デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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狂三が語るのは?


告げられる、決戦の刻

ー士道sideー

 

「・・・・狂三!?」

 

士道は影からゆっくりと浮かび上がってくる狂三の容貌を見つめながら、コクンと息を呑んだ。

ソコにいるのは確かに時崎狂三である。しかし、今自分達の目の前に現れたのは、レースとフリルで飾られたモノトーンのブラウスにスカート。髪は括っておらず、その代わり薔薇の飾りが付いたカチューシャを着けていた。しかし、最も特徴的だったのはその顔だろう。時計の文字盤を覆い隠すように、左目に医療用の眼帯を装着しているその分身体は、5年前の世界で出会いーーーー先日、狂三の真実を伝えてくれた『5年前の狂三』である。

 

「うふふ、ごきげんよう、士道さん、ドラゴンさん、琴里さん」

 

影から完全に姿を現してから、眼帯狂三がスカートの裾を摘んで優雅に礼をして見せる。

けれどそんな慇懃な挨拶にも、ドラゴンと琴里は警戒を緩めなかった。緊張感を帯びた視線で彼女を見つめ、琴里が唇を開く。

 

「おはよう、狂三。今日は随分と素敵な格好をしてるじゃない」

 

「うふふ、お上手ですわね、琴里さん。流石、血が繋がっていないとは言え士道さんの妹さんですわ」

 

狂三が嫋やかに微笑んで見せる。その毒気の無い様子に、琴里は少し違和感を覚え始める。

 

「・・・・でも、マナー違反じゃないかしら? 人様の家に勝手に上がり込むだなんて」

 

「あら、あら、これは失礼致しましたわ」

 

が、狂三はすぐに妖しい笑みを顔に貼り付けると、そのまま続けた。

 

「では、そのお詫びと言う訳ではありませんけれど、代わりに良い事を教えて差し上げますわ」

 

「良い事・・・・?」

 

琴里が怪訝そうに眉をひそめると、狂三は艶かしい仕草で唇に指を触れさせた。

そして、真っ直ぐに士道達を見据えながら、静かに言葉を発してくる。

 

 

 

「ーーーー今から4日後の2月20日。DEMインダストリー社が、その総力を以て士道さんを殺し来ますわ」

 

 

 

その、絶望的過ぎる言葉を。

 

「・・・・・・・・は?」

 

[ドラゴライズ プリーズ!]

 

あまりに唐突に己の殺害計画を告げられ、士道は目をまん丸に見開き、ボカンとした士道の身体をドラゴンが操作して、自分を思念体として召喚させた。

 

『正気に帰れ』

 

ーーーーバシィンッ!!

 

「ザクレロっ!?」

 

「・・・・どういう事?」

 

ドラゴンが尻尾ド突きで士道に喝を入れるのを視界の端に入れながら、頬に汗を垂らす琴里は眼帯狂三を睨み付ける。すると、眼帯狂三は目を伏せながら続ける。

 

「どう言う、と仰られましても。そのままの意味ですわよ。

世界1位の顕現装置‹リアライザ›メーカーにして、世界最多の魔術師‹ウィザード›戦力を保有する組織が、『世界の厄災 精霊』の天敵である『魔獣ファントム』の軍団と、全知の魔王の情報力、幾千幾万の自動人形、そして擬似精霊を、たった2人の人間と魔竜を殺す事にのみ注ぎ込もうとしているーーーーと言っているのですわ」

 

「な・・・・」

 

『随分と大仰な事だな』

 

士道は絶句し、ドラゴンはフンと鼻を鳴らした。

これまでDEMに命を狙われ、戦いを繰り広げ、狂三の言葉によれば幾度も殺されていた。

とは言え、これまで『奇襲』や『暗殺』のような手口で命を刈ってきた。

しかし、眼帯狂三が今語ったのは、明らかに持てる戦力を全て使って敵を殲滅するーーーー『戦争』と呼ばれる物であった。・・・・否、眼帯狂三が情報提供してくれていなければ、士道とドラゴンが『インフィニティスタイル』になったとしても、数の暴力に押し潰されていたかも知れない。それは一方的な『虐殺』と言った方が適切か。

士道が愕然となっており、ドラゴンがド突きで正気に返していると、琴里が険しい顔で腕組みしながら言う。

 

「ーーーーそれで、そのありがたい情報を、わざわざあなたが伝えた理由は何かしら、狂三。・・・・一体、何が目的なの?」

 

「あら、あら。邪推が過ぎますわよ、琴里さん。わたくしはただ、士道さん達の身を案じているだけですわ」

 

「ふうん・・・・」

 

疑わしげに目を細める。そして、眼帯狂三の真意を探るようにその顔を睨め回す様子に、眼帯狂三がフフッと苦笑する。

 

「琴里さんは、1つ勘違いをしておられるご様子ですわね」

 

「・・・・勘違い?」

 

「ええ、ええ」

 

眼帯狂三が大仰に頷くと、芝居がかった調子で続ける。

 

「分身体が今ここにいる事を、本体は知りませんの。わたくしが先程の情報をあなた方に流したのもまた、わたくしの独断ですわ」

 

「え・・・・?」

 

「なんですって?」

 

『貴様の独断で動いた?』

 

3人は顔を困惑に染めた。今目の前にいる眼帯狂三は、本体である時崎狂三の指示に従って動く尖兵であると認識されているのだ。

そんな一同の表情を可笑しそうに眺めながら、眼帯狂三が言葉を継いでくる。

 

「『わたくし』はこの件を、『わたくし』達のみで処理するつもりですわ。ーーーー何度繰り返す事になろうと、士道さんが生き残る未来を掴み取るまで」

 

「・・・・っ」

 

「けれど、そんな『わたくし』の行動も、敵には知られているでしょう。ーーーーそれ故の総力戦。それ故の殲滅戦。DEMとワイズマン達の作戦は、単に士道さんとドラゴンさんを殺すだけの手段ではなく、時を渡る『わたくし』の心を挫く為の手管なのですわ。奇手、奇策、奇計。そんな些事では覆しようのない、鉄の暴風雨。物語に強制的に終焉をもたらす機械仕掛けの神‹デウス・エクス・マキナ›の名に相応しい、強攻な1手でしてよ」

 

「・・・・・・・・、成る程」

 

たっぷり一拍を置いてから、琴里が言葉を溢す。

 

「つまりあなたがここに来た理由は、士道達に避難を促す為・・・・って訳? 狂三達が戦っている間、〈ラタトスク〉に士道達を保護していろと?」

 

「うーん・・・・確かにそうしていただけるとありがたいですけれど、それだけでは正解にはできませんわね。第1、わたくしにそう言われて、はいそうですかと、大人しく避難するお2人ではないでしょう?」

 

「・・・・はあぁ〜、確かにね」

 

チラッと士道とドラゴンを見て盛大なため息を吐く琴里に、士道は申し訳なさそうに苦笑し、ドラゴンは当然と言わんばかりにフンと鼻で笑う。

 

「なら、どうしてあなたは本体の狂三に黙って、私達にソレを伝えに来たって言うのよ」

 

琴里が改めて、訝しげな顔で問う。すると眼帯狂三は神妙な顔を見せた。

 

「まぁ、理由の1つはーーーーワイズマンさん達が妙な動きを見せているのですわ」

 

「っ、ワイズマン達が?」

 

「ええ。ワイズマンさんの要請で、DEMの本社があるイギリスから、数名の〈仮面ライダーメイジ〉が来るのですが、どうにも何やらキナ臭い雰囲気があるのですわ」

 

『(・・・・キナ臭い動き、か)』

 

「もしも『魔獣ファントム』達の企みが動いているのなら、如何に『わたくし』でも対処できないですから。それに、『わたくし』がそれだけ頑張っていると言うのに、守られている士道さん達がそれを知らないなんて、勿体無いではありませんの」

 

言って、士道を見つめながらパチリとウインクをして見せた。士道はドキリとすると空かさず、ドラゴンがバシリッと、ド突きを炸裂させた。

 

「グフっ!ーーーー成る程な」

 

「まあ・・・・下手に講釈捏ねられるより分かりやすくて良いわ。本物の狂三も、あなた位話が分かると助かるのだけれど」

 

腕組みをしながら憎まれ口を叩く琴里に、眼帯狂三が楽しげにケタケタと笑った。

 

「うふふ、ふふ。それは申し訳ありませんわ。『わたくし』は少々強情な処がありますの。ーーーーでも、士道さんとドラゴンさんを守りたいと言う気持ちは本当ですのよ? それだけは、分かって上げて下さいまし」

 

「ふん・・・・その後に、『士道の霊力とドラゴンの融合エネルギーを奪う為』、って言葉が付かなければ吝かじゃないけど?」

 

「・・・・うふふ」

 

琴里が言うと、眼帯狂三は弁解をするでも無く静かに笑い、スカートを翻しながら、クルリと後方を向く。

 

「ーーーーさて、わたくしの目的は達しましたわ。これで失礼致します。『わたくし』の為に、どうか生き延びて下さいまし、士道さん。ドラゴンさん」

 

言って、眼帯狂三が、自分の影の中にズブズブと沈み込んでいく。

 

「狂三!」

 

士道は、眼帯狂三が消えてしまう前に、慌てて腰元まで影に浸かったその背に声をかけた。

 

「はい? 如何しまして、士道さん」

 

応ずるように振り向いてくる。その様はまるで、湖畔で水浴びをする麗しい乙女のようであった。・・・・まあ、湖の水が漆黒で、少々禍々しくあったが。

眼帯狂三の目を見据え、喉を震わせる。

 

「教えてくれて、ありがとう。もし可能なら、狂三を伝えてくれ。ーーーーありがとう。俺とドラゴンはお前のお陰で、今も生きている。前は碌にお礼を言えずにすまなかった。お前が今からやろうとしている事も聞いた。俺達を守ってくれて、本当にありがとう。でも」

 

士道は視線を鋭くすると、胸に抱いた決意のままに続けた。

 

「ーーーー悪いが俺にだって男の子の意地がある。お前に助けられてばかりじゃいられない。プライドの高いドラゴンなら、お前に『借り』を作ったままなんて我慢できない筈、だろ?」

 

『ーーーーフン。当然だ。いい加減DEMもワイズマンどもも鬱陶しいからな。全員まとめて片付ける良い機会だ!』

 

ドラゴンが中指を立てて勇ましく言って、その言葉に頷くといて道も続く。

 

「俺はきっとまたお前の前に立つ。そしてお前の霊力を封印・・・・いや、違うな、そうじゃない」

 

一瞬フッと瞼を閉じた後、士道はカッと目を見開いた。

 

「ーーーー今度は俺から、お前の唇を奪ってやる。覚悟しておけよ、愛しい君‹マイハニー›」

 

『・・・・・・・・・・・・オェッ!』

 

そして、ドラゴンが吐きそうな声を上げるが、自分でも恥ずかしくなる気障ったらしい言葉を告げた。

 

「・・・・・・・・・・・・ぷ、ふふ」

 

眼帯狂三は数秒の間ポカンとした様子で士道を見ていたが、やがて、堪えきれないと言った様子で腹を抱えて笑い始めた。

 

「あははは、はははははははっ! 成る程、成る程・・・・素晴らしい啖呵ですわ。『わたくし』は幸せ者ですわね」

 

ひとしきり笑った後、眼帯狂三は目元を拭いながら返してきた。

 

「・・・・でも、酷な事をしますわ、士道さん。先程申し上げたではありませんの。わたくしは、『わたくし』に内緒でここに来ていると、その伝言を伝えると言う事は、わたくしが独断専行をしていた事を白状するに等しいではありませんの。思い通りに動かぬ手足は間引かれるが定め。わたくしに死ねと仰いますの?」

 

「あ・・・・」

 

言われて士道は目を見開いた。

 

『(わざとらしい。あの抜け目ない〈ナイトメア〉が、分身体の動きに勘付かないマヌケだと思っているのか?)』

 

ドラゴンはそう確信しているが、士道は訂正するように慌てて頭を下げる。

 

「す、すまん、そう言うつもりじゃ・・・・」

 

「ええ、ええ。優しい士道さんがそんな事を考えている等とは思っておりませんわ。ーーーーけれどわたくし、仮初めの命とは言え、散らすならば『わたくし』の礎として、と決めておりますの。申し訳ありませんけれど、その言葉を伝える事を確約はできませんわ」

 

「・・・・ああ、悪かったな」

 

士道が言うと、眼帯狂三はクスクスと笑いながら背を向けた。

 

「嗚呼、嗚呼。本当に非道いお方。ーーーーそんな言葉、この首に賭けてでも『わたくし』に伝えたくなるに決まっているではありませんの」

 

そして心底楽しげにそう言って、眼帯狂三は影の中に消えていった。

 

『「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」』

 

暫しの間、部屋に沈黙が流れる。

3人は眼帯狂三が消えた場所を凝視したまま、静かに思案を巡らせていたのだ。

 

「・・・・なあ、琴里」

 

「・・・・ええ」

 

やがて士道が口を開くと、それを待っていたと言わんばかりに、琴里が答えてきた。

 

「あなたの言う通りよ、士道。精霊に全てを任せるなんて、〈ラタトスク〉の名折れも良いところだわ」

 

そしてポケットからチュッパチャップスを1本取り出し、クルリと指で回転させてから、口に放り込む。

 

「ーーーー狂三に、DEMに、私達のやり方を見せてあげましょう」

 

 

 

 

 

 

 

ー令音sideー

 

「・・・・・・・・」

 

空中艦〈フラクシナス〉の休憩エリアで長椅子に腰掛けながら、令音は無言のまま空を眺めていた。

そう。『空』である。休憩エリアの天井は透明度の高い強化ガラスで覆われており、青い空と白い雲、そして煌めく陽光を艦内に零していた。

顕現装置‹リアライザ›によって駆動する空中艦は、随意領域‹テリトリー›によって艦体を防護している為、通常の戦艦よりも本体装甲の重要性が低い。それ故多少の強度を犠牲にしても、非常時長期間に亘って精霊を収容する可能性を考慮し、このような休憩エリアや快適な宿泊環境、レクリエーション施設等が充実していた。

・・・・と、尤もらしい理由だが端的に言うと、琴里めウッドマンも、こういう『遊び』が好きなのだ。

とは言え、それも悪い事ではなく、そもそも空中艦、そして顕現装置‹リアライザ›と言う物自体が、本来であれば世界に存在し得ない物なのだ。

ーーーー精霊と言う存在にもたらされた、人知を超えた空想具現化装置。

ならばそれが精霊の為に用いられるのは、至極真っ当な事だろう。実際、〈フラクシナス〉改修後にここを訪れた精霊達はここからの景色に大層はしゃいでいた。

 

「・・・・ふ」

 

それにーーーー令音もまた、この場所が嫌いではなかった。

小さく息を吐き、天を仰ぐように長椅子に横になる。

そして〈ラタトスク〉制服の胸ポケットから顔を出しているクマのぬいぐるみを取り出すと、『高い高い』をするように両手でそれを掲げた。

 

「・・・・・・・・」

 

そして空をバックにボンヤリとそのクマを見つめる。

年季の入ったぬいぐるみ。可愛らしい造形をしているが、身体のアチコチに施された繕いのせいで、まるでゾンビかフランケンシュタインの怪物のような様相であった。

 

「・・・・あと1つ、いや・・・・2つか」

 

令音は小さな呟きを零した。すると、まるでそれに応えるようにポケットに忍ばせていた通信端末が微かに震える。

 

「・・・・ん」

 

令音がムクリと身を起こすと、クマのぬいぐるみを胸ポケットにしまい、代わりに通信端末を取り出し、通話ボタンを押すと、すぐに椎崎の声が聞こえてくる。

 

《ーーーー! あ、村雨解析官。椎崎です》

 

どうやら何か起こったらしく、微かな緊張と焦燥が感じ取れた。

 

「・・・・ん、どうかしたかね」

 

《至急、ブリーフィングルームに集合して下さい。ーーーー今朝、司令と士道くんの元に時崎狂三が現れ、DEMと『魔獣ファントム』が総攻撃を仕掛けてくると予告していったそうです。これから対策会議を行います・・・・!》

 

「ふむ・・・・」

 

令音は微かに眉をひそめると、もう片方の手で顎を撫でた。

『総攻撃』の可能性自体は想定できていない訳ではない。DEMのトップはあのアイザック・ウェスコットであり、その手には魔王〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉があるのだ。狂三の時を越えた暗躍が看破されるのも、時間の問題だろうと思っていた。

 

「・・・・分かった。すぐに向かおう」

 

《は、よろしくお願いします》

 

椎崎の言葉を持って、令音は通信端末のボタンを押し、それをポケットに押し込みながら、長椅子から立ち上がる。

 

「・・・・来るか、『魔術師』。そしてーーーー『この世界の理‹ことわり›の外にいる魔獣』」

 

令音は静かにそう言うと、細く息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

ーーーー〈フラクシナス〉のブリーフィングルームに設えられた巨大な円卓の最奥に、司令・琴里が鎮座し、それを起点に士道、そして十香達精霊(ドラゴンは七罪の頭の上に鎮座)が腰掛け、対面に当たる場所には、真那に仁藤のコンビや神無月や令音を初めとした〈フラクシナス〉クルーが座っている。

そして円卓の中央には4方向にディスプレイが設置されており、ソコに『MARIA』の文字が浮かんでいた。

琴里の要請によって集められた、対策チームである。

DEMとファントムが総力を挙げて士道とドラゴンを殺しに来る。数で劣る〈ラタトスク〉としては精霊を戦力として数えない訳にはいかないしーーーー何より、そんな重要な作戦を彼女達抜きで行おうとしたなら、逆に精神状態が乱れてしまうだろう。

ついでに、超人的な洞察力と盗聴技術を持つ折紙を相手に、隠れて大規模な作戦行動を行うのは、如何に〈ラタトスク〉とは言えまず不可能である。

かくして、精霊・人間・魔獣混交の対策会議は始まった。皆をグルリと見回して、琴里がゆっくりと席を立つ。

 

「ーーーー良く集まってくれたわね、皆」

 

琴里の良く通る声が、ブリーフィングルームに響き渡り、皆の視線が琴里に一斉に集まる。

 

「既に話は通っていると思うけれどーーーー今朝、私達の前に狂三が現れて、『魔獣ファントム』とDEMインダストリーの同盟が大規模な襲撃を計画しているとの情報を残していったわ。目的はーーーー士道とドラゴンの殺害による精霊・の反転と、それにより生まれる『スピリット・ファントム』を産み出す事」

 

『・・・・・・・・っ』

 

琴里の言葉に、精霊やクルー達が息を呑む。

 

「勿論狂三の言葉が嘘と言う可能性もゼロではないけれど、状況から言ってこの情報の信憑性は低くない。〈ラタトスク〉としては、対策を立てない訳にはいかないわ。ーーーーマリア」

 

『はい』

 

琴里が言うと、部屋に設えられたスピーカーから〈フラクシナス〉の管理AI・マリアの澄んだ少女の声が響いた。

 

『ーーーーまず考えられるのは、士道、ドラゴン、及び精霊を安全な場所に退避させ、彼らの襲撃をやり過ごす作戦です。〈ラタトスク〉は世界各地に基地を保有していますので、場所には事欠きません。しかしーーーー』

 

「ええ。相手には全知の魔王〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉がある。二亜のジャミングによって十全の性能を発揮できないとは言え、士道の居場所のみに焦点を合わせて検索をされたなら、何処に隠れようと見つけられてしまうでしょうね」

 

『その通りです。本当に厄介な魔王を簒奪されたものです。誰かさんがしっかりしてさえいればこのような事態にはならなかったのに』

 

マリアが溜め息交じりにそう言う。何とも人間臭いと言うか、芸達者な人工知能である。画面の文字が明滅しているだけなのに、何故か少女が深くヤレヤレだぜ、と肩をすくめている姿が見える。

 

「へーへーそらすんませんでしたゴメンねゴメンねー」

 

二亜が頬杖を突きながら拗ねるように言った。元々ウェスコットの持つ魔王〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉は、二亜の天使〈囁告篇帙‹ラジエル›〉である。

とは言え無論、それを奪われたのはDEMの悪辣極まる策謀故、二亜ばかり責めるのはお門違いとも言える。

皆は分かっているのだが・・・・何故かマリアは、二亜に対して妙に当たりが強いのだ。最初はその塩対応にショックを受けていたが、段々慣れてきたらしい二亜は、今もヒラヒラと手を振りながら半眼を作っている。

 

『まあ、今更言っても始まりません。建設的な話をしましょう』

 

『余計な事を言わずに、最初からそうすればいいだろうに。無駄な時間を』

 

「べーっだ!」

 

マリアが話を変えるように言うと、七罪の頭の上でドラゴンが呆れ果てた声を発し、二亜が小学生男子のように舌を出した。

マリアは少しイラッとしたようだったが、時間を無駄にしたくないのか、二亜の挑発に取り合うと自分の精神年齢まで引き下げられると思ったのか、何事も無かったように続けた。

 

『退避策が効果的でないとなると、残りは2つです。1つはーーーー『交渉』』

 

「・・・・まあ、現実的とは言えないな」

 

『それでどうにかなるような簡単な相手なら、苦労などせんがな』

 

マリアの言葉に、士道は頬に汗を垂らしながら返し、ドラゴンを溜め息交じりに言うと、精霊達も同意するようにウンウンと頷いた。

相手は幾度も死闘を繰り広げてきた2つの勢力。しかもその目的が、士道達を殺し精霊を反転させその霊結晶‹セフィラ›を奪い、精霊から生まれる『魔獣ファントム』を手に入れる事。

精霊を保護する〈ラタトスク〉や、『魔獣ファントム』の敵である〈仮面ライダーウィザード〉、さらに国家の安全を第1とする〈国安0課〉からすれば、『交渉』が成立する筈がない。

 

「むう、となるとーーーー」

 

十香が顎に手を当てながら言うと、琴里がコクリと力強く首肯した。

 

「ええ。残る手段は1つしかないわ。即ちーーーーワイズマン達とDEMを倒す事、よ」

 

『・・・・!』

 

琴里の言葉にブリーフィングルームに緊張が走る。

DEMの襲撃が予告された時点で。

そして、この部屋に招集された時点で。

その選択肢は、皆の頭の中に存在していた。

けれど司令官たる琴里が明確な言葉としてそれを発した事によって、ボンヤリとした懸念が、思考が、可能性が、1つの事実として実像を帯びた。

 

「勿論、それが簡単な話じゃない事は分かっているわ。顕現装置‹リアライザ›の性能でこそ一日の長があるとは言え、保有する魔術師‹ウィザード›の数は10倍以上、〈バンダースナッチ〉と〈ニベルコル〉。さらに精霊の天敵『魔獣ファントム』の軍団を加えたなら、どれだけの差があるか想像するのも馬鹿らしいレベルよ。それらが全てが、周囲への被害も社会的醜聞も一切合切気にせず1つの目的に向かってきたとしたなら、止める事はほぼ不可能と言えるでしょうね」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

ゴクリと、全員が息を呑む。が、琴里はそれを咎めるでも無く、寧ろ共感を示すように頷いた。

 

「でも、やらなければならないのよ。襲撃の決断は突発的なものだとしても、敵はこの場に至るまでにこちらの逃げ道を周到に潰すように仕手を打ってきた。その結果が、200回を越える士道とドラゴンの『死』よ」

 

「・・・・むう」

 

十香が唇を引き結ぶ。他の精霊達も、苦しげな顔をした。

 

「狂三がいなければ、私達の物語は結末は決まっていた。2人の死と言う最悪のバッドエンドで。ーーーーそしてその狂三を挫くべく、次の手を打ってきたのよ。次2人が殺されたとして、狂三がもう1度世界をやり直してくれるとは限らない。私達は、攻勢に転じる他ないのよ。自らの手で明日を掴む為に」

 

《ーーーーその通りだ。良く言ってくれた、五河司令》

 

と。琴里が熱っぽく演説を語っていると、不意にスピーカーからそんな声が聞こえてきた。

 




決戦の時が、近づく。
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