デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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幕間です。


幕間11
悪魔が目覚めた日 精霊が生まれた日


ー???sideー

 

「・・・・えいっ! えいっ!」

 

山間の小さな集落。そのほど近くにある花畑で、これまた小さな女の子が、必死の形相をしながら両手を前に掲げていた。

淡い色の金髪と、深い海のような碧眼をした、7歳くらいの女の子だ。先程から全身に力を込めている為か、髪と同様に色素の薄い頬には朱が差し、額には玉のような汗が浮かび、まるで今にも頬が膨れ上がり、パンクしてしまいそうな様相である。

 

「だぁーかーらー、そんなに力んでも仕方ないんだって。もっと心を落ち着けて、優しく触るような感覚だよ」

 

そんな少女を見て、隣にいた活発そうな少年がため息を吐きながら肩をすくめる。

 

「見てな」

 

少年はそう言うと、スッと目を細めた後、指を1本立てた。

すると次の瞬間、周囲の花からキラキラとした輝きがユラリと立ち上り、少年の指差す方向へと向かってゆっくりと移動していった。

 

「ふわ・・・・」

 

少女はそんな光景をマジマジと見た後、またも眉間に皺を寄せながら全身をプルプルと震わせ始めた。

 

「ふんぬぬぬぬぬぬぬぬ・・・・!」

 

「いや、だからな」

 

何も分かっていない少女に、少年が半眼になる。

と、ソコで、後方からそんな2人の名を呼ぶ声が響いた。

 

「ーーーー『エリオット』、『エレン』。こんな所にいたのかい?」

 

「ん?」

 

「ぷは・・・・っ」

 

少年、エリオットが振り抜き、少女、エレンが、止めていた息を吐き出す。

見やるとソコには、いつ現れたのは、線の細い少年がいた。

くすんだような色のアッシュブロンドが特徴的な少年である。歳はエリオットより1つ下の10歳なのだが、何処か大人びていると言うか、老獪な雰囲気を漂わせ、その腕には古い羊皮紙が何枚も重なった本を握っていた。

 

「『アイク』!」

 

彼の姿を認めたエレンが、パァッと顔を輝かせる。『アイク』と呼ばれた少年はニコリと微笑みながら2人の元に歩み寄ってきた。

 

「2人共、またこんな所で練習していたのかい?」

 

「仕方ないだろ。エレンの奴。一向に成功しねんだから。『カレン』の方は優秀だってのに、何で姉妹てまここまで差が出るもんかね」

 

エリオットがヤレヤレと言った調子で言うと、『エレン』が目に大粒の涙を浮かべてしゃくり上げ始めた。

 

「・・・・そんな事言ったって、私だって、好きでできない訳じゃないもん・・・・」

 

「ああもう、泣くなって! ゴメンゴメン、俺が悪かったから!」

 

エリオットが謝ると、エレンは目に浮かべだ涙を手の甲で拭いながら、グスグスと鼻を啜った。そんなエレンの頭を、アイクが優しく撫でる。

 

「大丈夫だよ、エレン。僕も手伝うから、修練所に行こう。ほら、エリオットも。外で『マナ』の可視化をすると、また先生に怒られるよ?」

 

アイクの言葉に、エリオットは嘆息をしながら腕組みをした。

 

「へえへえ。大人達は皆怖がりだからな。好き好んでこんな辺鄙な場所まで来る奴なんていやしないってのに」

 

「まあ、そう言わないでやってよ。仕方ないのさ。先生達の世代は、特に〈魔術師‹メイガス›〉への迫害が激しかったって言うから。ーーーーこの古文書に書かれた、『伝承の魔獣』を倒して来たって云うのに」

 

言って、アイクが古文書を大事そうに抱えながら苦笑する。エリオットはもう1度フウと吐息した。

ーーーー〈魔術師‹メイガス›〉。

そう。世界には、その名で呼ばれる者達が実在する。

ある時は東洋の呪術師と。ある時は占術師と。ある時は薬師と。ある時は魔女と。そしてある時は魔法使い等と呼ばれながら、常人の思考の埒外に、彼らは存在字し続けてきた。

さりとて、御伽話に登場する魔法使いの如く、杖の1振りすれば望む事実を起こす事ができる訳では無い。

魔術とは、常人には見えないモノを見、触れる事のできないモノに触れる事のできる素養もを持った者が、その能力を高める為に修める学問であり、1つの文化体系であった。

そしてエリオット達は、そんな〈魔術師‹メイガス›〉としての素養を受け継ぐ血族の末裔であった。

 

「にしてもだよ。幾ら何でも怖がり過ぎじゃねえの? 先生達なら普通の人間と喧嘩したって負けやしないだろ」

 

「まあ、そうだろうね」

 

「だろ? だったら見られた位でーーーー」

 

「でま、それが1対100なら、1対1000なら話は別だろう?」

 

「そりゃあ・・・・うーん・・・・」

 

昔からアイクは何やら大人びた考え方をしている。エリオットはそれが少し苦手だった。

 

「そう言う事。人は己と違うモノを恐れる。そして恐れは暴走と狂気を生む。知らないと言うのは、何物にも勝る美徳だよ」

 

「けっ、お前の話は良く分かんねぇよ。んで、そんな古い古文書に書かれてる、『伝承の魔獣』や『伝承の魔法使い』の事を調べんのかよ?」

 

エリオットはアイクが抱えている古文書を見てそう聞くと、アイクは饒舌に話しだした。

 

「うん。とても興味深いよ。僕達の先祖達が歴史の裏で繰り広げられた戦いの歴史。神話や伝説の神獣や魔物として世に語り継がれている『絶望から生まれる魔獣』。それを御して戦う『魔法使い』。この力は、先生達すらも凌駕する可能性を持っていると、僕は思うんだ。僕の先祖は『魔獣』の研究を続けていたからね。子孫である僕も、興味が尽きないよ」

 

「うぅ・・・・!」

 

アイクがこの話をすると、エレンはいつも怖がってしまう。あまり長く聞くとエレンが夜にトイレに行けなくなり、おねしょをしてしまうので、エリオットが話を終わらせようとする。

 

「へいへい。その話はもう聞き飽きた。さっさと帰ろうぜ」

 

エリオットがプイと顔を背けながらそう言うと、アイクはふふっと大人じみた笑みを浮かべて、歩いていった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーそして、エリオットはアイクが言った【人は己と違うモノを恐れる。そして恐れは暴走と狂気を生む。知らないと言うのは、何物にも勝る美徳だよ】。その意味をすぐに知る事になった。

 

「あ・・・・あ・・・・」

 

数ヶ月後。

大火に焼かれる故郷を丘の上から見下ろしながら、エリオットは呆然と喉を震わせた。

事故ではない。明確な害意と悪意を以て、何者かが火を放ったのだ。

燃える家々から辛うじて逃げた人々が、外で控えていた男達の銃で殺される。

男達が何者か分からないが、その狙いが、魔術師‹メイガス›の根絶である事は間違いない。

 

「エリオット・・・・エリオット! 村が、私達の村が!」

 

「・・・・ッ、大声を出すな、エレン・・・・」

 

「でも・・・・!」

 

未だに声を上げようとするエレンをギュウと抱き締めるエリオットの胸に、ジワリと彼女の涙が滲んできた。一緒に避難していたエレンの妹・カレンもまた、唇を噛み締めながらエリオットの服の裾を掴んでいる。

突然過ぎる故郷の喪失。それは10歳前後に過ぎない少年少女達が受け止めるには、重過ぎる惨劇であった。

がーーーーそんな中、ただ1人だけ。

さしたる狼狽もなく燃える村を見下ろしている少年の姿があった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

アイクは、顔を熱風に煽られながらも目を閉じる事なく、燃え盛る村を、撃ち殺される同胞達をただジッと見つめていた。

 

「アイク・・・・?」

 

彼が何を考えているのかは伺い知れなかったけれどーーーーエリオットは、火に照らされる友の横顔に、途方もない『違和感』のような物を感じてしまう。

人類の中の異端たる魔術師‹メイガス›。彼は、アイクはその中でも、まるで別種の生物のようなーーーーまるで、『悪魔』のような怪物のように、一瞬、その姿が『竜の怪物』のような異形と重なったと、思えてしまった。

 

「エリオット、エレン、カレン」

 

と。エリオットの思考を遮るように、アイクが、逃げ延びた友達の名を呼んだ。

 

「ーーーー世界を、創ろう。人類を放逐し、魔術師‹メイガス›の為の世界を。これは彼らから始めたんだ。僕らがやってはいけない道理はないだろう?」

 

そして、宣言する。

ーーーー思えばそれが、DEMインダストリーの、最も古い始まりの記憶であった。

 

 

 

 

 

 

 

それから十数年後。10歳程度の子供達が生きていける程世の中と世界は甘くも優しくもなく、最初の数年は孤児院の世話になり、聡明で美少年のアイクは資産家の老夫婦に気に入られ、引き取られ、その老夫婦が『不幸な事故』で泣くなってしまうのに、時間はかからなかった。

エリオット達は十分な資産と隠れ蓑を手に入れたアイクはエリオット達を家に招き入れ、魔術の研究に没頭し、時間の許す限り、思う様神秘を舐った。

神智学。隠秘学。錬金術。カバラ。そして、アイクは村に残された『伝承の魔獣の記述』。『人間』に公開する為に作られた『フェイク』の中から、丹念に丹念に『本物』を掬い取っていく。

そしてーーーーその時がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー“その日”。

 

ユーラシア大陸中央部には、嵐の到来を告げるような静かな風が凪ぎ、野に3つの影が立っていた。

アイク、エリオット、エレン。

“あの頃”から見違える様に成長した3人の魔術師‹メイガス›が、ソコに立っていた。

 

「ーーーーさあ、始めようか。カレン、準備を」

 

《はい》

 

アイクの言葉に合わせ、通信機から観測所にいるカレンの声が聞こえてくる。

それと同時、円形を描くように設置された装置ーーーー魔力炉が、低い唸りを伴って駆動し始めた。

天から、地から、空気中から。

この世界を構成するありとあらゆる物質に宿るエネルギー‹マナ›が、キラキラと光となって周囲に渦を巻いていく。

 

ーーーー『精霊術式』。

 

それが、エリオット達がその儀式に付けた名称だった。

世界に在るマナを1点に集め、新たな命を作り出す。

そしてその力を取り込む事により、本や呪文に齧り付き僅かなマナを弄り回す事しかできなかったエリオット達は、空想の世界に在る『全能の魔法使い』となるのである。

 

「アイク。これでーーーー」

 

「ああ。精霊は生まれる。ーーーー“世界を覆い尽くす新たな世界”を伴って」

 

エレンの言葉に、アイクは唇の端を上げながらそう言った。

 

「ーーーー随意領域。人が思い描いた事を現実とする、万能の空間。計算が正しければ、これより生れ出づる精霊が持つその空間は、地球を覆い尽くす程の規模を誇っている筈だ。それこそ、もう1つの世界ーーーー『隣界』、とでも呼ぶべき規模をね」

 

アイクが、前に突き出した手を拳の形にする。

 

「それが、我々の世界だ。“我々は隣界で以て、この世界を上書きする”」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

エリオットは、その言葉を聞いて、その横顔を見て、コクンと喉を鳴らした。

今更アイクの言う事に異議を唱えるつもりは無い。その為に、エリオット達は十数年の月日を捧げてきたのだから。

けれど、何故だろうかーーーー。

『希望』を語るアイクの横顔が、あの日見た顔と、被って見えてしまったのである。

 

「ーーーー時間だ。精霊が現れる際には余波が予測される。エリオット、護符の準備を」

 

「・・・・っ、ああ」

 

エリオットは小さく肩を震わせると、護符を取り出してマナを集め、3人を覆う障壁を作り出した。

次の瞬間。

 

『ーーーーーーーーーーーーッ!』

 

凄まじい衝撃と共に、視界が真っ白に染まった。

障壁を張っていると言うのに全身を振動が襲い、一瞬耳さえ聞こえなくなる。

まるで頭の直上にミサイルでも落とされたかと錯覚するような、馬鹿げた規模の大爆発。地面が抉り取られ、障壁ごと落下していくかのような感覚がエリオット達を襲う。

 

「はぁ・・・・っ、はぁ・・・・っ」

 

暫しの後、振動が収まってから、漸くエリオットは障壁を解いた。

そして土煙が晴れるのを持って辺りを見回しーーーー言葉を失う。

何も、無かった。

野も、山々も、遥か遠くに見えていた街のシルエットも。

全てが、一切合切悉く消え去ってしまっていたのである。

否ーーーー正確に言うのならば、1つだけ。

今まで無かったモノが、エリオット達の前に、浮遊していた。

 

「・・・・ふ、はは、はははははははははははははははははははははっ」

 

アイクの哄笑が、何も無くなった地平に響き渡る。エリオットが一瞬見たアイクの姿が、あの日に見た、『竜のような怪物』と重なった。

そして、アイクの目の前にいたのはーーーーそれは、少女だった。

全身に淡い輝きを纏った美しい少女が、ソコに現れていたのである。

 

ーーーー精霊。

 

長きに渡る因縁の、始まりの瞬間であった。

 




全ては、ここから始まった・・・・!
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