デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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これで二十章は終わります。
そして、物語最大の謎、ウィザードラゴンと崇宮真士の秘密が明らかにされます!


ドラゴン・オリジン

ソレは30年前のーーーー『運命の日』とも呼べる日に遡る。

『崇宮澪』を追ってくる人間達、後のDEMのCEOとなるアイザック・ウェスコットから逃げていた時、

 

ーーーーパン!

 

乾いた音と共に、熱い感触が襲った。

 

【ぁーーーーーーーー?】

 

一拍置いて、少年、『崇宮真士』は、自分が撃たれたのだと理解し、激痛が全身に震動として伝わり、息ができなくなる。ガクリと足が崩折れ、その場に転倒し、ジワリ、ジワリと生温い自分の血溜まりに浸る感覚がした。

 

【ーーーー!? ーーーー!】

 

最愛の人、崇宮澪が、必死に、何かを叫んでいる。 けれど、やがてその声さえも聞こえなくなり、脳裏に自分を殺したのであろう、忌々しい怨敵の声が過る。

 

ーーーー少年。君の言った言葉には『穴』がある。それはーーーー君にそれを成せる『力』が無い事だ。無力な子供の口先だけの行動が、このような『結果』を生む。

 

【(ーーーーあぁ、その通りだ・・・・俺には、何の『力』もない・・・・! 真那を助ける事も・・・・澪を守る事も・・・・何1つ、成せない・・・・俺は・・・・俺は、『無力』、だ・・・・!)】

 

真士が意識を手放す寸前、内心呟くとーーーー意識は完全に闇の中に落ちていった・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・おい、ここでしぬつもりか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇の中で、今にも消え入りそうな意識の中で、真士の耳に『何か』の声がした。

幼い、本当に幼い子供のような声。しかし、その声には有無を言わせぬ高圧感が備わっていた。

 

【(・・・・・・・・だ、れ・・・・)】

 

ーーーーわれがだれなのかなど、どうでもいい。このまましんでよいのか?

 

【(・・・・・・・・)】

 

ーーーーこのままなにもできないまま、しんでよいのか? いもうとも、さいあいのひとも、なにもまもれずに。

 

【・・・・・・・・・・・・い、や・・・・だ・・・・まだ、死ぬ・・・・訳には・・・・】

 

そうだ。死ぬ訳にはいかない。真那を助け出し、澪をあの男から守る。たとえ自分にはそんな力が無くても、ソレでもと、真士は言う。

 

【・・・・お前、は・・・・いったい・・・・?】

 

ーーーーわれは“きさまによってうみだされたのだ”

 

【・・・・え・・・・?】

 

ーーーーほんらいならば、きさまをくらって『けんげん』するのだが、いまそんなことをすれば、『あのおんな』にころされかねん。だから、こまっているのだ。

 

【・・・・それなら、俺を・・・・“お前の中に、いれてくれ”・・・・】

 

ーーーーは?

 

真士の言葉に、その声の主は間の抜けた声を発した。

 

【・・・・・・・・俺が、お前の中に入れば・・・・お前は消えないし・・・・俺も消える事はない・・・・違う、か・・・・?】

 

コレが天の助けか、悪魔の囁きかは分からない。しかし、このまま消えるのなら、万が一の可能性に賭けようと提案する真士。

 

ーーーー・・・・いいだろう。どのみち、ソレしか方法はない。しかし、われも『かしじょうたい』になってねむる。おきたときに、きさまのことをわすれているやもしれんぞ?

 

【・・・・ソレなら、俺がお前を・・・・思い出させて、やるよ・・・・】

 

ーーーーふん。よかろう。『けいやく』はせいりつされた。

 

そう言って、その声の主らしき『光』が現れると、真士はソレに包まれていった。

 

ーーーーさて、われもすこし、ねむるとしよう・・・・。

 

そう。この『光』も今はまだ、真士と一心同体。真士が消え入りそうな程の状態であれば、『光』もまた消える。だから『光』は自分の中に真士の魂を『保護』したのだ。そして『光』は、その姿を顕になる。

ーーーー西洋の竜が機械的になり、まるで幼竜とも言えるその身体を丸めて、深い深い眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソレから、20年以上の間、その『竜』は眠っていながらも、自身が眠る真士の肉体は、澪の中にいた。

澪は真士を蘇らせる為に、多くの知識を得ていると、まるで胎教のように、その『知識』が『竜』にまでインストールされていった。この時に、澪が『真士の身体』に与えていた『精霊の霊力を封印する能力』も、『真士の身体』の中にいた『竜』にも与えられ、さらにソレが変質し、『精霊の霊力と自身の魔力を融合させる能力』を偶発的に『竜』に与えてしまっていた。

そして、真士の肉体が澪の体外に出され、五河家の養子として迎え入れられ肉体に残った僅かな『意思』が五河家で過ごす肉体に、『五河士道としての心』を形成していった。

そうして10年近くの時が経過したある日。カーバンクルとメデューサによって『五河士道』は誘拐され、『儀式‹サバト›』を体験した。

 

【『グワァァァァァァァァ!!』】

 

その時、『五河士道』の絶望によって生まれたエネルギーが、30年も仮死状態で眠っていた『竜』を起こし、彼の身体を急激に成長させ、『もう一つの命』と『二体分の魔力』を与えたのだ。

目覚めた『竜』は、30年の眠りと、その間に得てきた『知識』によって上書きされ、崇宮真士に関する『記憶』だけを忘れつつ、『五河士道』を喰らおうとした。

 

【『っっ!!??』】

 

が、内部にいる『崇宮真士の魂』の存在を潜在的に覚えていたのか、『五河士道』を喰らう事が出来ず、さらに彼が死ねば自分と『崇宮真士の魂』も消滅する事も潜在的に覚えており動きが止まり、士道にも抑え込まれてしまう。

そうして『指輪の魔法使い』、〈仮面ライダーウィザード〉となった『五河士道』に、戦いの指導をする『保護者兼飼い主』、『ウィザードラゴン』として共に戦う事となった。

それからウィザードラゴンは多くの精霊達と出会う中、五河士道と1つとなる形態『ドラゴンスタイル』へと到達した。その際、ウィザードラゴンの中にいる『崇宮真士の魂』と、五河士道の中にある『崇宮真士の記憶』が『共鳴』を起こしたのか、ウィザードラゴンに『崇宮真士の記憶』が『夢』として見れるようになっていった。

徐々に自身の『忘れていた記憶』を思い出していく中、『レギオンファントム』によって、その身を破壊されてしまった。

1度は死を覚悟した。がしかし、五河士道の起こした『奇跡』と、『儀式‹サバト›』によって手にした『もう1つの命』によって復活し、そのまま『インフィニティスタイル』へと到達した。

それによって、完全に士道の中にいる『真士の記憶』とも同調して思い出し、自身の中にいる『真士の魂』を思い出す事ができた。

後は、風前の灯とも言える状態で眠っている『真士の魂』を身体の中にあるのを見つけ、自分が今まで精製し、蓄えてきた『霊力と魔力の混合エネルギー』を与える事で『真士の魂』を再生させていった。

しかし、『真士の魂』の受けたダメージは思いの外大きく、さらに、一気に魂を再生させようとすると、濃密なエネルギーに魂が耐えられず、消滅する恐れがあった故に、緻密で繊細な魔力操作をしなければならない程の再生作業に、かなりの時間を有してしまっていた。

まだ再生しきっていない状態で、仮死状態とも言える『真士の魂』が覚醒しだしたりするのを止めたりしながら、ドラゴンは少しずつ魂の修復をしていった。

そして、漸く修復が7割近くに来た所で、崇宮真士の『最愛の人』、『崇宮澪』が現れてしまった。

『最愛の人』の登場により、『真士の魂』が本格的に覚醒し出した。そして覚醒しつつある彼は聞いてしまった。澪の30年にも及ぶ罪過と絶望とーーーー修羅の道を。

それらを聞いて、真士は涙を流した。自分のせいで澪を苦しめた。澪が幾人もの人間を殺し、幾人もの人間達を不幸にしてきた。自分のせいでーーーー澪を苦しめてきた。

今すぐ澪の元に行きたいと激しく脈動する『真士の魂』だが、まだ完全に魂の修復が終わっていない状態だったので、ドラゴンが何とか抑え込んでいた。

そして今、漸く澪は士道達と和解したがソレも束の間。ウェスコットの悪あがきで『最強最後の魔王』を放とうとし、澪が『最強最後の天使』を発動させ、お互いに消滅してしまう。

ソレを見た『真士の魂』はもう抑えきれない程に力を生み出し、足りない部分はドラゴンが自らをエネルギーを使って、残った魂の傷を修復し、『アバター』の魔法で身体を形成し、その身体に『真士の魂』を入れ、澪の元へと向かわせたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー澪sideー

 

「(ーーーーそう、だったんだ・・・・!)」

 

澪の身体が、世界に溶けようとしていくなんとも不思議な感覚を感じた。

ウェスコットの力の暴走を止める為に、天使と魔王の対消滅を行ったのだ。

痛みも恐怖もない。否、そんなもの、今の澪を満たしている感情に比べれば、取るに足らない些末な感情であった。

今、自分の目の前に、シンがいてくれる。これだけで、澪の30年にも及ぶ罪過の旅が報われた。

そして、士道の記憶から見た、ドラゴンの言葉が脳裏に過る。

 

【君は崇宮真士の事を誰よりも想っているように見て、本心では崇宮真士を誰よりもーーーー“見下しているな”】

 

これを知った時、何故こんな酷い言葉を言うのか分からなかった。

 

【確かに神の如き力を有しているだけはある。自分以外は全て自分よりも圧倒的に下の存在としか見ていない。それが想い人である崇宮真士でもな】

 

今なら分かる。この言葉に秘められた、シンの事を。

 

【この罪は私だけのものだよ。シンは何も知らなくて良い。全て私がーーーー】

 

自分の言葉も脳裏に過ぎり、自嘲しそうになる。

ーーーーあぁ、何と言う思い上がりか・・・・。

結局、自分は愛するシンの事すらも、本当の意味で理解していなかった。

しかし、シンはそんな澪を見て一瞬苦笑しながらも、その身を優しく抱き寄せた。

 

『ーーーーやっと、君を抱き締められる。・・・・こんな幸せな事はない・・・・』

 

「(あ、ああーーーーーーーー)」

 

その言葉を聞いて、澪もシンの身体を強く強く抱き締められた。

温かな感触が身体に伝わる。澪は、その胸に顔を埋め、声にならない叫びを上げる。

ーーーー30年。

ずっと、ずっと、彼を求めて彷徨ってきた。

彼の思い出だけを頼りに歩いてきた。

彼はずっとーーーーこんな近くにいてくれたのに・・・・!

 

『ーーーー澪。ずっと、ずっと会いたかった』

 

シンも、澪の体を抱き返してくる。

 

「(私もーーーーずっと、会いたかったーーーー)」

 

澪はそれに負けないくらい、シンを抱く腕に力を込めた。

もう絶対に離れないように。

もう絶対にーーーー離さないように。

 

『ーーーーこれからは、ずっと一緒だ』

 

「(うん・・・・!ーーーーさようなら、士道。ありがとう、ドラゴン、いや、ーーーー)」

 

澪は、涙に彩られた笑みを浮かべながら、士道に決別を。ウィザードラゴンに『ある言葉』を伝えてからーーーー世界に、消えていった。

 

 

 

 

 

 

ーウェスコットsideー

 

人の生き死にの境目と言うのは酷く曖昧で、何を以てその人間が死んでしまったかを判断するかは、各人の判断によるだろう。

虚ろな視界の中で、アイザック・ウェスコットはボンヤリと哲学的な事を考えていた。

ーーーーだとするならば、自分は今果たして生きているのか、と。

少なくとも、心肺は機能していない。身体の大半が消失してしまっているのだから当然ではあるが、そんな事を考える意識こそあるものの、脳が形を保っているかさえ定かではない。ただ地面に横たわって空を眺めながら、意識の停止を待っているーーーーと、ソコまで、ウェスコット思わず笑ってしまった。

『人の生き死に』と言うならば、自分はとうに死んでしまっていると言う事に気づいて。そう。人間・アイザック・ウェスコットはもう既に死んでいる。ここにいるのは、その霊力によって辛うじて存在を保っている、哀れな精霊の残骸だ。こんな様相になりながらも未だ意識を保っている事がその証左だろう。

天使と魔王の対消滅。至近距離でそんなものに巻き込まれたのだ。この結果は当然と言えた。既に〈デウス〉の気配はない。と言う事は復活したタカミヤシンジも一緒に、一足先に消滅してしまったようだ。

心中まで拒絶され、さらに殺した筈の少年が蘇り、共に自分を消し去った。まるで、「自分達の間に無粋に入ってくるな!」と言わんばかりに。

まさか『最高の魔術師‹メイガス›』とも呼ばれ、世界最高峰の大企業のCEOである自分が、こんな、恋人同士の邪魔をする虫ケラのような扱いをされて消されるとは、我ながら滑稽極まるものだと思って、ウェスコットはもう1度笑った。

自分の表情が笑みの形になっているかどうかさえ、今はもう分からなかったけれど。

とは言え、ソレも時間の問題だろう。如何に精霊とは言え、もう長くは保つまい。実際先程から死神に手を引かれるように、意識が微睡みつつあった。

がーーーー。

 

「ーーーーアイク!」

 

その時、ウェスコットの意識を引き戻す声が響いてきた。

見やると、エレンが真っ青な顔をしながら駆け寄ってくる。どうやら無事だったようだ。

 

「やあ・・・・エレン」

 

「ああ、アイクーーーー何て事に・・・・! すぐに医療用具顕現装置‹メディカル・リアライザ›をーーーー」

 

エレンがソコで言葉を止める。ウェスコットを移送しようと随意領域‹テリトリー›でその身体を包んだ瞬間。もう手の施しようがないと理解してしまったのだ。

 

「あ、ああ・・・・」

 

エレンが、力無くその場に崩れ折れる。

すると、まるでソレに合わせるようにしてーーーー。

 

「・・・・アイク」

 

別の声、低い男性の声が、ウェスコットの名を呼んできた。

ウェスコットはすぐにその人物に思い当たった。ーーーーウェスコットをその愛称で呼ぶ者など、エレンを除けばたった1人。

 

「・・・・ああ、エリオットか」

 

ウェスコットが応えると、視界の端に、車椅子に乗った男と、ソレを押すエレンに良く似た女性が現れた。

エリオット・ウッドマンとカレン・メイザース。ウェスコット達のかつての同胞にして、〈ラタトスク〉の創始者達である。

 

「・・・・!」

 

エレンは弾かれるように顔を上げると、キッとウッドマンとカレンを睨み付けた。ウッドマンは自分達と道を違えた裏切り者であり、恨んでいた。自分の手で殺らねば気が済まない程に。

だが、エレンはウッドマンに刃を向ける事も、呪いと怨嗟を吐く事でもなく、グッと奥歯を噛み締めてか懇願するように言った。

 

「お願いーーーーエリオット。アイクを・・・・アイクを助けて。あなたならできるでしょう? 私にできる事なら何でもする・・・・何でも言う事を聞くからーーーーお願い・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

エレンの涙ながらの訴えに、ウッドマンは静かに目を伏せた。

拒絶している訳でも意地悪でもない。単にーーーーこの世の誰にも、死にゆくウェスコットを蘇生させる事など出来はしないだけだった。

 

「あ、あ・・・・」

 

エレンが、ポタポタと涙を流しながら声を震わせる。そんな姉の姿を見てか、カレンが微かに心苦しそうな表情を浮かべた。

 

「ふ、ふ・・・・どうしたんだい、態々。私を笑いに来たのかい、エリオット」

 

「・・・・友の死に目に会いたいと言うのは、そんなに可笑しな話かな、アイク」

 

掠れた声で問うウェスコットに、ウッドマンはそう返してきた。

 

「ああ・・・・そうだね。野暮な質問だった。進む道こそ違ってしまったが、君は確かに私の友人だ。それにーーーー」

 

ウェスコットは、冗談めかすように唇の歪めた。

 

「ーーーー同じ女に30年もしつこく想いを抱いて振られた、負け犬同士だしね」

 

「ーーーーーーーー」

 

ウェスコットの皮肉に、ウッドマンは一瞬目を丸くした後、フッと息を漏らした。

 

「はは・・・・違いない」

 

「ふーーーーふ・・・・」

 

ウェスコットは小さく微笑むと、改めて霞む視界の中に広がる世界を見渡した。

エレン、カレン、ウッドマン。

数十年前のあの呪わしい日。故郷の里を人間の悪意に焼かれ、人間達に復讐を誓った盟友達。ウェスコットの、最も旧い仲間達。そんな彼らが一様にウェスコットを見つめ、思い思いに悲哀を表している。

 

「(ーーーーああーーーー)」

 

ウェスコットは、不思議な感覚を覚えた。

幼い頃の記憶。棺に入れられ埋葬される母。ーーーーそんな母の視線から、葬儀に集まった皆を見るかのような感覚。

泣きじゃくるエレン、目を伏せるカレン、静かにコチラを見つめるウッドマン。

形こそ違えど、ソコには悲しみと悼みと、絶望が満ちていた。

友たちのそんな表情が。その表情を作らせているのが自分であると言う事が。ーーーーその絶望の中心に自分がいると言う事実が。

ーーーーウェスコットには、心地良くて溜まらなかったのだ。

 

「(・・・・なん・・・・だ、こんなにも簡単な・・・・事だったのか・・・・)」

 

最悪の天才魔術師アイザック・ウェスコットは、心躍る恍惚の中、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

そしてここに、ドラゴン(死にかけの満身創痍&魔力も底をつく寸前)によって伝えられ、全てを知った士道達は、目映い光に包まれ消えていく澪と真士を見据える。

 

「・・・・そんな、事が・・・・」

 

『魔獣‹ファントム›は『ゲートの記憶と魂を喰らう』、この特性を応用したのかも知れん。我も幼かったからな、真士を喰らうよりも、『保護』を選んでしまったのかもしれん』

 

それは違うと、精霊達は思った。きっとドラゴンは優しいから、死にそうな真士を助けたのだと思ったのだ。

精霊達と同じ思考に至ったのか、士道は一瞬優しく笑みを浮かべると、すぐに不貞腐れたような声を発する。

 

「・・・・何で、そんな大事な事を俺に教えてくれなかったんだよ、ドラゴン・・・・」

 

『ーーーーはっ。言った所で貴様が大人しくするようなら、狂三の分身体も、狂三の時間遡行による活躍やら、DEMの襲撃を態々教える事はしないだろうが。下手に伝えれば貴様は逆に『それでも! 俺が何とかする! 俺が澪を助けるんだ! 真士じゃなくて俺が!!』とか妙な意地を張って意固地になって、状況を余計にややこしく引っ掻き回すだけだろうが』

 

「・・・・ですわね」

 

「・・・・確かにね」

 

『・・・・うんうん』

 

ドラゴンの意見に狂三と琴里が同意し、他の皆も頷いた。

 

「・・・・何だよソレ・・・・」

 

思わずボソッと呟いた士道は、そのまま〈フラクシナス〉の外装に座り込み、自嘲するような笑みを浮かべて見上げた。

 

「ドラゴンは、真士から生まれた魔獣‹ファントム›って・・・・。それって、俺が今まで〈仮面ライダーウィザード〉として戦ってこられていたのは、全部ーーーー“真士のお陰って事じゃあねぇか”」

 

自分が今まで魔獣‹ファントム›達やウェスコット達と戦ってこられたのは、崇宮真士がウィザードラゴンを生み出し、ソレを士道が使っていたに過ぎなかった。

 

【ーーーー澪、お前を、真士‹おれ›から奪い取る為に、ここに来たんだ】

 

先程まで、〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉で自分が澪に言った言葉が過る。

 

【お前の霊力だって封印できるかも知れない。でも、封印=死ではない筈だ。お前が自分の死さえ選ばなければ、な。ーーーーと言う訳で、だ。へっへっへ、昔の男なんて忘れて俺に乗り換えちまえよ、澪】

 

酷く自分がーーーー滑稽に思えて仕方なかった。

何が『昔の男なんて忘れて俺に乗り換えろ』、だ。最初から自分は、その『昔の男』である崇宮真士に、ずっと護られていたようなものだったのだ。

 

「・・・・あ〜ぁ、最初から負けてたのかよ俺。澪にも振られちまったなぁ」

 

『・・・・・・・・』

 

「ドラゴン・・・・」

 

自嘲する士道に、ドラゴンは優しくポンっとその肩に優しく手を置いてーーーー今まで見た中で1番いい笑顔でもう片方の手でグッと親指を立てると・・・・。

 

『ナイス道化‹ピエロ›。ナイス道化師‹ピエロ›坊やだったぞ♪』

 

「ーーーーうるせぇーっ!!」

 

ーーーー今までで1番強烈な皮肉を言った。

その言葉に、精霊達(狂三ですら)、真那や輪島は盛大に苦笑した。

相思相愛の純愛カップルに間に、無理矢理に割って入ろうとしたが、結局振られてしまった士道は、確かに見事な道化師‹ピエロ›である。

 

『まぁそんな卑屈になるな。お前の見事なピエロっぷりが、最悪の厄災だった澪の心を動かしたのだ。まさに道化師の奇跡だな♪』

 

「褒めてんの!? 馬鹿にしてんの!?」

 

『両方だ。ーーーーまぁ、あの2人の間に割って入れる奴などおらんという事だ。そう言う意味でなら、30年もしつこく澪を付け狙っていたウェスコットも、女々しく澪への一方的な片想いを抱き続けていたウッドマンも、見方によっては立派な道化師‹ピエロ›だがな』

 

消えてしまった澪と真士の2人に思いを馳せるドラゴンのその貌は、何処か気恥ずかしそうだが、まるで愛おしいものを見るような、とても慈愛に満ちた笑みであった。

まるでそれはーーーー両親が仲睦まじい姿を見て、恥ずかしいが笑顔を浮かべる息子のようであった。

 

「・・・・もしかすると、ドラゴンさんにとって、真士さんと澪さんは、『ご両親』のようなものかも知れませんわね」

 

「・・・・そう言う意味でなら、士道も村雨さん、いや、澪にとって、“我が子も同然だったのかもな”」

 

「・・・・そうね。それじゃ、最初から士道に勝ち目なんて無かったって事ね」

 

「・・・・澪さんにとっての『最後の希望』は真士兄様で、真士兄様の『最後の希望』は、ウィザードラゴンだったのかも知れねーですね。・・・・あ~ぁ、それにしても、最後の最後くらいは、澪さんの事をーーーー『姉様』って呼びたかったでやがりますなぁ!」

 

狂三と輪島と、目を真っ赤に腫らした琴里がそう言い、同じく目を真っ赤にし、今にも泣きそうになるのを必死に堪えている真那が、精一杯我慢して言うと、二亜が少しニヤニヤしながら便乗する。

 

「それなら傍目から見るとドラくんは、ウェスコット‹悪質で性悪な最低ゲス野郎›のせいで離れ離れになってしまったご両親を引き合わせて、再び結ばせる為に四苦八苦&八面六臂な大活躍をしてきた孝行息子って所だねぇ」

 

「ではさしずめ士道は、大好きな母親が父親とイチャイチャするのに嫉妬して、『ママ〜、僕の方を愛してよぉ〜!』と、ラブラブ夫婦の間に、空気を読まずに不粋に割って入ろうとしていたマザコン息子と言った所ですかね」

 

『ーーーープフッ!!』

 

「うぐぅっ・・・・!!!」

 

二亜に、さらにマリアまで加わった例えに、ドラゴンは勿論、精霊達の大半や真那に輪島までもが、状況を忘れて吹き出し、士道は憮然とした顔になる。

 

「俺、そんなにマザコンかよ・・・・?」

 

『何を言っとるか。貴様は令音が、澪が真士の事を想っているのを見てーーーーずっと真士にモヤモヤと『自覚の無い嫉妬』を抱いていただろう』

 

「そ、そんな事・・・・!」

 

『我はお前の体内にいたのだぞ。貴様の心境など、誰よりも近くで感じていたわ。真士の事を知ってから、貴様は真士に嫉妬をしていた。だからしょうもない料理勝負などをやって、必死に澪を自分に振り向かせようとしていたのだろう』

 

「・・・・・・・・」

 

否定したくても出来なかった。誰よりも近くにいたドラゴンだからこそ、その言葉に真実味があり過ぎる説得力あるのだ。

士道は改めて、自分の秘密を知ってからの心境を省みてみた。

令音はーーーー澪は、『五河士道』として始めて会った時から、士道の事を、愛する人である崇宮真士の愛称である『シン』と呼び続けていた。それは、最初から士道の事を『五河士道』ではなく、『崇宮真士』としてしか見ていなかったと言う意味だ。

ここにいるのは、目の前にいるのは『五河士道』なのに、澪は自分を見ていない、見てくれてない、ソレを痛感すると、士道の中に真士に対して、モヤモヤとした嫌な感覚、恐らくソレこそがーーーー『嫉妬』の感情だったのだろう。

 

「・・・・そっか・・・・俺、真士に『嫉妬』していたんだな」

 

漸く自分の中にあった醜い感情を理解し、士道は自分自身が、思ってた以上に矮小で、子供であった事に、自嘲してしまい小さく笑みを浮かべた。

そして、ドラゴンが顔を引き締め、士道を諭す。

 

『貴様はいつも母親の影に囚われていた。だが、もういい加減に母親離れをしろって事だ。・・・・アレを観て、まだ自分は割り込める隙があると思っているのか?』

 

ドラゴンが、消える寸前まで心の底から幸せそうに笑みを浮かべていた澪と真士の姿を思い返させた。

 

「ーーーーああ、そうだな・・・・そうだよな。初めっから、俺なんかが割り込める隙間なんて、澪と真士の絆には無かったって事だな・・・・。俺じゃぁ結局、澪の『最後の希望』にはなれなかったって事だな。・・・・ーーーーあ~ぁそれでもさ、俺なら! って思っても良いじゃねえかよ」

 

『アホめ。『Like me』と『Love me』の違いすら分かっていないお子ちゃまが、図に乗って思い上がって自惚れるのも大概にするのだな』

 

「うるせぇよ・・・・」

 

所詮、『精霊達を落とした世紀のプレイボーイ』でも、中身は『恋愛』を知らないお子様に、あのラブラブ熱愛純愛カップルの間に割って入れないと、心から思い知らされた士道・・・・否、ドラゴンと、既婚者の輪島以外は思い知らされてしまった。

とーーーーその時である。

スッカリ暗くなった空から、小さな光が、ユラユラと揺らめきながら落ちてきたのは。

 

「えーーーー?」

 

士道は目を丸くしながら顔を上げた。

するとその光は、まるで士道の元に導かれるかのように、ゆっくりと皆の前へと降りてきた。

 

「これは・・・・」

 

『っ!』

 

ソレを見て、士道も、ドラゴンも、そして精霊達と真那と輪島も、その光の正体を認め、驚きに目を見開いている。

しかしそれも仕方ない。何しろそこに浮遊していたのは、様々な色の光を灯す宝石のような物体ーーーー霊結晶‹セフィラ›。

ーーーーそしてその上に乗った、傷だらけのクマのぬいぐるみだったのだ。

士道がソレに気づいた瞬間、霊結晶‹セフィラ›の上からぬいぐるみがずり落ち、咄嗟に士道が手を伸ばしてソレをキャッチした。ソレを確認してから、ドラゴンが霊結晶‹セフィラ›をその手にソっと置いた。

そのぬいぐるみを見ると間違いない。令音が肌身離さず身につけていたぬいぐるみであった。

否ーーーーそれだけではない。今の士道には分かる。そのぬいぐるみは、30年前、真士との初めてのデートで、真士が澪に贈ったプレゼントでもあったのだ。

30年もの間、澪の心を支え続けた陰の功労者。きっと澪はそんなぬいぐるみを共に消してしまうのが忍びなく、こうして士道とドラゴンに遺したのだろう。

年を経たぬいぐるみは、随分とくたびれていた。身体のアチコチに繕い跡があり、損傷の酷い箇所には色の違う当て布さえしてあった。

澪の力があれば傷を再生する事など容易かったろうに、態々全て手作業で繕ったらしい。

恐らくーーーー耐えられなかったのだ。如何に綺麗に再生するとは言え、真士から貰った宝物であるぬいぐるみが、別の物になってしまう気がしてーーーー。

 

「ーーーーぁーーーーーーーー」

 

ソレを認識した瞬間、士道の目から、滂沱と涙が溢れた。

 

『ーーーーーーーーこれが、澪の、『ハッピートゥルーエンド』、と言った所か・・・・』

 

横にいたドラゴンも顔を上に向けて呟くと、目を閉じ、その瞼から、1筋の涙が静かに流れた。

 

「あ・・・・、あーーーーッ・・・・」

 

皆をこれ以上心配させる訳にはいかないと、態々ドラゴンが皮肉を言っていつもの漫才で誤魔化してくれたのに、ギリギリの所で押し留めていた感情が、一気に決壊してしまった。士道はぬいぐるみを抱き締めるように身体を折ると、震える声を響かせた。

 

「・・・・澪・・・・みーーーーお・・・・ッ!」

 

優しくーーーー悲しい、少女だった。

悪意による歪な方法で生み出され、訳も分からぬままに争いに巻き込まれーーーー贖い切れない罪過を犯してきた。

その生涯は決して平穏なものではなかった、けれどーーーー。

 

「おまえは・・・・シンとやっと・・・・、やっと一緒に・・・・なれたんだなぁ・・・・!」

 

士道は掠れた声でそう言うと、涙に濡れた顔を再び上げた。

最後の最後で、心から愛する人と共に逝けた。きっとソレは士道ごときでは理解できないだろうけどーーーーきっと彼女は、幸せだったのだろう。

すると、そんな士道の心境に応えるかのように、ドラゴンの手に収められた虹色の光を放つ霊結晶‹セフィラ›が微かに揺れーーーー空気に、溶け消えていく。

 

「澪・・・・」

 

しかし、ソレを見つめながら、士道は不意にある考えが、脳裏に過った。

 

「(・・・・ひょっとしたら、アレを使えば澪をーーーー)」

 

 

 

がーーーーーーーーーーーーその時。

 

 

 

ーーーーザシュッ・・・・!

 

 

 

 

『ーーーーぐぁぁぁぁっ!!??』

 

 

 

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーーえ?」

 

士道は、呆然と声を発した。ドラゴンの手にあった、消滅しかけた澪の霊結晶‹セフィラ›。

それが、不意に振り下ろされた剣によって、ドラゴンの手が斬り落とされ、鮮血のような魔力の光が噴き出すと、斬られた手は吹き飛び、何者かがその手を掴んで、その中の霊結晶‹セフィラ›を握り締めた。

普段のドラゴンならば回避と防御が出来ただろうが、満身創痍と魔力が殆ど残っていない状態からの不意打ちで間に合わなかったのだ。

予想外の事態に、士道は息を詰まらせると、咄嗟にその手の主を見た。

 

「なーーーー」

 

そして、一瞬言葉を失う。

澪の霊結晶‹セフィラ›を掴んだ者の正体が、意外に過ぎる人物だったのだ。

 

「十、香ーーーー?」

 

『っっ!! し、しまった・・・・!」

 

そう。皆の驚愕の中、剣を振り下ろし、霊結晶‹セフィラ›を奪ったのはーーーー十香だったのだ。

 

 

 

「ーーーー悪いが、コレは、私がいただく」

 

 

 

十香はそう言うと、霊結晶‹セフィラ›を引き寄せ、自分の胸元に押し当てた。

すると、狂三が二亜の霊結晶‹セフィラ›を取り込んだ時のように、十香の胸に、澪の霊結晶‹セフィラ›が吸い込まれていく。

 

「十香、何をーーーー」

 

『させんっ!!』

 

士道が言いかけ、ドラゴンが十香を止めようと近づいた瞬間。

ーーーー世界が、光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーグレムリンsideー

 

「・・・・遂に、遂に手に入った・・・・!」

 

士道達から遠く離れた地上、ウェスコット達からも遥かに離れた地点。ウィザードラゴンとドレイク・ファントムが死闘を繰り広げた空域の真下。

ーーーーソコで、グレムリンは見つけた。

『儀式‹サバト›』を妨害しに来た仁藤達国安0課と戦っている最中に、ワイズマンとメデューサが離脱した事を知り、急いで天宮市に戻った自分が見たものは、ワイズマンの真実であった。

しかし、そんなものグレムリンにとってはどうでも良い。目的の物が、ドレイクの中にあると知り、ソレを追ってここまで来たのだ。

瓦礫などの中に埋もれていたその魔宝石ーーーー『賢者の石』を求めて。

 

「ハハハハ、アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハっ!! やったぞぉ! これで、“僕は戻れるんだっ!!”」

 

グレムリンが『賢者の石』を胸元に押し当てると、石に内包されていた莫大の魔力をその身に纏っていく。

そして、光が世界を包みこんでいくが、そんなものに構わず、グレムリンは狂ったように高笑いを続けた。

 

「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! アーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

世界が改変される光景を背に、グレムリンの身体は、変貌していったーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー『澪ハッピートゥルーエンド』・FINー




最後の最後で動いた彼女。漁夫の利を得たグレムリン。まだまだ士道とウィザードラゴンの戦いは終わらない!


次回、デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛

崇宮澪により世界は救われ、士道達は平穏な日々を送っていた。何もかもが都合の良い世界。そんな世界に、何処か『違和感』を感じる士道に、狂三が真実を告げる。

「ーーーー放っておけば、やがて世界は十香さんごと自戒してしまうでしょう」

「あたし達も、戦争‹デート›と洒落込もうじゃないの」

世界に維持する為に霊力を捻出する為にバトルロイヤルをする精霊達。

「僕はーーーー人間に戻るんだ!!」

『賢者の石』を取り込んだグレムリンが、士道に襲い来る。 救われた世界で1人だけ救われなかった少女をデートして、デレさせるのだ!

第二十一章 『ーーワールド』

『まだまだ、貴様との腐れ縁は続くようだなぁ!』
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