にバスタオルを巻き付けただけである。
しかも全身に水分を帯びており、タオル地がしっとりと張り付き、スレンダーだが、自衛隊らしく鍛えられ、引き締まり、まるでスラッとしたモデルのような身体のラインを浮かび上がらせており、なんとも蠱惑的な美しさが漂っていた。
「な、なななな・・・・!?」
いくら自宅でも、同年代の男子がいる時にこの格好は流石に異常である。
「なに?」
しかし折紙は至極当然のごとくそう言うと、士道はなぜ固まっているのかわからないと言った感じで、小さく首を傾げた。
「・・・・っ! あ、ああ、着替えを忘れたのか? あ、はははは・・・・ドジだなあ」
≪(ここまでされても、まだ気づかんのかこのドアホウドリは?)≫
「・・・・・・・・」
士道は渇いた笑いを浮かべ、ドラゴンは呆れ果て、折紙は無言のまま、足音もなく士道の元に歩み寄って、先ほどと同じように、息づかいどころか体温まで感じられる位置で膝を折り、そのままぐっと身体を押し付けた。
「ーーーッ!?」
「・・・・?」
士道はビクッと肩を震わせて、その場から飛び跳ねるようにして折紙と距離を取る。が、折紙は不思議そうにまた首を傾げた。
「どうしたの?」
「ど・・・・ッ、どうしたって・・・・」
そう言ってある間も、折紙はジリジリと距離を詰めてくる。
「(ど、どうするよドラゴンッ!?)」
≪はぁ・・・・まったく面倒だ。もうラチがあかないから、とっとと訊きたい事を訊け・・・・≫
「お、折紙! その・・・・お、お前に訊きたい事があるんだ!」
折紙はその場で停止する。
「なに?」
「あ・・・・ああ、その・・・・」
≪安心しろ。ジャミングはまだ効いている。役立たず共との通信は隔絶されている。何を言ってもお前の妹達には伝わらん。さっさと無駄な問答をしておけ≫
ドラゴンは、士道に折紙との問答に白黒つけさせようと思って促し、士道は意を決して、口を開いた。
「その・・・・折紙。お前は・・・・精霊が、嫌い・・・・なんだよな」
「・・・・・・・・」
士道がその言葉を発した瞬間、折紙の雰囲気が変わった。士道の話題に訝しむように、小さく首を傾げる。
「なぜ?」
折紙は、士道の目をまっすぐ見ながら問うてきた。
それはそうだ。正直、何の脈絡もない。〈フラクシナス〉と通信が繋がっていたら、余計な情報を漏らすなとか、無駄に警戒心を煽るなとか言われて怒られるだろう。
だが士道は訊かずにはいられなかった。
折紙に。両親を精霊によって失いーーー今、精霊に刃を向ける少女に。
「・・・・っ、や、そのーーーだな。せ、精霊の中にも、いい奴はいるんじゃないか・・・・なんて」
「ありえない」
間髪いれずに切り捨てられた。
「精霊は現れるだけで世界を壊す。そこに『居る』だけで世界を殺す。あれは害悪。あれは厄採。生きとし生けるものの敵」
「そ・・・・っ、そんな言い方ーーー」
「ーーー私は、忘れない」
士道の言葉は途中で遮られ、折紙の表情と声のトーンも、何一つ変わってはいないが、底冷えするような威圧感が感じられた。
「五年前、私から両親を奪った精霊を」
「五年・・・・前」
≪(・・・・“また”、五年前か・・・・)≫
士道が呆然と声を発し、ドラゴンは“五年前”の単語を訝しそうに呟き、折紙は士道に向かって小さく頷いて続けた。
「五年前、天宮市南甲町の住宅で、大規模な火災が発生した」
「え・・・・?」
≪なんだ?≫
「(俺も昔住んでいたんだ。火事で家が燃えてしまって、今の家に引っ越したんだ。輪島のオッチャンとは引っ越してすぐに、父さん達に連れられて、その時に会ったんだ)」
≪ふむ・・・・≫
ドラゴンは思考を巡らせるように唸るが、折紙の話の方に気を戻した。
折紙は続ける。
「公式には伏せられているけれど、あの火災はーーー精霊が起こしたもの」
「な・・・・ッ」
≪・・・・・・・・≫
士道は驚愕に目を見開き、ドラゴンは静かに聞いていた。
「その身に、真っ赤な炎を纏った精霊。私はーーーあの精霊に全てを奪われた。絶対に、許さない。精霊は全て、私が倒す。もう、私と同じ思いをする人は、作らせない」
「(折紙・・・・)」
静かに強固な意思を思わせる声で拳を握る折紙に、士道は少しだけ共感した。
士道自身、自分やあの儀式<サバト>の日に魔獣ファントムのゲートとなった人達のような犠牲者を出したくないから、ウィザードとして戦っている。だから折紙の気持ちは理解できる。
しかしーーー。
「そして、無論それはーーー夜刀神十香も例外ではない」
「え・・・・」
不意に十香の名前が出され、士道は目を丸くした。
「彼女は今、精霊とは認められていない。でも、私は彼女の存在を許容できない」
「・・・・っ、で、でも、今の十香は空間震も起こさなければ、暴れもしないじゃねえか。そうなったらもうーーーただの女の子と変わらないだろう?」
だが、折紙は微塵の逡巡も躊躇も見せずに、首を横に振った。
「彼女から精霊の反応が消えた事は事実。しかし、原因が不明な以上、最悪の状況に備えるのは当然のこと」
「・・・・そ、それはーーー」
士道は言い淀んだ。折紙の言い分は尤もだ。折紙は士道の能力によって十香の力が封印された事を知らないのだ。
「でも・・・・空間震が起こるのだって、アイツらの意思じゃねえんだろ!? それなのにーーー」
≪馬鹿が・・・・≫
「ーーーーーーーーー?」
士道がそう言うと、折紙は不思議そうに首を傾げた。
「なぜ、そんな事を知ってるの?」
「・・・・っ、や、それはーーー」
余計な事を言い過ぎた。士道は言い淀んで視線を泳がせるが、折紙は抑揚のない声で続けてくる。
「ちょうど良い機会。私も、貴方に訊きたい事がある」
「な、なんだ・・・・?」
「4月21日。私は任務遂行中に気を失う直前。黒いロングコートの宝石のような仮面を着けた人物、識別名称〈仮面ライダー〉の姿が、貴方に変わったのを見た」
「・・・・っ」
その日付は、十香がこちらの世界に静粛現界をし、ミノタウロスファントムと十香の体内のプリンセスファントムを倒した日であり、士道がキスによって十香の力を封印した日でもあったので、士道は背を凍らせた。
「貴方は、一体何者」
静かな瞳でジッと士道を見据えながら、折紙が言う。
「や、その、それは・・・・」
〈ラタトスク〉と魔獣ファントムの事まで話す訳にはいかなく、士道はしどろもどろになる。
「・・・・・・・・・・・・」
しかし、下唇を噛んで呼吸を落ち着かせた。
「・・・・鳶一。信じてもらえないかもしれないけどーーー少し、俺の話を聞いてくれないか?」
折紙は、微塵の逡巡もなく首を前に倒した。
「ん・・・・その、だな。詳しい事は言えないんだが・・・・俺、実は何度か精霊に会って、話をしたことがあるんだ。ーーー十香だけじゃない。・・・・四糸乃ともだ」
「四糸乃?」
「ああーーー〈ハーミット〉って呼ばれている精霊の事だ」
「非常に危険。やめるべき」
折紙は表情を変えてないが、抑揚のない声で注意してくるが、士道は、首を横に振った。
「ーーー鳶一。お前は、一度でも四糸乃と話したことがあるか・・・・? いやーーーないだろうな。名前だって知らなかったんだから」
身体ごと折紙に向き直り、続ける。
「頼む。少しだけ、少しだけでいい。今度四糸乃が現界したら、アイツと、話をしてやってくれ。ーーーお前が言うように、悪い精霊だっているのかもしれない。でも、十香や四糸乃はーーー、何て言えば良いのかよく分かんねえけど・・・・、すげえ、良い奴なんだよ・・・・! 人間にだってそうはいないくらい、滅茶苦茶、優しく奴らなんだよ・・・・っ!」
「・・・・・・・・」
折紙は何も言わずに、至極落ち着いた様子で士道を見つめてくるだけ。静かに、しかし不思議と冷たさは感じない、不思議な色の眼差し。
「(っ・・・・嗚呼、そうか。ようやく分かった・・・・)」
ASTの意思決定を左右するほどの権能は、折紙に無い事は分かっている。
それなのに、わざわざ情報を漏洩というリスクを冒してまで折紙に話をしてしまった理由。ーーーせざるを得なかった理由。
もちろん、四糸乃を助けたい。十香を守りたいという理由が大きかったが、それだけではなかった。
それをやっと理解できた気がした。
「そう、か。俺・・・・」
士道は、改めて折紙に目を向けた。
「俺は・・・・四糸乃をどうにかして助けてやりたいし、十香の事を認めてやって欲しいとも思っている。でも、それと同じくらい。鳶一、お前にーーーそう、お前に、あんな良い奴らを、殺して欲しくないんだ・・・・っ!」
「・・・・・・・・・・・・」
「お前だって、すげえ良い奴なんだ・・・・! 俺のように、偶然や運の良さで力を得たんじゃない。目の前の人で手一杯の半端者でもない。まだ高校生だってのに、世界を守るために戦っているんだぜ? そうそうできる事じゃねえよ。マジで尊敬する」
そう。折紙は間違っているだなんて、士道には言う資格がない。
五年前に精霊によって両親を亡くしーーーもう、自分と同じ人間は作りたくないと、人を守るために武器を取った気高い少女。
その決意は、魔獣ファントムからゲートを守るために戦う士道と同じ、安く薄っぺらな言葉で汚していい筈がない。
でも、それでもーーー
「なんで・・・・なんでこんなことになっちまってるんだろうな・・・・。誰も、誰も悪い奴なんていねえんだ。十香も、四糸乃も、鳶一、お前だって、皆、優しい奴らなのに」
「それはーーー」
言いかけて、折紙は喉を小さくコクンと鳴らしてから続けた。
「それは、仕方ないこと」
「・・・・っ」
「仮に、貴方の言う事が本当で、〈ハーミット〉がこちらとの闘争を望んでいないとする。ーーーしかし、彼女が精霊である以上、空間震発生の危険性は、必ず残る。彼女達の為に、何人もの、何十人もの人間の命を危険に晒すことは、私達にはできない」
あまりにも、そして残酷なほど現実的で、合理的かつ理論的な至極当然とした主張。ドラゴンも琴理も、同じような事を言っていた。
きっと、いや恐らく、間違っているとしたら士道の方なのだろう。
士道は額についていた手を目元に滑らせ、表情を隠すようにしながら奥歯をギリと噛み締めた。
頭では、折紙の言っている事が理解できる。だがどうしても、納得できなかった。
ドラゴンが聞けば、ただの我が儘だと切って捨ててしまうだろうが。
「ーーー最後に1つ、確認させてくれ」
折紙は、不思議そうに首を傾げた。
「十香みたいに、精霊の力が確認できなくなったらーーーもうその精霊に、攻撃することはないんだな?」
≪(無理が有りすぎるだろうが、この理想論大好き男が、しかし、それを通す事ができるがな・・・・)≫
「・・・・・・・・・・・・」
折紙は、しばしの間黙ってから返してきた。
「私としては本意ではない。反応が消えてからと言って、精霊を放置するのは危険過ぎる」
「・・・・っ、そんなーーー」
≪ま、当然だな≫
「ーーーしかし。上層部の方針として、精霊の反応が確認できない限り、それは人間と認めざるを得ない。私の独断で攻撃をすることはできない」
「つ、つまり?」
「その質問には、肯定を示す」
折紙が、落ち着き払った様子のまま言い、士道は無意識のうちに、唾液を飲み込み、拳をぐっと握っていた。
「ーーーありがとうよ。今は、それが聞ければ十分だ」
「そうーーー今日うち来たいと言ったのは、それが目的?」
折紙は短く言って、少しだけ、ほんの少しだけ瞼を落とし、そんな事を言ってきた。
抑揚のない声に変わりないのに、なぜかそこはかとなく不機嫌そうな雰囲気だった。
「っ、や・・・・そ、そんな事はないぞ。今日来たのは、鳶一と話をするためで・・・・」
さすがによしのんの事は言えないが、嘘は吐いていない。
「・・・・・・・・・・・・」
折紙は、士道の言葉を聞くなり、少し刺々しくなっていた雰囲気を一瞬で霧散させた。
そして、再度士道ににじり寄ろうとするが、そこで。
ウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーー
と、外から空間震警報が鳴り響いた。
「け、警報・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」
折紙は数瞬の間黙りこくると、小さく息を吐いてその場を立ち上がった。
「折紙・・・・?」
「ーーー出動。貴方は早くシェルターへ」
それだけ言って、折紙は廊下を出ていった。残された士道は、折紙が家を出ていった事を確認すると、『コネクト』を使用した。
[コネクト プリーズ]
魔法陣に手を突っ込むと、よしのんを回収した。
「ドラゴン・・・・」
≪なんだ? 綺麗事にまみれた理想論大好きな救いようもどうしようものない甘ちゃんボウヤ≫
黙っていた分、かなりきつい毒を吐くドラゴンに渋面を作りながらも、士道はよしのんをぎゅっと握る。
「四糸乃か?」
≪間違いなくな、気配がある。行くならば、窓からハリケーンスタイルで一気に向かった方が手っ取り早いぞ≫
「分かった」
[ドライバーオン プリーズ]
ベルトを召喚して、左手向きにし、『ハリケーンリング』を翳す。
[シャビドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪ ハリケーン プリーズ フー! フー! フーフー、フーフー!!]
士道の身体を緑色の魔法陣が上から下へ通り向けると、士道の姿が、風を操る緑色の翡翠石<エメラルド>魔法使い、『仮面ライダーウィザード ハリケーンスタイル』へと変わった。
そして、ウィザード<士道>は窓から飛び出し、四糸乃の元に向かおうと、ドラゴンのナビに従って飛んで行こうとしたその瞬間ーーー。
ドガッ!
「うわっ!?」
何かが士道に突撃し、士道は空中でよろける。
「な、なんだお前らっ?!」
≪ぬ・・・・!≫
ウィザード<士道>の目の前に、まるでグールファントムに虫の羽を着けた体色は紫色で、頭部には山羊のように後ろに伸びた角を付けたファントム達が空の上で立ち塞がった。
『グゥウウウウウッ!!』
紫色のグール達は、手に持ったカギ爪を構え、士道に襲い掛かった!
「な、なんなんだコイツらはっ!!」
四糸乃編いよいよ佳境です。
最後に出てきたファントム達はオリジナルです。次回の後書きで説明します。