デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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第二十一章が始まります。


ーーワールド
全てが終わった世界


ー士道sideー

 

微睡みは死と似ている。共に意識が手を引かれ、闇の中へと落ちていく。違いはその後に目覚めが訪れるか否かくらいのものである。

ならば意識の覚醒とは、組成にあたるのか新生にあたるのかーーーーそんな詮無い事をボンヤリと考えながら、五河士道はゆっくりと目を開けた。

 

「・・・・・・・・ん」

 

最初に視界に入ったのは、天井ではなく白い稜線。数秒おいて、それが自分のベッドの撚れたシーツであると気づく。どうやらうつ伏せに寝ていたようだ。

 

「んん・・・・」

 

気怠げな声と共に寝返りを打って、身体を起こす。

見慣れた自分の部屋。いつも通りの変わらぬ朝。窓からは温かな陽光が差し込んでいるが、空気はまだ少しヒンヤリしている。

ドラゴンがいたら、『とっとと起きろこの愚物』と言って、尻尾ド突きを食らわすだろうが、“もうそれは起きないのだ”。

と、ソコまで考えた所で、士道は小さく首を傾げた。

 

「・・・・今日って、何日だっけ」

 

まだ寝惚けているのか、どうも思い出せない。否、もっと正しく言うのなら、日にち処か、今が何月何日かさえも曖昧だった。肌をなでる空気の温度だけが、おおよその季節を物語るのみ。

眠りに落ちる前の状況が上手く思い出せない。普段通りの朝の筈なのに、不思議な違和感が靄のように頭を包んでいる。何とも所在ないと言うか、足元が覚束無い感覚だった。

 

「・・・・まあ、良いか」

 

不思議ではあるが、考えた所で『答え』は出ない。士道は取り敢えず後で確認すれば良いと考え、頭を掻きながら部屋を出ていった。

階段を降り、廊下を歩いていく。すると、リビングの方からテレビの音が聞こえてくるのが分かった。おそらく、琴里はもう起きているらしい。

 

「おはよう琴里。・・・・なあ、今日って何日だっーーーー」

 

と、リビングの扉を開けながら言いかけた所で、琴里の横に1人の少女が、綺麗に背筋を伸ばしながら腰掛けていたのを見て、言葉を止めた。

うなじで1つに括られた色素の薄い髪。機械のように折り目正しい所作と姿勢。涼し気な双眸に灯る輝きは、何処となく電子画面のバックライトを思わせた。

 

「ーーーーマ・・・・リア?」

 

士道は目を丸くしながら、頭に浮かんだ名を呼んだ。

そう。その姿は、紛れもなく空中艦〈フラクシナス〉の管理AI、『マリア』の人間形態である。

 

「はい、おはようございます、士道。ーーーー前髪に寝癖が付いてますよ。うつ伏せにでも寝ていましたか?」

 

「え? あ、ああ・・・・」

 

曖昧な返事をしながら、士道は前髪を指で撫でた。確かにマリアの言う通り、前髪がピョコンと横に跳ねている。

が、今はそんな事よりも気になる事があった。無論、ソファに腰掛けるマリアだ。

マリアは〈フラクシナス〉のAI。先の大改修によって音声による意思疎通が可能にはなったが、あくまでコンピューターの中に存在する人格であり、このように実体を持った存在ではなかった筈だ。

では何故、士道は一目で彼女をマリアと判別できたのかーーーー。

 

「・・・・・・・・っ」

 

ソレを意識すると同時、微かな頭痛と共に、士道の脳裏にポツポツと記憶が蘇った。

ソレは、戦いの記憶だ。精霊術式によって始原の精霊の力を手に入れたアイザック・ウェスコット。ソレに対する精霊達。そんな中、二亜の天使〈囁告篇帙‹ラジエル›〉の力によって、マリアは実体を得たのである。その後も出力を抑えた状態であれば、こうして実体化する事が可能となった・・・・と言っていた気がする。

嗚呼、そうだ。何故今まで忘れていたのだろう。

あの激しい戦いの事を。

皆で掴み取った勝利の事を。

我が身を犠牲にして士道達を救ってくれた精霊ーーーー澪の事を。

ーーーー澪。崇宮澪。

全ての始まりたる始原の精霊にして、〈ラタトスク〉の解析官・村雨令音。

そして士道のーーーー否、崇宮真士のーーーー愛おしい恋人。

例え一時とは言えど、彼女の事を忘れていただなんてーーーー。

 

「どうしたのよ士道。まだ寝惚けてるの?」

 

士道が額に手を置いたまま無言でいると、ソレを不審がってか、琴里が首を傾げてきた。

 

「あ・・・・いや。ソレより琴里、今日って何月何日だっけ?」

 

士道が軽く頭を振り、先程中断してしまった問いを再度発すると、琴里が微かに眉根を寄せてくる。

 

「はぁ・・・・? やっぱり寝惚けてるじゃないの。『3月19日』に決まってるでしょ」

 

「『3月ーーーー19日』」

 

その日付を数度口の中で転がしながら、思案を巡らせる。『3月19日』。士道が令音とデートした日ーーーーあの決戦の日から、およそ1ヶ月後。

それを意識すると同時、先程と同じく、芋の蔓を引くように、記憶が次々と甦ってくる。

士道達は勝利した。だがその際澪は、悪足掻きをするウェスコットと相打ちになってしまった。そして最後はーーーー愛する真士と再会して、共にこの世界から消えた。

そして全てが終わった後、クマのぬいぐるみと共に士道達の前に舞い降りてきた澪の霊結晶‹セフィラ›は、“その役目を終えて空気に溶け消えた”。

ーーーーそして、士道の身体から漸く自由になったウィザードラゴンは、“戦いの終わった後、何処かへ飛び去ってしまった”。

今の今までボンヤリとしていた記憶が、ハッキリと思い出せるようになる。

そうだ。そうして皆が、澪ーーーー令音を失った悲しみを抱きながらも、穏やかな日常へと戻っていったのだ。

 

「そう・・・・か。そうだよな・・・・。全部ーーーー終わったんだ」

 

放心したように言葉を零す士道を見て、琴里がハッと目を見開いた後、バツが悪そうに視線を逸らそうとするが、すぐに息を吐くと、ソファから立ち上がり、士道の身体に優しく手を回してくる。

 

「ーーーーえ?」

 

「・・・・ごめんなさい。無神経だったわ。ーーーーあの戦いからまだ間もないんだもの。無理もないわ」

 

言いながら、琴里がギュウと手に力を込めてくる。

 

「琴里・・・・」

 

士道は、琴里の腕が微かに震えているのを感じて、唇を引き結んだ。

ーーーー琴里は認めたがらないだろうが、きっとその言葉は、士道だけでなく、自分自身にも向けられた言葉なのだろう。

村雨令音は琴里が最も信を置く部下であり、親友だった。そんな彼女が自分を精霊に変えて、メデューサの『ゲート』、稲森美紗のような悲劇を間接的に起こした元凶〈ファントム〉であった事が明かされーーーー最終的に、心から幸せそうな笑顔で消え去った。皆の手前、気丈に振る舞わねばならない琴里ではあるけれど、応えない筈がない。

そう言えば戦いの前、士道は心に決めていた。ーーーー全てが終わったなら、力一杯琴里を抱き締めてやろうと。

順序は逆になってしまったけれど、構うまい。士道は両手を広げ、琴里の身体をギュウと抱き締めた。

 

「・・・・っ、士道?」

 

琴里が少し驚いたような声を発する。が、離れようとしたり、手を払いのけようとしたりしてこなかった。暫しの間、互いに互いの身体を抱く。

とーーーー。

 

「・・・・フム、成る程。そうやって自然な抱擁に持っていくのですね。流石琴里。勉強になります」

 

そんな光景を見てか、マリアが興味深げにそう言うと、何処からかメモ帳に文字をサラサラと書き込み始めた。

 

「ーーーーっ!/////」

 

瞬間、顔をカァッと赤くした琴里が床を蹴り、マリアの手からメモ帳を奪い取る。

 

「な、何メモしてるのよマリア!?」

 

「ご安心を。ソレは情報を記録するという行動を端的に表したポーズに過ぎません。ーーーー琴里の流れるような手管は、後学の為キチンと映像で残してあります」

 

「全く安心出来ないわよ! すぐデリートしないさい、今すぐ!」

 

「最重要データベースに保存された記録の完全破棄は、如何に司令であろうと独断では許可されません。副司令の神無月以下2名以上のクルー、および円卓会議‹ラウンズ›の承認が必要となります。その際映像を開示する事になりますがよろしいですが?」

 

「何でそんな重要資料扱いにしてるのよ!?」

 

琴里が悲鳴染みた声を上げ、マリアが涼しげな顔でしらばっくれる。そんな様子を見て、士道は思わず笑ってしまった。

 

「ーーーーはは、は」

 

「・・・・! な、何笑ってるのよ!/////」

 

琴里が頬を染めたまま不満そうに言ってくる。士道は肩を竦めながら返す。

 

「悪い悪い。ーーーーそれより、朝飯まだだろ? 今作るからーーーーって、そう言えばマリアはご飯食べられるのか?」

 

「はい。問題ありません。このボディは、人間にできる事ならばほぼ可能です。抱き心地も抜群ですよ。フカフカッとしてキュッ、です。試してみますか?」

 

言って、マリアが両手を広げてくる。士道は曖昧に苦笑しながらの頬をかいた。

 

「はは・・・・まあ、またの機会にな」

 

「ふむ・・・・そうですか。やはり琴里のように必然性を演出しながら有無を言わさず抱き着くのが正解のようですね。ーーーーデータベースに登録。分類:デレさせ方。項目:琴里式」

 

「だから勝手に登録しないでくれる!?」

 

等と、琴里がマリアの肩を譲る揺する。士道はそんな光景を笑いながら見やると、洗顔に為に洗面所に向かい、そこで鏡を見ると、自分の顔が映っていた。

 

「(ドラゴン・・・・“お前が旅立って、もう何日になるのかな”・・・・?)」

 

今や自分の中にいない『相棒』の事を思いながら、士道は洗顔と着替えを済ませ、朝食の準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーでは、行ってらっしゃい。士道、琴里」

 

朝食の後、身支度を済ませ、学校に行こうとする士道と琴里マリアが手を振り、士道も振り返した。

 

「ああ、じゃあ行ってくるよ。買い物は帰りにしてくるから」

 

「はい。ーーーーしかし、折角リアルボディを手に入れたと言うのに、士道達を見送るだけと言うのは口惜しいですね。時期もちょうどいいですし、来月から高校に編入できるよう手続きをしておきましょうか」

 

「・・・・マリア、一応〈フラクシナス〉のAIでしょあなた。実体化は二亜の負担にならない範囲で認めてるけど、仕事はちゃんとして盛らわないと困るわよ? 精霊達に霊力が残っている以上、少ないとは言え『暴走』の危険はある訳だし」

 

マリアが指先をクルクルと回しながら言うと、琴里が判官を作りながらボヤくように返した。

 

「おや、この私の処理能力が、ソレくらいで低下するとでも? 高校の勉強程度、私にかかればチョチョイのチョイのガッチャです。通常任務をこなしながら、定期テストで学年1位をハイライトで取ってみせますよ。まあ単独トップを取る為には、テスト当日、折紙を士道のブロマイド写真を餌に何処かに誘い出す必要がありそうですが」

 

「何変に目立とうとしてるのよ! て言うかズルでしょ明らかに!」

 

琴里が叫ぶと、マリアはフウと肩を竦めながら目を伏せた。

 

「まあいいでしょう。取り敢えず今の所は現状に甘んじておきます。出掛ける士道を見送るのも新妻感があって悪くありません。あっ、そうです」

 

マリアはそう言うと、何かを思いついたようにキッチンの方へと姿を消して、待つこと10数秒、今度はタブレットを持った某でんきねずみのモンスターがプリントされた可愛らしいエプロンを纏った姿で現れる。

その姿はまるで彼女の言う通り、新妻のような格好であった。

 

「改めまして、行ってらっしゃい」

 

「はは・・・・ああ、行ってきます」

 

「全くもう・・・・」

 

士道は、ボヤく琴里に苦笑しながら玄関の扉を開けた。

と、その瞬間、早春の柔らかな日差しと共に、何やら賑やかな声が門の前から聞こえてくる。

 

「ん?」

 

見やると、五河家の前に、精霊マンションに住む耶俱矢に弓弦、四糸乃と七罪と六喰、そして何故か、市内の自宅に住んでいる筈の美九が集まっていた。

・・・・と言うよりも、また美九が精霊達にセクハラをしようと鬼ごっこを繰り広げて皆を追い回し、キャイキャイと声を上げていると見て取れた。

ドラゴンと一緒にいた影響か、この光景が賑やかな光景ではなく、飢えた怪物から必死に逃げている逃走劇のようにも見えてしまい、一瞬ウィザードライバーを召喚しそうになった。

 

「あら、賑やかなーーーーいえ、疲れる光景ね。朝っぱらから」

 

「おーい、一応聞くけど、皆一体何やってんだ?」

 

疲れたような溜め息を溢す琴里に、士道も苦笑しながら問うと、皆の注意がコチラに注がれーーーーその一瞬の隙を衝いて、七罪が美九に捕まってしまった。

 

「七罪さん、つぅーかまえたっ! くーんくんくん! すぅーんすんすんすんすんすん!」

 

「ギャーーーーーーーーーーーーッ!」

 

そしてそのまま七罪の小柄な身体をホールドしたかと思うと、七罪の頭に顔を埋め、その匂いを嗅ぐようにグリグリと頭を蠢かせる。

数秒後、ソコには、イヤに艶々した顔の美九と、ライフエナジーを吸い付くされたかのように全身から色素を失って、ガラス細工のようになった七罪の姿があった。

 

「あっ、だーりん! ソレに琴里さんにマリアさんも! おはようございますー。今日も良い朝ですねー!」

 

「おはよう・・・・美九、お前の学校、こっちじゃないよな・・・・?」

 

「あ、今日はお仕事で学校はお休みなんですよぉ。でも今日のお仕事は中々ハードそうなので、ちょっと現場に行く前に、皆さんからパワーを貰おうと思いまして!」

 

言って、美九がキャルン! と可愛らしいポーズを取ってみせる。その様は、正にトップアイドルと呼ぶに相応しい風格を備えているのだが。

 

「え・・・・何、そう言う事だったの?」

 

「戦慄。急に襲いかかってきたものだから、遂にケダモノの本能が覚醒し、野生を解放したのかと思いました」

 

制服姿の八舞姉妹が、額に滲んだ汗を拭う。

確かに、美九の先程の光景はパワーを貰うと言うよりも、エネルギーを貪られているようなものだった。

 

「だ、大丈夫ですか、七罪さん・・・・」

 

「むん・・・・しっかりするのじゃ」

 

「・・・・な、何でいつも私ばっかり・・・・」

 

四糸乃と六喰に手を引かれるような格好で、七罪が美九から解放されると、美九がビッと指を3本立てながら答えた。

 

「私が七罪さんを選ぶ理由は、大きく分けて3つあります! 1つ、七罪さんがとってもカワイイから! 2つ、七罪さんがとってもいいにおいだから! 3つ、他の皆さんより動きが遅くて捕まえやすいから」

 

「主に3つ目の理由だぁぁぁぁッ!」

 

七罪が足をジタバタさせながら悲鳴染みた声を上げる。七罪からパワーを吸い取った美九は、「てへっ☆」と可愛らしいアイドルスマイルを浮かべた。

飼い主‹ドラゴン›がいない事で、好き放題に暴れている美九に、思わず苦笑してしまう。

 

「お、お疲れ・・・・七罪」

 

「・・・・もう慣れてしまったわよ」

 

士道が苦笑しながら話しかけると、七罪は色々と諦めたように溜め息を吐いてきた。

 

「でも、そう言えば七罪達は何でここに?」

 

「ああ・・・・丁度出掛ける所だったのよ。・・・・琴里の卑劣な策略で、来月から中学校に通う事になっちゃったから、必要な物を買いに・・・・」

 

七罪がボソボソと言うと、琴里が半眼を作りながら唇を尖らせた。

 

「誰が卑劣よ、誰が。ーーーー〈ラタトスク〉で揃えちゃっても良かったんだけど、友達と一緒に文房具を選ぶのも楽しいじゃない。ねえ?」

 

同意を求めるように琴里が首を小さく傾げると、四糸乃と六喰が、ウンウンと首を前に首肯した。

 

「はい・・・・七罪さんや六喰さんと買い物に行くの、楽しみにしてました」

 

「むん。むくもじゃ。3人でお揃いの物を買うのも面白かろう」

 

「む・・・・う・・・・」

 

2人の言葉に、七罪がほんのりと頬を赤くしながら黙り込む。賛同を示すのも恥ずかしいが、さりとて反対ではなく、寧ろ嬉しと言った様子だった。

すると、美九が仕事を断って一緒に買い物に行こうとするが、却下された。

と、そのタイミングで、後方から、プップー、と軽いクラクションの音が響いてくる。音からして原付だろうと、士道が目を向けると、それ跨った女性がいた。

 

「二亜!」

 

「やっほー、朝もはよから皆さんお揃いでどったん?」

 

着けていたゴーグルをヘルメットの上に持ち上げ、二亜がヒラヒラと手を振ってくる。

 

「いや、俺達は学校とか買い物に出る所なんだが・・・・二亜こそどうしたんだ?」

 

「ああ、やっとこさ執筆作業が終わって、唐揚げ工場から生還してきたんだけど、家にロクな食べ物が無くねぇ・・・・精霊マンションに来れば温かいご飯を有りつけるかなって・・・・」

 

「な、成る程・・・・って言うかバイクなんて乗れたんだな」

 

「あはは! バイクは少年だけの十八番じゃないよ。あたしも大人のおねーさんだからねぇ。一応車も運転できるよ? 今度皆でドライブでも行っちゃうー?」

 

二亜がパチリとウィンクしながら言うと、四糸乃と六喰、八舞姉妹と美九等が色めき立つ傍らで、琴里と七罪が大丈夫なのかと言った視線を作る。

すると、2人の疑わしげな視線に呼応するように、サンダルを履いて外に出てきたマリアが声を発した。

 

「ーーーーみんなの安全を守る私としては、あまりお勧めできませんね。そもそもちゃんと免許は持っているのですが、二亜」

 

「え? 失礼しちゃうねー、持ってるに決まってんじゃん! ほら!」

 

二亜が財布の中から運転免許証を取り出した。因みに写真は目が半開きである。

 

「ふむ。ではその免許証、更新はどうしていたのですか?」

 

「・・・・・・・・・・・・、え?」

 

マリアの指摘に、二亜の目が点になる。

 

「ーーーー二亜は少なくとも過去5年間、DEM二囚われていた筈です。その間、免許は失効せずにいましたか?」

 

「・・・・・・・・」

 

二亜華手にした免許証をマジマジと見ると、暫しの間無言になった後ーーーー。

 

「・・・・・・・・てへっ」

 

と、やたら可愛らしく舌を出してみせた。

 

「こっ、こら二亜! 御主、よもや無免許運転をしおったのか!」

 

「危険。ドン引きです・・・・」

 

「いや仕方ないじゃん!? 時間感覚曖昧だったし・・・・て言うか悪いのはDEMじゃね!? あたし悪くなくね!?」

 

二亜が涙目になりながら悲鳴染みた声を上げる。ソレを宥めるように琴里が溜め息を吐きながら手の平を広げた。

 

「DEMが悪いのは確かだけど、警察には関係ないから。仁藤捜査官に捕まる前にはちゃんともう1回免許取ってらっしゃい。ーーーーご飯食べたら、その原付はマンションに置いていくか、押して帰る事」

 

「・・・・はーい」

 

二亜が、悔しそうな顔をしながらも、仕方ないと頷く。

 

「あはは・・・・でも、なんか凄い偶然だな。こんな時間に皆が集まるなんて。・・・・折紙や狂三もその辺にいるんじゃないか?」

 

「ーーーー呼んだ?」

 

「ーーーーお呼びになりまして?」

 

「うぉ・・・・ッ!?」

 

突然背後から声が聞こえてきて、士道は思わず飛び上がった。

見やると、いつの間にかソコに、折紙と狂三が高校の制服の上にコートを纏い、首にマフラーを巻いていた。

 

「折紙、狂三、いつの間に・・・・!?」

 

「先程からずっといた」

 

「わたくしは今し方通りかかっただけですわ。随分とにぎやかでしたので、何事かと思いまして」

 

「そ、そうか・・・・」

 

折紙が言う『先程』と言うのかいつを示しているのかは少々気になったが、何だか聞くのが恐いので、頬をピクつかせなながら汗をぬぐう。

と、ソコで士道は首を捻った。

 

「そう言えば狂三、その制服は・・・・」

 

「あらあら、嫌ですわ士道さん。もうお忘れになりましたの? あの戦いの後、わたくしも〈ラタトスク〉の庇護下に入り、また高校に通い始めたではありませんの」

 

「え・・・・あ、そう・・・・だったな(やっぱり、疲れているのか、俺・・・・)」

 

そう言われてみれば、そうだった気もする。

 

「そうですわよ。しっかりして下さいまし。ーーーーと、申し訳ありませんけれど、わたくしはお先に失礼しますわ。『友人』を持たせてしまっているもので」

 

「『友人』?」

 

士道は意外な言葉に目を丸くした。『最悪の精霊』と謳われた狂三に、あまり似つかわしくない言葉だった。

 

「ええ、ええーーーー」

 

しかし狂三はさして気にする風もなく、通りの先に視線をやった。士道も、ソレに誘われるように同じ方向を見やる。

すると、ソコに立っていた品の良さそうな少女が、士道の視線に気づいてか、ペコリと礼をしてきた。士道も反射的に、ソレに会釈を返す。

 

「アレが・・・・狂三の友達? 何て言うか・・・・意外と善良そうな・・・・」

 

「どう言う意味でして?」

 

「あ、いや」

 

狂三が半眼を作りながら顔を覗き込んでくる。士道は口元を手で覆った。

が、そんな士道を見てか、狂三は愉快そうに笑うと、身を翻してヒラヒラと手を振ってくる。

 

「ふふ、まあいいですわ。わたくしもそう思いますもの」

 

そして冗談めかすようにそう言うと、そのまま友人の方に歩いていく。

 

「ーーーー待たせてしまいましたわね、『紗和さん』」

 

「いえいえ。それより、いいんですか? 一緒に行かなくて」

 

「うふふ、構いませんわ。ーーーーわたくしがいなくても、士道さんの周りには沢山の女性がおられますわ」

 

「あら・・・・それはそれは」

 

等と、狂三と友人が可笑しそうに談笑する。士道はやれやれだぜと息を吐きながらも、あまりに穏やか狂三の横顔を見て、胸に温かなものがジワリと広がっていくような感覚を覚えた。

するとそんな光景をキョロキョロと見回しながら、四糸乃の左手に装着されていた『よしのん』が、パクパクと口を動かしてくる。

 

『いやー、でもホントに凄い偶然だねー。朝からまさかの全員集合、って言っても、ドラゴンくんは旅に出かけちゃっていないけどねー』

「今は何処にいるかねぇドラくんは? アキバにでも行ってるとか?」

 

「くっくっくっ、中国で本物の龍と対決しているやも知れぬぞ?」

 

「推測。ルーマニアで吸血鬼の真祖と仲良くゲームをしているかも知れません」

 

「いえいえー! ニューヨークで自由の女神像の頭の上でお昼寝でもしてるかも知れませんー!」

 

「あの、アイスランドでオーロラを見ていると思います」

 

「いや、もしかしたらエジプトでファラオのお宝でも探しているとか?」

 

「むん。ニュージーランドで星空を眺めているかもしれん」

 

「アフリカのサバンナで密猟者達をしばき上げているとか?」

 

「世界一の山、エベレストの頂上で暇をつぶしている?」

 

精霊達が口々に言っていた。どれもあり得そうな気がしてならなかった。

 

「んー?」

 

と、ソコで何かに気づいたように、二亜が皆の顔を見回した。

 

「・・・・一人足りなくない? 先行ったの?」

 

「え?」

 

言われて、士道は二亜に倣うように皆を見回した。

五河家前の道には、精霊達が勢揃いしている。琴里、四糸乃、七罪、耶俱矢、夕弦、六喰、美九、二亜、折紙、狂三、ソレにマリアと、狂三の友人の紗和。

けれど確かに、足りない気がする。

そうだ。この場にはまだ1人ーーーー。

 

 

 

「ーーーーシドー!」

 

 

 

瞬間、マンションの出入り口の方から、そんな元気の良い声が響いてきた。




戦いが終わり、穏やかな日々を過ごす士道達。それが偽りと知らずに。
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