デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ーアルテミシアsideー
幾度目とも知れぬ剣閃が、空に魔力の光を散らす。
ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›はエンジェル‹折紙›の繰り出すレイザースピアを振り払う。
「ーーーーやっぱり、やるね」
「あなたこそ」
お互いを賞賛するが、2人の戦闘能力が決して同等ではない。エンジェルは今『トリニティスタイル』で戦っているが、相手は基本スペックでこれなのだ。折紙が精霊の力を十全に振るっていれば話は違っていたかも知れないが、今の状態でヘルキューレⅡ‹アルテミシア›を倒すのは難しい。
ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›は勿論、エンジェル‹折紙›も理解している筈なのに、まるであえて防戦に徹している。
そうーーーーまるで、何かを待っているかのように。
「・・・・・・・・」
エンジェル‹折紙›たちの周りでは、大量の〈バンダースナッチ〉とメイジ、再生ファントムにインプと戦うビースト‹真那›と精霊達。この乱戦の中で、2人は一騎打ち状態となっている事に、ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›は不審にしているのが分かった。
「一体ーーーー何が狙いなのかな?」
「・・・・・・・・」
軽く揺さぶりをかけてみるが、エンジェル‹折紙›は無言を貫いた。
鳶一折紙の怖さは、その力ではなく狡猾さである。このまま続けても負けはしないが、早めに勝負を決めたい所だ。
しかし、その為には、せめてもう1人手勢が、エンジェル‹折紙›の逃げ道を塞ぐ者がいればーーーー。
「ーーーー!」
と。思考の途中で、網膜に投影されたセンサーに、友軍の、恐らく応援を要請されたASTだろう。正直戦力としては心許ないが、サポートが欲しいこの状況では願ってもない増援だった。
「丁度良かった。コチラ、DEMインダストリー第2執行部所属、アルテミシア・アシュクロフト。コールサインはアデプタス2にして、〈仮面ライダーヘルキューレⅡ〉よ。只今精霊と交戦中。手を貸してちょうだい。敵の逃げ道さえ塞いでくれればーーーー後は、私が片付けるから」
ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›はそう言うと、エンジェル‹折紙›目掛けて空を蹴ろうとした。
が。
《・・・・悪いけど、期待には添えないわ。ーーーー何せ私らは無職なもんでね!》
次の瞬間、後方からそんな声が響いたかと思うと、AST隊員達が一斉射撃を行った。
ーーーーヘルキューレⅡ‹アルテミシア›に、向けて。
「な・・・・っ!?」
突然の事態に、ヘルキューレⅡ‹折紙›は目を見開いた。
身を包む随意領域‹テリトリー›にレイザーカノンが直撃し、目映い光を放つ。
無論、凡百の魔導師‹ウィザード›程度で、彼女の強固な随意領域‹テリトリー›に傷1つ付けられない。が、予想外の攻撃に一瞬だけ、ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›の意識がソチラに向いてしまう。
そして、その一瞬は、エンジェル‹折紙›にとって黄金よりも価値のある一瞬だった。
「ーーーーふーーーーッ!」
ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›の注意が逸れた隙を衝いて、エンジェル‹折紙›が肉薄してくる。レイザースピアがヘルキューレⅡ‹アルテミシア›に向かって繰り出される。
「ーーーーッ」
だが。ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›も怪物。
『イージスⅡ』でその1撃を防ぐがそのパワーに砕ける。しかし、『イージスⅡ』が砕けてもエンジェル‹折紙›へと接近に、自分の脇腹を深々と切り裂くが、致命傷ではない。ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›は『ダーインスレイブⅡ』でエンジェル‹折紙›の身体を袈裟斬り斬りつけ、エンジェル‹折紙›もまた、『メタトロンウィンガー』の1枚で光線を放つが、ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›は顔を動かし、マスクの側頭部に当たる。
「く・・・・ッ」
マスクの1部が砕け顔の半分が露出し、空に血がしぶき、エンジェル‹折紙›が苦悶の声を発する。ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›のマスクの半分が砕け、露出した顔に汗を浮かべながら強がるように声を発した。
「相打ちーーーーいや、私の勝ちかな」
するとエンジェル‹折紙›は、彼女には珍しく、唇の端を上げてみせた。
「・・・・いいえ。私のーーーー私達の、勝ち」
瞬間ーーーー。
「え・・・・?」
ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›は、奇妙な感覚に声を裏返らせた。視界の端に、妙なものが見える。
それはーーーー鍵だった。
錫杖のように巨大な鍵の先端部分が虚空から顔を出し、ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›の露出した側頭部に突き刺さった。
天使。鍵の天使〈封解主‹ミカエル›〉に良く似た武器であった。
エンジェル‹折紙›の遥か後方に、虚空に鍵の先端を突き刺した〈仮面ライダー〉、〈仮面ライダーゾディアック〉の姿があった。
「(ーーーーああそうか、ASTで注意を引きつけ、鳶一折紙を囮までも事で、私に必殺の1撃を放つ作戦、だったか・・・・やられたなぁ・・・・)」
「安心せいーーーーちょっとくすぐったいのじゃ」
鍵の生えた虚空の向こうから、そんな声が響くと同時、鍵が回されーーーー。
「あーーーー」
ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›の頭の中に、堰を切ったように、夥しい量の情報が流れ込んできた。
「・・・・流石、隊長。正しい判断をしてくれて・・・・助かった」
「っざねんじゃないわよあーもーこれで戻れないわ。グッバイ私の公務員生活・・・・」
等と、およそ戦場に似つかわしくない緊張感に欠けた会話を聞きながらーーーー変身を自動解除されたアルテミシアの意識は、押し寄せる記憶の波に覆い尽くされていった。
ー士道sideー
「ーーーーうふふ。士道さん、いつまでそうしていらっしゃるおつもりですの? まあ、わたくしとしても吝かではございませんけれど、残念ながらここは戦場の真っ只中でしてよ?」
「・・・・! あーーーー」
狂三に言われて、〈ニベルコル〉だと思って抱き寄せたのが狂三であった事に気づき、士道はハッと肩を震わせ、手を離した。
しかも、背に巨大な羅針盤、時の天使〈刻々帝‹ザフキエル›〉を背負っている。ーーーー分身体ではなく、本物の精霊・時崎狂三だ。
「狂三、俺ーーーー」
声を発し・・・・すぐに止まってしまった。
会って言いたい事が山のようにあったが、突然の遭遇に、その言葉が詰まってしまっていたのだ。
ーーーーバシンっ!
「いってぇっ!?ーーーーっ!」
ドラゴンからの気付けのド突きを受けると、士道は背後から迫る〈ニベルコル〉の気配を感じ、振り向こうとすると、
ーーーードォン!
「きゃは・・・・ッ」
狂三が短銃を撃ったのかけたたましい銃声が聞こえると、迫っていた〈ニベルコル〉が、コミカルな断末魔を上げて身を仰け反らせる。
「油断大敵、ですわよ」
「あ、ああ・・・・ありがとう、狂三。助かったよ。お前はーーーー命の恩人だな」
「うふふ、随分と大袈裟ですわね」
戯けるような調子で狂三が言う。だが、この言葉は、きっと士道の心の裡にある気持ちの、ホンの1%も伝えきれていないだろう。
「違うよ。今だけの話じゃない。今までーーーー難度も俺達を助けてくれて、本当に、ありがとう。どうしても・・・・直接言いたかった」
「・・・・・・・・」
士道が言うと、狂三は一瞬押し黙るが、すぐに気を取り直し微笑む。
「うふふ。あら、あら。どういたしまして。それではお礼に、士道さん達の力をいただけませんこと?」
「それはまた別の話だ!」
「うふふ、それは残念ですわね。ではまた迫り方を変えると致します・・・・わッ!」
士道と狂三は互いに声を張り上げると同時に、地面を蹴り、各々に迫ってきた〈ニベルコル〉を撃退する。
狂三が影の銃弾を連射して〈ニベルコル〉を撃ち抜き、士道は投げキッスで怯ませた〈ニベルコル〉を抱き寄せて唇を奪う。その様を見ていた他の〈ニベルコル〉達が頬を赤くし苦しみ悶えて消えていった。
「ふ・・・・あはは、はははっ! 何ですのそれは! ドラゴンさん、爆笑しているのでは!」
「ーーーー具合悪くなって俺の中で寝込んで吐いてやがるよ!」
〈ニベルコル〉の撃退法を見て、狂三は心底おかしそうに笑う。
「無尽蔵に復活してくる〈ニベルコル〉を、そんな方法で・・・・? うふふ、成る程、敵に狙われている筈の士道さんが最前線にいる理由が分かりましたわ。士道さんは何度も、〈仮面ライダーウィザード〉に変身して〈ニベルコル〉と戦っても、ドラゴンさんが代わりに戦っても、毎回のように、正確に言うと204回中117回は、彼女達に命乞いをされた士道さんが躊躇した隙に殺された回数だったのですわよ」
《ーーーー貴様、そんなにか・・・・》
「半数以上・・・・!」
狂三が遡行し続けた士道の死の半数以上の原因を教えられて、少し凹んだ。
しかし士道は止まらなかった。ドラゴンや琴里に、狂三の事はこの決戦を切り抜けて、生き残ってからにしろといわれたが、この乱戦の中での奇跡の邂逅。この機を逃したらもう狂三の手を取れない気がしてならないのだ。
士道は〈ニベルコル〉を千切っては投げしながら声を張り上げた。
「ーーーー狂三! 俺達を助けてくれたのには心から感謝してる! お前のお陰で精霊達も反転せずに済んだ! ありがとう!・・・・でもな、DEMやワイズマン達が総力を挙げて襲ってくるから大人しく隠れてろだ!? 俺はそこまで頼んだ覚えはねえぞ! お前の命と引き替えに助けて貰ったって嬉しくも何ともないからな!」
「・・・・あらァ? 随分傲慢になられました事ね。わたくしは単に、士道さんとドラゴンさんの力が欲しいだけでしてよ。それに、命と引き替えに? 見くびってくれますわね。わたくしが、この時崎狂三が、遅れを取ると申しまして?」
「・・・・んっ、いや実際苦戦してるだろ強がるなって!」
「・・・・んなっ!」
〈ニベルコル〉にキスしてから士道が叫ぶと、狂三は苛立たし気に視線を鋭くした。
「強がってなどおりませんわ! 士道さんはドラゴンさんと言う飼い主に面倒見られながら、大人しく艦の中で丸くなっていれば良いのですわ! そして全てが終わった後、感涙に噎び泣きわたくしに霊力を差し出せば良いのですわ!」
「それ俺にとっては殺される相手がお前に変わるだけだよな!?」
「だから申したではありませんの! わたくしは士道さんの霊力で全てをやり直すと! 気づいた時にはもう新しい世界ですわ! 精霊も何もなく! ただ穏やかな世界に戻るのですわ!」
「歴史には修正力があったじゃねえかよ! 結局折紙の両親は亡くなっていたし! 折紙も精霊になっていただろ! 上手く行くと思ってんのか!?」
「実際に歴史改変に成功させた人にだけは言われたくありませんわ!」
「そう言えばそうだったよチクショウ!」
この上ない証拠を示される。
「そうですわ! 『士道さん達が死ぬ』事自体が無かった事になりますのよ! それの何が不満なんですの!」
「そんなのーーーー全部無かった事になるって事は・・・・俺とお前が出会った! その事実さえなくなっちまうって事だろうが!」
「・・・・・・・・ッ!」
士道の叫びに、狂三は息を詰まらせた。
「俺はお前が好きだ! お前との出会いが無くなっちまうなんて耐えられない!」
「な・・・・何を仰っていますのこんな時に! さらに可笑しくなったんですの!?///」
「失礼だなおい! 至って正常だ! ていうかお前だって俺の事大好きだろう! 【10の弾‹ユッド›】でお前の記憶の追体験したんだからな!」
「ーーーー///」
狂三がハッと息を呑む。確かな、思わず赤面してしまう程に熱い乙女の感情がーーーー士道への想いが知られた。
「・・・・、・・・・!・・・・///」
顔を『What's your Fire Fire』したように赤く染めながら、暫し苦しむように身を捩った後、どうにか呼吸を整えて士道を睨み付けた。
「・・・・仮にそうだとしてもその言葉、別の女性にキスしながら言うなんて最低ですわね」
「それは本当に申し訳ない!」
「はにゃあ・・・・」
素直に謝罪する士道は、〈ニベルコル〉と熱い口づけを交わすと、〈ニベルコル〉は蕩けるような声を発して光となった。
狂三はそれを横目で見て、フンと鼻を鳴らすと、銃を握る手に力を入れながら喉を震わせてくる。
「だからといってーーーーわたくしに目的を諦めろと仰いますの? わたくしが奪ってきた幾つもの命を見捨てろと仰いますの?ーーーー紗和さんを、見殺しにしろと仰いますの?」
静かなーーーーしかし激しい憤怒と怨嗟が込められた声で、狂三が言うが、士道は首を横に振る。
「まさかーーーー言っただろ。俺はお前の記憶を追体験してるんだ。そんな簡単に・・・・諦めろだなんて言えるかよ」
「・・・・では、どう言うおつもりですの? 無かった事にするのは反対で、けれどわたくしの目的を諦めろと仰るつもりもない? 幾ら何でも矛盾が過ぎますわよ」
「ああ・・・・そうだな。我ながら滅茶苦茶な事を言ってると思うよ。ーーーーでもな!」
前方の〈ニベルコル〉目がけて投げキッスを飛ばしながら叫びを上げた。
「滅茶苦茶言わざるを得ないだろうが! 俺とお前の希望、両方叶える為には!」
「え・・・・?」
「ーーーー『全て』じゃない! 悪かった事だけやり直す! 展開を取捨選択し、歴史を理想の形に作り替える・・・・! もしもそれが可能だとしたら、どうだ!?」
喉が潰れんばかりに絶叫を上げる。狂三は士道の言葉が理解ないと言うように眉根を寄せた。
「な、何を仰っていますの・・・・? 意味が分かりませんわ。そんな事が可能だと仰いますの・・・・?」
「分からん!」
《ーーーー何と言う無責任・・・・》
「・・・・・・・・」
士道が断言すると、ドラゴンは呆れ果て、狂三は渋面を作る。しかし士道は当然と言うように続ける。
「そりゃあそうだろう! 試した事なんてないんだから! でも、賭けてみる価値はある筈だ!」
「・・・・一応聞いて差し上げますわ。ーーーー夢物語、一体どうやって実現すると仰いますの?」
「良く聞いてくれた! 先ずは、俺がお前の霊力を封印する!」
「はっ。聞いて損しましたわ。論外ですわね。話にーーーー」
息を吐いた狂三に、士道は構わず続ける。
「ーーーーそして、俺が俺達の力を使って、〈刻々帝‹ザフキエル›〉で30年前に戻る・・・・ッ!」
「・・・・、はーーーー」
狂三が、目を点にする。
「どう言う・・・・事ですの? そんなの、わたくしが行くのと変わりはーーーー」
「あるさ! 狂三には、始原の精霊の誕生を阻止する事しかできない! でも俺になら、始原の精霊の力を封印する事ができるかも知れない・・・・!」
「封印・・・・!? 始原の精霊の力を封印すると仰いまして・・・・!?」
あまりに意外だったその言葉に、狂三は、普段の彼女からは考えられないような狼狽に満ちた声を発し、士道は首肯する。
「ああそうとも! ソイツは精霊なんだろう!? なら、それは俺の仕事だ! どんな巨大な力を持っているかは知らないが、俺がーーーーデレさせる!」
「・・・・・・・・!?」
狂三が呆気にとられたように絶句するが、士道は押し切るように続ける。
「そして! 始原の精霊を封印したなら、俺がその力を使って・・・・歴史をやり直す! 狂三に降りかかった不幸を! ソコから歩んだ修羅の人生を『無かった事』にしながら! 俺はお前とーーーーもう1度出会って見せる! それだけじゃない! 他の精霊達だってそうだ! 救いが必要な者には手を差し伸べ、取り返しの付かない過ちを消し去り、俺が! 最高のご都合主義な歴史を創り出して見せる・・・・!」
「あなたの飼い主は・・・・ドラゴンさんは、そんなやり方をーーーー」
「ああドラゴンはそんなやり方なんて猛反対したよ! 【歴史とは起こった事象と言う歯車で精密に動いてる機械だ。既に創られた歴史の歯車を自分勝手に捻じ曲げるなんて、どんな不具合が起こり、歪みが生じるか分からないのに危険過ぎる!】って! 昨日はこの方法の事で1日中話し合って! 果ては大喧嘩を繰り返したよ! でも! 俺は馬鹿だから! そんなやり方しか思いつかねえよ! それにーーーー1つだけ確かな事がある!」
士道は、ビッ!と立てた親指を自分に突きつけた。
「狂三。俺はーーーーこの世界で唯一! “歴史を書き換えた事のある人間”だぞ!」
「ーーーー」
狂三は言葉を失い、マジマジと士道を見てくる。
が、ソコで、前方から悲鳴染みた声が響いた。
「だぁぁぁぁ! アタシを無視して2人の世界を作ってんじゃないわよぉぉぉぉーーーーッ!」
そんな〈ニベルコル〉の叫びと共に、辺りに何枚もの本のページが、吹雪の如く舞い踊り、〈ニベルコル〉に結集していき、その身体を甲冑のようにピッチリと覆った。
「〈神蝕篇帙・頁‹ベルゼバブ・イエレッド›〉ーーーー【装集篇‹ヘトキブツート›】・・・・っ!」
紙の鎧を纏った〈ニベルコル〉が地面を蹴り、凄まじくスピードで狂三に迫る。2人はハッと肩を揺らすと、同時に銃弾と投げキッスをを放つがーーーー。
「ふんッ!」
銃弾を弾き、紙の鎧で目元を完全に覆い尽くして防御した。
「「・・・・っ」」
2人がそれに気づいてももう遅い。〈ニベルコル〉は、狂三でも避け得ない位置まで迫る。
「狂三ーーーー」
「ち・・・・!」
「きゃはははははははは! 死・ねェェェェェッ!」
腕部の鎧を円錐状に変化させた〈ニベルコル〉が、狂三目掛けて右手を繰り出した。
ー狂三sideー
ーーーー〈ニベルコル〉の鋭い1撃が、凄まじい速度で胸元に迫ってくる。
そんな光景に意識が凝縮されたのか、一瞬の時間がスローモーションになり、長く錯覚したような感覚になった。所謂、走馬灯だろう。
如何に狂三でも、この至近距離からの〈ニベルコル〉の攻撃を回避は困難。即死しなければ【4の弾‹ダレット›】があるが、追撃を受ければどうにもならない。
「(誤算、ですわね。分身体達に任せて影に隠れ、いいえ、〈刻々帝‹ザフキエル›〉抜きでこの劣勢をどうにかできる訳ありませんわ。いえ、寧ろそれ以前にーーーー士道さんの声に気を取られたのがいけませんでしたわ。そうすれば、隙を衝かれる事も無かったのに。しかし、それも仕方ありませんわね・・・・)」
狂三は、自嘲気味に笑う。
「(ーーーー士道さんの、あまりに幼稚で、荒唐無稽で、ワガママで、傲慢とも言える机上の空論に、心揺らぶられてしまったのですから)」
けれど、狂三は思ってしまったのだ。
それが叶ったのならば、どんなに素敵なのだろうと。
その夢に身を委ねられたのならば、どんなに幸せだろうと。
もしもこのまま死んでしまうのであれば、せめて、士道に自分のチカラを託してからーーーー。
「ーーーーと、『わたくし』なら、そう思いますわよねェ?」
と。研ぎ澄ませれた意識の中に声が響いた瞬間。
狂三の影の中から『眼帯狂三』が現れ、〈ニベルコル〉の攻撃を受け止めた。
狂三の視界に鮮血の華が咲き、眼帯狂三の身体を突き抜けて、〈ニベルコル〉の手の先端が顔を覗かせる。
「『わたくし』・・・・ッ!?」
そこで漸く、意識に身体のリアクションが追い付いた。喉から、驚愕の声が漏れる。けれど、狂三はすぐに冷静さを取り戻した。
「ーーーーね、ェ・・・・? お役に、立ちました・・・・でしょう?」
〈ニベルコル〉に身体を貫かれた眼帯狂三がチラと狂三の方を見てそう言い、誇らしげにニィと微笑んだからだ。
「ーーーー、ええ。不本意ながら、生かしておいた甲斐がありましたわ」
狂三は即座に【4の弾‹ダレット›】で〈ニベルコル〉を狙い撃つと、その身体を覆っていた紙の鎧をバラバラと紙へと変化した。
「ひーーーーっ」
突然丸裸にされ、〈ニベルコル〉が息を詰まらせた瞬間、既に狂三の方へと走っていた士道が〈ニベルコル〉の首に手を回し、そのまま唇を奪った。
「やーーーーん・・・・っ」
甘い声を残し、〈ニベルコル〉が光の粒になり、それを見届けた士道はすぐさま狂三の方に視線を寄越した。
「大丈夫か、狂三!」
「・・・・ええ」
狂三はそう答えると、血塗れで倒れ伏した眼帯狂三に目をやった。士道もそれを目にしてか、表情を悲痛の色に染める。
しかし、眼帯狂三は満足げに笑うと、
「『わたくし』、どうか・・・・自分の心に・・・・素直にーーーー」
そう言って、影の中へと沈んでいった。
「狂三、そのーーーー」
「ーーーー気になさらないで下さいまし。既に死んでいた筈の『わたくし』ですわ。どうしようもない分身体でしたけれど、死ぬ前に漸く役に立ちましたわね」
「・・・・っ、そんな言い方をする事ーーーー」
言いかけて、士道は言葉を止めた。唇を引き結ぶ狂三の横顔を見てしまったからだ。
「・・・・っ」
狂三は一瞬士道から顔を背け、気を取り直すように息を吐いてから士道に向き直った。
そう。死を覚悟した瞬間、頭を掠めた思いが、本当に正しかったのか、士道に確かめねばならないから。
自分の命を救った分身体の今際の際の言葉に、従っても良いのかを確かめる為に。
「ーーーーそれよりも。士道さん、今のお話、一体どの程度本気ですの?」
目を見据えながら問うと、士道は小さく眉を揺らしてから答えてきた。
「勿論ーーーー心から」
「・・・・・・・・」
真っ直ぐな視線で目を見返しながら、士道は答えた。
「(ーーーー嗚呼、本当に嫌ですわ)」
彼は、心の底から、本当に実現可能かどうかすら分からない可能性を信じてる。
そして、それがどれだけ苦難に満ちた修羅の道であるかを理解しながら、本当に、成し遂げようとしている。
そう。士道は、微塵も嘘を吐いていないのだ。狂三に語った夢物語も。
きっとーーーーその前に発した【俺はお前が好きだ!】と言う言葉さえも。
「・・・・ああ、ああ、馬鹿げていますわね」
自嘲するように息を吐き、狂三は続けた。
「ねえーーーー士道さん。覚えておられまして? わたくし達の、『勝負』の事を」
「え?」
狂三が言うと、士道は目を丸くした後、答えてきた。
「・・・・デレさせたら、勝ち?」
「ーーーーふふ」
狂三はフッと口元を緩めせると、言葉を続けた。
「話の続きは、戦いの後に致しましょう。DEMとワイズマンの連合を退け、士道さんから命の危機が去った後ならばーーーーこの唇、あなたに捧げても構いませんわ」
「・・・・! 本当か、狂三・・・・!」
それを見て、思わず狂三は笑ってしまいそうになる。
「(あれだけ格好をつけたのですから、最後まで超然としていれば良いのに、子供のように目を輝かせて)・・・・本当に、可愛いですわね」
「え?」
「何でもありませんわ。ーーーーそれより、あくまで彼等を倒したならば、ですわよ。うふふ、士道さんにそれができまして?」
「ったり前だ! それくらいできなくて、始原の精霊なんて相手にできるかよ!」
力強く士道が言うと、狂三はスッと手を差し出してきた。まるで、一緒に行こう、とでも言うように。
「・・・・ふふ」
狂三はフッと頬を緩めると、その手を取るように手を伸ばしーーーー。
「『っ! 〈ナイトメア〉! 貴様の身体!』」
士道の声と口調が変わった、その瞬間ーーーー。
ー???sideー
【あ・・・・あ、あああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーッ!】
ーーーー慟哭が、世界を支配していた。
目からは滂沱と涙が溢れ、喉からは悲鳴とも絶叫とも取れぬ声が絶え間なく漏れる。
しかしそんなものは、澪の途方も無い悲しみの一端さえも示しきれていなかった。
今この場にいるのは、澪とーーーーその前に横たわった少年のみである。
少年が凶弾に倒れた瞬間、澪は怒りと悲しみと混乱に意識を支配され、無差別に辺りに霊力を撒き散らして、自分を追っていた男達も、少年を殺した男も、周囲をも破壊し、その場を逃れていたのだ。
少年の身体の傷は、澪がすぐに霊力を以てすぐに傷を塞ぎ、治した筈だ。しかし、1度失われてしまった命を戻す事は、澪の絶大な力を以ても、できなかったのである。
【なん・・・・で・・・・どうして・・・・ッ】
澪はーーーー泣いた。
それこそ、どれくらいの時間が経ったのかも分からないくらいに、泣いて、泣いて、泣き尽くした。
だが、それでも涙は止まらない。
少年の事が好きだった。
少年と出会わなければ、今の澪はいなかったに違いない。居住環境に、衣服に、食糧。そして知識を与えてくれた。
否ーーーーそんなものでは、ない。
少年が死んでしまって、2度と会えなくなってしまって、漸く分かった。
少年が澪の中で、どれ程大きな存在だったのかが。どれ程掛け替えのない存在だったのかが。
彼1人がいなくなっただけで、あんなにも色鮮やかだった世界が灰色にしか感じられなくなった。あんなにも『希望の光』に溢れていた日々から、何もかも感じられない『虚無』になってしまった。
偶然の出会いだった。けれど今は何の誇張でもなくーーーー少年は、澪の生きる理由であり、『希望』であり、全てになっていた。
もしも少年に出会わなかったら。
もしも少年に頼り切らなければ。
もしも自分がーーーー潔く死を選んでいたならば。
ーーーー少年は、死なずに済んだかも知れないのに。
詮ない後悔が、頭の中を駆け巡る。
【・・・・っ、・・・・】
澪は噛み締めた唇から血を滲ませながら、ガリガリと頭を、肌を掻き毟る。思考を回転させる。少年に拾われてから今に至るまでに蓄えた知識と、それらから導き出された推測、想像を全て用い、この絶望を打破する手段がないかを考え抜いた。
しかし、答えはでなかった。
人間は酷く脆い。あの男達に狙われている以上、いずれ同じ事が起こる。
さらに人間は短命だ。自分と比べても精々100年が限界だ。
全ての問題を排除し、少年と添い遂げても、少年は澪よりも遥か先に死んでしまう。そんな事は耐えられない。
「・・・・・・・・」
少年の笑顔をもう1度見る為には。そして、少年と少しでも長く共にいる為には、一体何をすれば良いのか。
澪は考えた。ひたすらにーーーー考えた。
◇
それからーーーーどれくらい、そうしたか。
【・・・・ぁ・・・・】
いつの間にかカサカサになった唇から、小さな小さな声が漏れる。
【そう・・・・か・・・・】
澪はヨロヨロと身体を起こすと、静かに眠る少年の顔を覗き込んだ。
【ーーーー“作り直せば”・・・・良いんだ】
そしてそう呟いて、少年の頬を撫でる。
そう。それが、長い長い思考の果てに、澪が至った答えであった。
ーーーー澪は、ペロリと唇を甜めて湿らせると、ゆっくりと、少年の顔に自分の顔を近づけ、その唇に、自分の唇を重ねる。
少年の唇はまだ柔らかかったけれど、もう、体温は失われていた。
【・・・・・・・・】
澪は集中するように目を伏せた。
自分を取り巻く世界、それを、頭の中で変質させるような感覚。すると、少年の身体が淡い光の粒と化しーーーー澪の身体に、吸い込まれていった。
【・・・・んっ・・・・】
少年の身体を完全に吸収し、澪は小さな吐息と共に身を起こす。
そして、優しく自分の腹部を撫でる。
【ーーーー私が、もう1度産んであげる。
“今度は絶対に死なないように”。
“今度は絶対に壊れないように”】
1度死んだ少年が生き返る事はない。
ならばーーーー自分の胎を使って、少年を、そっくりそのまま作り直せば良い。
否、そっくりそのままだけではない。澪の胎内で身体を構成する過程で、少年に澪の力を分け与える。
少年は、少年としての身体を持ったまま、”精霊の力を得る事になる”。
【嗚呼ーーーーだが、それだけでは駄目だ】
ヒトの身体はあまりに脆い。1度に全てを与えては、きっと耐え切れず自壊してしまう。
少しずつ、少しずつ。幾つもの因子に分けて、力を少年に与えねばならない。
だから、最初に用意するのは1つだけでいい。
ーーーー『力を吸収する為の、力』。
いつか、いつの日か、少年が産まれ、育ち、安定した身体を手に入れた時。
1つずつそれを手に入れられるように、世界に種を撒く。
澪はそれを、側で見守っていれば良い。
そうして、少年が全ての力を手に入れたその時ーーーー少年は何者にも害されぬ力を持ち、永劫にも近い命を持った、澪の、『永遠の恋人』となるだろう。
【ーーーーもう、絶対離さない。もう、絶対間違わない】
澪は、お腹を撫でながら呟いた。
【だから・・・・待っててね。ーーーーシン】
少年ーーーー『崇宮真士』の名を・・・・。
ー士道sideー
「ーーーーっ、へ・・・・?」
戦場の中。
何とも間の抜けた声を発する士道だが、それも仕方ない。何しろ、コチラに向かって手を伸ばしつつあった狂三の胸元から、狂三の物ではないーーーー“別の手が現れたのだ”。
去年の6月で、分身体の狂三の胸を背後から、本体狂三が貫いた。
しかし、目の前にいる狂三は本体であるし、その胸から生えた腕は、狂三の物ではない気がした。
ならば、だとするとこれはーーーー。
「・・・・え?」
一拍遅れて、狂三も気付いたらしい。自分の胸元に視線を落とし、何が起こっているのか分からないといった様子で目を見開いた。
「これ、は・・・・一体・・・・?」
「あーーーーーーーー」
狂三が呆然と声を発していると、少しずつ、少しずつ、腕が伸びていった。
まるで、狂三の中から、『何か』が這い出てこようとでもしているかのように。
「あ、あ・・・・あ、あ、あ、あ、あ、あ・・・・・・・・ッ」
「狂三!」
ギチギチと音を立て、腕がその根本を外気に晒していくに従い、狂三が苦しげな声を発する。士道が思わず名を呼んだ。
しかし、その進行は止まらず、やがてーーーー。
「・・・・時崎狂三。感謝するよ。君は最後まで、私の素晴らしい友人だった」
そんな声と共に、『ソレ』は、姿を現した。
ードラゴンsideー
『ーーーー”澪“。君はそうか・・・・彼の為に・・・・!』
士道のアンダーワールドで事の成り行きを見ていたドラゴンが息を呑みながら呟いた。
ーワイズマンsideー
『ワイズマン。グレムリンから報告です。動いた、と』
『そうか』
『くっ・・・・!』
天宮市から離れた地点。
白い魔法使いと、国安0課との戦いを終えたワイズマンはーーーー“生け贄のメイジ”達を見て呟いた。
『ではこれよりーーーー『儀式‹サバト›』を始める!』
絶望が、世界を包もうとする。
ー『狂三ラグナロク』・FINー
すみません。書いている内に、ワイズマンの正体の件を書けませんでした!
次回、デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚
全ては、『彼女』の悲しみから生まれた。
全ては、『彼女』に起こった悲劇が発端だった。
全ては、『彼女』が自身の願いを叶える為であった。
遂にその姿を現した始原の精霊ーーーー崇宮澪。 最強の精霊に挑む十香達が挑むが・・・・・1人、また1人とその圧倒的な力に倒されていく。
そんな中、士道もまた、最大の因縁の怨敵、ウェスコットこと〈仮面ライダーソーサラー〉と対峙する。
第十九章 『澪ゲームオーバー』
『ーーーー小僧。お前では彼女を、澪を攻略する事はできない・・・・!』