デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
「・・・・・・・・・・・・」
夜。士道は〈フラクシナス〉の休憩エリアで、ミルクティーを入った紙コップを片手に、星空を見上げていた。
「雲を超えたを超えた高度1万5000メートルから見る満点の星空、か・・・・」
《何とも幻想的だな。ーーーーまぁつい先日、あの星の海を泳いできたがな》
「・・・・はは」
思わず、小さな笑いが漏れる。
改めて考えてみると、荒唐無稽な話である。話しても誰も信じないだろう。
あの星の海に行ってきただけではない。この1年、否、〈仮面ライダーウィザード〉として戦いを始めてから2年ーーーー否、琴里が精霊になった5年以上前から、士道の身には、常識では考えられないような出来事が幾つも起こっているのだ。
《(ーーーー実際、5年前からではないのだがな・・・・)》
「ーーーーシドー?」
と、ソコで士道の思考を遮るように、不意に後方から声をかけられた。
見やると、寝間着姿の十香が休憩エリアの入り口に立っていた。士道と同じく精霊達も、〈フラクシナス〉の居住スペースに宿泊しているのだ。
「おう、十香。どうした? 眠れないのか?」
「うむ・・・・美九の寝相は凄まじくてな」
「そうなのか?」
「うむ。尺取虫のように床を這って、人のベッドに潜り込んで来ようとするのだ」
「・・・・それ本当に寝相か?」
《ーーーーはぁ。小僧》
[ドラゴライズ プリーズ]
士道は頬に汗を垂らしながら苦笑し、ドラゴン(思念体)が外に出ると、休憩エリアを出ていった。おそらく美九の被害にあっている精霊達(何故か七罪が第1候補に挙がった)の救出に向かったのだろう。こんな時だと言うのに、相変わらずである。
すると十香が、首を傾げながら問い返してきた。
「シドーこそ、どうしたのだ?」
「ああ、ちょっと、考え事をな」
士道が言うと、十香は何かを察したように小さく唸った。
「むう・・・・無理もない。何しろ明後日・・・・いや、もう明日か。明日にはDEMと『ファントム』との最終決戦たからな。緊張するのは当然だ」
「ん・・・・ああ、まあ、それもあるんだが」
「む?」
士道の言葉に、十香が不思議そうに首を傾げる。
「狂三の事を・・・・な」
確かに士道はDEMとワイズマン達の戦いを制し、生き残らなければならない。
けれど、その先にある真なる目的ーーーー狂三の封印について、士道はまだ完全な答えを得られていない。
「狂三は・・・・俺が絶対に救ってみせる。それが、狂三に何度も命を救われた俺の責任であり、使命だ。でも、俺の思う『救い』が、本当に狂三にとっての『救い』になるのか・・・・正直な処、分からないんだ」
そう。〈刻々帝‹ザフキエル›〉【10の弾‹ユッド›】で垣間見た、狂三の半生。
怨嗟と憤怒と恩讐とーーーー途方もない願いに彩られた、凄絶過ぎる履歴。
それを知ってから、士道はずっと考え続けていたのである。
狂三の『救い』と士道。それを、両立させる方法を。だが、どれだけ考えて見ても『答え』がでない。
ドラゴン曰くーーーー。
【『ーーーーそんなご都合の良い『答え』なんてある訳がない。彼女とお前の『救い』が別である以上、どちらかの『救い』を放棄しなければならない。それが『現実』だ』
と、現実主義者のドラゴンらしい言葉である。
「・・・・・・・・・・・・」
しかし、十香は神妙な面持ちのまま息を吐いた。
そしてパタパタとサンダルを鳴らしながら、士道の元に歩み寄った。
「隣に座ってもいいか?」
「ああ、勿論」
士道の応答にコクリと頷き、十香が士道の隣にちょこんと腰掛ける。
そして十香は、バンバン、と自分の膝を叩いてみせた。
「さあ」
「え?」
「良いから来るのだ」
十香は有無を言わさぬ調子でそう言うと、士道の肩をムンズと掴むと、そのままグイと自分の方に引っ張り、まるで膝枕の姿勢を作った。
「と、十香?」
突然の事に士道が驚いていると、十香は優しく士道の頭を撫でてきた。
「どうだ? 『おかあさまといっしょ』でやっていたのだ。心をリラックスさせる方法らしい」
「・・・・はは」
言われて、士道は思わず笑ってしまってしまい、そして思い出す。
6月。狂三と初めてデートした時、その残虐な所行を見て挫けてしまった士道を気づけてくれたのもまた、十香だった。
「・・・・ありがとうな、十香。お前にはいつも助けられてばっかりだ」
士道が言うと、十香はピクリと指先を震わせ、暫しの間黙り込んだ。
そして数秒の後、唇を開いてくる。
「・・・・そんな事はない。私は、シドー達に謝らなければならないのだ」
「え?」
突然の言葉に、士道は目を丸くした。すると十香が、静かに続けてくる。
「・・・・狂三がいなければシドーとドラゴンが死んでしまっていると聞いて、胸がキュウと締め付けられるような気がした。それで・・・・思ってしまったのだ。もしもあの時私に出会わなければ、シドーはそんな事にならずに済んだのではないかと」
言って十香が、キュッと唇を噛む。微かな震えが、士道の後頭部に伝わってきた。
「十香・・・・」
士道は小さく声を零すと、十香の手をギュッと握った。
「何言ってんだよ。俺はーーーー俺とドラゴンはあの時、お前に出会って、本当に良かったと思ってるぞ」
「しかし・・・・」
十香が消え入りそうな声で言ってくる。
「確かに色々な危険な目にあったけど、新しい精霊が現れる度に大変な事に巻き込まれはするけど・・・・そんなの〈仮面ライダー〉になってから毎度の事だったし。ソレを補って余りある位、俺は、皆に沢山のモノを貰ってるんだ。それこそ、十香達がいない人生なんて、今更考えられない位にな」
ーーーー幾つもの、出会いがあった。
己の『絶望』から生まれた魔獣と共に、常在戦場とも言える戦いの数々。
偶然て必然が混じり合った、十香との邂逅。
あまりに優しすぎる精霊・四糸乃と相棒・よしのんとの逢瀬。
『最悪の精霊』と呼ばれていた狂三との遭遇。
初めて戦う『魔獣ファントム』の幹部・メデューサとフェニックスとの初戦。
5年前の因縁に端を発する琴里の再封印。
殺し合いならぬ生かし合いを続ける八舞耶倶矢、八舞夕弦への、新たな選択肢の提示。
精霊達を掌握した美九との戦い、そして共闘。
『最強の魔術師‹ウィザード›』であるエレン・メイザースとの死闘。
変幻自在の天使を待つ七罪との知恵比べ。
世界を作り変える結果となった折紙との和解。
人を信じる事ができなかった二亜の攻略。
遂には心を閉ざした六喰に会う為に、宇宙へ。
そして今、士道はワイズマン達とDEMインダストリーと言う2つの脅威によって命を狙われている。
否、正しく言うのなら、もう200回以上殺されている。
思わず「勘弁してくれ!」と泣きたくなるような、怒涛の如き艱難辛苦の連続だ。
けれどーーーー。
「俺は、何1つ後悔してない。もしも今の記憶を全て持った状態で、〈仮面ライダー〉になかったとしても、十香と出会う前に戻ったとしてもーーーー俺は、迷う事無く十香に手を伸ばすよ」
「シドー・・・・」
十香の目に涙を滲ませながら、手を握り返してくる。
士道は、今更ながら自分の台詞が少し恥ずかしくなって、誤魔化すように苦笑した。
「・・・・ああ、いや、あれだな。もし今の記憶を持った状態で昔に戻ったら、必殺技の練習したり、キャラ設定作ったり、謎の詩を書いたりはしないけどな。・・・・ま、どっちにしろ狂三の天使でもない限り、そんな事はーーーー」
と。言いかけた所で、士道は微かに眉根を寄せた。
ほんの小さな光明。けれど、1つの可能性が、脳裏を掠めたのである。
「・・・・む? どうしたシドー」
「いや・・・・それより、十香」
「何だ?」
「・・・・もう少し、このままでいていいか?」
「うむ」
士道が言うと、十香は優しく答えた。
ーーーー数分後、美九を亀○縛り&宙吊りにして戻ってきたお父さん‹ドラゴン›が、殺意波動全開で士道を威圧するのであった。
ー???sideー
【・・・・ねえ、あれは何?】
【ん? ああ、信号機だよ。ライトの色で、通行の可否を表すんだ】
【あれは?】
【郵便ポスト。手紙を入れると、指定した場所に届けて貰える】
【じゃあ、あれは?】
【自動販売機だな。お金を入れると飲み物が買えるんだ】
【じゃあーーーー】
と、そこで澪が言葉を止めた。
【ゴメン。さっきから訊いてばかりだね】
そして、申し分なさそうにそう言ってくる。少年は首を横に振った。
【気にするなって。あんなの初めて見たら、興味持つなって方が無茶だ】
言いながら、少年もまた辺りを見回す。
『空間震』と言う未曾有の大災害に見舞われた街とは逆方向の街。そこもいつもと変わらない、少年にとっては当たり前の日常の風景。しかし、澪のように記憶が無かったら、同じ反応をしているだろう。
澪が少年の前に現れてからおよそ2週間後、二人は連れ立って、家の外へと繰り出していた。
家中にある本を読破した澪は、それこそ日本に何年も住んでいたレベルで言葉を操れるようになり、礼節にマナー、社会常識についても、ある程度していた為、嵩宮家のお目付役・真那から外出許可が出たのだ。
【わあ・・・・へえ・・・・あーーーーこれは本で読んだ事がある】
【・・・・・・・・・・・・】
興味深そうに辺りを見回しながら歩いている澪を見ながら、少年は思案を巡らせる。
澪とはコミュニケーションを取れるようになった。しかし、未だ澪には、分からない事が多過ぎたのだ。
澪は、普通の人間ではない。それどころか、正常なプロセスで以て生まれた生物でさえないと言う。
ーーーー『精霊』。自分の存在を日本語で表すと、その表現が最も近いのではないかと彼女は言った。
魔術や呪術のような不可思議な業で以て生み出された、超常生命。
しかし、好奇心旺盛な彼女の後ろ姿からは、そんな不穏な気配など、微塵も感じ取れない。寧ろーーーー。
【ーーーーどうかしたの?】
【・・・・わっ!】
不意に澪に顔を覗き込まれ、少年はビクッと肩を揺らし、澪は不思議そうに首を傾げてくる。
【い、いや、なんでもないよ】
【・・・・そう?】
澪はもう1度不思議そうに言うと、何かを思い出したように姿勢を正した。
【それより、あれは何?】
そして、またも何かを指差し、少年は顔を上げて視線を向けると、ゲームセンターのクレーンゲームが指差されていた。
【ああ、クレーンゲームだよ。箱の天井にアームが付いてるだろ? 外からそれを操作して、中のぬいぐるみをキャッチするんだ】
【へえ? 面白い事を考えるんだね】
少年が簡単にゲームの説明をすると、澪はトントンと軽快な足取りでクレーンゲームの筐体へと歩み寄り、その中をジッと覗き込んだ。
中のクマのぬいぐるみが気になるのだろうか? 少年はその後を追うようにソチラヘ歩み寄ると、澪と同じように筐体の中を覗き込みながら口を開く。
【取ってやろうか?】
【・・・・え?】
すると、澪は全く予想していなかったといった表情で顔を上げてきた。
少年はそんな様に苦笑しながら、筐体にお金を投入し、ガイド音声に従ってアームを操作し始めた。
◇
【よっしゃぁぁぁぁッ! どんなもんじゃーい!】
そして十数分後、1発でーーーーとは行かず、どうにか財布の中身が尽きる前に、クマのぬいぐるみをゲットした。
負けが込んでいたので、ぬいぐるみをゲットした瞬間、人目も気にせずそんな声を上げてしまう。ゲームセンターにいた客や、道を歩いていた通行人達が驚いたようにコチラを見、苦笑いして去っていった。
【・・・・・・・・】
ソレを見て、冷静になった少年は頬を赤くすると、肩をすぼませながらクマのぬいぐるみを取り出した。
【と、兎に角。ほら、澪】
【・・・・、・・・・?】
澪は少年の言っている事と行動が良く分からないと言った様子で首を傾げた。少年は何だかそうしているのも恥ずかしくなってきて、澪の手を引っ張ると、ソコにクマのぬいぐるみを握らせた。
【・・・・? 私に、くれるの?】
【ああ。その為に取ったんだしな。・・・・それとも、要らなかったか? 熱心に見てるもんだから、てっきりこう言うの好きなのかと・・・・】
【好き・・・・】
澪は目を丸くしながらその言葉を繰り返すと、手渡されたぬいぐるみをマジマジと見つめた。
【好き・・・・好ましいと思う感情・・・・対象に強く興味を引かれる事・・・・】
そして辞書の文章を暗唱するようにポツポツと呟いた後、手にしていたクマのぬいぐるみを胸元に押し当てた。
【ーーーーそれだ。・・・・うん、きっとこれは、『好き』。あなたに感謝を。謝意を示す。・・・・違うな、ええと・・・・】
澪は一瞬考えを巡らせるような仕草をすると、すぐに少年の方に向き直ってきた。
【ーーーーありがとう。嬉しい。私、あなたの事が、『好き』】
そして、天使のように美しく微笑みながらそう言ってくる。
【・・・・へっ!?】
その笑顔に、心臓を撃ち抜かれるかのような錯覚。
予想外の言葉に、少年は顔を真っ赤にしながら目を泳がせた。
それは、これから始まる澪との生活を象徴する1ページ。
少年にとってかけがえのない毎日の始まり。
ーーーーしかし、少年はまだ気づいていなかった。
澪と言う少女の存在が持つ意味に。
それを求める、人間たちの存在に。
そして、自分に起こる数奇な運命に。
ー殿町sideー
冬のピークを示すように寒い2月の朝。来禅高校へと連なる通学路には、制服の上にコートを羽織り、首にマフラーを巻いたりして防寒対策を施した生徒達の姿が幾人も見て取れた。
「グッモーニン諸君。今日も良い天気だな!」
そんな中、シャツの上にブレザーのみで寒空の下を歩くヤンチャな少年・殿町宏人が、道を歩いていた2年4組の名物トリオ、通称『亜衣麻衣美衣トリオ』にヒラヒラと手を振る。
いつも(無駄に)元気な3人は、殿町の姿を見るなり、寒そうにマフラーを手繰り寄せた。
「おっはよー・・・・って、完全に曇天だよ今日」
「ていうか殿町くん寒くないの? 見てるコッチが寒いんだけど」
「マジ引くわー。小学生のときにいたわーそういう子。冬でも半袖短パンなヤツ。あだ名はウインド。火消しの風なイケメンライバルじゃないよ」
亜衣麻衣美衣が順に言うと、殿町はフフンと自慢げに胸を反らした。
「このワイルドさに気づいてしまったか。結局のところ女の子って逞しい男が好きだからな。今朝テレビで誰かが言ってた」
「・・・・見た?」
「んーん。見てない。うち基本朝ニュースしか見ないし」
「うちもうちも。あ、何かどっかの街で集団昏睡事件があったんだっけ? 怖いよねー。マジ引くわー」
言って、亜衣麻衣美衣トリオが殿町そっちのけでワイワイ話し出す。が、殿町は挫けず更に声を張り上げた。
「兎に角! これで俺にも彼女がーーーーふ、ファックション! バカヤロウ!」
言葉の途中で大きなクシャミをし、亜衣麻衣美衣トリオがやれやれだぜ、と半眼を作った。
「薄着して風邪引いてるようじゃあワイルドには程遠いわねー」
「て言うか、会った事のない何処ぞの偉い人より今目の前の女子の意見聞きなー?」
「そうそう。例えばここの山吹亜衣氏、最近『北斗編集鉄扇拳』と言う武術で茶帯を修得した武闘派文化系男子を最近漸くデートに誘えるようになったんですぜ旦那。マジ引くわー」
「待ちたまえ君達」
唐突に恋愛事情を披露された亜衣が、美衣の首根っこを押さえようとする。それを察した美衣は、麻衣を盾にしながらクルクルと辺りを走り回った。
と、寒さに肩を震わせながらズズッと鼻を啜った殿町が目を見開く。
「マジか!? 山吹って武闘派が好きなの!? 俺も今からジムとか行って鍛えればモテるのか・・・・!?」
「うわっこっちはこっちで妙ちくりんな考えに至りやがった! 大丈夫、殿町くんがムキムキのバッキバキになったとしても、モテるとは思えないから!」
「えー、もうちょっと夢見させてくれよー」
「ーーーー寧ろ、近くにいる娘の想いに気づいてやんなって」
「何言ってんの麻衣。(グニィ)はにひふはー!(マジ引くわー!)」
麻衣の身体を軸に反対側から手を伸ばし、美衣の首根っこを捕まえた亜衣が片手間に叫ぶと、殿町は身体をくねらせ、麻衣はそんな殿町に半眼で呆れ、美衣は麻衣を止めようとするが、亜衣にホッペタをグニィと引っ張られ動けなくなった。
憂さを晴らした亜衣が、思い出したように口を開く。
「全く・・・・って、そう言えば殿町くん、五河くん見なかった?」
「五河? いや、今日はまだ見てないけど。何だ? まぁた何かやらかしたのかアイツ?」
「いやね、あの『世界の調律者気取りの引きこもり変態親父』と同じくらいに腐れ淫乱外道魔王、まーた時崎さんとデートしてたとか言う噂を聞いてさ。我々としては、テメェ十香ちゃんはどうしたんだゴルァ! とイカンの意を表明している訳ですよ」
「しかもさる筋によると、『僕だけの動物園』に新しい仲間を増やしやがったそうで」
「今度は『金髪のじゃロリ巨乳』ですってよ旦那。何だそれ。ギルティ。絶滅タイムだ。マジ引くわー」
3人が声をひそめながら言うと、殿町は大きな笑い声を上げた。
「HAHAHAHAHAHAHAHA! 何だそりゃ。いくら五河でもそんな堕ちる所まで堕ちる事・・・・・・・・やりそうだな」
「だしょ?」
「確実に真実だな。よし見つけ次第教える。今度と言う今度こそ、あの女タラシクソ下衆野郎の息の根を止めよう。それがクラスメートとして、俺達からのせめてもの慈悲だ」
「「「ご協力感謝します」」」
等と、珍しく真面目な貌と目つきになった殿町と、同じく真面目モードになった亜衣麻衣美衣トリオの間に協定関係が結ばれ、鞄を地面に置いた4人がグータッチをすると、もう片方の手にそれぞれ、亜衣が♦の銃を。麻衣が♣の錫杖を。美衣が♠の剣を。そして殿町が♥の弓を持ち。それぞれの背後に、王様の姿(殿町のはワイルドな姿)になった『トランプの仮面ライダー達』が、幽波紋よろしく佇んでいた。
『おぉ・・・・!』
彼らを横切る生徒達は、そんな彼らの姿がまるで、魔王に最後の決戦を挑む勇者パーティーのように見え、中には小さくだが、パチパチと拍手する生徒もいたとか。
とーーーー次の瞬間。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーー。
まるでその動作に合わさるようなタイミングで、街に警報が鳴り響いた。
「! 空間震警報・・・・!?」
「うっそ、マジ引くわー?」
突然の警報に、殿町&亜衣麻衣美衣トリオだけでなく、周囲の生徒達が俄にざわめき出すが、そこまで混乱は起こらない。
何しろここは東京都天宮市。世界一空間震の頻度が高いが、その分シェルター普及率第1位の地域である。生徒達も訓練でない避難を幾度も経験している為、対応に慣れが見られた。
「うっわー・・・・この寒い時に止めて欲しいっすわー」
「何言ってんのよ。ほら、避難しなきゃ。学校のシェルターに行くわよ」
「マジ引くわー。へーい」
等と、いつも通り緊張感でない会話を交わしながら、学校の地下シェルターへと向かっていく。
警報が鳴ったからすぐに空間震が起こる訳ではない。寧ろ慌てて駆け出した方が危険が増すのだ。これまでの経験から殿町達はおろか、他の生徒達も至極落ち着いて、順にシェルターの入り口へと入っていった。
ーーーーと。
「・・・・ん?」
地下への入り口に入ろうとした所で、殿町は不意に足を止めた。空を見上げ、訝しげに目を細める。
「ん? 何、どしたの殿町くん」
「雨でも降った?」
「マジ引くわー。まさか雪でも降ったの?」
「いや・・・・何か今一瞬、空に何か見えなかったか?」
「「「は?」」」
殿町の言葉に、亜衣麻衣美衣トリオが空を見上げる。しかし、すぐに首を捻った。
「・・・・どんなの?」
「んー・・・・何つーかこう、雲の向こうに巨大な戦艦? みたいな?」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
殿町の言葉に、亜衣麻衣美衣トリオが黙り込む。否、正確に言うと少し哀れみを含んだ目で見ながら、小声でヒソヒソ話し始める。
「殿町くん、遂に脳が・・・・」
「いや、自分特別なもの見えちゃう系男子じゃない?」
「マジ引くわー。どっちにしろヤバいわー」
「せめて聞こえないように言ってくれませんかねえ」
殿町が半眼で言うと、丁度良いタイミングで岸和田が合流してきて、亜衣が借りてきた仔猫よろしく大人しくなり、殿町はもう1度空を見上げてから、不審そうに首を捻るが、美衣に首根っこを引っ張られながらシェルターに入っていった。
ー琴里sideー
ーーーー空から、人工の絶望が降りてくる。
人智を超えた力を以て生み出されたDEMの空中艦が、幾つものシルエットを生み出しながら、雲を裂くようにして、ひとけが無くなった街の上空にその姿を現した。
その様はまるで、黙示録にある破壊者‹アポルオン›。豊穣乗る大地に滅びを撒く為現れた奈落の王を思わせる。
空を征く陰、その数およそ30。
〈ラタトスク〉の把握しているDEMインダストリーの保有艦のほぼ全てが、天宮市の空に集結していたのである。
「ーーーー来たわね」
〈フラクシナス〉の艦長席で、その光景を見ていた琴里が、口に咥えたチュッパチャップスの棒をピンと立てながら、正面のメインモニタを睨み付けた。
「魔獣ファントム&DEM連合軍の皆様ご案内。全員あなた達をご指名よ、士道。ドラゴン。モテモテじゃない」
そして冗談めかすように言いながら、何やら寒気を感じて身体を擦っている士道と、そんな士道を呆れた目で見ているドラゴン(思念体)にチラと視線を向けてくる。姿勢を正した士道は苦笑し、視線を戻したドラゴンは鼻で笑う。
「ああ・・・・ありがたくて涙が出るな。でも生憎、俺の好みじゃなさそうだ」
『我の相手をするには、あまりにも格の低い相手だな。出直してこいと言ってやりたい』
「あはは、じゃあ仕方ないわね。丁重にかつ、盛大にお帰りいただきましょう」
琴里はそう言うと艦長席から立ち上がり、肩掛けにしたジャケットを翻すようにしながら足を踏み出し、艦橋下段のクルー達と、通信機の先にいる〈ラタトスク〉の機関員達に向け、声を張り上げる。
「〈フラクシナス〉艦長、五河琴里よ。先ずは皆の協力に感謝を。
ーーーーさて、皆のモニタにももう映っているかしら? 私達の街に、不躾な来訪者が現れたわ。粗野で粗暴で卑劣で下劣なやり方で以て、精霊の力を奪い取ろうとする、最低最悪なDV男よ。ああ、嫌ね。見苦しいったらないわ。こういう女を暴力で支配したがる男に限って、捨てられると女々しく、情けなく追い縋るのよ。散々やりたい放題しておいて、どうして嫌われないなんて思うのかしらね。さらに酷い時は一緒に心中しようなんて喚き散らかすのよねえ。理解に苦しむわ。女が皆優しいママか、自分の言う事を何でも聞いてくれる女神様にでも見えてるのかしら?」
言って琴里はわざとらしくため息を吐くと、通信機の向こうから、小さな笑い声が漏れてきた。
琴里がフッと唇の端を上げ、続ける。
「さあ、礼儀の知らない乱暴者共に教えてあげましょう。
正しい女性の扱い方を。
優雅なエスコートの仕方を。
ーーーー私達の、戦争‹デート›のやり方を」
『了解!』
琴里の宣言に応えるように、艦橋下段や通信機の向こうから力強い声が響いた。