デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
士道はさらに起こった異常事態に、既にこの上ない程混乱していた士道はさらに困惑した。
〈フラクシナス〉にいる筈の令音がここに現れる理由が分からない。しかも今彼女は、虚空から突然出現して見せた。それこそーーーーまるで転移魔法でもしたかのように。
「・・・・辛そうだね。だが、直に収まる。少しの間だけ耐えてくれ、“シン”」
そんな士道の当惑を知ってか知らずか、令音が至極落ち着いた声音が言ってくる。いつも通りのその調子に違和感を覚えつつも、しかし士道は、別の事に注意を奪っていた。
「ああ・・・・そう、かーーーー」
先程から謎の少女ーーーー澪に覚えていた既視感。
その原因は、彼女の持つ雰囲気が、令音にソックリだったからだ。
「・・・・・・・・」
士道の様子を察したかのように、令音はフゥと小さく息を吐くと、そのまま両手を広げ、澪の身体を背から優しく抱きしめた。
すると次の瞬間、澪と令音の身体が淡く発光したかと思うと、その輪郭が曖昧になり、2つのシルエットが1つに結合していった。
「なーーーー」
《・・・・!》
朧気になる視界の中、士道とドラゴンは見た。
一糸纏わぬ姿であった澪の身体に、虚空から現れた光り輝く衣が、まるで生物のように纏わり付いていくのを。
極光の如き幻想的な色をした、ドレスの様なシルエット。その背には、10の星を頂く歪な光輪のようなものが浮遊し、その内の1つ、漆黒の星が黒々と輝いている。
霊装であると分かるが、十香達の霊装とは一線を画すその威容は、数多の神話に語られるーーーー『神』の姿を連想させた。
《「・・・・・・・・っ」》
2人には疑いようがない。
今まで士道達を支えてきてくれた村雨令音は精霊でありーーーー澪と、同一の存在であったのだ。
否、正しく言うのなら、士道はその事を既に、“識っていた”。
澪と令音が融合し、霊装が顕現したのとほぼ同時、士道の頭の中でも、2人が混ざり合い、頭痛がゆっくりと引いていったのだ。
「澪・・・・」
もう1度、彼女の名を呼ぶ。
澪。崇宮澪。
そう。士道がーーーー否、『崇宮真士』が付けた、名だ。
始原の精霊。原初の零‹ゼロ›。人類史に於ける最大最悪の厄災。
その識別名は、いつの事だったか、『ユーラシア大空災』の事を琴里に教えてもらなかっないった際に聞いた事があった。
ーーーー〈デウス〉。まさしく神の名で呼ばれた最強の精霊。
そして・・・・シンの愛しい少女。
ーーーー30年と言う長い時を経て、シンと澪は、漸くここに、再会を果たした。
「・・・・シン」
澪が、感極まった様子でゆっくりと息を吸う。
「ーーーーずっと、会いたかった。ずっとずっと、逢いたかった。君が死んでしまってから、それだけを想って、今まで生きて来た」
静かな、しかし確たる熱を込めた声音で、澪が淡々と語り出す。
「・・・・シン。シン。君に伝えたい事が山程あるんだ。君に言えなかった事が沢山あるんだ。それこそ、とても語り尽くせない位に。
ーーーーああ、でも、でも大丈夫。今度の私達には、幾らでも時間があるんだから。どれだけでもお話をしよう? 何日かかっても構わない。何年かかっても構わない。
ねえ・・・・今度こそ、ずっと一緒だよ、シン」
「・・・・、ーーーー」
士道は心の裡に去来する様々な感情を受け止めながら、震える息を吐いた。
そして、言葉を発する。
今士道が、澪に伝えねばならない事を。
「俺もーーーー会えて嬉しいよ、澪」
「・・・・! シンーーーー」
「ずっと放っておいてごめん。寂しい思いをさせてごめん。先にいなくなってしまってーーーー本当に、ごめん」
「そんな、君が謝る事じゃあーーーー」
「ーーーーでも」
と、士道は澪の言葉を遮るように、額に手を置いた。
そう。士道の中には今、シンのものではなく、澪が体験したであろう記憶もまた、断片的に混じっていたのである。
「“コレ”は・・・・何なんだ? お前はーーーー『シン』を生き返らせる為に・・・・一体“何を”してきたんだ?」
だからそれは、問いかけであって問いかけではなかった。
脳裏に浮かぶ澪の所行を、士道の勘違いと断じて欲しかったのだ。
士道と言う存在の足元に、数多の少女の亡骸が横たわっているなど、質の悪い妄想であると笑って欲しかった。
澪がそんな事をする筈がないとーーーー言って欲しかったのだ。
けれど澪は誤魔化す事もはぐらかす事もなく、士道の目をジッと見据えながら、士道が望まぬ言葉を贈ってきた。
「ーーーー“なんでも”」
「・・・・・・・・ッ」
真っ直ぐな澪の視線に、士道は思わず息を呑んだ。
「なんでも、したよ。考え得る限りの事をした。シンともう1度会う為に必要な事は、全てした。そうしないと、きっとシンにはもう2度と会えないと思ったから」
「だ、から・・・・ってーーーー」
喉が、指先が、身体全体が、徐々に震えに襲われていく。
『五河士道』が生まれた理由と、源流‹オリジン›。
その杯を満たす為に注がれた、少女達の血。
おのれと言う存在が背負った膨大な罪に、士道は途方もない吐き気を覚えた。
「・・・・っ、く・・・・」
「シン、大丈夫?」
澪が心配そうに士道の顔を覗き込んでくる。士道は悪心を抑えるように胸元をクシャクシャと握り締めながら、澪を止めるようにもう片方の手を開いた。
澪の純粋な双眸に、愛しさとーーーー恐怖を覚える。
澪によって“作り直され”、澪によって記憶を取り戻した士道には今、その思考が、心が、朧気ながらも感じ取れていた。
《彼女は、澪は何も、悪を為そうとした訳ではない。殺戮を楽しんだ事なんて、ただの1度も無い。
それどころか、霊結晶‹セフィラ›の精製の為に犠牲になった彼女達に、深い敬意と感謝の念を持って、彼女達の死を悲しんでさえいた・・・・・》
「(だけど・・・・)」
ドラゴンの言葉に、士道は反論する。
そう、『シンにもう1度会う』ーーーーその為ならば、どんな罪業の道を歩む事さえ厭わないと云う確固たる覚悟が、澪の今を形作っていた。
ーーーー全ては、シンの為。
その為ならば、“なんでも”した。
澪の発した簡潔な言葉には、常人ならばとても正気を保てないであろう悲痛な決意が込められていた。
「・・・・ぐ、ぁ・・・・」
だがーーーー嫌、だからこそ。
“ソレ”は、士道が、シンが言わねばならない事だった。
「澪・・・・駄目だ」
「え・・・・?」
「駄目ーーーーなんだよ、そんな事しちゃ。例えどんな目的の為であっても、人を犠牲にするなんて・・・・しちゃ、いけないんだ・・・・ッ」
それは、あまりに残酷な所行である。
全てを擲ってシンの為に罪業の道を歩んだ少女を、シン自身が否定するなどと。
実際、その言葉を吐いた士道でさえ、胸を潰され、身が切られるかのような錯覚を覚えた。それを向けられた澪の心の痛みは、察するに余りある。
だがーーーー。
「ーーーーうん。そうだね」
澪は、困ったような顔をしながら、悲しそうに言った。
そんな煩悶なんて、既に幾度も繰り返したとでも言うように。
「でも・・・・それなら私はどうすれば良かったの?
私にはシンしかいなかった。シンを失ったなら、生きている意味がなかった。
私は人間みたいに弱くない。死を望んだとしても、死ねる訳じゃあなかった。
私は人間みたいに強くない。シンを忘れる事なんて、できやしなかった。
私は一体、どうすれば良かったの?」
「それ、は・・・・ッ」
淡々とした、しかし悲痛に過ぎる澪の言葉に、士道は声を詰まらせた。
何もーーーー返す事が出来なかった。
きっと士道ごときが導き出す答えなんて、澪の思考にはとっくにあっただろう。
けれどその全てを考えて考え抜いた上で、この修羅の道を選び、歩んで来たのだ。
そんな彼女に一体何を言えば良いと言うのだろう。士道にはーーーー分からなかった。
「・・・・ふふ」
すると澪は、士道の困惑を察したように吐息を漏らした。
「ごめん。意地悪をしたね。あんな聞き方をされて、答えられる筈がないのに」
「や・・・・俺、はーーーー」
士道は顔を上げて、何とか言葉を継ごうとした。何を言えばいいかは分からない。けれど、何も言わずにはいられなかった。
しかしその言葉は、澪の吐息によって遮られた。
「ーーーー良いんだ。大丈夫だよ、シン。全部、私に任せて」
「澪・・・・?」
士道が訝しげに返すと、澪は滔々と続けた。
「シンに、苦しい思いなんてさせない。シンに、辛い思いなんてさせない。この罪は全て私のもの。その罰は全て私のもの。シンが悩む必要なんて、無いんだ」
言って澪は、再びゆっくりと士道に手を伸ばしてきた。
「何、を・・・・」
「最後の仕上げだよ。ーーーー私が『澪』に戻ったように、君も、『シン』に戻るんだ」
「ーーーーっ」
息を詰まらせる。澪の言っている事が、本能的な恐怖と共に理解できてしまったのである。
「(ーーーードラゴン、俺は・・・・)」
《今の貴様は、貴様と言う人間の中に、『崇宮真士』の記憶が交じり合った状態だ。彼女は今から貴様から今までの『記憶』を消去し、後は精霊の力を保有した崇宮真士の記憶のみが残る。ーーーーつまり、貴様が消えると言う事だ》
「っーーーー」
目を見開く士道に、澪は、優しげに微笑んだ。
「ーーーー今までありがとう、『士道』。そして・・・・さようなら」
士道。
およそ17年もの間、呼ばれ続けてきた、その名前。
けれど澪はーーーー令音にその名で呼ばれたのは、今初めてだ。
彼女は『士道』に会ったその日から、『士道』を見ていなかった。
その影に『シン』を見つめていたに違いない。
それも当然だ。何しろ彼女は、その為に『士道』を『作った』のだから。
だが、何故だろうかーーーー。
この上ない程に残酷な仕打ちを受けながら、それを寂しく思ってしまうのは。
「ぁ・・・・」
士道は、迫りくる澪の指から逃れようとした。けれど、まるでその視線に射竦められてしまったかのように、身体が上手く動かなくーーーー。
[イィィンフィニティー!! プリーズ!]
ーーーーギャォォォォォォォォォォォンッ!!
「っ!」
[ヒースイフードー! ボーザバビュードゴーーン!!]
士道の身体から光り輝くドラゴンが飛び出し、澪が距離を空け、士道の身体も士道の意思ではなく、ドラゴンに操作されたのか澪と距離を空けて立つと、ドラゴンが士道と一体化すると、士道の身体を水晶が包み砕け散り、〈仮面ライダーウィザード・インフィニティスタイル〉へとなった。
「ど、ドラゴン・・・・(バキッ!)あでっ!?」
『この○○○○○○○○○めが! 自分が消されるって時にデレーっとしているんじゃあない!』
ウィザード‹士道›の口から声を発しながら、ドラゴンが、今までで1番強烈で口汚い罵声を浴びせてきた。
「ーーーーやはり、邪魔をするんだね。“この世界の理の外の存在”、『魔獣ファントム』。イヤ、ウィザードラゴン」
『・・・・すまないな。このロイコクロリディウムだけが消えて、君の最愛の想い人が戻るだけならば、静かに傍観していようと思ったが』
「おい!!」
それはつまり、ウィザード‹士道›を見捨てようとしていたと言うドラゴンの言葉に、ウィザード‹士道›は仮面越しで半眼になって怒鳴る。
『だが、“彼女達”がそれを嫌がるのでな!』
ドラゴンがそう言った瞬間ーーーー。
「ーーーーシドーォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーッ!」
上空からそんな絶叫が聞こえてきたかと思うと、ウィザード‹士道›の眼前に、夜色の〈仮面ライダー〉が、これまた夜色の大剣『サンダルフォンブレード』を携えて折りてきた。
「・・・・! 十香・・・・っ!?」
その姿を見て、ウィザード‹士道›はハッと目を見開いた。
そう。周囲で〈ニベルコル〉や〈バンダースナッチ〉、再生ファントムにインプを掃討していたプリンセス‹十香›が、士道の危機に気づき、澪に斬りかかったのである。
「シドー、無事か! 遅くなってすまん・・・・! 数が余りにも多過ぎて手間取っていた・・・・!」
「い、いや・・・・助かったよ、十香」
ウィザード‹士道›が答えると、それに次ぐようにして辺りに黄色と橙色の風が吹き荒れ、ウィザード‹士道›の後方に、プリンセス‹十香›と同じく周囲で戦っていた、ベルセルク・テンペスト‹耶倶矢›とベルセルク・ストーム‹夕弦›が降り立った。
「はぁ・・・・危な。でもなんとか間に合ったみたいね」
「首肯。敵が無駄に多くて焦りましたが、『プリンセスミサイル』着弾成功です」
言って、ホウと息を吐く。どうやらこの2人が、風が使ってプリンセス‹十香›を飛ばしてくれたらしい。
「・・・・んで。琴里からの通信とドラゴンからの実況で、士道達の会話は聞いてたけど・・・・あれは令音・・・・なの?」
「警戒。そして始原の精霊にして、精霊〈ファントム〉とは、欲張りが過ぎますね。・・・・狂三は本当にやられてしまったのですか?」
「・・・・・・・・、ああ」
2人の問いに、重々しく答えた。
すると、サンダルフォンブレードの1撃によって舞い上がっていた土煙が晴れ、澪の姿が露になる。
マトモに受けた筈だが、その身体には傷1つ付いてない。その様子に、3人は警戒の色を濃くする。
対照的に澪の方は、至極落ち着いた様子で唇を開いた。
「・・・・十香。それに耶倶矢、夕弦か」
そして順繰りに3人の顔を眺めるようにしてから、口元に手を当てる。
「ふむ。久方ぶりにシンに会えたものだから、失念してしまっていたよ。そうか、君達がまだ残っていたんだったね。ーーーー『シン』の部分を綺麗に避けて『士道』の記憶だけを消すには、些か時間と手間がかかる。君達から先に処理した方が良いかも知れないな」
「・・・・何?」
澪の言葉に、プリンセス‹十香›が眉をひそめる。すると澪は、ゆっくりとした動作で手を前方に掲げながら続けてきた。
「君達の力は、無事シンの身体へ受け継がれた。けれど、それだけではまだ不十分だ。君達とシンとの間には、まだ霊力の経路‹パス›が通じている。君達の中に残る霊結晶‹セフィラ›の残滓を回収しておかねば、シンは完全な力を得る事ができない」
澪が人差し指をピンと立て、プリンセス‹十香›達に向ける。
「すまないが。“返して”もらうよ。ーーーー私の、シンの為に」
そして静かな、しかし強い口調でそう宣言すると、プリンセス‹十香›が憤然と息を吐いた。
「・・・・! ふざけるな! シドーの記憶を消す・・・・だと? そんな事ーーーーさせてたまるかッ!」
言うが早いが、サンダルフォンブレードを振りかぶり、地面を蹴る。
「十香!」
「反応。援護します」
1人で澪に向かっていくのは危険と判断し、ベルセルク‹八舞姉妹›が、後を追うように空を駆ける。
精霊の中でも反応速度は最高クラスの2人は、プリンセス‹十香›に瞬時に追いつくと、サンダルフォンブレードの斬撃とほぼ同時に、ラファエルランサーとラファエルロッドビュートから螺旋状の風を放ち、澪を攻撃してみせた。
がーーーー。
「・・・・まあ、大人しくしろ、と言うのも無理な話か」
「ーーーーっ!?」
『くっ!』
次の瞬間。耳元で澪の声が聞こえ、ウィザード‹士道›はビクッと肩を震わせ、ドラゴンがウィザード‹士道›の身体を操作し、瞬時に距離を開けるように移動しようとしたが、それよりも早く、後ろにした声の主がウィザード‹士道›の身体を優しく抱き締めたのだ。
声の主は言うまでもない、一瞬前まで前方にいた筈の澪が、ウィザード‹士道›の後ろに移動していたのだ。
「・・・・! シドー!」
それに気づいたプリンセス‹十香›が驚愕の声を発し、再度地面を蹴ろうとする。
が、
「・・・・少しの間、待っていてね、シン」
そして澪が囁きかけるようにこっそりとそう言った瞬間ーーーー。
「ーーーーえ?」
士道は、奇妙な感覚に襲われた。まるでそう、〈フラクシナス〉の転送装置で、地上から回収される時のそれに近い浮遊感を。
そしてーーーー。
◇
「ーーーー危ない山吹さん! 『北斗編集鉄扇拳・翔鶴の舞』!!」
「・・・・え?(ドガラシャァァンン!!)ぎゃぁあああああああああああああああああああああ!!」
突然の衝撃に、ウィザード‹士道›は防御ができず、無防備に真正面から受けて、宙を錐揉み回転しながら舞った。その際、何やら衝撃の発生源から、翼を大きく広げた鶴の幻影が見えた気がする。
「ーーーーごべらぁっ!?」
あまりの衝撃に変身が強制解除され、奇妙な悲鳴を上げた士道が地面に激突した。
クラクラする頭を押さえ、痛む身体に鞭打って立ち上がり、数度瞬きして、ボヤける視界をハッキリさせる。
ソコで漸く、自分の目の前で、同年代の文化系の男子が両手に鉄扇(!?)を持って、同じく同年代の少女を抱き締め、守るように立っていた。
・・・・と言うか良く見ると、それは級友の岸和田と山吹だった。
「き、岸和田!? 何でこんな所に!?」
「い、五河くん!? ゴメン! 何か妙な気配が突然現れたから、出版社からの抜き打ちテストの襲撃が来たのかと思って!」
《いや何の襲撃だ? この少年は去年から何をやっているのだ?》
士道が叫ぶと、岸和田が鉄扇を閉じて制服の袖にしまった。そして、岸和田に抱き締められながら守られた山吹はーーーー。
「(パァァァァ〜〜〜〜・・・・!)」
『我が生涯に一片の悔い無し!』、とまるで『世紀末覇者拳王』のように、天に拳を突き出し、真っ白になりながら満足そうな笑みを浮かべると、天井から何故か光が指し、ソコから小さな天使様達が舞い降りてきて、山吹の身体を抱えて、そのまま天へとーーーー。
「昇っちゃダメでしょ亜衣!!」
「マジ引くわー! 天使様! 亜衣を連れて行かないで! 殿町くんを代わりに!」
「何言ってんだよ!? うわっ! 何か天使様じゃなくて悪魔が降りてきた!? ちょっやめて! 俺はまだあの世に行きたくない!」
と、天に昇りそうな山吹の足を掴んで地上に引きずり下ろす葉桜麻衣と藤袴美衣。何故か小さな悪魔達が殿町を連れて行こうとするのを、殿町が必死に抵抗していた。
「え・・・・こ、ここって・・・・」
《どうやら、地下シェルターに転送されたのだろうな。見ろ。少年に猿に姦しトリオだけでなく、見知った顔がチラホラあるぞ》
周りを見ると、確かにそうだった。
「でも・・・・澪はどうして・・・・」
《彼女が言っていた言葉から推察するに、貴様の記憶を消す前に、十香達を『処理』すると言っていた。その為に、邪魔な我らを一旦別の場所に移動させたのだろう。全ての精霊の力の源たる始原の精霊〈ファントム〉。想像以上の力だ》
ドラゴンが殊更詳しく説明するが、今の士道にそれに応対している余裕などは無かった。カッと目を見開き、岸和田の両肩を掴んだ。
「岸和田! ここは何処のシェルターなんだ!?」
「・・・・学校の地下シェルター。出入り口は向こうだよ」
一瞬士道の剣幕に驚くが、何かを察してくれたのか、出入り口の場所まで指差した。
「学校・・・・くーーーー」
士道は頭の中で街の地図を思い浮かべながら顔をしかめた。
元の場所は〈ラタトスク〉の地上砲台の辺り、少しばかり離されたが、インフィニティになればすぐに行ける距離だったのが幸いした。
澪の温情か、この距離が限界だったのか、それともまだ本調子ではないのか判断に悩むが、もしかしたら、士道が元の場所に戻るまでに、『処理』を終える自信があるからなのか。
「っ! 行くぞドラゴン!」
《当たり前だ! 貴様だけが死ぬなら放っておくが、十香達の身に危険が及ぶのは断固として看破できん!!》
士道は岸和田と、亜衣を起こそうと頬を叩いている麻衣に、悪魔祓いで殿町を救出した美衣を置いて、シェルターの出入り口へと向かった。
だか、当然の事ながら、そこは分厚い扉によって閉ざされ、その前には見張りよろしく、1人の教諭が、士道達の担任のタマちゃん先生がいた。
「ん・・・・どうかしましたか、五河くん。まだ警報は解除されてませんよ?」
「すみません、通して下さい。俺ーーーー行かなきゃならないんです」
「な、何言ってるんですか! 外は空間震の真っ只中ですよ!? 危険過ぎます!」
驚いたように目を見開き、大声でそう言って、行く手を阻むタマちゃん先生。自分の教え子が警報発令中のシェルターから出ようとしているのだから当然だろう。
ほんの1年と10ヶ月前の士道は、何の力もない一般人だった。それが、あの『儀式‹サバト›の日』に、『魔竜の相棒』を手にし、それから何度も死にかける戦いをし、さらには空間震の元凶である精霊をデートさせてデレさせるなんて、イカれた事をやってきた。
全く、普通の少年が、本当に無茶苦茶な事をしてきたものだ。
と、そこで、岸和田と殿町、亜衣麻衣美衣トリオが士道の後を追うようにやって来た。
「・・・・・・・・」
「おいおい、どうしたんだよ五河」
「まあ五河くんがおかしいのはいつもの事だけど。いたた・・・・」
「何かあったの? もしかして忘れ物?」
「マジ引くわー。どんな大事な物を忘れたのよ?」
士道をジッと見据える岸和田以外が、不思議そうな顔をして問うてくる。その問いに士道はさらに決意を込めた。
そう。士道は行かねばならない。『大切なもの』を守る為にーーーー。
「・・・・俺は、行かなきゃならないんだ! 十香や、折紙達の所へ・・・・ッ!」
『へ・・・・?ーーーーあっ』
その言葉に、殿町達は目を丸くし、辺りをキョロキョロを見やり、十香達がいない事に気づいてから声を漏らし、目を合わせる。
『・・・・・・・・』
そうした後、殿町達は士道にわざとらしいアイコンタクトを送りながら、タマちゃん先生の方へと歩いていった。
「いやー、ホント五河にも困ったもんですよねぇ」
「ねー。無茶ばっか言って。タマちゃんの立場も考えて欲しいですよねー」
「は、はあ・・・・」
急に猫撫で声を出す生徒達に、タマちゃん先生は困惑するような顔を作る。
すると次の瞬間、
「確保ォ!」
「きゃぁっ!? な、何するんですかあなた達・・・・っ!?」
亜衣麻衣美衣トリオがタマちゃん先生の身体にガバッと組み付き、タマちゃん先生が悲鳴を上げて手足をバタつかせる。それに気づいてか、近くにいた体格の良い体育教師が、士道達の方へと走ってきた。
「おい、お前ら! 一体何をしている!」
「・・・・! まあまあ先生! じゃれてるだけですからぶほぁ!」
「・・・・ふっ(シュピ!)」
「うっ・・・・!(バタッ!)」
殿町が、迫り来る体育教師にタックルを仕掛けるが、しっかりダメージを受けていたが足止めし、岸和田がソっと体育教師の背後を通り過ぎると、鋭い手刀で気絶させた。
「と、殿町、岸和田・・・・それに山吹、葉桜、藤袴・・・・」
士道が驚いたように言うと、皆はニッと唇の端を上げて視線を寄越してくる。
「早く行きなさいよ! 十香ちゃん達が逃げ遅れてるんでしょ!?」
「タラシならタラシらしく、女の子大事にしなさいよね!」
「マジ引くわー。お礼は明日の昼ご飯で良いわよ!」
「たまには俺らにも格好つけさせろ!」
「行って! 五河くん!」
「皆・・・・!」
士道はグッと拳を握ると、大きく頷いて足を踏み出した。
「ちょ・・・・駄目ですよ五河くん! 警戒が解かれるまで扉は開きません!」
亜衣麻衣美衣トリオに抑えられたタマちゃん先生が叫ぶ。
「(ドラゴン・・・・)」
《やるしかあるまいて》
しかし、士道にとってそんな扉は、何の意味もない。
チラッと級友達の方を見ると、フッ頬を緩める。その表情に、岸和田以外の級友達が更に不思議そうな顔をする。
士道はリングを嵌めて、ドライバーに読み込ませる。
[フォール プリーズ]
士道が扉に手を翳した瞬間、扉に魔法陣が展開され、大きな風穴が開いた。
「は・・・・!?」
「なん!」
「じゃあ!」
「そりゃぁぁぁっ!?」
目の前の超常現象に、驚愕の声を発する級友達。
「ああ・・・・やっちまったな。でももう、やっちまったもんは仕方ないよな?」
《下手な言い訳してないで、さっさとやれ》
自嘲気味に笑う士道は、リングを変えて読み込ませる。
[コネクト プリーズ]
『コネクト』でマシンウィンガーを持ってくると即座に跨る。級友達は唖然となる。
[ドライバーオン プリーズ]
『は?』
士道がベルトをウィザードライバーへと召喚すると、今度は級友達どころか、タマちゃん先生まで目を丸くした。
『フレイムウィザードリング』を嵌めて、ウィザードライバーを左手向きに変える。
[シャバドゥビタッチヘンシン~♪ シャバドゥビタッチヘンシン~♪ シャバドゥビタッチヘンシン~♪]
軽快なメロディーが流れ、更に困惑させるが、士道は声高く叫ぶ。
「変身!」
士道は『フレイムウィザードリング』を上げて、リングのメガネを下ろすと、リングをベルトに翳した。
[フレイム プリーズ ヒーヒー ヒーヒーヒー!!]
横に伸ばした左手の先から炎の魔法陣が現れ、士道の身体を通りすぎると、士道の身体は黒いロングコートスーツに、紅玉の仮面と鎧を纏った烈火の魔法使い〈仮面ライダーウィザード フレイムスタイル〉となった。
『・・・・なっ!?』
後方から、級友達やタマちゃん先生以外の声が聞こえてくる。騒ぎが大きくなる前に、マシンウィンガーのエンジンを吹かす。
「さぁーーーー行くか!」
ウィザード‹士道›がマシンウィンガーを走らせ、風穴から外に飛び出した。
その瞬間、風穴が閉じようとするがその寸前、岸和田が声を張り上げてくる。
「頑張れ! 〈仮面ライダーウィザード〉!!」
前に話した識別名で応援してくれる友人の声を背中に浴びて、ウィザード‹士道›はバイクで、地上への階段を駆け上がっていった。
しかし、ウィザード‹士道›も、ドラゴンも、1部の者達以外は気づいていなかった。
ーーーー太陽が少しずつ、欠けていくのを・・・・。