デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
士道とドラゴンの最後の策。
それは、〈贋造魔女‹ハニエル›〉で銀の弾丸となったドラゴンをウェスコットにわざと外すように撃ち、隙を突いてドラゴンが最大の1撃を放つと言うものだ。
叡智の魔王〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉は、『相手の思考を読む事はできない』のが唯一の弱点。士道とドラゴンは土煙からウェスコットの影を見たほんの刹那の間に、脳内会議でこの作戦を作り実行したのだ。
「ーーーーーーーーーーーー」
プツン、と糸が切れたように身体から力が抜け落ち、完全に変身が解除された士道は、その場にくずおれた。
「だーりん!」
「し、士道・・・・!」
後方から、変身解除した美九と七罪が、士道の身体を優しく抱き起こした。
「ああ・・・・美九、七罪。悪いな・・・・ちょっと・・・・頑張り過ぎたかも知れない」
『ちょっとどころじゃないですぅ! ボロボロじゃないですかー!』
美九が涙目になりながら〈破軍歌姫‹ガブリエル›〉の霊力を込めて言ってくる。全身を苛む痛みが段々と緩和していった。
「ありがとう・・・・もう大丈夫だ」
「あっ、だーりん!」
「ちょ・・・・大丈夫なの?」
士道は2人の手を借りながら立ち上がると、ふらつく足取りで、破壊され尽くした地面を歩いていった。
『・・・・ふん』
やがてーーーーおよそ3分の1が欠損した〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉と、瓦礫に魔力の鎖で縛り上げられて横たわったウェスコットと、その傍らで睨み付けているウィザードラゴンの姿があった。纏っている漆黒のスーツはボロボロになり、全身の至る所から血が滲み、まさに満身創痍といった様子だ。
「・・・・おや」
しかしウェスコットは、痛覚なんて無いといった調子でパチリと瞬きをすると、士道の方に視線をよこしてきた。
「やられてしまったようだね。これが終着点か。フム・・・・存外呆気ない物だ」
「・・・・お前ーーーー」
ボロボロなのになお、その余裕綽々で超然とした姿を目にして、士道は先程まで忘れていた感情に火が点くのを感じた。
最早ウェスコットに、抵抗する力はない。士道がソードガンの刃か弾丸を撃ち込めば、今すぐに息の根を止める事もできる。
それを自覚した瞬間、士道の中にある崇宮真士の怒りの記憶が疼き出した。
想い人を傷付けられた恨み。妹を奪われた怨み。ーーーー己を殺された、憾み。
士道の中に甦った崇宮真士の記憶が、目の前の男に、最大限の殺意を向けてきた。
『・・・・・・・・』
否、ここにもう1人、士道以上に、ウェスコットに殺意を放っているドラゴンがいた。
「・・・・・・・・」
士道はもう1人の自分に突き動かされる様に、右手を伸ばした。
「! だーりん! ハニー!」
「士道・・・・! ドラゴン!」
2人の様子に気付いたのだろう、美九と七罪が声を上げてくる。
だがーーーー遅い。士道の手は、速やかに伸ばされた。ウェスコットの傍らにあった、〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉へと。
「ーーーードラゴン」
『ーーーーふん』
ドラゴンが士道の手から〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉を手に持つと、自分の魔力を流し込み、叡智の魔王を通して、ウェスコットの身体から灰色の光を放つ、1部が欠けたグレーダイヤモンドの霊結晶‹セフィラ›を吐き出させ、ドラゴンはそれを手に取ると、もう片方の手に持っていた〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉が、霊結晶‹セフィラ›に吸い込まれるように消えていった。
『ーーーーコレで2度と魔王は使えんだろう』
それを見てか、美九と七罪がホウと安堵の息を吐く。
「もう・・・・ビックリしましたよぉ」
「・・・・うん、ぶっちゃけ殺すと思った」
2人の声を聞いて、士道は細く息を吐き、ドラゴンはフンと鼻を鳴らした。
「・・・・ああ、殺してやりたいさ。実際、今もこの涼しげなスマシ顔にマガジンにある弾丸を全部ブチ込んでやりたい気分だ・・・・!」
ウィザーソードガン・ガンモードを持ったその手は小刻みに震えていた。しかし、もう片方の手でその手を掴んで抑えた。
「ーーーーでも・・・・なんて言ったら良いのか分からないけど・・・・コレはきっと、駄目なんだ。俺は、こんなヤツらと同じにはなりたくない。シンには悪いけど・・・・な」
「だーりん・・・・」
「・・・・まあ、良いんじゃないの、それで」
2人の言葉に、士道は頷く。
『ーーーーふん。甘いヤツだ。『慈悲を与える相手』と『与えない相手』の分別ができない、その蜂蜜とシロップと砂糖を混ぜ合わせまくった性分が、後に失敗を起こさない事を祈りたいな』
「うるせぇ・・・・」
ドラゴンは殺したいと思っていたようだが、一応我慢したようだ。
するとウェスコットが、フウと息を吐いたのが聞こえた。
「良いのかね。こんな好機は2度とないと思うが」
「うるさい。負けたヤツが兎や角言うな」
「はは、まるでエリオットのような事を言う。・・・・残念だな。死の感覚と言うのにも興味があったのだが。しかしーーーー」
ウェスコットが空を見上げると、ニンマリと笑みを浮かべた。
「イツカシドウ。君は、嫌、君達は目の前の我々にばかりに気を取られ、彼らの事を見落としていたね」
ウェスコットの言葉を訝しげな目になりながら、空を見上げたその時ーーーー太陽の半分が、日蝕によって遮られていた。
それを見て、士道は直感した。コレは自然現象なんかの金環日蝕等ではない。2年近く前に遭遇した。あのーーーー『悪夢』の光景だ。
「・・・・ま、まさかアレは・・・・! 『儀式‹サバト›』!?」
『つ! 間違いない! 『儀式‹サバト›』だ!』
「さ、『儀式‹サバト›』って・・・・!」
「『魔獣ファントム』達が生まれた・・・・!」
『貴様!』
ドラゴンはウェスコットの胸倉を掴んだ。
『言え! ワイズマン達は何をしているっ!?』
「ーーーーフフフッ、君達は不自然と思わなかったのかね? 我々の同盟者であるワイズマン達が、この戦場に来ていない事に」
言われて、士道達は思い至った。確かに、確認されたファントム達は『再生ファントム』とグールとインプだけ、ワイズマンどころか、メデューサやグレムリンと言った幹部達の姿が1つも無かった。
「彼らはこの日の為に、私の所の魔術師‹ウィザード›達を生け贄にし、再び『儀式‹サバト›』を引き起こそうとしていたのさ。止めようとしても無駄だよ。もう時間はーーーー」
ーーーーと。そこで、ウェスコットの言葉が止めた。
否ーーーー言葉を発せなくなった、と言った方が正しい。
ほんの瞬き程の間に、世界がモノクロに様変わりした。
「な・・・・!?」
士道が驚愕に目を見開くと、周囲に視線を巡らせた。
明らかに、異常な光景。つい一瞬前まであたりに広がっていた廃墟が、白と黒で構成された幾何学的な空間に変貌していた。
『っ! 美九! 七罪! 逃げろーーーーっ!!』
「え・・・・っ?」
「あーーーー」
次いで後方から、美九も七罪からそんな声が響く。突然様変わりした世界に驚いたのではない。
地面から光の帯のようなものが伸び、美九と七罪の胸を一直線に貫いたのだ。
「・・・・ッ!? み、美九、七罪・・・・!?」
『っ!』
狼狽する士道と愕然となるドラゴンを余所に、彼女らの胸からも光り輝く紫色のタンザナイトと緑色のエメラルドのような霊結晶‹セフィラ›が現出し、宙を舞った。
そして光の帯がドラゴンに迫るーーーー否、ドラゴンの手にしていた霊結晶‹セフィラ›を弾き飛ばし宙へと消えると、ウェスコットの胸元を貫いた。
「ーーーーかはっ・・・・!」
ウェスコットが小さく悲鳴を上げその命の灯火が、呆気なく消え去った。
すると、美九と七罪も、糸の切れた人形のようにガクリとその場に倒れ込む。
「お、おい! どうした2人と・・・・も・・・・」
『・・・・・・・・』
2人の身体を揺する士道は、途中で言葉を失い、ドラゴンは小さく俯いた。
理由は単純。ほんの数秒前まで話していた2人がーーーー物言わぬ屍となっていたのだ。
「な・・・・何だよ、コレは・・・・っ!」
「ーーーーーーーーシン」
と。
士道の困惑に応えるように。
闇に包まれたつつある空から、その少女は姿を現した。
「・・・・! み、おーーーー」
そう。荘厳な霊装事に纏った精霊・崇宮澪がである。もっと正確に言うのなら、先程までの姿とは、微妙に装いが異なっていた。
彼女が背負っている10の星。先程まで1つしか光が灯っていなかったそれが、今は白・灰・黒・青・赤・金・緑・橙・紫・夜色の目映いばかりの輝きを放っていた。
「・・・・・・・・っ」
『ーーーーーーーーっ』
最悪の想像が頭を掠め、ドラゴンをチラリと見ると、彼のその顔はまるで仮面のように変わっていなかったが、士道にはーーーー泣いているように見えた。
それを見ても士道は問わずにはいられなかった。嘔吐感を抑えるようにしながら、言葉を溢す。
「み、皆は・・・・」
「・・・・・・・・」
士道の言葉を受け、澪がゆっくりと手を前に掲げる。
すると、彼女の背に輝く10の星から、それぞれ美しい霊結晶‹セフィラ›が姿を現した。
「なーーーー」
悲しいかな、ドラゴンの様子を目にした士道には、ソレが何を意味するのか、理解できてしまった。
即ち、精霊全員のーーーー死。
「あ、あ・・・・」
ーーーー間に、合わなかった。
士道は、半ば無意識の内に自分の喉から震える声が溢れるのを感じた。
状況を理解してしまった脳から順に、絶望が身体を侵食していく感覚。視界が滲み、指先が震える。全身から力が抜け、身を起こしている事さえ困難になる。
「ーーーー準備は整った」
けれど澪は、最早抵抗する気力を失った士道とは対照的に、静かな声で告げた。
「これでずっと一瞬だよ。ーーーーシン」
ーカレンsideー
「・・・・一体何なのですか、この異空間は」
戦場と化した天宮市上空に浮遊する〈ラタトスク〉の空中艦、〈ウルムス〉。
その艦橋で、円卓会議‹ラウンズ›の議長代理カレン・メイザースは、落ち着いた。しかし何処か苛立たしげな声を上げた。
だがそれも無理の無い事だ。ただでさえ滅茶苦茶な戦闘の中、突然観測機が始原の精霊のものと思しき霊波反応と、何の脈絡もない金環日蝕、否、『儀式‹サバト›』を感知したのだ。
そして、それに次いで現れた謎の天使と、コレまた異空間。それらが発生した周囲からは、敵味方問わず全ての〈仮面ライダーメイジ〉、自動人形、再生ファントム、雑魚ファントム、更には空中艦の反応が消え、その中には敵旗艦〈レメトゲン〉までもが含まれていた。
それだけ見れば、イレギュラーとはいえ、〈ラタトスク〉の勝利である。
しえし、事態はそんな単純ではない。
そう。〈ラタトスク〉の要たる五河士道の反応も消えている上、こちらの旗艦〈フラクシナス〉までもが、天使の前に沈んでいた。
それによって形成された異常な戦場。言わば王が不在のチェス盤。
最早DEM側も、何をすれば良いのか分かっていない状況だろう。まあ、ウェスコットが討ち取られた事を知っての弔い合戦の可能性も無い訳では無いがーーーーそれよりは、敵が目の前にいるから戦わねばならないと言うシンプルな行動原理に従う事で、恐慌状態を避けようとしているのだろう。どちらも恐慌に違いないが。
そんなのいたずらに双方が疲弊するだけ。カレンはどうにか現状を把握すべく、惰性に続けられる戦闘の傍ら、自ら異空間の解析を試みていたのだ。
だが、調べれば調べる程に、意味が分からなくなる。
天使を核にして形成された結界のような空間である事は分かるのだが、それを組成する霊子の属性が少しずつ様変わりしていき、一瞬でも気を抜くと先程までとは全く別の物に変貌していた。
像と蟻程に規模が違うが、言うなれば、まるで魔術師‹ウィザード›の扱う随意領域‹テリトリー›に似たーーーー。
「ーーーーまさか、『隣界』ーーーー?」
と、カレンがポツリと言った瞬間、近くの席に着いていたクルーが不意に声を上げた。
「これはーーーー」
「どうかしましたか?」
「は、はい。〈フラクシナス〉が射出していた自立カメラの回線を拾い、異空間内の映像を外部から調べていたのですが・・・・ソコに、精霊の死体と思しきものが・・・・」
「何ですって?」
カレンは眉根を寄せると、クルーのパーソナルモニタを覗き込むと、何人もの精霊達が地に伏し、中には〈フラクシナス〉艦長・五河琴里の姿も。
「く」
と、小さく息を漏らす。
時崎狂三、八舞耶倶矢・八舞夕弦の3人が、始原の精霊によって殺害された事は確認していた。だが、まさかこの短時間にコレほどーーーー。
「・・・・ちょっと待って下さい。映像はこれで全てですか?」
「は、はい。少なくとも今あるものは・・・・」
「・・・・・・・・」
クルーの言葉を受けて、カレンは顎に手を当てた。
ただの見逃しかもしれない。或いは始原の精霊と遭遇していないだけかも知れない。
けれど確かにーーーー映像にある精霊達の死体の数は、異空間内に入った精霊の数よりも、“1つ少なかった”のである。
ー十香sideー
ーーーーユラリ、ユラリと揺れて。
ーーーークルリ、クルリとまわる。
どちらが上か下か分からない。所在ない空間。ぬるま湯の中を泳ぐかのような心地よさと、闇に吸い込まれるような不安感とが、不思議な共存状態を築いていた。
否ーーーー所在ないのは、空間のみでは無かった。
自分の身体が、自分の身体ではないような感覚。気を抜いたら手が、足が、世界に溶けていってしまうかのような違和感。
それは恐怖であり、甘い誘惑でもあった。ストンと眠りに落ちる寸前のような、抗いがたい快感。意識‹じぶん›を失う事は解っていても、思わず身を任せたくなってしまう。
(・・・・ぅ、ぁ・・・・)
けれど。十香の頭の奥底に疼く何かが、それを拒んでいた。
ーーーー駄目だ。駄目だ。それは、駄目だ。
ソレに身を任せたなら、きっと全てが終わってしまう。もう2度と、目覚める事は無くなってしまう。
だが、ソレを自覚してなお、眠気にも似た感覚は十香の意識を捕らえて離さなかった。優しい悪魔の手招きが、徐々に十香の自我を侵食しーーーー。
(ーーーー落ちるか。まあ、ソレも良いだろう)
瞬間。
何処からかそんな声が響いてきて、十香はハッと目を見開いた。
(・・・・っーーーー)
一瞬前までの眠気が嘘のように、意識がハッキリとする。今の今まで空間に溶け入りそうになっていた手足に、感覚が戻っていく。けれどソレは逆に、この空間の奇妙さを際立たせる結果となった。
見渡せども、ここがどこなのかーーーー否、『何』なのか、分からない。
何も見えないようでいて、遥か遠くまで見通せるかのような不思議な空間。あえて言うならばソレは、かつて空間震を伴ってこちらの世界で目覚める直前の感覚に近いような気がした。
ーーーーだが1つ、この場には確たる情報がある。十香はフワフワと揺らめく体をどうにか制御しながら、声のした方向に目をやった。
(な・・・・)
そしてソコにいた少女を見て、驚愕に目を見開く。
辺りにたゆたう夜色の髪。
静かに此方を見据えるは水晶の双眸。
そう。その少女はーーーー十香と瓜二つの貌をしていたのだ。
(お、お前は、一体・・・・)
十香が訝しげに問うと、少女はフンと鼻を鳴らしながら返してきた。
(名か。そんなものはない。ーーーーあえて言うならば、“私は、お前だ”)
(私・・・・?)
少女の返答に、十香はさらに表情を困惑の色に染めた。
だが、その言葉を冗談と笑い飛ばせないのもまた、事実であった。他人と言うには、少女はあまりにも自分と似過ぎている。これならば、まだ八舞姉妹の方が相違点を探しやすい。
(一体何がどうなっているのだ・・・・これは夢なのか?)
(夢、か。ふん、まあ当たらずとも遠からずという所だろう。お前の頭の中か、あの女の中と言う違いはあるがな)
(あの女ーーーー?)
言われて、十香は小さく肩を揺らした。その1言を起点として、芋づる式に記憶が掘り起こされる。
そうだ。十香は仲間達と共に澪と戦いーーーーそして、敗れたのだ。
(皆は・・・・皆はどこだ!? 私がいると言う事は、皆のもここにいるのか!?)
十香は、自分がーーーー少なくともその意識がーーーーここにいるならば、同じように霊結晶‹セフィラ›を澪に吸収された仲間達がいると思い、再度周囲を見回す。
と、ソコで十香は、目の前の少女に、問いの言葉が足らなかった事に気づく。
(あ、皆と言うのはだなーーーー)
(他の精霊の事か?)
(! 知っているのか!?)
十香が目を丸くすると、少女が小さく息を吐きながら続けてきた。
(ーーーー前の目覚めより、時折お前の目を借りて、世界を眺めていた)
(む・・・・? 目を・・・・?)
少女の言葉が何を意味しているのか良く分からず、十香は首を傾げた。
しかし少女は、無理に理解せずとも良い、と言うように首を振ってから、先の問いに答える。
(ここにいるのはお前だけだ。他の者達は、あの女に霊結晶‹セフィラ›を奪われ、”人間として死んだ“。女の中にあるのは、あくまでその霊結晶‹セフィラ›のみだ)
(・・・・っ)
少女の言葉に、十香は息を詰まらせた。
皆の死を知らなかった訳では無い。皆が澪の手によって、冷たい血に伏していくその光景を見たから。
だが改めてその事実を告げられると、十香は心臓が握り潰されるかのような痛みを覚えてしまう。けれどすぐに、少女の言葉に『違和感』を覚え、十香は眉をひそめながら返した。
(“人間として”・・・・? どういう事だ。確かに折紙に琴里、六喰、二亜、美九、狂三は元人間だが・・・・四糸乃や七罪、耶倶矢、夕弦は、私と同じ精霊だろう?)
(いいや。澪‹あの女›以外の精霊と呼ばれる存在は、“あの女によって霊結晶‹セフィラ›を与えられた人間に過ぎん”。ーーーー“1つの例外を除いてな”。今お前が挙げた者達は、“数十年前に精霊にされ、人間であった頃の記憶を失っているのだ”)
(なーーーー)
思わず目を見開く。
精霊がーーーー全て人間。
確かに以前、二亜が似たような事を言っていた気もするがーーーーその真偽の程は定かでは無かったはずだ。何より十香自身、自分が人間であった頃の事等何も覚えていなかった為、実感が湧いていかなかったのだ。
だが、もし目の前の少女の言葉が真実であるとするならば、おかしな点が1つ、あった。
(ならば・・・・私は何故生きているのだ? 私も、その内の1人ではないか!)
そう。十香も皆と同様、澪に胸を貫かれた。
ならば十香も、皆と同じように“人間として死んで”いなかければおかしい筈だ。
(それはーーーーーーーー)
すると少女は、スッと目を細めながら唇を開き、簡潔に言葉を述べてきた。
(ーーーーーーーー!)
それを聞いて、思わず目を見開く。
だがーーーー十香はすぐに、キュッと唇を引き結び、拳を握った。
(・・・・ふん?)
少女が、眉をピクンと動かしてくる。
(困惑するかと思いきや、存外飲み込みが早かったな)
(・・・・うむ。嫌、困惑は、している。だが・・・・もしもそれが本当だとするならば、今は、その事実に感謝したい)
(ほう・・・・?)
少女が興味深そうに目を細める。十香は双眸に決意の光を宿し、顔を上げた。
(ーーーー私は、こうして生きている。そして生きているのならーーーーまだ、戦える)
十香が言うと、少女が小さく鼻を鳴らした。
(成る程。ーーーーだが敵は我らが母。仮に戦えたとして、まず敵いはするまい。できる事と言えば、精々数分の時間を稼ぐ程度だろう。再び死の苦痛を味わうだけだぞ。嫌・・・・今度こそあの女は過つまい。次は意識の断片さえ残さず消し去られるだろう)
少女が驚かすような口調で言ってくる。
少し前の十香ならば、「そんなの、やって見なければ分からない! 私が澪を倒してシドーを守る!」、と言っていただろうが、現にこうして、全力全開以上の力の全てを絞りきって澪に挑んだが手も足も出ず、呆気なく倒されたのだ。自分が澪の前では塵芥に等しい事は重々承知している。
だが十香は、一瞬の逡巡さえもなく首を横に振った。
(ーーーー構わん。数分のときがあれば、ドラゴンがシドーを引っ張って逃げてくれるかも知れない。あの2人ならば、何かこの状況を打開する方法を思いついてくれるかも知れない。ーーーー私の命を賭けるに値する、十分な希望だ)
(ほう。しかしお前が死ぬという事は、私もまた滅びると言う事だ。私はお前なのだからな)
(な・・・・そ、そうなのか? それは・・・・むう・・・・、すまん。・・・・だがお前も、私が戦う事を望んでいるのではないのか?)
(ほう? 何故そう思う)
少女が十香の目を覗き込むように首を傾げてくる。十香はそれを真っ直ぐ見返しながら答えた。
(ーーーーだってお前は、私に声をかけてくれたではないか)
(ーーーーーーーー)
十香が言うと、少女は眉を揺らしーーーーやがて堪えきれないと言った様子で破顔した。
(ふ、はは。そうか。・・・・ああ、そうだな)
何故だろうか、十香はその顔に、ああ、この少女も笑うのだーーーーと不思議な感慨を覚えてしまった。
少女はクツクツて笑った後、両手を広げ、十香の肩を抱いた。
(ーーーーならば行くがよい、私よ。気の済むまで、暴れてこい)
(・・・・うむ。ありがとうだ、私)
少女は小さく微笑むと、十香から手を離し、その背をポンと押した。
ードラゴンsideー
「嘘・・・・だ・・・・ぁ、あ・・・・」
膝を突いた士道の唇から、力無い声が、半ば無意識に喉から溢れる。
そしていつの間にかーーーー澪が士道の目前にまでやって来た。
「・・・・シン」
愛おしむような、慈しむような声音で澪が言うと、士道の頬を優しく撫でてきた。
「・・・・ごめんね。君を悲しませるのは、私も望んでいなかったのだけど。・・・・でも、大丈夫だよ。すぐにーーーーその悲しみは消えるから。だってシンは、私以外の精霊を初めから知らないのだもの。この罪は、私だけのもの。だから、シンがこれ以上自分を責める事はないんだ」
そう言って、澪の手が士道の頭に伸ばされる。
ーーーーあまりに神々しい輝きを纏う、女神の如き少女。
しかし、その時ーーーー。
『くっ・・・・!』
ドラゴンは、自身を粒子に変えて即座に士道の身体に入り込み、全く動かない士道の身体を操作して、バッと澪の手から逃れると、リングを翳した。
[バインド プリーズ!]
大量の魔力の鎖を召喚し、澪の全身を繭のように包みこんでから、急いで澪から距離を取った
魔力の鎖が澪の自由を1時的に奪っている間に、ドラゴンは士道に話しかける。
『ーーーー何してる貴様は?』
「・・・・・・・・」
『六喰の時に言った筈だぞ。【また不様を晒したら、今度こそ見限るからな】、と』
「・・・・見限れば良いだろう・・・・」
『あ?』
ドラゴンの言葉に、士道はほぼ投げやりに返し続ける。
「お前の目的は、『俺を絶望させてこの世界に顕現する事』、今の俺の絶望のエネルギーを喰らえば、お前は自由になれるぞ・・・・」
『ーーーーふん。そうなれば、次は澪は我にターゲットを変えて、地獄の果てまで追いかけてくるな。言っておくが、状況は澪だけではない。見ろ』
ドラゴンが士道の首を動かすと、太陽をほぼ7割隠れ、間もなく『儀式‹サバト›』が始まるのを告げていた。
『ーーーーもうすぐ『儀式‹サバト›』が起こる。今度は2年前の比ではない、もっと大勢の人間が『魔獣ファントム』になってしまう。貴様はそれで良いと言うのか?』
「・・・・もう、駄目なんだよ・・・・!」
解っている。このままでは下手をすれば天宮市、否、日本中の『ゲート』が『魔獣ファントム』になってしまう。そんなのはさせてはいけない。
ーーーーだが、身体に力が入ってくれないのだ。
ほんの少し前まで、彼女を止めなければならないと思っていた。『士道』としての記憶を、今まで生きてきた人生を消されるなんて御免だと思っていた。皆と一緒に生き残るのだと、強く心に決めていた。
けれど今は、何もかもが、どうでも良くなってしまった。
仮に澪から逃げ伸びたとして、一体何になると言うのか。
士道の帰りを待ってくれる精霊達は、もう1人もいない。
「自分でも、最悪だって解ってる。でも、この身を裂くような絶望から解放されるなら、もう、澪に任せるのも、ドラゴンに喰われるのも、楽なのじゃーーーー」
『では、精霊達はーーーー“無駄死の犬死にをしたと言う事で良いんだな”』
「・・・・・・・・は?」
士道の言葉を遮るように、ドラゴンが冷淡に言った言葉、それを聞いた瞬間、士道の諦めと絶望に支配された心に、僅かな火が灯った。
『ーーーー精霊達も可哀想に、こんなゴミクズの為に命を賭けて、倒されてしまったと聞かされて助けようとも、仇を討とうと行動も考えも持たない。安易な死で逃げようと、最低で最悪な考えをしている。何の為に、誰の為に彼女達は戦ったのだろうなぁ? 彼女達は純粋無垢だったからな、男を見る目が無かった。ーーーー馬鹿男に尽くして身を滅ぼした、馬鹿娘の集団の無駄死になってしまったな』
「・・・・・・・・けるな・・・・」
『あ?』
「ふざけるなぁっ!!!」
士道がドラゴンに向かって怒声を放って立ち上がる。
「俺の事は幾らでも罵倒して良い! どれだけ貶したって構わない! お前の言う通り、最低で最悪の考え方をして逃げようとしていたんだからな! でも・・・・! 皆をーーーー折紙を! 二亜を! 狂三を! 四糸乃を! 琴里を! 六喰を! 七罪を! 耶倶矢を! 夕弦を! 美九を!ーーーー十香を侮辱する事は絶対に許さない!!」
士道は呼吸が乱れる程に怒鳴ると、ゼェゼェと呼吸と息を整える。が、ドラゴンは冷徹な目の中に静かな怒りの炎を揺らめかして応える。
『ーーーー彼女達を侮辱をしているのは、貴様の方だ』
「何だとっ!?」
『彼女達は命を賭して貴様を守ろうとしていた。澪と自分達の圧倒的なーーーーいや、比較するのも馬鹿らしいと言える程の力の差など、とうに分かっていたにも関わらず、だ。なのに貴様はどうだ? 彼女達の想いに報いろうとせず、彼女達の貴様に生きてほしいと言う願いを無視して、自分だけ楽に死のうとしている。そんな貴様の甘ったれた考え方が、彼女達の気高い想いを、犬の糞で汚れた穢らしい足で踏み躙っている事に気づかないのか!?』
「っ・・・・!」
ドラゴンの言葉が、深く深く心に突き刺さった。
確かにそうだ。ここで諦めたら、何の為に皆が命を賭してくれたんだ。こんな情けない自分の為に、皆は戦ってくれたと言うのに、自分は澪に屈して、安易な死で楽になろうとしていた。
ーーーー本当に情けないし不甲斐ない。ここで屈したら、諦めたら、それこそあの世と言うものがあれば、2度と彼女達に顔向けできない。
「ーーーーっ!」
ーーーーバキィッ!
士道は、『インフィニティウィザードリング』を嵌めた手で、自分の頬を力の限りに、思いっきり殴った。口の中を切り血が流れるが、痛みと血の味で漸く頭がスッキリしてきた。
「ーーーーそうだよな。例え勝てなくても、簡単に諦めたら駄目なんだ。それじゃ、澪を止められない!」
『・・・・・・・・』
「〜〜〜〜つぅ〜〜〜〜!ーーーーすまないドラゴン。いつもいつも、毎度毎度、俺は情けなくてカッコ悪い姿しか見せられないな」
『あと無様で惨めで女々しいと言うのも付け加えておけ』
「お前なぁ・・・・」
つくづく自分には一片の優しさを見せてくれない、否、わざと十香達を侮辱して発破なんて、あの精霊達に過保護(1部例外)のドラゴンからすれば十分な優しさなのだろう。
「良し。行こうぜ、『相棒』!」
『ーーーー行くぞ、『相棒』!』
「変身!!」
お互いにそう言い合うと、士道はリングをドライバーに翳した。
[イィィンフィニティー!! プリーズ!]
ーーーーギャォォォォォォォォォォォンッ!!
[ヒースイフードー! ボーザバビュードゴーーン!!]
士道の身体から光り輝くドラゴンが飛び出し士道と一体化し、士道の身体を水晶が包み砕け散り、〈仮面ライダーウィザード・インフィニティスタイル〉へとなり、アックスカリバーを構えた。
それと同時に、澪の身体を包みこんでいた鎖が消滅される。澪は、変身していたウィザード‹士道›を見て、目を細める。
「ーーーーシン。まだ抵抗するんだね。君の中の魔獣の差し金かな? どうして君は邪魔をするのドラゴン? もう君の力なら、シンを絶望させなくても、外に出られるのじゃないかな?」
澪の問いかけに、ドラゴンは応える。
『ーーーーこのまま君が小僧を消し、崇宮真士を目覚めさせても、彼は・・・・『本当の笑顔』になれないからだ』
ドラゴンの言葉に、澪は首を傾げる。
「意味が分からないな。この罪は私だけのものだよ。シンは何も知らなくて良い。全て私がーーーー」
『ハッ! 成る程な!』
澪の言葉を、ドラゴンは鼻で笑うように遮った。
『君は崇宮真士の事を誰よりも想っているように見て、本心では崇宮真士を誰よりもーーーー“見下しているな”』
「・・・・・・・・え?」
その時、ウィザード‹士道›は始めてあの無表情の澪が、否、令音が、不快そうに眉根を寄せたように見えた。
『確かに神の如き力を有しているだけはある。自分以外は全て自分よりも圧倒的に下の存在としか見ていない。それが想い人である崇宮真士でもな』
「・・・・私は、シンを下になんて見ていない」
『自覚していないか。流石はあのウェスコット達が生み出しただけはあるな。本質的にはヤツらと『同類』だと言う事だな!』
「ーーーー黙れ・・・・」
と、その時、始めて澪が、令音が、『感情』を露わにしたように、光の帯を大量にウィザード‹士道›に向けて放った。
[イィィンフィニティー!!]
と、ウィザード‹士道›は超加速して、アックスカリバーで光の帯を弾き飛ばす。
「シンを守る力として君の事を見逃していたけど、もう君は必要ない。消えて貰うよ」
「くっ!」
何とか堪えているが、正直ウィザード‹士道›だけでギリギリ互角となっている。せめてもう一手、澪と対等に渡り合える何かがーーーー。
『シドー!!』
ーーーーと。
『「・・・・ッ!?」』
不意に何処からかそんな声が聞こえた気がしてーーーー士道とドラゴンは一瞬幻聴かと疑ったが、次いで目に飛び込んできたものが、それを否定した。
「なーーーー」
『っーーーー』
「・・・・何?」
士道とドラゴンが息を詰まらせると同時、澪もまた、微かに眉を歪める。
何故なら、澪の霊装に輝いていた10の星の内の1つ、夜色の星に、亀裂が入った。
『ーーーーぉぉぉおおおおおおおおおッ!』
次の瞬間。澪の霊装事に1部が、内部から切り裂かれるように弾け飛んだかと思うとーーーーその中から、〈鏖殺公‹サンダルフォン›〉を握った、完全霊装の十香が飛び出してきた。
『「十香!!??」』
「シドー! ドラゴン!」
[チョーイイネ! スペシャル! サイコー!]
ウィザード‹士道›は4色の魔法陣を展開し、ソコから各エレメントが飛び出し、唖然としていた澪を吹き飛ばすと、十香はウィザード‹士道›を守るように立ちはだかりながら、声を上げてくる。
「シドー! 無事か!」
「十香・・・・おまっ、何で・・・・!?」
「まだ何も終わっていないからな!ーーーーさあ、一緒に戦おう、シドー! ドラゴン!」
士道が驚愕の色に染まった声で以て返すと、十香は力強く頷いてみせた。
次回、澪との決戦!