デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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さて、十香を欠いた精霊達は、話し合いで何が起こるのか?


精霊会議(十香は除く)

ー琴里sideー

 

ーーーーパチパチパチパチパチパチ。

 

狂三が折紙と琴里の話を聞いて、手を叩いてくる。

 

「ご名答ですわ。ーーーー皆さんもご理解いただけまして?」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

狂三の言葉に、皆が無言になるが、ソレも仕方ない。突然様々な情報をぶつけられ、皆混乱しているのだ。

と、そんな中、ゆっくりと手を挙げられる手があった。ーーーー二亜だ。

 

「・・・・悪いんだけどさ、くるみん。ちょっとアタシの〈囁告篇帙‹ラジエル›〉でもソレ、調べさせてもらっていい? 別にくるみんが信用できないって言う訳じゃあないけど・・・・どうも突拍子もなさ過ぎてさ」

 

「・・・・・・・・」

 

すると狂三は、一瞬目を細めながら二亜を見て、小さく首肯した。

 

「・・・・ええ。二亜さんがソレをお望みならば、ご随意に」

 

「ん。あそれと、これが終わったらいい加減アタシの〈囁告篇帙‹ラジエル›〉の力返してくんない? 正直版権問題なんだけど?」

 

「ええ、ええ。考えておきますわ♪」

 

「ホントに? 嘘だったら裁判起こすからね? じゃあーーーー頼むよ、〈囁告篇帙‹ラジエル›〉」

 

言って、二亜が手を掲げると、ソコに光り輝く1冊の本、全知の天使〈囁告篇帙‹ラジエル›〉が現れた。二亜はその本を広げると、何かを呟きながら紙面を指でなぞりーーーー。

 

「・・・・ッ、くるみん・・・・!」

 

滅多に見れるかどうか分からないシリアス顔と、信じられない物を見たような目で、狂三を睨み付けた。

 

「はい。どうかいたしまして?」

 

対して狂三の反応は、至極落ち着いたものだ。穏やかな笑みを浮かべながら、二亜の視線を返す。

そんな狂三の様子を見てか、珍しく二亜が『大人』の表情を浮かべて、小さく溜め息を吐いた。

 

「・・・・損な性格してるね、君も」

 

「あら、あら」

 

二亜の言葉に、狂三が曖昧に笑う。そんな2人のやり取りに、琴里は不審そうに眉を歪めた。

 

「何よ。何が見えたって言うの、二亜」

 

「・・・・ん、残念ながら、くるみんの言ってる事は本当だよ。アタシ達に今できる事は、多分ソレしかない。後は少年が上手くやる事を祈るばかりだ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

二亜の返答は、少し琴里の質問の意図とズレていたがーーーー彼女の表情が、ソレ以上の問いを許さなかった。普段のおちゃらけた調子の駄目な大人然が嘘のように、その目に微かな戸惑いと、静かな、しかし強い意志が満ちている。

琴里は失礼だが、今初めて不覚だが、二亜が『大人』に見えてしまった。

が、二亜はすぐにいつもの調子になり、気を取り直すようにパンと手を叩いた。

 

「ーーーーはい! んじゃルール決めようぜー。取り敢えず場所はここで良い訳?」

 

「ええ、ええ。辺り一帯、『わたくし達』が人払いをしておりますわ。近隣住民が迷い込んでくる心配はありませんわよ。ーーーー戦いの原則、霊装と天使を顕現させて行うものとし、霊力が尽きてその2つが顕現できなくなった時点で『脱落』とする。と言うのは如何でして? 無論、戦いの目的が霊力の発散にある以上、無防備な相手への攻撃は御法度ですわ」

 

「ヒュウッ! デキる女は違うねくるみん!」

 

二亜が口笛を吹きながら、オーバーリアクション気味に身を反らして見せる。そのコミカルな調子に、ほんの少しだけ周囲の空気が弛緩したような気がした。

 

「・・・・ああ、もう。分かったわよ。それしか手がないって言うなら付き合って上げる。ーーーーただ、一つ『問題』があるわ」

 

「『問題』、ですの?」

 

「ええ。・・・・悪いけれど、私の霊結晶‹セフィラ›は性悪でね。長時間力を使っていると、破壊衝動に呑まれて見境なくなっちゃうのよ。ドラゴンの経路‹パス›を通じて自分の力を送って抑えてくれる事ができるけど、彼がいない現状、途中から1人だけ蛇のような凶悪殺人犯みたいな殺し合いのテンションになるのはマズイでしょ」

 

琴里が肩をすくめながら言うと、狂三は想定内の懸念であるとかのように微笑んだ。

 

「心配はご無用ですわ。ーーーー少なくとも、“この世界の中であれば”」

 

狂三はそう言って、大仰に右手を掲げて見せると、その動作に合わせるかのように、狂三の足元に広がった影が蠢き、彼女の身体に纏わり付いていくとーーーー精霊を守る絶対の鎧にして城。霊装となった。

しかも、今までの狂三の霊装と少し形が異なっていた。淡く輝くゴシックロリータ調のドレスに、修道女の如き装飾が施された。ウェスコットとの最後の決戦で際に顕現させた限定霊装を、二亜との霊装との合体版を完全に仕上げたような姿である。

 

「限定霊装・・・・じゃない? あなた、それはーーーー」

 

琴里は微かな警戒と共に視線を鋭くした。士道に封印された霊装は、基本的に限定的な霊装しか顕現できない筈である。しかし、今狂三が纏ったドレスから発せられる濃密な霊力は、明らかに完全な霊装である。

 

「うふふ、そう恐い顔をしないでくださいまし。わたくしが何かした訳ではありませんわ。ーーーー皆さんも、霊装を顕現させれば、同じ事ができる筈ですわよ」

 

「・・・・どういう事?」

 

琴里が怪訝そうに問うと、狂三はゆったりとした足取りでステップを踏みながら返してきた。

 

「この世界は、十香さんが創り上げた、完璧で歪な空想の世界。真那さんの身体が完治し、紗和さんや魔獣‹ファントム›のゲートにされた人間や殺された人々ば生き返っている優しい世界。あらゆる条理が、わたくし達に都合良く改変されたご都合主義に塗れた世界ですわ。ーーーー琴里さんを蝕む破壊衝動が解消されている事は、〈囁告篇帙‹ラジエル›〉でも確認済みでしてよ」

 

「・・・・成る程ね」

 

琴里は目を細めながら腕組みをした。そして他の皆の意志を確認するように、精霊達の顔をグルリと見回す。

 

「ーーーーだそうよ。皆、協力して貰えるかしら?」

 

琴里が言うと、精霊達一斉に力強く頷いてきた。

 

「了解した」

 

「はい、勿論です・・・・!」

 

『よしのん達にできる事なくてどうしようって思ってたからね〜』

 

「むん。主様と十香の為であれば、断る理由はあるまい」

 

「ですねぇ。あ、霊装と天使を顕現できなくなった人への攻撃は禁止ですけど、介抱はセーフですよね? ね?」

 

折紙、四糸乃、よしのん、六喰が同意を示し、美九が何やら楽しげに身体を揺らす。琴里が苦笑していると、次いで勝負事大好きな八舞姉妹がニッと口元を笑みの形にしてみせた。

 

「呵々、ソレを抜きにしても面白いではないか!」

 

「同調。精霊の中で誰が1番強いかーーーー興味が無かったと言えば嘘になります」

 

言って、耶俱矢と夕弦と言った競争好きが互いに視線を交じらせた。その目には、好奇心と闘争心が輝きとなって灯っていた。

どうやら、モチベーションこそそれぞれではあるものの、皆異存はないようだ。より細かなレギュレーションを定めようと、狂三の方に向き直る。

が、ソコで今まで黙っていた七罪が、弱々しく手を挙げてきた。

 

「・・・・あのー・・・・」

 

「あら、どうかしたの、七罪」

 

「・・・・いや、霊力を発散して世界を存続させる事自体には文句は無いんだけど・・・・私絶対弱いから、出来れば戦いたくないって言うか・・・・もっと平和的な方法ない? いっせーので少しすつ霊力を撃ち合うとか・・・・」

 

申し訳無さそうに肩をすぼらせながら、七罪が言ってくる。

まあ、全員が全員、八舞姉妹のように競争好きな訳でもない。こう言う意見が出てくるのも当然であった。

しかし、そんな七罪の言葉に、狂三が大仰に頭を振る。

 

「ああ、ああ、いけませんわ。そんな士道さんあたりが大好きなぬるま湯に浸ったようなやり方では、限界まで霊力を絞り出す事はできませんもの。それにーーーー」

 

「・・・・それに?」

 

「それでは面白くないではありませんの」

 

「本音出やがったなチクショウ・・・・! 霊力発散すれば良いなら、態々そんな危険なバトルロイヤルする必要ないじゃん! 何処の『妹に新しい命を与えたいシスコン』と、『現代人を見世物にしている悪趣味な未来人』よ!!」

 

七罪が髪を掻き毟りながら悲鳴染みた声を上げる。しかし狂三は気にした様子もなく、楽しげに言った。

 

「ここまで来たら諦めて下さいまし。とは言え・・・・確かに七罪さんの言う事にも一理あるかも知れませんわね」

 

「えっ?」

 

「ーーーー如何に世界を救うと言う大義名分があるとは言え、皆さん仲がよろしい間柄。何処かで遠慮が出てしまう可能性がありますわ。本気で天使を交わし合うには、もう1つ動機と言うか、心を突き動かす『何か』が必要かも知れませんわね」

 

「心を突き動かす何か・・・・?」

 

「ええ、ええ。有り体に言ってしまえば『ご褒美』ですわ」

 

狂三が指を1本立てながら言ってくる。

 

『ほう・・・・?』

 

八舞姉妹を始めとする面々が、興味深げに目を細めた。

 

「ご褒美・・・・ね。一体何が良いのかしら? 〈ラタトスク〉で用意できそうなものなら手配するけど」

 

「うふふ。琴里さんの手を煩わせるまでもありませんわ。折角皆さんの『保護者であるドラゴンさん』がいらっしゃらないのですから、この機会を生かしましょう」

 

狂三はそう言うと、心底楽しげに唇を歪めた。

 

 

 

「そうですわねーーーー『士道さんへ想いを伝える権利』、と言うのはいかがでして?」

 

 

 

『な・・・・ッ!?』

 

狂三の言葉に。

精霊達の目が、一斉にカッと開かれた。

 

「わたくしが知る限り、士道さんにキチンと想いを伝えた方はおられないご様子。まぁ、そもそもドラゴンさんあたりが、『あんな馬の骨にもならないひょうろく玉なんかにお前達は勿体ない』と言って告白を防いでいたのでしょうがーーーーであれば、丁度いいではありませんの。例えその答えが如何なものだとしても、他の方々に1歩先んじて、あの煮え切らない優柔不断な士道さんに告白できるチャンスと言うのは、命を賭して勝ち取るに足るものではございません事?」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

精霊達は無言で視線を交じらせると、一斉にゴクリと息を呑んだ。

 

「士道に・・・・告白・・・・?」

 

「他の誰より、早くーーーー」

 

「・・・・もしも負けたらーーーー」

 

「私じゃない誰かが、士道にーーーー」

 

最早、ソレ以上言葉は要らなかった。

それ位に分かりやすく、精霊達の間には静かな、しかし猛る炎が燃え上がる。そんな皆の気炎を察してか、二亜がニッと頰を歪めると、開戦を宣言するかのように口笛を吹いた。

 

「ーーーーヒュウ、皆やる気出てきたみたいじゃん? 少年ととーかちゃんもヨロシクやってるみたいだし。ドラくん‹鬼›の居ぬ間にーーーー

アタシ達も、戦争‹デート›と洒落込もうじゃないの」

 

そうして、恐らく過去最大の規模となるであろう精霊達の戦いがーーーー幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー???sideー

 

『絶望』か、押し寄せてくる。

そうとしか表現しようのない強い感情の波が、彼女を襲った。

 

(ーーーーーーーー)

 

これまでも、もう1人の自分の感情が強く揺さぶられる事はままあった。激しい悲しみを覚える事もあれば、強い怒りに我を忘れそうになった事もある。

しかしソレらはあくまでも、己を律する事のできる範囲の感情だった。事実もう1人の自分は、すぐにソレを収め、また穏やかな感情の旋律を奏で始めていた。

ーーーーけれど、コレは違う。

もう1人の自分の存在そのものに罅が入るかのような感覚。今まで享受してきた幸せを、全てを失ってしまうかの様な喪失感。かつて恐怖と悲哀に支配されていた頃でさえ、ここまで強い絶望を感じた事はなかった。一体、もう1人の自分に何が起こったと言うのかーーーー。

 

(・・・・ッ)

 

ソコで、彼女はある事に気付いた。

もう1人の自分の心。今まで漠然と感じ取るしかできなかったソレが、段々と明確な事象を帯びてきた事に。

そして、理解する。ーーーーもう1人の自分の心が、彼女のいる領域にまで堕ちてきてしまった事を。

 

(ーーーーーーー)

 

彼女は、思わず手を伸ばした。正確に言えば、手を伸ばすよう意識を傾けた。するとその手にーーーー長らく何も触れていなかった手に、何かの感触を覚えた。

嗚呼、それは手だ。触れた瞬間、彼女は理解した。自分は今、『もう1人の自分』の手を取る事ができたのだと。

そう。それはまるで、もう1人の自分と入れ替わりなるように、自分の意識が表層に引き上げられるかのような感覚でーーーー。

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

次の瞬間。

彼女は、久方振りに己の目で世界を見、己の耳で音を聞き、己の肌で風を感じていた。以前見た風景とはまるで違う。暗い部屋。堅牢な建造物。自分を生んだ精霊の姿はなく、その代わり、数名の人間と異形の者が自分を取り囲んでいた。

 

「・・・・何だ、ここは」

 

彼女はポツリと呟いた。長らく声を発していなかった喉が、微かに痛む。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

彼女は不機嫌そうに眉毛を寄せながらーーーー段々と思い出していった。つい先程まで自分が、もう1人の自分の中にいた事を。そしてソレと淹れ皮。になるように、現世に現れた事を。

そしてーーーーもう1人の自分が、深い、深い絶望を感じていた事を。

その場にいた人間達を睥睨し、彼女は、次なる行動を定めた。

ーーーー暴虐。彼女はもう1人の自分の無念を晴らすように、思うさま暴れ回った。この中の誰かが、もしくは全員が、もう1人の自分を絶望させたのだ。ならば許せぬ。全てを薙ぎ伏し安寧を取り戻す。

けれどーーーーそんな中、おかしな男と竜がいた。

妙な行動を取る男であった。コチラに向かってくると言うのに敵意がない。コチラに呼びかけるように、名前のようなものを喧しく叫んでくる。

遂にーーーー自分の剣を竜が噛み砕いたと思うと、男は仮面を外し、彼女の唇に自らの唇を押し当ててきた。

 

「な・・・・貴さーーーー」

 

彼女は荒れ狂う驚愕の中、意識が元の場所へと引き戻されるのを感じた。

 

 

 

 

ー十香sideー

 

「ーーーーふんふんふふ、ふーんふふふふん♪」

 

楽しげな鼻歌を歌う十香を伴いながら、士道は天宮市の大通りを歩いていた。

昨日から学校が春休みに入ったからか、昼前だがいつもより人通りが多い気がする。日差しは柔らかく、風はほんのりと暖かい。商店街の店先には新生活を応援する旨の書かれたポスターが貼られ、否応なく、出会いと別れが混在する新たな季節の訪れを感じさせていた。

そんな街並みを歩く十香の装いも、淡い色のアウターにロングスカートと言う、春らしい格好だ。

 

「・・・・・・・・」

 

そんな至極当然の出来事に、士道は不思議な感慨に耽っていた。

一般常識どころか、女の子としての常識すら持ち合わせていなかった十香が、ここまでできるようになり、今では何とも素敵なお嬢さんへとなったのだ。

一時が万事、人間としての十香の生活は、苦難の連続だったように思う。何も知らないに等しい世界に突然放り込まれたようなものだ。〈ラタトスク〉のサポートが付いていたとは言え、戸惑う事は多かっただろう。

けれど十香は、1度間違えた事を繰り返す事は殆ど無かったし、間違えを恐れる事もまた、無かった。知らない事ばかりの世界の中で、学んでいく事を楽しんでいた。ーーーー彼女の滑稽な失敗に苦笑していた士道と、微笑ましく見守っていたドラゴンも、いつしかその姿勢に、1種の尊敬を抱くようになっていた程に。

 

「(・・・・そんな事を思い出してしまうなんて、春の陽気のせいなのだろうか)」

 

と、士道はポリポリと頬を掻きながら、楽しげに隣を歩く十香をチラと見た。

どう見ても、普段の十香だ。反転十香が演技をしているとは思えない。

澪の霊結晶‹セフィラ›を奪ったのは反転十香であり、ドラゴン達魔獣‹ファントム›をこの世界から排除したのである。これは恐らく間違いない。しかし同じ身体を共有している以上、十香とキスすればその霊力を封印する事が出来るのだろうか。だがーーーー。

 

「ーーーーシドー」

 

と、不意に名前を呼ばれ、士道は思わず肩をビクッと震わせた。

 

「お、おう、何だ?」

 

状況は状況だけに仕方ない事とは言え、デート中に女の子を放って長々と考え事するなど、ドラゴンに尻尾ド突き(激強)を脳天に叩き込まれ位の御法度良い所である。声を上擦らせながらもそう返す。

しかし十香はさして気にした様子もなく、何処か懐かしげな表情をしながら前方を指さした。

 

「覚えているか? 確かこの辺りだ」

 

「え・・・・?」

 

言われて、士道は十香の示した方向を見やった。

とは言え、何か特別なものがある訳でもない。ただのがいろだ。十香が気に入りそうな食事処も、目に付くモニュメントなども無かった。

 

「???・・・・っ!?」

 

十香にどういう事だと、聞こうとしたその時、後頭部に鋭い痛みが走った。

 

「っーーーードラゴン??」

 

一瞬、ドラゴンのド突きが叩き込まれたような感覚があり、後頭部を抑えて辺りを見回しても、勿論ドラゴンの姿は見えないし、身体の中にも感じない。しかし、その感覚により記憶が掘り起こされ、士道の脳裏にある光景を思い出させた。

 

「あーーーーもしかしてここ・・・・十香と初めて会った場所か?」

 

そう。去年の4月10日。まだ精霊も〈ラタトスク〉も知らず、ドラゴンと2人で魔獣‹ファントム›と戦い続けていた頃、士道は空間震警報が鳴る中、琴里がスマホに出ず、心配してマシンウィンガーに乗り走りーーーー精霊に、出会った。

精霊達との始まりの場所。ソレがこの、何の変哲もない街路だったのだ。

 

「おお、思い出したか!」

 

十香が嬉しそうに声を弾ませてくる。そうして何処か遠い目をしながら、人の行き交う道に視線をやった。

 

「早いものだな・・・・アレからもう1年近く経つのか」

 

「ああ・・・・そうだな」

 

士道は感慨深げに息を吐くと、十香と同じように街路を見つけた。

1年。たったソレだけの間に、士道の波乱の人生が始まったと言っても良い。

と、士道がそんな事を思っていると、不意に十香が士道の前方に回り込んできた。そしてキッと視線を鋭くし、剣を構えるような格好を取りながら士道を睨み付けてくる、

 

「ーーーーおまえも・・・・か」

 

「・・・・! っふ・・・・」

 

突然の十香の言葉に、士道は小さく噴き出してしまった。しかしすぐにその意図を察し、力無くよろめいて見せた。

 

「ーーーー君、は・・・・」

 

「・・・・名、か。ーーーーそんなものは、ない」

 

「「・・・・・・・・」」

 

そんな言葉を交わした後、暫しの無言が続きーーーー。

 

「・・・・・・・・ぷっ」

 

「・・・・ふふ、はははっ」

 

やがてどちらからともなく、堪えきれないと言った調子で笑い始めた。

通りで突然笑い出したものだから、通行人達が不思議そうな顔をしながら視線を送ってくる。けれど、士道と十香はしばらくの間笑いを止める事ができなかった。一頻り笑い続けた後、漸く肩を上下させながら呼吸を落ち着かせる。

 

「何だよ、いきなりやめろって」

 

「シドーこそ、良く覚えていたな」

 

「覚えてるさ、そりゃあーーーー」

 

士道は滲んだ涙を拭いながら、改めて十香の顔を見た。

あの日の事は、ソレこそ昨日の事のように思い出せる。精霊やAST、〈ラタトスク〉と関わり始めた起点の日であるしーーーー何より出会った少女に、いきなり殺されかけたのだ。忘れろと言われても忘れられるものでもない

そしてソレ以上にーーーーその少女の悲しそうな顔が、ずつと目に、心に残っていたのだ。

士道は思った。あの子に、あんな顔をさせたくないと。今思えば、その気持ちこそが、士道が精霊を助け続けられた原動力なのかも知れなかった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ーーーーあの時、今にも泣き出してしまいそうな顔をしていた少女が、今目の前で活発に笑っている。

ソレだけで、士道の精霊達との1年には、何ものにも代え難い価値があった。士道はフッと目を伏せると、細く息を吐き出した。

するとそんな士道の袖を、十香がグイと引っ張ってくる。

 

「ーーーーシドー。折角の機会だ。『行きたい所』があるのだが、付き合ってはくれないか?」

 

「え? 勿論良いけど・・・・何処に行くんだ?」

 

「ふふ・・・・それは行ってからのお楽しみだ」

 

士道の言葉に、十香が悪戯っぽく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー???sideー

 

「・・・・・・・・」

 

『ソレ』は、ニンマリと笑みを浮かべた。

ずっと隠れていた『ソレ』は、漸くチャンスが訪れたのだ。

『世界を改変する力』を手にするチャンスを・・・・。

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