デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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幕間です。


幕間13
その精霊が誕生した刻


崇宮澪の生涯において、色濃く記憶に残った出来事を順に述べよと言われたなら、その大部分はーーーー良くも悪くもーーーー崇宮真士にまつわる物語で埋め尽くされていると言っても過言ではない。

真士と初めて出会った日。

真士に連れられて海へ行った日。

ーーーー真士が、目の前で死んでしまった日。

ソレらはまるで大樹の根のように、或いは鋭い楔のように、澪の記憶に深く深く刻み込まれ、彼女を破滅と救済の道へと突き動かす原動力となっている。

全ては真士の為。真士との、1番輝いていた時間を取り戻す為。その想いによって、澪は30年に亘る長い時を1人戦い抜いてきたのだ。

だが、物事には『例外』が存在する。

幸せと不幸、希望と絶望、光と闇に彩られた真士との思い出の中、彼女の胸に強く残る出来事が幾つか存在した。

例えば、時崎狂三との出会い。

例えば、村雨令音てしての記憶。

そしてーーーー。

 

 

 

 

 

ー澪(過去)sideー

 

“ソレ”が起こったのは、澪が幾つ目かの霊結晶‹セフィラ›を生成した時の事だった。

ーーーー霊結晶‹セフィラ›。人間を精霊と化す魔性の宝石。

澪は自らの目的の為、己の力を切り分けてソレを生成し、人間を次々と精霊に変じさせていたのである。

とは言え、本来霊結晶‹セフィラ›と言うのは、人間の属性と相容れないものだ。出来上がったばかりの霊結晶‹セフィラ›を与えられた人間は、その力に耐えきれず暴走してしまう。安全な精霊を作る為には、幾人もの人間を使って霊結晶‹セフィラ›を精製する工程が必要だった。

しかし、ある時澪は考えた。もしもその作業を無くす事が出来るなら、時間を短縮にもなるし、何より余計な犠牲を出す必要も無くならなではないかーーーーと。

だからその日澪は、いつもとは少し違う方法で、霊結晶‹セフィラ›を生成した。

 

「ーーーー生成」

 

静かに言って、心を研ぎ澄ます。

自らのみに溢れる力、その1部を切り分けて凝縮させる。その際、人間に対して害を為す、謂わば『毒』のような要素を、霊結晶‹セフィラ›の中で一所に集め、隔離する。

そうすれば人間の濾過機として用いずとも、最初から精製された霊結晶‹セフィラ›が生まれるのではないかと考えたのである。

 

「ーーーーーーーー」

 

生成した結晶に命を吹き込むように、フウと吐息をする。すると霊結晶‹セフィラ›がボンヤリとした輝きを帯び始めた。

その工程は、儀式のようなものであり、霊結晶‹セフィラ›の属性を決定づける最後の仕上げでもあった。ただの力の塊に、自らの感情の1部を付与するイメージ。そうする事によって霊結晶‹セフィラ›は、様々な色に変じていくのである。

怒りを込めたなら、苛烈な赤に。

悲しみを込めたなら、沈むような青に。

後悔を込めたならーーーー淀みさえも見えない位、深い深い、黒に。

負の感情を込めた方が、霊結晶‹セフィラ›が強い力を発揮しやすい事は、経験上何と無く分かっていた。けれどソレは同時に、精製の際犠牲となる人間が増える事と同義でもある。

だから澪は今回、温かく、しかし強い感情を霊結晶‹セフィラ›に込めた。

澪の全ての原動力。ーーーーこの身を焦がす、恋心を。

だがーーーー。

 

ーーーードクン・・・・!

 

「・・・・え?」

 

澪は、目を見開いて呆然と声を発した。

手の中に生まれた霊結晶‹セフィラ›が、突然脈動し始めたのである。

 

「霊結晶‹セフィラ›が・・・・? 一体コレはーーーー」

 

ーーーードクン、ドクン、ドクン、ドクン・・・・。

 

澪が困惑していると、霊結晶‹セフィラ›の鼓動はどんどん強くなっていきーーーーやがて、澪の手を弾くようにして空を舞った。

そして虚空の中、その霊結晶‹セフィラ›は凄まじい光を放ったかと思うと、そのシルエットを、どんどん膨れ上がらせていった。

 

「なーーーー」

 

強烈な光に、思わず目を覆う。

そして目を開けた時ーーーーソコには、1人の少女が出現していた。

風に遊ぶ長い髪は夜色。その間から覗く面は白磁。

その身を紫紺の霊装で鎧った、暴力的なまでに美しい少女が。

 

「ーーーー君、は」

 

「・・・・・・・・」

 

澪は呆然と問いを発するも、少女は答えず、自分の手の平に視線を落とすと、その感触を確かめるように数度握ったり開いたりを繰り返した。

そしてグルリと視線を巡らせて辺りの様子を見回しーーーー漸く澪に目を向けてくる。

 

「・・・・お前は、何者だ?」

 

「・・・・!」

 

その言葉に、澪は思わず息を呑んだ。

まさかとは思ったが、やはり彼女には、意志がある。

予想だにしない『イレギュラー』。瞬き程の間に、澪の脳裏を様々な思考が巡る。

ーーーー彼女は一体何者なのか。

ーーーー彼女を一体どうするべきか。

ーーーー会話が可能という事は味方となってくれるのか?

しかし予定に無い『存在』である事に変わりはない。真士の精霊化と言う最大目的を達する為には、計画を乱す可能性は排除しておくべきではないのか。

兎に角、考えるのは後だ。先ずは彼女を霊結晶‹セフィラ›に戻さなくてはーーーー。

 

「ーーーーな」

 

と、ソコで澪は、小さく息を詰まらせた。

澪が結論を出し、彼女を拘束しようとした瞬間、目の前に立つ少女の様子が変わったのである。まるで、“澪の敵意を反映するかのように”。

別に、姿形が変わった訳では無い。けれど、その目に灯った光の色が明らかに違う。

一体コレはーーーー。

 

「ーーーー〈暴虐公‹ナヘマー›〉」

 

瞬間、少女が呟いたかと思うと、彼女の背後に闇が結集し、巨大な玉座を形作った。

そして少女はトン、と軽やかに肘掛けを蹴って飛び上がると、玉座の背もたれから、1振りの剣を引き抜きーーーー。

そのまま、ソレを澪目掛けて振り抜いてきた。

 

「・・・・っ!」

 

凄まじい剣閃。彼女の1撃が衝撃波となって澪に襲いかかってくる。澪はキッと自然を鋭くすると、身体に触れる寸前でソレを打ち消した。

 

「・・・・いきなり何をするの?」

 

「ふんーーーーソレはコチラの台詞だ。敵意を隠しきれておらんぞ」

 

少女は吐き捨てるように言うと、再び剣を振りかぶり、連続して澪に斬撃を放ってきた。

濃密な霊力が彼女の剣の軌跡をなぞるように形を成し、澪を討たんと空気を裂いて来る。

澪はソレらの攻撃を捌き、打ち消しながら、静かに唇を開いた。

 

「ーーーー〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉」

 

その名を唱えた瞬間、澪を中心とする空間がモノクロに変容しーーーー霊結晶‹セフィラ›から生じた精霊の身体を押さえつける。

1撃に込められた霊力から見ても、彼女が非常に強力な精霊である事は知れる。しかし如何な精霊であろうと、法の天使〈輪廻楽園‹アイン・ソフ›〉には抗えようが無いだろう。

 

「ぐ・・・・ッ」

 

精霊は苦しげに呻き、拘束から逃れようと身体中から霊力を放出する。

が、次の瞬間には、澪の霊装から伸びた光の帯が、彼女の胸を貫いていた。

 

「おのれ」

 

精霊が忌々しげに澪を睨み付けながらそう言って、その身体を光の粒子に変えていく。

数秒後、彼女がいた場所には、光の帯に包まれた霊結晶‹セフィラ›が輝いていた。

 

「・・・・驚いたな。こんな事、初めてだ」

 

そして、霊結晶‹セフィラ›を手に取り、視線を落とす。

後は手に霊力を込めて握り込めば、この霊結晶‹セフィラ›は跡形も無く砕け散るだろう。危険な因子は消去され、『イレギュラー』は無かった事になる。計画の事を考えるならば、ソレが最も確実な方法だ。

 

「・・・・・・・・」

 

ーーーーしかし、澪はその霊結晶‹セフィラ›を砕かなかった。

霊結晶‹セフィラ›の生成には膨大な霊力が必要であり、如何に澪とて無尽蔵に作り続けられる訳では無い。ソレに、偶発的に顕現した希少な精霊を、ただ無為に消してしまって良い物かと言う躊躇いがあったのだ。

 

「いやーーーー」

 

ソコまで考えて、澪は静かに頭を振った。

頭の中で最もな理由を探そうとーーーー結局、最も大きな理由は変わらなかったのである。

霊結晶‹セフィラ›から生じたーーーー謂わば純粋な精霊。

きっと澪は、自分と同じ存在を殺してしまう事が、忍びなかったのである。

 

「・・・・ようこそ、我が娘よ。ーーーーこの最悪の世界へ」

 

澪は呟くようにそう言うと、霊結晶‹セフィラ›を慈しむように撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー???sideー

 

闇の中で、彼女は目を覚ました。

否、闇の中、と言う表現が適当なのかどうかは分からない。彼女にはソコが何なのかさえ判別が付かなかったのだから。

 

すべてが曖昧で、全てが模糊とした、不可解な空間。ぬるま湯の中をたゆたうかのような感覚と、気を抜いたなら指先から存在が溶けていってしまいそうな頼りなさが全身を覆っていた。

そんな中、1つの思考が、彼女の脳裏を掠める。

 

「・・・・一体、私は、『何』だ?」

 

漠然とした自問。答えのない疑問。

唯一記憶にあるのは、自分を生み出した女の姿。けれど自分が何故、どうやって生まれたのかはどうしても分からない。そしてソレと同時にーーーー自分がどんな存在なのかも分からない。

綱を解かれた小舟のように、自分を定義するものがない。ただ所在地なく、ユラユラと水面を漂うばかり。解消されない疑問は恐らく退屈と倦怠の波に呑まれ、いつしか風化してしまうだろう。

ーーーーけれど、そんな中。

 

(ーーーーーーーー)

 

ある時彼女は、ソコに、『何か』を見つけた。

『ソレ』は、誰かの心であり、感情であった。明確な意志を持つ、何者かの人格だった。そしてソレに触れた瞬間、彼女は理解した。

その心が、もう1人の自分とも言うべき少女のものでもある事を。

 

何故ソレが理解できたのかは分からない。けれど、ソレは確信を得る作業さえ必要ない『事実』として、彼女の思考に君臨した。

自分は、もう1人の自分の中にいる。ソレは、何とも不思議な感覚だった。多重人格者の、発言していない人格というのはこういう気分なのだろうか。否ーーーー彼女にして見れば、自分が眠っている間に芽生えたもう1人の人格に、体を奪われたと言った方が適当かも知れなかった。

けれど彼女に、もう1人の自分を恨む気持ちは、不思議と湧いてこなかった。

寧ろ何も存在しなかった空間に、自分以外の『何か』があると知れた事が、嬉しくて溜まらなかった。何も見える訳でもない。何が聞こえる訳でもない。けれどその心に触れると、もう1人の自分の感情が、何と無く感じ取れるのだった。

とは言えーーーーその感情が、必ずしも良い物であるとは限らない。

最初は、戸惑い。

そして、恐れ、痛み、悲しみ、不審ーーーー。

もう1人の自分は決まって、そんな負の感情を覚えていた。

 

(ーーーー人、間・・・・)

 

もう1人の自分の心から、その言葉が伝わってくる。

もう1人の自分を怯えさせ、悲しませる者の名を、彼女は静かな怒りと共に胸に刻み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ードラゴン(現代)sideー

 

『・・・・我らは、ここに眠らされている・・・・』

 

そこは、何処か分からない。まるで水の中に舞う泡のような中に閉じ込められたウィザードラゴンは、薄っすらと目を開いて周囲を見る。

自分以外にも、ビーストキマイラや、恐らくワイズマン、否、カーバンクルの配下や野良になっていた魔獣‹ファントム›の残党達が、自分と同じように『彼女』によって『世界』から追放され、この空間にて泡の中に閉じ込められ、深い深い眠りについていた。

 

『・・・・今は、ここで眠るしかない・・・・傷付い過ぎたのよ身体と・・・・消耗し過ぎた魔力を、回復させる為・・・・には・・・・』

 

また深い眠りにつきそうに、意識が微睡んでくる。

 

『・・・・あの世界に、閉じ込められた皆を、助ける為には・・・・まだ、足りない・・・・後は、頼むぞ・・・・ーーーー・・・・』

 

『彼女』によって閉じ込められた精霊の皆(+ロイコクロリディウム小僧)に、『真実』を伝える事ができる『人物』に向けて、ドラゴンは一抹の期待を託し、また深い眠りについた。

いずれ来る、本当の最後の戦いに備えて・・・・。

 

 

 




さて、魔獣‹ファントム›達はこの世界から追放された。
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