デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ーウェスコットsideー
空を埋め尽くすDEM艦の1隻。その艦内で、ウェスコットはスピーカー越しに他艦からの報告を聞いていた。
最前線の真っ只中にいると言うのに、その表情に緊張や焦燥と言った類の感情はまるで見受けられない。口元は上機嫌な形に歪み、指先は時折ダークスーツの表面をリズミカルに叩いていた。まるで休日の昼下がり、お気に入りの曲を聴きながら寛いでいるかのようである。
《ーーーー〈ガルドボーグ〉、戦闘準備完了。いつでもどうぞ》
《〈ホノリウス〉、同じく》
《〈アルマンダル〉、こちらもです》
幾つもの報告を全て報告し、ウェスコットは大仰に頷いた。
「ーーーーよろしい。各艦、行動を開始」
『了解!』
各艦の艦長が一斉に応えてくる。スピーカーを隔ててなお伝わる熱と奮起が、大きな津波となって辺りをビリビリに震わせた。
と、ソコで、近くにいたエレンが、チラッとウェスコットに視線を寄越す。
「ーーーーアイク。本当によろしいのですね?」
「ああ勿論だ。全ては予定通りだよ」
「・・・・・・・・」
微かな逡巡もなく首肯したウェスコットの返答に、エレンは一瞬無言になったが、やがて小さな吐息と共に返す。
「そうですか。ならば・・・・良いのですが」
「ああ。何も不安がる事はない。我らの宿願は、もうすぐ果たされる」
何処か芝居がかった調子で両手を広げながら、前面のモニタを見るウェスコット。
辺りに広がる広大な海と森、後は疎らな宿泊施設に店舗に民家のみ。自分達を邪魔する物はない。〈ラタトスク〉のホームである天宮市であれば、何かしらの仕掛けをしているだろうが、流石にこんな天宮市から離れた海岸にまで仕掛けをしてはいないだろう。
「ーーーーおや?」
と、ウェスコットは、画面の中の士道が淡く輝いて見えたかと思うと、次の瞬間、その姿がフッと消え去り、ピクリと眉を揺らした。
恐らく、〈デウス〉とDEMの出現により、一旦態勢を立て直そうと、〈フラクシナス〉の転送装置で回収したのだろう。
しかし、そんな行動は予想の範囲内だ。ウェスコットは落ち着いて様子で、ともすれば楽しげに、声を発した。
「折角舞台が整ったんだ。逃げてもらっては困るな。ーーーー〈バンダースナッチ〉隊、『オペレーションβ』だ。手筈通りに頼むよ」
《『ーーーーはっ』》
ウェスコットの指令に、スピーカーから静かな返答が返ってきた。
ー士道sideー
「う・・・・ぐ、あ・・・・っ」
「ーーーーシドー!」
「う、ぁ・・・・?」
士道が頭を抱えなから地面に蹲っていると、不意に上方からそんな声が響いてきて、痛みをこらえてどうにか頭を上げるとソコに、心配そうな顔をした十香の姿が、否、十香だけでは無い。折紙、二亜、四糸乃(&よしのん)、琴里、六喰、七罪、耶倶矢、夕弦、美九ーーーー〈ラタトスク〉が保護した精霊、全員の姿があった。
一瞬、皆が助けに来てくれたのかと思ったが、違う。ソコに澪の姿はなく、周囲の景色が、見慣れた〈フラクシナス〉の艦橋に様変わりしていた。どうやら転送装置で、士道を回収してくれたらしい。
次第に、強烈な頭痛が治まっていく。士道はいつの間にか額に浮かんでいた汗を拭うと、十香の手を借りながらゆっくりと立ち上がった。
「十、香・・・・皆・・・・」
「うむ、大丈夫か? 澪に何かされたのか・・・・?」
「いや、コレは・・・・」
と、士道が言いかけた瞬間、空の様子を映し出していた艦橋前方のメインモニタが、凄まじい光を放った。
「あーーーー」
空に巨大な球体が出現し、光の粒を辺りにバラ撒いていく。
ーーーー〈万象聖堂‹アイン・ソフ・オウル›〉。触れたモノの命を奪う死の天使。その圧倒的な破壊力に、DEM艦が次々と瓦解していく。
最早ソレは、戦闘でも戦争でもない。まさに一方的な鏖殺。無感動な掃討。蟻の群れと、ソレを踏み荒らす子供の方が、まだ戦力差は少ないかもしれない。
「・・・・!」
『っひえー・・・・『メモリー』で見せてもらったけど、やっぱりスッゴいねー。コレにはよしのんもビックリ』
「首肯。マトモに相手をするのは悪手どころか、自殺願望と違いありません」
「・・・・そうね。DEMが澪を引き付けてくれている内に退却しないと、マジで」
皆が表情に戦慄を滲ませながら、口々に言う。
だが、士道は掠れた声を上げた。
「ダ・・・・メ、だ・・・・」
「む?」
「どうしたのじゃ、主様」
士道の言葉に、精霊達は不思議そうに目を丸くする。
士道は、痛みが引くのを待ってから、皆の顔を見渡した。
「・・・・駄目だ。俺はまだ・・・・逃げられない。まだ、何も終わっていないんだ」
そう。ーーーー駄目だ。
もしもこの士道の推測が正しいとするならばーーーー士道はまだ、逃げる訳にはいかない。
だが、その言葉は精霊達にとっては意外なモノだったのだろう。皆のとうわくと琴里の声が、鼓膜を震わせる。
「何を言ってるのよ士道! 誰がどう見ても作戦は失敗よ! 気持ちは分かるけど、意地を張っても状況は好転しないわ!」
「そんなつもりじゃない。でも・・・・駄目なんだーーーー」
ーーーーと。
士道がそう言った瞬間、ピピピピッ、と言うアラームのような音が艦橋に響いた。
「何この音。シリアスなシーンなんだからスマホの電源切っといてくんないロボ子ちゃん?」
《誰が承認欲求の化け物であるスーパーポンコツ膝メイドロボットですか? 漫画家にしては渾名のセンスが最悪ですね。大体普段からシリアスから最もほど遠い駄目な大人のあなたに言われたくありませんよ、二亜。ーーーーと、シリアスブレイカーの常時泥酔者‹フルタイムドランカー›に構っている場合ではありませんでした。琴里、何者かがコチラに通信を試みています。どうしますか?》
二亜とマリアが、士道とドラゴンのような口喧嘩を挟みながらそう言うと、琴里が微かに眉根を寄せた。
「通信・・・・? いいわ、繋いでちょうだい」
《了解》
マリアが言うと、メインモニタがザザッと乱れた後、何かの映像が映し出された。
それはまるで、監視カメラの映像か隠し撮りと言った風情である。幾人もの人間が映っているのだが、皆カメラの存在に気づいていない様子であった。しかも、1つではない。画面は細かく分割され、何カ所もの場所を映し出されていた。
それを見て、琴里が訝しげに眉をひそめた。
「タイミングから言ってDEMからの通信かと思ったけれど、これは・・・・
「・・・・む!?」
と、不思議そうに首を捻っている琴里の隣で、十香が何かに気づいたように声を上げた。
「何十香、どうかしたの?」
「あの画面を見てくれ、亜衣舞衣美衣だ!」
「・・・・え?」
その言葉に、士道は顔を上げると、確かに十香が指差した画面には、補修か、何かの実行委員でもしているのか、休日なのに学校にいたのは、士道のクラスメートの亜衣舞衣美衣トリオ、さらにその後方に殿町や岸和田やタマちゃん先生の姿もあった。
否、ソレだけでなく、十香に次ぐように、今度は折紙が小さく眉を揺らす。
「ーーーー隊長、ミケ、それにミリィ?」
隣の画面に、AST隊長・日下部燎子や、折紙の元同僚達の姿が映し出されていた。
「えっ、『日依』さん・・・・?」
「・・・・! 『花音』さんーーーー」
「はぁ・・・・!? アイツ何してんの・・・・?」
と、他の画面には、ライブ会場や街路に美九のアイドル仲間である『朝倉日依』や、四糸乃と七罪が体験入学した際の友達・『綾小路花音』の姿を見てが声を上げ、他にも耶倶矢と夕弦の友人などの姿が他の画面で確認できた。
分割された画面のそれぞれに、精霊達の友人や知人が幾人も映し出されていた。
「何だ、これは・・・・」
映像の意図が分からず眉根を寄せる。
が、次の瞬間、映像に変化が起き、すぐに士道達は知る事となった。
ーーーー敵の狙いを。その悪辣極まる策略を。
クラスメート達のいる教室の窓ガラスが盛大に砕け散った加藤持つと、そこから数体の〈バンダースナッチ〉が、無機質なカメラアイを蠢かせながら現れたのだ。
《うわきゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?》
《何々、何事!?》
《マジ引くわー! 突然学校にテロリストが!?》
《どっしぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?》
《何ですか何ですか何なんですかぁぁぁぁっ!?》
《皆さん下がって! 『北斗編集鉄扇拳・翔鶴の舞』!》
鉄扇を取り出した岸和田が、〈バンダースナッチ〉の1体を吹き飛ばし、さらに迫る冷徹な機械の怪物と戦闘を開始した。
するとそれに合わせるようにして、他の画面でも同様の事が起こっていた。
《な・・・・ッ、コイツはDEMの!? どう言う事!?》
《たっ、隊長! 緊急着装デバイスはーーーー》
《残念ながら保管庫の中よ・・・・ッ!》
学校で。自衛隊駐屯基地で。ライブ会場や街路で。
空間震警報の鳴っていない街の至る所で、機械の怪物がその姿を現す。
「なーーーー」
普通ではありえない光景。精霊が秘匿存在であるのと同様に、〈バンダースナッチ〉を動かす顕現装置‹リアライザ›もまた、一般には公開されていない技術なのだ。それを堂々と衆目を晒し、あまつさえ一般市民に危害を加えようとするなど、正気の沙汰ではない。如何にDEMインダストリーが巨大な権力を持っていても、ここまでの事態を揉み消す事などできない筈だ。
否ーーーーもしかしたら、揉み消す必要さえ考えていないのかも知れない。以前、ドラゴンが言っていた。
【『ーーーー奴等がその気になれば、いつでもASTをこの家や学校にけしかける事も、あの〈バンダースナッチ<鉄人形>〉共や空中戦艦を大量に呼び寄せて、この街を地図から消滅させるなんて容易にできる』】
まさかその悪夢のような『もしも可能性』が現実になった事に、士道は心臓が引き絞られるかのような錯覚を感じた。
《ーーーーやあ。聞こえているかな、イツカシドウ、〈ラタトスク〉の諸君》
と、士道達が戦慄していると、ソコでスピーカーから悲鳴や破壊音や戦闘音とは別の音声が響いてきた。
至極落ち着いた、それでいて楽しげなーーーーさらに言えば、士道の神経を無性に逆撫でしまくるーーーー男の声。間違える筈など無い。
DEM社業務執行取締役‹マネージング・ディレクター›にして、〈仮面ライダーソーサラー〉、アイザック・ウェスコットだ。
士道は腸から湧き上がる怒りを唸り声としてその名を叫んだ。
「ウェスコット・・・・ッ!」
《ああ。どうだい、楽しんで貰えているかな?》
「ふざけるな! 皆は関係ないだろう! 何が『目的』だ・・・・!」
士道が憎々しげに言うと、ウェスコットはアッケラカンとした様子で返してきた。
《『目的』、か。そうだな、私としてはどう転んでも構わないよ》
「何だと・・・・?」
困惑する士道に、ウェスコットは続ける。
《最も理想的なのは、彼女らが人質として機能してくれる事かな。ソレならば私は悪辣な誘拐犯よろしくこう宣言しよう。彼女らの命が惜しくば、イツカシドウの持つ霊結晶‹セフィラ›をすべて渡せ、と》
「ぐ・・・・!」
最悪で最低な予想通りの言葉に、士道は口の中を切ってしまいそうに歯噛みして顔を顰めた。
するとそこで、落ち着け、とでも言うように、琴里の手が肩に置かれる。
「ーーーー悪いけれど、それは私達を舐め過ぎじゃあないかしら? 損得の勘定位はできるつもりよ。貴方に霊結晶‹セフィラ›を渡したら、この世界丸ごと貴方好みの『悪趣味な世界』に上書きされてしまうかも知れない。勿論、守った筈の彼女達ごとね。・・・・一時の感情でそんな愚行を犯す事はできないわ」
琴里が声音を低くして言う。だがその頬には汗が滲み、眉間には深い皺が刻まれ、拳はキツく握り締め血が滴り落ちる。音声通話のみなのは幸いした。琴里がただそんな言葉を発していない。本当ならば、ウェスコットを卑怯者と罵りたい気持ちでいっぱいだろう。
しかし、そんな事をしては、敵に態々弱みを見せるようなものだ。だから琴里は、冷静で冷酷な司令官を演じなければならない。ーーーーそんな脅しは無意味である、と。
しかし、こちらのそんな強気な態度で撤回するような相手でもない。ウェスコットはさして驚いた風もなく続ける。
《ふむ。ーーーーまあ、ソレならば仕方がない。私は無慈悲な独裁者の如く、彼女らをできるだけ惨たらしく殺せと命ずるだけだ。友人が殺される光景を見て、精霊の1人でも反転してくれたなら儲け物さ》
「・・・・!」
士道は思わず息を詰まらせた。冷たいものが胃に広がるのを感じる。
精霊達が死んでしまう未来を変える為に時を超えた。だが今まさに、士道の行動が原因で、本来ならば何も起きなかった筈の友人達に『死』が迫っている。
琴里の反応も似たようなものであったが、自慢の妹は徹底して司令官であった。声だけには震えを生じさせず、落ち着いた調子で返す。
「・・・・あら、それは怖いわね。じゃあ今すぐ映像を遮断しないと。態々宣言してくれるなんて、親切な敵もいたものね」
《おや、これは失策だったかな。ならば仕方ない。仮に精霊達が反転しなかったとしてもーーーー私が楽しむには十分だ》
「てめぇ・・・・ッ!」
常軌を逸したウェスコットの言葉に、士道は腸で渦を巻いた怨嗟を、絶叫に変換した。
ウェスコットと対面した時に見た、あの錆び付いたような双眸を思い出す。人間を人間として見ていないあの無機質な瞳。
ーーーーヤツは、“やる”。自分の目的や快楽の為なら、平然と何万人の人間を虐殺する事に欠片も躊躇がない。本人は自分の事を『平凡な人間』と称しているのが、常人には理解できない『異常性』がヤツにはある。
《ーーーーさて、では答え合わせといこうじゃあないか。取り敢えず、表示されている映像を幾つか、血に染めよう。その後で、もう1度感想を聞くとしよう》
「ッ! やめーーーー」
士道の静止も虚しく、ウェスコットは〈バンダースナッチ〉に指示を発するようにパチンと指を鳴らした。
ードラゴンsideー
『かぁっ!』
『ハァ!』
と、その頃、天宮市から離れた都内の『儀式‹サバト›』のポイント、その上空では、怪人態のウィザードラゴンとワイズマンの戦いが繰り広げられていた。
ドラゴンが口に当たる部分から火炎弾を放つと、ワイズマンは左腕を剣に変化させ、切り捨てていく。
二人の真下では、白い魔法使い‹輪島›とメデューサが戦闘を繰り広げている。
『・・・・・・・・』
戦いの最中、ドラゴンはワイズマンに対して奇妙な『違和感』を感じていた。
『・・・・どうしたのかね? 戦闘中に考え事など、君のようなタイプがするとは思えんが?』
『・・・・貴様、何なんのだ?』
『“何なのだ?”、意味が分からないな』
『ーーーー貴様からは今まで遭遇してきたファントム達と何かが違う。まるで動くマネキン人形でも相手にしているようだ。それに、貴様の節々から、“我が今最も殺してやりたい男と似た気配”がする』
『・・・・ふっ。それよりも、良いのかな? 君は今でも指輪の魔法使いと繋がっている。彼の状況は筒抜けだろう?』
ワイズマンが、明らかに話を逸らそうとしているが、ドラゴンは敢えてソレに乗った。
『ああ。かなり下劣な策略に乗り出したようだな? しかし、何も心配等していない。彼女らが、あの下劣の企みを黙っている訳がないからな!』
『ーーーーふっ!』
ワイズマンが右手を伸ばすと、まるで吸引するような渦が巻き起こり、その渦がドラゴンを包むと、ドラゴンの身体からーーーー魔力が吸い込まれる。
『なっ!?』
『ーーーー君の魔力、貰い受けよう』
ー亜衣sideー
よく漫画とかで、予想外の出来事に出くわしたキャラが、それを夢と疑って頬をつけるシーンや、思考停止状態になるシーンがある。
ソレを見る度に亜衣は、「うっそでー」と笑っていた。あれはあくまで漫画的表現。キャラが呆然としている様を端的に表す動作に過ぎない、と。
けれど、今後は考えを改めようと思った。
何しろ、突然学校の窓を突き破って謎のロボット集団が現れ、絶賛片想い中の岸和田くんが、鉄扇を持って戦っている光景を見た時には、まさにその動作をしてしまう事が判明したのだから。
「え、えぇ・・・・何これ・・・・?」
頬をつねっても覚めない。どうやら現実のようだ。
入ってきたロボットは5体。内1体は教室に入ってきてすぐ岸和田くんが黒板に叩きつけ壁を砕き、隣の教室の黒板まで吹き飛ばすと、ロボットは全身から火花を散らせながら機能停止し、すぐに残り4体のロボットと、日本が世界に誇る超有名バトル漫画よろしくなバトルを繰り広げていた。
「とりゃとりゃとりゃとりゃとりゃとりゃ!!」
岸和田くんが何とか立ち回っているが、教室の外には、何体もロボットが浮遊していた。人間よりも一回りも大きな体躯に太い腕に鋭い爪を備えており、どう見ても戦闘とか制圧とか殺戮を得意としているデザインだ。
戦っている岸和田くんを除いて、今教室にいるのは亜衣の他に、麻衣と美衣と、担任のタマちゃん先生とクラスメートの殿町だけである。とても岸和田くんのサポートができるとは思えない。
「や、山吹さん、葉桜さん、藤袴さん・・・・! それに殿町くんに岸和田くん! 危険です! 逃げて下さいぃぃ!」
タマちゃん先生が、小柄な身体を震わせながらそんな声を上げてくる。
だが、今岸和田くんが抑えてくれているが、外のロボット達がこっちに照準を付けているようであった。
「な、何なのこのロボット!? デザイン的に正義のトラン○フォーマー的なもんじゃないわよね!? どっちかってと悪のトラン○フォーマーよね!?」
「まさか人類対ロボットが戦争した未来から、後に人類の指導者を殺しに来たヤツだったりする!? マジ引くわ〜! 私そんな偉人になっちゃう!?」
「ひぇぇぇ! お助けぇぇぇ! 死ぬ前に1度で良いから女の子の太腿の間に顔を埋めてみたか「ガン!」ぎゃひんっ!」
麻衣と美衣、そして殿町が、亜衣にしがみついて悲鳴を上げる。が、殿町が亜衣の脚にひっつこうとしたら、岸和田くんが引き千切ったロボットの腕の1部を蹴り飛ばし、殿町にぶつけた。
それを見て亜衣は、「岸和田くんが焼き餅を灼いてくれた!?」と、一瞬天に昇るような気持ちになるが、すぐにハッとそんな場合じゃないと正気に返る。
するとその瞬間、外にいたロボット達も窓を突き破って入ってきて、ゆっくりとした足取りで、亜衣達の方へと歩み寄っていく。
「な・・・・っ!」
「に・・・・っ!」
「ぬ・・・・っ!」
亜衣麻衣美衣トリオはそれぞれ喉を絞るように声を上げた。
だが、できる事と言えばそれだけだ。恐怖のせいか、身体が動かない。仮に動いたとしても、岸和田くんのような戦闘力は自分達にはない。
「皆さんーーーー邪魔しないでくれ!」
岸和田くんが助けに行こうとするが、さらに2体の計6体のロボット達に遮られてしまう。
そうこうしている内に、ロボットの1体が亜衣の目前まで迫ってくる。無機質な異形は小刻みに動いていたカメラアイを亜衣に定めると、大型ナイフを束ねたような爪を大きく振り上げた。
「あーーーー」
呆然とした声が喉から漏れる。一瞬が凄いスローモーションに感じ、思考が圧縮される。走馬燈が走り抜ける奇妙な感慨。今までの人生と思い出が幾つも思い出される感覚。
「(ーーーーああ、私ホントに死ぬんだ。今日までフツーに過ごしてたのに、いきなり現れたロボットに殺されるんだ。ロボット? いやロボットって何よ。意味分かんない。人生何があるか分からないって言うけど、いくら何でもソレはないでしょ。うっわぁ、マジか? マジで? マジだバッドエンド。岸和田くんが今必死に私の事を呼んで戦ってくれてる。ああ、すっっっっっごく幸せだけど、こんな事なら岸和田くんとキスやらその先やらを経験してから死にたかったなーーーー)」
極限まで濃縮された亜衣の思考を切り裂くように、鋭い爪が振り下ろされた。
ー燎子sideー
陸上自衛隊天宮駐屯地。
AST隊長・日下部燎子の眼の前で、あり得ない筈の事態が起こっていた。
「な・・・・」
隊舎の一角にある休憩スペースで、同じくASTの岡峰美紀恵、メカニックのミルドレッド・F・藤村と会話している所に、突然DEMの無人兵器〈バンダースナッチ〉が現れたのだ。
しかし、それを確認してなお、燎子は今自分に何が起きているのか一瞬理解できなかった。
全く軋轢が無いとは言わないが、DEMはASTにも技術提供をしている、いわば立場である。普通に考えれば、ソコの兵器が燎子達を襲撃等する筈がない。
だが、明らかに今〈バンダースナッチ〉は燎子達に向かって戦闘態勢を取り、カメラアイを燎子に定め、そのまま勢い良く爪を振り下ろしてくる。
「ちーーーー」
燎子を顰めながらソレを避けると、携帯していた9ミリ拳銃を抜き、引き金を引いた。
が、随意領域‹テリトリー›で守られた〈バンダースナッチ〉に、そんな物は通じず、ボディに到達する寸前で静止し、そのまま床に落ちた。
〈バンダースナッチ〉達が、燎子達を囲い込むようにジリジリと距離を詰めてくる。
「た、隊長・・・・コレって、折紙さんが言っていた事に何か関係あるんじゃあ・・・・!?」
と、ソコで隣にいた美紀恵が、思い出したようにそう言った。
昨日、元同僚の折紙が謎の警告について、燎子は折紙と仲が良かった美紀恵とミリィと話をしていたのだ。
曰く、DEMは精霊の力を手に入れ、利用しようとしている組織で、2月20日にDEMから参戦要請があるかも知れないが、ソレを断れーーーーと。
成る程、確かに今の状況とソレは無関係とは思えなかった。いや、寧ろ折紙からソレを聞いてしまった事により、命を狙われているという可能性もあるだろうが。
どちらが真実なのかは燎子には判別が付かなかったし、先方にも、ソレを考える時間を与えるつもりはないようだ。
「く・・・・!」
大きく開かれた〈バンダースナッチ〉の手の平に魔力光が輝くのを見ながら、燎子はギリと奥歯を噛み締めた。
ー日依sideー
「え・・・・っ、え・・・・っ!?」
狼狽と困惑の中、朝倉日依は目を丸く見開きながら辺りを見回した。
何しろ自身のライブで歌を歌っている最中、バックダンサーの代わりに見知らぬ機械の人形が何体もステージに現れた。
観客達は戸惑っている者と、ライブの演出とおもって盛り上がっている者の半々である。
日依自身、ドッキリにしては、この機械の人形達はロボットに関する知識のない自分でも、異常と思えた。そんな事を考えていると、ロボットは両手に備えた爪を光らせながら、日依を囲うようににじり寄ってきた。
「ひ・・・・ッ」
その不気味な様に思わず声を詰まらせ、後ずさる。だが、後方からも同様にロボットが迫ってきていた。
「み、美九さん・・・・っ」
日依は半ば無意味の内に目を瞑り、アイドル仲間であり憧れの先輩でもある誘宵美九の名を呼んでいた。
とはいえ無論、そんなもので助けが来る筈もない。ロボット達は無機質な視線で日依を捉えると、その身体を四方から串刺しにするかのように爪の先端を向けた。
がーーーー次の瞬間。
DEMがこういうやり方をすると言う、想像力が足りなかった。