デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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知ってしまった今の世界の真実。


十香?の世界

ー士道sideー

 

「ーーーーーーーー十、香ーーーーーーーー」

 

「え・・・・?」

 

「十香さんーーーーでいやがりますか?」

 

「彼女が、この世界を造った黒幕・・・・?」

 

士道の言葉に、琴里と真那と仁藤が眉根を寄せる。

しかし彼女らの気持ちも分からないでもない。士道だって、直接自分の記憶を思い起こしていなければ、似たようなリアクションを取っている筈だ。

それ位、今の光景には現実感がなかったのだ。

十香は琴里を除けば、士道が初めて封印した精霊であり、ドラゴンが士道が最も頼りにしている相棒ならば、十香は今まで幾度となく士道を支え続けてくれた功労者だ。彼女がいなければ、士道の心は何度挫けて折れてしまっていた確信を持って言える。

だからこそ、信じられない。他の誰かならまだしも、まさかあの十香が澪の霊結晶‹セフィラ›を奪い、世界を改変した等ーーーー。

 

「ーーーーつまりは、そう言う訳ですわ」

 

困惑する自分の心境を察したように、狂三が小さく肩を竦める。確かにこれは、〈囁告篇帙‹ラジエル›〉よりも、〈刻々帝‹ザフキエル›〉が適当である。

 

「ここは・・・・十香が造った世界だって言うのか? 澪の霊結晶‹セフィラ›の力を使って・・・・?」

 

士道が誰にともなく言うと、狂三が目を伏せながら大仰に頷いてきた。

 

「ええ。ソレは疑いようがありませんわ。ここは、十香さんが夢想した優しい世界。全ての問題がご都合主義で解決し、全ての懸念が不自然に取り払われた理想の空間でしてよ。唯1つーーーードラゴンさんとキマイラさん達、魔獣‹ファントム›が、いつの間にか消えていたと言う『不自然』がありましたが」

 

「一体・・・・何でこんな事を・・・・?」

 

呆然と士道が呟く。

確かに此処は、ウェスコットの思い描いた『戦乱の世界』とはまるで違う。元の世界と同じ風景を持ちながら、どうしようもない問題が全て解消された夢の世界だ。ある意味では、十香らしい世界と言えるのかも知れない。

だが、だからといって納得できると言う訳ではない。そもそも、澪の霊結晶‹セフィラ›を奪取して世界を上書きしようと言う発想自体が、あまりにも十香の人柄とかけ離れている気がしてならなかった。

狂三が、小さく肩を竦めながら首を横に振った。

 

「ーーーー残念ながら、ソコまでは分かりませんわ。ご存知の通り、全知の〈囁告篇帙‹ラジエル›〉とは言え、確定していない未来と、人の心の中だけは見通す事が叶いませんの」

 

確かに〈囁告篇帙‹ラジエル›〉の元々の主である二亜も、同じ事を言っていた。とは言え、今までの情報だけでも十分得難いものである。士道は緊張を速くなる鼓動を落ち着けながら、狂三は小さく頭を下げた。

 

「・・・・いや、ありがとう、狂三。お前がいなかったら、俺はこの世界の違和感にさえ気付けなかったかも知れない」

 

「うふふ、それはそれで幸せだったかも知れませんけれどね。ドラゴンさんと言う『保護者』、もとい『飼い主』がいなければ、士道さんは気付く事なく、もっと気軽に生きていけましたわね?」

 

「(ガクッ!) お、お前なぁ・・・・! つか、ドラゴンが俺の『飼い主』って、どう言う意味だよ!?」

 

『??? そのままの意味ですわよ(意味よ/意味でやがりますよ/意味ですよ)』

 

その場にいる全員が「今更何言ってんだコイツは?」は言わんばかりの顔と声で異種異音で返すと、士道はガクッと崩れて泣きそうになるのを必死に堪える。

そんな士道の様子を一旦無視して、狂三は続ける。

 

「ーーーーここは十香さんの作り上げた理想の世界。士道さん達にとっても都合の良い世界の筈ですわ。例えソレが元の世界と異なっていようと、夢と気付かぬ者にとっては現と同じでしてよ」

 

戯けるような仕草をしながら、狂三が言う。その言葉は、真那が不服そうに鼻を鳴らした。

 

「そう思っていやがるなら、何であなたは兄様に『真実』を話しやがったんですか?」

 

「だってわたくし、皆さんと違って『良い子』ではありませんもの」

 

ソレは狂三に似合い過ぎた返答ではあったけれど、真意を煙に巻くような曖昧な答えであった。真那が不機嫌そうに眉を歪める。

 

「あなた」

 

「うふふ、冗談ですわ。そう恐い顔をしないで下さいまし」

 

狂三は一頻り可笑しそうに笑うと、フッと視線を伏せた。

 

「ーーーーわたくしも、このぬるま湯のような世界を否定するつもりはありませんわ。“いつまでも浸っていられるものなら”、の話ですけれど」

 

「・・・・どう言う事?」

 

怪訝そうな顔をしながら琴里が問う。狂三は小さく息を吐いてから後を続けた。

 

「ここは確かに理想の世界。けれどソレは、澪さんの霊結晶‹セフィラ›を奪い、無理矢理作り上げただけのものに過ぎませんわ。ーーーー放っておけば、やがて世界は十香さんごと自壊してしまうでしょうか」

 

『な・・・・ッ!?』

 

ーーーー十香と、世界が、自壊する?

狂三の発した不穏な言葉に、士道達は息を詰まらせた。

 

「ちょっと待ってくれ。何だよソレ・・・・ッ」

 

「何だよ、と仰られましても。先程申し上げた通り、十香さんの真意ばかりはわたくしにも測りかねますわ」

 

狂三は、狼狽する士道達に対し至極落ち着いた調子で首を振った。

・・・・否。正確に言うのなら狂三も、全く狼狽えていないと言う事はあるまい。ただ、士道達よりも先にその真実に辿り着いた彼女は、ここに至るまでに全ての動揺と戦慄を済ませて来たのだろう。狂三と過ごした時間が、士道にソレを気付かせてくれた。

 

「・・・・そう、か・・・・」

 

そしてソレを意識する事により、士道はどうにか落ち着きを取り戻した。いつもならドラゴンのド突きで冷静さを取り戻していたが、今は自分で冷静さを取り戻せるようになっていた。

狂三は、少しは成長した士道に小さく唇の端を上げた。

 

「ーーーー兎に角、わたくしの知り得た情報は以上でしてよ。後のご対応は、プロにお任せいたしますわ」

 

狂三はそう言うと、トン、トンとステップを踏み、優雅な調子でスカートの裾を持ち上げてみせた。その動作に合わせて、あたかも舞台から去って行くように、彼女の身体が影の中に沈み込んでいく。

床に蟠っていた影は小さく渦を巻きーーーーやがてその痕跡さえ残さず消え失せた。

 

『・・・・・・・・』

 

ソレから暫しの間、五河家のリビングにシンとした空気が流れる。

がーーーーその沈黙はそう長く続かなかった、琴里が、ポケットの中から取り出したチュッパチャプスを口に放り込み、キッと視線を鋭くする。

 

「・・・・兎に角、動きましょう。狂三の言葉が本当なら、一刻の猶予もないわ。すぐに皆を集めて対策会議よ」

 

「ああ・・・・!」

 

琴里の言葉に、士道は力強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

ー???sideー

 

この所、彼女は気分が悪くなかった。

と言うのも、ある時を境に、もう1人の自分から伝わってくる感情の色に、少しずつ変化が訪れ始めたのである。

『驚き』、『喜び』、『楽しい』、『嬉しい』ーーーー。

ついこの間までとは比べ物にならない位に好ましい感情の奔流が、絶え間なく押し寄せてくる。身を刺すように冷たかった凍土に、花が芽吹き始めたかのような感覚さえ覚える劇的な変化だった。

恐怖や怯えは鳴りを潜め、悲哀や寂寥も感じられない。いっとき強い怒りを覚える事もあったようだけれどーーーー今はソレも、歓喜や興奮の渦に呑まれて影さえ見えなかった。

きっと、もう1人の自分に何か良い事が起こったのだろう。

無論、具体的に何があったのか分からない。彼女にできるのは、もう1人の自分の心をボンヤリと感じ取る事位の物だったのだから。

けれど、今は彼女にはソレで十分だった。

もう1人の自分から流れ込んでくる温かな感情。ソレが感じ取れるだけで、彼女の幸福であった。もう1人の自分が嬉しいと思えば彼女も嬉しかったし、もう1人の自分が楽しいと感じれば彼女の心も弾んだ。

とは言え、勿論ーーーー。

もう1人の自分をここまで変えてくれた『何か』。その存在を、知りたく無いと言えば嘘にはなったのだけれど。

 

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

ーーーー狂三が士道達の元を訪れてから、およそ1時間後。

天宮市上空1万5000メートルに浮遊する空中艦〈フラクシナス〉のブリーフィングルームには、狂三と十香以外の精霊達が勢揃いしていた。

皆、部屋着や寝間着に上着を羽織ったような格好で円卓の席に着いていた。正直言ってあまり緊張感のある集いには見えないが、今の時間は夜であり、皆は霊力を封印しているし、『ドレスアップ』も持っていないのだからだから仕方ないとも言える。今は1分1秒も惜しかったし、何より十香が眠っている今しかないとも考えたのだ。

なお、マリアは同時並行で世界及び十香の調査を頼んでおり、真那には万一の事態に備えて、CR−ユニットを持たせ、警戒態勢で艦内に待機してもらい、仁藤には輪島のおっちゃんと共に国安0課に報告に行ってもらい、今はおっちゃんと0課の課長であるおっちゃんの奥さんと共に来ていた。クルー達も既に艦橋に招集されており、〈フラクシナス〉にはウェスコット戦以来の緊張感が満ち満ちていた。

 

「この世界が・・・・十香さんによって作られた物・・・・ですか?」

 

簡単な状況の説明の後、士道の言葉にそう反したのは、『よしのん』と共に小首を傾げる四糸乃だった。

その表情には、戦慄や恐怖といった類は見られず、困惑や当惑といったものであった。

が、それは四糸乃だけではない。耶俱矢、夕弦、六喰、二亜、美九、七罪ーーーーその場に集められた精霊達の大半が、似たような表情をしている。

 

「一体何を言っておるのだ、士道」

 

「同調。どう言う事ですか」

 

「ふぁあ・・・・むん、すまぬ・・・・突然妹御に起こされたとのでの・・・・」

 

「書き換えられた世界・・・・はっ、もしやアタシの原稿が白くて、もうすぐ新しくできた竜田揚げ工場に連れて行かれそうになっているのもそのせい!? くっそー、元の世界ではちゃんと終わってたのになー! 書き換えられたなら仕方ないなー!」

 

「あっ、そう言うシステムです? じゃあもしかして、元の世界では七罪さんの方から私にハグを求めてくれていたのかも知れないんですね!?」

 

「・・・・ない。ソレだけは絶対にありえない」

 

等と、皆が首を傾げたり、欠伸をしたり、或いはキャイキャイと騒いだりする。

だがソレも無理からぬ事ではあった。士道の言う事を信じられないとか、話が理解できないと言う訳ではなく、あまりに突拍子がなさ過ぎて、唖然としてしまっているのだろう。士道や琴里達も最初はそうだった。

しかしそんな中、いち早く状況を把握し、視線を鋭くした者ーーーーやはりと言うか、折紙だ。

 

「ーーーー詳しく聞かせて」

 

言って、円卓に肘を突き、指を絡ませながら士道に目を向けてくる。

他の皆も、聡明な折紙のただならぬ様子を感じ取ってか、話を止めて士道の方に向き直っていた。

 

「・・・・ああ。実はーーーー」

 

士道は小さく咳払いをしてから話を再開し、『メモリー』の魔法を使って全員に見せた。

十香が、消え去る寸前の澪の霊結晶‹セフィラ›をドラゴンから奪った事。ドラゴン達魔獣‹ファントム›がこの世界から姿を消してしまった事。そしてーーーーこのままでは、十香が世界を道連れに自戒してしまう事を。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・なんと」

 

「そんな・・・・」

 

士道の記憶を見るに従って、皆の貌は段々と戦慄の色を帯び、ソレを終えると、皆の様子を見回しながら、真紅のジャケットを肩掛けにした琴里がスクッと立ち上がる。

 

「ーーーー見ての通りよ。狂三の悪質な冗談と思いたい所だったけど、狂三の〈刻々帝‹ザフキエル›〉は記憶に干渉する事はできないから、コレは間違いなく『真実』よ」

 

「い、一体なんで十香さんはそんな事をしちゃったんですかー・・・・?」

 

美九(珍しくシリアス)が頬に汗を垂らしながら問うてくる。しかし、士道には首を横に振る事しか出来なかった。

 

「分からない・・・・でも、十香が何の理由もなくそんな事をするとは思えない」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

士道の言葉に、皆が押し黙る。

そう。あの十香が、ウェスコットのように己の欲望を満たすような目的で世界の書き換え等行う筈がない。何か理由があるに違いない。のだが、それが何なのかが分からない。このままでは、十香は世界と共に消滅してしまうという。まさかそんな深刻な状態を、自分で気づいていないと言う事はあるまい。何か理由がある。そんなハイリスクを負いながらも、澪の霊結晶‹セフィラ›を取り込まざる得なかった理由が。

 

「(~〜〜〜〜〜〜〜〜!! あぁくそっ! こんな時にドラゴンがいれば!)」

 

この世界から排除されてしまったドラゴンがいない事に、士道は頭をガジガジと掻いた。自分よりも圧倒的に思考が回るドラゴンならば、ある程度の推察を構築している筈だったろうから。

 

「ーーーー話を整理しましょう」

 

と、士道の稚拙な思考が袋小路に塡まりかけた所で、琴里がパンと手を打ちながら声を上げた。

 

「十香は元の世界で、澪の霊結晶‹セフィラ›を奪い、この世界を作った。けれどこの世界は制限時間付きで、放っておいたら壊れてしまう。一刻も早く十香に霊結晶‹セフィラ›を手放させ、世界を元に戻さないといけないわ。ーーーーそしてその為には、十香の『目的』を知る事が急務よ」

 

「十香の『目的』・・・・か。となると・・・・」

 

「推察。『お腹いっぱいご飯を食べたい』、等でしょうか」

 

耶俱矢と夕弦が難しげな顔で顎に手を当て言う。発言自体はズッコケものだが、2人の表情は真剣そのものであった。

 

「・・・・十香らしくはあるけど・・・・流石にそんな理由で世界を書き換えたりしないでしょ。て言うかそれくらいなら元の世界でも叶いそうだし」

 

七罪が半眼を作りながら頬を掻く。まあ実際、その通りではあった。

 

「むん・・・・ならば十香に直接聞いて見れば良いのではないかの?」

 

と、次いで六喰が、目元を擦りながらそう言ってくる。

 

「それはいくら何でも・・・・」

 

士道は苦笑しながらそう返しかけーーーー言葉を止めると、ムウと唸って腕組をした。確かに単純極まる方法で攻略に使えないが、相手は十香である。その方法が有効である可能性もあながち否定できない。

琴里もそう考えたのか、難しげな顔をしながら唸ってくる。

 

「・・・・確かに、どうしようもなくなったらそうするしかないかも知れないわね。でも、あくまでソレは最後の手段よ。そもそも、私達が世界の真実に気づいてしまった、と言う事実を十香に知らせて良い物かどうかさえ分からないわ。十香がこの世界を支配している以上、ソレを知られた瞬間、皆の記憶がその事実を知る前にリセットされてしまう・・・・なんて可能性もある訳だし」

 

『・・・・・・・・』

 

琴里の言葉に、精霊達が息を呑む。

十香がそんな事をするとは考えづらく、否、考えたくないが、十香が世界を書き換えてしまったのは事実だ。相手に圧倒的なアドバンテージがある以上、常に最悪を想定して動かねばならなかった。

 

「・・・・そうだな。でも何もしない訳にはいかない。ソレとなく十香に探りを入れてみるしかーーーー」

 

と、士道が言いかけた所で。

 

 

 

 

「ーーーーほう? 我が姉妹達がこのような時間に集まって何をしているのかと思えば、『私の世界』を砕く相談か」

 

 

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