デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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LIKEとLOVEは、似ているようで違う感情である。


澪・本当の望み

ー士道sideー

 

ーーーー何処までも広がるかのような砂浜に、4人の足跡が描かれ、暫しの後、波によって消されていく。その度に足元に冷たい感触が生まれ、微かに砂に足が沈み込む。

降り注ぐ太陽の日差し。頬を撫でる潮風。ソレラが一体となって、士道に夏の訪れを感じさせた。ココしかない、偽物の夏の到来を。

 

「んーーーーーーーー」

 

前を歩いていた澪が、大きく深呼吸をするように伸びをする。

 

「本当にーーーー気持ち良いね。ふふ、此処に連れてきてくれたシンには感謝しなくちゃ」

 

澪がそう言うと、その隣を歩く真士が嬉しそうに、しかし何処か照れ臭そうに微笑んだ。

 

「お気に召したなら何よりだ。景観の良い場所探すの、結構苦労したしな。あんまり遠すぎても行けないし。士道の時代はスマホとか言うのがあるんだろ? ずるいよなー。いつでもどこでも世界中の情報が収集できるって便利すぎるだろソレ」

 

肩をすくめながは、冗談めかすように言う真士に曖昧な表情で苦笑する士道。

 

「・・・・士道」

 

「大丈夫です」

 

と、そんな士道の様子を察したように、隣にいた令音が声をひそめて話しかけるが、士道は小さく頷いて、令音にしか聞こえないくらいの声で返した。

そんな後方のやり取りに気付かぬ様子で、澪と真士が砂浜に足跡を刻みつける。

 

「ーーーーあ、私アレをやってみたかったんだ。花火。海って言ったら花火でしょう? 30年前来た時は、夕方に帰っちゃったからできなくって」

 

「し、仕方ないだろ。それくらいには帰らないと遅くなっちまうし。真那にも心配かけるし邪推されるし・・・・」

 

「フフ、むしろ、これからやる楽しみがあるじゃない。ーーーーダイビングや、バーベキューもしてみたいな。後で街にも行ってみよう? 私と、シンと、令音と、士道で。ああ、きっと楽しいよ。ーーーー本当に、この時がずっと続けばいいのに」

 

澪が弾んだ声でそう言う。

その様は本当に楽しそうでーーーー心からソレを望んでいる事を窺わせた。

だから、士道はソレに答えるのに、一拍の時を要した。

 

「ーーーーああ、そうだな」

 

だが、言わねばならない。士道は拳を握り締めながら、続けた。

 

「でも・・・・永遠には続かない。そうだろう・・・・澪」

 

「ーーーーーーーー」

 

瞬間。

ゆっくりとした歩調で砂浜を歩いていた澪の足が、止まった。そして数秒の後、澪は士道と令音の方に振り返ったかと思うと、何処か寂しげな笑みを浮かべながら言った。

 

「ーーーーごめん。士道に言わせちゃったね」

 

「澪・・・・」

 

澪の隣にいた真士が、重苦しい調子で澪の名を呼び、その肩に触れようとする。が、彼は直前で手を止めると、そのまま唇を噛み、手を下ろした。

澪と同様に、真士も、無論令音も、気づいていたのだ。〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉の中にいる全員がソレに気づき、しかし口にできなかった。今この瞬間がずっと続けば良いとーーーー士道でさえそう思っていた。

けれど、いつかは誰かが幕を引かねばならない。だとするならソレは、きっと士道の役目だ。

士道は一瞬目を伏せてから、意を決するように再度唇を開いた。

 

「・・・・最初に令音さんとキスをしてから、経路‹パス›を通って澪の記憶が流れ込んできた。最初俺はソレが何なのか分からなかったし、何を意味するのかも分からなかった。でも漸く、漸くソレが分かったんだ」

 

士道は滲みかける涙を拭い、澪の目を見据えた。

 

「澪、お前は死んだ真士を甦らせる為に、俺とした産み直した。そうだな?」

 

「・・・・うん」

 

澪が、コクリと頷いてくる。

そう。ソレこそが、澪の30年に亘る願い。

かつて死んでしまった心から愛しい人を、死なず老いぬ生命として作り替えた。まさに〈デウス〉の名に相応しき神の所行。

 

「ソレに間違いない。ソレは、お前の『願い』だ。お前の『望み』だ。でも・・・・ソレだけじゃない。だって、ソレによって出来上がった真士は、本物の真士じゃないんだから」

 

「・・・・・・・・」

 

士道の言葉に、真士が士道を見る。けれど、何も言おうとしなかった。

真士も分かっているのだ。自分が、士道の『記憶』から切り離された、『虚構の真士』である事を。そしてソレは、澪自身も理解している筈だ。

最初は、理解していながらもソレに縋らねばならない程に追い詰められていたのだと思った。仮に本物の真士でなくとも、真士の姿と『記憶』を持った『贋物』がいれば、心に突いた『穴』を埋められると考えたのかとも考えた。

実際、ソレも間違いでは無い。

けれど令音とキスをした士道は、もう1つの可能性に辿り着いてしまった。

何故、澪は士道に、霊力封印能力をーーーー言わば精霊の天敵とさえ言える力を授けたのか。その疑問に、至ったのだ。

無論その理由は、人間の身には強過ぎる霊力を分割して譲渡する為である。

その為に澪は、幾人もの少女達を犠牲にし、士道を精霊と変わらぬ状態にまで変化させたのだ。

だがーーーー。

 

「お前自身が自覚していたかどうかは分からない。でも、お前の『記憶』を第3者の視点で見たからこそ・・・・至った事がある」

 

【ーーーー私にはシンしかいなかった。シンを失ったなら、生きている意味がなかった】

 

澪の言葉が、脳裏に甦る。

 

【ーーーー私は人間みたいに弱くない。死を望んだとしても、死ねる訳じゃあ無かった】

 

士道は崩れ折れそうになる膝をどうにか保ちながらーーーー言った。

 

 

 

「ーーーー澪、お前は、“自分を殺せる存在を創る為に、俺を生んだんだ”」

 

 

 

その、言葉に。

 

「・・・・・・・・」

 

澪は何も答えずーーーーしかし悲しげに、笑った。

 

 

 

 

 

ードラゴンsideー

 

「ーーーーフゴフゴフゴフゴ!!」

 

「ーーーームググ、ムグググ」

 

「ーーーーモガモガ! モガモガ!」

 

「ーーーーフー! フー! フー・・・・!♥♥♥」

 

「・・・・皆さん。縛られるのに静かにできないんですの?」

 

書の天使〈囁告篇帙‹ラジエル›〉で繭の中の様子を探っていた狂三は、『バインド』で簀巻き&猿ぐつわにされた何人かの精霊達(美九はSMチックな縛りで鼻息荒く興奮していた)を半眼で見据えながら呆れていた。

何しろ〈ラタトスク〉の精霊達と来たら、狂三を調査を始めるなり狂三の周囲に集まり、騒ぐわ喚くわスカートを捲ろうとしてくるわと、コチラの邪魔をしているとしか思えない行動を取ってきた。

見かねたドラゴンが『バインド』を使って精霊達を簀巻きにして騒がないように猿ぐつわまでしてくれたのだ。

 

「士道さんが心配なのは分かりますけれど、少し落ち着いて下さいまし」

 

狂三が苦言を言うと、精霊達は申し訳無さそうにコクリと頷いた。

 

「全く・・・・心労をお察ししますわ、琴里さん。ドラゴンさん」

 

「それはどうも」

 

『ーーーーふん』

 

狂三が言うと、真那や七罪と共に少し離れた位置にいた琴里は乾いた笑みを浮かべながら返し、ドラゴンは静かに返した。2人から、日頃の疲労が偲ばれ、まるでその佇まいは老境の域にまで達していた。

狂三はもう1度溜め息を吐くと、再度〈囁告篇帙‹ラジエル›〉の紙面に浮き出た文字をなぞっていった。

何とも不思議な感覚だ。光り輝く文字を指でなぞると、その文字が示す光景がイメージとして頭の中に再生されていく。しかもこの調子で、この世界に存在するありとあらゆる事柄を識る事ができるのだ。

 

「(成る程、全知の天使に相応しい反則じみた性能ですわね)ーーーー士道さん、澪さん・・・・それに、村雨先生に・・・・士道さんがもう1人・・・・? 4人が海ーーーー丁度この直下にある海岸のような光景にいますわ」

 

頭の中に示されたイメージを、断片的に言葉にしていく。精霊達が驚いたような、訝しむような顔をしてみせたので、ドラゴンは指をパチンっと鳴らすと、猿ぐつわを外すと、精霊達は口を開いた。

 

「むん・・・・主様が2人と申したか?」

 

「不思議・・・・です」

 

「え、それに澪と令音が別々にって・・・・この繭、増殖効果でもあるの」

 

『・・・・いや、あの繭で作られた特殊な空間によって、澪と令音が分離し、小僧と、小僧の記憶にある崇宮真士を作り出したのだ。〈ナイトメア〉の分身体のようだと思えば少しは、わかるか?』

 

ドラゴンがそう言うと、何人かの精霊達は成る程と、納得し、何人かは良く分かっていなかった。

 

「そんな事が可能ですの?」

 

『あらゆる条理を捻じ曲げる〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉だからこそできる権能だろうな』

 

と、狂三が更に〈囁告篇帙‹ラジエル›〉で情報を求めようとした瞬間。

 

『ーーーーーーーッ!?』

 

〈フラクシナス〉の外装にいた全員が、一斉に肩を震わせ、目を見開いた。狂三もまた、〈囁告篇帙‹ラジエル›〉の紙面をなぞっていた指を止め、反射的に辺りを見回す。

理由は単純。この〈フラクシナス〉のすぐ近くに、突如して凄まじい霊力が生じたのだ。

因みに、霊結晶‹セフィラ›の大部分を失っている二亜だけは気づかなかったようだったが、皆の様子を見て、すぐに詩文も何かを感じている風の芝居をする。

 

「何ですのーーーーこれは・・・・ッ!」

 

「霊波・・・・!? 一体どこから!?」

 

「・・・・! み、皆さん、アレを・・・・!」

 

四糸乃が、何かに気づいたように声を上げる。ソレに弾かれるように、全員が四糸乃の指さす方向を見やった。

そして、一斉に息を詰まらせる。〈フラクシナス〉の横腹に噛み付くように浮遊した小型空中艦〈ゲーティア〉。

いつの間にかその外装が展開し、濃密な霊力を帯びてバチバチと光を放っていた。

 

「あれはーーーー」

 

「〈ゲーティア〉・・・・!?」

 

精霊達が、驚愕の声を上げる。

ウェスコットは致命傷を負い、エレンとアルテミシアは彼と共に逃亡した。〈ゲーティア〉にはもう、誰も乗っていない筈なのだ。

 

『ちっ』

 

まさか、勝てないならばせめて精霊達を道連れにと、自爆装置でも発動させたのだろうか。あの性根が歪みきった悪辣魔術師‹ウィザード›達ならば考えられる。ドラゴンは忌々しげに舌打ちをする。

 

「ふーーーーッ」

 

「ちーーーー」

 

[マジイイネ! メタトロン! ステキー!]

 

[ハーイパー! マグナムストライク!]

 

と、次の瞬間、折紙と真那が仮面を展開し、〈ゲーティア〉の排除に向かい、各々の必殺技を放った。

 

「(流石は元AST。見事な判断の早さだ)」

 

ドラゴンが感心したように思った。

がーーーー。

 

「く・・・・!」

 

「な・・・・!?」

 

2人の白銀の光線と、野獣の砲撃は、〈ゲーティア〉に至る寸前で、『何者』かに阻まれてしまった。

 

「ーーーー無駄です。既に術式は発動しました。もう誰にも止められません」

 

「ゴメンね。でもーーーー終わりみたい」

 

空の彼方から現れたヘルキューレ‹エレン›とヘルキューレⅡ‹アルテミシア›によって。

 

「エレン、アルテミシア・・・・!?」

 

2人の姿を認めた琴里が、表情を驚愕の色に染める。するとソレに合わせるかのように、何処からか3つ目の声が響いてきた。

 

「ーーーーああ、信じていたよイツカシドウ。君ならばきっと、〈デウス〉を止めてくれると」

 

『っ、貴様・・・・!!』

 

ドラゴンが忌々しげにそして憎々しげに、〈ゲーティア〉の方を睨む。するとその陰から、光を帯びた3つの影が、ゆっくりと前に進み出た。

左右に、ワイズマンと、顔を伏せたメデューサを控えさせ、仮面を解除した〈仮面ライダーソーサラー〉こと、アイザック・ウェスコットの姿が。

 

『死に損ないが・・・・! さらなる悪辣な本性を晒しに来たか・・・・!!』

 

ドラゴンの言葉に応えるように、ウェスコットが笑う。そして発した。

ーーーーその、破滅に至る言葉を。

 

「ーーーー喜びたまえ諸君。君達は、2人目の始原の精霊の誕生と、新たな地球の生態系の頂点の誕生を目撃する」

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

静かにーーーーあまりにも静かに、時が流れていく。

〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉によって形成された極少の隣界。真士と澪の思い出の海を再現した漁港の空間。そんな、夢のように美しい砂浜で、士道と澪は、無言のまま対峙していた。

澪の傍らには真士が、士道の隣には令音がいるが、彼らもまた、何も言葉を発しようとはしない。

2人共分かっているのだ。この沈黙を破るのは、士道ーーーーもしくは、澪でなければならないと。

ーーーー士道が澪に放った言葉は、あまりに残酷で、無慈悲で、破滅的であった。

愛しい人と再会を果たす為、30年もの間歩み続けてきた少女に投げかけるには相応しくない暴言。もしも言葉に物理的な形があれば、ソレは触れるだけで相手を切り裂く鋭利な刃か、全てを砕き押し潰す鉄球であろう。

けれどソレを受けた澪は、落涙するでも怒り狂うでもなく、ただ静かに微笑むのみだった。

まるで、全てを受け入れるかのように。

ーーーー士道の語った無慈悲な言葉が、全くの妄言では無いと示すかの様に。

 

「・・・・私を殺せる存在、か・・・・」

 

細波の音だけが響き渡る空間に、澪の声が生じる。

 

「確かに・・・・もしも霊力が封印されたなら、私は普通の人間ーーーーとまではいかずとも、今とは比べ物にならない位脆弱な存在に変貌する。ソレこそ、自死さえ可能かも知れない位に」

 

澪は自分の言葉を咀嚼するようにゆっくりと呟くと、やがて、細く息を吐きながら天を仰いだ。

 

「ああーーーーそうなのかも知れないね。もしかしたら私はずっと、ソレを望んでいたのかも知れない」

 

「澪・・・・」

 

士道が微かに震える声で名を呼ぶと、澪は穏やかささえ感じさせる落ち着いた語調で言ってきた。

 

「シンを甦らせようとしてきたのは嘘じゃないよ。ソレが、私の望みだった。あの日死んでしまったシンともう1度会う為に、私は30年の間生きてきたんだから。でもーーーー士道の言う通り、そうして生まれたのが本当にシンなのか、って言う疑問は、ずっと心の何処かにあったんだ。・・・・でも、他に方法は無かった。だから私はそんな不安に蓋をして、ずっと見ないようにしてきたんだ。きっと新しいシンが生まれれば、そんな気持ちごと呑み込んでくれるって、なんの根拠もなく思ってたんだ」

 

澪は、困ったように笑った。

 

「・・・・そうか。私はーーーーずっと、死にたかったのかも知れない。シンを不死にしようとしたのも、シンがいつか死んでしまう事に耐えられなかったんじゃなく、シンが死んでしまった時、自分だけ生きているのが耐えられなかったからなのかも知れない。・・・・ああーーーーそうか。何で、今までそんな単純な事に気づかなかったんだろう」

 

澪はそう言うと、士道に背を向けて、ゆっくりとした足取りで数歩砂浜に足跡を付けた。すぐにソレを、波が攫っていく。

澪は再び立ち止まると、深く呼吸をした後、士道達に背を向けたまま問いを発してきた。

 

「ソレでーーーーソコまで分かっていながら私にキスをしに来たって言う事は、士道は私を“殺してくれる”つもりって言う事・・・・だよね?」

 

「・・・・・・・・」

 

「ーーーーっ」

 

澪の言葉に、令音が微かに眉根を寄せ、真士が息を詰まらせる。

しかしそれも道理。士道は予想した上で、澪にキスしたのだ。全てを承知した上で、ここにやって来たのだ。その回答が導き出されるのは、至極自然な事。

 

「・・・・ああ」

 

士道が頷くと、澪は微かに顔を上げるような仕草をしながら声を返してきた。

 

「ーーーー、そうーーーー」

 

「ーーーー何て言うと思ったか?」

 

「・・・・・・・・え?」

 

次いで発された士道の言葉に、澪は、いや、真士と令音もまた、意外そうに目を丸くしながら士道を見た。

士道は澪の目を見据えながら続けた。

 

「人にとんでもない役目押し付けやがって。悪いがこちとら、お前程肝が据わってる訳じゃあないんだ。お前の死なんて、背負えるもんか」

 

「・・・・それじゃ、もう1人に」

 

澪が言う『もう1人』とは、間違いなくドラゴンだろう。

 

「ああそうだな。アイツは俺みたいな根性無しの意気地無しと違って肝も覚悟も、俺が背負えない物を背負う度量も、何もかも備えてる奴だ。俺に一生怨まれる事になっても、お前の望みを、お前の望む形でケリを付けてくれるさ。だから、俺はアイツを追い出したんだ。俺はなーーーー」

 

士道は、指を1本立てると、ソレを澪にビシッと突きつけながら、宣言するように言った。

 

「ーーーー澪、お前を、真士‹おれ›から奪い取る為に、ここに来たんだ」

 

「ーーーーーーーー」

 

士道の言葉に、澪が目を見開く。士道は畳み掛けるように続けた。

 

「俺は今、狂三のお陰で10の霊結晶‹セフィラ›をこの身に宿している。正直、殆ど精霊と変わらないだろう。お前の霊力だって封印できるかも知れない。でも、封印=死ではない筈だ。お前が自分の死さえ選ばなければ、な。ーーーーと言う訳で、だ。へっへっへ、昔の男なんて忘れて俺に乗り換えちまえよ、澪」

 

悪そうな顔をして、次いでに背を丸めて腕組みしつつ、そんな事を言う。

澪は暫しの間呆気に取られたようにポカンとしていたが、やがてーーーー。

 

「ーーーーふ、ふふ、あはははははーーーーっ」

 

と、可笑しそうに笑い出した。

 

「何それ。全然似合って無さすぎだよ、士道。て言うかそもそも本気なの?」

 

「に、似合ってないかどうかは兎も角・・・・本気だよ! 俺は本気で、真士からお前を奪うつもりだ!」

 

「ふふ・・・・そっか」

 

澪は滲んだ涙を拭うような仕草をしながら、隣に立っていた真士に視線を向けた。

 

「・・・・って言ってるけど、どうする、シン?」

 

言って、澪が面白がるように唇を笑みの形にする。真士はフッと息を漏らすと、やれやれたぜと言った調子で肩をすくめた。

 

「俺が口を出して良いのか? 確かに俺は崇宮真士のつもりだけど、士道の記憶から切り離されただけの存在・・・・言わば贋物の贋物だぜ?」

 

「でも、その記憶は確かにシンのものでしょう? 言って。あなたが思う事は、本物のシンと同じ筈だから。ーーーーでないと、私を士道に取られちゃうかもよ?」

 

澪が悪戯っぽい調子で言うと、真士がピクリと眉の端を揺らした。

 

「そうかい。でもその前に、士道。お前に1つ確認しておきたいんだ」

 

「何だ?」

 

「ーーーーお前、澪の事が好きか?」

 

「・・・・・・・・・・・・へ?」

 

真士の言葉の意味が分からず、士道は一瞬思考停止し、意味が分かると頬を赤くした。

 

「澪に惚れているのか? 澪を愛しているのか? って聞いてるんだよ」

 

「えっ!? あ、いや、その・・・・////」

 

思わぬ言葉に、士道が顔を赤くして、しどろもどろになる。ソレを見て、澪と令音がクスリと笑った。

 

「ーーーー更に聞くが、お前は他の精霊の女の子達よりも、澪が大切なのか? 言っておくがな、『Like me』じゃなく、『Love me』の方で、だぞ?」

 

「え、えっと・・・・み、皆俺にとって大切だ。だから、澪だけが『特別』って訳にはいかなくてーーーー」

 

士道がそう言うと、澪と令音は「あ〜ぁ」と言いたげに、と言うよりも、予想通り過ぎて逆に笑えてしまうような答えに苦笑した。

すると、真士は士道にすぐに近づき、胸ぐらを掴んでカッと目を見開き、すうっと息を吸って怒声を放った。

 

「ーーーーっざっけんじゃねぇぞテメェッ!! 人が黙ってれば好き勝手にゲスな言葉を吐きまくりやがって! いくら士道‹おれ›でも許せねえ!! しかも澪を特別好きじゃないだぁ!? 澪はお前の! 大勢いるガールフレンドの1人かっ!? それともコレクションの1つかっ!? テメェみてぇな中途半端で最低な横恋慕野郎なんかに、澪はぜぇぇぇぇぇぇっっっっったいに渡さねぇぇっ!! 俺から澪を奪うなら! その命を絶滅させてやるっっっ!!!!」

 

「ぐっ! お、おぉ・・・・ッ!?」

 

凄まじい剣幕から発せられた言葉が、士道の心と腹の底にズシンと響き渡り、思わず後ずさる。

生前の真士がどれだけ澪を大切に思っていたかは重々分かっているつもりだったが、こうして実際にソレを目の当たりにすると、流石に驚いてしまう。

 

「(・・・・ーーーーあれ、俺って実はスッゴイ最低なゲス野郎なのかっ!?)」

 

そして士道は、先程までの自分を客観的に考えると、確かに最低な横恋慕男だ。

もしそんな奴が自分の目の前に現れて、「俺、十香ちゃん達の事を特別好きって訳じゃあないけど、皆が幸せになる為にお前から十香ちゃん達を奪っちゃうからね〜☆」等と、ふざけた態度で言ってきたらと想像したら。

 

「(ーーーーあ、ダメだ。俺ソイツに『シャイングストライク』を叩き込んでる・・・・!)」

 

自分で想像の中の人物を殺してしまった士道に、真士は一頻り叫び終えると、士道の胸ぐらから手を離し、フゥと息を吐いて目を伏せた。

 

「・・・・・・・・とまあ、コレが生前の俺の気持ちだ。澪を奪おうなんて冗談じゃない。許せるかそんなもん。ーーーーただ、だ」

 

真士はゆっくりと目を開けると、何処か寂しげなーーーーしかし慈しむような視線で澪を見た。

 

「・・・・俺は、真士はもう、いないんだろう?」

 

「・・・・・・・・」

 

真士の言葉に、澪が無言になる。真士はそんな澪に歩み寄りながら、続けた。

 

「例えソレが士道‹おれ›でも、澪が俺以外の誰かを選ぶなんて、許容できない。正直胸が張り裂けそうだ。ーーーーでも、だからって、澪が自分から死を選ぶのも、嫌だ。この世界にはまだ、澪に見せたい物が沢山あったんだ。澪を連れて行きたい場所がもっとあったんだ。澪に体験させたい事が、山程あったんだ」

 

真士はゆっくりと手を持ち上げると、澪の頭をグリグリと撫でた。

 

「・・・・この海は綺麗だよ。澪をここに連れてこられて本当に良かった。・・・・でも、そろそろ別の場所にも行かないとな。ーーーーごめんな、澪。俺のせいで、30年も縛り付けちまった」

 

「・・・・・・・・」

 

澪は、何も答えない。

その代わりと言わんばかりに、真士が、士道の方を見つめてきた。そして、コクリと頷いてくる。

士道には、真士の意図が手に取るように分かった。感覚が薄れたとは言え、士道にもまた、真士の記憶が残っているのだ。

だからーーーー士道は、澪に向かって手を差し出した。

 

「澪・・・・!」

 

「・・・・士道、私はーーーー」

 

澪が小さく顔を上げ、何かを言いかけた。

がーーーーその瞬間。

 

ーーーーゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・。

 

穏やかだった海岸の光景に急にノイズのようなものが走ったかと思うと、世界全体が地鳴りのような音を伴って震動し始めた。




安心しろ真士。士道は決して君には勝てない。
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