デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ードラゴンsideー
『ーーーー!』
『ムゥゥゥ・・・・!』
ワイズマンがドラゴンから魔力を奪おうとした。
ドラゴンの身体から、夜色、青、赤、黄色、橙色、紫、緑、銀、灰色、金と、色とりどりの色が重なり合ったエネルギーが、ワイズマンの手の平から身体に吸収されていく。
『ほう、素晴らしい魔力だ。しかし、妙だな? 貴様は本当に我らと同じ『ファントム』なのか? これは一体(ビキッ)ーーーーぐぉあっ!!』
『っ! ワイズマン!?』
突然ワイズマンがドラゴンから魔力を吸収するのをやめて腕を引っ込めると、白い魔法使いと戦っていたメデューサが、ワイズマンを支えその腕に視線を向けると、ワイズマンの腕が、内側から亀裂が走っており、今にも砕けそうになっていき、その亀裂が徐々に身体にまで走ってきたので、ワイズマンは腕を切り落とした。
『こ、これは一体・・・・!?』
『ウィザードラゴン・・・・貴様、どれだけの精霊の霊力を吸収したのだ・・・・?』
ワイズマンの言葉に、ドラゴンはフンッと鼻で笑ったような声を上げる。
『ざっと、〈ナイトメア〉と〈デウス〉以外の精霊全員の霊力。たっぷり喰って、自らの力に変えた』
『・・・・妙だな。我ら『魔獣ファントム』の魔力と精霊の霊力は水と油、決して混じり合う事はできない。〈ナイトメア〉とて、擬似ファントムと言って良いグールとインプ以外のファントムを喰らう事は無かった。下手に喰らえば身体が崩壊してしまう。我の腕のようにな』
ーーーーパン!
ワイズマンが示すと、切り落とされた腕が亀裂に呑まれ、内部から破裂するように爆裂した。
『ーーーーウィザードラゴン。貴様は一体なんだ?』
ワイズマンの問いに、ドラゴンはゆっくりと声を発した。
『その言葉、そっくりそのまま返してやる。ーーーーワイズマン。“貴様の『中』にあるのは一体何なのだ”? そして、“いつまで演技しているのだ『お人形』”?』
両者の間に静かな火花が飛び散る。
ー士道sideー
「ふーーーーッ」
「きゃはははははははははははははは!」
「死・ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
「くーーーー」
〈フラクシナス〉は、一瞬にして戦場と化していた。
ヘルキューレ‹エレン›とヘルキューレⅡ‹アルテミシア›のダーインスレイヴの刃が閃き、無数の頁が様々な形に変貌して飛来。ウィザード‹士道›はソレらを叩き斬るウィザーソードガン。様々な魔法。何度か〈ニベルコル〉達の命乞いの演技に攻撃を緩めそうになるが、歯を食いしばって屠って行く。
ビーストHA‹真那›はダイスサーベルにリングを押し当てると、『6』の出目が出て、マグナムミラージュの引き金を引くと、ビーストキマイラのエネルギー弾が6匹生まれ、イフリート‹琴里›もカマエルブレイカー・バズーカモードから火焔を放ち、次々と敵を薙ぎ倒していく。
DEMの保有する最大の戦力と士道達兄弟が相争う、濃密な戦場。
刹那の油断が死を招くであろう目まぐるしい攻防の中、ウィザード‹士道›は時に天使の力を、あるいは魔法を、あるいは2人を助け、あるいは〈ニベルコル〉に愛を囁やきキスをした。
だがーーーーその均衡はほんの数分で崩壊した。
『死』の無い圧倒的な物量の〈ニベルコル〉。唯一ソレを封印する事ができるウィザード‹士道›はヘルキューレ‹エレン›に集中的に狙われ、防戦一方にならざる得ない。
「どうしました? コレではすぐにあの世へ直行ですよ?」
「ふん! 手加減してくれるなんて随分とお優しいな!」
「勘違いしないで欲しいですね。ウィザードラゴンが戻り、あなたが本来の力を発揮できるまでの『暇潰し』をしているだけですよ。今のあなたごときを殺してしまっては、私の矜持‹プライド›が許しません!」
「はっ! そうやって余裕面していられる内に仕留めなかった事を、後で後悔するぜ!?」
「無駄口を叩いている内にーーーー死にますよ? ほら」
「うわぁっ!!」
必死にヘルキューレ‹エレン›の攻撃(超手加減)をギリギリ回避するウィザード‹士道›。
完全に弄ばれているが、ヘルキューレ‹エレン›が本気で来られたら、今のウィザード‹士道›では1分で首と胴体が永遠にお別れしているか、全身が文字通り細切れになっている筈なので、情けないが助かっていると言っても良い。
しかし、そうしている間に、イフリート‹琴里›とビーストHА‹真那›が〈ニベルコル〉に段々と圧されて行った。
「ぐ・・・・!」
「このーーーーゴキブリ並にしぶとくしつこいでやがります!」
「キャハハハハ、頑張るわねェェェェ!」
「でももう無駄だよ! これでーーーー」
「おしまいなんだからぁ!」
ヘルキューレ‹エレン›の攻撃をどうしけ受け止めるウィザード‹士道›。が、〈ニベルコル〉の放つ紙飛行機型の〈神蝕篇帙・頁‹ベルゼバブ・イエレツド›〉が、四方からウィザード‹士道›の身体を切り裂いた。
「くあ・・・・っ」
鋭い痛みと火花が視界に弾ける。
「・・・・余計な事はしないで貰いたいですね、〈ニベルコル〉。私と五河士道との戦いには手を出すなと言っておいた筈です」
「あぁ、何よエレン、その態度ー!」
「そうそう! いっつも負けてる癖に!」
「・・・・・・・・」
〈ニベルコル〉がそう言うと、ヘルキューレ‹エレン›は躊躇なく擬似精霊達の首と胴体を一瞬で撥ね飛ばした。
が、すぐに復活した。
「何すんのよー!」
「図星を突かれたからって八つ当たりしないで下さーい」
どうやらヘルキューレ‹エレン›と〈ニベルコル〉は相性が悪いようだ。
しかし、このままではいずれ押し切られる。妹達も、無数の〈ニベルコル〉に阻まれ、身動きが取れなくなっている。
「く・・・・やっと・・・・やっと、澪の『本当の望み』が分かったかも知れないのに・・・・!」
とーーーーウィザード‹士道›が絶叫染みた声を上げた、その時。
「ーーーーさて、今度こそ本当に、借りを返させていただきますわ、士道さん」
そんな声が、何処からか響いてきた。
そして次の瞬間、ウィザード‹士道›達がいた〈フラクシナス〉の外装一帯に、黒色の影が広がったかと思うと、その中から一斉に、無数のシルエットが飛び出してくる。
赤と黒の霊装。左右不均等に結われた髪。そしてーーーー左の眼窩に輝く時計の瞳。
そう。〈ナイトメア〉こと『時崎狂三』がその場に出現し、〈ニベルコル〉に、ヘルキューレ‹エレン›やヘルキューレⅡ‹アルテミシア›に組み付き、或いは影を固めた弾丸を放ったのだ。
「なーーーー!?」
「え・・・・っ!?」
『は、はぁぁぁぁっ!?』
流石に予想外だったのだろう。敵側の狼狽な辺りに満ちる。
無論、〈ニベルコル〉はまだしも、ヘルキューレ‹エレン›やヘルキューレⅡ‹アルテミシア›は、驚きながらも狂三達の攻撃を弾き、かわし、逆にその身体を袈裟懸けに切り裂いていたがーーーー不意を衝かれた事により、数瞬注意をソチラに向けざるを得なくなった。
だからーーーー気づかなかったのだ。
〈ニベルコル〉達の後ろに控え、指示を発していた指揮者。その背後にもまた、黒い影が蟠っていた事に。
「ーーーー漸く隙を見せてくれましたわね、アイザック・ウェスコット」
ソーサラー‹ウェスコット›が背後に向けてディースハルバードの柄を突き立てようとする。
ーーーードシュッ・・・・!!
「ぐっ・・・・!」
狂三の霊装ごと、脇腹を貫かれるーーーーがしかし、狂三の腕もまた、ソーサラー‹ウェスコット›のアーマーごと彼の胸を貫いた。
「ーーーーーーーー」
「アイク・・・・!」
ヘルキューレ‹エレン›の悲鳴染みた絶叫が、辺りの空気を震わせる。
夥しい血飛沫と共に、強制変身解除されたウェスコットの胸から、小さく、闇のような漆黒に染まった宝石ような結晶が姿を現した。
ーーーー霊結晶‹セフィラ›。ウェスコットが二亜から奪い取った、精霊の力の源である。
「うふふーーーー確かに、いただきましたわ」
狂三はニィと笑いながら言うと、空中に浮遊した霊結晶‹セフィラ›を奪い取り、後方へと跳躍した。
瞬間ーーーー。
「が・・・・!?」
「あ、あ、あああ・・・・っ!」
「お、お父、さ・・・・ま・・・・」
辺りに存在していた〈ニベルコル〉達が、不意に苦しみだし、バタバタと倒れたかと思うと、それぞれが1枚の紙に変化し、そのまま空気に溶け消えていった。
〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉の力によって生み出せれた擬似精霊〈ニベルコル〉は、その力の源である霊結晶‹セフィラ›が宿主から引き剥がされた事により、存在を保てなくなったのだろう。
それに合わせるようにして、周囲に展開していた幾人もの狂三の分身体が、ウェスコットに銃口を向ける。
「きひ」
「きひひひ」
「きひひひひひひッ!」
狂ったような笑みを浮かべ、分身体達が一斉に引き金を引いた。何発もの弾丸が、ウェスコットに収束していく。
「ーーーーああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
ヘルキューレ‹エレン›が吠え、自分に群がっていた狂三の分身体を切り飛ばしながら、ウェスコットの元へと猛進する。
叫びから1秒と掛からずにウェスコットの元に至ったヘルキューレ‹エレン›は、彼の身体を随意領域‹テリトリー›で包み込んだ。
だが、ソレでも数発の弾丸は、ヘルキューレ‹エレン›よりも早く着弾していたようだ。ウェスコットの右肩と左足、そして脇腹から鮮血がしぶく。
「く・・・・! アイク、大丈夫ですか!」
ヘルキューレ‹エレン›は仮面を解除して、随意領域‹テリトリー›でウェスコットの身体を支え、傷を止血しながら、周囲の状況を確認するように、眼球をグルリと巡らせた。
「ーーーー、アルテミシア! 退きますよ!」
思考は一瞬。判断は刹那。エレンが叫びを上げる。如何に元人類最強の魔術師‹ウィザード›たるエレンでも、〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉と〈ニベルコル〉を失い、その上手負いのウェスコットを庇いながら戦うのは分が悪いと判断したのだろう。
「ーーーーっ、了解!」
ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›が頷き、狂三の分身体を切り払って地面を蹴る。
ウェスコットを随意領域‹テリトリー›で抱えたヘルキューレ‹エレン›とヘルキューレⅡ‹アルテミシア›はその場を逃れると、そのまま凄まじい速さで空へと消えていった。
狂三の分身体が追撃とばかりに数発の弾丸を撃ち込みはしたものの、それを追いかける個体はいない。
狂三も分かっている。本気のヘルキューレ達に追いつける筈もないし、追ったとしても、あの2人が相手では徒に損害を増やすだけになる事も。
ードラゴンsideー
『っ! どうやら、向こうではひとまず1つ決着が付いたようだな』
『・・・・・・・・』
『ワイズマン・・・・!』
『一旦退くぞ』
ワイズマンがそう言うと、ワイズマンは転移魔法陣を展開すると、メデューサと共にその場を去る。
「逃げたのか・・・・?」
『すぐに戻ってくるだろう。我等も、一旦戻るぞ』
白い魔法使いが、『儀式‹サバト›』の生贄にされていた魔術師‹ウィザード›(気絶中)を魔力の鎖で縛り上げていた。他の地点にいた仁藤達からも、ファントム達が撤退し、気絶した魔術師‹ウィザード›達を捕縛したと言う報告を受けた。
『ならば、こちらも仁藤捜査官と合流して向かうぞ』
「ーーーーうむ」
白い魔法使いが応えると、転移魔法陣を展開してその場を去っていった。
ー士道sideー
「狂三・・・・!?」
一拍置いて、ウィザード‹士道›は仮面を解除して、漸くその少女の名を呼んだ。
間違いなくソコにいたのは、澪に殺された筈の精霊・時崎狂三であった。
しかも、『未来の世界』での狂三のように、1人の分身体のみを逃したものとも違う。天使の能力を備え、無数の分身体を伴った、紛れもない『本物の狂三』だった。
「ええ、ええ、ごきげんよう、士道さん。琴里さんに真那さんも。いかがなさいましたの? 固まったりして」
言って狂三がクスクスと笑う。分身体達もソレに倣ったものだから、辺りに奇妙な笑い声が霧のように立ち込めた。
「いかがって・・・・お前はさっき死んだ筈じゃ・・・・」
「あら、あら。澪さんの事を教えて下さったのは士道さんではありませんの。まさかこのわたくしが、何の方策も持たずに澪さんの前に立つ、士道さんのような出たとこ勝負好きな命いらずの博打打ちだと思いまして?」
「誰が出たとこ勝負好きだっ!?」
「いや、兄様って結構無策で行くタイプでやがりますよ」
「そうね。間違いなく出たとこ勝負に挑むタイプよね」
「お、お前らなぁ!!」
狂三の戯けるように言う言葉に、仮面を解除した真那と琴里もウンウンと頷き、士道は情けない顔になる。
それを見て狂三はまたクスクスと笑うと、短銃を自分のコメカミに押し当てるような動作をして見せた。
「ーーーー澪さんがわたくしから霊結晶‹セフィラ›を奪い、外界に出ようとした瞬間、【8の弾‹ヘット›】で生成した分身体に、わたくしの記憶と霊結晶‹セフィラ›を譲渡したのですわ。ーーーー無論、相応の準備は必要になりましたけれど」
「なーーーー」
狂三の言葉に、士道は目を丸くした。確かに情報を提供したのは士道だし、何とかして狂三が生き残る方法はないかと思ってもいたがーーーーまさかそんな事が可能だとは。
「って言う事は・・・・今のお前は、分身体の身体に本物の人格が乗っかってる状態・・・・って訳か?」
士道が言うと、狂三は何やら意味深に、フッと笑って見せた。
「まあ、詳しい事は追々お話しますわ。その機会があれば、ですけれど。ーーーーそれよりも、今は」
狂三は目を細めると、ウェスコットから奪い取った二亜の霊結晶‹セフィラ›を矯めつ眇めつ眺め、それに短銃の銃口を翳した。
「〈刻々帝‹ザフキエル›〉ーーーー【4の弾‹ダレット›】」
そしてそう言って、『撃った対処の時間を巻き戻す弾丸』である【4の弾‹ダレット›】を撃ち込む。
すると、闇のような漆黒に染まっていた霊結晶‹セフィラ›が、ボンヤリとした灰色の淡い輝きを帯び始めた。
そう。ーーーー反転していた霊結晶‹セフィラ›が、元の状態の、灰色に輝くアレキサンドライトスピネルのような形に戻った。
「漸く、漸く手に入りましたわ」
狂三はニィと笑うと、霊結晶‹セフィラ›を自分の胸元に押し当てた。すると、霊結晶‹セフィラ›は一際強い輝きを放ちーーーー狂三の胸に吸い込まれていった。
「あーーーーはァ・・・・」
狂三は満足気に微笑み、快感を覚えるように身体を震わせる。
「ああ、ああ、滾りますわ、滾りますわ。これがーーーー2つ目の霊結晶‹セフィラ›。うふふ、今ならば何でも出来てしまいそうですわ」
「狂三・・・・!? お前、一体何をーーーー」
と、士道が驚愕に目を見開きながら叫ぶと、それに合わせるかのように、別の叫び声が聞こえてきた。
「シドー!」
「士道さん・・・・!」
次の瞬間、〈フラクシナス〉の外装に開いた孔から、〈仮面ライダー〉となった精霊達が飛び出してきた。どうやら各々の場所で〈バンダースナッチ〉を撃破し、ゾディアック‹六喰›の力で戻ってきたのだろう。
「すまぬシドー! 遅くなったーーーーんん?」
プリンセス‹十香›が身を翻しながらザンダルフォンブレードを構えるが、ソコにいた狂三の姿を認めて首を傾げた。
他の精霊達も、ゾディアック‹六喰›と二亜から最低限の状況説明を受けていたのだろうが、流石に狂三の存在は予想外だったのだろう。プリンセス‹十香›と同じ反応を示した。
「狂三・・・・?」
「えっ、どうしたんですかー?DEMの人達がだーりん達を襲ってるって二亜さんから聞いたんですけどぉ・・・・」
美九が辺りをキョロキョロ見回しながら言うと、狂三は可笑しそうに笑った。
「うふふ、申し訳ありませんけれど、士道さんを助ける役はわたくしがいただいてしまいましたわ。まあーーーー」
言って狂三が、自嘲気味に肩をすくめる。
「ーーーーどうやら、さらに厄介なお方がおいでになってしまったようですけれど」
「え・・・・?」
狂三の言葉に、微かに眉根を寄せる。
がーーーーそれから刹那の間も置かず、察しの悪い士道はその言葉の意味を理解した。否、半ば強制的に理解させられた。
士道が瞬きをした次の瞬間、世界が、様変わりした。
「なーーーー」
夕日に染められた雲海から、鋭利な直線で構成されたモノクロの空間へと、一瞬にして辺りの景色が塗り替えられる。
まるで夢の中でも放り込まれたようなーーーー否、どちらかと言うと、美しい夢から覚まされ、冷たい現実に呼び戻されたかのような感覚だ。
「・・・・! 士道さん!」
「これは・・・・!」
精霊達が狼狽と動揺に満ちた声を上げる。
士道も気持ちは同じだ。突然の事に、一瞬言葉を失う。
だが、皆と士道には決定的な違いがあった。士道は既に1度、この現象を体験していた。
「澪・・・・ッ!」
喉を絞るようにしてその名を呼ぶ。これは澪が持つ3つの天使の1つ、『輪廻楽園‹アイン・ソフ›』の権能だ。
「ーーーーうん。ゴメンね、シン」
士道の呼び声に応えるかのように、空中からそんな声が響いてくる。ハッと目を見開きソチラに目をやると、先程まで何も無かった虚空に、いつの間にか澪の姿が現れていた。
否、それだけではない。その頭上には、中心に少女を包んだ花が、背後には、幹に少女を抱いた大樹が、枝と根を放射状に広げるような格好で浮遊していた。
万物の命を奪う、死の天使〈万象聖堂‹アイン・ソフ・オウル›〉。
あらゆる条理を書き換える、法の天使〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉。
そして、あらゆる条理を無視して全てを『消す』無の天使〈 ‹アイン›〉。
それは、澪を神如き存在たらしめる両翼と切り札。規格外の力を有した破滅の使徒達である。
「あんな陽動に引っかかるなんて、私もまだまだだな。でも、無事て良かったよ。狂三も、ありがとう。シンを守ってくれたんだね」
「・・・・あら、あら」
澪の感謝の言葉に、含む処は感じられなかったがーーーー否、感じられなかったからこそかーーーー狂三は深いそうに顔を歪めた。
「シドー!」
プリンセス‹十香›の叫び声に合わせるようにして、精霊達が士道を守るように展開する。皆油断なく澪を睨みながら、武器を構えてみせた。
「澪の狙いは士道。私達が時間を稼いでいる間にドラゴンと合流して」
「話を聞くに、真那であれば、殺される事はねーです。1番槍はおまかせを」
士道の前に陣取ったエンジェル‹折紙›TS(トリニティスタイル)とビーストHA‹真那›が、目線を澪から外さぬまま言ってくる。
「・・・・・・・・」
しかし士道は、変身を解除し、グッと拳を握り込むと、彼女らの肩に手を置き、前に進み出ていった。
「シドー!?」
「静止。何をしているのですか、危険です」
精霊達が士道を制止してくる。が、士道は構わず歩みを進めた。
この空間に囚われてしまった時点で逃げる事など不可能である事は身を以て体験済であるしーーーー何より、“澪を救う”為には、“澪の『最後の希望』になる”為には、逃げてなどいられない。
そう。士道は漸く気づいたのだ。
令音とキスを交わしてから断続的に生じる頭痛の『理由』に。
その際断片的に呼び起こされる記憶の『正体』に。
ーーーーそして、それが指し示す『真実』に。
「・・・・澪」
「ーーーーシン」
士道が名を呼ぶと、澪が何処か嬉しそうにそう返してきた。
その所作に、表情に、心臓がキュウと締め付けられるが同時に、澪の目には『五河士道』は映っていないも察せて、胸の中にモヤモヤとした『感情』も覚える。
だが、その痛みと気持ち悪さを押して士道は続けた。
「・・・・漸く、分かったよ。この記憶はーーーー澪、お前のモノだったんだな」
コメカミに手を触れながら、澪の目を見つめる。
確かに、令音の攻略は失敗に終わった。キスによって経路‹パス›こそ繋がったものの、霊力の封印は行われなかった。あまつさえ繋がった経路‹パス›を通じて、士道が持つ未来の記憶を知られてしまった。まさに、考え得る限り『最悪の結果』と言っても良い。
しかし、それによってもう1つの出来事も起こった。
経路‹パス›によって士道の記憶が令音に共有されたのと同様に、令音ーーーー澪の記憶もまた、士道に共有されていたのだ。
真士を失った『絶望』が、『悲哀』が、ありとあらゆる負の感情が一気に流れ込んできて、士道は酷い頭痛に苛まれていたのだ。
だが、澪の絶望の中に1つだけ、小さく輝く『希望』の光の存在があった。
それこそがーーーー士道の存在だったのだ。
しかしーーーー。
「・・・・俺は、お前の霊力を封印する事ができなかった。きっと、単純に力が足りなかったって言うのもあるんだろう。お前は始原の精霊。対して俺は、まだ全ての霊結晶‹セフィラ›を集めきってもいない半端者だ。でもーーーーソレだけじゃない。ソレだけじゃ・・・・なかったんだ。単純な理由だよ。今まで何度も琴里に聞かされてきた。ーーーー精霊の霊力を封印する為には、精霊の心を開かせて、キスをしなきゃならないって。けど、澪はまだ、俺に心を開いてくれちゃいなかったんだ・・・・」
「・・・・シン?」
ーーーー・・・・それだけではないがな・・・・。
士道の言葉に、澪が困惑した表情を浮かべ、ドラゴンのボソッとした声が聞こえた気がした。
そしにソレに合わせるようにして、後方からイフリート‹琴里›の怪訝そうな声が聞こえてきた。
「どう言う事? 確かにあの時、彼女の好感度は封印可能域に達してーーーー」
「違う。違うんだよ。そんな陳腐な数字じゃあない。澪が好きなのはーーーー士道‹俺›じゃなく、真士‹シン›なんだ」
そう言うと、士道は滲みそうになる涙を抑え、詰まりそうになる言葉を吐き出した。
「そして真士は・・・・“もう、いないんだ”」
「ーーーーーーーー」
澪が、言葉を失い、目を見開く。
ゾワリと言う悪寒が背筋を通り抜ける。自分自身が発した言葉によるものなのか、澪の心をつぶさに感じ取った〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉によるものなのかは分からないが、周囲の気温までグンと下がったような気さえする。
澪が、微かに震える唇から、言葉を零す。
「何をーーーー言ってるの、シン。だから私は、シンを作り直したんだよ? 精霊の力を与えて、今度は死なないようにーーーー」
「・・・・ああ。お前の力は凄いよ。でも、仮に俺が全ての霊結晶‹セフィラ›を集めた上で、俺の頭から『五河士道』の記憶を失わせたとしてーーーー」
士道は一瞬言葉を止めた。
それは、澪の心を砕くやも知れない最悪の1言である。澪の事の愛しく思う真士の『記憶』が、令音を慮る士道の『心』が、それを発する事を拒んだ。
けれどーーーー言わなければならない。士道は血が滲まんばかりに拳を握り締めながら、その1言を放った。
「ーーーー“それは、本当に真士なのか”?」
遂にウェスコットを討った狂三。
遂にワイズマンの正体を見抜いたドラゴン。
そして、遂に澪に、残酷な言葉を告げた士道。