デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー琴理sideー
士道が四糸乃の元へ到達する直前の〈フラクシナス〉の司令室では。
「し、司令!」
「どうしたの?」
クルーの一人が慌てたような声を上げた。
「と、十香ちゃんが・・・・!」
「・・・・!?」
モニタに映し出されたのは、令音の解析室で『紫の宝石に変わったエンゲージウィザードリング』を指に嵌めた十香がいた。
「十香!」
琴理が急いで十香を止めようと端末を操作しようとしたが、十香はリングを嵌めた。
《ふんっ!》
十香が力を込めるように声を上げると、リングを中心に、十香の身体が夜色の光に包まれ、光が止むと、十香が着ている高校の制服がまばらな霊装となり、その手には十香の天使・〈鏖殺公<サンダルフォン>〉が握られ、十香の身体には夜色のオーラを纏っていた。
《おお! 本当に〈鏖殺公<サンダルフォン>〉が現れたぞ!》
驚嘆する十香に、琴理は放送で話しかける。
「十香、一体何をしたの?」
《琴理か? 私もシドーの力になりたくてな。どうしたら良いかと悩んでいたら、頭に声が響いてな。この部屋にある『リング』を使えばなんとかなるかもしれんと言われて来て『リング』を嵌めたらこうなったのだ!》
「・・・・・・・・・・・・」
十香はドヤ顔を浮かべるが、琴理は渋面を作った。
以前からどう扱えば良いか悩んでいた『リング』が、十香が嵌めた事で、精神的不安定になることなく霊装を纏う事ができたのだ。
〈フラクシナス〉の司令官として、驚く事態だ。
《琴理。私を下ろしてくれ。シドーが忙しいのだろう?》
「・・・・・・・・・・・・」
現在士道は四糸乃の体内にいるファントムを倒す為に四糸乃の元へ、文字通り飛んでいっている。
しかし、折紙達ASTも間もなく四糸乃の元へ到着してしまう。
士道がアンダーワールドに入っている間、ASTが手を出してこないと言うことはあり得ない。
半端とは言え霊装を纏った十香が参戦してくれるのは正直ありがたいが、『精霊の保護』を掲げる〈ラタトスク〉の一員である琴理は、そう簡単に了承できなかった。
《フム、分かったのだ》
琴理が悩んでいると、十香は1人で相づちを打つと、〈鏖殺公<サンダルフォン>〉を掲げた。
《ならば仕方ない。このまま〈鏖殺公<サンダルフォン>〉で壁を破壊してーーーーーー》
「待ちなさい十香!」
物騒な事を言って〈鏖殺公<サンダルフォン>〉を振り下ろそうとする十香に、琴理は慌てて止める。
天使の力を持ってすれば、〈フラクシナス〉の壁を破壊する事など、プリンのように簡単に粉砕できるのだから当然だ。
すると、十香は相づちを打ちながら、棒読みで喋りだす。
《フムフム。ならばどうするのだ? このままでは四糸乃が危ないぞ。シドーがファントムを倒してくるまで、私がASTの相手をすれば、時間を稼ぐ事ができるぞ?》
「・・・・・・・・・・・・」
琴理は訝しそうに十香を見ていた。十香は基本単純、いや、素直な性格をした十香が、こんな意地の悪い交渉を取る事に違和感を感じていたからだ。
ふと本当に十香なのかと、令音をチラリと見ると、令音は琴理の意図を察していたのか、【あれは十香だ】、と、ディスプレイに表示させた。
「・・・・十香、無理だけはしないでね。あくまで士道がファントムを倒すまでの時間を稼ぐだけにするのよ。転送装置はプラモンスター達が知ってるから案内してもらいなさい」
《っ! 分かったのだ!》
十香は元気良く頷くと、解析室を出ていった。
「琴理、良いのかい?」
「情けないけど、十香がASTを足止めしてくれるのは助かるわ。・・・・“十香が誰かに入れ知恵されたようだけど”」
琴理は、十香に渋面を作りながらも、モニタに映った士道が、四糸乃とコンタクトしたのを確認した。
ー士道sideー
そして、横たわる四糸乃の『エンゲージリング』が、青い光を放ってその形状を変えると同時に、ウィザード<士道>は、四糸乃のアンダーワールドに現れた『ハーミットファントム』を撃破して、魔法陣から、マシンウィンガーに乗って出てきた。
「ーーー四糸乃!」
ウィザード<士道>が名前を呼ぶと、バイクを降りて、変身を解除し、横たわる四糸乃に駆け寄り、膝を突いた。
四糸乃はうっすらと目を開けて、士道の顔を見た。
「約束通り、お前をーーー助けにきたぜ・・・・っ!」
「う、ぇ、ぇぇぇぇ・・・・」
すると四糸乃は目に涙を溜め、泣き出してしまった。
「うわ・・・・っ、ちょーーーな、泣くなって。な、何か俺いけないとこあったか・・・・?」
≪いちいち狼狽えるな、このヘタレ≫
アタフタして手を動かす士道にドラゴンは呆れるが、四糸乃はフルフルと首を横に降った。
「違・・・・ます、来て、くれ・・・・嬉し・・・・て・・・・っ」
そう言って、四糸乃は再び「うぇぇぇ・・・・」と泣き出してしまう。
士道はそんな様子に苦笑した。
そして、左手に装着していたよしのんを、ピコピコと動かした。
『やっはー、お久しぶりだね。元気だったかい?』
よしのんの声に、四糸乃は嬉しそうに首を何度も前に倒した。
「ありが、とう・・・・ござ、ます」
と、不意に、四糸乃が頭を下げてきた。
「え?」
「・・・・よしのんを、助けて、くれて」
「・・・・・・・・ああ」
士道は一瞬頬をかいてから頷いた。
「次はーーー四糸乃。お前を、助けてやる」
「え・・・・?」
四糸乃が不思議そうに返してくる。士道は四糸乃と目線を合わせる。
インカムからは、何も聞こえてこない。氷雪の結界を突破する時に不具合を起こしたのだろう。
四糸乃の精神状態が知れないが、仕方ない。
≪まぁ、やるしかあるまいな≫
そう、ドラゴンの言うとおり、やるしかないのだ。
よしのんを失った四糸乃とな触れ合いと会話と、わずかな時間で出来た最低限の信頼を得ていると信じて。
「ーーーええと、だな、四糸乃。お前を助けるためにはーーーその、一つ、やらなきゃならないことがあるんだ」
「なん・・・・ですか?」
「・・・・その、変な奴だと思わないでくれ。・・・・キスって、覚えているか?」
四糸乃が一瞬キョトンとした顔を作り、すぐに首を縦に振ってきた。
士道が色々ごちゃごちゃ言い訳じみた事を喋りだし、ドラゴンが呆れ混じりに暴言を言おうとしたその瞬間ーーー
「ーーーーーーえ?」
そこで士道は言葉を止めた。
理由は単純、四糸乃がふっと目を伏せ、士道の唇にチュッ、と口づけてきたからだ。
瞬間、士道の身体の中に何やら温かいものが流れ込んでくる感覚が、士道を襲った。
「・・・・・・・・っ!? よ、四糸乃・・・・?」
「・・・・? 違い・・・・ました、か・・・・?」
四糸乃が小さく首を傾げた。
「っ、い、いや・・・・違わない・・・・けど」
士道が言うと、四糸乃はこくりと首肯した。
「士道、さんの・・・・言うことなら、信じます」
≪お前より〈ハーミット〉の方が大人だな≫
「(うるせぇ!)」
≪『ドレスアップ』を用意しておけ、そろそろだ≫
ドラゴンが言うと、四糸乃が纏っていたインナーが、光の粒になって空気に溶けて消えていく。
四糸乃の肩が、驚いたようにビクッと震える。
「・・・・・・・・っ、し、士道さ・・・・、これーーー」
四糸乃は何が何だか分からないと言った様子で、目をグルグルと回し、半裸状態の身体を隠すように、身をかがめる。
何だかそんな反応をされると、士道も改めて恥ずかしなってくる。
「だ、大丈夫だ四糸乃。このリングを指に嵌めて、俺のベルトに翳してくれ」
士道が『ドレスアップリング』を渡すと、四糸乃は『エンゲージリング』を嵌めた中指の隣の薬指に『ドレスアップリング』を嵌めて、士道のバックルに翳した。
[ドレスアップ プリーズ]
音声が流れると、四糸乃の身体を魔法陣が包み込むと、四糸乃の半裸状態の服が、青色のリボンとフリルが付いた純白のドレスとなった。
「うわ~・・・・」
四糸乃がドレスに見惚れると、雲の切れ目からーーー太陽の光が注いできている。四糸乃は空を見上げると、眩しそうに目を細める。
「暖か、い・・・・」
≪水と冷気を操る〈ハーミット〉の性質上、隣界が現出すると雨が降っていたからな。太陽を見たのは初めてなのかもな≫
ドラゴンの言葉に士道は納得する。
「き、れい・・・・」
灰色に雨雲が掻き消えた空には、見事な虹がかかっていたのである。
だが、不意に士道と四糸乃の身体が、不思議な浮遊感に包まれる。きっと琴理が封印を完了したのを確認して〈フラクシナス〉の転送装置で回収してくれたのだろう。
「・・・・っと」
一瞬あとには、士道の視界は、氷に包まれた街ではなく、見慣れた〈フラクシナス〉の艦内になっていた。
「・・・・!? ・・・・!?」
四糸乃は目を白黒させていた。
と、士道はその場に現れたもう一つの気配に、バッと振り返る。
「おお・・・・無事だったか、シドー!」
そこには来禅高校の制服をところどころ焼け焦げさせた十香が立っていた。どうやら、士道や四糸乃と一緒に、戦闘中の十香を回収してくれたようだ。
「十香! だ、大丈夫か!?」
士道が言った瞬間、十香は半霊装を解除しようとすると、夜色の光となって、十香の右手中指に嵌めた、『変化したエンゲージリング』の形になった。
「十香、そのリングはまさか・・・・?」
「ウム。この船に置いておかれた私の『エンゲェジリング』だ。どうやらこれを嵌めて力を込めると霊装を半分纏えるようだぞ」
「お前、そんな事をよく知っていたな」
「実はな、頭に“声”が聞こえてな、その声に従ったらこうなっていたのだ」
「“声”・・・・?」
「ウム。その声はシドーの事を、『ヘタレ根性が骨の髄にまで染み付いている小心者の僕ちゃん』と言っていたが・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
士道の記憶上、そんな暴言を吐くのは、司令官モードの琴理の除けば、たった一人、いや、一体。
「(・・・・・・・・ドラゴン、お前が何かやったのか?)」
≪まぁな。貴様の体内に〈プリンセス〉の霊力が逆流する事で、〈プリンセス〉の力が発動するならば、こちらから〈プリンセス〉に交信できると思ってな。テレパシーの要領でやってみたら上手く言ったのでな。AST<なんちゃって魔術師>の足止めを任せたのだ≫
「(なんで俺にそれを教えなかったんだよ!)」
≪言っても貴様の性格上、〈プリンセス〉を戦わせるのは反対だ、とかグダグタ言うに決まっているだろうが≫
「(ぐぅっ!)」
悔しいが図星故に士道はそれ以上言えなかった。なんやかんや言っても、ドラゴンも士道の性格を理解しているのだ。
「・・・・と言うか、お前の方が酷い有り様ではないか」
「あ・・・・」
指摘されて気づいたが、変身を解いた士道の服は、『ハーミットファントム』の氷雪の結界を突破する際に、氷柱が身体が刺さり、変身の下の服にも届き、自らの血で真っ赤に染まり、ついでに穴だらけになっていた。
「・・・・あ、あの・・・・十、香・・・・さん」
「ぬ? おお! 四糸乃! 無事だったか!!」
十香はドレス姿の四糸乃に駆け寄り、四糸乃の右手を取ると嬉しそうに笑顔で迎えた。
改めて四糸乃の右手を見ると、四糸乃の『エンゲージウィザードリング』が変化していた。
四糸乃『エンゲージウィザードリング』は、四糸乃の髪と瞳と同じく『青色』となり、『氷の結晶とウサギ』の装飾が施されていた。
「(やっぱり、『エンゲージリング』が変化している。四糸乃の霊力を封じた影響を受けたのか?) ん・・・・?」
変化した『エンゲージリング』を見ていると、何やら廊下の向こうから、バタバタとけたたましい足音が響いてきたのである。
そしてすぐに転送スペースの扉を開き、息を荒くした琴理が入ってきた。
「こ、琴理・・・・?」
驚く士道を無視して、琴理は士道の全身を睨めるように見つめて、そしてーーー。
「この、阿保兄・・・・ッ!」
「ひぐ・・・・ッ!?」
琴理は士道の鳩尾に、絶妙に捻りが入っていた、見事なコークスクリューパンチを放った。
「ぐは・・・・っ、な・・・・何しやがる!」
「馬鹿な真似をして・・・・っ! あなたは私の言うことだけ聞いてればいいのよ!」
「っ、なにを・・・・」
士道は非難の声を上げようとしたが、今しがたパンチを放ってきた妹様が、士道の胸元に顔を押し付け、そのまま身体に手を回して、力を込めてきた。
「・・・・ちゃんと、回復限界を計算してるから・・・・! 私の言うとおりに動いていれば、絶対に安全だから・・・・っ」
「琴、理・・・・」
≪だからいつも言ってるだろ、少しは考えて行動しろとな。この餌をぶら下げられて暴走する愚馬が≫
「・・・・すまん、無茶した」
ドラゴンの言葉に息を吐くと、琴理の頭を撫でてやった。
「・・・・本当に考え無しよ。アメーバだってもう少し思慮深いわ。この半細胞生物」
琴理は、顔を押し付けたまま、チーン! と鼻をかむと、ようやく身体を離す。
シャツの胸元に鼻水を塗りつけられた士道は、頬を掻きながら苦笑したが、琴理は気にする素振りを見せず、士道の胸元から顔を離すと、いつもの冷徹な司令官モードに戻っていた。
「ーーーまったく、勝手に動いて。・・・・全員頭から爪先まで検診よ。こっちへ来なさい」
言ってプイと顔を背け、廊下に出ていってしまう。
「はは・・・・」
≪笑っとらんで、さっさと『クリーン』を使え≫
士道は力無く笑ってから、『クリーンウィザードリング』を発動した。
[クリーン プリーズ]
士道の身体を魔法陣が通過すると、血と琴理の鼻水が綺麗に無くなっていた。
「おぉ~~!」
「わ~・・・・」
十香と四糸乃は、士道の魔法に感嘆の声を上げ、士道は二人に顔を向けた。
「よし・・・・じゃあ、行くか。・・・・って、ん・・・・?」
何故だろうか、十香はどこか少し浮かない顔で、士道を見ている気がした。
「十香・・・・? どうかしたのか?」
「! な、なんでもない! 早く行くぞ!」
言って、十香はのしのしと歩いていってしまった。
「何だ・・・・あいつ」
士道は四糸乃と共に、十香の背を追って歩いていった。
今回気分があまり乗らずのできでしたが、次回で『四糸乃パペット』完結。
そして、遂に『獣』が現れるかも。