デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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今回、士道が奥の手を出します。


最強の決着

ー士道sideー

 

ウィザード‹士道›は油断なく腰を落とすと、周囲に視線を巡らせた。

周囲には紙片を構えた無数の〈ニベルコル〉。

そしてその最奥にはーーーー漆黒の魔法使いが静かに佇んでいた。

サー・アイザック・レイ・ペラム・ウェスコットが変身する〈仮面ライダーソーサラー〉。

DEMインダストリーの首魁であり、〈ラタトスク〉の仇敵。そしてーーーー30年前ウッドマンやエレン達と共に精霊を生み出した、この戦いの元凶。

否ーーーーもう1つ。

ウィザード‹士道›は仮面越しで忌々し気な目で、ソーサラー‹ウェスコット›を睨み付けた。

今『シン』の、『崇宮真士』の記憶を取り戻した彼にとってその男は、自分を殺し、あまつさえ真那について拐かした、明確な憎悪の対象となっていた。

 

「おや?」

 

と、その敵意を感じて、ソーサラー‹ウェスコット›は声を発した。

 

「前と雰囲気が変わったようだね。敵意に険を帯びている。今にも噛みつかれてしまいそうだ。もしやーーーー“私に殺された事でも思い出してくれたのかい?”」

 

「てめぇ・・・・ッ」

 

「ほう、〈デウス〉が姿を現している所から推測しただけだったが、図星かね」

 

『流石だわ、お父様!』

 

ソーサラー‹ウェスコット›が笑い交じりに言うと左右の〈ニベルコル〉がキャイキャイと声を上げた。

 

「・・・・・・・・」

 

その姿が、声が、一挙手一投足全てが、ウィザード‹士道›の神経を逆撫でする。

 

『カァァァァ・・・・!』

 

ドラゴンもまた、今にも八つ裂きどころか、塵1つ残さずに消してやると言わんばかりに、ソーサラー‹ウェスコット›に敵意と殺意を向けている。

しかし、ウィザード‹士道›は奥歯を噛み締めて怒りを堪える。

ヤツを許す事はできない。だが、今やこの命は自分だけのでは無い。ドラゴンと一蓮托生であり、士道を助ける為に、精霊や〈ラタトスク〉の人達は命を張ってくれている。ここで怒りに任せて飛びかかるような愚は犯せない。

 

「(ドラゴン・・・・!)」

 

『貴様と一緒にするな。ちゃんと堪えているわ・・・・!』

 

ソレを聞いてウィザード‹士道›は深呼吸し、自分の周囲を俯瞰的に見ると、異常な光景と思った。

ーーーーまさかの大将同士の決戦が始まる事に。

 

「ーーーーふ」

 

すると、そんなウィザード‹士道›の思考を察したように、ソーサラー‹ウェスコット›が仮面を解除して、素顔を晒すと、頬を緩んでいるのが見て取れた。

 

「〈デウス〉の天使に、旗艦ごと殺されそうになってね。いやはや、改めて思うよ。本当にーーーー素晴らしい力だ」

 

その超然を気取るような顔と口調を見聞するだけでも、2人は吐き気を催する不快感が込み上がってくる。

しかし、そんな2人の様子に構う事なく、ウェスコットは芝居掛かった調子で大仰に両手を広げながら、続けてくる。

 

「しかし困った事になった。〈デウス〉が現れてくれた事は非常に喜ばしいが、今の私では彼女の力を取り込む事は不可能だろう。ーーーーそこで、イツカシドウ。彼女に至る為に、君の保有する霊力を先にいただく事にしたよ」

 

「何だと・・・・?」

 

ウィザード‹士道›が声色が低くなると、ウェスコットは更に笑みを濃くして仮面を展開すると、片手を前方に向けてみせた。

次の瞬間、彼の周囲の空間がグニャリと歪んだかと思うと、ソコから巨大な本が、否、『魔王』が現れた。

 

「・・・・っ、〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉・・・・!」

 

そう。ウェスコットが二亜から奪った、叡智の天使〈囁告篇。‹ラジエル›〉が反転した叡智の魔王〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉である。

ウィザード‹士道›は身体がひりつくような感覚を覚えながら片足を引いた。

ーーーー一刻も早く、十香達の元へ戻らなければならない。その考えは、敵の首魁を前にしてもなお変わらない。

ウェスコットは討ち果たせば、この戦いは終わる。しかし、それもーーーー澪が、始原の精霊が、強大な第3勢力が現れる前の話である。

 

「・・・・ち」

 

ウィザード‹士道›は敵に聞こえないくらい小さく、舌打ちをした後。

 

「ーーーー」

 

細く息を吐いてから、『インフィニティウィザードリング』をドライバーに翳した。

 

[イィィンフィニティー!! プリーズ!]

 

ーーーーギャォォォォォォォォォォォンッ!!

 

「・・・・」

 

『キャァァっ!』

 

[ヒースイフードー! ボーザバビュードゴーーン!!]

 

士道の身体から光り輝くドラゴンが飛び出し、ソーサラー‹ウェスコット›が障壁を張って防ぐが、〈ニベルコル〉は十何体か、凪ぎ払われて消えると、ドラゴンが士道と一体化し、士道の身体を水晶が包み砕け散り、〈仮面ライダーウィザード・インフィニティスタイル〉へとなった。

 

[コネクト プリーズ ドラゴタイマー!]

 

すると、『コネクト』で『ドラゴタイマー』を装備し、ウィザード<士道>は、タイマーを起動させた。

 

「見せてやる! この時の為の特訓の成果を!」

 

[ドラゴタイム セットアップ!]

 

チッチッチッ・・・・と、秒針が赤に青に緑に黄に到達すると、ウィザード<士道>はレバーを押した。

 

[フレイムドラゴン!]

 

「トゥッ!」

 

炎の赤い魔法陣から、両手にウィザーソードガン・ソードモードとガンモードを携えたフレイムドラゴンスタイルが。

 

[ウォータードラゴン!]

 

「ハッ!」

 

水の青い魔法陣から、ガンモードを両手に携えたウォータードラゴンスタイルが。

 

[ハリケーンドラゴン!]

 

「フッ!」

 

風の緑の魔法陣から、両手にガンモード携えたハリケーンドラゴンスタイルが。

 

[ランドドラゴン!]

 

「フンッ!」

 

土の黄の魔法陣から、両手にソードモードを携えたランドドラゴンスタイルが現れた。

 

[アックスカリバー!]

 

そして、ウィザード‹士道›も、アックスカリバー・カリバーモードをその手に持ち、4人のウィザード‹士道›が左右に並ぶと、切っ先と銃口をソーサラー‹ウェスコット›に向けた。

それは最もシンプルで、最も頭が悪くーーーーしかし最も確実な方法で、この場を切り抜ける為に。

 

『ーーーー速攻で片を付けてやる。お前には、覚悟の間さえ与えない』

 

5人の〈仮面ライダーウィザード〉が、声を揃えて言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

ーエレンsideー

 

ーーーー空が、薄暗くなっていく。

目を開けたエレンはそう思った。少し視線を下に向けると、ヘルキューレの変身は解除され、ドライバーも半壊寸前の状態であった。

 

「ぁ・・・・」

 

一拍遅れて、全身に痛みが走るが、脳内の顕現装置‹リアライザ›に指令を発し、痛覚を鈍化させながら頭を上げた。

ソコで漸く、ボンヤリとした脳が動き出す。

状況を確認。記憶を精査。混濁した記憶を再生。

そう。エレンはウッドマンに向けて最大出力の攻撃を放ちーーーー気を失ったのだ。

 

「く・・・・」

 

エレンは顔をしかめると、忌々しげに拳を握り締めた。

ウッドマンに勝てなかった事もある。だがそれ以上にーーーー五河士道。ウィザードラゴン。この2人と決着を着けられない事が悔しかった。

ウッドマンを見た時、逸る気持ちがあった。しかしそれも、〈仮面ライダーウィザード〉との決着を考えれば、『通過点』にすら思えてしまった。

恐らくそれだろう。最後の1撃で知った。ウッドマンは全力で来た。しかし自分は本気に成りきれなかった。コレの分け目になったのだろう。

 

「ーーーーよう」

 

と。

エレンが悔しさで歯噛みしていると、前方からそんな声が響きーーーー濃密な土煙を裂くようにして、ウッドマンが姿を現した。

金色のCRーユニットは今にも砕けそうなり、手にしていた武器は原型を留めていない。束ねてられていた金髪は血と埃に汚れ、風に煽られ靡いていた。エレンに勝るとも劣らない満身創痍だ。

けれど、似たような傷を負いながらも、エレンは地を倒れ、ウッドマンはヨロヨロながら2足で立っている。その事実こそ、この戦いの『結果』だろう。

 

《ーーーーーーーー》

 

「(っ、スレイプニル?)」

 

「俺の勝ち・・・・って事で良いかな、これは」

 

「・・・・ふん。立っているのもやっとの癖に、偉そうに喋りますね。この最低軽薄男」

 

「うるせぇ」

 

ウッドマンが気安い調子で笑いながら言う。エレンはヘルスレイプニルの報告を聞いて皮肉を言う。

ウッドマンは顔を顰めて返すと、エレンの背面の顕現装置‹リアライザ›をレイザーブレイドで破壊した。

 

「・・・・・・・・」

 

「ーーーーおい。何も言わねえのかよ? お前の事だから【私を殺せ!】だの何だの喚き散らかしているだろう?」

 

「・・・・あなたに負けただなんて思いません。私を殺していない以上、私が負けた訳ではないので」

 

「ほう。随分口が回るようになったな? 俺が今からお前を殺すと言ったらどうするよ?」

 

「ーーーーそんな陳腐な男なんですかあなたは? 始原の精霊に振り向いて貰えませんよ。まぁ、元々『脈』なんて欠片もありませんでしょうが。一方通行の恋愛感情程、虚しい物はありませんね」

 

「うるせぇっての」

 

エレンが自分でもらしくない程口が回る。どうやら自分の中で、ウッドマンに対する憎悪が少しは薄れてしまったのだろうか。

 

「・・・・・・・・私、日本でこんな言葉を覚えました」

 

「あん?」

 

「『試合に負けて勝負に勝つ』、と言う言葉がね!」

 

エレンが悲鳴を上げる身体を動かして、小型のレイザーナイフでヘルドライバーを突き刺し、切り裂いた。

 

「エレン!? おま、何を!?」

 

「ーーーーふっ。行ってきなさい・・・・ヘルスレイプニル!!」

 

ーーーーヒヒィィィィィィンン!!

 

エレンがレイザーナイフを引き抜くと、ドライバーの中から、8本の足に宝石が嵌められ、巨大な漆黒の馬が現れると、その身体を光ると、その身体が変貌し、下半身は8本足の馬になり、上半身は馬の仮面をした西洋の騎士のような出で立ちを片手に突撃槍を、もう片手にボーガンを付けたファントム『ヘルスレイプニル』が顕現した。

 

『ーーーーマスター・・・・』

 

「行きなさい」

 

「野郎!」

 

ウッドマンが動こうとした。

がーーーー。

 

『フン』

 

「うおっ!!」

 

ヘルスレイプニルが突撃槍を振るうと、その風圧で吹き飛ばされながら転がると、CRーユニットとレイザーランス〈ゴングナー〉は完全に砕け、突き出ていた瓦礫にぶつかりながら止まった。

 

『ーーーー』

 

ヘルスレイプニルはエレンを一瞥してから空を駆け、別の戦場へと向かった。

 

「ふふ。コレで少しは・・・・アレクの力に、なりますね・・・・」

 

「クソッ・・・・!」

 

エレンがほくそ笑むと、もう立ち上がる気力も体力も使い果たしたウッドマンが毒づく。しかし、使い果たしたのはエレンも同じだった。

 

「エリオット、1つだけ、私の問いに答えなさい・・・・」

 

「なんだよ・・・・」

 

「ーーーー何故、私も連れて行ってくれなかったの、エリオットーーーー」

 

その言葉と共に、1粒の涙を零し、エレンの意識は闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 

ーウッドマンsideー

 

「・・・・・・・・」

 

エレンの瞼がフッと閉じられ、それきり寝息以外の音を立てなくなる。

ウッドマンは空を駆けていったヘルスレイプニルを追いたいが、もう指1本動かせなかった。

本来、個人で運用できる装備ではない〈ゴングナー〉は、全盛期の力を取り戻したウッドマンでさえ、身体へのダメージは覚悟しないといけない。

 

「・・・・やれやれ、最後の最後に、エレンにしてやられるとはな・・・・」

 

ヘルスレイプニルがどれ程の力を有しているかは分からなかったが、唯でさえ劣勢の〈ラタトスク〉側が不利になるのは明白だ。

動きたくても、身体は軋むように痛みだした。最低限の顕現装置‹リアライザ›の補助が無ければ、とっくに死んでいるだろう。

エレンは負けた気持ちかも知れないが、エリオットから言わせれば何とか相打ちで終わらせれたと言えた。

 

「・・・・本当に、強くなったな、エレン」

 

エレンを真っ直ぐ見つめながら、感慨深げに言葉を零す。

里で1番の落ちこぼれで、マナの扱いもロクにできなかったあのエレンが、まさかここまで才能を開花させていたとは。

 

「最強・・・・か」

 

エレンが偏執的な程に、それに拘っていた。しかし今思えば、エレンが最強を自称し続けてたのは、ウッドマンの存在が原因であったのかも知らない。

かつて共に学び、技を磨いた相手にして、遥か高みにいた友。

しかしそれだけの力を持ちながら、自らを裏切った憎むべき敵。

それに負けぬよう、自ら最強を名乗り、己を鼓舞し続けた。

或いはーーーーウッドマンに、真の最強を証明してみせろと訴え続けた。

ウッドマンは、そう思えてならなかった。

けれどもその考えが正しかったとするなら・・・・それは何とも滑稽な事に違いなかった。何故ならーーーー。

 

「・・・・『人類最強の座』なんてもんがあるなら、それはとっくにお前の物だっての」

 

エレンとエリオットの違いがあるとすれば、『安定的に100の力を発揮できる者』と『一瞬だけ101の力を出せる者』である。『人類最強の魔術師‹ウィザード›』の称号は、間違いなくエレン・メイザースだとエリオットは心から思っている。・・・・そして、先程のやり取りで確信した。そのエレンが自身の『最大の宿敵‹ライバル›』と認めているのはーーーー〈仮面ライダーウィザード〉、五河士道とウィザードラゴンであると。

 

「たくっ・・・・『彼女』だけだなく、エレンまでもかよ・・・・」

 

全く悔しく無いのかと言われれば嘘になる自分自身に、エリオットは我ながら狭量だと自嘲する。

 

「ん・・・・」

 

ウッドマンは、エレンの元へ行こうとしたが、違和感を覚えた。

否、足だけではない。手、胸、頭ーーーー身体の至る箇所から、怪我の痛みや疲労とは別の何かが生じていく。

限界を越えて酷使された身体が、崩壊していくかのような感覚。次第に身体に力が入らなくなり、エレンの側に行く事もできず、その場に倒れ込んでしまう。

 

「・・・・なんだ、割りと早かったな。エレンの奴が眠ってくれて助かったぜ」

 

だが、ウッドマンは狼狽えなかった。元より、こうなる事は予想できていた。

ウッドマンや士道達の他にエレンを押さえ込める人間がいない以上、仕方のない措置ではあった。

そう。全ては精霊を守る為。

『あの少女』と同じ、少女達を守る為。

そしてウッドマンは、その目的を達した。精霊達に届きうる人類最強の刃を、見事折ってみせた。

しかし、心残りがあるとすれば、その人類最強の愛馬を野放しにしてしまった事。

そして、もう1つ。

 

「・・・・・・・・ゴメンな、カレン。ーーーーエレン」

 

ウッドマンは誰も聞く事の無い言葉を零した。自分を慕ってくれているのに、未練たらしい『彼女』への片想いによって、彼女達の想いに応えられなかった事に。

 

【ーーーーまぁ、元々『脈』なんて欠片もありませんでしょうが。一方通行の恋愛感情程、虚しい物はありませんね】

 

今さっきエレンに言われた言葉が脳裏に過ぎった。

 

「ーーーー分かっているんだよそんな事は・・・・。だが、それでも・・・・それでも俺は・・・・」

 

ウッドマンは薄っすらと浮かんだ涙で霞む視界で空を見上げた。

 

「さて・・・・悪いが少年、俺はここまでのようだ。後はーーーー任せたぞ」

 

ーーーー空には、巨大な球状の花が1輪、咲いている。

その威容から伝わる力は、かつてウッドマンが焦がれた、『始原の精霊』の力そのものであった。

 

「ああーーーーーーーーーーーーキレイ、だ」

 

ウッドマンは穏やかな笑みを浮かべると、静かに目を閉じた。

 

 

 

 

ー十香sideー

 

「ーーーー〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉」

 

澪が手を掲げ、そう言った瞬間。

ゾワーーーーーーーー、と。

プリンセス‹十香›達の背すじを、凄まじい悪寒が襲った。

それは、澪が天使〈万象聖堂‹アイン・ソフ・オウル›〉を顕現させた時と酷似した感覚。生命を維持しようと言う本能が、身体に最大限の警鐘を鳴らす。

ーーーー次の瞬間。大地が震え、澪の背後から、巨大な尖塔が姿を現した。

ガラスを思わせる無機的な表面。空を仰ぐように広がった幾つもの枝葉。そして幹の1部が縦に裂け、ソコから、樹霊‹ドリュアス›の如く少女の形をした『何か』が顔を覗かせる。

そう。その姿はーーーー天を貫く大樹を思わせた。

否、それだけではない。

 

「な・・・・!?」

 

プリンセス‹十香›は喉を絞った。

プリンセス‹十香›だけではない。澪に対していたビースト‹真那›も、他の精霊達も、同様に顔を驚愕の色に染めている。

だがそれも無理からぬ事ではあった。何しろ、澪の背後に大樹が出現した次の瞬間、それを中心として、まるで樹が根を張るように、周囲の景色が様変わりしていったのだから。

乱戦によって破壊された街並みが、煙を上げる廃墟が、地にバラ撒かれた〈バンダースナッチ〉や空中艦の残骸がーーーー否、それどころか、雲のたなびく冬空までもが、別のものに変貌していく。

 

「・・・・ッ!? これは・・・・」

 

得体の知れない現象に、プリンセス‹十香›は最大限の警戒と共に辺りを見回した。

白と黒とで構成された、モノクロの世界。方眼紙のように整然と区切られた地面に、ブロック状の段差が連なり、漆黒の空がそれを睥睨している。

まるで世界の外装が剥がされたかのような簡素な風景に途方もない違和感。

 

「・・・・・・・・」

 

サンダルフォンブレードを握る手に力を込める。

粘度の高い汗が背中を濡らし、乾き切った喉がチクチクと痛む。動悸が身体を支配し、その震えを全身へと広げていく。

他の精霊達も、怯まず澪のに視線を向け続けているものの、やはり狼狽は隠しきれないようだった。背後から、声が漏れ聞こえてくる。

 

「むん・・・・一体何なのじゃ、コレは」

 

「幻覚・・・・じゃない・・・・ですよね」

 

「・・・・、随意領域‹テリトリー›? でも、こんなーーーー」

 

と、エンジェル‹折紙›が言うと、それに答えるように澪が声を発してきた。

 

「・・・・その感覚は間違いではないよ。DEMが『コレ』をモデルに再現したのが、随意領域‹テリトリー›と言う空間だ」

 

そしてそう言いながら、天に掲げていた手をゆっくりと下ろす。

 

「・・・・私の随意領域‹テリトリー›は、常に展開され続けている。この世界から、薄膜を1枚隔てた先に。そして今、私はその核たる〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉の1部をここに召喚した。つまり今、私を中心としたこの一帯はーーーー『隣界』と化している」

 

「隣界ーーーー」

 

その名に聞き覚えはある。この世界の隣にある世界。精霊の棲まう場所。記憶こそ無いが、精霊達もその世界からコチラの世界へとやって来たと言う話である。

ソレが何を意味するのかは分からない。けれど、プリンセス‹十香›達にとって不利な事態である。

 

「ーーーーむん」

 

同じ事を考えたのか、ゾディアック‹六喰›が、手にしたミカエルワンドの先端を澪に向ける。

 

「〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉とやらが如何な力を持つのかは知らぬ。じゃがーーーー“止めて”しまえば関係無かろう・・・・!」

 

〈封解主‹ミカエル›〉と同じ能力を持つミカエルワンドを繰り出すと、その前方の空間に『孔』が生じ、その先端を飲み込んだ。

 

「ーーーー【閉‹セグヴァ›】!」

 

ゾディアック‹六喰›が錫杖を捻った。ーーーー始原の精霊の天使であっても封じる事ができる。

だがーーーー。

 

「・・・・! 駄目だ、六喰!」

 

プリンセス‹十香›は、半ば無意識の内に叫び声を上げていた。本能が、直感が、けたたましく警鐘を鳴らしていたのだ。

瞬間ーーーー。

 

「あ・・・・が・・・・っーーーー?」

 

ゾディアック‹六喰›が苦悶の声が零れ落ちる。

 

「六喰・・・・!?」

 

ミカエルワンドが空間に開いた『孔』を通って、ゾディアック‹六喰›自身の首筋に突き刺さっていた。

 

「なーーーー」

 

「・・・・駄目だよ」

 

プリンセス‹十香›が息を詰まらせると、澪がポツリと呟いた。

 

「・・・・言っただろう? 『ここ』は、コチラの世界に侵食した隣界。ーーーー“私の世界”だ。全ての法則、全ての条理、全ての自然律が、君達の知る世界とは異なる。この世界において、〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉を攻撃する事は、“できない事になっている”んだ。ーーーー人が水の中で生きられない様に。木から離れた林檎が空に落ちないように」

 

ーーーーピシピシピシピシピシ・・・・ガシャァァァァンン!

 

澪がそう言うと同時に、自らの天使の1撃を浴びたゾディアック‹六喰›の身体がグラリと揺れ、纏っていたアーマーが砕け散り、モノクロの地面に伏した。

その背から、淡い輝きを放つ瑠璃色の霊結晶‹セフィラ›が姿を現す。

 

「く・・・・!」

 

プリンセス‹十香›は地を蹴ると、その霊結晶‹セフィラ›を掴もうと手を伸ばす。

がーーーー遅い。澪がクイと指を曲げると同時、六喰の霊結晶‹セフィラ›はまるで見えない手に捕らえられたかのように空中を移動し、澪の胸へと吸い込まれていった。

ーーーー澪が背に負った星に、黄金の光が灯る。

 

「・・・・これで、3つ。さて、次は誰かな?」

 

静かな声でそう言って、澪が皆を舐めるように視線を巡らせる。

 

「・・・・っ」

 

狂三、耶倶矢、夕弦、そして今六喰までもがーーーー殺された。その事実が、プリンセス‹十香›の胸に耐え難い情動となって押し寄せる。

だが、

 

「逃げますよ!」

 

「真那ーーーー」

 

その瞬間、ビーストH‹真那›の声が、プリンセス‹十香›の理性を保たせた。

声から警戒の色が滲んでいるが、怯えは聞き取れない。

 

「・・・・、うむ・・・・!」

 

瞬時に意図を察すると、団長の思いで六喰達の亡骸を残したまま地面を蹴った。

エンジェル‹折紙›とハーミット‹四糸乃›もまた、同じ判断をしたのだろう。プリンセス‹十香›と同様に後方へと退避する。

ーーーー天使〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉と、それを中心として展開された『隣界』。

そこはまさに、澪の世界である。この空間にいながら澪と対するのは、最早蛮勇ですらない、文字通りの自殺行為に他ならない。先ずはこの場所から逃れなくては話にならない。

するとそんな彼女達の行動を見てか、澪がフッと顔を上げる。

 

「・・・・ん。流石真那。良い判断だ」

 

そしてそう言いながら、ゆっくりと手を上げる。

 

「・・・・では、この世界にいるものは、外に出られないのという“事にしよう”」

 

とーーーー。

澪が言ったかと思うと、〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉がボンヤリとした輝きを帯びた。

 

《真那! 止まるのじゃ!》

 

「ぐ・・・・っ!?」

 

そして次の瞬間、凄まじいスピードで界外へと退避しようとしていたビーストH‹真那›が、壁に阻まれたように、“空にぶつかった”。

 

「法則‹ルール›の追加ーーーー!? ち・・・・マジで何でもアリでやがりますね・・・・!」

 

「・・・・ああ、そうさ。この世界は、全て私の思うままだ」

 

ビーストH‹真那›が忌々しげに言うと、澪が優しく手招きをした。

すると、まるで磁石のように、ビーストH‹真那›の身体が澪に引き寄せられていく。

 

「なーーーーっ!?」

 

突然の事に、ビーストH‹真那›が驚愕の声を発する。が、振り抜きざまにミラージュマグナムの銃口を向ける。しかし澪は、そんな銃口に臆する事無く、至極自然な仕草でビーストH‹真那›を抱き留めた。

 

「・・・・真那。長らく苦労をかけたね」

 

「く、離ーーーー」

 

と、その手から逃れようと身を捩っていたビーストH‹真那›だったが、澪が子供をあやす様に頭を撫でた瞬間、仮面が砕け、真那の素顔が露わになると、何かを思い出したようにハッと目を見開いた。

 

「・・・・!? ッ、みーーーーお、さん・・・・?」

 

そして驚いたような顔をし、次いで頭痛を感じたように顔を顰めた。

 

「・・・・ああ。少し待っていてくれるかい? シンはきっと、君を必要とする筈だから」

 

「待っーーーー」

 

真那が叫ぶように喉を絞る。が、その声は先程の士道のように真那の姿はその場から掻き消え、最後まで発させる事は無かった。




ヘルスレイプニル・怪人形態。デジモンのスレイプモンのブラックバージョンをイメージしてください。
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