デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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予測不能の戦場

ードラゴンsideー

 

「・・・・来たな」

 

「想定通り、か」

 

既に不発弾撤去やガス漏れ等で、周辺住民を避難させた海浜公園にて、人間態のドラゴンと、若返った輪島の視線の先に魔法陣が展開されその中から、生贄となる人間を連れたワイズマンとメデューサが現れた。

 

『ほう。ウェスコットの進言で予定を早めて見れば、白い魔法使いだけでなくーーーー『裏切り者』の同胞も現れたか』

 

「ーーーーふん。『裏切り者』? 貴様らの身内になった覚えなど無いぞ」

 

『ほざくな! 指輪の魔法使いの走狗として、散々我らの邪魔をしおってーーーー』

 

「あ?」

 

ーーーーゴウゥッ!!

 

ワイズマンとドラゴンが会話し、メデューサが罵倒すると、ドラゴンは全身から魔力を放出した。

その際、アスファルトに幾つもの亀裂が走る。

 

「っ!」

 

『ーーーーぐぅ!』

 

「貴様らが我をどう思うのは勝手だが、1つだけ訂正してもらおうーーーー誰があの鼻垂れ脆弱ヘタレ童貞な自惚れ屋の塵芥虫小僧の走狗だと? 逆だ。我が小僧‹アレ›をペットとして使っているのだ!」

 

ーーーーゴォォォッ!!!

 

輪島とメデューサが、さらに魔力を放出するドラゴンに慄くが、ワイズマンは超然とした様子でドラゴンを見据えていた。

 

『ほぅ、素晴らしい魔力だ。ーーーー惜しいな。君がその気ならば我らの陣営に是非とも迎え入れたかったが』

 

「はっ、我が貴様らの? 別になってやっても良いが、『条件』がある」

 

『フム。『条件』とは?』

 

「貴様ら全員がーーーー我の下僕となり、我を首領にすると言うのなら、考えてやらないでもないがなぁ?」

 

『っ! 貴様!』

 

メデューサが怒気を放つが、ワイズマンが制した。

 

『ーーーーそれではあくまで、邪魔をすると?』

 

「我も『絶望の魔獣ファントム』。人間の絶望よりもーーーー絶望‹貴様ら›が絶望する姿の方が面白いと思っただけの事よ!!』

 

[チェンジ ナウ!]

 

そう言って、ドラゴンが怪人態に、輪島も白い魔法使いへと変身した。

 

『ふむ。ならば、行くぞメデューサ』

 

『はっ!』

 

そしてコチラでも戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

《ーーーー道、士道!》

 

「・・・・っ」

 

通信機から響く琴里の呼び声に、士道は小さく肩を震わせた。

声の調子からして、幾度も呼びかけられていたようだ。令音が何かをしてのか、それともただ単純に呆けてしまっていたのか、数瞬の間それに気づかなかったようだ。

 

「くーーーー」

 

士道は改めて状況を認識すると、令音の手から逃れるようにその場から飛び退き、『ウィザードライバー』も起動させていた(ドラゴンがいないので、『通常スタイル』にしかなれないが、生身よりは遥かにマシというものだろう)。

未来の世界での記憶。士道は令音に触れられて瞬間移動させられたり、『五河士道』としての『記憶』を消去されそうになったのだ。このまま令音に触れられているのは危険過ぎる。

 

「・・・・・・・・」

 

令音は、士道を追ってくるでも声を上げるでもなく、至極落ち着いた様子で士道の行動を見送ると、やがてゆっくりと腰を上げた。

 

「・・・・ふむ、嫌われてしまったね。私の所行を思えば仕方の無い事だが、君に拒絶されるのは中々にこたえる物だ」

 

そして、どこか寂しげにそう呟く。その儚げな様は、指1つで世界を砕く精霊などではなく、恋人と喧嘩をしてしまった少女か何かを思わせた。

 

「・・・・嫌ってなんかいませんよ。むしろ今すぐ抱き締めて、もう1度キスしたいくらいです」

 

士道は油断無く令音の一挙手一投足に気を払いながらそう返した。

冗談めかした調子ではあるものの、偽る事無き本心だ。士道の中の『真士の記憶』は、今この時も令音に手を伸ばそうとし続けていたし、士道自身も、『絶望の未来』を経験してなお、令音を嫌う事が出来ずにいた。

 

「・・・・私だってそうさ。『君』が愛おしくてたまらない。『君』と再開した時、衝動のままに『君』を抱きしめなかったのを褒めて欲しいくらいだ」

 

その『君』と言うのは、『五河士道』の事ではないと、士道は直感し、ギリッと奥歯を噛み締めながら、令音に向けて冷静な声を発する。

 

「ーーーーなら、良い方法がありますよ。今ここで仲直りして、俺と、精霊達と、皆で一緒に暮らすんです。きっと毎日が楽しいですよ」

 

「・・・・ああ、それはとても魅力的だね。私がシンと出会っていなければ、きっと1も2もなく乗っただろう」

 

細く息を吐き、令音が続ける。

 

「・・・・だが駄目だ。私はシンと出会ってしまった。私は『愛』を知ってしまった。シンのいない世界に意味など無く、シンのいない人生に価値などない。ーーーー精霊達の事を好きと言うのも、偽らざる真実だ。けれど、シンと再び出会う為なら、私はその全てを捨てる事ができる」

 

「・・・・・・・・」

 

静かな、しかし揺るがぬ強さに彩られた令音の言葉に、ゴクリと息を呑み、肌が粟立つような戦慄に襲われた。

 

ーーーー呑まれるな・・・・。

 

「っ!」

 

ドラゴンの声が聴こえた気がし、呑まれそうになっていた心が立ち直る。

そうだ。令音の決意が、覚悟が、混じり気のない本心からの強さだと言うのは、『未来の世界』で、文字通り痛い程体感した筈だ。畏れている場合ではない。

士道は令音を見つめながら、必死に思考を巡らせる。

作戦は失敗。キスには成功したが、令音の霊力を封印する事は出来なかった。ここから一体何をすべきか。果たして何が出来るのか。相手は愛しき最強の精霊。あらゆる条理が彼女の前では意味を成さない。例え何をしたところで、彼女を止めるーーーーはできないだろう。しかも最悪な事に、経路‹パス›を伝ってーーーーの未来の記憶を共有ーーーーてしまった。最早不意を衝くーーーーさえ叶わない。もし士道が【6の弾‹ヴァヴ›】をーーーーて過去に戻ーーーーとした所で、彼女がそれを見逃すとはーーーー。

 

「・・・・っ、う、く・・・・」

 

と、士道は不意に眉をひそめ、顔をしかめた。

まるで士道の思考を遮るように、鈍い頭痛が断続的に生じたのである。

令音かーーーー違う。令音もまた、士道の急な変調を不思議がっている。

それにーーーーこの感覚には覚えがある。

『未来の世界』で令音に呼び起こされた『真士の記憶』。自分の物ではない自分の記憶が、脳に染み渡ってくるかのような感覚。今士道が感じているのは、それに非常に近いものである気がする。

だが、『真士の記憶』は既に甦っている筈だ。ならばこれは一体ーーーー。

 

「・・・・っ!」

 

と、士道が額に手を置いた、その時。

けたたましいアラームが、通信機を通して士道の頭蓋を振動させた。令音の霊力を感知して発せられる緊急事態通告‹エマージェンシーコール›かと思ったが、すぐに琴里の声が額

響く。

 

《ーーーー士道! DEMよ!》

 

「な・・・・!?」

 

その通告から数秒の後、士道は視界の端ーーーー空の彼方に、幾つもの小さなシルエットを認めた。

まだ朧気にしかみえないきょりだがそれはまさにーーーー。

 

「・・・・DEMの艦隊、か」

 

令音が士道と同様に空を見上げながら、ポツリと呟いた。

その声はいつも通り静かで落ち着いたものではあるが、今の士道には、その底に蟠る、果てのない負の感情が感じ取れてしまった。

しかし無理もない。彼女にとってDEMは、愛しい真士を奪った、この世の何よりも憎むべき相手に他ならなかったのだから。

 

「・・・・本来なら決戦は明日だった筈。ーーーー〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉か。君達の行動によって歴史が書き換わったようだね」

 

令音が独り言のように呟くと、フッと顔を下ろし、士道の方を見つめてきた。

 

「・・・・さて、どうしたものかな。未来の私は、君を巻き込まれないようシェルターに転移させたようだがーーーー」

 

「・・・・っ」

 

令音の言葉に、思わず変身しようと身構える。

それを見てか、令音がフッと息を零した。

 

「・・・・そう構えないでくれ、と言うもの無理な話かなーーーー」

 

とーーーーその瞬間。

令音の言葉を遮るように、空間に黒い直線が引かれた。

地面から令音の頭部へと、インクをたっぷりつけたペンを紙面に力強く叩きつけられるように、一気に。

 

「な・・・・!?」

 

ーーーー士道が、それを影の銃弾の軌跡であると認識できたのは、令音が言葉を止め、その頭部が微かに揺れた。

 

「・・・・ふむ」

 

前歯で挟み込むようして止めた影の弾丸をプッと吐き捨て、令音が地面をーーーー正確に言うなら、ソコに蟠った影を見下ろす。

すると次の瞬間、影の中から何発もの銃弾が、令音目掛けて放たれた。令音がソレらを避けるように軽く身を反らし、トンと地面を蹴って後方へと跳躍する。

瞬きの間に展開される凄まじい銃撃。士道の目と脳は、一拍遅れてその状況を把握した。そして、理解する。ーーーー令音を襲った攻撃が、誰の手によるものかを。

 

「狂三・・・・!?」

 

「ーーーーきひひ、ひひ」

 

士道がその名を呼ぶと、特徴的な笑い声を伴って、影の中から1人の少女がその姿を現した。

そう。時と影を操る最悪の精霊・時崎狂三が、士道と令音の間に立つように出現したのである。

 

「ご機嫌よう、士道さん。お元気そうで何よりですわ」

 

狂三がチラと士道の方を振り向き、いつもの調子で笑ってみせる。それを見て、士道は思わず喉を絞る。

 

「狂三、何でーーーー!」

 

狂三の中には、澪がいる。士道は『未来の世界』で、狂三の胸を突き破って這い出てくる澪を確かに目撃した。

そしてその情報は、眼帯狂三を通じて、本体狂三にも伝わっている筈だ。狂三は澪に勝てない何処ろか、既に敗北している言ってもいいのに、なぜーーーー。

 

「なんで、とはご挨拶ですわね。士道さんの窮地に駆けつけて差し上げしたのに。そんな事を言われては、悲しくて泣いてしまいますわ」

 

言う程に悲しげでもない様子で、狂三がクスクスと笑う。

するとそれを見てか、令音が顎に手を当て、再びフムと息を吐いた。

 

「フム・・・・狂三か。ーーーー良く来てくれた。歓迎するよ。君がいるならば話は早い」

 

「ーーーーあら、あら」

 

令音の言葉に、狂三は大仰な仕草でソチラを向いて見せた。

 

「相変わらず尊大で鼻持ちなりませんわね。村雨先生ーーーーいえ、澪さん? わたくしとした事が、まんまと謀られましたわ。まさか、わたくしの仇敵がこんなにも近くにいただなんて」

 

そして戯けるような、しかし怒気と怨嗟を内包した声音で以て、続ける。

 

「“アナタ”を“アナタ”と思って、キチンとお話するのは久々ですわね。ーーーーごきげんよう。ずっと、ずっと、お会いしたかったですわ。アナタの腐れた夢とやらの為に、あの後一体幾つの屍の山を積み上げまして?

わたくしも“それなり”のつもりですけれど、澪さんにはまだまだ遠く及びませんわ。どうか秘訣をご教授いただけません事?」

 

「・・・・・・・・」

 

しかし、皮肉と悪意に塗れた狂三の挑発に、令音は眉1つ動かさなかった。ーーーー己の罪は、己が1番良く分かっている、とでも言うように。

 

「・・・・まさか、そんな事を言う為に来た訳でも無いだよう? 君はソコまで短絡的ではない筈だ」

 

「さて、どうですかしら。わたくし、あなたのおすまし顔を見ると、つい苛ついて、短気になってしまいますので」

 

「・・・・本当にそうならば、それでも構わないけどね」

 

小さな吐息と共にそう言って、令音が続ける。

 

「・・・・理由はどうあれ、これでこの場に、ウェスコットが持つ物と、君のもの、残る霊結晶‹セフィラ›が2つ揃う。ーーーーシンを覚醒させるには十分な舞台だ」

 

「さて・・・・そう上手く行きますかしーーーーらッ!」

 

狂三が吠えた瞬間、澪の周囲に幾つもの影が生じ、その中から、幾人もの狂三と同じ貌をした少女達が姿を現した。ーーーー〈刻々帝‹ザフキエル›〉によって作り出された分身体達だ。

 

「きひひひひひッ!」

 

「さあ、さあ、参りますわよ!」

 

「往生してくださいましーッ!」

 

そして思い思いに叫び、両手に携えた〈刻々帝‹ザフキエル›〉から、漆黒の弾丸を四方八方から令音に炸裂した。

否、着弾の瞬間、令音は地を蹴ると、まるで無重力空間に身を投げ出すかのような軽やかさを以て宙を舞った。一瞬前まで令音がいた場所に影の銃弾が集結し、凄まじい炸裂音を伴って弾ける。

 

「ーーーーきひッ!」

 

が、狂三も予想通りだったのか、バッと顔を上げると、その動作に合わせるように、分身体達の更に外周にまたも幾つもの影が生じ、新たな分身体が現れた。

そして空中に逃れた令音目掛けて、先程よりも多数の弾丸を一斉に放つ。

それには通常以上の霊力が込められているようで、無数の弾丸は、精妙極まるコントロールで以て一点に収束すると、凄まじい爆発を引き起こした。

だがーーーークリーンヒットを確認してなお、狂三は緊張を解く事もなければ、令音のいた場所から目を逸らす事もない。

狂三も理解している。あの程度で令音を仕留める事など出来る筈が無いと。

その予想を立証するかのように、空中で蟠った影の黒煙が晴れ、ボンヤリとした輝きが辺りを照らし始める。

 

「あーーーー」

 

それを見て、士道は思わず声を漏らした。

ソコには、淡い光を放つ霊装を纏った令音が、静かに浮遊していたのだ。

たおやかにして優美な、女神の如き霊装。背に負った翼と、色を失った10の星。少々形こそ異なるものの、それは紛れもなく、『未来の世界』で澪が纏っていたものである。

ーーーー始原の精霊・〈デウス〉。

正に神の名で呼ばれた聖霊が、今ここに降臨した。

 

「・・・・少々順序が逆転してしまったが、まあ良いだろう。ーーーー返してもらうよ、狂三。君の中にある霊結晶‹セフィラ›と、私の半身を」

 

「ーーーーは。お断り・・・・ですわッ!」

 

裂帛の気合と共に、狂三が空を舞う。辺りに展開した分身体達もまた、その後を追うように地を蹴った。

無数の狂三と、無数の弾丸が乱舞する。如何な生物の生存さえ認めない、凄絶なら漆黒の鉄風が辺りに吹き荒ぶ。

しかし、令音は先程までとは異なり、弾を避ける何処か身を翻す事さえせず、ただ悠然と空中を佇むのみ。

霊装を顕現させた令音にとって、狂三の弾丸など避ける必要さえないのだろう。1撃1撃に込められた殺意の弾丸が全て、令音の霊装に触れる前に空中で静止した。

 

「・・・・おいで、『私』」

 

令音は静かな調子でそう言うと、ゆっくりと手を掲げ、手招きをした。

その瞬間ーーーー。

 

「・・・・がッ!?」

 

分身体達の指揮を執っていた狂三が急に苦しみだしたかと思うと、その胸元から、白い手がヌッと顔を出した。

 

「狂三・・・・ッ!」

 

『未来の世界』で目にしたその光景。『最悪の精霊』とさえ呼ばれた狂三が、為す術もなく命を奪われる絶望の瞬間を目の当たりにして、士道は絶叫じみた声を上げ、狂三の名を呼ぶ。

 

「クッソぉ・・・・!」

 

士道は歯噛みし、地面を殴った。

ーーーーこの事象を起こさない為に、過去に舞い戻って来たのに。この光景を見ない為に、歴史をやり直したのに。結局、始原の精霊の前には無力でしかなかったのかーーーーーーーーだが。

 

「ーーーーーーーーきひ、ひ・・・・ッ」

 

次の瞬間、自分の胸から突き出した腕を見て、狂三は小さく、しかし確かにーーーー笑った。

 

「・・・・っ」

 

ソレを目にして、士道は小さく息を呑んだ。

狂三の表情から見て取れるのは自棄や諦念ではない。

 

「(嗚呼、そうだ。狂三は俺と違って、激情に身を任せて無謀な行動をとるような浅慮な奴じゃない。残されたのが微かな望みであろうと諦める事無く、幾重にも策を張り巡らせて事を運ぶ。そんな狂三がいたからこそ、俺はこうしてまだ生きていられたんだ・・・・!)」

 

「待って・・・・いましたわ・・・・この、瞬間をーーーーッ!」

 

狂三は苦しげに、だが不敵にそう言うと、短銃を握る腕に力を込め、叫んだ。

 

「〈刻々帝‹ザフキエル›〉ーーーー!」

 

ソレに応じるように、地面に蟠った影が伸び、銃口に吸い込まれる。

狂三は微かに震える手で短銃を持ち上げると、その銃口を令音ーーーーではなく、自分のコメカミに向けて、引き金を引いた。

 

ーーーータンッ。

 

「な・・・・!?」

 

乾いた音がして、狂三の頭に銃弾が撃ち込まれる。次の瞬間、狂三の身体が一瞬ブレて見えた気がした。

たがーーーーそれだけだ。他に変わった事は何も起こらなかった。〈刻々帝‹ザフキエル›〉の弾によって力を得た狂三が澪を引きずり出す訳でも、逆に自分の中に澪を押しとどめて令音に殴りかかる訳でも無かった。

ーーーー本当に、イレギュラーであったのは、狂三が自分を撃った事のみ。後は、士道の知る通りの光景が展開されていく。

狂三の身体から一糸纏わぬ少女ーーーー澪が姿を現し、物言わぬ屍となった狂三は、抜け殻のように打ち棄てられる。そしてそれに合わせるようにして、狂三の分身体達もまた、苦しげに身を捩って影の中へと消えていく。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

令音と澪は視線を交じわせると、どちらからともなく近づいていき、両手を広げて抱き合った。

すると2人の身体が光を帯び、徐々にそのシルエットが1つになっていく。

輝きが収まった後には、『未来の世界』で見たのと全く同じ姿をした澪が、ソコに君臨していた。

 

「み、おーーーー」

 

士道が呆然とその名を呼ぶと、澪はフッと頬を緩めて微笑んできた。

 

「うん。こちらの姿では久しぶりだね。ーーーーいや、シンはもう、この姿の私に会っているのかな。少しややこしいね」

 

と、そう言ってから、澪が何かに気づいたように小さく眉を揺らす。

 

「あーーーー」

 

ソコで士道も気づいた。ーーーー澪が背に負った霊装の1部。10の星が、未だに1つも輝きを帯びていない事に。

朧気な記憶だが、確か未来で澪が霊装を顕現させた際、既に黒い星が1つ灯っていた筈だ。しかし今はそれがない。ソレが何を意味するかは分からないが・・・・澪の表情から、予想外の事態であるだけは伝わった。

 

「・・・・狂三が何か細工をしたのかな。流石は、親愛なる私の友人だ」

 

澪が素直に感心するような調子で言うと、小さく息を吐いて顔を上げた。

 

「・・・・澪ーーーー」

 

士道は澪の名を呼んだがーーーー次の瞬間、再び強烈な頭痛に襲われ、その場に膝を突いてしまった。

 

「シン・・・・?」

 

「が・・・・、ああ・・・・っ」

 

視界がチカチカと明滅する。自分が見ている景色の中、サブリミナルのように知らない光景が混じるかのような感覚。

士道の記憶ではない。真士の記憶でもーーーーない。少女の細腕。悲しみ。絶望。慟哭。僅かな希望。撫でる。お腹。きっと、君がーーーー。

そんな断片的な光景のピースが、頭の中で乱れ舞う。いったい自分に何が起こってしまったのか、訳が分からなかった。

けれど、そんなバラバラのシーンを見る内にーーーー。

 

「・・・・これ、はーーーー」

 

士道の脳裏には、とある推測が、そして、とある可能性が生じていた。

 

 

 

 

 

 

 

ー琴里sideー

 

焦燥と狼狽、後はいくばくかの悲嘆と困惑が、〈フラクシナス〉の艦橋を支配していた。

しかしそれも無理からぬ事だ。何しろ一時は成功したかと思われた令音の封印が失敗に終わり、あまつさえーーーー。

 

「DEM・・・・っ!」

 

艦橋下段のグルーが、戦慄に満ちた声を上げる。

そう。士道と令音が対峙していた所に、突如としてDEMの空中艦隊が現れたのである。

 

「空間震警報無しで襲撃? 随分思い切った真似をしてくれるじゃない」

 

琴里は表情を険しくしながら、忌々しげに呻いた。

とは言え、如何にDEMのような組織でも、大規模戦闘を構える際には、偽の空間震警報を鳴らして人払いをしていた。実際、士道の語った未来の戦闘においても、その手段を取っていた筈だ。だが、今回はそれがない。考えられる理由は2つ。

即ち、目撃者や犠牲者が出るリスクを負ってでも、こちらの隙を衝きたかったかーーーー“目撃者や犠牲者が出た処で、世界を上書きしてしまえば何も問題ない”、と判断したかだ。

 

「ちーーーー」

 

琴里はチュッパチャプスに歯を立て、パキリとヒビを入れた。とは言え、苛立ちの理由はソレだけではない。

ーーーーそもそも『コレ』は、“あり得ない筈の襲撃”なのだ。

理由は至極単純。DEMが指定していた決戦は2月20日の筈なのに、今日は2月19日。

無論敵の発言を鵜呑みにしていた訳では無いが、未来を見てきた士道の話からしても、今日にDEMは何も仕掛けてこなかった。

無論士道や〈ラタトスク〉が、元の歴史とは違う行動を取っている以上、DEMも同じ行動を取るという保証はない。

だが、この強襲は幾らなんでも不自然過ぎる。となればーーーー。

 

「・・・・予想が当たったのだから、もう少し喜ぶべきかしら?」

 

琴里は自嘲気味に肩をすくめながら、面白く無さそうに息を吐いた。

同様に、解析管の席に座っていた二亜もまた、渋面を作りながら顎を撫でる。とは言えソレも道理。

ーーーー何しろ、元々それは“彼女の能力”だったのだから。

 

「ーーーー〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉・・・・だよねぇ、やっぱり」

 

二亜が複雑そうな表情をしながら呻くように言う。

二亜の天使〈囁吿篇帙‹ラジエル›〉が反転した魔王〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉。

ウェスコットに奪われたソレは、二亜のジャミングで検索精度は低下しているが、ウェスコットがコチラの動きを察知する可能性もゼロではなかった。

 

「少年の時間遡行そのものに気付いてなくても、アタシ達の会話とか覗いたら、ある程度当たりはついちゃうもんねぇ。少しでも不信感を覚えたら、後は芋づる式だし」

 

二亜が大仰な仕草で肩を竦める。

とはいえ、その危険性は琴里も二亜も、勿論士道とドラゴンも把握済みだ。ソレを理解してなお、2人は皆に未来の事を打ち明けた。

令音の攻略を行う為には、情報の共有と入念な打ち合わせが不可欠であり、ソレを〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉に知られないよう行う事は不可能であった。

ならばどちらを選ぶべきかーーーーそんなものは、論ずるまでもなく決まっていた。

令音の力を封印する事ができなければ、琴里達に生き残る目はなかったのだから。しかしいくら令音に比べれば優先順位が低いが、ワイズマン達『魔獣ファントム』には、ドラゴンと白い魔法使いが対応に向かっている。そしてDEMに対してはーーーー。

 

「兎に角、今すぐ士道を回収して! 一旦大勢を立て直すわよ!」

 

『了解・・・・!』

 

琴里の指示に、クルー達が一斉にそう応えた。

 

 

 

 

 

 

ー澪sideー

 

「・・・・シン?」

 

狂三の中から現れた分身と融合を果たし、完全な身体を取り戻した澪は、微かに眉根を寄せながら、静かな声を発した。

前方にいた士道が、小さく、しかし断続的な呻きを上げながら、地面に膝を突き、頭を押さえて蹲ってしまったのだ。

その様はまるで雷に怯える子供のようであったけれど、士道が澪やDEMの恐怖で膝を屈するような人間でない事は、澪自身が1番よく知っていた。無論、澪を油断させる為に下手な仮病と演技を用いる人間でない事も。

だが、否、だからこそ不可能である。

 

「一体どうしたの、シンーーーー」

 

と、澪が士道に歩み寄ろうとすると、不意に士道の身体が淡く発光し始めた。

不可思議な現象。だがすぐに気づく、それは、〈フラクシナス〉が艦外の物質を艦内に転送しようとする際に発されるものであった。恐らく、琴里が士道を回収しようとしているのだろう。

 

「・・・・・・・・」

 

妨害しようと思えばできないでもないが、澪はあえて何もしなかった。

元より士道は一旦安全な場所に移すつもりであったし、琴里とマリアならば士道の症状を見て的確に処置してくれるだろうと判断したのである。

士道の身体が光りに包まれ、一瞬にしてその場から消え去る。

ソレを見送ってから、澪は静かに息を吐いた。

 

「ーーーー無粋な魔術師‹ウィザード›や機械人形に、ここの風景を壊されるのも、面白くないな」

 

底冷えのするような声音で言ってから、澪は再び視線を空に向けた。

 

「・・・・待っててね、シン。すぐに終わらせるから」

 

そして、そうとだけ残して空を蹴る。澪の身体はキラキラという光の軌跡を残しながら、DEMの艦隊へと舞っていった。




士道に起こった異変とは?
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