デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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決戦ショータイムⅢ

ーエレンsideー 

 

ヘルキューレ‹エレン›は乱戦極まる空を高速で一直線に進んでいた。

 

「アルテミシアと交戦しているのはーーーー鳶一折紙ですか。フン、丁度良い。五河士道との決着の前に、いつか受けた傷の借りを返すとしましょう」

 

辺りには夥しい数の火花が散り、引っ切りなしに爆音が鳴り響き、時折敵の物か味方の物か分からぬ砲撃や魔法が飛んでくるが、随意領域‹テリトリー›で無造作に弾いているが、エレンの目的はーーーー五河士道の首ただ1つ。

とは言え、コチラの目的は向こうも重々承知だろう。士道の身柄は空中艦のいずれかに保護されていると見て間違いない。

となれば、次の優先目標は精霊である。空中に確認できる精霊群は3つ。

1つは〈フラクシナス〉前方に陣取った〈ディーヴァ〉に〈ウィッチ〉。

もう1つは、〈ニベルコル〉の密集地に向かう〈プリンセス〉と〈ベルセルク〉。

そしてヘルキューレⅡ‹アルテミシア›と交戦する〈エンジェル〉、〈ハーミット〉、〈ゾディアック〉、加えて裏切り者の〈仮面ライダービースト〉こと崇宮真那である。

エレンが最後の1つを選んだ理由は単純なものだった。

何より敵の数が多い。そして〈ニベルコル〉とヘルキューレⅡ‹アルテミシア›なら、後者の応援に駆けつけた際にストレスが少ないだろうと判断したのだ。

そして、彼女達が劣勢になって追い詰めれば、士道はノコノコて現れるだろうと予測もしたからだ。

 

「真那もいるのなら都合がいい。五河士道との決着の前に纏めて仕留めてーーーー」

 

ーーーーと。

ソコで言葉を止めたヘルキューレ‹エレン›は、亜音速に達しようとした身体に急ブレーキをかけ、その場で停止した。

次の瞬間、ヘルキューレ‹エレン›の眼前を、光り輝く魔力の刃が通り過ぎる。

 

「なーーーーッ」

 

ヘルキューレ‹エレン›は思わず目を見開くと、直ぐ様手にしていた『ダーインスレイブ』を振るった。

すると奇襲を仕掛けてきた下手人は軽やかに身を翻すと、ヘルキューレ‹エレン›の行く手を阻むように空中に立つ。

 

「ーーーー何者です」

 

警戒を上げながら剣の切っ先を向けた。

魔術師‹ウィザード›だろうが、飛行中の自分にアソコまで見事な不意打ちを食らわせられる魔術師‹ウィザード›は、向こうで交戦している3人くらいだ。〈ラタトスク〉に残っているとは思えない。

 

「・・・・・・・・」

 

魔術師‹ウィザード›が、手にしていた槍のようなユニットを、肩に担いで見せる。

すると、逆光て見えづらくなっていたその姿勢が、ハッキリと見て取れるようになった。

 

「・・・・なーーーー!?」

 

そしてその姿を見て、ヘルキューレ‹エレン›は息を詰まらせた。

陽光を思わせる明るい金髪が特徴的な若い男性。

その身に纏った甲冑の如きCRーユニットもまた、光り輝く金色。全身から立ち上る魔力が、周囲に張り巡らされた随意領域‹テリトリー›が、彼の尋常ならざる実力を物語っていた。

だが、マスクを解除したエレンは、そんなものよりも。

 

「あ・・・・、あーーーーッ」

 

その自信に溢れた双眸が、勇ましい形の眉が、精悍な顔つきがーーーー全てが、エレンの心に、記憶に、突き刺さった。

男が、大仰な仕草で顎を上げながら、声を発する。

 

 

 

「ーーーーよう、久しぶりだな、エレン。“俺のいない世界で最強を気取って、年下の茶坊主とトカゲに最強を汚された気分はどうだったんだ”?」

 

 

 

ーーーードクン、と。

エレンの心臓が、跳ねた。

そして身体の裡に渦巻いた感情が、喉を通って外界に顕現する。

 

「・・・・エリーーーーオットォォォォォォォォォォォォォォォッ!」

 

そう。エリオット。エリオット・ボードウィン・ウッドマン。

かつてエレンやウェスコット達と共にDEMを創設し、世界を創り替える事を誓った同士にしてーーーー許されざ背約者。

その男が今、全盛期の姿で、自分の前に立っていたのである。

 

「相変わらずの若作りだな。ーーーーまあ、今の俺が言えた話でもないがね」

 

「ああああああああーーーーーーーーッ!」

 

エレンは恥も外聞もなく絶叫を上げると、『ダーインスレイブ』を振りかぶって、エリオットに突撃した。

その声に、怨嗟と、憎悪と、憤怒とーーーー本人も気づかぬ程の、僅かばかりの歓喜を込めて。

 

 

 

 

 

ーニベルコルsideー

 

「あーあ、つまんなーい」

 

「ねー、他の『アタシ』は〈ナイトメア〉とバトってるのに。アタシだってもっと派手なお仕事したーい」

 

「ホントホント。きっとエレンよ。エレンがお父様を誑かして、アタシを冷遇するよう働きかけたんだわ」

 

「そうそう。だいたいエレンが悪い」

 

等と会話を交わしながら、〈ニベルコル〉達は天宮市に点在する魔力砲台の破壊の為、地上に降下していた。

地上からの砲撃に空中艦は兎も角、〈バンダースナッチ〉やインプはすぐにやられる。補助が利くとは言え、無尽蔵でも無料でもない機械人形と雑魚魔獣だが、被害を抑える為の措置だ。

砲台も随意領域‹テリトリー›にて守られているので、物量と統率に優れた〈ニベルコル〉の1団が、その対応を任されたのだ。

 

「ほら、ブーブー言うんじゃないの。お父様の為でしょ」

 

「早く終わらせてアタシ達も遊びに行きましょ」

 

「はーい」

 

「ねぇねぇ、誰と遊びたい?」

 

「うーん、アタシの力の元になったって言う〈シスター〉かなぁ。アタシのモデルだもの。きっととんでもない美人さんよ」

 

「ね。お淑やかで、ナイスバディで、非の打ち所のない完璧超人に違いないわ」

 

女子高生の集団の如く、〈ニベルコル〉がワイワイと言葉を交わす。

〈シスター〉、二亜が美人ではあるが、かなりのオタクで大酒呑みのスレンダー体型で、非の打ち所まみれの残念美人である事を知れば、かなり失望していたであろう。

すると、そんな〈ニベルコル〉の1団に向かって、ガガガガガガガガッ! と、魔力を帯びた弾丸が何発も放たれた。

 

「きゃっ!」

 

「いったーい!」

 

緊張感のない悲鳴を上げて、数人の〈ニベルコル〉の頭が、身体が弾け飛ぶ。

残った〈ニベルコル〉が見やると、砲台の周りに〈ラタトスク〉の魔術師‹ウィザード›が数名、浮遊していた。

 

「やったわねー!」

 

「許さないんだからー!」

 

「な・・・・っ!?」

 

損傷した身体をみるみる内に再生させた〈ニベルコル〉が叫びを上げ、魔術師‹ウィザード›達は驚き、顔面蒼白になりながら魔力弾を連射する。

 

「ふんーーーー」

 

身体を幾ら傷付けられても損害無いが、痛い物は痛い。〈ニベルコル〉達は一斉に手を掲げ、一斉に声を揃え、その名を呼んだ。

 

『〈神蝕篇帙・頁‹ベルゼバブ・イエレッド›〉』

 

するとその声に合わさるようにして、〈ニベルコル〉の手にしていた紙が宙に舞い、魔力弾から彼女達を守る障壁となった。

 

「何だと・・・・ッ!?」

 

魔術師‹ウィザード›の狼狽に満ちた声が辺りに響くが、それで終わらない。残った紙の数枚が、空中で自動的にパタパタと折りたたまれたかと思うと、その姿を紙飛行機に変え、弾丸のようなスピードで魔術師‹ウィザード›達目掛けて飛んでいった。

 

「うが・・・・っ!」

 

「ぐーーーー!」

 

紙飛行機は彼らの随意領域‹テリトリー›だけでなく、方を、足を貫通して空へと抜けていった。その後、ブーメランのような軌跡を描き、〈ニベルコル〉の元へ戻ってくる。

 

「キャハハハハハ! もっろーい!」

 

「〈ラタトスク〉って精霊の味方じゃなかったの? アタシも一応精霊なんだけどなぁ」

 

「あ、だからバチが当たったんじゃない?」

 

「なるほど、キャハハ」

 

ケタケタと笑う〈ニベルコル〉は、再び手を掲げ、紙飛行機の先端を魔術師‹ウィザード›達に向けた。

 

「く・・・・」

 

「じゃっあねー」

 

が、〈ニベルコル〉が放とうとした次の瞬間。

 

ーーーービュォォォォォォォ!!

 

後方から凄まじい突風が吹き荒れ、〈神蝕篇帙・頁‹ベルゼバブ・イエレッド›〉を吹き飛ばした。

 

「きゃっ!」

 

「な、何よこれぇ」

 

「(ーーーーし、白だっ、た・・・・ガクッ)」

 

髪とスカートを押さえる〈ニベルコル〉。魔術師‹ウィザード›の1人が、スカートの中を見て、悔いなしと言わんばかりに気を失うが、〈ニベルコル〉達は構う事なく後方を振り向くと、大剣を振りかぶる〈仮面ライダー〉が、〈ニベルコル〉に斬りかかってきた。ーーーー〈仮面ライダープリンセス〉・十香だ。

 

「はぁぁぁぁぁッ! 

 

「きゃあっ!」

 

寸での所で左右に別れて避けると、プリンセス‹十香›の背後から、それぞれ左右でアーマーが別れた〈仮面ライダーベルセルク〉・八舞姉妹が現れ、地上砲台を守っていた〈ラタトスク〉の魔術師‹ウィザード›達に声を投げた。

 

「ここは我らに任せるがよい!」

 

「退避。下がっていて下さい」

 

「・・・・! す、すまん・・・・」

 

魔術師‹ウィザード›達が負傷した肩を押さえ、気を失った仲間を担ぎながら後方へと離脱していく。

それを横目で確認すると同時、テンペスト‹耶倶矢›とストーム‹夕弦›は、プリンセス‹十香›の隣に並んで油断なく〈ニベルコル〉を睨み付けた。

3人もの精霊に、〈ニベルコル〉は驚いたように目を丸くした後、ニィと唇を歪めた。

 

「キャハハハ、これマジ?」

 

「〈プリンセス〉に〈ベルセルク〉? 武闘派が揃ってくれちゃって」

 

「砲台破壊なんてハズレかも思ったら、気が利いてるじゃやい」

 

口々に言って手を掲げ、風に舞った〈神蝕篇帙・ページ‹ベルゼバブ・イエレッド›〉を手元に呼び寄せると、紙飛行機からーーーー折鶴となり、それが何羽も連なり、まるで千羽鶴のような様相を作った。

 

「ふふ、さっきみたいに風で飛ばせると思ったら痛い目見るわよ」

 

「油断したら穴だらけよ」

 

「さあ、その前にアタシの首を落とせるかしら」

 

「尤も、それに意味があるとは思えないけど」

 

「アタシは1にして全、全にして1」

 

「何人殺そうと、〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉がある限り死なないわ」

 

「キャハハ、死のない女をどう殺す?」

 

余裕に満ちた笑みで折鶴を構える〈ニベルコル〉。

が、精霊達は油断なく彼女立ち上がりを睨みながらも、攻撃を仕掛けない。

 

「・・・・?」

 

首を傾げる〈ニベルコル〉に、彼女らは静かにーーーーだが力強く、言葉を発する。

 

「〈ニベルコル〉。悪いが、お前達の相手は私達ではない」

 

「呵々、そう言う事よ。汝らには相応しい相手がいる」

 

「首肯。夕弦達はその護衛に過ぎません」

 

「っ!」

 

〈ニベルコル〉は全ての個体が臨戦態勢に入る。

〈ラタトスク〉が保有する戦力でもトップクラスなのは、間違いなく精霊。だが、それを上回ると言えば勿論ーーーー。

 

「・・・・・・・・っ!」

 

思考の途中で、〈ニベルコル〉は件の相手が現れ、更に警戒する。

プリンセス‹十香›達の後方から、砂埃をかき分けるように歩いてきたその、少年に。

 

「五河・・・・士道・・・・!」

 

そう。上空からの爆撃で瓦礫の山と化した街並みを歩いてきたのは、他ならぬDEMとファントム達のターゲット、五河士道その人だった。

ウェスコットが死ねば、DEMの敗北。

ワイズマンが死ねば、ファントムの敗北。

五河士道が死ねば、〈ラタトスク〉の敗北。

互いにそう認識している筈だった故に、DEMもファントム達も五河士道は強固な空中艦の中にいると信じて疑わなかった。だからこそ、交戦している精霊達を痛めつけるか人質にさえすれば、五河士道がノコノコと現れると思っていたが、その当人が現れたのだ。

驚きで数瞬動きが止まった〈ニベルコル〉だが、すぐに不敵な笑みを浮かべて、こちらに歩いてくる士道を睨め付けた。

 

「ふぅん・・・・何のつもりか知らないけど、変身しないでやってくるなんてね」

 

「キャハハ、甜めてるの?」

 

「まあどちらにしろ、お父様にいいお土産ができたーーーーわッ!」

 

「ふーーーーッ!」

 

〈ニベルコル〉は大きく振りかぶると、千羽鶴と化した〈神蝕篇帙・頁‹ベルゼバブ・イエレッド›〉を士道に放つが、精霊達が士道を守るように飛翔し、幾羽もの折鶴を打ち払う。

が、予想の範囲内の言わんばかりに、〈ニベルコル〉はそれぞれの精霊に30体ずつ向かわせると、1体の〈ニベルコル〉が士道に肉薄する。

変身されればコチラが不利だが、この距離なら間に合うまい。〈ニベルコル〉が、士道の心臓を目掛けて抜き手をする。

がーーーー。

 

「〈ニベルコル〉」

 

次の瞬間、沈黙を保っていた士道が、不意に優しい声を発する。

 

「ーーーー“愛してるよ”」

 

予想外過ぎる言葉に、〈ニベルコル〉は一瞬目を丸くした。

が、それはまだ、士道の奇行の序章に過ぎなかった。

士道は瞬き程の隙に、〈ニベルコル〉の首に手を回すとーーーー。

 

「ーーーーーーーー」

 

そのまま〈ニベルコル〉の顔を引き寄せ、〈ニベルコル〉にーーーーキスをした。

 

「・・・・ッ!?」

 

突然の事に、頭の中が疑問符で埋め尽くされた。

だがしかしーーーー。 

 

「ん・・・・ふぁ・・・・?」

 

〈ニベルコル〉は『違和感』を覚えた。身体が融けるかのような錯覚。姿勢を保っていられない。顔が熱い。焼ける。心が。ドロドロに。でもそれが、何故か心地良くて・・・・。

ーーーー淡い光と共に、〈ニベルコル〉の身体が泡と消え、1枚の紙がヒラヒラと地面に落ちていく。

その紙がも、地に触れた瞬間、光の粒子となって空気に溶け消えた。

 

「は・・・・っ!?」

 

「何よーーーーそれ・・・・!」

 

横からその光景を見ていた個体が、目を見開いて声を震わせると、その個体までもが、心臓の異常な動悸を覚えたかと思うと、脳内麻薬が分泌したような多幸感に襲われーーーー先程の個体のように、恍惚の中で光と消えていった。

 

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

「(うまく、いったな!)」

 

《マリアの読みどおりだな》

 

士道とドラゴンは内心安堵の息を吐きながら、交戦開始直前。

マリアが提示した〈ニベルコル〉の対処法はーーーー〈ニベルコル〉にキスする事だった。

擬似的とは言え、〈ニベルコル〉も精霊。それも二亜の天使〈囁告篇帙‹ラジエル›〉にして、二亜の霊結晶‹セフィラ›から創られた存在。ならば、士道の能力で封印する事ができると言う事である。

しかし、好感度がなければ霊力を封印する事はできないが、マリアがさらなる仮説を説いた。“〈ニベルコル〉は二亜が抱いている士道への好感度と連動している”、というのだ。

マリア曰くーーーー。

 

【ーーーー下世話な表現になりますが、口では嫌がっていても身体は正直なチョロインと言った所です】

 

しかし、その説が本当ならば、難敵〈ニベルコル〉を無力化できるかも知れない。数の暴力を覆すにはこれしかないが、どちらにしても士道が危険と言う事で渋る琴里を、士道が決意を込めて実行する事に決めたのだ。

 

「・・・・・・・・」

 

ーーーーキスの感触と共に、腕に抱いた少女の身体が光の粒になって消えていく。

その不思議な感覚に、士道は数瞬の間その場に立ち尽くした。

 

『(スッ・・・・)』

 

「・・・・・・・・はっ!」

 

ドラゴンが気付けのド突きの気配がして、すぐに正気に帰った士道は〈ニベルコル〉を見ると、士道と消えた個体のキスを目撃した、付近の〈ニベルコル〉達もまた、顔を真っ赤にしたかと思うと、胸元を押さえて身を捩ったかと思うと、同様に消えていったのである。

その現象の可能性は、事前にマリアから示唆されていた。

〈ニベルコル〉は1にして全、全にして1の群体生命。

それ故、『キスをされた個体』と、『自分がキスをされたと認識してしまった個体』に、同様の効果が現れる可能性があると言うのである。

完成された群体にして、死のない軍隊、〈ニベルコル〉の、意外すぎる穴。

士道こそが、最強の軍団を討ちうる唯一の刃だったのだーーーー。

 

 

 

「ーーーーさあ、始めようか〈ニベルコル〉。俺とお前の、戦争‹デート›の時間だ」

 

 

 

士道は静かに、しかし力強くそう宣言すると、〈ニベルコル〉を挑発するように指をクイ、と曲げてみせた。

 

「・・・・ッ!」

 

「舐めんじゃーーーー」

 

「ないわよーーーーッ!」

 

封印を免れていた〈ニベルコル〉達が、その表情を怒りに染め、一斉に襲い掛かってくる。

 

[バインド プリーズ!]

 

士道は鎖を召喚して、〈ニベルコル〉達を拘束する。

如何に封印が可能とは言え、相手は精霊。基礎的な身体能力では、一般より多少マシになった士道如きでは天と地の差があるだろう。

〈ニベルコル〉の素早い動きを捕らえる為には、魔法を使ったのである。

 

「だぁらぁぁぁぁぁぁッ!」

 

「死んじゃえぇっ!」

 

叫び、〈ニベルコル〉が拘束から脱出しようと力を込める。

しかし、鎖の魔法はドラゴンが魔力を込めているのだ。精霊でも簡単には脱出できないだろうが、それでもモタモタしているつもりはない。

けれど、士道にとっては十分過ぎる時間だ。

 

「ーーーーんーーーー」

 

「・・・・・・・・・・・・ッ!?」

 

前方に迫っていた〈ニベルコル〉を捕らえ、その唇を奪う。

 

「は・・・・にゃあ・・・・」

 

するとその個体と、その光景を目撃してしまった個体が、またも纏めて光の粒子となった。

 

「な・・・・何なのよ、アンタはァァァッ!」

 

遠方に陣取っていた為生き残った〈ニベルコル〉が、悲鳴染みた声を発する。

すると士道はーーーー。

 

「ん・・・・・・・・ちゅっ」

 

何と、『投げキッス』をした。

 

「うぐ・・・・!」

 

「はうーーーーっ!?」

 

それを受けた〈ニベルコル〉達が、頬を紅潮させて胸元を押さえる。

 

[ドライバーオン プリーズ]

 

「変身」

 

[ハリケーン プリーズ フー! フー! フーフー、フーフー!!]

 

ハリケーンスタイルになり、マスクだけを解除すると、旋風を巻き起こしながら、〈ニベルコル〉に近づき、キスをしていく。

 

「あん・・・・っ」

 

「あふっーーーー」

 

蕩けるような声を残して、周囲の〈ニベルコル〉が消えていくのを見て、遠くに残った個体達が怯える。

 

「さあ・・・・次は誰だ?」

 

「き・・・・きゃぁぁぁっ!」

 

「お父様ぁぁぁっ!」

 

悲鳴を上げて、〈ニベルコル〉が逃げ惑う。

何だか女の子をイジメているかのような罪悪感を感じながらも、その後を追った。

 

「逃がさないぜーーーー小猫ちゃん」

 

ーーーー愛の嵐が巻き起こった。

次々と〈ニベルコル〉を消していく。

とーーーー次の瞬間。

 

「く・・・・!」

 

背後に何者かの気配を感じて、その気配に向かって手を伸ばした。本来ならドラゴンが教えるのたが。

 

《・・・・オェッ! グゥァっ! オロロロロロ!!》

 

士道の〈ニベルコル〉へのキザったらしい態度に、まるで某悪の秘密結社が住む疫病のような大家さんの艶姿を見たように具合が悪くなって、アンダーワールドで吐いて寝込んでいた。

 

「え?」

 

「・・・・っ」

 

が、士道は〈ニベルコル〉だと思って引き寄せた人影がーーーー。

 

「・・・・あら、あら。大胆ですのね、士道さん」

 

妖しい笑みを浮かべる、オッドアイをした少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー???sideー

 

【はぁ・・・・っ、はぁ・・・・っ】

 

人けのない路地裏に身を隠しながら、少年は肩を激しく上下させた。

額に汗が、押さえた肩からは血が滲んでいる。痛みを耐えるようにギリと奥歯を噛みしめると、壁に背を付けてズリズリと地面に腰を下ろした。

 

【だ、大丈夫か、澪・・・・】

 

【うん・・・・それより、腕を見せて】

 

一緒に逃げ込んでいた澪は、険しい顔をしながら少年の腕に手を翳すと、その手は淡く光り輝いたかと思うと、次第に腕にあった痛みが消えていく。

 

【わ・・・・こりゃ凄いな】

 

【霊力で傷を塞いだだけ。ーーーーそれより】

 

澪がチラッと通りを見やると、ソコから、少年達を探すように、幾つもの足音と声がひっきりなしに響いていた。

 

【・・・・ああ。アイツら一体何なんだよ】

 

建物の隙間をチラつく影を睨み付けながら、小さな声で呟く。

そう。2人は今、謎の集団に追われていた。

追われる理由も、正体も分からない。自分達はいつものように街を歩いていると、何人もの外国人達が現れ、突然襲い掛かってきたのだ。

 

【たくっ、チープなアクション映画かよ・・・・】

 

【・・・・・・・・】

 

と、澪が唇を引き結びながら押し黙る。少年は不思議そうに首を傾げた。

 

【ん? どうして、澪】

 

【・・・・多分、あの人達、私を追ってきたんだと思う】

 

【え?】

 

【奥にいた人達に見覚えがある。前に話した、私が最初に見た人達】

 

澪は眉根を寄せながら言うと、沈痛な面持ちで続けてきた。

 

【・・・・ごめんなさい。私のせいで、君を巻き込んでしまった。ーーーー逃げて。後は私が・・・・】

 

【やなこった】

 

少年は澪の言葉を遮ると、反動を付けるようにしてスクッと立ち上がった。

 

【えーーーー】

 

【爆心地の真ん中にいた女の子に声を掛けた時点で、コッチは大概のトラブル覚悟してんだよ。それにーーーー】

 

少年は澪の手を取ると、赤くなった頬を見せまいと顔を背けながら言った。

 

【俺達・・・・家族だろうが】

 

【・・・・!】

 

澪の手が、驚いたようにビクッと震えた後、手がギュッと握り返された。それが何よりの回答である。少年は小さく頷くと、澪の手を引いて歩き出した。

 

【ーーーー取り敢えず、警察だ。ヤバい連中に追われてるって言って保護して貰おう。法治国家舐めんじゃ・・・・】

 

が、少年は足を止めた。路地裏を進んだ所で、明るい金髪に精悍そうな顔つきをし、黒い服を身に纏った欧米人が立っていた。少年立ち上がりを追っている集団の1人だ。

 

【・・・・! 下がって!】

 

【澪!】

 

【大丈夫、殺しはしない・・・・!】

 

澪が少年を庇うように前に出て、男を睨みつける。

しかし、その緊張感は長く続かなかった。ーーーー男が、額に手を当てながら大きなため息を吐いた。

 

【・・・・おいおい、マジかよ。何でよりにもよって俺の所に来ちまうんだよ】

 

そして、流暢な日本語でそう言ってくる。

 

【え・・・・?】

 

思わぬ反応に少年と澪がキョトンとしていると、男は落ち着いた声音で続けてきた。

 

【・・・・、澪ってのは、この子の名前か?】

 

【・・・・ああ、俺が付けた】

 

【そうか。良い名前だ】

 

俺はそう言うと、澪に視線を移した。

 

【なあ、今ーーーー幸せかい】

 

【・・・・少なくとも、敵意のある相手に追いかけられて喜ぶ性癖は持っていないよ】

 

【いや、そうじゃなくてだな。・・・・その少年と一緒にいたいかい、って事さ】

 

【・・・・】

 

澪は油断なく男を見据えながらも、コクリと頷いた。

 

【そうか】 

 

男は大きな息を吐きながらそう言うと、親指を立てて路地の奥を示した。

 

【ーーーー行きな】

 

【・・・・は?】

 

予想外の言葉に目を見開き、罠ではないかと思ったが、男からは微塵も敵意のようなものが感じ取れなかった。

 

【ど、どういう事だよ】

 

【どうもこうもねえよ。良いから早く行け。でないとーーーー】

 

【! いたぞ! こっちだ!】

 

次の瞬間、通りの方から叫び声が聞こえ、激しい足音と共に追っ手が走ってくる。

 

【ああもう、言わんこっちゃない】

 

オーバーリアクション気味に肩を竦める男は額に手を置き、キッと目を鋭くして地面を蹴り、少年と澪をすり抜け、追っ手を叩きのめした。

 

【“ウッドマン”さん、何を・・・・!】

 

追っ手が気を失うと、“ウッドマン”と呼ばれた男は面倒そうに頭をかくと、もう1度少年達を促す。

 

【・・・・行け。その子をーーーー澪を頼んたぞ、坊主】

 

【あ、ああ・・・・!】

 

向こうの事情は分からないが、助けられたのは確かだ。少年は短く言うと、澪の手を取って走り出した。

それから暫く走ると、不意に澪の手に力が入り、少年はグイと後方に引っ張られた。

 

【うわっ!?】

 

急にブレーキをかけられ、ガクンと身体を揺らす。

 

ーーーーパン!

 

【な!?】

 

すると次の瞬間、乾いた音が響くと、少年が一瞬前までいた位置に火花が散った。

少年が眉をひそめるた、それに合わさるようにして、前方の路地から、銃を構えた追っ手達が数名、さらにその最奥からーーーー20代前半でくすんだ銀髪に長身、錆びついたような色の双眸が特徴的な、一際目を引く男を1人、歩み出る。

 

【ーーーー久しぶりだね、精霊。会いたかったよ】

 

【・・・・・・・・】

 

物腰は柔らかったが、その身に纏う異質な空気に、少年は元より、話しかけられた澪も渋面を作る。

 

【ソチラの少年ははじめましてだったね。我々の精霊を保護してくれていてありがとう。本当に感謝している。無論、相応のお礼を用意しているよ】

 

薄い笑みを浮かべて言う男。まるでペットを扱うかのようなその言葉に、少年は思わず語気を荒げた。

 

【ふざけーーーー】

 

が。

 

【ーーーー君の妹を『保護』している。お互い、正しい場所へ返そうじゃないか】

 

【な・・・・ッ!?】

 

【・・・・っ】

 

次いで男の発した言葉に、少年と澪は息を詰まらせた。

 

【テメェっ、真那に何かしてみやがれ、絶対に許さねえぞ・・・・!】

 

【ほう? マナと言うのかね、彼女は。はは、これは洒落が効いている。精霊が流れ着いたのと頷けると言うものだね】

 

一体何がおかしいのか、男が笑う。デマかと思うと、目の前の男の手勢と狂気が嘘と断ぜられなかった。

少年と同じ考えなのか、澪が思い詰めた顔をしながら1歩前に進み出た

 

【・・・・約束して。私が行けば、真那を返すと】

 

【ああ、勿論だとも】

 

【澪!?】

 

少年は驚愕の声を上げるが、澪はゆっくりと首を振る。

 

【・・・・良いんだ。元々私は、ここにいる筈の無かった存在。私のせいで、真那を危険に晒す訳にはいかないよ。ーーーーひと時でも、君といられて幸せだった】

 

【ーーーー、・・・・ッ】

 

少年の喉から、声にならない声が漏れる。澪は優しく微笑むと、男達の方へと歩いていった。

だがーーーー。

 

【・・・・っざ、けんな・・・・ッ!】

 

少年は震える身体に活を入れると、地面を蹴って澪の手を取った。地面を蹴って澪の手を取り、その手を引いて一目散に逃げ出す。

追っ手達が慌てて、銃を撃ってくる。地面に壁に銃弾が当たり、火花が散る。

 

【っ、何をーーーー】

 

【馬鹿野郎! こういう手合いが本当に約束なんて守ると思ってんのか!? 澪を手に入れたからって、奴等が俺と真那を殺さない保証がどこにある!】

 

【・・・・っ! それはーーーー】

 

【お前がコッチにいる限り、アイツらは真那に手を出せやしない! ならーーーーここは態勢を立て直して、真那を取り返して澪もそのまま万々歳ってのが最高のルートだろうが!】

 

少年は走りながら叫びを上げた。澪が、ハッとした様子で目を見開く。

 

【・・・・! うん・・・・!】

 

がーーーーその瞬間。

 

【ーーーーやれやれ、困ったな。私は嘘を吐いているつもりはなかったんだが。しかし、少年。君の言った言葉には『穴』がある。それはーーーー君にそれを成せる『力』が無い事だ。無力な子供の口先だけの行動が、このような『結果』を生む】

 

耳に、男の声が鮮明に聞こえ。視界の端に、男の大口径の銃を構える姿が映ったかと思うと。

 

ーーーーパン!

 

乾いた音と共に、熱い感触が襲った。

 

【ぁーーーーーーーー?】

 

一拍置いて、自分が撃たれたのだと分かった。

激痛。全身に震動が伝わり、息ができなくなる。ガクリと足が崩折れ、その場に転倒し、ジワリ、ジワリと生温い水溜りに浸るような感覚。

 

【ーーーー!? ーーーー!】

 

澪が、何かを言っている。必死に、何かを叫んでいる。

けれど、やがてその声さえも聞こえなくなっーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー少年。君の言った言葉には『穴』がある。それはーーーー君にそれを成せる『力』が無い事だ。無力な子供の口先だけの行動が、このような『結果』を生む。

 

 

 

 

 

 

 

男の言葉が過る。

 

【(ーーーーあぁ、その通りだ・・・・俺には、何の『力』もない・・・・! 真那を助ける事も・・・・澪を守る事も・・・・何1つ、成せない・・・・俺は・・・・俺は、『無力』、だ・・・・!)】

 

少年が意識を手放す寸前、内心呟くとーーーー意識は完全に闇の中に落ちていった・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・ーーーーーーーー。

 

闇の中で、少年に『何か』の声がした。

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