デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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士道と澪、もう1人の自分と出会う。


遭遇・真士と澪?

ー士道sideー

 

ーーーー最初に感じたのは、熱だった。

ジリジリと鉄板の上で焼かれるような、熱。

次いで、光。固く閉ざされた瞼をものともせず、強に輝きが、網膜に刺激を与えてくる。

 

「ん・・・・」

 

小さなうめきとともに、士道は身動ぎをした。ソコで漸く、自分が仰向けに倒れていた事を自覚した。

 

「そうだ、俺はーーーー」

 

混濁し、断絶していた記憶が、繋がった。

自分は澪の力を封印する為、キスをして、ドラゴンを身体から追い出した。

 

「・・・・!」

 

ソレを自覚し、士道はカッと目を開くと、弾かれるように飛び起きた。

 

「・・・・・・・・・・・・は?」

 

色々な思考がゴチャゴチャとなったのに反して、口から溢れたのは、僅かな困惑だった。

辺りに広がっているのはーーーー茫洋たる海原と、ひたすら高い空。鼓膜を震わせるのは、寄せては返す波の音と、時折響く海猫の鳴き声がする。ただただ穏やかな海辺の風景だった。

 

「ここは・・・・」

 

言いかけて、士道は気づいた。ーーーーその風景に見覚えがあった。

そう。ソコは、士道が令音とのデートに選んだ海岸であった。

だが、全てが同じでは無かった。季節が違っていた。2月の寒空と何処か張り詰めたような冷たい空気もなく、その代わり、初夏のような日差しが辺りを照らしていた。

言うなれば、ソレはーーーー。

 

「・・・・シン」

 

「うひぁっ!?」

 

と、試行の最中、不意にそんな声をかけられ、士道はビクッと肩を震わせ、マヌケな声を上げた。

砂浜に手を突きながら、声のした方向を向く。するとソコに、霊装ではなく、涼しげな格好をした令音が立っていた。まぁ自分も変身が解除されていた。ドラゴンを追い出したのだから当然とも言えるが。

 

「れ、令音さん・・・・!?」

 

士道は思わず裏返った声を上げた。

しかしソレも当然だ。先程まで激しい攻防を繰り広げていた相手に、急に声をかけられれば驚きもするだろう。

ソレにーーーーもう1つ。士道が目を丸くした理由があった。

ソコに立っていたのは、『澪』ではなく、『令音』だった。

 

「な、何がどうなってるんですか、これ・・・・皆は? 〈フラクシナス〉は・・・・?」

 

「・・・・手を」

 

令音は答えず、ただそう言って手を差し伸べてきた。

 

「え? あ、ああ・・・・ありがとうございます」

 

何ともマヌケな反応だと自覚しながらも、その手を取って立ち上がる。

恐らくこの不可思議な空間は、令音の手による物なのだろうがーーーー彼女の様子を見る限り、士道に害意を持っているようには見えなかった。

というかそれ以前に、何故彼女は今、令音の姿を取っているのも良く分からない。確かに彼女は先程、狂三の中から出てきた澪と合体し、完全な〈デウス〉こと『崇宮澪』となった筈だーーーー。

 

「ーーーーおーい、こっちこっち!」

 

と。

ソコで、背後から響いてきた声に、士道は思考を中断させられた。

見やると、砂浜に、こちらに手を振る少女と、その隣に立つ少年の姿が見れた。

 

「はーーーーーーーー」

 

その姿を見て、士道は息を詰まらせた。

しかしそれも当然だった。ーーーーそれ程までに、その光景は異常だった。

先ず手を振る少女。つばの広い麦わら帽子に、真っ白いワンピースを纏った16歳位の絶世の美少女。長い髪を緩く三つ編み状に結わえており、手を振る度にその先端がピョコピョコと揺れていた。

 

「(ーーーー澪・・・・?)」

 

間違いない。ソコにいたのは、始原の精霊・崇宮澪その人であった。

士道は思わず、隣にいる令音を見た。その存在感は、幻影とも妄想とも思えない。同一人物である筈の『澪』と『令音』が、別の個体としてソコに存在していた。

とは言え、それだけならば士道はソコまで驚かなかった。澪と令音は自らの存在を切り分け、あたかも分身体のように並列に存在できるからだ。

本当に驚愕したのは、その澪の隣にいる少年にだ。

ーーーー涼しげな夏服に身を包んだ、中性的な顔立ちの少年。澪の隣に立ちながら、何やら気恥ずかしそうにハニカムような表情で士道を見ている。

その顔を見て、言葉を失う。何故ならその顔はーーーー。

 

「お、俺・・・・?」

 

呆然と、言葉を零す。

そう。ソコにいたのは、士道と瓜二つ、等と言い表せない程に、『同じ』顔をした少年。

やがて少年は、彼の正体に思い至った。

 

「いや・・・・違うか。お前はーーーー」

 

士道はもう1人の自分の顔を見据えながら、静かにその名を呼んだ。

 

「ーーーーシン。崇宮真士・・・・か?」

 

士道がそう言うと、少年ーーーー真士はフッと頬を緩めてから、小さく頷いてきた。

 

「ああ。一応初めまして・・・・になるのかな?」

 

言って真士が、小さく肩をすくめてくる。

士道は、自分で彼を真士と言っておきながら、状況が上手く理解できず、混和脱ぎ間に眉根を寄せた。

 

「これは・・・・一体。ソレにここは・・・・」

 

と、呆然と呟くと、令音がソレに応えるように小さく唇を動かしてきた。

 

「・・・・どうやら、〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉で形成された空間のようだね」

 

「どうやら・・・・って、この空間、令音さんが作ったんしゃないんですか?」

 

「・・・・恐らくそうなのだろう。少なくとも、私の力に由来する現象であるのは間違いない。たが・・・・あまり自覚がないというのが正直な所だね」

 

「それって、どういう・・・・」

 

自覚が問うと、令音は、指先で自分の唇に触れてから続けてきた。

 

「・・・・あの時、君は私にキスをしたろう?」

 

「・・・・はい」

 

突然の言葉にドキリとしながらも、首肯で返す。それは確かだ。澪の方の感触も、唇の柔らかさも、鮮明に思い出す事ができた。

 

「・・・・それにより、経路‹パス›を伝って共有された記憶が再現されているようだ。その際、より記憶に近い状態を作り出す為に、『私』と『澪』、そして『士道』と『シン』の意識が切り離されたのではないかな」

 

つまり、目の前にいる『真士』と『澪』は、士道と令音の中にいる『澪の人格』と『真士の記憶』が具現化した存在と言う事だ。

 

「な・・・・成る程。でも、一体何でそんな事に・・・・」

 

と、士道が困惑気味に問うと、不意に澪が、士道と令音の手を取ってきた。

 

「良いじゃない、そんなの。ーーーーソレより、遊ぼう? 折角の海なんだから」

 

そしてそう言って、屈託のない笑みを浮かべてくる。

その表情からは、先程までのような危うさや妄執の色は、全く見受けられなかった。まるで、30年前ーーーー真士が死んでしまう前の澪に戻ったかのようだ。

 

「え? いや、俺は・・・・」

 

士道は慌てて言葉をつごうとしたが、勢い良く澪に手を引かれ、半ば強制的にソレを止めさせられた。

 

 

 

 

 

 

ーウッドマンsideー

 

「DEM艦隊、〈デウス〉によりほぼ壊滅!」

 

「各地に現れた〈バンダースナッチ〉隊は、精霊達により全て撃破!」

 

「〈デウス〉、五河士道を飲み込み力場を形成」

 

〈ラタトスク〉空中艦〈ウルムス〉の艦橋には、様々な情報が飛び交っていた。目まぐるしい戦場の情勢。吉報と凶報が入り交じる混迷の知らせ。全てを把握し切る事は困難な情報の暴風である。

けれど、ソレらの情報は、たった1つの報告に集約された。

 

「ーーーー〈デウス〉以外の精霊達はーーーー皆、無事です!」

 

その報を聞いて、クルー達は安堵の息を吐いたのが、ウッドマンの耳に入り、すぐに皆がソレを誤魔化すような咳払いが響く。

その一連の音を聞いて、ウッドマンはフッと頬を緩めた。

 

「ーーーーどうやら、死に損なってしまったようだ。まさか、〈ナイトメア〉がアイクを討つとは」

 

「ええ。彼女には感謝せねばなりませんね」

 

背後に控えたカレンが、落ち着いた調子でそう返してくる。付き合いの長いウッドマンは、彼女が心から安堵し、またこの上なく喜んでいるのが感じ取れた。

とは言え、まだ全てが終わった訳では無いので、油断してはいかない。

 

「〈デウス〉の様子は?」

 

「ーーーーは。ただ今調整中ですが・・・・未だ詳しい事は。〈フラクシナス〉から情報が入り次第ご報告します」

 

「ああ、頼むよ」

 

クルーが応えると、ウッドマンはメインモニタに表示された球体に目を向けた。

滑らかな表面を誇る、繭のような物体。〈デウス〉が一体何を思ってあんなものを形成したのか分からなかったが、彼女の、そして共に呑み込まれた士道の安否が確認できるまでは、この戦闘は終わった事にならなかった。

 

「2人とも無事に出てきてくれるのが最善だが・・・・どうなるかな」

 

ウッドマンは髭を撫でながら言うと、スッと目を細めた。

この戦場には〈デウス〉の他にもまだ2つ、懸案事項が残っている。

 

「ソレで、アイクーーーーウェスコットとファントム達は?」

 

「は。アイザック・ウェスコットは、〈ナイトメア〉に霊結晶‹セフィラ›を奪われた後、エレン・メイザース及びアルテミシア・アシュクロフトと共に戦場を離れ、120秒後に反応消失。既に逃亡したか、地上の何処かに潜伏しているかと思われます。国安0課からの知らせでは、『魔獣ファントム』は『儀式‹サバト›』を諦め、首領のワイズマン・ファントムはメデューサ・ファントムと共に転移し、グレムリン・ファントムを含めた他のファントムも撤退しましたが、方向からこの天宮市に向かっていると思われるそうです」

 

パーソナルモニタを見ていたクルーがそう言って、顔を上げる。

 

「無論、ワイズマン達と合流し、エレン・メイザースとアルテミシア・アシュクロフトが奇襲する可能性があるので中を払っていますが・・・・霊結晶‹セフィラ›を失い、艦隊も壊滅した以上、アイザック・ウェスコットは最早ソコまでの脅威ではないのでは? それ以前に・・・・あの重傷です。もう死亡している可能性だって考えられます」

 

クルーの言葉に、ウッドマンはフム、と息を吐いた。

 

「そう思うかね。・・・・いや、無理もない。確かにソレだけを聞けば、彼は完全なる敗軍の将だ。彼の死に奮起した部下が命をなげ売って突貫してくる事はあれど、彼自身がこの上何かをできるとは到底思えない。ーーーーだが、ソレで終わらないのが、アイザック・ウェスコットと言う男だ。ーーーー止まらないのだよ。嫌な予感がね。あの天才が、人によっては怪物とすら思えるような男が、こんな幕引きをする筈がないと」

 

ウッドマンが言うと、その只ならぬ様子を察してか、クルーがゴクリと喉を鳴らした。

 

「り、了解です。捜索をーーーー」

 

と。クルーが言いかけた瞬間、艦橋にけたたましい警報が鳴り響いた。

 

「何事です」

 

カレンが至極落ち着いた声音でクルーに問う。するとクルーがモニタの数値を確認し、ヒッ、と声を詰まらせた。

 

「これは・・・・霊波反応と魔力反応です! とびきり巨大な反応が、〈フラクシナス〉のすぐ近くに生じています!」

 

「何ですってーーーー」

 

と、ソコでカレンが言葉を止める。

 

「・・・・・・・・」

 

だが、その理由はウッドマンには良く分かった。

彼女も純粋魔術師‹メイガス›の1人。ウッドマンと同じく感じ取ったのだろう。そして思い出したのだ。ーーーーその感覚に、覚えがある事を。

 

「エリオット、まさかこれは」

 

「ああ。間違いない。ーーーー精霊術式だ」

 

カレンの言葉に、ウッドマンは表情を険しくしながら首肯した。

そう。間違いない。間違えようがない。

この濃密なマナの奔流はーーーー30年前、ウッドマン達が始原の精霊を生み出した時のソレと、同種のものだったのだ。

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

「はぁ・・・・っ、はぁ・・・・っ」

 

「ちょ、ちょっと休まないか、澪・・・・」

 

抜けるような青空の下、額に玉のような汗を浮かべた士道と真士は、肩で息をしながら嘆願するように言った。

先程から2人は、海水浴、砂の城作り、磯釣り、スイカ割り、果てはビーチバレーと、海辺でできる事を網羅する勢いで遊びまくっていたのだから、仕方ないと言えるが。

一見すれば、仲良し4人組。或いは高校生3人と引率の先生。ーーーーもしくは、2組のカップルのダブルデートだ。

 

「あ、ごめん。つい楽しくて・・・・」

 

「・・・・そうだね。では少し休憩しようか」

 

澪と令音がそう言って、同時にパチンと指を鳴らす。

すると、辺りから光の粒のような物が集まってきて、砂浜の上にキャンプ用のテーブルと椅子、更に大きなビーチパラソルが出現した。次いでにテーブルの上には、キンキンに冷えたドリンクまで置かれている。

まるで魔法のような光景。先程彼女らが釣り竿やスイカを出現させるのも見ていた筈なのに、士道はまたも目を剥いてしまう。

 

「ホント何でも出てくるんですね・・・・」

 

「・・・・〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉の中は極小の『隣界』。意志の力が現実に作用する世界だ。魔術師‹ウィザード›達の随意領域‹テリトリー›は現象を起こすのが精一杯だろうが、ココでは物質を具現させる事だって不可能ではない。シンーーーーいや、士道、君だって霊力や魔力を持っているんだ。慣れればできる筈だよ」

 

ここに真士がいるので、士道の名を呼んだ。

 

「そうなんですか?」

 

「えっ、ソレ俺もできます?」

 

と、本物の真士がワクワクした様子で問う。が、令音は難しげな顔で顎に手を置いた。

 

「・・・・どうだろうね。士道は自分の魔獣の魔力を宿し、精霊達の霊力を封印しているが、シンは言わば、普通の人間たからね。再現される際どう存在を切り分けられたかによるんじゃあないかな?」

 

「そ、そうですか・・・・」

 

真士がショボンと肩を落としながら、士道を何処か羨むような目で見てくる。

 

「・・・・良いなぁ、魔法に霊力。・・・・お前も俺なんだし半分こしない?」

 

「ええ・・・・」

 

士道が頬に汗を垂らしながら苦笑すると、真士が懇願するようにズイと迫ってきた。

 

「頼むよー。〈囁告篇帙‹ラジエル›〉と〈刻々帝‹ザフキエル›〉と〈封解主‹ミカエル›〉と〈贋造魔女‹ハニエル›〉と〈破軍歌姫‹ガブリエル›〉でいいからさー」

 

「完全に戦闘向け天使ばっかり残しやがって!」

 

切り分けられた存在たからか、ある程度天使の知識を有しているらしかった。的確に便利そうな天使だけ選択してくる。たまらず士道が叫ぶと、真士はアハハと笑いながら士道を宥めるように手の平を広げた。

 

「冗談冗談。ソレより、折角2人が用意してくれたんだ。休もうぜ。もう喉がカラカラだよ」

 

「ああ・・・・そうだな」

 

士道がそう答えると、砂浜に出現した椅子に腰掛け、瀟洒なグラスに注がれたトロピカルジュースを喉に流し込んだ。

 

「ぷはぁ・・・・!」

 

何やら声が被ってしまい、テーブルの向かいを見やると、2人が同じような表情をしながらコチラを見てきた。

 

「ふふ」

 

「・・・・まるで鏡合わせだね」

 

ソレを見ていた澪と令音が、フッと口元を緩める。士道は何だか少し照れ臭くなって視線を逸らしたが・・・・その動作すらも、真士と同時だった。元々同じ人間なのだから、似てしまうのは仕方ないかも知れんが。

と、ソコで、テーブルの向いから、くぅ・・・・と言う可愛らしい音が聞こえてきた。

 

「あはは、お腹が鳴っちゃったみたい」

 

言って澪が小さく笑う。恐らくジュースを飲んだ事により、胃が刺激されたのだろう。アレだけ遊んだのだ。お腹が空くのも当然だ。

 

「・・・・ふむ、では軽く食事をしてしまおうか」

 

「うん。シンに士道、何かリクエストはある?」

 

言って令音と澪が、魔法使いよろしく人差し指でクルンと空中に円を描くような動作をしてみせる。彼女らの手にかかれば、どんな料理だって一瞬にして再現されるだろう。

が、ソコで真士が、何かを思いついたようにポンと手を打った。

 

「あ、そうだ。なら澪、調理設備と材料を出してくれるか?」

 

「設備と材料?」

 

「ああ。ーーーー士道も、結構“やる”んだろう?」

 

そう言って真士がキラリと目を輝かせ、包丁で野菜を切るような仕草をしてくる。士道は眉を動かした。

 

「へえ・・・・? マジか。やる気かよ」

 

「ああ。折角のご飯だ。ポンと出して終わりじゃあ味気ないだろ? ちょうど審査員も2人もいるんだ。どっちの料理が美味いか、決めて貰おうじゃあないか。課題は・・・・そうだな、海の家の定番、焼きそばでどうだ?」

 

「よし乗った。相手にとって不足はない!」

 

真士の提案に応じ、士道は立ち上がった。

するとソレを見た澪と令音が一瞬顔を見合わせ、楽しげに微笑んでから、2人同時にパチンと指を鳴らした。

次の瞬間、砂浜の上に、見事な調理台と大きな鉄板、そして色とりどりの野菜や肉が現れる。次いでに士道と真士の身体に、いつの間にかエプロンが装着されていた。

 

「おお・・・・っ!」

 

「はは・・・・ホントに凄いな」

 

士道は真士と笑い合うと、それぞれ調理台の前に立ちーーーー調理を開始した。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

互いの裂帛の気合いを発しながら、野菜を切っていく。別に叫ぶ必要はないのだが、雰囲気とノリでやっている。

そして淀みない手つきで鉄板に油を引き、野菜に肉、麺を投入した後、ソースを味付けをする。

程無くして、士道と真士、両方の料理がほぼ同時に完成した。焼きそばを皿に盛り付け、令音と澪の前に給仕する。

 

「・・・・ほう」

 

「わあ・・・・!」

 

2人は芳しいソースの香りに感嘆の声を上げると、2皿の料理を見比べるように矯めつ眇めつ眺めた。

 

「・・・・見た目はほぼ同じだね。どちらも美味しそうだ」

 

「うん。そもそもシンと士道ってほぼ同一人物なんだし、ソコまで差って出るのかな?」

 

等と、本末転倒な事を言ってくれる。

しかし士道と真士はフッと唇の端を上げると、2人に向けて手を広げた。

 

「ソレはどうかな? まあ、兎に角お熱い内に!」

 

「召し上がれ!」

 

「「・・・・いただきます」」

 

士道と真士が言うと、令音と澪は手を合わせて言った後、順に焼きそばを食べ始めた。

 

「・・・・ふむ。美味いものだ」

 

「うん、美味しい」

 

やがて2人が両方の焼きそばを賞味し、何やら視線を交じらせてから、どちらからとも無く頷き合う。

士道と真士はその動作で、2人の間で評価が下った事を悟った。

 

「さあ・・・・では!」

 

「より美味しかった方を教えてくれ!」

 

士道と真士が微かに緊張を滲ませながら言うと、令音と澪は、いつの間にかテーブルの上に出現していた回答札のような物を手に取り、同時にオープンして見せた。

ーーーー2人の回答札には両方、『士道』の文字が書かれていた。

 

「よっしゃ!」

 

「なんでだぁぁぁぁぁッ!?」

 

士道がガッツポーズを取ると、その隣で、真士が砂浜に膝を突く。ソレを見ながら、士道はニッと唇を歪めた。

 

「ーーーー分からないか、真士。お前は鉄板を使いこなせていなかったのさ」

 

「な、何だって・・・・!?」

 

真士がバッと顔を上げてくる。士道はヘラを操るような仕草をしながら続けた。

 

「お前の腕も大したもんだよ。もしこれがフライパンでの勝負だったら、結果は引き分けだったかもな。でも、鉄板で焼きそばを作るなら、その広い面積を利用して麺を1本1本を焼かないと勿体ないぜ。コレにより、外側はカリッと、中はモチッとの食感を作り上げるのさ」

 

「な・・・・ッ、でも、日常生活で鉄板を使う事なんて無い筈! お前は一体何処でその技術を・・・・!」

 

戦慄した様子で目を見開く真士。士道はフッと息を吐いた。

 

「ーーーー甘いな。俺が日頃、一体何人の精霊達に飯を作ってると思っているんだ! お前とは、振るってきた鍋の数が違うのさ!」

 

「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーッ!」

 

士道が指を突きつけ高らかに言うと、真士が胸元を押さえ砂浜に仰向けに倒れ込んだ。

ドラゴンが見たら「馬鹿と馬鹿が阿呆な戦いを繰り広げている」と言いそうなやり取りを見ていた令音と澪が、不思議ほうに首を傾げる。

 

「・・・・2人とも、食べないのかい?」

 

「冷めちゃうよ」

 

「「あ、はい。いただきます」」

 

士道と真士は姿勢を正すと、エプロンを外してお互いの焼きそばを食べ始めた。

お互いに味を認め合い、澪はシンの料理の方が好きと言われ、令音と澪がかき氷をご馳走すると言い、真士はメロン、士道はイチゴを選び、お互いの違いを言い合っていると、澪と令音が感慨深げにそれを聞いていた。因みに令音はメロンで澪はイチゴだった。

そして士道は、改めてこの〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉によって作られた空間を見回す。外の時間との進み方が違うようで、ここでもう5時間は遊んでいるが、令音曰く、外では数分しか経っていないようだ。

しかし、呑気に遊んでいる訳にはいかない。まだ士道は『目的』を達していないのだ。それにーーーー。

 

「・・・・・・・・」

 

士道はチラと、真士と心から楽しそうに談笑している澪を見やる。

彼女に対する感情は、この空間に呑み込まれる前のソレとは違う気がしてならなかった。いや、変わらず澪を愛しいとは思うし、『好き』とも思う。

しかし、先程の呪いじみた恋慕の情とは、明らかに異なる、まるでそうーーーー“五河士道の母である『五河遥子』に向ける物と似ているような”。

それだけではない。この空間に呑まれる前までは、自分の行動を支配されそうな程に強烈だった真士の『記憶』が、『念』が、今は鳴りを潜めていた。

無論、『真士の記憶』は有るがーーーー1言で言うと、『実感』が薄れているようだった。

 

「・・・・シンであった実感がないーーーーかい?」

 

「ーーーーっ!?」

 

ソコで不意に発された令音の言葉に、士道は小さく肩を揺らした。

テーブルの向いで、笑い合っている真士と澪に聞かれないように声をひそめる。

 

「・・・・この空間、心も読めるんですか?」

 

「・・・・君は考えている事が表情に出やすいからね」

 

「んぐっ!」

 

士道は、そんなに自分は分かりやすいヤツなのか、と不甲斐なく思うが、令音は続ける。

 

「・・・・それに、君も、“私と同じかと思ってね”」

 

「えーーーー?」

 

「・・・・存在が切り分けられた際に、『澪』としての感情がアチラの澪に行ってしまったのかも知れないね。無論『記憶』はあるが・・・・何と言うか、不思議な感覚だよ。本当に『村雨令音』になってしまったかのようだ」

 

「令音さん・・・・」

 

士道は呟くように言うと、再度2人に目を向けた。

先程の士道に軍配が上がった料理対決。それは士道自身が言った通り、精霊達が存在したからこその勝利(しょうもない)だった。

それだけではなく、真士と士道は元は同じ存在なのかも知れないが、今に至る人生の中で経験した様々な出来事が、出会った人々が、くぐり抜けた戦いが、その『人格』を形作った。

決して、同じ人間ではない。そんな当たり前の事に、改めて思い至る。

そして、それはきっとーーーー。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

士道はキュッと唇を噛むと、数秒程深呼吸をしーーーー意を決するように声を上げた。

 

「・・・・なあ、澪、真士」

 

「ん? どうしたの? 士道」

 

「なんだ? 次は炒飯対決か? 今度こそ負けないぞ」

 

澪が首を傾げ、真士がファイティングポーズを取りながら言ってくる。

士道は令音を一瞥した後、続けた。

 

「いやーーーー腹ごなしにさ、少し・・・・歩かないか?」

 

士道の提案に、真士と澪は一瞬視線を交じらせた後、頷いてきた。




真士と士道の対決、妙にアホの空気が流れている。
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