デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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第十八章、スタート。


狂三ラグナロク
決意・狂三


ー狂三sideー

 

「ーーーー、・・・・っーーーー」

 

自分では声を発しているつもりだが、唇から漏れたのは掠れた吐息のみ。極度の緊張と興奮は僅かな時間で容赦なく心身を疲弊させる。狂三は微かに足を震わせると、そのままその場にへたり込んだ。

 

「『わたくし』!」

 

「大丈夫ですの?」

 

周りにいる分身体達が心配そうに声をかけてくる。

狂三は数度渇いた席をした後、ゆっくりと立ち上がった。

 

「ええ・・・・大事ありませんわ」

 

月は雲に隠れ、地上の灯りがボンヤリと辺りを照らす深夜のビルの屋上。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

狂三は闇に紛れた自分の影をジッと見下ろすと、ゆっくりと足を持ち上げ・・・・。

 

ーーーーガッ!

 

と踵を叩きつけた。

別に〈刻々帝‹ザフキエル›〉や、影の中に潜む分身体を呼び出そうとした訳では無い。

ただーーーー“今し方影の中に呑み込んだ精霊”の事が気にかかっただけだ。そう。狂三はつい先程まで、この場でとある精霊と相対していた。

 

識別名〈ファントム〉。

 

存在をノイズによって覆い隠された謎の存在にして、人間を精霊にする精霊。

そして、そのノイズを剥ぎ取った姿はーーーー士道達の副担任にして〈ラタトスク〉の解析官・村雨令音その人だったのである。

とは言え、影を蹴りつけたからと言って中の状態が分かる訳では無い。

入り口は1つでも、狂三の影には大きく分けて2つの領域がある。

1つは、分身体達が蠢く、出入り自在の隠れ家のような空間。

そしてもう1つは、呑み込んだ者の『時間』を根こそぎ奪い取る為の、胃袋のような空間である。

無論、狂三が令音を呑み込んだのは後者である。

その空間は狂三にとっても不随意。1度呑み込んだ物を自由に吐き出す事はできないし、中の様子を窺い知る事もまた、できないのだ。人間が、自分の体内を肉眼で覗き込む事ができないように。

・・・・影を蹴ったのは、ただ単に、燃え上がるこの情動の行き場が無かっただけだ。

如何に強大な精霊でも、あの空間に呑まれて生きていられる筈はない。狂三はシンと静まり返った静寂の中、小さく息を吐いた。

 

「呆気ないーーーーものですわね。力を切り分け過ぎた精霊など・・・・こんなものですの」

 

そして自分に言い聞かせるように、そう呟く。

実際、アレが彼女の本来の力と言う訳では無いだろう。狂三に不意を衝かれたが故に、天使や霊装さえも顕現させていなかったのだから。

けれど、重要なのは結果である。令音は消え、狂三はココに立っている。ただその事実のみが、この闘争の結末だった。

狂三はもう1度細く息を吐いてから視線を鋭くし、ゆっくりと顔を上げた。

 

「さあーーーー『わたくし達』。これで終わりではありませんわ。わたくしが狙うは、今のような半端者ではなく、30年前の、全盛期を誇った怪物ですわ」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

狂三がよく通る声でそう言うと、分身体が神妙な顔で頷いた。

 

「そしてその為には、士道さんとドラゴンさんのお2人の力が必要不可欠ですわ。ーーーー参りましょう」

 

「ええ、ええ、参りましょう」

 

「DEMの策謀をくぐり抜け、『魔獣ファントム』の魔の手を打ち払い、士道さん達を、〈仮面ライダーウィザード〉を『わたくし』の手に」

 

「力を分配した精霊〈ファントム〉がこの有様ならば、生れ出づる前を潰す事等容易い事ですわ」

 

「ええ、ええ。でもーーーー」

 

と、ソコでふと、1人の分身体が不思議そうな顔をした。

 

「何故〈ファントム〉は、自分の力を切り分けてまで、精霊を増やしたのでしょう。ソレが、己の弱体化を招くのは必定でしょうに」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

分身体の言葉に、狂三は暫し間無言だった。

 

「(確かに・・・・もしも村雨先生、いえ、村雨令音が十全の力を持っていたとしたら、いくらわたくしでも勝ち目は皆無でしょう。精霊を増やすと言う事は、“自分の命を危険にすると言う事”・・・・戲れやお巫山戯で人間を精霊にしているだけとも思えませんわ。何かーーーー『目的』があるのでしょうか・・・・? 自分が力を失ったとしても、成し得たい『何か』が。自分の命が危険にさらされたとしても、成し得たい『何か』が・・・・)」

 

しかし、幾ら考えた所で答えは出ない。その回答をもつ唯一の女は、既に暗い影の中に眠っている。

 

「ーーーーふん」

 

狂三は忌々しげに鼻を鳴らすと、分身体を伴ってその場から去っていった。

 

 

 

 

 

ー琴里sideー

 

「ーーーー司令! 士道くんの反応を補足しました!」

 

天宮市上空に浮遊する空中艦〈フラクシナス〉の艦橋に、クルーの声がけたたましく響き渡る。

それに反応した琴里のツインテールに結ばれた髪がピクンと揺れる。

 

「! でかしたわ、一体どこ!?」

 

琴里は咥えていたチュッパチャップスの棒をピンと立てながら、前のめりになるような格好でメインモニタに視線を注いだ。士道があの『最悪の精霊』時崎狂三とコンタクトを取っている最中に行方が分からなくなり、ドラゴンとも交信ができずになっていたのだ。過剰な反応と言う者はいない。

数秒の後、メインモニタに、マシンウィンガーに乗って人気も車もない道路を走っていたのだ。

ヘルメットで顔は見えないが、心無しか先程までより衣服が汚れている気がする。それに、一緒にいた筈の狂三の姿は、何処を探しても見つからない。ドラゴンに交信しようてしても通じない。

 

「一体、何があったの・・・・? 兎に角、一旦士道を回収してちょうだい!」

 

「はっ!」

 

琴里の声に答え、クルーがコンソールを操作した次の瞬間、微かな駆動音と共に〈フラクシナス〉が移動し、モニタに中にいるマシンウィンガーに乗る士道の姿が掻き消えた。

そしてその数瞬後、それと入れ替わるように、艦橋内部に設置された転送装置の上に、士道をマシンウィンガーと共に淡い輝きを伴いながら出現する。

 

「士道!」

 

琴里は喉を震わせると、艦長席から立ち上がってソチラへと駆け寄った。

 

「無事!? 一体何があったの!? 狂三はーーーー」

 

と、士道の服の袖を掴んで捲し立てるように問いを発していた琴里は、不意に言葉を止めた。

ヘルメットを脱いだ士道の顔を覗き込むと、その顔には。

煩悶と、悲哀と、幾ばくかの悔恨。そしてそれらによって形作られたーーーー決意の表情を。

確かに士道は、狂三の霊力を封印するという確固たる意志を以て狂三と対していた。けれど、今の士道から感じるのは、それさえも超えた、微かな狂気さえ滲ませた悲愴な使命感だったのだ。

それこそーーーー自分の命を捨ててでも、何かを救わねばならないと思い詰めているかのような。

その双眸の奥に燃える輝きに、琴里は一瞬圧されてしまったのだ。

 

「(ーーーードラゴン・・・・何が、起こったの?)」

 

《・・・・・・・・我々、知らない所で、〈ナイトメア〉がとてつもない事をしていたのだ》

 

それって、と琴里が聞こうとする前に、士道が静かに顔を上げ、唇を開く。

 

「皆を集めてくれないか。話すよ、全部。今、いやーーーー“今のまで”、何があったのかを。狂三が何をしたのかを。俺に、何をしてくれたのかを」

 

聞きたい事が山程あるし、狂三の所在が確認できていない以上、一刻も早く情報が欲しいのだ。いつもの琴里なら、「何を勿体ぶってるのよ」、と無理矢理にでも先を促していただろう。

しかし、できなかった。それくらいに有無を言わせぬ雰囲気と、触れれば砕けてしまいそうな痛ましさが、今の士道にはあったのである。

 

「・・・・ええ、分かったわ」

 

琴里は小さく息を呑み、コクンと首を前に倒した。

そして気を取り直すように深呼吸をしてから、クルー達に指示を発する。

 

「椎崎、マンションにいる精霊達を回収して! 箕輪は折紙、美九に連絡をお願い! それに唐揚げ工場から帰ってきた二亜も回収して! 川越、幹本は引き続き狂三の反応を探ってちょうだい!」

 

『了解!』

 

琴里の淀みない指令に、クルー達が一斉に応える。琴里は小さく首肯すると、次いで左方に視線をやり、

 

「後は令音、仁藤捜査官に連絡を取って真那と一緒にーーーー」

 

ーーーーと。

そこまで言いかけて、琴里は眉根を寄せた。

視線の先には、コンソールの前に腰掛けた〈ラタトスク〉の解析官にして、琴里の親友・村雨令音である。

 

「・・・・ん、了解した。真那を呼んでおこう」

 

令音がユラリと頭を前に倒し、琴里の声に応える。

別段おかしな事は無い筈だった。彼女の容貌も、声も、受け答えも、全てが普段のままである。

けれど、何故だろうか。琴里はその光景に、奇妙な『違和感』を覚えてしまったのである。

 

「・・・・琴里?」

 

「っーーーー」

 

令音に名を呼ばれ、ハッと肩を揺らす。

 

「ああ・・・・ごめんなさい。お願いするわ(・・・・どうやら少し神経質になっているわね)」

 

琴里は軽く頭を振ると、そう返して視線を元に戻した。

 

 

 

 

 

 

ードラゴンsideー

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

士道のアンダーワールドの中で、士道の視界を通して、ドラゴンはーーーー村雨令音を見据えていた。

 

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

「皆・・・・狂三は・・・・」

 

士道が話を始めた。そしてーーーー1時間後。士道が〈フラクシナス〉にされ、艦内に設えられたブリーフィングルームにて、

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

沈黙がその場を支配されていた。

室内には士道とドラゴン(思念体)を含め、十香、折紙、琴里、四糸乃、耶俱矢、夕弦、美九、七罪、僅かに卵黄が服に付けた二亜、六喰といった精霊達に、令音、真那、ビーストキマイラ(思念体)、仁藤。そして付け加えるならば、〈フラクシナス〉の管理AIであるマリアも、画面を通してこの状況を見ている筈だった。

しかしそれだけの人数が揃っているのに、先程から言葉を発する者はおらず、皆押し黙って難しげな顔をしていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

特に真那は、理解できても納得がいかないといった様子で、腕組みしながら眉根に深い皺を刻んでいた。

しかし、それも無理からぬ事でもある。

皆、聞いてしまったのだ。知ってしまったのだ。士道とドラゴンが、知らせてしまったのだ。

〈ナイトメア〉時崎狂三と言う精霊が如何にして生まれ、何故『最悪の精霊』と言う悪名と、それに連なって積み重ねてきた罪を背負う事に至ったのかを。

そしてそんな彼女が、士道とドラゴンを死の運命から救う為、幾度も世界をやり直した事を。

士道は伝えた。包み隠さず、誇張なく、偽りなく。

ドラゴンも肯定する。その足跡を、その歴程を、そしてそのーーーー悲痛過ぎる想いを。

2人だけでソレを受け止める事に不安を感じないと言えば嘘になった。どうすれば狂三の行為に報いる事ができるのか、皆に相談したいと言う思いも確かにあった。

けれど何よりもーーーー士道は、知って欲しかった。

時崎狂三と言う少女が、単なる私利私欲や快楽の為に罪業を重ねた悪逆の徒では無い事を。

図らずも犯させられた過ちから、人を、友を、世界を救う為に、茨の道を進む事を選んだ、彼女の気高い決意を。

 

『(・・・・まあ、〈ナイトメア〉はこんな話を知られるのは嫌がるだろうがな)』

 

ドラゴンがそう思っていると、沈黙していた精霊達が口を開く。

 

「むう・・・・まさか狂三に、そのような事があったとは」

 

「びっくり・・・・です」

 

先ず声を発したのは十香と四糸乃だ。2人とも双眸をまん丸に見開きながら、タラリと頬に汗を垂らす。

 

「・・・・俄には信じられねーですね」

 

と、ソコで、最も狂三と因縁深い相手である真那が、その凛々しい双眸を懐疑と困惑で訝しげな形に歪めていた。仁藤は何も言わず、ただ真那の後ろで控えながら黙していた。

 

「あの悪逆非道人面獣心心滅獣身、ついでに性格最悪焼肉定食キッチンいちのせの〈ナイトメア〉が、皆を救うつもりだった? 笑えないジョークでやがります」

 

『『本当に笑えない(わよ)』』

 

そう言って、真那とビーストキマイラはオーバーリアクション気味に肩を竦める。

しかしそれも当然でもある。真那と狂三は今まで幾度となく剣を交えてきた、所謂宿敵同士なのだ。突然そんな事を言われても、スンナリと納得できる訳では無い。

 

「真那、ビースト、お前らの気持ちと分かるよ。でもーーーー」

 

だが。士道がソコまで言いかけた所で、真那が目を伏せながら、士道の言葉を制するように手の平を広げてきた。

 

「・・・・とは言えまあ、兄様が真那に嘘を言う確率とどっちが上かと言われたら、僅差で信じざるを得ねーですけどね」

 

言って、真那がヤレヤレだぜと吐息をする。

 

「真那・・・・」

 

「おっと、勘違いしねーで下さいね。あくまで私は兄様の言葉を信じただけで、あの女を認めた訳じゃねーですからね」

 

「・・・・何かややこしいわね・・・・それって同義じゃないの? いや何となく言いたい事は分かるけど・・・・」

 

七罪が頬に汗を垂らしながら言う。けれど真那はさして興味なしな様子もなく言葉を続けた。

 

「それより兄様、それとは別に、もう1つ気になる事がありやがるんですが」

 

「ん・・・・なんだ?」

 

士道が首を傾げると、真那は指を1本立て、真剣な眼差しで士道を見つめながら問うてきた。

 

「兄様が体験したっていう〈ナイトメア〉、時崎狂三の過去。ーーーーソコに登場しやがった、『崇宮澪』って女の事です」

 

「・・・・・・・・」

 

真那の言葉に、士道は小さく喉を鳴らした。

『崇宮澪』。その少女が狂三を精霊にした元凶。その彼女が、折紙に琴里、美九と二亜と六喰を精霊に変えた、精霊〈ファントム〉の正体なのか。そして、『崇宮』と言う真那と同じ性で、以前暴走した際に士道が口走った『澪』と言う名前。

この符号の数々を偶然と片付けるのは無理があり過ぎる。

何しろ相手は精霊だ。何十年と歳を重ねても老化する事はないので、過去の記憶の無い士道と真那の親戚筋なのかも知れない。

皆が少ない情報でウンウン唸っていると、六喰が可愛らしい吐息を漏らす。

 

「ふむん。何とも奇異な話じゃの。ーーーーじゃが主様、そんなに気になるのであれば、思い出してみれば良いのではないのかの」

 

『ーーーーなるほど。流石は六喰だ』

 

ドラゴンが六喰の頭を優しく撫でてやると、六喰はくすぐったそうに笑みを浮かべる。

 

「どういう事だドラゴン(バシンっ!)サイコっ!?」

 

今一六喰の言葉が分からない士道に、尻尾を伸ばしたド突きが炸裂した。

 

『察しの悪い低脳めが。〈封解主‹ミカエル›〉を使えと言っているのだ』

 

「っ!」

 

言われて、士道はハッとした。目に見えない『記憶』と『感情』を『閉じる』、また『開く』力をもつ強力無比な鍵の天使〈封解主‹ミカエル›〉を使えば、確かに記憶を取り戻せる。

士道は俄に激しくなった動悸を抑えるように胸元に手を置いた。否、士道だけでは無い。居並んだ精霊達もまた、驚きと期待を滲ませた表情を六喰に注いでいた。

 

「・・・・士道」

 

「ーーーー琴里」

 

そんな中、最も顕著な反応を示して士道を見つめているのは琴里だ。険しいその表情からは緊張が出ていた。

琴里は分かっていたのだ。〈封解主‹ミカエル›〉の可能性に。しかし、言えなかった。

過去の記憶を取り戻したとしても、士道達の望む物とは限らないし、最悪の場合、本来の記憶を取り戻した事で、今の士道に何らかの悪影響を与える可能性があったからだ。

ーーーーだが。

 

「大丈夫だ。俺は、何があってもお前の兄ちゃんたからな」

 

士道はそう言うと琴里の頭をワシワシと撫で、ニッと微笑んで見せた。

 

「おにーちゃん・・・・」

 

琴里は一瞬感極まったように目を潤ませたが、皆が目(何人かがニヤニヤ)がある事を思い出してか、すぐに頭を振ってフンと息を吐いた。

 

「・・・・べ、別に心配なんてしてないわよ。そんなーーーー当然の事/////」

 

頬を赤く染めながら琴里が唇を尖らせる。その様が何とも愛おしくて、士道は頭を撫でる力を強めた。

 

「はは・・・・ああ、そうだな」

 

『素直じゃないのう』

 

『ああ言うのをツンデレって言うのか?』

 

『正直言ってツンデレなんて、ただのめんどくさいキャラに過ぎないわよ』

 

『付き合うとしたら、相当心の広い人間じゃなきゃ長続きしないな』

 

『ウモウモ』

 

瞬間、キマイラズのコメントに、キッと琴里が睨むと、キマイラズはソッポをむき、さらに琴里が視線をドラゴンに向けると、スマホで士道との映像を録画しているのを見て、殺意の波動を纏いながら無言で早歩きをしながら離れるドラゴンを追い、士道はそんな琴里に苦笑する。

 

「コホンコホン」

 

と、次は真那がわざとらしい咳払いをし、少し不機嫌そうな顔をしていた。

 

「あ、いや、勿論真那も俺の可愛い妹だぞ・・・・?」

 

士道が慌てて申し開きをするが、真那は肩を竦めて見せた。

 

「冗談ですよ。今の兄様から変わって欲しくねーのは真那も一緒です。でも、もし過去の記憶を取り戻す手段があるなら、試してみてーのも確かです。一体崇宮澪が何者なのか、私と兄様に何があったのか、知りたい事は尽きねーです」

 

「・・・・ああ」

 

決意と共に首肯した士道は、頭に『カマエルブレイカー』を叩きつけられたドラゴンに目を向けた。

 

「ドラゴン。頼む」

 

『ーーーーああ』

 

ドラゴンは『カマエルブレイカー』を引っこ抜くと、六喰から『ミカエルリング』を受け取り、士道に渡しドラゴンは士道の体内に戻った。

士道はリングを右手中指に嵌めてドライバーに読み込ませた。

 

[ミカエル プリーズ!]

 

ドライバーの音声が響くと、右手を前に翳し金色の魔法陣が展開され、中からーーーー先端が鍵のような形状をした巨大な錫杖、鍵の天使〈封解主‹ミカエル›〉が姿を現した。

 

「おお・・・・!」

 

「〈封解主‹ミカエル›〉・・・・」

 

精霊達が息を呑む。

士道は心を落ち着けるように深呼吸をすると、顕現して〈封解主‹ミカエル›〉を両手で持ち、自分の頭に突き刺そうとした。

・・・・が、〈封解主‹ミカエル›〉があまりに大き過ぎて、上手くいかない。そのコミカルな様子に、精霊達が苦笑する。

 

「うぐ・・・・」

 

《トコトンに馬鹿だな貴様は》

 

「そのままでは扱い辛かろう、主様。〈封解主‹ミカエル›〉を手にしていると言う事は、既にその力を知っている筈じゃ。【小鍵‹テフエテー›】を使うが良い」

 

六喰が出来の悪過ぎる弟子に教えを授ける女仙の様子でそう言うと、士道はボンヤリとその権能が、頭の中にイメージできた。精霊達もこうして自分の天使の権能を理解して使っているのだろう。

 

「〈封解主‹ミカエル›〉ーーーー【小鍵‹テフエテー›】」

 

その名を呼ぶと、握っていた巨大な錫杖が、みるみる内にその姿を収縮させていき、手の平サイズへて変貌した。

成る程、これならば取り回しが利きやすい。恐らく六喰も自分の頭に鍵を刺す時は、この形態を用いていたのだろう。

 

「よし・・・・」

 

士道は改めて呼吸ん整えると、手にした鍵をゆっくりと自分のコメカミにあてがった。

 

「ーーーーじゃあ、行くぞ」

 

「うむ・・・・!」

 

「案ずるでない。〈封解主‹ミカエル›〉を信じるのじゃ」

 

「あぁん! だーりんの中にあんなトゲトゲしたものがぁ!」

 

「・・・・美九、ちょっと黙ってて」

 

精霊達が口々に言ってくる。士道はアハハと苦笑した。

良い具合に肩に力が抜けた。士道はもう1度深呼吸をする。

 

「行くぜ、ドラゴン・・・・!」

 

《さぁ、記憶を巡る時だ》

 

相棒‹ドラゴン›にそう言って、一息に〈封解主‹ミカエル›〉の先端を頭に差し込んだ。




次回。士道とドラゴンは、物語の核心へと近づく。
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