デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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蹂躙・澪

ー十香sideー

 

「ーーーーあぁぁ・・・・ッーーーー」

 

数秒後、渾身の必殺の1撃を叩き込んだプリンセス‹十香›は、そのまま地面に突っ伏した。

 

「う、く・・・・」

 

サンダルフォンブレードは元の形に戻り、攻撃の反動か、全身に痛みが走る。手足を震わせながらも、剣を杖のようにして起き上がる。

辺りに立ち込めていた濃密な砂煙が、少しずつ晴れていく。プリンセス‹十香›とベルセルク‹八舞姉妹›の双方向攻撃によってクレーター状に抉り取られてしまった地面がその姿を晒した。

けれどーーーーそこに、澪はいなかった。

 

「・・・・!」

 

プリンセス‹十香›は目を見開くと、油断なく辺りを見回した。塵1つ残さず消し飛んだ等とは思わない。

相手は始原の精霊・崇宮澪。あの攻撃で倒せたと思える程、プリンセス‹十香›は楽天家ではない。

 

「(避けたのか? それとも、障壁が砕けた為姿を隠しているのかーーーー)」

 

と、思考巡らせた次の瞬間。

 

「・・・・・・・・ッ!」

 

視界の端に“ソレ”を捉え、プリンセス‹十香›は息を詰まらせ、絶叫する。

 

「耶倶矢! 後だ!」

 

そう。テンペスト‹耶倶矢›の数十メートルほど後方に、無傷の澪が立っていた。

 

「えーーーー?」

 

テンペスト‹耶倶矢›が振り向こうとしたがーーーー遅い。その時にはもう、澪の霊装から伸びた触手のようなものが、テンペスト‹耶倶矢›の胸を貫いた。

 

ーーーーピシピシピシピシ・・・・ガシャァァァンン・・・・!

 

「あーーーーぇ・・・・ッーーーー?」

 

テンペスト‹耶倶矢›のアーマーが、まるでガラスがひび割れるような音を響かせながら砕け散り、風に流れて粒子となって消滅した。

耶倶矢は呆然と目を見開き、自分の胸元に視線を落とす。

衣服の1部としか思えない。薄くしなやかな光の帯が、鎧を砕き、耶倶矢の身体を貫通し、その先端を空気に晒している。

否・・・・正確に言えば、貫通したと言うよりも、通り抜けた。と言った方が適当なのかも知れない。実際耶倶矢の胸からは、1滴も血が流れていなかった。

が、その光の帯の先端には、橙色の淡い輝きを放つ結晶の欠片が、帯にくるまれる様な格好で浮遊していた。

 

「な・・・・」

 

ソレを目にして、プリンセス‹十香›は戦慄に顔を染める。

ーーーー『霊結晶‹セフィラ›』。精霊の力の源。

琴里や美九達から聞いてはいたソレが、耶倶矢の身体から一瞬にして抜き取られていたのである。

 

「・・・・・・・・」

 

澪が、小さく手を掲げる。すると耶倶矢の胸を貫いていた帯が一瞬にして澪の元に戻って行った。

無論、霊結晶‹セフィラ›と、共に。

 

「か・・・・ふ・・・・っ」

 

帯けら解放された耶倶矢は、苦しげに息を吐くと、グラリと体勢を崩してその場に崩折れた。

 

「・・・・! 耶倶矢!」

 

側にいたストーム‹夕弦›が地面に触れる寸前の耶倶矢の身体を支え、変身を解除した。

 

「ゆーーーーづーーーー」

 

耶倶矢は、夕弦の手に抱かれながら小さく口火を震わせたがーーーーやがて身体から力が抜け落ち、それきり、何も言わなくなった。

 

「耶倶矢・・・・? 耶倶矢! どうしたのですか、耶倶矢・・・・っ!」

 

必死に耶倶矢の肩を揺する夕弦。だが、耶倶矢は身体を弛緩させたまま何も反応を示さない。

 

「っ・・・・!」

 

そして夕弦はまさか、と言う顔をしながら耶倶矢の胸元に耳を当てーーーー小さく、本当に小さく、息を詰まらせた。

 

「耶、倶矢・・・・」

 

するとそれに合わせるようにして、澪が静かに告げる。

 

「・・・・ここは既に、〈万象聖堂‹アイン・ソフ・オウル›〉の支配下だ。霊力も魔力もなしに耐えられる空間ではないよ」

 

「ーーーー」

 

それを耳にして、夕弦の身体が、ユラリと揺れた。

 

「・・・・!」

 

一瞬後、プリンセス‹十香›は気づいた。

夕弦は瞬時に変身し、プリンセス‹十香›の目にも捉えられないような速度で以て、澪に飛びかかったのだと。

 

「ーーーーああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーッ!」

 

普段の夕弦からは考えられないような獣の咆哮を上げ、ラファエルロッドビュートを螺旋状に回転し、キックの体勢になると、ストールがストーム‹夕弦›を包み込み、『スクリューエンド・ストーム』を澪目掛けて放った。

 

「・・・・! 駄目だ夕弦! 逃げーーーー」

 

一拍遅れて、プリンセス‹十香›が叫びを上げた。

しかしその時にはもう、澪から伸びた光の帯が螺旋回転する刃とストールを貫通しーーーー。

 

「くーーーーあ・・・・ッ・・・・!?」

 

その先端が、ストーム‹夕弦›の胸に埋めいた。

 

「夕弦!」

 

ーーーーガシャァァァンン・・・・!

 

プリンセス‹十香›が名を呼ぶと、先程の耶倶矢と同じく、アーマーが砕け散り、夕弦は一瞬だけプリンセス‹十香›の方にチラと視線を寄こし、

 

「謝・・・・罪・・・・すみ・・・・ません、十・・・・香・・・・耶、倶・・・・」

 

弱々しくそう言って、その場に倒れ伏した。

 

「・・・・さて」

 

澪は光の帯を操ると、手元に、夕弦から奪い取ったと思しき霊結晶‹セフィラ›の欠片を手繰り寄せた。

そして既に手元にあった耶倶矢の霊結晶‹セフィラ›と重ね合わせ、1つの結晶にした後、ソレを自分の胸元に押し当てた。

霊結晶‹セフィラ›が輝きを放ちながら澪の身体に飲み込まれていく。そしてその姿が完全に消えたかと思うと、澪が背に負った10の星の1つが、ボンヤリと橙色の光を帯びた。

 

「・・・・コレで、2つ」

 

「っーーーー、澪、貴様・・・・!」

 

プリンセス‹十香›は仮面越しにギリッと奥歯を噛みしめると、全身を襲う痛みも、凄まじい疲労も、一切無視して立ち上がった。

あまりに呆気なくーーーー耶倶矢と夕弦が、殺された。

現実感のない光景。2人の身体には傷1つなく、見ようによってはただ眠っているだけの様にさえ思える。

けれど、今の今まで2人から感じられていた霊力の波動は今、対する敵の身体から発せられていた。

 

「・・・・・・・・ッ」

 

途方もない怒りが、悲しみが、絶望が、プリンセス‹十香›の心に渦を巻く。

 

《十香、落ち着け・・・・! 落ち着くんだ・・・・!!》

 

ドラゴンの声が響き、心の中で燃え上がる激情を抑え込むように細く息を吐いた。

そうだ。我を忘れて戦うだけで勝てる相手ではない。今必要なのは冷静さだ。

2人を殺された憤怒を忘れるのでも、無視するのでも無く、認めた上で沈着な思考を保つ。

すると次の瞬間、プリンセス‹十香›の身体が段々と熱を帯びてきた。そう、ソレはまるで、完全な霊装が顕現する時のーーーー。

 

「・・・・駄目だよ、ソレは」

 

が、澪がそう言って目を細めた瞬間、プリンセス‹十香›の身体を熱くさせていた霊力の流れが緩やかになっていった。

 

「な・・・・!?」

 

「・・・・霊力を完全に逆流させてしまっては、またシンに封印する手間が増えてしまうからね。悪いが、一時的に経路‹パス›を狭めさせてもらったよ」

 

澪はそう言うと、ゆっくりと手を掲げた。

 

「・・・・君は少々面倒だから、後回しにしておきたい所だったがーーーー」

 

するとその動作に合わせて、澪に纒わり付いた光の帯が幾つも鎌首をもたげた。

 

「・・・・終いだ」

 

澪が言葉を零した瞬間、光の帯が一斉に襲いかかってくる。

 

「くーーーー」

 

プリンセス‹十香›はサンダルフォンブレードで切り払った。否ーーーー切り払おうとした。

光の帯はその儚げな見た目とは裏腹に、凄まじい靭性と強度を誇っていた。サンダルフォンブレードの1撃を浴びても僅かに進路を変えるのみで、再び迫ってくる。

 

「ーーーー!」

 

身を捻って振り払おうとするが、攻撃を放ったばかりで体勢が崩れていた為、その動きが一拍遅れてしまう。

そして澪にとって、その一拍さえあればプリンセス‹十香›を捉えるのは容易い事らしかった。光の帯が、一直線にプリンセス‹十香›の胸に向かってくる。

が。

 

「な・・・・っ!?」

 

次の瞬間、プリンセス‹十香›は素っ頓狂な声を上げた。突然何者かにグイと手を引かれるような感覚が生じると共に、視界が暗転すると、澪から離れた位置に移動し、肉薄していた光の帯が随分と遠くにあった。

 

「ぬ・・・・? こ、これは・・・・」

 

「むん・・・・大事ないか、十香」

 

「! 六喰!」

 

そう。いつの間に現れたのか、プリンセス‹十香›の側に、鍵のような錫杖『ミカエルワンド』を握ったゾディアック‹六喰›がいた。

恐らく、光の帯に貫かれそうになった瞬間に、『孔』を開けて救出してくれたのだろう。

 

「大丈夫ですか、十香さん・・・・!」

 

と、それに続くようにして、エンジェル‹折紙›とハーミット‹四糸乃›、そしてビースト‹真那›が、プリンセス‹十香›の元に降り立った。

どうやら異常を察知し、駆けつけれてくれたらしい。

 

「ーーーー十香、耶倶矢と夕弦は?」

 

エンジェル‹折紙›が、倒れた2人を見ながら静かに問うてくる。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・、そう」

 

プリンセス‹十香›が奥歯を噛み締めながら、無言で首を横に振ると、エンジェル‹折紙›は簡素な反応で返した。

しかし、幾度も剣を結んだりした腐れ縁とも言える関係のプリンセス‹十香›には分かる。その冷静な態度の裏には、灼熱の如き燃える怒気がある事を。

無論、ハーミット‹四糸乃›も、ゾディアック‹六喰›も、そしてビースト‹真那›も、それぞれ反応は違えど、対する澪に敵意を向けていた。

 

「あれが、始原の精霊って奴ですか。ふん、嫌な雰囲気で嫌がりますね」

 

ビースト‹真那›が澪を睨め付けながら、吐き捨てるように言う。すると澪が、ビースト‹真那›に視線を返し、ポツリと呟いた。

 

「・・・・ああ、久しぶりだね、真那」

 

「・・・・何ですって?」

 

ビースト‹真那›が訝しそうに返す。が、澪は気にする様子もなく続けた。

 

「・・・・私は今の、霊結晶‹セフィラ›を回収せねばならないんだ。君まで死ぬ事はない。少しの間、離れていたまえ」

 

そしてそう言って、ビースト‹真那›に退避を促す。

 

「・・・・・・・・」

 

[ハイパー! GO! ハイッ ハイッ ハイッ ハイパー!]

 

が、当然と言うべきか、素直に従う筈もなく、寧ろ敵に身を気遣われた事に不機嫌そうな態度となり、ビーストハイパーへとチェンジし、ミラージュマグナムの銃口を向けた。

ソレを見てか、澪が小さく息を吐いた。

 

「・・・・直情的な所は昔と変わらないね。ーーーー仕方ない。あんまりノンビリしているとシンが戻ってきてしまう。手早く終わらせてもらうよ」

 

澪はそう言うとーーーー〈万象聖堂‹アイン・ソフ・オウル›〉を顕現させた時のように、手を高く掲げた。

 

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

「間にーーーー合ってくれ・・・・ッ!」

 

ウィザード‹士道›はマシンウィンガーのアクセルを全開にして、瓦礫の山と化した天宮市を猛スピードで進んでいた。

頭上では空中艦とメイジと魔術師‹ウィザード›達が戦闘を継続しており、時折流れ弾が降ってきては、足元と進路を爆発させていた。

 

《ッ!!?》

 

「っ、どうしたドラゴン!」

 

ドラゴンが身体を強張らせたような気配がして、ウィザード‹士道›は問うた。

 

《ーーーー耶倶矢・・・・! 夕弦・・・・!!》

 

悲しみと苦しみを絞り出すようなドラゴンの声に、ウィザード‹士道›は途轍もなく不吉な予感を感じて、息を詰まらせる。

 

「っ!!」

 

ウィザード‹士道›は聞かなかった。

その予感が、現実である事を聞くのが怖かったからだ。ウィザード‹士道›はマシンウィンガーを止めて、『インフィニティスタイル』になろうとする。

がーーーーその時。

 

「っ!」

 

[ウォール プリーズ]

 

魔法陣の障壁を展開すると、ウィザード‹士道›の前方に爆発が起きた。

今の攻撃は、間違いなくウィザード‹士道›を狙っていた。そして何より、はっきり見えたのだ。その爆発が起こる寸前、何枚もの紙のようなモノが上空から飛来してきたのだ。

 

「ーーーー〈ニベルコル〉・・・・!」

 

その名を叫び、警戒態勢を取る。

すると煙を裂くようにして辺りに紙が舞い踊り、その中から、同じ貌をした幾人もの少女が姿を現した。

 

「見つけたわよ、五河士道」

 

「さっきは良くもやってくれたわねェ?」

 

先程まで士道によって個体を大幅に数を減らされた為か、今までの巫山戯た様子はなく、憎々しげにウィザード‹士道›を睨み付けながら〈ニベルコル〉が言ってくる。

 

「く・・・・」

 

一刻も早く十香達の元に戻らねばならないのに、最悪のタイミングで、厄介な相手に遭遇してしまった。

しかし、それを相手に悟らせるのは悪手である。ウィザード‹士道›はマスクを解除し、フッと頬を緩めると、〈ニベルコル〉に微笑みをかけて見せた。

 

「ーーーーそんなに俺に会いたかったのかい、子猫ちゃん。いけない子だ」

 

『ひーーーーッ』

 

士道の言葉に、〈ニベルコル〉達が怯えたように息を詰まらせる。

可愛らしい少女の姿をした〈ニベルコル〉にそんな反応をされると、少しだけショックだが。

しかし、この隙に『インフィニティスタイル』となって彼女達を振り切ってしまえば良いのだが。

 

「ーーーー落ち着きたまえ、〈ニベルコル〉」

 

が、その時。士道の思考を遮るように、そんな声が響いてきた。

 

「な・・・・」

 

《ーーーーっ!》

 

聞き覚えのあるその声に、士道とドラゴンに緊張に強張る。

2人の予感を裏付ける様に、瓦礫の中から、黄金の魔法陣が展開されると、1人の〈仮面ライダー〉が歩み出てくる。

黒と金のカラーと、大魔導師のような出で立ちをした〈仮面ライダー〉。しかし、その身に纏う異様な雰囲気は、精霊やヘルキューレ‹エレン›と対した時とも異なる脅威を2人に覚えさせた。

そう。DEMインダストリー業務執行取締役‹マネージング・ディレクター›にして、この戦いな起点。

精霊を巡る争いを始めた、最初の男。

 

「さて、イツカシドウ。“間もなく『世界』が激変するのでね“、ここで決めようじゃあないか。ーーーー精霊の力を手にするのが相応しいのが、どちらかを」

 

アイザック・ウェスコット、〈仮面ライダーソーサラー〉は、悠然と両手を広げ、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー真士(過去)sideー

 

【はぁ・・・・】

 

朝の教室で、崇宮真士は机に頬杖を突きながら、幾度もため息を吐いていた。

2週間前に起こった空間震により、亡くなったクラスメートもいれば、精神的ショックで寝込んでいる生徒。中には他県に引っ越した者もいる。

真士のため息は不謹慎ながら、様変わりしてしまった『日常』に関係していない訳ではないが、それ以上の事を悩んでのため息であった。

 

【・・・・はぁ】

 

【随分ため息が多いね、崇宮くん】

 

【・・・・ん? ああ、おはよう、『五河』】

 

【うん、おはよう】

 

幾度目かも知れぬため息を吐いた後、不意に眼鏡をかけた温和そうな少年『五河竜雄』がおり、挨拶をするとニコリと笑いながら返してきて、首を傾げてきた。

 

【で、どうしたの? 何か心配事?】

 

【ん・・・・ああ、まあ、そんな処だ】

 

真士が曖昧な調子で苦笑すると、言葉を濁した。

 

【ふーん・・・・】

 

すると竜雄は、何やらジーッと真士の顔を見た後、ポツリと呟くように言ってきた。

 

【・・・・もしかして、好きな子でもできた?】

 

【ーーーーぶふゥッ!】

 

突然の言葉に思わず咳き込む。驚いたクラスメート達が、何だ何だと視線を寄こしてきた。

 

【お、お前な・・・・何突然変な事言い出すんだよ】

 

【あれ、まさか図星? 僕の勘も捨てたもんじゃないな】

 

【・・・・・・・・////////】

 

竜雄の言葉に、真士は頬を赤くしながら視線を逸らした。

昨日澪をデートに誘ってからと言うもの、常に脳裏に澪の顔がチラつき、何も手に付かないのだ。

 

【へいへいへーい】

 

【何か面白そうな話してるじゃなーい?】

 

【マジ引くかもー。私達もちょっと混ぜなさいよー】

 

と、そこで2人の会話を耳聡く聞きつけたのか、脈絡もなくザザッと3人の女子生徒がやってきた。真士のクラスの仲良し3人娘、『亜子』、『麻子』、『美子』のトリオだ。

 

【な、何だよお前ら。別に何でもないって】

 

【いんやー、しかと聞かせていただきやしたぜ旦那】

 

【まさかあの人畜無害過ぎて、1部では女の子に興味が無い疑惑があった崇宮くんに春が来るとはねー】

 

【マジ引くかもー。で、お相手はどんな子なのよ。言ったんさい言ったんさい】

 

【ちょっと待て! 何だその失礼極まりない疑惑は!?】

 

と。

 

【ーーーーシン】

 

真士が3人に詰め寄られていると、教室の入り口の方からそんな澄んだ声が響いてきた。

 

【へーーーー?】

 

【『えーーーー?』】

 

真士はソチラに視線をやると、ポカンと目を見開き、他のクラスメート達も、ソコにいた少女の、あまりに人間離れした美しさに呆然と目を奪われていたのだ。

 

【み、澪・・・・?】

 

真士は表情を驚愕に染めたまま、その名を呼んだ。

すると澪は嬉しそうに頬を綻ばせると、周りの視線に構う事無く、物怖じない軽やかな足取りで真士の元まで歩いてきた。

 

【な、何でこんな所に・・・・】

 

【はい、これ。忘れ物だよ】

 

頬に汗を垂らしながら問う真士に、澪は鞄の中から弁当箱の包を取り出し、机に置いた。

 

【あ・・・・】

 

どうやら澪の事で頭がいっぱいで忘れていたようだ。

 

【ありがとう・・・・助かったよ】

 

【ふふ・・・・シンの役に立っちゃった】

 

澪は心底嬉しそうにそう言うと、小さく手を振って見せた。

 

【じゃあ、私は戻るね】

 

【お、おう】

 

真士がそう返すと、澪はコクリと頷いてから踵を返し、教室から出ようとした。が、その途中、思い出したようにコチラに振り向いてきて。

 

【ーーーー今度のデート、楽しみにしてるよ。シンも、楽しみにしてて?】

 

そう言って、ニコッと微笑む。

 

【・・・・!】

 

そのあまりに可愛らしい笑顔に、真士は思わず息を詰まらせてしまった。

 

【あ、ああ・・・・分かった】

 

【うん、じゃあね、シン】

 

どうにか呼吸を整えてそう言うと、澪はもう1度手を振って去って行った。

 

【『・・・・・・・・』】

 

暫しの間、沈黙が教室を包む。

 

【・・・・ええと】

 

真士は間もなく吹き荒れる嵐から逃げようと、教室を出ようとする。

がーーーーその瞬間、襟首をムンズと掴まれ、半ば無理矢理元の席に着席させられた。

 

【ちょっと! 今の美少女誰よ崇宮くん!?】

 

【もしかしてアレが噂のカノジョ!?】

 

【マジ引くかもー! 聞いてないんですけど!?】

 

【はー、やるなあ、崇宮くん】

 

【よぉし全員集まれ、崇宮を尋問すんぞー】

 

と、クラスメート達以外の男性の声が響く。

 

【って! 何でもういるんですか『輪島先生』!?】

 

そう。ソコにいたのは、去年赴任してきた新人教師にして、真士達のクラスの担任『輪島繁(23歳)』であった。

 

【ん? さっきの彼女ちゃん(?)を教室に案内したのは俺だぞ。朝のホームルームが始まるまでまだ時間はあるしーーーーさぁ、尋問タイムだ!】

 

【『おー!』】

 

【嘘だろー!?】

 

輪島先生の言葉にクラスメート全員が諸手を上げ、真士はこってり絞られる事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーウェスコット(過去)sideー

 

アイザック・ウェスコットは才気溢れる少年であった。

時には大人以上に精妙にマナを扱える彼に魔術師‹メイガス›の血統を継ぐ隠れ里の中で対抗できたのは、師や村の長老達、後は彼のライバルを自称するエリオットくらいであった。

マナの扱いだけではなく、語学に算術に運動、万事に置いて、ウェスコットは非凡な成績を残した。まさに神童や天才と称される程の子供だった。

 

 

ーーーーそんなウェスコット少年は、物心ついて間もなく、“自分が他人と違う事に気づいたのだ”。

 

 

最初のきっかけはウェスコットが生まれる以前から彼の家で飼われていた犬、彼にとって生まれた時からの側にいた親友である犬がーーーー死んでしまった時であった。

幼いウェスコット少年は、幼いながらも生物の『死』を理解できる程に早熟だった彼は悲しんだ。

しかしそれ以上にーーーー心中では、“奇妙な興奮を覚えていた”。

悲しむ父母の顔。同情する友人達の顔。死んでしまった犬の亡骸。そしてーーーー自分自身の悲哀。

恐らく皆からは非道とか不道徳とかと呼称される喜悦を、覚えてしまった。

生まれながらか、環境によって形作られたかは分からない。しかし明らかな差異。生物としての欠陥。

しかし、ウェスコットは当然ソレを表には出さなかった。皆と異なる感情であり、知られると不利益になると、聡明な彼は判断したのだ。

他者と異なる事は美徳でもあるが、基本的に忌避すべき事だ。

人間は自分と違う者を恐れる。未知を恐怖する。そして恐怖は狂気となり争いを生む。

だからこそ魔術師‹メイガス›の末裔は、人目を避けるようにして、山間の集落に隠れ住んでいるのだ。

そしてウェスコットは子供ながら、自分の感情を偽る術に長けていた。

だから、また犬を飼って、その死に様を見る為と言う本心を隠し、犬を飼いたいと言っても、両親は反対しなかった。

 

そうして、ウェスコットは厳格ながらも心優しい両親、尊敬できる師、切磋琢磨できる仲間達に恵まれ、少しずつ成長し、10歳になった時に、不幸に襲われた。

昔から身体の弱かった母が、肺病を患い亡くなった。

里の皆は母の死を悼み、手厚く弔ってくれた。

若くして伴侶を失った父を気の毒に思っただろう。

違うの側で涙を堪えて俯くウェスコットの姿に、心打たれただろう。その感想は間違っていなかった。

己を生み、育んでくれた母の死。それはウェスコットに、途方もない悲しみと喪失感を与えた。

だが。

彼はそれよりも大きく、人生で1番の恍惚感を覚えていた。

悲しくて悲しくてたまらない。気を抜けば涙が流れてしまう。きっと父も里の皆もそう思っている。この場には、悲哀と絶望が満ちている。

 

【(嗚呼ーーーーなんて、心地よい)】

 

埋葬される母を見ながら、ウェスコットは、生まれて初めての絶頂を迎えた。

 

それからおよそ1年。

ウェスコットは古い書物を読むようになった。そうーーーー『古の魔法使い』と『古の魔獣』の記録をだ。

最早里でも、これらの存在は本当かどうか曖昧になった記録だが、ウェスコットはこの存在に心惹かれていた。

『古の魔獣』とはどんな姿なのか。どうすれば生まれるのか。何が必要なのか。ウェスコットは何処か取り憑かれたように調べ尽くした。

そしてーーーー運命の日が来た。

小高い丘から炎に巻かれる里を見ていた時、彼の中には、他の3人とは異なる感情が渦を巻き、自分の中から、『何か』が生まれてくるのを感じた。

憤怒。悲哀。絶望。様々な負の感情が混じり合うのを、彼は1人、今まで感じていた喜悦を感じていた。

彼は、知ってしまった。

 

【(ーーーー嗚呼、なるほど。“こう”、しても良いのか)】

 

と。

自分は他人と違う。己の感覚が異常である。自分が『異端』である自覚し、理解している。だからこそ隠していた。

しかしこの時、彼の世界は一変した。

人間達が未知の力を恐れて、魔術師‹メイガス›に牙を剥いた。

ならばーーーー自分達が“コレ”をしてはいけない道理はない。

エリオットが怒りに震えている。

エレンが泣いている。

カレンが声を殺している。

反応は違えど、皆が、人間への復讐心を露にした。

 

ーーーードクン・・・・!

 

そして、ウェスコットの心の中で、『何か』が胎動し、生まれた。

意識を数瞬失ったウェスコットが、己の中で見たのはーーーー。

 

ーーーーゴギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

美しくも恐ろしい、竜の魔獣だった。

ウェスコットは直感した。これがーーーー『魔獣ファントム』であると。

 

【(ーーーーあぁ・・・・会えた。やっと、会えた・・・・!)】

 

ウェスコットは、生まれて初めて、感動の涙を流した。

ずっと焦がれていた魔獣ファントム、『ドレイクファントム』との会合。そして、燃やされた故郷と人々。

それは1種のパラダイムシフト。

異常な男の異常な感覚は、正常な世界において正常です復讐心となった。

こうされたのだから、仕方無いだろう。今ならば、エリオット達も協力してくれるだろう。

自分の怒りと絶望で生まれた魔獣が自分の隣に立った感覚を感じ、ウェスコットは密かな歓喜を覚えていた。

許さない。絶対に許さない。

ーーーー僕に報復の機会を与えてくれてありがとう。

良くも僕の故郷を。僕の仲間を。

ーーーー僕に殺戮の大義を与えてくれてありがとう。

復讐してやる。

ーーーー僕に復讐の理由を与えてくれてありがとう。

この力で全てを変えてやる。

ーーーー僕に最高の存在。与えてくれてありがとう。

世界を、作り変えてやる。

ーーーー僕を被害者にしてくれて、本当にありがとう。

 

 

 

 

コレが、『絶望の魔法使い‹ソーサラー›』が生まれた瞬間であった。




この日、怪物が生まれてしまった。
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