デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
「ーーーーシドー!」
「ーーーーーーーー」
マンションの出入り口から聞こえた声に弾かれるように、ソチラに向く。
すると1人の少女が、息を弾ませ小走りになりながら、こちらへとやってくるのが見て取れた。
ーーーー精霊・夜刀神十香。
他ならぬ士道自身が名を付けた精霊が、ソコにいたのである。
「十、香ーーーー」
「うむ! すまぬシドー、少し遅くなってしまった・・・・ぞ?」
と、士道の目前までやって来た十香が、不思議そうに目を丸くした。
「どうしたのだシドー、何処か痛むのか?」
「・・・・え? あーーーー」
言われて、気づく。ーーーー自分の目から、涙が1筋、零れている事に。
「いや・・・・はは、まだ眠いのかな」
等と誤魔化しながら、目元を拭う。
実際、自分でも意味が分からなかったのだ。
何故ーーーー十香の姿を見た瞬間、心臓が引き絞られるかのような感覚を覚えてしまったか、だなんて。
「ソレより・・・・学校に行こうか。遅刻しちまうよ」
「おお、そうだな! さあ皆、待たせてしまったな。行こう!」
十香の声に皆は頷きーーーーそれぞれの目的地へと旅立っていった。
空は士道達の前途を示すかのような快晴。通学路を征く足取りは、自分でも驚く程に軽かった。
悲しい事が沢山あった。生涯忘れ得ない程に辛い別れもあった。
けれど、ソレを考慮に入れても有り余るくらい、士道の人生は素敵な出会いに溢れていた。きっとこれからも、騒々しく楽しい日々が続いていくだろう。
皆の笑顔を見ながら、士道は漠然とそんな事を思った。
ー???sideー
『・・・・カ・・・・の・・・・め・・・・』
何処か分からない空間。
地球ではない何処か。
深い深い眠りについていた『ソレ』は、小さく呟いていた。
ー士道sideー
ーーーーソレから数日後の夜。賑やかな夕食を終えて皆が帰路に就いた後。
片付けを終えた士道は、外したエプロンをダイニングチェアの背もたれにかけ、小さく伸びをした。
微かな疲労と、ソレを上回る充足感が身体を満たす。この感覚が、士道は嫌いではなかった。精霊達によってきれいに食べ尽くされた皿を洗っていると、さあ次はどんな料理で皆を驚かせてやろうかと言う悪戯心に似た気分と、皆のカロリー計算を気をつけなければならない思考が浮かんでいた。
「・・・・・・・・」
ソコでふと、士道は天井を眺めながら無言になった。
今の暮らしに不満等はない。DEMの動きも大人しいし、精霊達との騒がしくも愉快な日常。いつまでもこんな日々が続けば良いと心から思う事ができた。
しかし、家事を終えた時や、話していた誰かと別れた時ーーーー要、1人で何もすることがなくなると、ふとした拍子に、奇妙な違和感が脳裏を掠める事があったのである。
「何か・・・・忘れているような・・・・」
と、ソコでリビングの扉が開いたかと思うと、白いリボンを揺らした通常モードの琴里が、腕まくりをした袖を元に戻しながら部屋に入ってきた。
「おにーちゃん、お風呂洗っといたよー」
言って、琴里がニコリと微笑む。こうして白いリボンの通常モードだと、年相応の可愛い妹に変貌するのだ。
その笑顔に、頭を掠めていた違和感を霧散する。士道は琴里に微笑を返しながら冷蔵庫の扉に手をかけた。
「おう。ありがとな、琴里。ーーーーあ、ホットミルク飲むけど、琴里といるか?」
「おー! 飲みたーい!」
「おお、これはご丁寧にどうも」
「いただきます」
琴里が目を輝かせながら大仰に頷いてくる。不思議と、2つに括られた髪がピコピコと動いているように見えた。
「・・・・ん?」
と、ソコで士道は首を傾げた。精霊達は皆帰ったし、マリアも仕事で〈フラクシナス〉にいると言うのに、何やら士道と琴里以外の声が聞こえた気がした。
声のした方に視線をやると、いつの間にかソコにいたのか、士道のーーーー正確には崇宮真士の実妹、崇宮真那と、〈国家安全局0課〉の捜査官、仁藤功平だった。
「わっ!」
「真那、仁藤さん、いつの間に!?」
「おや、普通に入ってきやがりましたが、気付きませんでしたか?」
「戦いが終わったからと言って、気が抜き過ぎてますね」
言いながら、2人があっけらかんとした様子で肩を竦める。普段は東京都の仁藤のマンションか、天宮市での拠点としているアパートに住んでいる2人なののだが、どうやら、士道が洗い物をしている間にやって来たらしい。
・・・・士道が余程油汚れが落ちる様に熱中していたのか、真那に足跡を殺す癖が付いているのかは分からないが。
とは言え、突然の登場に驚きはしたものの、2人の来訪自体は歓迎すべき事である。士道は苦笑しながら肩を竦めると、小鍋に4人分の牛乳を注ぎ、火を点け、出来上がったものをマグカップに注ぎ込んだ。
「あいよ、お待たせ」
「わーい、ありがとー」
「どうも。いただきます」
「ありがとうございます」
琴里と真那はマグカップを手に取り、フーフーと息を吹きかけてから口を付ける。そして温かいミルクを1口飲んだ後、フハァ・・・・と息を吐いた。
その動作が、タイミングを合わせたようにピッタリだったものだから、士道と仁藤は思わず笑ってしまった。
「ん? どうかしましたが、兄様」
「ああ、いや。何でもない」
適当な調子で誤魔化し、士道もまたホットミルクを1口啜る。と、ソコで何かを思い出したように、琴里が眉をピクリと動かす。
「真那、ここに来たって事は『検査』は終わったんだよね? 結果はどうだったの?」
「(そう言えば・・・・)」
と、士道は同調するように首肯しながら真那に視線を向けた。
真那は今でこそ〈国安0課〉に所属しているが、DEMに捕らえられ、さらに記憶操作と魔力処理を施された事により、絶大な力を付与されたDEMのNo.2魔術師‹ウィザード›となった。
だが、何のリスクもなくそんな力が手に入る筈もなく、見た目からは判別が付かないが、寿命は後10年程度しかないと言う話だ。
本来であれば琴里も士道も、あまり真那を戦わせたくないのだが、真那の中には、DEM(と言うよりも真那の自業自得)によって、人造魔獣‹ファントム›・ビーストキマイラが宿っており、定期的に魔力を注がないと空腹で真那を喰らってしまう危険性があるのだ。これまでは〈国安0課〉が天宮市以外の場所に出没する魔獣‹ファントム›を喰わせてきたし、ビーストキマイラ達自身も真那を空いているから、1ヵ月位ならば我慢してくれるていたのだ。
最後の決戦の後、ビーストキマイラ達も魔力をギリギリまで使い切ってしまい、現在は『休眠状態』になってしまったらしい。
『らしい』と言うのは、真那もいつの間にかキマイラ達を感じられず、休眠状態となったのだろうと思ったそうだからだ。
そして先程まで、真那は自身の治療も兼ねて今までよりも入念に〈フラクシナス〉で検査を行っていたのだ。
「ああ、ソレがですねーーーー」
真那は琴里の問いに目を少し細めると、意味深に言葉を切って発展途上の胸元に手を置いた。
「(ーーーーまさか、何か深刻な問題でも見つかったのか?)」
不意の僅かな沈黙に、士道は緊張を走らせた。
だがーーーー。
「不思議な事に・・・・“治ってやがったそうです”」
「・・・・へ?」
「治って・・・・た?」
次いで真那が発した予想外の言葉に、士道と琴里は同時に目をまん丸に見開いた。
「ど、どう言う事だ? 治ってたって・・・・何が?」
「だから、真那の身体がです。DEMにさんざっぱら弄くり回されたダメージが、嘘みたいに消えてやがっていたそうです。仮説ですが、澪さんの霊結晶‹セフィラ›が弾けた際の霊力の波が、こう、良い感じに作用したんじゃねーかと。健康に気を使えば白寿も夢じゃねーと言われました」
「そ、そう言う・・・・もんなのか?」
怪しい健康器具のような説明に、思わず眉をひそめる士道は、説明を求めるように琴里を見ると、
「うーん・・・・わっかんない!」
琴里は思案を巡らせるように顎に指を当てた後、舌を出してみせた。
「まあでも、〈フラクシナス〉の機器でそう言う結果が出たんなら、真那の身体に関しては本当なんだと思うよー。原因については調査の余地があるけど・・・・
「そ、そうか・・・・」
完全に腑に落ちた訳では無かったが、本当ならばめでたい事である。士道はマグカップの柄を握ると、乾杯をするように掲げて見させた。
すると士道の意図を察したらしい琴里と真那と仁藤が、同じようにマグカップを持ち上げる。
士道達なフッと微笑み合うと、その縁を軽くコン、も打ち合わせた。
「何か、何もかも上手く行き過ぎな気がするけど・・・・まあ、良い事なんだよな?」
「ええ。魔獣‹ファントム›達は頭目のワイズマンを失い小康状態となり、まるで世界が我々にとって都合の良いように流れているようですがね」
「そうだよー。DEMは崩壊状態、精霊達は皆幸せ! おまけにけんあんじこーだった真那の身体も治った! 文句を言ったらバチが当たっちゃうレベルだぞー」
「そうでやがりますよ、兄様。いやー、となれば真那ももう少し人生設計を考えねーといけませんね。このまま閃光のように命燃やして駆け抜ける気でしたが、そうもいかねーようです。ーーーーさしあたって琴里さん、真那も四糸乃さん達と一緒のタイミングで中学校に編入させていただけませんかね? 実は警察官になりたいのでやがりますし、今も〈0課〉に所属していやがりますが、ちゃんと正規の手順で入りてーです。流石に最終学歴小卒ってのはつれーですしね」
「おー! 勿論だぞー。私の学校で良いよね?」
等と、琴里と真那が楽しそうに未来の計画を語り始める。
その光景に、士道は自然と頬が緩むのを感じた。
がーーーー次の瞬間。
「ーーーー本当に、そう思われまして?」
「・・・・・・・・っ!?」
突然、何処からともなくそんな声が聞こえてきて、士道はビクッと肩を震わせた。
士道だけではなくい。琴里もまた士道と同じように驚きを露わにし、真那は表情を警戒の色に染め、仁藤は懐の拳銃に手をかけながら、油断なく辺に視線を放っている。
その声の正体に、最初に気づいたのは真那だった。不快そうに目を歪めながら、ちッ、と小さく舌打ちを零す。
「ーーーー何の用でいやがりますか、〈ナイトメア〉。いえ・・・・時崎狂三」
「あら、あら。真那さんがわたくしの事をキチンと名前を呼んでくださるだなんて。明日は隕石でも降るかも知れませんわね」
そんな言葉が響くと同時、部屋の床に真っ黒い影が蟠ったかと思うと、その中から1人の少女ーーーー狂三が姿を現した。
左目を隠す長い黒髪と、フリルで飾られたスカートの裾を広げるように、クルクルと舞いながらその場に降り立ち、恭しく礼をしてみせる。その装いは制服でも霊装でもなく、彼女の佇まいに良く似合うモノトーンのドレスであった。
「狂三・・・・? 一体どうしたんだ? 普通に玄関から入ってくれば良いのに・・・・」
士道は目を丸くしながらも、さして緊張を滲ませる事なくそう言った。
かつての狂三と対したならばもっと戦慄し緊張したのかも知れなかったが、今は狂三は〈フラクシナス〉の庇護下にある精霊だ。その表情からは、昔のような抜き身の刃じみた危うさは消えて去っていた。
しかしながら、かつて幾度となく刃を交えた真那と、狂三によって行方不明者、中には殺された人間達もいるので警察官として仁藤も、狂三には好感情を持っていないのも仕方ないと言えば仕方ない。
しかし、いきなり襲いかかったり、識別名ではなく名前に呼ぶようになった真那だが・・・・まだ刺々しい視線と僅かな敵意が見受けられる。
だが、当の狂三はさしてソレを気にする様子もなくーーーー寧ろ、その2人の反応を楽しんでいるかのようにーーーー唇を笑みの形にしてみせる。
「ーーーーまあ、念の為ですわ。無駄な抵抗かも知れませんけれど、僅かでも“あの方”にわたくしの動きを悟られずに済む可能性があるのなら、手を打っておくに越した事はありませんもの」
「“あの方”・・・・?」
勿体ぶった言い方に士道が首を傾げるも、狂三は意味深に笑うのみだった。そんな様子を見てか、真那がさらに不愉快そうに鼻を鳴らす。
士道はそんな真那を宥めるように苦笑すると、質問を変えるように続けた。
「って言うか、さっき言ってたの、どう言う意味だ? 本当にそう思うかって・・・・」
「そのままの意味ですわ」
狂三はそう答えると、芝居がかった調子で両手をゆっくりと広げて見せた。
「“理由は良く分からないけれど、真那さんの身体が治った。いつの間にか行方を眩ませたドラゴンさんと、いつから休眠状態となったとされるキマイラさん達。それだけでなく、魔獣‹ファントム›の残党も姿を消した。理屈は良く分からないけれど、歴史が都合良く改変された。何故かあの戦いが終わった後、全てが丸く収まっている”・・・・本当に、そんな都合の良過ぎる事があると思っておられますの?」
「・・・・何が言いたいの? 確かに上手く行き過ぎだとは思うけど、実際にそうなっているんだから仕方ないじゃない」
狂三の言葉に答えたのは、いつの間にか黒のリボンで髪を括った、司令官モードになっていた。
「まあ、そう考えるのも無理の無い事ですわ。・・・・いえ、そう思ってしまうその思考自体が、世界によって運命付けられた事なのかも知れませんわね。実際わたくしも、少し前までは琴里さん達と同じように、特に疑問を持っていませんでしたもの」
フム、と狂三が思案を巡らせるように顎に手を当てる。その回りくどい物言いに、真那が苛立たし気に腕組みした。
「要領を得ねーですね。ハッキリ言いやがって下さい」
すると狂三は、浮かべていた笑みをフッと消し、士道と琴里、真那と仁藤の目を順に見るようにしてから、『ソレ』を告げてきた。
「ーーーーこの世界は、わたくし達が『元いた世界』ではなく、“とある方の手によって作られた世界”ーーーーと言う事ですわ」
「・・・・・・・・・・・・、へ?」
暫しの沈黙の後。士道は、ドラゴンがいれば『シャンとせい!』と言わんばかりに、尻尾ド突きを叩き込まれそうな間の抜けた声を喉から零した。
否、士道だけではない。琴里も、真那も、仁藤でさえも、狂三が何を言っているのか分からないと言ったように唖然とした表情を作っている。
「な、何言ってるんだ狂三。ここが、俺達の『元いた世界』じゃない・・・・?」
「ええ。DEMのアイザック・ウェスコットが夢想した、隣界による世界の上書きーーーー彼と違う形でとは言え、ソレと非常に近い事を成し遂げてしまった方がいらっしゃるのですわ」
「な・・・・」
アイザック・ウェスコットの名が出て、士道の心臓がドクンと、悪い意味で跳ねるのを感じた。
DEMインダストリーの首魁にして、始まりの魔術師であり、魔獣‹ファントム›をこの世に顕現させ、精霊を生んだ全ての元凶。奴の目的は、精霊の力によって、世界を魔術師‹ウィザード›と魔獣‹ファントム›が相争う混沌とした世界に『上書き』する事だった。
士道達の戦いは、彼を止める為のものだったと言っても過言ではない。
自分達の世界を守る為に、士道や精霊達は強大な敵に立ち向かったのだ。
だと言うのに、士道達が知らぬ間に、世界は書き換えられてしまっていたーーーー?
士道は混乱する思考をどうにか整えようと、額に手を置いた。
「ちょっと待ちやがって下さい。仮にその話が本当だとして、何故あなたはそれに気づく事ができやがったんですか?」
真那が、困惑するように眉毛を寄せながら問う。
その質問は尤もだった。士道達は狂三に言われるまで、この世界に疑問すら抱いてすらいなかった。狂三の言う通り、ソレさえも作られた世界の権能なのかも知れなかったが、だとするならば、狂三だけが世界の真実に気づく事ができたと言うのもおかしな話である。
が、狂三は、そんな質問は想定内であると言うように首肯すると、ゆっくりと手を前に掲げていった。
「わたくしが『真実』に辿り着けたのも、全くの偶然であり、副産物ですわ。けれど・・・・間違いや思い込みでない事は保証致しましてよ。ーーーーお忘れになった訳ではありませんでしょう? 『全知の天使』の貴き名をーーーー〈囁告篇帙‹ラジエル›〉」
狂三が手の平をと表に向けて名を唱えると、その手の上に、豪奢な装丁が施された1冊の本が出現した。
叡智の天使〈囁告篇帙‹ラジエル›〉。この世のありとあらゆる情報を知りうる、全知の天使。
元々二亜の天使だったのだが、ウェスコットに霊結晶‹セフィラ›を奪われ、ソレを狂三が手にした為、狂三の2つ目の天使となった。
澪から霊力を分け与えられてから、〈囁告篇帙‹ラジエル›〉を通常使用できるまで回復した二亜からは時々、「あたしと被ってるじゃん!」と言われているが、どこ吹く風であるようだ。
「・・・・まだ二亜さんに返してなかったのですか?」
「これがかなり便利でして♪ 二亜さんが持ってても気になるアニメの続編とかを調べる事くらいしか使わないでしょうしね」
ソレを見て仁藤が半眼を作りながら言うが、狂三はにこやかに返した。
「・・・・、ーーーー」
しかし、士道は〈囁告篇帙‹ラジエル›〉を見て息を詰まらせた。
確かにコレならば隠された『真実』に辿り着く事ができる。
無論、狂三を嘘を言っている可能性もある。しかし単に士道達を驚かせたかった・・・・と言った理由でも無ければ、狂三が空言を吐く理由はない。
しかし、そうなると、また1つ分からない事が出てきた。
「い、一体・・・・誰が、どうやって・・・・」
士道は呆然と呟くように声を発した。
そう。それである。隣界を持つ澪も、それと同等の力を手に入れたウェスコットも、共にもうこの世にいない。精霊達は皆士道にその力を封印されているし、魔獣‹ファントム›達がソレをできるとも思えない。言うまでもなく士道は世界の書き換えなどしていない。
少なくとも士道が思い当たる中には、そんな大それた事ができそうもしくは、しようとする者はーーーー。
「・・・・まさか、ドラゴン・・・・?」
思わずボソリと言うが、狂三は否定するように首を横に振ってから、小さく息を吐いた後、ジッと士道の目を見てきた。
「わたくしが答える事は容易いですわ。けれど、いくら言葉を連ねた所で、ソレを信じていただけるかは別でしてよ」
「いや、そうは言っても、教えてもらわない事にはーーーー」
「話は最後まで聞いて下さいまし。ーーーーわたくしに問わずとも、ご自身でご覧になればよろしいのですわ」
「え・・・・?」
言われて目を見開くも、すぐに狂三の意図に気づく。
士道は、その身に精霊達全員の霊力を封印している。やろうと思えば、狂三と同様の事が可能だ。
「・・・・成る程。〈囁告篇帙‹ラジエル›〉で、って事か?」
「不正解、ですわーーーー」
狂三は両の人差し指で✕を作って言うと、〈囁告篇帙‹ラジエル›〉を消し、片方の人差し指の指先を自分のコメカミに押し当てるような仕草をする。
「〈囁告篇帙‹ラジエル›〉でも構いませんけれど、お勧めは〈刻々帝‹ザフキエル›〉ですわね。【10の弾‹ユッド›】で、自らを撃ってみて下さいまし。ーーーー単なる知識としてではなく、実感した記憶を思い起こす事ができる筈ですわ」
そう言って狂三は、何処か複雑そうな表情を浮かべた。恐らく狂三も、自ら試したのだろう。
ーーーーきっと、〈囁告篇帙‹ラジエル›〉で知った情報を信じる事ができずに。
「・・・・・・・・」
士道は緊張に喉を濡らしながら頷くと、意識を集中させるように目を伏せた。
「ーーーー〈刻々帝‹ザフキエル›〉ーーーー【10の弾‹ユッド›】」
そしてその名を唱えると、士道の手に1挺の短銃が握られ、その銃口に、影が吸い込まれていった。
「士道・・・・」
「兄様ーーーー」
「・・・・」
琴里と真那が、何処か不安そうな顔を向けてくるが、仁藤が2人の肩に手を置いて、信じましょう、と言うような視線で頷く。
正直士道も不安だが、大丈夫だ、と言うように頷いてから、
〈刻々帝‹ザフキエル›〉の銃口をコメカミに押し当てる。
そして、探りたい記憶を思い描きながらーーーーその引き金を、引いた。
ーーーーパン・・・・。
「ーーーー」
瞬間、乾いた音と共に、軽い衝撃が走る。痛みはないが、代わりにまるで、水瓶に穴を開けたかのように、記憶が頭の中に流れ込んできた。
それは、知らない筈の光景。
経験していない筈の、情景。
戦いが終わった直後。澪が消えてしまった後の戦場。士道達の目の前に舞い降りる、澪の霊結晶‹セフィラ›。
そうだ。そして霊結晶‹セフィラ›はドラゴンの手に乗った。ソコまでは記憶と相違ない。
澪の霊結晶‹セフィラ›は、ドラゴンの手の中で消えてしまった筈ーーーー。
「・・・・・・・・ッ!?」
だが。士道の視界に、予想外の光景が映った。
突然、ドラゴンの腕が切り飛ばされ、消えゆく澪の霊結晶‹セフィラ›を握りしめた、手だ。
【ーーーー悪いが、これは私がいただく】
そしてーーーー声。凛とした声が、脳裏に響き渡る。
士道は慌ててソチラを向いた。
そして見た。その手と声の主の顔を。
そう、それはーーーー。
「ーーーーーーーー十、香ーーーーーーーー」
【させんっ!!】
ドラゴンが十香を止めようと飛び出すが、凄まじい光で脳裏に広がる光景が塗り潰されると、シャボン玉のような球体が無数に飛び出し、真那の身体にもシャボン玉が通り過ぎると、その球体になんと、ビーストキマイラが閉じ込められ、更にドラゴンも閉じ込められてしまった。
その光景を見て、士道は半ば無意識の内にその名を零した。