デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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未来を変えるデート

ー士道sideー

 

《今、念話をお前達にも繋げる。折紙》

 

《ーーーー話は聞かせてもらった》

 

「折紙・・・・?」 

 

ソコから響いたのは、五河家だけでなく、士道の私服のボタンに、“盗聴器を仕掛けまくる少女、鳶一折紙”であった。まぁ、その盗聴器は全て、ドラゴンが気付いて撤去していたが。

折紙は気にする様子も無く。淡々として調子で言ってくる。

 

《シンプルイズベスト。一見単純とも言える方法が最後の最後で効いてくる。もしも村雨先生が盗聴器を仕掛けていたこの時点でゲームオーバーになっていた。現にマリアはドラゴンと違って盗聴器には気付かないから。気を付けて》

 

《ーーーー悔しいですがその通りです》

 

端末スピーカーから、何処か悔しそうなマリアの声が響くが、士道はそれよりも。

 

「いや令音さんは俺の家や服に盗聴器とか仕掛けないからな!」

 

《先入観や思い込みは非常に危険。それを言うなら、そもそも彼女が始原の精霊だとは誰も思っていなかった。常に最悪の事態は想定しておくべき》

 

「ぐ・・・・」

 

《貴様ごときが折紙に口で勝てる訳ないだろう》

 

「誤魔化されちゃ駄目よ士道。確かに先入観や思い込みは危険かも知れないけど、それと折紙が盗聴器を仕掛けて良い理由にはならないから。ドラゴン、これが終わったらまた家や士道の部屋や私服や私物に盗聴器が仕掛けられていないか徹底的に調べて廃棄して」

 

《任せろ》

 

《ーーーーちっ》

 

《「舌打ちをしない(するな)! 舌打ちを!」》

 

ドラゴンと琴里がツッコむが、折紙は改めて本題に入る。

 

《デートプランの作成には私達も協力する。ブリーフィングルームの使用許可を》

 

「・・・・他の皆は?」

 

折紙に念話が通じているなら、他の精霊達もと考えた琴里の問いに簡潔に答えるように、幾つもの声が響いてきた。

 

《ーーーー私達もいるぞ!》

 

《呵々、闇の帳は我が揺り籠である!》

 

《請願。夕弦達にも協力させて下さい》

 

《なーにー、知らない間に熱い展開になっちゃってるじゃないのよさー。二亜ちゃん嫌いじゃないよーそういうの》

 

《ですですー。私達も殺されるんですから、蚊帳の外なんてありえないですー》

 

等と、ワイワイと精霊達が声を上げてくる。しかもやはり皆、令音の正体ーーーーと言うか、ドラゴンが琴里に見せていた『メモリー』の魔法を、十香達にも見せていたのだろう。

まあ美九の言う通り、士道が令音の、澪の攻略に失敗すれば全員が殺されるのだ。また見せる為に時間を使うよりも手っ取り早いと思ったのだろう。

琴里はふぅ、と息を吐いてから、椅子に掛け直した。

 

「・・・・それで、もう皆事情は理解しているのね?」

 

《そう》

 

《はい・・・・!》

 

《・・・・う、うん》

 

《むん》

 

と、思い思いの肯定が返ってくる。琴里はやれやれだぜと、しかし何処か嬉しそうに息を吐き、士道の方を見てきた。

士道はそれを首肯を以て答えると、念話で全員に向かって声を発した。

 

「分かった。皆の力を貸してくれ。俺達の戦争‹デート›をーーーー始めよう」

 

《『ーーーーおおっ!』》

 

精霊達が一斉に答えてくる。士道は琴里と目を合わせると、どちらからともなく苦笑しあった。

 

「・・・・さて、じゃあ早速動きましょう。ブリーフィングルームに集合よ。令音は仕事中だから廊下で鉢合わせる可能性は低いと思うけど、万一の時言い訳が効くように、念の為1人ずつ移動してちょうだい」

 

《了解。では、後ほど。ドラゴン、ありがとう》

 

《うむ》

 

琴里の指示に短く答えて、折紙はドラゴンとの念話を切った。

 

「さ・・・・じゃあ私達も順に向かいましょう。私のいない執務室から士道が1人出るのも不自然だし、先に行ってくれる?」

 

「ああ、了解だ。でもーーーー」

 

と、士道は言葉を止めると、琴里が不思議こうな顔を向けてくる。

 

「何、どうしたの?」

 

「ーーーー皆が集まるまで、少しかかるよな。先に済ませておきたい事があるんだが・・・・いいか?」

 

士道は、顔を緊張を滲ませながらそう言った。それを感じ取ったのか、琴里は微かに眉根を寄せる。

 

「先に済ませておきたい事・・・・?」

 

「ああ・・・・成功するかは分からないし、コレが本当に正しいのかどうかも分からない。でもーーーーコレだけは、やっておかなきゃならないと思うんだ」

 

琴里の問いに、士道はグッと拳を握りながらそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

ハリケーンスタイルで天宮市の外れに高台の公園に降り立った士道は変身を解除すると、雲1つない冬の夜空を彩る満天の星空を見上げた。

 

「ーーーーーーーー」

 

ーーーー別に合わせた訳でも図った訳でもないのだけれど、何とも“彼女”に相応しい時刻と場所ではないか。士道は自嘲気味に肩をすくめた。

そう。貴重な時間を割いてまでここに来た理由は“ソレ”だった。士道には精霊達やクルー達の他にもう1人、『真実』を伝えておかねばならない相手がいた。

士道は夜空を仰いでいた顔を下ろすと、公園を舐めるように視線を巡らせた。

 

《ーーーー安心しろ、あの女は近くにいる》

 

こんな郊外の公園に人はいない。念の為にドラゴンの探知能力で探っても人どころかファントムすらいない。

ーーーー“唯1人を除いて”。“彼女”は、常に士道の事を見ているに違いないのだから。

 

「話がしたい。ーーーーいるんだろう、狂三」

 

夜闇に向かってそう言う。

すると数秒後、士道の目は、奇妙な物を捉えた。

公園外縁に点在する街灯の1つ。その根本に落ちた頼りなさげな明かりの中心に、小さな黒い点が現れた。

その点は徐々に面積を広げていくと、水たまりのように大きな影になりーーーーやがてその中から、1人の少女が現れた。

 

「ーーーーあら、あら」

 

少女ーーーー狂三が、名家の令嬢のように、あるいは戯けた道化のように、恭しく礼をしてみせる。

そう。最悪の精霊〈ナイトメア〉・時崎狂三。

時の天使〈刻々帝‹ザフキエル›〉を以て、士道とドラゴンの時間遡行における最大の功労者。彼女と会う為に、士道は地上に降りてきたのだ。

 

「珍しいですわね。士道さんからわたくしを読んでくださるなんて。ーーーーもしや、漸くわたくしに力をくださる気にでもなりまして?」

 

冗談めかすような調子で狂三が言ってくる。士道は小さく肩をすくめながら返した。

 

「残念ながらソレは、お前が俺をデレさせられたら、って約束だ」 

 

「うふふ、そうでしたわね」

 

狂三も最初から、士道がそんな用件で自分を呼び出したなどとは思っていなかったのだろう。軽い調子で笑ってみせる。

改めて見ると、『5年前の過去の世界』で会った眼帯狂三であった。恐らく分身体であろう。

流石に本体狂三が来るとは思わなかったが、まさかこの狂三が来るとは、奇妙な感慨を覚えてしまう。

 

「・・・・ここにいるのはお前だけか?」

 

「あら、あら? ドラゴンさんの探知能力を疑っているので?」

 

「念の為だ」

 

「うふふ、どうですかしらねぇ」

 

士道の質問に、狂三ははぐらかすように答えてくる。手の内をわざわざ晒すような事はしない性格なのは百も承知だが、それでも。

 

「頼む。答えてくれ。ーーーー“『本物の狂三』は、この会話を聞いているのか”? もし聞いていない場合、今俺が話す事を、『本物の狂三』はどうやって知る?」

 

「・・・・不思議な質問をされますわね、士道さん」

 

奇妙な質問を訝しんでか、それとも士道のただならぬ雰囲気を察してか、眼帯狂三は微かに目を細める。

そして数瞬の間士道を見つめた後、根負けしたかのように、フウと吐息をした。

 

「ーーーー本体の『わたくし』は今、ここにはいませんわ。そしてわたくしが本体の『わたくし』に情報を伝えるとしたら、口頭か、脳内情報を共有するかーーーー後はまあ、時間‹コスト›がかかる為先ずやりませんけれど、【10の弾‹ユッド›】を使うか、ですわね」

 

「ふむ・・・・って、脳内情報の共有なんて便利な事ができるなら、わざわざ口頭で伝える必要なんてあるのか?」

 

士道が問うと、眼帯狂三は大仰な仕草で肩をすくめた。

 

「勿論ですわ。分身体とはいえわたくし達にもプライバシーがありますもの。いくら未来の自分が相手とはいえ、何でもかんでも丸裸にはされたくありませんわ」

 

「そ、そう言うものか・・・・?」

 

《・・・・想像してみろ、もしも中学生の頃の『恥の歴史』を作り続けている貴様に、高校生の自分が、“女装をしている事”を知られると思えば》

 

「(分かった。今ので良く分かった!)」

 

ドラゴンの言葉に凄まじく納得した士道。眼帯狂三は、それに、と言って続ける。

 

「口頭での伝達ならば、情報の取捨ができますわ。わたくし達の数は膨大ですもの。全ての情報を共有していては、いくら本体の『わたくし』とはいえ脳が保ちませんわ」

 

「成る程な」

 

道理である。プライバシー云々は狂三なりの諧謔もあるから、コチラが本来の理由だろう。

 

「脳内の情報共有・・・・か」

 

《問題は何処まで『彼女』が知るかだな・・・・》

 

と、士道が顎に手を当て、ドラゴンとの脳内会議をしていると、眼帯狂三が不満そうに唇を尖らせた。

 

「ドラゴンさんと脳内会議を繰り広げている所申し訳ありませんが、用件はそれだけですの?」

 

「あ、いや、すまん」

 

士道は小さく頭を下げると、狂三の目を見ながら続けた。

 

「今から話す内容を、本体の狂三に伝えて大丈夫かどうか、俺にはわからない。ドラゴンは【漏洩の危険性が高い】って言ってはいたが、それでも俺は話さない訳にはいかないと思う。だからーーーー頼む。お前が聞いて、判断してくれないか」

 

「随分と勿体ぶりますわね。ドラゴンさんがそこまで細心の警戒をすると言う事は、それ相応の事態だと思いますけれど。一体何ですの?」

 

眼帯狂三が腕組みをし、怪訝そうに眉を潜めながら先を促してくる。士道は呼吸を整えるように吐息をしてから、その言葉を発した。

 

「2月20日・・・・、狂三の本体はーーーー死んでしまう」

 

「・・・・・・・・あら、あら」

 

一瞬目を丸くするが、すぐに意味を察したように表情を歪めた。

 

「まるでーーーー“見てきたかのように”、仰いますのね?」

 

「・・・・ああ、お察しの通りだ」

 

 

士道がそう言うと、眼帯狂三は全てを理解したのだろう、小さく肩をすくめて見せた。

 

「【12の弾‹ユッド・ベート›】・・・・いえ、【6の弾‹ヴァヴ›】ですかしら? でも一体、『わたくし』が誰に討たれたと仰いますの? 仮にエレン・メイザースやメデューサさんやグレムリンさんが相手だとしても、そう易々とやられるような『わたくし』ではございませんわよ? まさか、ワイズマンさんが動いたのですか?」

 

眼帯狂三が顎に指1本触れさせながら問うてくる。

士道は、微かな緊張を覚えながら、その名を告げた。

 

「ーーーー崇宮、澪」

 

「ーーーーーーーーーーーー」

 

眼帯狂三の表情が一瞬呆けたように弛緩しーーーーすぐに、憎悪と旋律とが入り交じったものに変貌した。

 

「士道さん、今、何と仰いまして?」

 

「澪ーーーーだ。始原の精霊、〈ファントム〉が、狂三を殺す。いや・・・・正確に言うなら、もう既に、本体の狂三の中に澪はいる筈だ。戦場で突然、狂三の中から澪が現れた」

 

「・・・・・・・・」

 

それを聞き、眼帯狂三は何か思い当たる事があったのだろう、一筋の汗を垂らしながら険しい表情になる。

 

「・・・・成る程、『あの時』ですの。ーーーー呆気なさ過ぎるとは思っていましたけれど、やってくれますわね」

 

そして暫しの間考えを巡らせるように黙り込んだ後、細く、長く吐息をした。

 

「・・・・情報、感謝いたしますわ。確かにあの澪さんが『わたくし』の中で生きているとしたなら、『わたくし』の感覚器を通して外の情報を得ている可能性が有りますわね。お二人の判断と警戒は正しいですわ」

 

「どうだ・・・・? 澪に悟られないように本体の狂三にこの情報を伝える事は可能か?」

 

「恐らくは。ーーーーただ、それを知ったからと言って、体内に敵を抱えた状態から生還できるかどうかは別の話ですけれど」

 

フッも苦笑めいた笑みを浮かべながら眼帯狂三が言う。士道は息を詰まらせると、グッと拳を握り込んだ。

 

「そう・・・・だよな」

 

「うふふ、そう暗い顔をしないでくださいまし。確かに絶望的な状況ではありますけれどーーーー士道さん達のお陰で、『わたくし』は『選択肢』を得る事ができましたわ」

 

眼帯狂三はそう言うと、スカートを翻すようにクルリと身体を回転させた。

 

「ーーーーでは、未来よりの忠言、確かに『わたくし』に伝えますわ」

 

「ああ。ありがとう、狂三。ーーーー本当に『感謝している、〈ナイトメア〉』」

 

士道がその背に向かって深々と頭を下げ、ドラゴンが士道の口を使って伝えると、狂三はソチラをチラッと見て、可笑しそうに笑った。

 

「うふふ、幾ら何でも大袈裟ですわよ。そんなーーーー」

 

と、ソコで2人の言葉の意味を察したのだろう。小さく肩を揺らし、顔を背ける。

 

「ーーーー士道さん。未来の『わたくし』は、務めを果たす事ができまして?」

 

「・・・・・・・・、ああ。最高にカッコ良かったよ」

 

「そうですの」

 

士道がそう言うと、眼帯狂三はニッと微笑んで、そのまま影の中へと消えていった。

 

《・・・・小僧。言っておく事が2つある》

 

「何だよ、ドラゴン?」

 

眼帯狂三が消えるのを確認してから、ドラゴンは神妙な声で士道に話しかける。

 

《〈デウス〉は、『彼女』は、『五河士道‹貴様›』を見ていない。『崇宮真士‹愛する人›』しか見ていない。コレを忘れるな》

 

「っ!」

 

ドラゴンが告げる『残酷な真実』に、士道は分かっていても息を詰まらせてしまう。

 

《明日の『無謀なデート』に挑むなら、コレだけは絶対に忘れるな。貴様はすぐに忘れて有頂天になるからな。『大丈夫』だなんて大口など、叩ける相手ではない事も肝に銘じておけ》

 

「・・・・分かってるよ」

 

士道はドラゴンの言葉に、静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

ー令音(澪)sideー

 

「・・・・・・・・」

 

〈フラクシナス〉内の個室で端末のコンソールを叩いていた令音は、一通りの作業を終え、椅子の背もたれをギシと鳴らした。

時刻は午前1時半。比較的に早く作業が終わった方だ。令音は端末をスリープ状態にすると、椅子から立ち上がり、軽く伸びをした。

 

「・・・・デート・・・・、か」

 

そして、その言葉を反芻するようにポツリと零す。

まさか、このタイミングで士道が自分をデートに誘ってくるとは思っていなかった。令音が精霊である事が知られているとは考えづらい。だとするとーーーー。

 

「・・・・・・・・」

 

令音は、思考を振り払うように小さく頭を振った。

士道に如何な思惑があるにせよ、関係ない。

ーーーー令音が『彼』の誘いを断る等、在る筈が無かったのだから。

 

「・・・・さて」

 

令音はフウと息を吐くと、下着と部屋着が入った袋と、化粧水や乳液が収められたポーチを携え、部屋を出ていった。

目指すは、〈フラクシナス〉回収の際新造された大浴場である。明日も事もあるので、簡単に汗を流して就寝しようとする。

精霊たる令音にそういった作業は必ずしも必要ない。身体の状態は適切に保たれる事ができる。時間と費用の浪費に過ぎないと言っても過言ではない。

それをする理由は単純、20代の女性の標準的な行動であるから、だ。

精霊も勘付かれない為に、最新の注意を払って生活を送っていた。無論今は1人なのだから省いても問題ないが、習慣というのは気を抜いて時にこそ出てしまうものである。万一の事を考え、令音は可能な限り『人間の行動』を心がけていたのだ。ーーーーまあ、あまりにそれらを徹底し過ぎるとかえって人間離れしてしまう為、身体の疲労に合わせて、それらの習慣を意図的に省略する事はあったけれど。

そう言う意味では、就寝もその1つだ。令音はおよそ30年の間、“1度も眠った事が無かった”が、毎夜ベッドに入り、朝まで目を瞑っている。

否ーーーー1度も、と言うのは語弊があるだろうか。正確には幾度か睡眠を試みた事があった。眠らなくとも行動できるとは言っても、毎夜睡眠を取っていた方がエネルギー効率が良い事は令音も理解していたし、意識を保ちながら数時間もの間何をするでも無く横になっているのは、単純に退屈という苦痛も伴う。

けれど、眠る度ーーーー令音は同じ夢を見ていた。

未だ忘れ得ぬ、30年前の光景。

シンーーーー真士が、目の前で死んでしまう、絶望の光景を。

その度、令音は涙と悲鳴、そして強烈な心身の疲弊と憔悴を伴って跳ね起きる事になってしまった。

令音にとって夜は休息の時間ではなく、睡眠は安息ではなかった。

とーーーー。

 

「む・・・・っ!?」

 

「・・・・ん?」

 

そんな事を考えながら大浴場へと向かっていると、廊下の角を曲がった所で、令音はボスン、と何者かとぶつかってしまった。

みやると、仮眠室で眠っている筈の精霊・十香であった。寝間着の上にカーディガンを引っ掛け、足にはサンダルを履いていた。

 

「れ、令音・・・・!?」

 

「・・・・ああ、十香。どうしたんだい、こんな時間に」

 

令音が問うと、十香はあからさまに慌てた様子で目を泳がせた。

 

「い、いや、そのだな・・・・」

 

「・・・・・・・・? ああ・・・・」

 

その落ち着かない様子に、令音はピクリと眉を揺らした。

 

「・・・・夜食なら、食堂か休憩室エリアに行くといい。ただ、時間も時間だから程々にね。それも、眠る前に歯磨きを忘れないように」

 

「・・・・! う、うむ・・・・気を付けるぞ」

 

ビクッと肩を震わせなから頷く十香。深夜の飲食を発見されただけにしては少々緊張し過ぎな気がしないでもなかったが、それも彼女が獲得した社会性の1つと判断して、令音は再び歩む。

 

「・・・・令音!」

 

と、十香が声をかけてきた。

 

「・・・・ん? 何かな、十香」

 

「・・・・・・・・」

 

その場で振り向いて令音が問うと、十香は暫しの間無言でジッと令音の目を見つめた後、唇を開いてきた。

 

「令音は・・・・シドーの事が好きか?」

 

「・・・・?」

 

突然問われ、令音は小さく首を傾げた。

 

「・・・・、それは、どういうーーーー」

 

「良いから・・・・! 答えてくれ。頼む」

 

「・・・・・・・・」

 

令音は暫しの間無言になる。十香らしからぬ質問。・・・・また折紙か二亜か美九辺りから変な事を吹き込まれたのか?

しかし、その眼差しは真剣そのものである。であればーーーー答えは決まっている。令音は静かに唇を動かした。

 

「・・・・ああ、好きだよ」

 

「ーーーーーーーー、そうか。うむ・・・・」

 

令音が答えると、十香は真摯な表情のまま頷いた。

 

「・・・・私もだ!」

 

そして元気よくそう言って、そのまま歩いていく。

 

「・・・・・・・・(勿論、皆の事もね、なんだけど)」

 

とりあえず、納得したようなのでまた足を動かそうとする。

が、ふと『ある可能性』が頭を掠める。もしや十香は、士道が令音をデートに誘った事を知っているのではないか、と。

 

「(ーーーーだとすれば、今のは十香なりの宣戦布告のようなものなのだろうか?)・・・・いや、考え過ぎか」

 

令音は十香の背中を見送ると、自分もまた大浴場へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

ードラゴンsideー

 

ドラゴンは士道の中から経路‹パス›を通して十香が令音に接触しているのを見ていた。

十香は令音の「士道が好き」と言う言葉に満足しているそうだが。

 

『・・・・十香、『彼女』が小僧に抱いている『好き』は、君が抱いている『好き』とは違うぞ・・・・』

 

ドラゴンは静かに、そう呟いた。

 

 

 

 

ー士道sideー

 

2月19日の朝。快晴の空。

休日のせいか、天宮駅前には幾人もの人々が行き交っている。

時刻は午前9時50分。待ち合わせの時間まで後10分。士道はスマホの時計を確認しながら、緊張に喉を震わせた。

 

「・・・・いや、いや」

 

呼吸を整えるように胸元に手を置いた。心臓が激しく鼓動している。

緊張するのは当然。しかしそれは戦慄によるものではなく、期待と不安で無ければならない。

確かに令音ーーーー澪は、未来の世界で精霊達を皆殺しにした。その絶望の未来を書き換える為事こそが、士道の『目的』である。

だが、令音とのデートが、ただの『手段』となってしまうのは避けなければならない。士道は今日、心から令音とのデートを楽しみ、令音に士道とのデートを楽しませねばならない。もっと言うならば、士道に惚れさせる(とまではいかずとも)、心を開いて貰わねばならない。

その為には、彼女への疑念や恐れは一切廃さねばならない。

 

《ーーーーそろそろ時間ね。さっき令音も〈フラクシナス〉を出たわ。もうすぐソチラに着く筈よ。ーーーー準備は良い?》

 

と、そんな士道の心境を見透かすように、琴里の声が何処かから響いてくる。

相手は令音である。今まで通りのインカムでは気づかれるので、最新式の骨伝導型通信機を、首元に張り付けていたのだ。

 

「・・・・ああ」

 

士道が囁くような声でそう返すと、ホウと息を吐いた。

とはいえ、令音とのデートを心から楽しむ事自体は、さほど困難ではないと思った。

士道の中には今、澪に呼び起こされた『崇宮真士の記憶』がある。

身を焦がす恋と思える慕情。強烈な親愛。それは感情の波となって怒涛の勢いで士道の恐怖心を呑み込みつつあった。否ーーーー正しく言うならソレだけではない。士道はフッと目を伏せると、村雨令音との出会いを思い起こした。

今から10ヶ月前。精霊と初めて対した後、〈フラクシナス〉の医務室で出会った。今思えば、あの時夢の中で聞いた声こそ、彼女だったのだろう。

初対面の印象は、『変な人』だった。しかし、それ以上にーーーー綺麗な人だとも思った。

顔立ちや容姿だけではない。滲み出る気品に溢れた雰囲気。理知的な立ち居振る舞い。そして時折その表情に滲む憂いの色。

真士が澪に感じているそれと比べるまでもないが、恋慕とも違うかも知れないがーーーー士道は確かに、令音に『憧れ』のような物を抱いている。マリアが、『年頃の青少年は年上の女性に憧れる時期がある』と言っていたが、恐らくそれだろう。

だから、不謹慎だろうが、士道はきっと何処かで、今日のデートを楽しみにしていた。

それを自覚すると、段々と心拍が落ち着いていく。細く息を吐きながら、閉じていた目を開けた。

と。

 

「・・・・やあ、待たせたね」

 

「うひぁっ!?」

 

次の瞬間、目の前に令音の顔が現れて、素っ頓狂な声を上げながら体を震わせた。

 

「れ、令音さん・・・・!? いつの間に・・・・!?」

 

「・・・・ん。今来たところだよ。何やら考え事をしているようだったので、邪魔をしてはいけないと思ってね」

 

「そ、そうですか・・・・」

 

士道はどうにかそう返すとーーーー気を取り直すように咳払いをし、改めて令音の装いが目に映る。

普段の軍服でも、学校での白衣でもなく、ワンピースにコートと言う出で立ちだ。

日頃大雑把に纏められている髪はきれいに結い上げられており、唇にも、薄っすらとだが普段塗らないようなリップが引かれている。

〈ラタトスク〉の秘匿機関員でも、教師でもないーーーー『女』が、『男』に見せる装い。普段の令音からは連想しづらいその姿に、士道は暫しの間目を釘付けにされてしまった。

嫌、きっと士道が目を奪われた理由はソレだけではない。

季節が違う為生地も厚いし、袖も付いている。裾も膝も隠すくらいには長い。足回りは素足にミュールではなく、黒のタイツにブーツという組み合わせだ。

相違点を上げればキリがない。しかしそれは明らかに、“澪が真士とのデートの際に着ていた服を意識した装いだ”。

 

「・・・・、・・・・」

 

深い感慨が肺腑を満たす。士道の中に息づく『真士の記憶』が、思わず声を発しそうになる。

彼女があの日のデートの事を覚えていてくれた事が、嬉しくて仕方なかった。

彼女が今日この日に、その装いを選んでくれた事が、有り難くて仕方なかった。

しかし、それと同時に、『士道の心』がざわつく。ドラゴンが言った言葉が脳裏を過る。

 

【『彼女』は、『五河士道‹貴様›』を見ていない。『崇宮真士‹愛する人›』しか見ていない】

 

と、この装いから、彼女は真士しか見ていない。士道‹自分›を意識してくれていない。それを考えると、ザワザワした感情までもが肺腑を満たしていく。

とソコでーーーー。

 

《ーーーー道・・・・、士道! ちょっと、聞いてるの!?》

 

「・・・・っ!」

 

士道が、色々な感情が交ざった涙が滲みそうになるのをどうにか堪えていると、首筋から琴里の声が伝わってきた。

 

《全くもう・・・・何ファーストコンタクトでボーッとしてるのよ。“今回は飼い主‹ドラゴン›は不参加なんだからしっかりしてよね”。・・・・本当にチョロいんだから》

 

「・・・・・・・・」

 

すまない、と言う意志を込めて通信機を小突く。すると琴里は心底やれやれだぜ、と言った様子でフウと吐息をしてきた。

 

《まあ、いいわ。丁度こっちも選択肢が出たところよ。ーーーー皆、準備はいい?》

 

すると、それに応えるようにーーーー。

 

《『ーーーーおおっ!』》

 

通信機から、〈フラクシナス〉クルー以外の複数の少女達の声が混じって響いてきた。




思ったんですけど、真士と士道って、『キングダムハーツ』のソラとロクサスみたいなものですよね? 澪or令音がカイリなら、ロクサスがカイリを口説くようなものですね。まぁ、ロクサスはそんな横恋慕な最低クソ野郎の行為はしませんけど。
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