デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉の繭の中から飛び出したウィザード‹士道›は、仮面を解除し、ウィザーソードガンの銃口をウェスコットに向けつつ、視線を鋭くした。
「ーーーーよう、アイザック・ウェスコット。俺達がいない間に、随分と好き勝手、さらにとんでも無い事実をくっちゃべってくれたようだな?」
先程のドラゴン達とウェスコットの会話は、全て士道と澪も聞いていた。
『儀式‹サバト›の真実』と『ワイズマンの正体』、そして何よりーーーーコレまでの魔獣‹ファントム›達の戦いの全てが、このウェスコットが『黒幕』だった事も。
ヤツを中心に、濃密な霊力が渦を巻き、その手に持つ魔宝石『賢者の石』からも濃密な魔力を内包しているのが分かる。
今のウェスコットはまるで、澪と相対したような圧倒的なプレッシャー。ただ向かい合っているだけで肌がチリつくような錯覚も感じる。
ウェスコットは悠然とした調子でニッと笑うと、大仰に両手を広げながら返してきた。
「ーーーーお陰様でね。君には感謝しているよ、イツカシドウ。よく私が術式を発動させるまで〈デウス〉を止めていてくれた。貴重な霊結晶‹セフィラ›を提供した甲斐があると言うものだ」
「何だと・・・・?」
ウェスコットの言葉に、士道は眉毛を寄せる。
まさか、ウェスコットの持っていた二亜の霊結晶‹セフィラ›は、1度狂三の手を渡り、今士道の身体の中に存在している。だがソレさえ、この未来を見越したウェスコットの策だと言うのか。
『・・・・・・・・』
「・・・・(分かってるよ。例えヤツの思惑通りだったとしても、俺のやるべき事は変わらないさ)」
ドラゴンの視線を感じて、士道はゆっくりとそして小さく頷いた。
士道とドラゴンのやり取りを察したウェスコットは、心底楽しそうに笑みを濃くした。
「良いコンビだね。それに、良い気迫だ。まあ、その身に10もの霊結晶‹セフィラ›を宿し、隣に〈デウス〉を伴っていれば、そうもなるか。だがーーーー」
ウェスコットが小さく顎を上げた瞬間、彼の身体が一層強く光り輝きーーーージワリ、と漆黒の闇へと変貌していった。
「ーーーー少し、遅かったようだね」
「なーーーーッ・・・・!」
士道は思わず息を詰まらせ、身構えた。
空に浮くウェスコット、その背後に、巨大な『樹』が姿を現したのである。
天を掴むような枝を、地を浚うように伸ばした、漆黒の大樹。枯木のように朽ち果てた表皮と、ソレに反する様に漲った禍々しい瘴気。
見る者全てに絶望を撒くかのような、悪夢の『魔王』が顕現した。
「ッ、アレは・・・・!」
「〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉? いや・・・・」
「魔、王ーーーー」
精霊達が、呆然とした口調で空を見上げる。
ウェスコットはまるでクラシックの指揮者の如く両手を振るうと、恍惚とした表情で告げた。
「さあ、世界を創ろうか、〈永劫瘴獄‹ベリアル›〉」
瞬間、漆黒の大樹が胎動するように蠢き、その枝を天に、根を地に向けて伸ばし始めた。
「・・・・ッ!」
その光景には見覚えがあった。〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉がモノクロの空間を生成するのと同じーーーー『隣界』が世界を侵食していく感覚である。
ーーーー『アレ』を放置してはならない・・・・!
〈仮面ライダー〉達が、直感的に、一斉に感じた。
するとその時、まるでソレに呼応するかのように、1つの叫びが響く。
「ーーーー〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉!」
瞬間、澪の背後に浮遊していた繭が展開し、光の大樹〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉へと変貌する。
〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉はその枝と根を広げると、〈永劫瘴獄‹ベリアル›〉のソレを抑え込むように絡みつかせた。
〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉と〈永劫瘴獄‹ベリアル›〉が複雑に絡み合い、辺り一帯を巨大な鳥籠のように覆う。双方が展開しようとする世界同士がぶつかり合い、周囲をノイズのような景色に染め上げた。
「・・・・! 澪!」
「〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉で〈永劫瘴獄‹ベリアル›〉を抑え込んだ・・・・でも、長くは保たない。皆、お願い。力を貸して。シンと出会ったこの世界をーーーー守る為に」
『・・・・!』
つい先刻まで、命を賭けて戦っていた澪がそう言うと、精霊達が驚いたように目を丸くした。
だが、それ以前に彼女は、精霊達を見守り続けた優しい解析官・村雨令音でもある。そして精霊達は彼女を倒そうとしていた訳では無く、デレさせようとしていたのだ。
驚愕は一瞬、精霊達は何処か嬉しそうに頷くと、それぞれの武器を構え直した。
「うむ・・・・! 一緒に戦えて嬉しいぞ、澪!」
「ええ。あの中で何があったのかは、後で詳しく聞かせてもらうけどね!」
「ふんーーーーわたくしはゾッとしませんけれど」
[ナイトメア プリーズ!]
その中にあって、〈仮面ライダーナイトメア〉となった狂三だけは面白くなさそうに鼻を鳴らしていたが、ウェスコットを止めると言う点においてのみは異存は無いようだった。不機嫌そうにしながらも、ザドキエルトリガーを構える。
と、ソコで、息巻く皆の中、ウィッチ‹七罪›がオズオズと言った。
「・・・・いや、でも力を貸すって何をすれば良い訳? 私達の攻撃、ウェスコットには全然通らないんだけど・・・・」
すると澪はフッと目を伏せると、祈りを捧げるように手と手を組み合わせた。
「ーーーーそんな事は無いよ。だって君達の天使の力は、本来そんなものじゃあないだろう?」
瞬間、澪の霊装から無数に光り輝く帯のようなものが伸びたかと思うと、それぞれの精霊達の、そしてビーストHA‹真那›と士道の胸に貫いた。
「な・・・・っ!?」
『未来の世界』で見たのと同じ光景に、思わず息を詰まらせる。
がーーーー違う。澪に貫かれた精霊達は、倒れるどころか霊力を漲らせ、その身に眩い光を纏い、アーマーが消え、別の物を身体に纏う。
「おお・・・・っ!?」
「コレってーーーー」
精霊達の驚愕の声と共に、光が物質と化していく。
そう。精霊達の絶対の鎧にして城。ーーーー完全な姿の霊装が、ソコに顕現していたのである。
ビーストHA‹真那›とウィザード‹士道›も、輪島も、霊装では無く、全身が光り輝いていた。そしてーーーー。
「ーーーーうおっ!? マジか澪っち!」
そんな声が後方から響く。見やると、敵の攻撃から逃れるように〈フラクシナス〉の外装に這い蹲りながら艦橋に戻ろうとしていた二亜の身体に、修道女のような霊装が顕現した。
「ーーーー微量とは言え、二亜の身体にも霊結晶‹セフィラ›が残っていたからね。ソレを介して、私の霊力を注がせてもらったよ」
「ひゃー! サービス良いねぇ! おっしゃDEM! アタシが相手だッ!」
今の今まで匍匐前進でトンズラしようとしていた二亜がピョンと立ち上がり、威勢良く宣言する。あまりの調子の良さに、ウィザード‹士道›とドラゴンは苦笑したり半眼で呆れたりしていた。
が、ソコで澪が、皆に注意を促すように続ける。
「とは言え相手もまた精霊。倒し切る為には、君達が持つ全ての天使の力を1つに結集し、一気に叩かねばならないだろう」
「全ての天使を・・・・ですか?」
「え・・・・っ、そりゃエレンなら士道とドラゴンの最強形態で対処できるけど、あんなラスボス軍団相手に全員合体攻撃とか無理ゲーじゃない・・・・?」
七罪が言うと、澪はチラとウィザード‹士道›とドラゴンの方を見てきた。
「いや。皆には、ウェスコットへの道を作って貰いたい。ーーーーいるじゃないか、ここに。全ての天使の力を扱え、ウェスコットと対等に戦える、『最強のコンビ』が」
澪の言葉に導かれるように、皆の視線が2人に注がれる。
「え?(バシッ)あだっ!」
察しの悪いウィザード‹士道›にドラゴンのド突かれると、ソレで漸くその言葉の意味を理解すると、皆の視線に応えるように力強く頷いた。
今、自分には天使がある。精霊の皆がいる。そして何より、憎らしいが頼りになる『相棒』がいる。
そしてそれはウィザード‹士道›にとって、頼もしい味方以上の意味を表していた。
「(ーーーー男なら、女の子にみっともない姿は見せられねぇよな、ドラゴン!)」
『(はっ! 軽薄すぎる動機と理由だが、貴様のような小物にはその程度が丁度いいわ!)』
ウィザード‹士道›はフッと微笑むと、『インフィニティウィザードリング』をドライバーに翳した。
[イィィンフィニティー!! プリーズ!]
『フンっ!』
[ヒースイフードー! ボーザバビュードゴーーン!!]
身体が光り輝くドラゴンがウィザード‹士道›と一体化し、ウィザード‹士道›の身体を水晶が包み砕け散り、各所の宝石が彩りに光り、白銀のダイヤモンド。灰色のアレキサンドライトスピネル。黒色のオニキス。青色のサファイア。赤色のルビー。金色の琥珀‹アンバー›。緑色のエメラルド。黄色のトパーズに橙色のオレンジサファイア。紫色のタンザナイト。夜色のダイヤモンドとなる。
〈仮面ライダーウィザード・インフィニティジュエルスタイル〉へとなった。
[アックスカリバー!]
アックスカリバーを召喚し、手に持つと近くにいた白い魔法使い、輪島に話しかけた。
「おっちゃん。ずっと俺を、俺達を見守ってくれてたんだな?」
ウィザード‹士道›の言葉に一瞬目をパチクリさせるが、すぐに気を引き締める。
「ーーーー正直言うとな。お前がウィザードライバーとウィザードリングを捨てた時、見放そうとしていたぞ。俺が先祖の設計図を元に丹精込めて作ったウィザードライバーやリングをゴミのように捨てた時はな」
「うぐっ! あ、あの時は、ホントに、調子に乗ってました。すみませんでした・・・・」
輪島の言葉に、グサッときたように胸を抑えて謝罪するウィザード‹士道›に、輪島もマスクを展開して声を発する。
「まぁ良い。本当は俺がつけなければならない遠い身内の問題に、お前まで巻き込んでしまったのだからな。今はここを切り抜けるぞ、士道」
ウィザード‹士道›はコクリと頷くと、アックスカリバーの切っ先をウェスコットへと向け、宣言するように声を張り上げた。
「行くぞ、皆。ーーーー世界を救うショータイムだ!」
『おおッ!』
ウィザード‹士道›の号令に精霊達が応え、各々〈フラクシナス〉の外装を蹴るようにウェスコットへと向かっていく。
ソレはまるで流星の如く。夜空に色とりどりの軌跡を残して、幾つもの影が舞う。
「では始まめよう。ーーーー新たに創造される世界を!」
だが、相手も黙って待ち構えているのみではない。〈永劫瘴獄‹ベリアル›〉の枝を蠢かせ、凄まじいスピードで精霊達を打ち落とそうとしてくる。
それに加えーーーー。
「五河士道!!」
「行かせない・・・・!」
『フッ!』
『シャッ!』
ウェスコットに力を授けられたヘルキューレ‹エレン›とヘルキューレⅡ‹アルテミシア›、カーバンクルとメデューサが、精霊達の前に立ち塞がり、濃密な魔力を込めた攻撃を放ってくる。
とは言え、澪によって十全の力を取り戻した精霊達は、易々とやられはしない。
折紙がヘルキューレⅡ‹アルテミシア›を、ビーストHA‹真那›と輪島がカーバンクルを抑え込み、最速でヘルキューレ‹エレン›がウィザード‹士道›と斬り結び、メデューサを琴里が抑え込んだ。
その隙に〈永劫瘴獄‹ベリアル›〉の枝を避けた精霊達がウェスコットに攻撃を加えていく。
「はーーーーッ!」
〈刻々帝‹ザフキエル›〉・【1の弾‹アレフ›】と〈破軍歌姫‹ガブリエル›〉によって強化された十香が、〈鏖殺公‹サンダルフォン›〉・【最後の剣‹ハルヴァンへレヴ›】を放ち、四糸乃と共に〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉に相乗りした七罪が〈贋作魔女‹ハニエル›〉によってその姿をより巨大に、攻撃的に変容させ、〈颶風騎士‹ラファエル›〉の風を纏って突撃する。
そして〈封解主‹ミカエル›〉・【放‹シフルール›】によって力をさらに引き出された精霊達の凄絶なる一斉攻撃。
ウェスコットは〈永劫瘴獄‹ベリアル›〉で、そしてその身に纏った霊力の壁でソレを防御していたが、流石に先程までのように無傷とはいかないようだった。次第にダメージが蓄積していくのが見て取れる。
しかしウェスコットは、焦燥も狼狽も見せる事無く、愉快そうに笑った。
「フム。やるじゃあないか。ならばーーーーこれはどうかな?」
するとそう言って、片手を高く掲げてみせた。
するとそれに合わせるようにして、ウェスコットの頭上、天高く、巨大な球体が顕現した。
「・・・・! アレはーーーー」
ヘルキューレ‹エレン›と斬り結んでいたウィザード‹士道›は思わず喉を絞った。
だがソレも当然だ。ソレは澪が顕現させた死の天使〈万象聖堂‹アイン・ソフ・オウル›〉に瓜二つの姿をしていたのだから。
「ーーーー〈極死祭壇‹アティエル›〉」
ウェスコットの呼び声と共に、球体の表面が波打ち、蕾が開花するように展開する。
そしてその中心から、精霊達に向かって、無数の闇の粒が降り注いだ。
ー二亜sideー
ーーーー時は遡る事、数分前。
〈フラクシナス〉の外装上で、叡智の天使〈囁告篇帙‹ラジエル›〉を手にした二亜は、飛び立っていった精霊達を眺めていた。
《ーーーーで、何をしているのですか、二亜》
通信機からマリアの冷ややかな声が聞こえてきて、二亜は小さく肩を揺らすと、バツが悪そうに頭を掻きながら苦笑した。
「いやー・・・・だってさー、良く考えたらあたしも〈囁告篇帙‹ラジエル›〉も戦闘向きじゃないんだもんでさー。ソレにずっと非戦闘員ポジションにいた訳じゃん? 〈バンダースナッチ〉にグールにインプとか、雑魚魔術師‹ウィザード›とかならまだしも、初戦闘がいきなりラスボス戦ってちょーっとハードル高くにゃい・・・・? これはアレだよ、ゴー◯デンフ◯ーザ様の相手をヤ◯チャにされるようなもんじゃにゃい?」
『はあ』
二亜が甘えるような口調で言うと、マリアはわざとらしく大きなため息を吐いてきた。
《威勢よく啖呵を切ったかと思ったらコレですか。情けなくて涙が出てきますね》
「う・・・・っ、し、仕方ないじゃん! あたしが下手に出しゃばって皆の足を引っ張ったら目も当てられないし・・・・」
言って、両手の人差し指をツンツンと突き合わせる。
するとマリアは、もう1度大きなため息を吐いてから続けた。
《ーーーー仕方ありません。こんな人でも精霊は精霊。今は猫の手も借りたいくらいに戦力が欲しい所です。今から私の言う事を良く聞いて下さい。現状お役立ち度ゾウリムシ以下の二亜を、ミジンコくらいにはしてあげます》
「へ?」
マリアの言葉に、二亜はキョトンと目を丸くしたと。
ー士道sideー
ーーーー空から、絶望が降ってくる。
巨大な黒花〈極死祭壇‹アティエル›〉から放たれた闇の粒は、精霊達を捉えんと、花粉の如く辺りに降り注いだ。
「皆! ソレに当たっちゃ駄目だ・・・・!」
ウィザード‹士道›は喉が潰れんばかりに声を張り上げた。その闇の粒は『死』の具象。触れるだけで問答無用に対象の命を奪う理不尽なる殺戮者である。精霊全ての力と魔獣‹ファントム›の力を合わさったウィザード‹士道›なら問題ないが、他の皆はそうではない。
精霊達もその脅威は重々承知しているだろう。ソレを弾いたり防いだりはしようとせず、その場から飛び退く。
だが、全ての精霊が逃れられた訳ではなかった。カーバンクル、ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›と対していた折紙とビーストHA‹真那›が、2人の妨害に遭い、逃げ遅れてしまう。
「く・・・・!」
「この、邪魔を・・・・!」
ウェスコットの霊力を付与されているカーバンクル達には、例え闇の粒をその身に受けようと死に至る事は無いだろう。だが、澪の力を得ているとは言え、折紙とビーストHA‹真那›がどうなるか分からなかった。
「折紙! 真那ーーーー!」
「くーーーー〈万象聖堂‹アイン・ソフ・オウル›〉・・・・!」
澪が〈極死祭壇‹アティエル›〉の力を相殺しようとしてか、〈万象聖堂‹アイン・ソフ・オウル›〉を顕現させる。
だが、遅い。〈極死祭壇‹アティエル›〉の闇の粒が、細雪のように折紙とビーストHA‹真那›に降り注いだ。
がーーーーその時。
「え・・・・?」
視界を幾つもの白い影が横切り、士道は目を瞬かせた。
一瞬幻覚かとも思ったが、違う。
突然、何人もの同じ貌をした少女達が現れ、その身を挺して折紙とビーストHA‹真那›を闇の粒から守ったのである。
「なーーーー!?」
無論、闇の粒は『死』の塊。ソレを受けた少女達は一瞬にして命を失ってしまう。しかし、少女達は亡骸を残す事なく、無数の紙となって消滅した。
「まさか、アレは・・・・」
ウィザード‹士道›は声を張り上げた。その異様な光景に、見覚えがあったのだ。
すると、そんなウィザード‹士道›の驚きに合わせるように、後方から声が響いてきた。
「やー、間一髪だったねー少年! でも大丈夫、二亜ちゃんが来たからには、ここからがハイライトだー!」
「何故この流れでそんな大口を叩けるのか理解に苦しみますね」
ウィザード‹士道›はそんな声に弾かれるように振り抜くと、ソコにいた精霊の姿を見た。
「二亜! とーーーー」
が、途中で言葉が止まる。二亜の隣にもう1人、見慣れぬ少女の姿があったのだ。
色素の薄い髪に、白い簡易霊装。可愛らしくも何処となく生意気さが窺えるその顔立ちは、擬似精霊〈ニベルコル〉に似ているような気がした。
しかし、今し方かけられたその声と口調には覚えがある。ウィザード‹士道›はまさかと思いながら続けた。
「まさか、マリア・・・・か?」
「はい。良くできました。待望のリアルボディを手に入れ、完全無欠のマリアです」
言ってマリアが、ラブなライブのようなポーズを取ってしまう。その場違いな明るさに、ウィザード‹士道›は思わず苦笑した。
「でも、一体何がどうなってるんだ? 今折紙達を助けてくれたのもマリア・・・・だよな? あのーーーー〈ニベルコル〉みたいな」
ウィザード‹士道›が問うと、マリアがコクリと頷きながら答えてきた。
「その感想は間違っていません。〈ニベルコル〉は〈神蝕篇帙‹ベルゼバブ›〉の権能とDEMの顕現装置‹リアライザ›で作り出された擬似精霊でした。ならばーーーー〈囁告篇帙‹ラジエル›〉さえあれば、〈ラタトスク〉に同じ事ができない道理はありません」
言ってマリアがバッと手を掲げる。すると二亜の持っていた〈囁告篇帙‹ラジエル›〉から幾枚ものページが舞い、その中から、マリアと同じ貌をした少女達が現れる。
「無論、〈極死祭壇‹アティエル›〉の力を浴びた個体は蘇生できませんが」
「この身体を以て数瞬の間、皆を守る事が可能です」
「何、死に尽くしても二亜の霊力が空っぽになるだけです」
「元々無かったようなものですし、大した損害ではありません」
無数のマリアが冗談めかすようにそう言うと、空を舞い、〈極死祭壇‹アティエル›〉へと向かっていった。
するとソレに合わせるように、二亜がビッと人差し指を〈極死祭壇‹アティエル›〉に向ける。
「いっけー、マリア! 君に決めた!」
「(ドスッ)マリアは言う事を聞かない」
「あたー!?」
隣に残っていたマリアに脇腹を突かれ、ニ亜が身体をくの字に折る。
ウィザード‹士道›は2人のやり取りを見て、奇妙な既視感を感じた。そう、自分とドラゴンに似ているのだ。
「五河士道!」
「っ! エレン!」
ヘルキューレ‹エレン›が光速の流星となってウィザード‹士道›に迫るが、ウィザード‹士道›もまた、光速の流星となって激しい斬り合いを起こす。
「五河、士道ォォォォォォォォッ!!」
「エレェェェェェェェェンッ!!」
[ダーインスレイヴ デッドエンド!]
[ハイタッチ! ジュエルシャイニングストライク!! キラキラ! キラキラ! キラキラ! キラキラ! キラキラ!]
2人は全身を輝かせると、ダーインスレイヴとアックスカリバーを叩き合わせると、
「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「ハァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
激しい火花を散らせ、力は拮抗した。
「エレン! お前、ウェスコットのやり方を認めるっていうのかよっ!?」
「この世界が魔術師‹メイガス›と魔獣‹ファントム›の戦乱の世界となるならば、私はその世界で『最強の称号』を得るのみです!」
「ふざける、なァァァァァァァァァァァァ!!」
が、ウィザード‹士道›が押していき、ヘルキューレ‹エレン›を押し出した。
「くぅぅぅ!! 五河士道ォォォォォォォォ!!」
「エレンーーーーーーーー!!」
2人の魔法使いが、各々の必殺の刃をぶつけ合わせると、ヘルキューレ‹エレン›のダーインスレイヴと両手のアーマーに亀裂が走り、さらにその亀裂はヘルキューレ‹エレン›の身体全体に広がり遂にはーーーー。
「あぁぁぁぁぁ・・・・っ!」
ヘルキューレ‹エレン›のアーマーが砕け散り、そのままエレンにアックスカリバーの刃が叩き込まれそうになった。
が、しかしーーーー。
『ヒヒィィィィィィィィィィィィィンン!!』
エレンの身体から、ヘルスレイプニルが飛び出すと、その身体にアックスカリバー受けた。
「ヘルスレイプニル・・・・!?」
『・・・・エ、レン・・・・』
ヘルスレイプニルがエレンの名を呼ぶと、その身体が爆裂した。
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」
爆風によってエレンが吹き飛ぶと、マリアが声を張り上げる。
「士道今です! ウェスコットの元に!」
「ああ!」
ウィザード‹士道›が力強く頷くと、空を蹴って混沌の中心ーーーーウェスコットへと向かっていった。
無論、ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›やカーバンクルやメデューサがその手を阻み、〈永劫瘴獄‹ベリアル›〉の枝が触手の如く無数に蠢く。
しかしーーーー。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーッ!」
「〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉・・・・!」
「士道さんの邪魔はーーーーさせませんわ!」
辺りに展開した精霊達が、ヘルキューレⅡ‹アルテミシア›の刃を止め、カーバンクルとメデューサの行く手を阻み、枝を打ち払い、ウィザード‹士道›の道を切り開いた。
一瞬、ほんの刹那の瞬間だが、ウェスコットへの道が見える。
そして今のウィザード‹士道›には、その一瞬で十分だった。
「ふーーーーッ!」
光速の流星となったウィザード‹士道›が空を切り裂くように突き進む。
火花を散らす精霊達や魔術師‹ウィザード›達の間を抜けながら、ウィザード‹士道›は自分の頭が不思議なくらい冷静になっている事を自覚した。
まるで、一瞬が長く引き伸ばされるかのような感覚。
その中で、1つ1つ、身体に宿された霊結晶‹セフィラ›をーーーー天使を繋いでいく。
〈絶滅天使‹メタトロン›〉。
〈囁告篇帙‹ラジエル›〉。
〈刻々帝‹ザフキエル›〉。
〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉。
〈灼爛殲鬼‹カマエル›〉。
〈封解主‹ミカエル›〉。
〈贋造魔女‹ハニエル›〉。
〈颶風騎士‹ラファエル›〉。
〈破軍歌姫‹ガブリエル›〉。
そしてーーーー〈鏖殺公‹サンダルフォン›〉。
始祖の魔王を打ち倒すには、寸分の狂いも許されない。この身に宿る10の天使、全てを結集するイメージ。
やがてソレは1つの光となり、ウィザード‹士道›の右腕に纏わり付いた。
「ーーーードレイク」
『ゴギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
ウェスコットの身体から、ドレイクが飛び出し、ウィザード‹士道›の身体に喰らい付くように大顎を開いた。
が、
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』
「ドラゴンっ!」
ウィザードラゴンが飛び出し、ドレイクを抑えて飛んでいく。
『行けっ! 士道!!』
「っ! おおっ!」
初めて名前を呼んでくれたドラゴンに、変身が解除された士道が拳を振り上げる。
「イツカシドウーーーー」
ウェスコットの目が、大きく見開かれる。
ソレは驚愕や戦慄のようにも見えたしーーーー何処か歓喜や興奮の色が差しているようにも見えた。
けれど、どちらであろうとやる事は変わらない。
士道は渾身の力を込めた拳でーーーー。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーッ!」
始まりの魔術師‹メイガス›を、殴りつけた。
次回、士道がウェスコットを倒すのと同時に、各々の決着を着ける。