デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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第19章は完結。


絶体絶命・士道

ー士道sideー

 

「・・・・っ! 十香・・・・!?」

 

『マズイ! 十香! 逃げろーーーー!!』

 

ーーーー十香が玉座を身に纏い、澪に斬り掛かった瞬間、異空間内が真っ白な光で塗りつぶされ、ウィザード‹士道›は十香の元に行こうとしたが、光の帯に身体を拘束されてしまい、十香の名を呼ぶ事しかできなかった。

そして、どれくらい経った頃だろうか。ウィザード‹士道›が光の帯を力任せに引き千切って十香の方を見るとソコには、霊装を切り裂かれ、身体を血に染めた澪の姿があった。

 

「・・・・!」

 

痛ましい澪の姿への戦慄と憐憫、そして十香の1撃が届いたのだと言う興奮が同時に押し寄せる。

だがすぐに、ウィザード‹士道›の意識は次いで生じた違和感に支配された。

 

「十、香・・・・?」

 

そう。今し方澪に斬り掛かった十香の姿が、何処にも見えないのだ。

 

「ドラゴン、十香は・・・・?」

 

『・・・・まさか、最後の最後に、こんな『隠し玉』を。澪は、“3体目の天使を持っていたのか”・・・・!』

 

「“3体目”・・・・?」

 

ドラゴンの言葉の意味が一瞬分らず、マヌケにも呆けるウィザード‹士道›に、細く長い息を吐いた澪が、こちらに視線を向けた。

 

「・・・・十香は、もういないよ」

 

「え・・・・?」

 

まだ呆けているウィザード‹士道›に、澪は静かに唇を開いてきた。

 

「ーーーー言ったでしょう。もう、“いない”んだよ。何処かへ飛んだ訳でも、死んだ訳でもなくーーーー“消えて無くなったんだ”」

 

「・・・・何・・・・、を・・・・」

 

「無の天使〈   ‹アイン›〉は、あらゆる条理を無視し、全ての物を『消滅』させる。本来ならば、『魔獣ファントム』達への対策として取っておくつもりだった私の奥の手だ。ーーーーもう1度言うよ。十香はもういない。この世界の何処にも」

 

『「ーーーーっ」』

 

澪の言葉に、士道とドラゴンは息を詰まらせた。

ーーーー十香が、消えた。

言葉にすればそれだけだが、上手く理解できない。

 

「勿論、十香が持つ霊力も一緒に消えてしまうから、この天使を使うつもりは無かった。今言ったように、この天使は“この世界の理の外の存在である『魔獣ファントム』”への対策として取っておいた天使だよ。けれど・・・・あの十香を確実に仕留めるには仕方が無かった。

ーーーー逆に言えば、私が奥の手を晒さなければならない程に、十香に追い詰められてしまったんだ。どうか十香を褒めてあげて。彼女は、君への想いだけで、自分の限界を超えて見せたんだ」

 

言いながら澪は手を掲げ、自分の傷口を撫でていく。

すると、まるで映像を逆回しにするように傷が塞がっていき、次いで切り裂かれた霊装までもが元の形に戻っていった。

 

『(ーーーー最早なんでもありだな・・・・!)』

 

「・・・・さあ、シン。これで邪魔者はもうドラゴンだけ。その魔獣を〈   ‹アイン›〉で消せばもう終わりだよ。ーーーー安心して。十香の消滅によって幾分か霊力は消えてしまったけれど、君を不死にするには、今ある力だけで十分だから。後は君を、完全なシンに戻すだけだ」

 

澪が、ゆっくりとウィザード‹士道›に向き直る。

ウィザード‹士道›はゴクリと息を呑んだ。

 

『ーーーー何だ、まぁた絶望に屈服して蹲るのか?』 

 

と、ドラゴンに囁かれ、ハッとなった。 

 

「ーーーー誰が、だよ!」

 

[メタトロォォン! ハイタッチ! ライトニングストライク! ピカピカ! ピカピカ!]

 

ウィザード‹士道›は猛るように吠えると、【ライトニングストライク】を放つ。

確かに状況は先程を上回る絶望的。精霊達は全て殺され、今まさに十香さえもが消し去られた。

けれど、もうウィザード‹士道›は決して膝を屈しない。無敵の精霊に吠えてみせる。

何故なら、ウィザード‹士道›は誓ったのだ。十香に、精霊達に。

もう決して屈しないと。もう決して諦めないと。『最後の希望』になってみせると・・・・!

 

「うおおおおおおおーーーーッ!」

 

ウィザード‹士道›は、持てる全ての力を使って澪に抵抗を試みた。

だがーーーー。

 

「・・・・無駄だよ」

 

「・・・・ッ!」

 

澪が1言発しただけで、ウィザード‹士道›の攻撃の全てがその威力を弱まり、澪は〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉・【枝剣‹アナフ›】を振り、打ち消していった。

そして次の瞬間、澪が小さく指を動かしたかと思うと、地面から光の帯のようなものが生えてきて、ウィザード‹士道›の足に絡みついた。

 

「くーーーー」

 

[リキッド プリーズ]

 

「っ!」

 

[イィィィンフィニティ! プリーズ!]

 

身体を液状にして脱出し、一端距離を空けようと離れようとするが、澪はトンと地面を蹴り、重力を感じさせない不思議な軌道を描いて追ってきた。

どんなに逃げようとしても追ってくる。

ーーーーまさに絶体絶命。

だが、ウィザード‹士道›はそれでも諦めない。最後の最後まで、澪を観察し、思考を巡らせ続けた。だからーーーーウィザード‹士道›もドラゴンも、それを見逃さなかった。

 

『「・・・・っ!?」』

 

ーーーー“澪の手に、銃弾が撃ち込まれるのを”。

 

「・・・・何?」

 

ウィザード‹士道›とドラゴンの驚愕と澪の声が重なる。

澪の手には、傷1つ付いてはいない。けれど確かに今、澪の手に、1発の銃弾が当たったのである。

ただ、火薬を以て発射された金属の塊ではないように思われた。実際、硝煙の匂いもしなければ、火花が散った訳でもない。

そう。それはまるで、黒い影を弾丸の形に固めたようなーーーー。

 

 

 

 

「ーーーーきひひ、ひひ」

 

 

 

 

ウィザード‹士道›達の思考を遮るようにーーーー否、裏付けるように。その聞き覚えのあり、特徴的過ぎる笑い声が辺りに響いた。

 

「ーーーーああ、ああ、どうやら間に合ったようですわね。士道さん、ドラゴンさん、良く生きていてくださいましたわ」

 

「な・・・・ッ」

 

『げぇ・・・・』

 

異空間に現れた銃弾の主の姿を目にして、ウィザード‹士道›は思わず声を裏返らせ、ドラゴンはゲンナリとした。

血と闇で染め抜かれたかの様な霊装。

左右不均等に括られた黒髪。

そしてーーーー左目に怪しく輝く時計の文字盤。

そう、ソコにいたのはーーーー。

 

「狂三・・・・!?」

 

『〈ナイトメア〉・・・・』

 

精霊・時崎狂三その人だったのである。

 

「な・・・・ど、どういう事だ!? お前は澪に殺されたんじゃあ・・・・」

 

ウィザード‹士道›は呆然と言った。

2人はこの目で見たのだ。狂三の胸から澪が這い出てくるのを。そして、狂三が物言わぬ屍となり、周囲にいた分身体さえも消えていったのを。

だが、今目の前にいる狂三は、幻覚とも贋者とも思えなかった。

 

「申し訳ありませんわね、お2人さん。本当ならもう少し早く駆けつけたかったのですけれど、何分初めてなもので、上手く感覚が掴めなかったようですの」

 

『ーーーーそうか。そう言う事か』

 

「何か分かったのか、ドラゴン?」

 

『撃った対象を過去に送る【10の弾丸‹ユッド・ベート›】があるならば、“対象を未来に送る弾丸”を使ったのだろう』

 

「・・・・【11の弾丸‹ユッド・アレフ›】、か」

 

「え・・・・?」

 

「ーーーーきひひ」

 

ウィザード‹士道›の疑問にドラゴンが応えると、澪が呟いた言葉に、狂三は不敵な笑みを浮かべてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

ー狂三(過去)sideー

 

ーーーー遡る事およそ1時間前。

戦場の中。時崎狂三の胸からは、白い腕が生えてきた。

 

【あ、あ・・・・】

 

喉が震え、唇から苦悶が漏れる。

その異常な光景を見て、狂三の分身体は思わず声を上げた。

 

【『わたくし』・・・・!】

 

だが、そんな叫びも空しく、狂三の声はドンドンか細くなっていきーーーーソレに合わせるように、『腕』が、ゆっくりとその胸元から這い出てきた。

そしてやがて、1人の少女が姿を現す。

物憂れげな目をした、あまりに美しい少女が。

 

【『なーーーー』】

 

その少女の貌を見て。

狂三の周囲にいた分身体達は、一斉に息を詰まらせた。

本物の自分の身体から少女が這い出てきたなだから、驚くのは当然ではある。けれど、『狂三』達の驚愕はソレに対するもののみではなかった。

全員がーーーーその少女の貌に、見覚えがあった。

ーーーー崇宮澪。

狂三を精霊にした少女。

狂三と共に、戦った少女。

狂三の親友の死の原因となった、少女。

そう。狂三の永きに亘る復習の旅路の始点であり、終着点。

憎き始原の精霊が、そこにいたのである。

 

【・・・・っ!】

 

ソレを確認すると同時、分身体は状況を理解した。

狂三は先日、始原の精霊と見え、『影』にその身を取り込んでいた。

飲み込んだ対象の時間を吸い尽くす〈時喰みの城〉。その中に落とされた者は、命の火が消えるまで寿命を奪われ、死を迎えるーーーー筈、だった。

だが如何な絡繰か、澪は死んでいなかった。それどころか、狂三の知る年齢まで、身体が若返っていた。あたかも、逆に狂三から、『時間』を吸い取ったかのように。

 

【が・・・・あ・・・・っ!】

 

本物の狂三も、自分の胸から這い出た少女の正体に気づいたのだろう、獣のような咆哮を上げると、手にしていた短銃を握る手に力を入れる。

 

【〈刻々帝‹ザフキエル›〉・・・・・・・・ッ!】

 

すると次の瞬間、そんな狂三の声に応えるように、その足元に蟠った『影』が蠢き、銃口に吸い込まれていった。

そして、自分の胸から生えた澪目掛けて、引き金を引く。

だが、その寸前で澪が、狂三の身体を抉るように身体を動かした。

 

【が・・・・っ・・・・!】

 

狂三が苦しげな声を上げ、姿勢を崩す。

必然、狂三が放った影の弾は澪に当たる事無くーーーー。

 

【・・・・ッ!?】

 

その射線上にいた、分身体の胸に突き刺さった。

 

【な・・・・わ、『わたくし』・・・・?】

 

分身体は、胸元を抑えながら身体を折った。

あまりに不運。あまりに滑稽。最悪の精霊とさえ呼ばれた時崎狂三の最後の1撃が、まさかこの様なーーーー。

 

【・・・・・・・・!】

 

だがすぐに分身体は、その弾が、ただ影を固めただけの物ではない事に気付いた。胸を撃たれた痛みが、無い。その代わり、まるで着弾した箇所を起点とするように、渦に巻き込まれるかのような感覚が全身を襲った。

 

【これは・・・・まさか・・・・!】

 

分身体はハッと目を見開き、狂三を見やった。

ほんの一瞬ではあるがーーーー死の淵にある狂三が、ニッと微笑んでみせた。

 

【あーーーー】

 

瞬間。分身体は気付いた。

狂三は最後の1撃を外したのでは無い。

澪を狙おうとしたのは、この攻撃の真意を澪に知られない為のカモフラージュだったのである。

そう。死を悟った狂三は、自分に残る力を込めーーーー分身体に、この弾を託したのだ。

〈刻々帝‹ザフキエル›〉ーーーー【11の弾‹ユッド・アレフ›】。

対象を過去に送る【10の弾‹ユッド・ベート›】と対を成す、狂三の秘奥。

“撃った者を未来に送る”、禁断の弾を。

そして理解する。狂三が何を思って、この1撃を分身体に撃ったのかを。

文言や指示は一切必要なかった。何故ならば分身体も、狂三と同じ意志を持ち、狂三と同じ望みを持つ、『時崎狂三』に他ならなかったのだから。

 

【・・・・っ、『わたくし』ーーーー】

 

全てを託された分身体は、叫び出したい気分を堪え、言葉を飲み込んだ。

澪は、狂三の1撃は自分を狙って外れたものだと想っている。分身体の事等気に留めていない。ならば一時の激情で、狂三の思いを無駄にする事はできなかった。

分身体は誰にも聞こえないくらいの声で、唱えるように言った。

 

【ーーーーええ、ええ。託されましたわ、『わたくし』。ーーーー未来を】

 

分身体はその言葉を最後に、その世界から掻き消えた。

 

 

 

 

 

ー士道(現代)sideー

 

「ーーーーご名答ですわ、ドラゴンさん。澪さん。わたくしはおよそ1時間前の過去から未来を託された、時崎狂三の分身体。あなたを殺す為に遣わされた、最後の刺客ですわ」

 

言って狂三が、両手に持った古式銃と短銃を構えてみせる。それを見てか、澪が小さく息を吐いた。

 

「・・・・本気で言っているのかい? 分身体が、私に敵うとでも?」

 

「ええ、ええ。本物の『わたくし』はあなたに殺され、わたくし以外の分身体も消え去ってしまいましたけれどーーーーわたくしは、【11の弾‹ユッド・アレフ›】に込められて霊力が尽きるその時まで、存在し続ける事ができますの。あなたを殺すには十分な時間ですーーーーわッ!」

 

分身体狂三はそう吼えると、地面を蹴って高く飛び上がり、2挺の銃を連続して撃った。

双方、単発式と思しき古式の銃。しかし弾を1発放つ度、影が銃口に吸い込まれ、一瞬にして装弾が完了される。雨のような銃撃が澪を襲い、狂三の弾丸が、幾つも澪に降り注ぐ。

 

「・・・・・・・・」

 

無論澪には毛程の傷も付かなかったが、辺りに流れ弾が踊り、地面に幾つもの弾痕が穿たれた。

すると、分身体狂三がウィザード‹士道›の隣に降り立つ。

 

「! 狂三、お前、一体何をーーーー」

 

ウィザード‹士道›が名を呼ぶと、分身体狂三はウィザード‹士道›をチラと一瞥してきた。

 

「先程申しましたでしょう。澪さんを倒しに来たのですわ。ーーーーああ、でも、もう1つ」

 

狂三はニッと唇の端を歪めた。

 

「ーーーー士道さんとのキスの感触が、忘れられなかったのかも知れませんわね」

 

言って、狂三が再度地を蹴り、澪に攻撃を放っていく。

 

「な・・・・っ」

 

そんな狂三の背を見ながら、ウィザード‹士道›は眉をひそめた。

理由は単純。狂三の行動が、あまりに“らしくないからだ”。

 

「きひひひひひひーーーーッ! いかがいたしましたの、防戦一方ではありませんの!」

 

「・・・・・・・・」

 

狂三は未だ、2挺の古式銃で澪を撃ち続けている。だがそれらの攻撃は、一切澪に通用していなかった。

ーーーーあまりに、力の差がありすぎる。

そして狂三が、それを理解していないとは思えない。

 

「どう言う・・・・事だ?」

 

分身体狂三が澪に勝てる筈がない。彼女だって分かっている筈なのに。

 

『ーーーー成る程。そういう事か・・・・』

 

「っ、どう言う事だドラゴン?」

 

『分身体が今さっき言った言葉を思い出せ』

 

「え・・・・?」

 

【ーーーー“士道さんとのキスの感触が、忘れられなかったのかも知れませんわね”】

 

「ーーーーあーーーー」

 

瞬間。

ウィザード‹士道›は無意識の内に、自分の唇に指を触れる。

頭の中で、パズルのピースが塡まるかのような感覚。

絡み合った糸が、一気に解けるかのような感覚。

狂三はまさかーーーー。

 

「・・・・く、は・・・・ッ!」

 

と、分身体狂三から、苦痛に彩られた声が響いてきた。

 

「! 狂三・・・・!?」

 

ハッと顔を上げる。するとそこには、地面から生えた幾本物光の帯に、身体の至る所を貫かれた狂三の姿があった。

 

「残、念・・・・及びません・・・・でした、わねぇ・・・・かふっ」

 

狂三は血を吐くと、虚ろな目でウィザード‹士道›を見てきた。

きっと、伝わったのだ。

ドラゴンを推測が、士道が答えに辿り着いた事が。

 

「あーーーーはァ・・・・」

 

狂三は小さく笑うと、ガクリと倒れ伏しーーーーそのまま影となって消えてしまった。

 

「・・・・解せないね。私に敵う筈がない事くらい分かっていただろうに」

 

澪はそんな狂三のいた場所を怪訝そうな目で見下ろして後、ユラリとウィザード‹士道›の方を向いてきた。

 

「ともあれーーーー後はドラゴンを消せば全てが片付く。皆の想いに賞賛を。その健闘に喝采を。・・・・だが、全ては無駄な抵抗だ。結果は、何も変わらない」

 

「ーーーー無駄?」

 

澪の言葉に、ウィザード‹士道›は喉を震わせた。

 

「無駄なんかじゃ・・・・ない。全部ーーーー全部が、必要だったんだ」

 

「・・・・、シン?」

 

ウィザード‹士道›の反応が意外だったのか、澪が不思議そうな顔をする。

ウィザード‹士道›はそんな澪の目を真っ直ぐ見据えながら、続けた。

 

「ーーーードラゴンがいてくれたから、俺は立ち上がる事ができた。皆がいてくれたから、十香が戦ってくれたから、狂三は間に合った。そして狂三が・・・・俺に、気づかせてくれた・・・・!」

 

半ば無意識の内に、仮面越しで、ポタポタと、目から涙が零れる。

そう。全てがーーーー必要だった。

何か1つでも欠けていたら、きっと士道の記憶は、永遠に失われていただろう。

けれど、針の穴を通すような奇跡の連続が、士道の命を繋いでくれた。

士道は、澪を見つめながら、細く息を吐いた。

確かに澪の力は強大だ。『圧倒的』なんて言葉する生温い。

〈仮面ライダーウィザード〉の持つ魔法も、

〈絶滅天使‹メタトロン›〉の光も、

〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉の冷気も、

〈灼爛殲鬼‹カマエル›〉の炎も、

〈封解主‹ミカエル›〉の封印も、

〈贋造魔女‹ハニエル›〉の変身も、

〈颶風騎士‹ラファエル›〉の風も、

〈破軍歌姫‹ガブリエル›〉の音も、

〈鏖殺公‹サンダルフォン›〉の剣も、澪には通用しなかった。

きっと〈囁告篇帙‹ラジエル›〉の叡智も、澪にとっては何の意味も持たないだろう。

だが、ウィザード‹士道›の身体にはもう1つだけーーーー天使の力が残されていた。

 

「・・・・!」

 

ウィザード‹士道›はーーーーその天使の名を呼んだ。

 

 

 

「ーーーー〈刻々帝‹ザフキエル›〉ーーーー【6の弾‹ヴァヴ›】!」

 

 

 

 

瞬間、ウィザード‹士道›の影がザワーーーーと蠢き、その手の中に集まって短銃を形作った。

それと同時、仮面を解除した士道の左目が、金色の時計の文字盤へと変貌し、カチッ、カチッ、て無機的な音が聞こえ始める。

そう。狂三が持つ時の天使〈刻々帝‹ザフキエル›〉。

その力は狂三の死と共に澪に吸収されていたのだがーーーーその12分の1、【6の弾‹ヴァヴ›】だけは、士道の身に封印されていたのだ。

かつて狂三が士道にした戯れのキス。それによって封印された、ただ1つの弾。

その力はーーーー“撃たれた者の意識のみを、過去の身体に送る事”。

狂三は、士道が殺される度にその亡骸に口づけをし、この力を吸収して、自らの意識を過去へと飛ばしていた。

だが、今この世界において、士道はまだ死んでいない。

必然的に、【6の弾‹ヴァヴ›】の力は、士道の身体に残ったままだったのだ。

狂三は、その一手を知らせる為に、最後の力を振り絞って、分身体を未来に送ってくれたのだ。

 

「・・・・何ーーーー?」

 

ソレを見てか、澪が初めて、その表情に動揺らしきものを滲ませた。

しかしーーーー遅い。

 

「おおおおおおおおおおおおおおーーーーッ!」

 

士道は叫ぶと、銃口を自らのコメカミに押し当てーーーーその引き金を、引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ーーーー起きろ》

 

ーーーーバシンッ!

 

「ーーーーー!」

 

靄がかかった意識がド突きで覚醒した時。

士道の目には、満天の星空が広がっていた。

 

「・・・・ここは・・・・」

 

《〈フラクシナス〉の休憩エリアだ。スマホを見ろ》

 

「ーーーー2月、19日ーーーー」

 

それは、最終決戦前日の日付だった。

 

「ああーーーー」

 

士道は祈りを捧げるような格好で背を丸めると、堪えきれない激情を喉から零した。【6の弾‹ヴァヴ›】成功への安堵と、皆への感謝が、心を満たす。

 

《ーーーー気持ちは解るが、今はソレをすべきではない》

 

「・・・・・・・・」

 

言われて士道は表情を険しくすると、ゴクリと息を呑んだ。

確かに時間遡行は成功したが、未来に起こる問題が解決した訳ではない。

始原の精霊・崇宮澪。

〈神‹デウス›〉の名で呼ばれる究極絶対の精霊。

如何に時間を遡ったとはいえ、彼女に打ち勝つ方法が無ければ、結局は同じ結末だ。

それでは意味がない。士道とドラゴンは思考を巡らせようと、脳内会議を繰り広げる。

 

《ーーーー前と違い、我々には未来の経験がある。コレを上手く活用しなければ、今からおよそ30時間後に起こる悲劇を繰り返す事になる》

 

「(ーーーー澪を出現させない?)」

 

《嫌、既に『彼女』は〈ナイトメア〉の中にいる上、村雨令音として存在しているので不可能だ》

 

「(ーーーー正解が見つかるまで、【6の弾‹ヴァヴ›】を使って歴史を繰り返す)」

 

《それは下策だ。貴様と〈ナイトメア〉が双方死ねば【6の弾‹ヴァヴ›】自体が使えなくなる上、『彼女』に勘付かれる恐れがある》

 

「(ーーーー狂三の力を封印して、【12の弾‹ユッド・ベート›】で過去へーーーー)」

 

《そのやり方は〈ナイトメア〉が失敗しただろう。最悪〈ナイトメア〉の中にいる彼女にコチラの目論見が知られる》

 

「く・・・・」

 

士道は頭を抱えた。あらゆる方法に選択肢の終着点に、澪がいる。

全ての生物を殺す死の天使。全ての法を書き換えた法の天使。全ての存在を消滅させる無の天使。その絶大過ぎる力を操る始原の精霊。

結局澪を倒す事ができなければ、結局何も変わらない。

 

「一体どうしたらーーーー」

 

『(ーーーー或いは、最終手段。『彼女』の望みを叶える事、だが・・・・まだ、時間が掛かる・・・・』

 

士道とドラゴンが考えを巡らせると。

 

「ーーーーシドー?」

 

その背に、そんな声がかけられた。

 

『「・・・・!」』

 

その声を聞いた瞬間、士道とドラゴンは頭の中に巡らせいた思考が吹っ飛ぶような錯覚を覚えた。バッと振り返り、その声の主を見る。

 

「どうしたのだ、こんな所で」

 

「十香ーーーー」

 

目を見開き、呆然と声を零す。

そう。そこには、可愛らしい寝間着姿の十香が立っていた。

考えて見れば、道理である。思えばこの時、士道は十香と会い、話をしていた。

しかし、そんなのを考える余裕はない。

十香が。澪に挑みーーーーそして、その存在を消し去られてしまった少女が、そこに、立っている。

士道は半ば無意識の内に立ち上がると、両手を広げ、十香をギュッと抱き締めた。

 

「十香・・・・、十香・・・・っ」

 

「な・・・・!? し、シドー!?」

 

十香は士道の突然の抱擁に驚いていたが、涙を滲ませながら十香の名を呼ぶ士道に何かを察してか、やがて優しく頭を撫でてきた。

 

「うむ。私だぞ。・・・・一体何があったのだ、シドー」

 

「十香、俺はーーーー」

 

士道は激情のまま、十香に心中を吐露しようとするが、艦内の主要施設には、漏れ無くスピーカー及び集音マイクで会話は記録される。ソレを令音に知られれば全てが終わる。

だから士道は、1拍置いてから、吐息した。

 

「・・・・夢を、見たんだ」

 

「夢?」

 

「・・・・ああ、悪夢だ。DEMとの戦闘で、皆がやられちまって、俺は・・・・何もできなかった。十香があんなに頑張ってくれたのに・・・・」

 

「シドー・・・・」

 

十香がフッと頬を緩めると、ポンポンと優しく士道の背を叩いてきた。

 

「大丈夫だ。きっと、そんな事にはならない」

 

十香がそう言うと、何処か嬉しそうに続けた。

 

「ふむ・・・・しかし、そうか、シドーの夢の中では、私は頑張っていたのだな」

 

その得意げな様子に、士道は少し緊張感が和らぐのを感じた。

 

「・・・・ああ。そりゃあもう、大活躍だったよ」

 

「フフ、そうか。ならば、シドーが何もできなかったと言うのは間違いだ。きっとその私は、シドーの為に頑張ったに違いないからな」

 

「十香・・・・」

 

「シドーは、私を救ってくれた。精霊である私を敵と言わず、手を差し伸べてくれた。だから誓おう、私は、何があってもシドーを守ると」

 

言って、十香がギュウと抱き締めてくれる。

 

「それにーーーー大丈夫だ。シドーは私や、他の精霊達に対してきた男だぞ? 今更DEMやファントムなどにやられるものか」

 

「はは・・・・それは・・・・そうかもな」

 

士道は十香の言葉に頬を緩めた。

確かに十香の言う通り、今〈ラタトスク〉にいる精霊達は皆、暴威を振るう人型の災害とも言うべき存在であった。

無論、人智を超えたその力や、巻き起こされる空間震は、必ずしも十香達が望んだものではなかった。だからこそ十香は対話を通じ、精霊達を封印する事ができた訳だがーーーー。

 

「ーーーー」

 

と。

士道はソコで、目を見開いた。

 

《ーーーーおい、貴様まさか・・・・》

 

「・・・・そうか。そうーーーーだよな・・・・」

 

「む? どうかしたか、シドー」

 

ドラゴンは半眼となり、士道の言葉を不思議がってか、十香が首を傾げてくる。士道はもう1度十香をギュウと抱き締めると、決意と共にその腕を解いた。

 

「ーーーーありがとう、十香。お前のお陰で、やるべき事が見えた気がする」

 

「ぬ・・・・? うむ、そうか! ならば良かった」

 

良く分からないが、士道が元気になったならば良し、と言うように微笑んでくる。

士道はそれに首肯で返すと、休憩エリアを出ていった。

そして、長く伸びる〈フラクシナス〉の廊下を、ノシノシと歩いていく。

 

《おい。貴様本気でそんな無謀な事に挑むつもりか?》

 

「・・・・ああ」

 

ドラゴンの言葉に、士道は小さく頷いた。

ーーーー何故、こんな簡単な事に思い至らなかったのだろう。

澪の登場が唐突過ぎたから?

澪の力があまりに絶大だったから?

澪が精霊達を皆殺しにしたから?

恐らく、その全てが理由だろう。士道の思考は時間を遡ってなお、恐怖と戦慄に支配されていたのだ。

澪を倒さねば、士道は先に進めない。数瞬前まで、士道は本気でそう思っていた。澪を『敵』と、認識してしまっていた。

けれどーーーー違ったのだ。

十香に言われるまで、士道は忘れてしまっていたのだ。

そう。如何に絶大であろうと、相手が精霊であるなら、士道がすべき事は、最初から1つしか無かったと言うのに・・・・!

 

《(いやその1つの方法ですら困難だろう。何で『彼女』がアソコまでの事をしたと思っている・・・・)》

 

「・・・・!」

 

ドラゴンが頭痛を堪えていると、士道が足を止めた。

廊下の先で、見つけたのだ。無造作に纏められた薄紫色の髪に、双眸を飾る分厚い隈。

ーーーー〈ラタトスク〉の解析官・村雨令音。精霊〈ファントム〉、否、〈神‹デウス›〉・崇宮澪の仮の姿である。

士道は意を決するように拳を握り込むと、再度足を踏み出した。

 

「ーーーー令音さん」

 

「・・・・ん? ああ、どうかしたかね。『シン』」

 

令音が普段通りの調子で言ってくる。けれどその『シン』と言う呼称を、今までと同じように受け取る事は、できそうに無かった。令音はーーーー士道を『士道』として、認識していないのだから。

だが、今はそんな感傷に浸っている場合では無い。士道は細く息を吐くと、令音を見つめながらーーーー言った。

 

 

 

「令音さん。ーーーー明日、俺と、デートしませんか?」

 

 

 

士道は、最低で最悪の試みを行おうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ードラゴンsideー

 

『(ーーーーはぁ・・・・全く、まぁた自惚れモードを発動させおってからに・・・・)』

 

ドラゴンは士道の行動に心底呆れ果てた。

 

『(まぁ、『不可能な事』に挑むよりも、他の事にも目を向けんとな)』

 

ドラゴンはそんな事よりも、『儀式‹サバト›』を止める算段をしている。これから士道がやる行為を、『無駄な行為』であると確信を以て断言しているのだ。

 

ーーーードクン・・・・。

 

『ーーーーっ!!』

 

ドラゴンは、不意に自分の中で響く鼓動に手を当てた。

 

『ーーーーもう少し、あと少しか・・・・分かっている。『彼女』がまた『罪』を犯せば、『お前』が苦しむだろう。それだけは、させてはならない・・・・』

 

ドラゴンは、誰にも、ソレこそ士道にも秘密にしている、『インフィニティスタイル』に到達してからずっと、否、『フレイムドラゴンスタイル』に到達してから感じていた『ソレ』に向かって囁いた。

そしてーーーー。

 

『ーーーー小僧。お前では彼女を、澪を攻略する事はできない・・・・!』

 

ドラゴンは、小さくだが、士道に断言するように呟いた。

 

 

 

 

 

ー『澪ゲームオーバー』・FINー




次回、デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚

精霊・〈ファントム〉、〈ゼウス〉こと村雨令音、その真の姿である祟宮澪によって、すべて壊された。

「俺は、あの未来を変える!」

士道は最悪の未来を回避する為、澪に対し最後にして、最悪で最悪の手段を選択する。

「俺が、令音さんから、澪からーーーー“崇宮真士を消す”!」

デートして、デレさせる事。それは、彼女から『愛する人』を消そうとする行為であった。
しかしーーーー。

『ーーーー我はこの攻略には参加せん』

相棒が拒否するが、士道は精霊達と共に、最強無敵の精霊に挑む。それこそが、世界を殺す少女を止める方法だと信じて。

第二十章 『澪ーーーートゥルーエンド』

『そうか・・・・全ては、我が生まれたのは・・・・この時の為にーーーー』
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