デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

249 / 278
デート開始・令音(澪)

ー琴里sideー

 

〈ラタトスク〉空中艦、〈フラクシナス・エクス・ケルシオン〉。

その艦橋は今、常時よりも多くの人影があった。2段となった艦橋の下段部分に控えるは、お馴染みのクルー。無論、令音の正体の説明は済ませてある。皆、大層驚いていたが(神無月はコッソリ、「これで司令の右腕の座は私だけの物!」と、嫌らしい考えを持っていたが)、相手が精霊ならばやる事は変わらないと、気合を入れて攻略に参加してくれていた。そしてその上層。艦橋の冗談部分に急造された予備席にはーーーー精霊達の姿があった。

琴里の座る艦長席を囲うようにして、十香、折紙、四糸乃、耶倶矢、夕弦、美九、七罪、六喰が。そして皆から1歩引いた位置に設えられた解析官の席に、二亜が腰掛けている。皆真剣な表情で、メインモニタに映し出された士道と令音の姿を、そしてパーソナルモニタの選択肢を見つめていた。

通常であれば、デートサポートに精霊達が参加する事は、少なくとも今まで1度も無かった。

だがーーーー今。本人達の強い要望によって、このサポート大勢は実現していた。

皆、耐え難かったのだ。自分達の命運を握るデートを、士道のみに任せてしまう事が。自分達の為に戦う士道のふんとうを、知らずにいる事が。

本来ならば、ドラゴンが一緒にいてくれる筈なのだが、今ドラゴンはーーーー“士道から離れて別行動をしていた”。最高の相棒いない今、自分達が士道をサポートしようと言い出したのだ。

 

「・・・・・・・・」

 

艦長席に腰掛けた琴里は、眼球運動のみで艦橋の精霊達をグルリと見渡すと、一瞬フッと口元を緩めーーーーしかしすぐに司令官の顔に戻って、モニタに表示された選択肢に視線を向けた。

 

①【すみません、令音さんに見惚れてました】

 

②【いつもと髪型が違いますね。素敵です】

 

③【その服ってどうやって脱がせればいいんですか?】

 

「総員ーーーー選択!」

 

「はっ!」

 

『おおっ!』

 

琴里の号令に、クルーと精霊達の声が響く。因みに十香と六喰は操作が少々難しいかも知れないので、ボタン3つだけ付いている簡易的な操作盤だ。

数秒と待たず、モニタに集計結果が表示され、①が選ばれた。

 

「・・・・順当な所ね」

 

琴里が言うと、選択したらしい精霊達が同意を示してきた。

 

「はい。やっぱり無言って不安になると思うんです。でも、こう言われれば嬉しいかなって・・・・」

 

「・・・・えっ何その気遣い。女神? 創世の女神なの? 先ずはこの辺で様子を見るべきでしょって理由を選んだ私って一体・・・・」

 

「うむ、コレならば令音も納得してくれる筈だ!」

 

四糸乃達の言葉に、コクリと頷く琴里。確かに不用意に空けてしまった間の言い訳としても申し分ない。

 

「むん・・・・むくは②も悪くないと思うのじゃが、まあ仕方ないの」

 

「然り。神は細部に宿る。小さな変化に気づくのは重要である。だがーーーー」

 

「補足。人によっては、いつもの髪型が今一と言う風に捉えてしまうかも知れません。先ずは安全策で様子を見るべきかと」

 

六喰に八舞姉妹も、同意を示す。琴里はそれらの意見を聞いた後、チラッと左方を見やった。

 

「・・・・で、ソチラの三人組は?」

 

半眼の琴里が言うと、左方の席に座っていた二亜、美九、折紙の問題児精霊三人組は、

 

「いやいやいや、明らかに③でしょここは! 純朴っぽい少年からこんな不意打ち喰らったら、今から夜の事考えておねーさんもう大・大・大・大・大興奮! っしょ!」

 

「ですー! 令音さんは大人の女性ですしぃ、これくらいウィットは受け入れてくれますってぇー!」

 

「ここの映像は録画されているの? 後でコピーさせて欲しい」

 

「せめて言い訳くらいしなさいよ折紙!?」

 

琴里は3者の、特に折紙の回答に悲鳴じみた声を上げると、ヤレヤレだぜ、と溜め息を吐いた。

 

「あのねぇ・・・・私達の未来がかかっているんだから、真面目にやってくれる?」

 

「分かっている。だからこそ、“自分が言われて1番嬉しい選択肢を選んだ”」

 

「・・・・・・・・」

 

グゥの音も出ない回答に、タラリと頬に汗を垂らす。

 

「(失念していたわ。折紙と美九と二亜は、“神無月並の変態性があった事を”・・・・!)」

 

琴里は、この3人の意見は極力無視しようと思い、気を取り直してマイクを引き寄せた。

 

「ーーーー士道、①よ。ここは素直に行きましょう」

 

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

琴里の指示が通信機を通して聞こえてくる。士道は小さく頷いた後、令音に言葉を投げた。

 

「や・・・・すみません。普段、そういう格好を見た事が無かったから、何ていうか・・・・令音さんに見惚れてました」

 

「・・・・ふむ?」

 

士道が言うと、令音が眠たげな双眸を微かではあるが見開いた・・・・ように見えた。

 

「・・・・そうか。ふむ。そうか」

 

そして何やら顎に手を当てながら、小さな声を口の中で転がすように呟く。表情にはあまり変化が見受けられなかったが、心なしか喜んでいるような気がした。

 

「・・・・それならば仕方ないね。君の装いも素敵だよ」

 

「あ・・・・ありがとうございます///////////」

 

予想外の反撃を喰らい、士道は思わず頬を染めた。この装いは昨晩精霊の皆が選んでくれたのだ。皆の努力が結実してくれたなが喜ばしかった。

 

「・・・・さて、それで、シン。今日は何処へ行くんだい? 随分大荷物のようだが・・・・」

 

令音が問うてくる。士道の荷物が、これから小旅行にでも出かけようとする程のキャリーバッグを携えていたのだ。

 

「ああ、安心して下さい。別に、決戦を恐れて逃避行しようって訳じゃありませんから」

 

士道が冗談めかしてそう答えると、令音は小首を傾げた。

 

「・・・・そうなのかい? それは残念だ」

 

「へ?」

 

予想外の返答に、士道は目を丸くした。

 

「・・・・逃避行の相手に私を選んでくれたのなら、光栄だと思ったのだが。君が逃げたいと言うのなら、私は何処にでも付いていくよ」

 

「え、ええと・・・・令音さん?」

 

士道が狼狽しながら言うと、令音は数瞬の後、フッと目を伏せてきた。

 

「・・・・君の冗句に返したつもりだったのだが」

 

「え? あーーーーそういう!?」

 

言われて、士道は声を裏返らせた。・・・・嫌、冷静に考えれば冗談に決まっているのだが、状況が状況だけに焦ってしまった。

 

《『ーーーー本当にチョロいな・・・・』》

 

琴里を含んで何人かの精霊達やクルーが呆れ果てたように呟いた。

士道は内心情けない顔になるが、気を取り直すようにコホンと咳払いをすると、後を続けた。

 

「今日行く所は・・・・まだ内緒です。令音さんを驚かせたくて。ーーーー俺を信じて、付いて来てくれますか?」

 

「・・・・ああ、勿論。では行こうか」

 

士道の言葉に、令音が微かな逡巡もなく頷きーーーー何かに気づいたように小さく眉を揺らす。

 

「令音さん? どうかしましたか?」

 

「・・・・これは一応、デートだったね?」

 

「はい。・・・・一応、ではないつもりですけど」

 

「・・・・ふむ。ならーーーー」

 

令音が士道の方を見ると、至極自然な動作で手を伸ばしてきた。

 

「・・・・手くらい、繋いでおいた方が良いかな?」

 

「ーーーー!」

 

突然の提案に、士道は内心ドキリとした。令音の細く白い指先が、士道を誘うようにその指腹を向けてくる。

けれど、士道はどうにか平静を装うと、フッと微笑んでみせた。

 

「そうですね。デートですから。ーーーーでも、失敗したな」

 

「・・・・失敗?」

 

「はい。それは俺から言おうと思っていたのに」

 

士道が言うと、令音は一瞬キョトンとするように目を丸くた後、士道と同じように小さく笑った。

 

「・・・・そうか。それは悪い事をしたね」

 

「いえ。令音さんのレアな表情が見られたので良しとしておきますよ」

 

士道は冗談めかすようにそう言うと、差し出された令音の手を優しく握った。

想像よりも小さく、力を入れれば折れてしまいそうな危うさのある令音の手。少しヒンヤリとしたその感触は、2月の寒空の為なのか、元々彼女の体温が低いのか、それとも、興奮と緊張に士道の手が熱を帯びてしまっているからなのか。正直、上手く判別できない。

けれどどうにかそれを顔に出す事は無いようにしながら、令音の手を引いて街を歩いていく。

ーーーー精霊達の、そして士道の未来を賭けた戦争‹デート›の、始まりであった。

 

 

 

 

 

 

ードラゴンsideー

 

「ーーーー始まったか」

 

その頃。

士道を令音くらいの年齢にした青年の姿だが、その眼つきは士道よりも凛々しいが鋭く、瞳の色は金色で、髪には赤青黄緑のメッシュが入り、纏う雰囲気はまるでギャングかヤクザの頭領と言っても良いくらいの迫力と威圧感を放つ、『ウィザードラゴン人間態』は、天宮市から離れた都内の『スカイタワー』にて、士道の様子を伺っていた。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

【[アバター プリーズ!]】

 

昨晩。精霊達が集まり、デートプランの大まかな設定が済むと、ドラゴンは士道の身体を操作し、[アバター]で自分の人間態の身体を構築した。

 

【ーーーーふむ。前から思っていたが、人間の姿というのは存外窮屈な物だな。よく他の『ファントム』達はこんな姿で四六時中いられるものだ】

 

ドラゴンは人間態に自分の意識と力の大半を入れると、人間態の身体の手を握ったり開いたり、身体の関節を動かして状態を見ていた。

 

【きゃーーーー!! ハニー素敵ですー! アウトローな大人の男性って感じがハニーの魅力を天元突破に引き出していますー!! 抱いてくださいー!!】

 

人間態のドラゴンは威圧感があるが、かなりの男前だった。ワイルドでアウトローな魅力溢れるその姿は、確かに女性の心をくすぐるだろう。

美九は目を❤️にして、人間態ドラゴンに抱き着いて、キスの嵐をその顔に降り注がせた。

一瞬士道は。

 

【(未来の俺の姿がモデルなら、俺も将来はあんな風なーーーー)】

 

と、人の夢と書いて儚い考えを持っていた。

 

【・・・・士道。馬鹿な理想は今すぐ諦めなさい】

 

【ああ言うのは、ドラくんみたいなワイルド&ハードボイルドな俺様キャラだからこそ出せるオーラだよ。少年みたいなヘタレ童貞くんじゃ、逆立ちしても、100回転性しても出せないって】

 

【『うんうん』】

 

【お前らなぁ! 夢見るくらいいいだろう!?】

 

琴里と二亜が士道と両肩に手を置いて、憐憫の眼差しでそう言うと、精霊達の大半が、可哀想なものを見る目で肯定するように頷く。

そして、美九をどかしたドラゴンが皆を見て口を開く。

 

【ーーーー皆、このチョロ坊主のサポートは任せた。我は別行動を取らせてもらう】

 

【はぁ? ど、どういう事だよドラゴン!?】

 

これまで精霊との攻略にはいつも付き合って、的確なサポート(毒舌による罵倒と尻尾ド突きあり)をしてくれたドラゴンが、不参加を宣言した。

そう言えば、この世界に戻って令音を攻略しようと士道が決めてから、何か乗り気で無さそうではあったが。

 

【忘れたか。『未来』の出来事をーーーー『儀式‹サバト›』の事を】

 

【っ!】

 

【『っ!!』】

 

言われて、士道と、その記憶を見た精霊達の顔に戦慄が色濃く染まった。

そうだ。DEMが動くだけでなく、ファントム達による『儀式‹サバト›』が起こったのだ。

しかも、士道達はソレに気づいたのは、発動した後の事である。

 

【奴らの気配なら我が探れる。『儀式‹サバト›』が起こった魔力の流れも、未来の世界で大体の位置は把握している。それを食い止めるのも必要な事だ。ーーーーあのウェスコット‹ソーサラー›も言っていた言葉も、不快だが覚えているか小僧?】

 

『イツカシドウ。君は、嫌、君達は目の前の我々にばかりに気を取られ、彼らの事を見落としていたね』

 

【とな】

 

【っ!】

 

それを言われ、士道は顔を憎々しげに歪めた。

ウェスコットの言葉に同意するのは不愉快の極地だが、確かに令音やDEMにばかりに気を取られ、ワイズマン達の事を失念していましたーーーーなんて、間抜けなバカ話も良いところだ。

 

【ワイズマンが動くとなると、対抗できるのは我くらいだ。故に、我が直接でるのだ。もしもの時の為に小僧の中に我の魔力を貯蔵しているから、ドラゴンスタイルにはなれんが通常スタイルにはなれるからいざという時は使え】

 

【ま、待てよドラゴン! 確かに『儀式‹サバト›』もどうにかしないといけないけど、お前1人で、ワイズマン達とやり合う気かよ!?】

 

【ーーーー阿呆が。貴様のように自分の力をすぐ過信して天狗になるお調子者で、自惚れの強い自己評価が分不相応に高い、自分1人で何とかしてやるなんて思い上がりの日本チャンピオンな愚物の一緒にするな】

 

【そこまで酷くねぇよ!!】

 

こんな状況でも喧嘩を欠かさない2人に、精霊達は妙な安心感を覚えてしまう。

そして、ドラゴンは話を戻す。

 

【我だけでは流石に手が足りんからな。“国安0課と『白い魔法使い』に協力させる”】

 

【えっ? 国安0課と『白い魔法使い』を?】

 

【成る程ね。彼らもファントム達の『儀式‹サバト›』は防ぐだろうし、連絡は真那に頼めば繋ぎになってくれるわ。でも、『白い魔法使い』は『正体』の知れない人物よ。信用できるかどうか半信半疑なんだけど?】

 

【えっ?】

 

琴里の意見に、二亜が目をパチクリさせた。

 

【安心しろ。『白い魔法使い』の『正体』は、とっくに目星をつけている】

 

【『えっ?』】

 

ドラゴンの言葉に、士道達は目を見開く。これまで陰ながら士道達の手助けをし、士道が暴走した際には少し乱暴な説教をした『白い魔法使い』の『正体』が分かったというのだ。

 

【だ、誰なんだ、ドラゴン・・・・? 『白い魔法使い』は・・・・?】

 

【いや、少年に皆、知らないの・・・・?】

 

それに応えたのは二亜だった。

 

【知らないの?って事は、まさか二亜、〈囁吿篇帙‹ラジエル›〉で知ってたの? 一体誰?】

 

【いや、誰って・・・・】

 

その時、ドラゴンと二亜の声が重なった。

 

 

 

【【『輪島繁』だ/『輪島のおっちゃん』だよ】】

 

 

 

【『えっ・・・・ええええええええええええええええええええええっっっ!!!???』】

 

2人の回答に、士道と精霊達(折紙と夕弦も目を見開き、接点が殆ど無い六喰は反応薄だが)が、思いっきり目を見開いた。

 

 

 

* * *

 

 

 

「ーーーー指定された箇所に捜査官達を配備し、民間人の避難を進めている。後は、奴らを待つだけだな」

 

そしてそのドラゴンの隣に現れたのは、年齢は20代後半に見える、群青色の髪の毛をショートカットにし、黒いスーツを着こなす身体付きはスレンダーだが胸元は結構押し上げられ、まるで猫のようなしなやかさを思わせる、クールな大人の女性、0課の課長であり、“輪島のおっちゃんの奥さんでもある”、『輪島由希‹ワジマ・ユキ›(旧姓・木崎由希)』だった。   

 

「まさかあの中年の女房が、国安0課の課長だったとはな」

 

「まぁ、国安0課も公安の一組織だからな。士道くん達にも内緒にしていたのよ」

 

「そして、貴様も良く黙っていたな? 輪島繁よ」

 

さらに後方に現れたのは、いつもの格好ではなく、黒スーツ姿の輪島繁であった。

 

「ーーーー士道には、本当に悪かったと思っているが、何処でDEMの『目と耳』があるか分からないからな。迂闊な真似をする訳にはいかなかった」

 

「しかし、そのメタボな身体で戦えるのか?」

 

ドラゴンがそう言うと、輪島は『元気な人間のエンブレムが造りをしているリング』をドライバーに翳した。

 

[リターン ナウ!]

 

輪島の足元に魔法陣が展開され、下から上へと登ると、輪島の肉体がーーーー恰幅の良い中年から、スマートな青年へと変貌した。

 

「それはーーーー」

 

ドラゴンが少し驚きながら問うと、声も若々しいものへと変わった輪島が説明する。

 

「『リターン』。肉体の年齢を全盛期に戻す魔法だ。俺の全盛期は二十代中盤といった所だ。かなりの魔力を消耗してしまうのが難点だがな」

 

「ーーーー旦那が若返ってどんな気分だ?」

 

ドラゴンの問いに、由希は何を言ってんだと言わんばかりに目を細めて応える。

 

「私は若い旦那も、年を取った旦那も愛しているわ」

 

何の迷いも下心もない真っ直ぐの目に、ドラゴンも輪島も苦笑する。

 

「ーーーーしかし良かったのかウィザードラゴン? 士道の方は?」

 

「向こうには精霊達がいるからな。ワイズマン達を放置しておけん。それに・・・・」

 

「それに?」

 

「ーーーー『結果』が分かりきっている『攻略』に、参加するつもりはない」

 

ドラゴンは断言するようにキッパリと言った。

 

 

 

 

 

ー琴里sideー

 

「・・・・・・・・」

 

艦橋のメインモニタに映し出された士道と令音を眺めながら、琴里は口に咥えたチュッパチャプスの棒を小刻みに上下させた。

2人は駅前で拾ったタクシー(運転手は令音の知らない〈ラタトスク〉の機関員)に乗り、目的の場所へと向かっている最中だった。

今の所問題は無い。無いのだがーーーー。

 

「・・・・ふむん? どうしたのじゃ、琴里」

 

すると、右方に座った六喰が首を傾げてくる。琴里はチラッとソチラに目をやると、チュッパチャプスの棒を揺らすのを止めた。

 

「いえ、令音の好感度数値なんだけど・・・・」

 

言いながら、再度モニタに視線を戻す。

メインモニタの両脇にある幾つもの数値の1つ、令音の士道に対する好感度を示す数値が、あまり見た事無い形を描いていた。

 

「なんて不思議な波形なんだろうと思って。今すぐにでも封印できそうな程好意を抱いているのに、封印可能の反応を示していない。ーーーーもどかしいわね。喉元をくすぐられているみたいな感覚よ。掴み所が無いったら無いわ」

 

令音の解析をしたのは当然これが初めてだが、まさかこんな波形をしているとは。一体何処から攻めれば良いのか、検討も付かない。

物事を俯瞰で見ていると言うか、親愛を抱きながらも1歩距離を置いている。皆が舞台に立っているのを、袖から見ているかのような感情値。

何と言うか、これはーーーー。

 

「ーーーー『母親』、って感じ?」

 

「・・・・!」

 

ソコで響いた二亜の言葉に、琴里は小さく眉の端を揺らした。

 

「・・・・成る程、言い得て妙かも知れないわね」

 

言いながら、渋面を作る。確かにソレは、子を慈しむ母を思わせる波形をしていた。

昨晩見せられた士道の記憶を思い返す。ーーーー澪。全ての精霊の生みの親にして、崇宮真士の亡骸を吸収し、『士道』として産み直した精霊。それはまさに、『母』と呼ぶに相応しい存在なのかも知れなかった。

ただしそれはーーーー全てを受け入れ抱き締める慈母でありながら、子を呑み込み破滅させる太母‹グレートマザー›であるが。

 

「・・・・とは言っても」

 

琴里は思考を巡らせながらもう1度顎を撫でた。

確かに令音と士道、そして精霊達の関係は、母と子と呼んでもおかしくはない。

だが、澪と真士は恋仲であったと言う話である。普段ならまだしも、こうして1対1で対面していれば、少しくらいはそういった反応が出ても良さそうな物だがーーーー。

 

「目的を成就させる為、強固なマインドセットを施しているのか・・・・それとも、あくまで真士と士道は別の存在と認識しているのかーーーーどちらにせよ、難物である事に変わりはないわね」

 

一般道を抜けたタクシーが高速道路に入るのを見ながら、琴里はペロリと唇を舐めた。

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

天宮駅を出発してどれくらい経った頃か、士道達を乗せたタクシーは、高速道路を走り、山道を越え、目的の場所へと辿り着いた。

 

「こちらでよろしいですか?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

運転手の言葉をコクリと肯定しながら、ポケットから財布を取り出し、お金を出す。

 

「・・・・出そうか? 結構な金額だが」

 

「いえ、ここは俺が」

 

「・・・・だが」

 

「良いんですよ。ーーーー少しは格好つけして下さい」

 

「・・・・ん、そうか。任せよう」

 

士道が笑いながら言うと、令音は士道の面子を考えて、素直に引き下がってくれた。

手早く支払いを済ませ、先に車を降り、令音をエスコートするように手を差し伸べて見せた。

 

「足元、気を付けて下さい」

 

「・・・・ああ、ありがとう」

 

令音は士道の手を取って車を降りた。

 

「・・・・ここは・・・・旅館かい?」

 

「はい」

 

令音の問いかけに、力強く肯定した。

そう。此処こそが、皆で一晩掛けて考え抜いた令音とのデート場所である。

ーーーー令音に必要なのは何よりも『癒やし』ではないかと、と言う結論が皆の総意だった。

ただ1つの『目的』の為に、30年も邁進してきたのだ。如何に精霊といえ、心身ともに疲れ果てていてもおかしくない。実際に令音の両目には常に立派な隈があり、いつも眠たげな雰囲気を漂わせていた。

街の喧騒から離れ、温泉を始めとする様々なリラクゼーション設備で以て、令音の溜まりに溜まった披露と倦怠を取り除く事ができれば、頑なな心もおおらかになるのではないかーーーーと言うのが、士道達の主な狙いである。

 

「・・・・・・・・」

 

とはいえ無論、彼女の強固な決意と覚悟が、たったそれだけで氷解するなどとは士道も思っていない。

あくまでこの旅館は舞台装置。重要なのはーーーーここで士道が何をするかだ。

いつものように、すぐに感情に流される訳にはいかない。自分はドラゴンのように冷静に、クレバーに交渉するのは苦手だ。だからこそ、誠心誠意な心で挑むのだ。

と、士道がそんな事を考えていると、令音は旅館の外観を眺めながら、ふと言葉を零した。

 

「・・・・そういえば、今日の事は精霊達には内緒だったね?」

 

「はい。2人だけの秘密です」

 

本当は全員モニタリングしているが、士道は即座にそう返した。

 

「・・・・ふむ・・・・そうか。何だか、不倫旅行のようだね」

 

「ぶ・・・・ッ!?」

 

これは流石に想定外の言葉に、思わず咳き込む。

 

「・・・・いや、すまない。ついね」

 

「い、いえ・・・・」

 

士道は頬を痙攣させるように苦笑した。

確かに、ロケーション的にはそれだが、令音と不倫旅行。何やら妖しげなその響きに、妙にドキドキしてしまう士道であった。

 

《『しっかりしろよこのチョロ坊や・・・・』》

 

大半の精霊達とクルー達の呆れ果てた声が響く。何やら皆、徐々にドラゴン化しているような気がするが、士道は必死に気の所為だと思った。

気を取り直すようにコホンと咳払いをし、続ける。

 

「ま、まあ兎に角。明日の戦いまでに帰れるよう、予定は組んであります」

 

士道はそう言うと、令音の手を握る手に軽く力を込めた。

 

「だから今はーーーー思いっきり、羽根を伸ばしましょう」 

 

「・・・・・・・・そうだね。では、お言葉に甘えるとしよう」

 

令音は士道の目を見返すと、キュッと、士道の手を握り返してきた。

 

「ーーーー!」

 

強くはないが、こちらへの信頼と親愛がアリアリと伝わってくる感触。

士道が令音に感じているものなのか、真士が澪に感じているものなのか分から無かったが、士道は、流石にここでそんな事をする訳にはいかない。士道はどうにかその衝動を抑え込むと、令音の手を引いて〈ラタトスク〉の機関員達が女将や従業員に扮している旅館へと入っていった。

 

『いらっしゃいませ』

 

と、恭しく礼をしてくる。士道はそれに会釈で返すと、フロントで手続きを済ませ、中居の案内に従って部屋へと歩いていった。

 

「大浴場は1階、各種施設はこちらの案内をご覧ください。それでは、ごゆるりと」

 

中居が礼をして、部屋を去っていき、それを見送ってから、士道は改めて部屋の内観を見回した。

20畳程の和室に、中央にしっかりとした造りのテーブと座椅子が置かれ、行灯を思わせる形の間接照明や、花の生けられた花瓶が飾られている。

生じに仕切られた部屋の奥には、広縁(旅館の謎のスペース)が広がり、その先には何と、この部屋専用の小さな露天風呂までもが付いていた。

高校生が取るにしては少々豪華過ぎる部屋である。士道も実際に部屋を見るのはこれが初めてだった為、思わず感嘆の声を上げてしまう。

 

「・・・・ん、良い部屋だね」

 

「はは・・・・そうですね」

 

と、士道は笑いながら答えると、部屋に備え付けられてあった旅館案内の冊子を手に取り、大浴場、岩盤浴、エステ、マッサージと、パラパラ眺めるだけでも、様々な施設が館内にある事が分かる。

先ずは何から試そうかーーーーと、思っていると、それに合わせるようにして、通信機から琴里の声が響いてきた。

 

《ーーーー士道、選択肢が出たわ》

 

「・・・・・・・・」

 

正直、かなり不安だが、今回は精霊達もいるし、相手が相手だから、琴里も強引な方法や、神無月達もフザけた選択肢を選ばず、真面目にやってくれる事を内心切実に願う士道であった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。