デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
「・・・・っ!? な、何だ!?」
「うわーーーーっ!?」
突然の事態に、士道は思わず息を詰まらせ、周囲に視線を巡らせた。真士もまた、似たようなリアクションをして辺りを見回す。
今の今まで楽園のような景色を保っていた世界が、急に乱れ始める。まるでソレはーーーーゲームの画面にバグが発生したかのような光景である。
だがそんな異常な事態の中で、澪と令音は至極冷静に状況を見ると、互いに視線を合わせた。
「令音、コレって」
「・・・・ああ、恐らく間違いないだろう」
「な、何なんですか、コレは・・・・」
士道が問うと、令音はノイズの走った空を見上げながら答えてきた。
「・・・・外部からの干渉だ。これは恐らくーーーー『精霊術式』」
「『精霊術式』・・・・?」
困惑するように聞き返した真士だった。ソレに答えるように、今度は令音が小さく首肯する。
「うん。30年前、私をーーーーこの世界に『精霊』と言う存在を創り出した術式。世界に遍在するマナを集めて超常生命を生み出す魔術の秘奥だよ。コレができるのは・・・・私が知る限りウェスコット達だけ。どうやら、まだ生きていたみたいだね」
「な・・・・っ!?」
澪の言葉に、士道は戦慄の声を発した。
「精霊を・・・・創り出した? ちょっと待ってくれ、って言う事は今、外で新しい精霊が生み出されようとしてるって事か・・・・!? しかも、澪みたいな『始原の精霊』が・・・・!?」
士道が悲鳴染みた声で言うと、澪と令音は同時にコクリと頷いた。
「・・・・恐らくね。しかもーーーーマナの流れの中心にいるのはウェスコットのようだ。どうやら、自分自身を核に術式を行おうとしているらしい」
「ウェスコットが精霊に・・・・!?」
告げられた最悪のシナリオに、士道は思わず渋面を作る。士道の脳裏に、『未来の世界』でウェスコットが語っていたヤツの目的が過った。
ーーーー始原の精霊の力を手に入れ、世界を上書きする。
正直、ソレを聞いた時は理解が追いつかなかった。だが、今ならばーーーー澪によって作られたこの空間を体験した後ならば、理解した。
もしもこの『自分の望む世界を形作る力』をウェスコットが有したなら。そして、その空間が地球全体を覆ってしまったならーーーーソレは確かに、『世界を上書きする』、と言う表現に足る事態であった。
ヤツがどんな世界を創るのかは分からないが、ヤツは言っていた。これは、人類への復讐であると、ならばその世界で、魔術師‹メイガス›以外の人間がどうなるのか、想像に難くない。
『新たな世界』と言えば聞こえは良いが、要は体の良い大量虐殺だ。そんな事を許す訳には行かなかった。
と、ソコで真士が、難しげに眉根を寄せながら首を捻る。
「ちょっと待ってください。そんな事が可能なら、何でもっと早くやらなかったんですか? 自分を精霊にできるなら、態々他の精霊の霊結晶‹セフィラ›を集める必要なんて無かったんじゃあ?」
その通りである。澪を生み出した術式がもう1度行えるならば、こんな面倒くさい事をしないで済んだ筈だ。
すると令音が、自分の豊満な胸元に手を置きながら答えた。
「・・・・そうはいかなったのさ。術式を成功させるには、『あるもの』が足りなかったんだ」
「『あるもの』・・・・?」
「・・・・ああ。30年前、ウェスコット達が術式を行う際、ユーラシア大陸の中央部に位置するポイントを選んだ。ソレはその場所に、『マナ』の流れの要衝ーーーー魔術や仙術で呼ばれる所の、所謂『霊脈』が存在していたんだ」
令音の言葉を継ぐように、澪が続ける。
「『精霊術式』により、私は生まれた。けどその際、世界が蓄えていた『マナ』と同時に、『霊脈』の機能を、丸ごと私が吸収してしまったんだ」
「・・・・そう。だから私と同等の精霊を創り出そうとしたなら、世界に再び巨大な霊脈が形作られるのを待たねばならなかった。ーーーーソレこそ、数百年か数千年かという話だがね」
「じゃあ、何で今ーーーーはっ!」
言いかけて、士道は気づいた。令音が、小さく頷いた。
「・・・・そう。此処には『私』と言う『霊脈』がある。ーーーーウェスコットは私を介して、『マナ』を集積させようとしているようだ」
「うん。〈ゲーティア〉に術式用の装置が積まれていたみたい。30年前とは精度が段違いだね。今は顕現装置‹リアライザ›があるから当然かも知れないけど」
「な・・・・でも、そんな事・・・・」
「・・・・ああ。無論そんな事は、“私が出現する”、と言う事を知っていなければあり得ない。だが今はーーーーそのあり得ない筈の事態が起こっている」
「ーーーーっ!」
令音の言葉に、士道はグッて奥歯を噛み締めた。その原因は考えるまでもない。ーーーー士道の時間遡行だ。
一瞬、ウェスコットの言葉が鮮明に脳裏に過った。
【覚えているかな? イツカシドウ、嫌、タカミヤシンジ。30年前、君が私の忠告を無視して、愚かにも〈デウス〉を連れて逃げ出した時の私の言葉を】
【【ーーーー無力な子供の口先だけの行動が、このような『結果』を生む】】
【ーーーーとね? 君の方こそまるで進歩していないんじゃあないかね? あの時と同じく、君の浅はかな考えと行動によって、今まさにこのようなーーーー『愉快な状況』が創り出されてしまったのだからね】
皆を救おうとしての自分の行動が、今世界を窮地に追い込んでいる。その現実に、士道は心臓が引き絞られるかのような感覚を覚えた。
いつもならドラゴンのド突きで正気に返るが、今は外に出してしまっているせいでウジウジモードへと移行してしまいそうになる。
が、そんな空気を読まない士道の様子を察したように、令音が続ける。
「・・・・君は、私の手から皆を救おうとしただけだ。君が気に病む必要はない。原因と言うのなら、ソレは全て私の責だ。ーーーーソレに今は、後悔に時間を割いている時ではないだろう?」
令音の言葉に首肯し、澪が、士道に視線を向けてくる。
「そうだよ。あんなやつに利用されるなんて御免だし、シンとの思い出の世界を作り変えられるのはもっと嫌」
澪は複雑そうな表情で暫しの間押し黙った後、何かを吹っ切るかのように頬を緩め、続けてきた。
「・・・・士道、力を貸してくれる? 『未来の世界』で皆を殺してしまった私がこんな事を言うのもおかしな話かも知れないけどーーーー」
言って澪が、士道の目を見つめてくる。
「ーーーー皆を、助けに行こう」
「・・・・! ああ・・・・っ!」
士道はソレに応えるように、力強く頷いた。
状況は絶望的。あの悪辣かつ邪悪なウェスコットが『始原の精霊』の力を得る等、考えるだけで最悪な展開だ。
ーーーーけれど澪が、皆を助けると言ってくれた。ソレが士道には、たまらなく嬉しかった。
澪はフッと微笑むと、真士に1歩歩み寄った。
「シン」
「ああ」
真士はそんなやり取りだけで澪の意図を理解したのだろう。両手を広げると、澪をギュッと抱き締めた。
「・・・・行ってくるね」
「・・・・ん、気を付けてな」
「・・・・・・・・」
何故だろうか、士道はその光景を見ると、モヤモヤとした気持ちが広がっていくのを感じた。
真士はそんな士道の心境に気付かず、士道の方へと視線をよこしてきた。
「士道。ーーーー澪を頼む」
「ーーーー、ああ」
真士の言葉に、士道は胸の内のモヤモヤを抑えながら、士道は首肯と共に返した。
するとその様子を見てか、今度は令音が、真士のように両手を広げてくる。
「・・・・士道」
「えっ? えぇ・・・・」
士道が気まずげに目を泳がせると、令音は『おいで』と言うように指先を動かしてきた。
「えっと・・・・じゃあ、失礼します」
「・・・・ん」
躊躇いがちに歩み寄ると、令音が士道を、まるで我が子か、可愛い弟を慈しむかのように、優しく抱き締めてきた。
「・・・・最高のデートをありがとう。ーーーー君なら、大丈夫だ」
「令音さん・・・・」
士道は呟くように言うと、ギュッと令音の身体を抱き返した。この空間が無くなれば、『真士の影』だけでない。令音もまた消えてしまうのだ。
これまでお世話になった『憧れの女性』に、感謝とお別れの気持ちを込めて。暫しの間、お互いの体温を、鼓動を確かめるように、目を閉じて優しく抱き締める士道。ソレだけで、士道の身体には、今まで以上の気力か漲ってくるような気がした。
「ーーーーじゃあ、行こうか、シン」
言って、今度は澪が、士道に手を差し伸べてくる。
「ーーーーああ!」
士道はもう1度頷くと、その手を強く握った。
そしてその瞬間、頭の中に声が響いたーーーー。
ードラゴンsideー
ーーーー夕陽さえ沈んだ仄暗い空。しかし煌々とした輝きに満ちていた。
夜空の星を鏤めたかのような光が渦を巻き、1点に収束していく。まるで夢でも見ているかのような、幻想的な光景。何も知らぬ者が見れば、天使か神とかを形容するだろう。
しかし、〈フラクシナス〉の外装上からその光景を見るウィザードラゴン(魔人形態)と、精霊達とビーストHA‹真那›の貌に浮かんでいるのは、畏敬でも崇敬でもなくーーーー戦慄と焦燥であった。
その光の中心にいるのは、精霊達の仇敵たる魔術師‹メイガス›にして〈仮面ライダーソーサラー〉、アイザック・レイ・ペラム・ウェスコットである。
「ふーーーーはは、はははははははは! ははははははははははははははははっ!」
仮面を解除し、顔を晒したウェスコットの哄笑が、夜空に響き渡る。
「く・・・・!」
十香は奥歯を噛み締めながら仮面を展開すると、サンダルフォンブレードの柄を強くにぎりしめ、ウェスコット目掛けて刃を振り抜くと、夜色の剣閃が凄まじい轟音と共に、空を切り裂くように飛んでいく。
が、堅牢な鉄壁でも切り裂くその剣撃は、ウェスコットを包む光に触れた瞬間、空気に溶けるように霧散した。
渾身の力を込めた1撃が、全く通じない。
まるで、霊装を顕現させた澪に攻撃をしているかのような無力感。プリンセス‹十香›は悔しげに、グッと喉を鳴らすように呻いた。
「ーーーー無駄だよ。私の身は既に霊力を帯びている。しかも、君達のような欠片ではなく、〈デウス〉と同じ根源の力をね」
ウェスコットが芝居がかった調子で両手を広げながら言うと、その身がフワリと浮いていった。
「最早誰にも止められはしない。ソコで大人しく見ていたまえ。ーーーー私が完全な精霊となる処を。この世界が塗り変わる光景を!」
「ふざーーーーけるなっ!」
プリンセス‹十香›は諦める事なくサンダルフォンブレードを渾身の力で振るい、必殺の威力を持った夜色の斬撃が空気を裂く。
無論、ベルセルク‹八舞姉妹›、ハーミット‹四糸乃›もウェスコットに向けて二つの竜巻や冷気弾を放った。ゾディアック‹六喰›は空間に『孔』を開けて直接力の封印を試み、ディーヴァ‹美九›とウィッチ‹七罪›は、演奏で皆の力を底上げした。だが、ソレだけしても、ウェスコットには傷1つ付かなかった。
ドラゴンとイフリート‹琴里›も動こうとすると、その前にワイズマンとメデューサが立ち塞がる。
ウェスコットは肩を竦めながら、相も変わらず超然とした態度で声を発する。
「聞き分けの無い観客だ。ーーーーエレン、アルテミシア」
言って、ウェスコットがゆっくりと手を掲げると、その身に纏わりつく付いていた光の1部が流星のように空を舞い、エンジェル‹折紙›とビーストHA‹真那›と斬り結んでいたヘルキューレ‹エレン›とヘルキューレⅡ‹アルテミシア›の胸元に吸い込まれた。
次の瞬間、二人の腕や足のアーマーに付けられた宝石が光り、胴体には馬の顔の目が光り、仮面の側頭部には鳥の羽が光り伸びた『リミットオーバーモード』となった。
否、ソレだけでなく、背中には、魔力で構築された天使と悪魔の翼が片翼ずつ備わっている。
「! これはーーーー」
「わ、スゴい。力が・・・・」
「ーーーー『リミットオーバーモード』の時間制限を無くし、更に力を上げたよ。さしずめ、『エクストリームオーバーモード』、と言った所かな?」
極限を超えた状態にパワーアップした二人が驚くように目を丸くした。
「・・・・!」
「ちーーーー」
瞬間、エンジェルT‹折紙›とビーストHA‹真那›が、危険を察したように後方へと飛び退いた。
その判断は正しい。唯でさえギリギリ互角に戦っていた二人の強者が、目に見えて力が増大した事が分かる姿へとなったのだ。これで迂闊な真似をするのは自殺行動である。
それくらい明確に、今の二人の〈仮面ライダー〉からは、不吉な雰囲気が漂っているのだ。先程までとは明らかに異なる、濃密な力。
『ーーーーウェスコット‹奴›から力を分け与えられたようだな。精霊達を本気で始末する気か?』
ドラゴンがそう言うと、ウェスコットは満足気に唇の端を歪めた。
「この世界の終焉を見届ける目と耳さえ残っていれば良い。彼女らもまた精霊だ、手足を切り取った位で死にはしないだろう」
「ーーーーは」
「わあ、痛そう。でも精霊だしーーーー仕方ないよね」
ウェスコットの命を受け、ヘルキューレ‹エレン›とヘルキューレⅡ‹アルテミシア›が空を駆ける。
「ーーーーッ!?」
「な・・・・!」
刹那、エンジェルT‹折紙›とビーストHA‹真那›の苦悶が響いたと思った時にはもう、2人の身体は大きく後方へ吹き飛ばされそうになっていたが、ドラゴンが『グラビティ』で2人をその場に停滞させた。
目にも止まらぬ瞬撃。2人共、寸での所で『メタトロンウィンガー』と『ドルフィンアームズ』で防御をしたが、それぞれの羽根と水のマントが綺麗に切り裂かれていた。
「折紙! 真那!」
「ーーーーこの期に及んで他人の心配だなんて、余裕だね」
と、プリンセス‹十香›が叫んだ瞬間にはもう、そんな声と共にヘルキューレⅡ‹アルテミシア›の影が目前に迫っていた。
「くーーーー!?」
慌ててサンダルフォンブレードを振り上げ、ダーインスレイヴⅡの1撃を受け止めようとするプリンセス‹十香›。
しかしーーーー。
[タイム ナウ!]
突然、上空に魔法陣が展開されると、その場にいる全員の動きが止まった。
「(これはーーーーまさか・・・・!?)」
[チェイン ナウ!]
驚くプリンセス‹十香›の腹部に魔力の鎖が巻き付き、後ろへと引き寄せられると、〈フラクシナス〉の外装の上に固まったまま横になった。周りの仲間達もまた、引き寄せられるのが見て取れ、同じように横になる。
[エクスプロージョン ナウ!]
驚くプリンセス‹十香›の視界に、ウェスコット達の眼前に爆発の光が炸裂しようとする。
「ーーーーふんっ」
しかし、ウェスコットは数秒程で再び身体を動かすと、魔法陣に向けて『ディースハルバード』を振るうと、魔力の刃が放たれ魔法陣を破壊した。
が、
ーーーードガァアアアアアアアアアアアアアンンッ!!
爆裂は発動し、ウェスコット達を呑み込んだ。
「ーーーーくはっ!」
プリンセス‹十香›達は漸く動けるようになると、すぐに起き上がり、自分達を引き寄せた人物に目を向けた。
ーーーー白い魔法使いであった。
「白い魔法使い!?ーーーーいや、輪島のおじさん?」
『皆ーーーー今まで秘密にしていてゴメンね」
白い魔法使いはそのまま声を輪島繁の声に変えた。
「本当に、おっちゃんだったのか? 何故言ってくれなかったのだ?」
「俺の正体をDEMに知られるのは不味かったからな。ソレにどうやら、“俺が探していた物を奴が持っているようだからな”。迂闊な真似ができなかったんだ」
白い魔法使い‹輪島›が、爆裂が収まり、無傷のウェスコットと多少のダメージを受けたヘルキューレ‹エレン›達とワイズマン達を見据える。
「おやおやMr.輪島。やはり私の邪魔をするのかい? あまり気が進まないなぁーーーー“遠い親戚を始末するのはね”」
『っ!』
ウェスコットの言葉に、ワイズマンとメデューサを除いた一同が目を見開いた。
それはそうだ。輪島のおっちゃんの先祖がウェスコットやウッドマンと同じ魔術師‹メイガス›の一族である事は知っていたが、ウェスコットと遠い親戚だった事に驚いた。
そして白い魔法使い‹輪島›は、そんな一同に向けて説明するように声を発した。
「ーーーー遠い昔、中世の後期辺りの時代のヨーロッパだった。当時は戦争、食糧不足、疫病、魔女狩りといった弾圧や殺戮による人心の荒廃による『ヨーロッパ暗黒時代』。ソレにより人々は常に絶望と隣り合わせになり、当時の『ゲート』達が絶望する事で、『魔獣ファントム』が生まれ続けた時代でもある。当時魔術師‹メイガス›のとある兄弟が、『旧式‹アーキタイプ›』とも呼ばれる『ビーストドライバー』を開発し、ソレを用いてファントムを討滅してきた魔術師‹メイガス›達も、魔女狩りの標的にされ、活動し難い時代であった」
「えっ? 魔女狩りって、女の人が標的じゃないの?」
「当時は女性の魔術師‹メイガス›が多くてね。それに異端の力を使う者を、当時の教会は総じて魔女と呼ぶようになったんだ。因みにその兄弟こそ、『人造ファントム』、つまり“ビーストキマイラを生み出し、ビーストドライバーを創り上げたのだ”」
「えっ!?」
『『『『『なぬぃっ!?』』』』』
何処からか小さな手帳とペンを持って、狂三の後ろに隠れていた二亜がそう聞くと、輪島は冷静に応え、さらなる真実を語ると、ビーストHA‹真那›とビーストキマイラ達が声を張り上げた。
輪島はソレを見た後、改めて話しだした。
「そんな中、このままでは魔術師‹メイガス›が全滅する事を恐れた2人の兄弟が協力しあい、広範囲でファントムだけを倒す魔法を生み出そうとした結果、偶発的に“ある術式を生み出した”。ーーーーいや、“生み出してしまったのだ”」
重い雰囲気を纏う輪島。ソレを聴いて薄ら笑いを浮かべるウェスコット。話の雰囲気から、一旦戦闘を中断した精霊達やエレン達に、輪島は声を発した。
「ソレは、禁忌の術として抹消された儀式、そうーーーー『儀式‹サバト›の禁術』だ」
『なっっ!!?』
今度は輪島の言葉に、全員が目を見開いた。
まさか『儀式‹サバト›』が、古の魔術師‹メイガス›によって生み出されたものであった事に。
「ファントムの召喚事態は、ソレこそ中世の時代よりも昔にあった。普通の人間による魔術の研究や悪魔召喚、果ては邪神信仰とかにね。そう言ったオカルトの伝承は、偶然生け贄にされた人間が『ゲート』だった事で、生け贄を使うなんて誤った伝承が生まれた。そして生み出されてしまった『儀式の秘術』が、あまりにも非人道的過ぎる魔術を生み出してしまった兄弟は、この『禁術』が2度と世の中に出ないように、術式に必要な物を兄弟がそれぞれに管理し、離れ離れになる事を決めた。兄は術式を記した書物を封印し、以降は魔術師‹メイガス›の里に残って別の術式の研究を、弟は『儀式‹サバト›』に必要な『高純度の魔宝石』を持って、里の外へと出奔し、それから流れ流れて、この極東の島国へと流れ着いた」
「その流れ着いた弟が、おじさんの先祖・・・・」
「そして流れから、里に残った兄の子孫が、あのアイザック・ウェスコット、という訳ですわね」
琴里と狂三が、輪島とウェスコットを見比べてそう言った。
「ハハハ、どうかな真那? 君の相棒であるビーストキマイラの生み出した人物達の子孫が目の前にいる事に」
「輪島のおじさんなら兎も角、お前にはお礼に首を吹っ飛ばしてやりたい気分でやがりますよ」
『『『『『我らを生み出した創造主の1人の子孫がこんなヤツだったとは!』』』』』
「ああ。まさか、その子孫がこんな愚かな行いをするとはな!」
真那とビーストキマイラ、そして輪島が憎々しげにウェスコットに声を発するが、ウェスコットはクックックと笑い声を零していく。
「愚かとは言ってくれるねぇ。私はただ魔術師‹メイガス›の世界を創りたいだけなのに」
「大義名分で隠した詭弁を口にするな。貴様の内面は畑に放逐されて腐ったカボチャ以上に悪臭を放つほどに腐れ果てている。魔術師‹メイガス›の世界を創るならば、何故二年前に『儀式‹サバト›』を引き起こした? そして30年前ーーーー何故俺の実家から『あの魔宝石』を盗んだのだ?」
輪島がウェスコットを指差してそう問うと、ウェスコットはニンマリとした笑みを浮かべて応じた。
「盗んだ、とは少々ニュアンスが異なるね。30年前に〈デウス〉が起こした空間震の調査に言った際、偶々私は自分の遠縁の親戚にあたる人間の家を見つけ。偶然、親戚の蔵の地下深くに貯蔵されていた『魔宝石』を私が有効活用してあげようと回収しただけさ」
「30年前・・・・?」
ビーストHA‹真那›がピクリと反応した。それは、真那がDEMに拐かされ、兄・崇宮真士と精霊・崇宮澪の運命を歪めた時だと、士道から聞いていたからだ。
「そして、『儀式‹サバト›』の方だが・・・・“面白そうだったから”、かな」
『・・・・は?』
一瞬、この男の言葉の意味が分からず、精霊達は思わず間の抜けた声を発した。
それを見て、ウェスコットはさも愉快そうに話を続けた。
「いや、Mr.輪島の家の行ったのは本当に偶々さ。実は私達は1度だけ、人間達に滅ぼされた我が魔術師‹メイガス›の里に赴いた事があったのだよ。その時、焼け崩れた私の生家に、地下室に通じる扉を見つけてね。ソレを開いて中を見た時に驚いたよ。何しろソコには、『旧式‹アーキタイプ›』であるビーストドライバー。ソコにあった『人造ファントムの生成』の魔術書などの数々。そして、厳重に封印されていたーーーー『儀式‹サバト›の書』もね!」
「『儀式‹サバト›の書』ですって!?」
ーーーーアイザック・ウェスコットに『儀式‹サバト›の書』。
考え得る限り最悪中の最悪な組み合わせに、精霊達の背中に冷たい汗が流れた。
「しかし、如何に私と云えど大勢の人間の中から『ゲート』を発見する事はできないし、『儀式‹サバト›』を行えば何十人の人間達が行方不明扱いになる。当時の私にはそれらの情報を操る権限は無かった。故に『儀式‹サバト›』を起こすのは少し後にしたのだよ。それまでは私の代わりに『ゲート』のリストアップと、『儀式‹サバト›』を代わりにやる代理人を創ろうと思い、『人造ファントムの生成』を行った。そして生まれたのがーーーー彼さ」
『・・・・・・・・』
そう言って、ウェスコットの隣に立ったのはーーーーワイズマンだった。
『ワ、ワイズマン・・・・!?』
『やはりな。どうにも『違和感』を感じていたのだ』
精霊達は驚くが、ドラゴンは冷静に見据えていた。
「君達が『ワイズマン』と呼ぶこのファントム、正式な名をーーーー『カーバンクル』と呼ぶのだよ」
ワイズマン、否、カーバンクルは何も言わず、静かに立ち尽くしていた。
「『カーバンクル』・・・・?」
「確か、額に赤い宝石、ルビーようなものを持つ小動物であり、この宝石を手に入れし者には富や幸運、そして成功がもたらされると伝承されし幻獣であるな」
「溜息。こう言う事には詳しいですね耶倶矢」
ハーミット‹四糸乃›にベルセルク‹八舞姉妹›が応えた。
「カーバンクル。少し力を見せて上げると良い」
『ーーーーはっ』
ワイズマン、否、カーバンクルが、これまで『魔獣ファントムの首領』としての尊大な態度が見る影も無く、ウェスコットに従順に従うように応えた。
『ーーーーーーーー!!』
そして、カーバンクルが両手を胸元に出して力を込めると、両手から魔力が放出され、ソレが1箇所に集まり、1つの魔力石が生成された。
『ーーーー成る程な。DEMが何故あそこまで魔宝石から創られたリングを大量に持っていたのか不思議だったが、その絡繰がコレか。ワイズマン、嫌、カーバンクルが自ら創り出した魔宝石!』
「その通りだよイツカシドウの魔獣よ。私は〈DEMインダストリー〉を創設してから、数年で魔宝石を創り出せる『人造ファントム』の開発をした。それがこの、カーバンクルだった。しかし、魔導書に記された『儀式‹サバト›』をやりたいと思っても、私は多忙な人間なのでね。代理人としてカーバンクルに『Mr.輪島の家から回収した魔宝石』を埋め込み、必要な『ゲート』を集めて貰おうと、思い出深い日本でソレをやって貰っていたのさ」
『思い出深い』。この男が使うと此処まで不快な気分になる言葉になったと、ドラゴンだけでなく、精霊達も思っていた。
「そしたら面白い事に、『ゲート』の気配を感知する稀有なファントムが現れたーーーーメデューサがね」
『・・・・・・・・』
メデューサは何も言わず、ただ佇んでいるだけであった。まるで、意識のない人形のように。
「メデューサ・・・・?」
『貴様。メデューサに何かしたのか?』
メデューサと因縁深いイフリート‹琴里›が訝しそうにし、ドラゴンが問うと、ウェスコットはクツクツと含み笑いを上げながら応える。
「何、カーバンクルの真実を話したら、彼女は『嘘だ嘘だ』と喚き出してね。これから世界を書き換える大切な作業が始まるからーーーー“記憶を消しただけさ”」
『っ!?』
ウェスコットが取り出したのは、士道が使う『メモリー』と同じリングであった。
「『メモリー』の魔法を少し調整して使えば、相手の記憶を書き換える事も可能さ。今のメデューサは『記憶』を失い、私に従順に従う『お人形』になって貰ったのさ」
『・・・・はい、ウェスコット様』
ウェスコットに向けて頭を下げるメデューサ。カーバンクルと同じく、その様相には、今までの氷のような冷酷さが完全に消滅していた。
「メデューサ・・・・!」
メデューサに対して、複雑過ぎる感情を抱いているイフリート‹琴里›は、変わり果てたメデューサの姿を見て苦々しい声を発した。
ウェスコットはそんなイフリート‹琴里›の心情などお構い無しに話を進めていく。
「映像越しだったが、私はあの『儀式‹サバト›の日』を見た時ーーーー思わず興奮してしまったよ!」
『は・・・・?』
興奮した。ウェスコットの言葉がまるで理解できず、精霊達は首を傾げてしまった。あんな地獄とも言える光景を見て興奮するなど、とても理解できないからだ。
「里では伝承として語られていた魔獣が、本当に存在していた。そして、『禁術』によって次々と生まれる魔獣達を見た時、私は思ったね。人類は自らを生物の頂点に立っていると思い込んでいたが、ソレを覆す新たな生態系の頂点の誕生に、私はある種の感動すら感じた! まさにーーーー絶望が世界を覆い尽くしたかのような光景だったよ!!」
まるで演説でもするかのように大仰に両手を広げて、興奮しているように叫ぶウェスコット。
「しかし、運命を感じてしまうねぇ? 『ゲート』である人間達を適当に誘拐したようなのだが、まさかその中にイツカシドウがいて、『古の魔法使い』、〈仮面ライダー〉となって、私の前に立ち塞がるとは・・・・フフフッ、運命を司る神がこの世にいるならば、随分と良くできた巡り合わせじゃあないか? この世界は私が思っている以上に、愉快なものだと思ったよ」
『因果は巡るとは良く言ったものだな。運命ではなく、因縁と言った方がしっくりくる』
士道とウェスコット。希望と絶望。巡り逢い、そしてぶつかる。相反する2つの存在のように見えた。
『しかし『儀式‹サバト›』を起こすのに、『必要な魔宝石』とは一体何だ? 貴様が輪島から盗んだ物とは?』
ドラゴンの問いかけに、ウェスコットは笑みを浮かべたまま胸元に手を翳すと、身体から魔法陣が展開され、『桃色の魔宝石』が現れた。
「ーーーーこれこそ、Mr.輪島の先祖、我が先祖達が生み出した『魔宝石』の最高の魔法具、その名もーーーー『賢者の石』!」
『『賢者の石』・・・・!』
凄まじい魔力を放つソレを見て、ドラゴンも精霊達も身体を強張らせる。
「ソレを使って、貴様は何をするつもりだ、アイザック・ウェスコット!」
プリンセス‹十香›がサンダルフォンブレードの切っ先を突き付けながら問うと、ウェスコットはニンマリと笑みを浮かべる。
「ーーーーそうだな。また『儀式‹サバト›』を引き起こし、この世界を魔術師‹メイガス›と魔獣‹ファントム›が常に争う世界、ファンタジー映画のような世界に替えようかな」
『・・・・!?』
あまりに幼稚な世界構成に、一瞬精霊達は言葉を失う。
しかし、ウェスコットは続ける。
「面白そうとは思わないかね? 世界は常に魔術師‹メイガス›と魔獣‹ファントム›が争い続け、混乱と絶望の中、必ず平和を掴もうと抗い戦い続ける。我ら魔術師‹メイガス›の一族が歴史の裏で行い続けてきた戦いが、かつて時の権力者達によって、おとぎ話扱いをされ封殺されてきた我ら魔術師‹メイガス›の戦いが、これからは表の世界中で行われるのだよ? ソレこそ、私が創造する世界、『剣と魔法の世界』ーーーーなんて少々幼稚かな?」
ニンマリと笑顔を浮かべるウェスコット。
この男を知らない人間から見れば、ただの妄想と一笑できるだろうが、ドラゴンも精霊達も、勿論真那とビーストキマイラも、輪島も確信している。
ーーーーこの男は本気だ、と。
ー十香sideー
「く・・・・っ!」
プリンセス‹十香›達は武器を構える。
しかし、力の差も戦力の差は歴然。だがどうしてもウェスコットを止めねばならない。止めなければ、士道や皆と出会い、過ごしてきたこの世界が、この男の望む魔術師‹メイガス›と魔獣‹ファントム›の争いが続く『戦乱の世界』に作り替えられてしまう。
そんな事は、絶対に許容できない。幸い、相手はコチラを殺す気はないのなら、手を失おうが足を失おうが、反撃にーーーー。
『くだらん奴らを相手に、君の大切な命を懸ける必要はないぞ十香』
「ドラゴン・・・・むーーーー?」
と、ソコで、ドラゴンがプリンセス‹十香›の肩に手を置いて止めた。そしてプリンセス‹十香›は気づく。
〈フラクシナス〉の真横に浮遊していた巨大な繭の表面に亀裂が入り、その中から眩い光が漏れ出てたのだ。
「あれはーーーー」
『漸く戻ったか』
と、ドラゴンが呟いた瞬間、繭が一気に展開し、その中から、2つの影が飛び出してきた。
ーーーーウィザード‹士道›と、澪である。
「シドー!」
「士道さん・・・・!」
「おお! 無事じゃったか!」
精霊達が、パァッと表情を明るくし、その名を呼んだ。
「おうーーーー待たせたな、皆」
ウィザード‹士道›は少し照れ臭そうに言うと、その手にウィザーソードガンを手にし、ウェスコットに向かって銃口を向けた。
次回、最後の決戦が幕を開ける!