デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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最悪の未来から戻ってきた士道とドラゴン。そして士道は、無謀なデートに挑む第20章スタート。


澪ーーーートゥルーエンド
戻ってきた世界


ー士道sideー

 

 

 

「令音さん。ーーーー明日、俺と、デートしませんか?」

 

 

 

あの『絶望の未来』から生還した士道とドラゴン。

〈フラクシナス〉にて士道は意を決して、目の前の女性にその言葉を発した。

ーーーー村雨令音。

精霊を保護する組織〈ラタトスク〉の解析官にして、士道のクラスの副担任。

そしてーーーー全ての精霊の元となった始原の精霊・崇宮澪。

“今から30時間後、精霊達を皆殺しにした精霊”である。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

士道の言葉を聞いて、令音は微かに目を細めながら、コチラを見つめてきた。

 

「・・・・驚いたな。急に何を言い出すんだい、シン」

 

そして暫しの後、言う程には驚いた様子も無く、静かな声でそう返してくる。

応ずるでも、断るでもない。恐らく士道の意図を測りかねているのだろう。とはいえ、無理もあるまい。親しい間柄とは言えーーーー否、だからこそ、かーーーー突然そんな事を言われたなら、驚くのが普通だろう。仮に士道が令音の立場だったとしても、似たような言葉を返すに違いなかった。

けれど令音の場合、胸中に生じる感情はそれだけでは無いだろう。士道は、コチラの思考を探るかのような令音の目を見つめ返しながら、ゴクリと息を呑んだ。

 

「駄目ですか? 明日ーーーーいや、もう今日ですけど、DEMの襲撃までには丸1日ある筈です」

 

「・・・・それはそうだが、そんな時に訓練をする必要はないだろう? しっかり身体を休めるか、何か好きな事をして気晴らしでもしておいた方がーーーー」

 

「訓練なんかじゃありません」

 

「・・・・・・・・」

 

令音の言葉を遮るように士道が言うと、令音は無言になった後、一瞬目を逸らした。士道の目を見ていられなくなったと言うよりは、辺りに誰かがいないかを確認するように。

 

「・・・・こんな所で冗談を言うものではないよ、シン。誰かに見られたりしたら、君も困るだろう?」

 

「冗談で言ってるつもりもありません。ーーーー令音さん、今言いましたよね。【何か好きな事をして】って。俺は、決戦を控えた今このときだからこそ、あなたをデートに誘いたいんです」

 

「・・・・・・・・」

 

士道の言葉に、令音が再び無言になる。

 

「・・・・この事は皆には?」

 

「勿論、言ってません。皆には内緒の、秘密のデートです」

 

「・・・・一応、聞いてもいいかな。なぜ私なんだい?」

 

「嫌ですか?」

 

「・・・・そうは言ってないよ。けれど、もしデートをしたいのであれば、もっと他の相手がいる筈だ。皆、君からの申し出なら喜んで受けてくれるだろう」

 

「それじゃあ、駄目なんです。俺は、令音さんとデートがしたいんです」

 

「・・・・・・・・」

 

3度の、沈黙。

そうして数瞬の間、何やら考え込むような仕草をした後、令音は小さく息を吐いてきた。

 

「・・・・ずるいな、君は」

 

「え・・・・?」

 

「・・・・そんな言い方をされては、断りようがないじゃあないか」

 

「! じゃあーーーー」

 

士道が目を見開くと、令音は小さく頷いてみせた。

 

「・・・・時間を空けておこう。何処へ行けばいいかな?」

 

「ありがとうございます・・・・! じゃあ明日の朝10時、天宮駅前でお願いします」

 

「・・・・分かった。・・・・では、失礼するよ。それまでに残務を片付けておかねば、琴里に怒られてしまうからね」

 

ソコで、士道はハッと肩を揺らした。令音にそう言われて漸く、前日どころか当日の深夜にデートの誘いをするという自分の行動の非常識さに気付いたのである。

否、正確に言うならば、その不躾さに思考が及ばなかった訳では無い。ただ、数瞬前までの士道に、いや、今でもだが、余裕が無かった。

 

「すみません。急に無理を言って」

 

「・・・・いいさ。立場上あまり大きな声で言う訳にはいかないが、私も君に誘って貰えて、嬉しくない訳では無いよ。ーーーー話が話なだけに、琴里に仕事の融通を利かせて貰い辛いのは確かだけどね」

 

「は、はは・・・・」

 

士道が額に汗を滲ませながら苦笑すると、令音は小さく手を振ってから〈フラクシナス〉の廊下を歩いていった。

やがて令音が角を曲がり、その背が見えなくなる。

 

「ふはっーーーー」

 

それを確認した瞬間、士道は肺の中から勢いと覚悟によって押し込められていた極度の緊張の空気を一気に吐き出した。ジットリと背中が濡れている。微かに指先が震えている。

士道はよろめくように廊下の壁に背に付けると、そのままジリジリと床にしゃがみ込んでいった。

 

「・・・・取り敢えず、第1関門突破・・・・かな?」

 

《・・・・・・・・そうだな。“無駄な挑戦へのスタートだな”》

 

誰にも聞こえぬ小さな声音でそう呟くと、ドラゴンが素っ気なくそう返した。

一先ず、令音をデートに誘う事には成功した。無論ここからが本番である為、気を抜いてはいられないが、安堵の息を吐く位は許されても良いと思う。

令音が士道のーーーー否、真士の誘いを断る筈がない事は、何となく分かっていた。

・・・・しかし、結局それは、令音が『士道』を『崇宮真士』としか見ておらず、『五河士道』を見ていないと言う決定的な『証左』でもあり、それが少し哀しく、そして真士に対して何故かーーーー“奇妙な感情を抱きそうになる”。

だが、だからこそ、こんな乱暴に過ぎるタイミングでの強行に及べたのだ。

 

「・・・・・・・・」

 

ーーーーパン!

 

だが。士道は気合を入れ直すように両手で頬を張った。

明日のデート本番は勿論だが、それまでにまだやらねばならない事が残っている。

相手は始原の精霊〈デウス〉。これをやっておけば安心、なんて存在しない。ならば限られた時間の中で、打てるだけの手を打って置かねばならない。

 

《ーーーーまず最初の問題は、『彼女』にコチラの目的を勘付かれないようにする事だな》

 

「ーーーーああ、先ずは“アイツ”だ」

 

士道は足にグッと力を入れ、その場に立ち上がり、そのまま廊下を歩いていき、艦内の男子トイレの個室へと入っていった。

流石に〈フラクシナス〉艦内に、カメラとマイクは無いから、余程の大声で話さなければ、会話ログは残らない。

士道は個室に鍵を掛け、ポケットからスマホを取り出し、『М』と書かれたアプリのアイコンをタップすると、スマホの画面に、『МARIA』の5文字が表示され、スピーカーから聞き覚えのある声が聴こえてきた。

 

《ーーーーアプリケーションの立ち上げを確認。何かご用ですか》

 

鈴を鳴らすような少女の声音。〈フラクシナス〉の管理AI・マリアである。

士道のスマホには、マリナと直接通信を行う事ができるアプリが(士道の知らぬ間に)インストールされていたのだ。これを使用すれば、艦内の危機を通さずにマリアと意思疎通が可能なのだ。

 

「ああ、話があるんだ、マリア」

 

《どうかしましたか。決戦前に女教師をデートに誘う、五河・節操無し・士道》

 

「・・・・・・・・」

 

《まだまだ罵倒が甘い》

 

何処となく不機嫌そうな声音で言われ、士道は思わず無言になり、ドラゴンは罵倒の甘さを指摘した。

・・・・どうやら先程のやり取りも記録されていたようである。確かにあのシーンだけを切り取られたなら、そう取られてしまっても不思議はない。

 

「・・・・いや、あのだな、マリア」

 

《いえいえ、別に避難するつもりはありませんよ。恐らく今度の戦闘は過去最大級のものになります。無論士道を死なせるつもりはありませんが、後顧の憂いを断ち切っておくのは決して悪い事ではありません。それに、生命の危機に瀕した際に種の保存を考えるのは生物として至極当然の本能です。令音ならば『初めての相手』としても申し分ないでしょう。きっと優しく手ほどきして士道の『筆下ろし』をしてくれる筈です。士道が年上好きとは知りませんでしたが、年頃の青少年は年上の女性に憧れる時期があるとデータにもあります。参考までに、具体的にどういった点が決め手になったのかお教え願えますか? 包容力ですか? 胸ですか? 安心感ですか? 胸ですか? あの精霊の中でも胸とスタイルがトップレベルの美九と六喰をも上回るナイスバディですか? やはり胸ですか? 二亜ごときでは足元にも及ばない大人の魅力ですか? それともやはり胸ですか? ちっ》

 

「ま、マリア?」

 

《いつになく饒舌に喋るな。と言うよりも、胸に何かコンプレックス的な物でもあるのか?》

 

士道は額に汗を垂らし、ドラゴンは半眼で呆れた。

 

《いくら大きいとは言え精々95センチ程度ですよ。私艦体‹ボディ›の胸部に当たる部分は250メートルを超えます》

 

「いや胸部に当たる部分はってどこだよ!?・・・・じゃなくて、取り敢えず先ずは話を聞いてくれ・・・・!」

 

《250メートルなど、そんな化け物の胸部などどんなマニアでもドン引くぞ・・・・》

 

士道が懇願するように言うと、漸くマリアが気勢を収め、言葉を促すように無言になった。

 

「・・・・いいか、マリア。信じられないかも知れないが、落ち着いて聞いてくれ。俺とドラゴンは今から30時間後ーーーー2月20日からやって来た。いや、正確には2月20日の俺達の意識だけが、今の俺達に戻ってきたんだ」

 

《ほう》

 

その言葉に、マリアは笑うでも呆れるでもなく、静かに返してきた。

 

《それは、狂三の〈刻々帝‹ザフキエル›〉が使用されたーーーーと言う事でしょうか?》

 

「・・・・ああ、そうだ。理解が早くて助かるよ」

 

《過去の事例から類推するに、そうとしか考えられません。ーーーー無論、令音との逢瀬を知られた士道が、苦し紛れに壮大な言い訳をしているという可能性を除けば、ですが》

 

「お、お前なぁ・・・・」

 

《冗談です。ユーモアは心の緩衝材ですよ。窮地に陥っている時こそ、軽快な冗句を飛ばせる位の余裕を持っていただかないと、いつまで経ってもドラゴンに手綱を握られてばかりの駄目な犬、略して駄犬のままですよ》

 

「ぐっ・・・・善処するよ」

 

士道が顔を少し渋面にしながら首肯した。・・・・何とも頼もしい人工知能である。最初に事情を話す相手にマリアを選んだのは、情報の管理と統制を目的としての事であったけれど、図らずも叱咤激励までされてしまった気分だった。

 

《ーーーーともあれ、先ずは続きを聞きましょうか。安心して下さい。この会話は記録に残りません。態々こんな場所を選んだと言う事は、それが目的なのでしょう?》

 

「ああ・・・・」

 

士道は深く頷くと、話を始めた。

ーーーーDEMとの戦いの最中、狂三の胸を突き破って始原の精霊・崇宮澪が現れた事。

そして令音こそが澪の仮の姿であった事。

精霊達が次々と倒され、その霊結晶‹セフィア›を奪われた事。

澪の力を奪った十香までもが消し去られた事。

そして、士道の身体に封印されていた【6の弾‹ヴァヴ›】を使って、決戦前々夜まで舞い戻ってきた事を。

 

《・・・・成る程》

 

説明を終えると、マリアは細く息を吐くような音を伴ってそう言った。AIなのに芸の細かい事だ。

 

《状況は理解しました。ーーーー士道。ドラゴン》

 

「ん、何だ?」

 

《・・・・・・・・》

 

《良く、生き残ってくれました》

 

「・・・・っ」

 

その短い1言に、思わず涙が滲みそうになるが、こんな所で泣いてはいられない。士道は服の袖で目元を拭うと、努めて明るく振る舞ってみせた。

 

「・・・・ああ、皆のお陰さ」

 

《そうですね。皆、良く頑張りました》

 

マリアはそう言うと、思案するように小さく唸った後、言葉を続けてきた。

 

《ーーーーさて、となるとこうしてはいられません。明日の準備をしなければ。ーーーー先ずは琴里の協力を仰ぎましょう。私から連絡をしておきますので、士道は先に琴里の執務室へ向かってください。確か、『記憶を相手に見せる魔法』がありましたね》

 

士道は『メモリーウィザードリング』を取り出した。確かに、このリングを使えば、言葉で伝えるより確実だし、〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉に知られる事はない。

 

「ああ、そうだな。先ずは・・・・琴里に話を通さないとな」

 

士道は重苦しい調子で言葉を零した。

士道の妹で〈ラタトスク〉の司令官である琴里に、〈ラタトスク〉を巻き込んで何らかの作戦行動を起こそうとしたなら、彼女の協力は欠かせない。

だが、琴里は令音と特に親しい。それこそ親友と言って良い間柄だ。

 

《遅かれ早かれだ。明日に真実を告げられ絶望するか、今伝えて絶望するかの違いだ》

 

ドラゴンから聞いたが、『前の世界』でかなり動揺をしたと聞いた。正直胸が痛いが、確かに明日令音自身に告げられるのだ。

 

《心苦しいですが、それは必須です。ーーーー万一令音が記録を参照しても大丈夫なように、艦内の会話ログ及び映像には細工を施しておきます。とはいえ無論、令音も〈フラクシナス〉の中にいる以上、それだけで安心できません。直接会話を聞かれる事だけは無いように注意してください》

 

「分かった。執務室で良いんだな?」

 

《はい。本来なら家に戻っていただいた方がリスクは少なくて済むのですが、今の状況で琴里が艦から離れるのは不自然に過ぎます。できるだけ、令音に疑いの種を持たせたくありません》

 

「成る程な。了解だ、先に待機してる」

 

《はい。ーーーーしかし、記録が残らないからと言って琴里の部屋で椅子のクッションに頬ずりしたり、替えの靴下をクンカクンカするのは良くありませんよ》

 

「おいおい・・・・」

 

と、そんな神無月みたいな救いようの無い変質者と一緒にするなと言いかけて、先程のマリアの言葉を思い出した。

 

「ソイツは残念だ。お気に入りのカップにキスするくらいにしておくよ」

 

《ふふーーーーまあ、上出来としておきましょう》

 

士道はわざとらしく動作で肩をすくめながら言うと、マリアは楽しげに笑い声を漏らした。

 

 

 

 

 

ー十香sideー

 

「むう・・・・目が覚めてしまったな。ーーーーんん・・・・」

 

時刻はスッカリ0時を回り、十香は〈フラクシナス〉の廊下を歩きながら、軽く背筋を伸ばした。その動作に合わせて、長い夜色の髪がサラサラと背を撫でる。

早寝早起きの十香だが、中々の夜更かしである。

とはいえ、別に十香も、好きで艦内を徘徊している訳では無い。元々他の精霊達と共に仮眠室で眠っていたが、隣に寝ていた美九のダイナミック過ぎる寝相に起こされた為、仕方なく温かい飲み物でも飲もうと艦内の休憩エリアに言っていたのである。

だが、予想外の先客がいた。ーーーー士道だ。

別に士道がいてもおかしくないが、むしろこの偶然の邂逅に、嬉しささえ覚える十香だった。

しかし、その士道が十香の姿を認めるなり、感極まった様子で抱きついてきてのだ。

 

「夢・・・・か」

 

包容の感触を思い出すように、自分の手で自分の肩をギュウと抱きながら、ポツリと言葉を零した。

そう。士道は夢を見たと言っていた。ーーーー明日の戦闘で、皆がやられてしまうという夢を。

それはきっと、物凄く恐ろしい夢だったのだろう。何しろ、士道をアソコまで怖がらせてしまうのだ。仮に十香が同じ夢を見たなら、きっと涙で枕を濡らしながら飛び起きて、ドラゴンに抱きついているに違い無かった。

だがーーーーいや、だからこそ。

 

「・・・・・・・・」

 

十香は、肩を抱く手にグッと力を入れた。

 

「その夢のとおりになど、させはしない」

 

そして、その決意を身体中に滾らせるように、力強く言葉を発する。

士道の話によれば、夢の中の十香は士道を守る為に大活躍したとの事だ。ーーーー夢の中の存在なれど、何と誇らしい事ではないか。

ならばこの身が、夢の中の自分に負ける訳にはいくまい。

 

「よしーーーーふん!」

 

十香は気合を入れるように頬を張ると、来たる決戦の為に今十香がすべきは、十分な休憩を取る事だろう。先ずはジックリ睡眠を取ろうと、少し歩調を早くして仮眠室へと戻っていった。

そのすぐ後、美九のダイナミックな寝相の犠牲者になった七罪を救う為、ワイワイ騒ぐようになり、寝る時間を失う事になるのだが。

 

《ーーーー皆、話がある》

 

七罪を美九から救出してから、ドラゴンからの念話が、精霊達の頭に響いた。

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・、そう」

 

ーーーー長い、長い沈黙の後。

『メモリー』で士道が見た『未来の世界』での出来事を見た後、その短い言葉に、胸の裡に蟠る汚泥を乗せるかのように吐き出した。

マリアとの通信から20分後の事である。マリアの指示に従い、執務室で琴里と落ち合った士道は、鉛のように重い気分をどうにか振り払い、琴里に『メモリー』を使った。

そしてーーーー零されたのが、先程の1言である。

極短い、しかし琴里の心中を察するには十分過ぎる2文字。

本当ならば、叫びたくて堪らないだろう。泣きたくて堪らないだろう。士道の胸倉を掴み、嘘だと喚きたくて堪らないのだろう。

だがその激情を無闇矢鱈に巻き散らかさないだけの強さをーーーー幸か不幸かーーーー琴里は備えてしまった。黒いリボンで2つに結ばれた髪と、肩掛けにしたジャケットの裾を揺らしながら、沈んでいた顔をフッと上げてみせた。

 

「ありがとう。辛かったでしょうに、良く教えてくれたわね」

 

琴里が優しい調子で言ってくる。しかしその語調とは裏腹に、その表情は痛ましかったが、当然だ。最も信を置いていた令音が、5年前琴里を精霊にした張本人である始原の精霊だったのだから。

しかも、この世界ではまだ起こっていないとはいえ、琴里を含む全ての精霊を殺した、と言う特大のおまけ付きだ。如何に琴里とて、堪えない筈がない。

 

「・・・・すまん」

 

「何で士道が謝るのよ。むしろ、士道にドラゴンがいなければ、私達の運命は決していた。本当にーーーーありがとう」

 

そう言って、琴里は微笑んでみせる。

 

「こーーーー」

 

《・・・・・・・・》

 

《ーーーーさて、では対策を練りましょうか》

 

琴里の悲痛過ぎる様に、思わず声を上げそうになる士道に、ドラゴンが尻尾で口を塞いだ。

「野暮な事を口走るな」、と言わんばかりに。

琴里が無理をしているのは明らか。それでも琴里は強い司令官であろうとしている。ドラゴンはそんな琴里の心情も慮ったのだろう。

そして、士道と琴里の間に置かれた小型端末からマリアの声が響いた。

 

「・・・・っ」

 

士道は息を詰まらせると、一瞬の逡巡の後、コクリと頷いた。

 

「ああ・・・・そうだな」

 

感情を吐露した方が良い時だってある。年相応の少女らしく弱音を吐いた方が良い時だってある。

しかし、それはきっと今ではない。

まだーーーー何も変わっていないのだ。

 

「・・・・・・・・」

 

全てが終わった後、力一杯琴里を抱きしめ、思いっきり泣かせてやろうと心に決め、士道は話を続けた。

 

「兎に角、令音さんをデートに誘う事には成功した。問題はここからだ」

 

「ええ。朝までにデートの内容をある程度考えて置かないとね。勿論、『リフレッシュ』でコンディションを整えるのも忘れないで。それに、並行して対DEMとファントムの準備を進めておかないと。仮に令音ーーーー澪の封印に成功したとしても、その後DEMにやられ、『儀式‹サバト›』を成功されて日本中をファントムだらけにされたんじゃあ目も当てられないわ」

 

「全くだな」

 

士道は神妙な面持ちで頷いた。

過去から戻ってきたと言う事は、ウェスコットにエレン、アルテミシアと言った強敵達を何とか打ち倒した事が、“無かった事になったのだ”。

しかしそれは、『前の世界』ではただ、傍観する事しかできなかった『儀式‹サバト›』を止める事ができるチャンスでもあるのだ。2年前に見たあの地獄を再び起こさせる訳にはいかない。

戦いの前に澪を攻略すれば、これらの流れを大きく変えられる可能性だってあるのだ。

琴里が話を進めるように、フム、と顎に手を当てる。

 

「クルーへの情報共有が悩ましい所ね。サポートする以上知らせる訳にはいかないけれど、令音が艦にいる内に教えてしまっては、勘付かれる可能性があるし・・・・」

 

《確かにその通りですが、ソコまで心配する必要はないかと。令音はもう個室に移動していますし、明日早朝は、急な仕事が入るのを嫌ってあちらからクルーとの接触を避けてくれると考えられます》

 

「成る程な・・・・って、そんなに早朝から急な仕事って入るものなのか?」

 

《令音は優秀ですから。仕事が終わらなかったクルーが泣きつくのは日常茶飯事です。その点においては、日頃から仕事そっちのけで内職に精を出している中津川や幹本には感謝せねばなりませんね。本当に、何が役に立つか分からないものです》

 

「・・・・そうね。説教と減給は見逃してあげる事にするわ」

 

「ははは・・・・」

 

まさかあの中津川のフィギュア製作と幹本の私用電話がこんな所で役立つとは。

とーーーーそこで士道は、ピクリと眉を端を揺らした。

クルー達と同様に、令音の事を教えておかねばならない者達がいた。

ーーーー十香達、精霊の皆にだ。

琴里程ではないが、各々に世話になった、精霊達にとって頼れるお姉さんであった令音が皆を殺したと告げねばならないのは、仕方ないとはいえ、心が重くなる。

その考えも察して、琴里も難しげに腕組みをする。

 

「・・・・気持ちは分かるけど、乗り越えて貰わないと」

 

「・・・・そうだな」

 

士道は、未来の世界で令音がその正体を現した時の事を思い出しながら首肯した。

彼女達は皆、戸惑いながらも冷静に事態を受け止めていた。勿論戦っている最中に狼狽えてなどいられないという理由もあるだろうが、彼女達はーーーー士道ごときが思うよりもずっと強い。ある意味では、士道以上に。

〈ラタトスク〉は精霊を庇護する組織だが、彼女らの心の強さを侮り、情報を隠匿する事は、却って侮辱に当たる。

彼女らなら、きっとこの『真実』を乗り越えてくれる。士道はもう1度首を前に倒し、それに応える様に、琴里もまた頷いた。

 

「とはいえ、今はもう皆眠っているのよね? 本当ならデートプランの作成に意見を貰いたい所だけど、決戦の要である精霊達のコンディションを崩す訳にもーーーー」

 

《必要無い。もう全員に伝わっている》

 

と、琴里の言葉を遮るように、ドラゴンが口を開く。

 

「「えっ?ーーーーあっ!」」

 

と、首を傾げ、すぐに察した。

そう。恐らく誰よりも、それこそ士道や琴里以上に、精霊達の強さと優しさを理解しているーーーー精霊達の頼れるお兄さん兼お父さん兼おじさま兼飼い主が、ここにいたのだ。

 




士道と琴里って、十香達の事を『守るべき、保護すべき存在』としか見ていない保護者目線で見下しているように見えるのは、私だけ?
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