デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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第三章スタート!・・・・の前にちょっと寄り道。


幕間1
崇宮真那


「ーーーさ、あと1人です。どこからでもかかって来やがってください」

 

折紙達ASTと型が少し異なったワイヤリングスーツを着用し、両肩に盾のような兵装を装着された折紙達の装備しているCR-ユニットよりも1世代新しい試作機を装着した少女は、たった今倒し、足元に倒れたAST隊員を一瞥もせず、そう言ってきた。

 

『崇宮真那』。

 

年の頃は14、15といったところで、左目下の泣き黒子に飾られた利発そうな貌には、まだあどけなさがある。

だが、その小さな体躯を包むまるで似つかわしくない機械の鎧ーーーCR-ユニットを纏い、折紙を除いたAST隊員を倒して見せた。もちろん全員生きている。

あまりにも、圧倒的なその実力は、まるで精霊を相手に戦っているいるように感じる。

ーーー彼女がこの天宮駐屯地に配属されて来たのは、先月末。

曰く、陸自のトップエースで、顕現装置<リアライザ>の扱いは世界でも五指に入る。

 

そして何よりも、精霊を、“殺した”事がある。

 

確かに話だけを聞けば、規格外の怪物だ。

しかし、出会い頭に「この中で1人でも、私に勝てる人がいるのか」と言われては、精鋭を自負するAST隊員は黙っている筈なく、真那の実力を確かめる名目で、1対10の特別演習が行われた。

折紙本人は、正直あまり興味無かったのだが・・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

折紙は無言で、先日真那と交わした会話を思い起こした。

 

 

 

* * *

 

 

 

真那がこの駐屯地に配属になった日、ちょうど折紙達は先日の〈ハーミット〉と〈アンノウン〉との戦闘映像を見ていたところだった。

そこで真那が、映像に映っていた少年ーーー五河士道を見て、確かに言ったのだ。

ーーー『兄様』、と

士道にこんな妹がいるだなんて聞いたことがない。後に折紙がその事を問うと、真那が驚いたような仕草をしてから口を開いた。

 

【! 鳶一一曹は兄様とお知り合いなのですか!? ふむ・・・・ええ、いいですよ。詳しく話しても。ーーーただし、今度の演習、貴女も参加しやがってください。それが条件です】

 

そう言われては、折紙に選択の余地は無く、折紙も演習に参加する事になった。

 

 

* * *

 

が、結果は見ての通り。

折紙以外の9名の隊員が無力化され、折紙もまた、近接用レイザーブレイド以外の装備を失っているにも関わらず、真那は未だに傷1つ負っていない。

 

「・・・・さあ、このままでは時間切れになってしまいやがりますよ?」

 

真那がふうと息を吐きながら、敬語になりきっていない敬語で言ってくる。

このまま隠れていても仕方がない。折紙は身体を浮遊させ、真那の前に姿を現した。

 

「ーーーお。ようやく腹が決まりやがりましたか?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

折紙は脳内に指令を発し、背中のスラスターを駆動させた。

もとより折紙の手に残った武器は〈ノーペイン〉1つのみである。接近戦を仕掛ける以外に道は残されていない。身体を前傾させ、凄まじいスピードで空を駆ける。

 

「潔し。嫌いじゃねーです、そういうの」

 

真那は唇の端を上げると、肩のユニットを可変させ、両腕に装着した。

 

「〈ムラクモ〉ーーー双刃形態<ソードスタイル>」

 

すると次の瞬間、盾の先端部から巨大な光の刃が姿を現すが、折紙は止まらず、真那に果敢に挑んだーーー。

 

 

 

 

 

 

演習終了後。

駐屯地の格納庫に戻った折紙は、その場に腰を落ち着けながら床を眺めていた。

十数分前の感触を思い出すように、くっと右手を握った。

 

「・・・・」

 

演習の結果は、真那の圧勝だった。

折紙も善戦したが、真那の方が自分よりも優れた随意領域<テリトリー>の精度によって敗北した。

折紙は随意領域<テリトリー>を解除したばかりのため、身体がずっしりと重い。腕を持ち上げて手を握るだけの作業ですら、まるで粘度の高い泥の中を泳ぐかのような不自然さが伴った。

だがそんな当たり前の事象すら、暗に自分の無力さを示しているかのように思われて、折紙は無意識に握った拳に力を入れた。

 

「崇宮ーーー真那」

 

冗談のような精度を誇る随意領域<テリトリー>に、特殊兵装を己の手足のように使いこなす練度。なるほど彼女は、噂に違わぬ天才だった。

きっとこれは歓迎するべき事態だ。合理的に考えれば、真那ほどの力を持った魔術師<ウィザード>がいれば、作戦の成功率はぐっと上がるだろう。

だが、頭でそれを理解してなお、折紙の心中には不可解な焦燥と苛立ちが募っていた。

 

「・・・・強い」

 

と、握りしめた拳を睨み付けながら折紙が言ったとき、頭上から声が聞こえてきた。

 

「ーーーあなたも大したものですよ、鳶一一曹」

 

折紙が顔をあげると、いつの間に近づいてきたのだろうか、そこにはワイヤリングスーツのみになった真那が、両手にスポーツボトルを持って立っていた。

 

「よければどーぞです」

 

言って、左手に持ったボトルを差し出してくる。

 

「・・・・」

 

随意領域<テリトリー>を解除したばかりだと言うのに、真那の動きには何ら遜色が見られない。

複雑な心境で真那を見上げながら、重い腕を持ち上げ、ボトルを受けとる。真那は満足げに頷くと、ドリンクを1口飲んでから言葉を続けてきた。

 

「正直、驚きました。剣先数ミリとはいえ、私に攻撃を当てやがった人は久しぶりです」

 

嫌味ではなく、ただ純粋に折紙の技量を評価するように言ってくる。

しかし。折紙は軽く奥歯を噛んだ。

 

「どうすればーーーあなたのように強くなれるの」

 

折紙が問うと、真那は困ったように眉を八の字にした。

 

「どうすればと言われましても・・・・」

 

「あなたは、“精霊を殺した事がある”と聞いた。詳しい話を聞きたい」

 

「精霊を・・・・殺した、ですか。まあ、言葉の上では間違っちゃねーですが・・・・」

 

小さく肩をすくめながら歯切れの悪い真那の返事に、折紙は小さく首を傾げた。

 

「どういう事?」

 

「んん・・・・ちょっと“アレ”に関しては、他の精霊と同列に扱わねー方がいいというか・・・・」

 

「何でもいい。どんな些細な情報でも構わない。教えて」

 

「まあ、構わねーですが・・・・たぶん今言わねーでも、そう遠くないうちに直接見る機会が巡って来やがると思いますよ。ーーー私が配属されたのも、それが“目的”でもある訳ですし・・・・」

 

「・・・・? あなたが配属されたのは、戦力増強のためと聞いている」

 

「間違っちゃねーですよ。ただもっと正確に言うと、“ある精霊”の反応と、“ある異形”の存在がこの近辺に確認されやがったからなんです」

 

「ある精霊と異形?」

 

「ええ。異形の方は、識別名〈アンノウン〉と言えば分かりやがりますか?」

 

「っ! あなたは〈アンノウン〉とも戦うためにここに配属されたの?」

 

折紙は少し目を剥く。識別名〈アンノウン〉、精霊と違い数が多く、人間を襲ったりしているASTのもう1つの殲滅対象。

しかし奴らには顕現装置<リアライザ>による随意領域<テリトリー>もほとんど意味がなく、精霊とは違った意味で、ASTにとって脅威の存在だった。

唯一の救いは、精霊と〈アンノウン〉は敵対関係にあると言う事である。

もし両者が手を組めば、人類にとって最悪の結末を迎えるからだ。

 

「いやその、戦うためと言うか、戦わざる得ない状況だからと言いやがりますか・・・・何しろ腹ペコ達がうるさいでやがりますからな・・・・」

 

またも歯切れの悪い返答し、最後の部分は声をかなりひそめて言って、折紙の耳には届かなかった。

 

「まあ、それはその内分かりやがりますが、ある精霊の方は、私が長いこと追っている最悪の精霊です。識別名はーーー」

 

スパン! スパン!

 

真那が言葉を継ごうとした瞬間、折紙と真那の頭は叩かれた。

 

「・・・・っ」

 

「あたっ」

 

二人は同時に頭部を押さえると、これまた同時に振り向いた。

そこには、自衛隊常装に身を包んだAST隊長・日下部燎子が、片手に丸めた冊子のようなものを握りながら立っていた。

 

「あ・ん・た・ら、ねぇ・・・・」

 

ピクピクと額に浮き出た血管を蠢かせながら、ビッ! と演習場から回収された、折紙と真那の模擬戦で破壊されたスラスターユニットを指差す。

 

「模擬戦って言ったでしょうが! 何貴重な装備潰してくれてんの!」

 

しかし二人は暫しの間、燎子の指の先を眺めてから口を開いた。

 

「生半可な方法では、崇宮三尉に隙を作ることはできなかった」

 

「やはり模擬戦とはいえ本気でやんねーと、正確なデータはとれねーと判断しーーー」

 

スパン! スパン!

 

再び二人の頭が叩かれる。

 

「ご高説は、顕現装置<リアライザ>搭載したユニットのお値段をちゃんと調べてから吐きなさい。ウチだって、予算が無尽蔵にあるわけじゃないのよ」

 

「了解」

 

「善処するです」

 

「ったく・・・・以後気をつけるように」

 

燎子は肩をいからせながら歩いていき、その背中が見えなくなってから、真那は不満げに、ぶー、と唇を突き出す。

 

「まったく、隊長殿にも困ったものですね。そんなみみっちいことだから、精霊や〈アンノウン〉にいいようにされちまって、噂の〈仮面ライダー〉に出し抜かれちまいやがるんですよ」

 

「同感」

 

折紙が頷くと、真那は嬉しそうに唇の端を上げた。

 

「あなたとは気が合いそうです、鳶一一曹。こちとら、〈アンノウン〉と精霊なんて化物を相手取ってるんです。金に糸目なんて付けやがってたら、勝てるものも勝てなくなっちまいやがります」

 

「・・・・」

 

折紙は無言で、大仰に肩をすくめる真那の顔を改めて見直した。

やはり・・・・鼻立ちというか、雰囲気が、士道に似ている。

だが、士道に妹は1人しかいなかったはずだ。

会話を交わしたことはなかったが、何度か見たことがある。『五河琴里』。言わずもがな、真那とは別人である。

だがーーー『折紙データベース』によると、確か士道は“養子”だったはずだ。彼女が本当に士道の妹である可能性も、完全には否定できなかった。

折紙は、自然と口を開いていた。

 

「崇宮三尉。約束。あなたと士道の関係を教えて」

 

「士道・・・・? 誰ですか、それは?・・・・えっ? 先日私が“兄様”と呼んだ?・・・・っ、兄ーーー様・・・・?」

 

「???」

 

真那が首を傾げると、突如“独り言を喋ると”、小さく眉をひそめた。

 

「どうしたの」

 

「いえ、少し、頭痛が・・・・」

 

言って、側頭部を手で押さえる。ーーー先月、映像で士道を見たときと同じだ、と折紙は思った。

 

「大丈夫でやがります。“みんな”落ち着きやがるですよ。・・・・っ、失敬失敬。もう大丈夫です。ええと、兄様のことでしたね」

 

真那はまた独り言を言うと、折紙に向き直り、頭痛を放逐するように軽く頭を振ってから、ワイヤリングスーツの胸元をまさぐると、銀色の小さなロケットを取り出した。

そして、それを開いて見せる。中には、小さな男の子と女の子の写真が入っていた。

 

「ーーー士道」

 

折紙は小さく呟いた。その男の子は間違いなく、幼い頃の五河士道であり、隣に写る女の子は、どう見ても真那だった。

 

「これは?」

 

「昔の写真です。ーーー生き別れた兄様の、唯一の手がかりです」

 

「詳しく、教えて」

 

折紙が言うと、真那は困ったように頭をかいた。

 

「すまねーのですが・・・・あんまり覚えてねーのです」

 

「・・・・? どういう事?」

 

「いえ・・・・実は私、昔の記憶がねーのですよ」

 

「・・・・記憶喪失?」

 

「平たく言えばそうなりやがります。ーーーでも、あの映像を見た瞬間、思い出したのです。私は、あの方を兄様と呼んでいたことがある、と」

 

「ならばなぜ、あんな条件を?」

 

折紙が怪訝そうに問うと、真那はすまなさそうに頭を下げた。

 

「いやー・・・・鳶一一曹の実力を見ておきたかったのです。この部隊の中で一番やりそうなのがあなただったもので。ーーー実際、期待以上でした」

 

「・・・・」

 

折紙は圧倒的な差を見せつけられてから『期待以上』と言われても、少し複雑である。

と、真那が、上目遣いになりながら言葉を続ける。

 

「それで・・・・鳶一一曹。ごめんなさいついでにもう1つお願いがあるのですが」

 

「なに」

 

「虫の良い話だとは思うのですが、その・・・・兄様のこと、知っていやがるのですよね? 分かる範囲でいいので、教えてくれねーですか?」

 

「・・・・」

 

なんだか立場があべこべになっている気がするが・・・・折紙は少しの間思案を巡らせてから、小さく首肯した。

 

「ーーー名前は、五河士道。年齢は16歳」

 

「はい」

 

「家族構成は父・母・妹。現在両親は海外出張で家を空けている。家事全般が得意」

 

「ふむ・・・・」

 

「血液型はAO型のRh+。身長170.0センチ。体重58.5キロ。座高90.2センチ。上腕30.2センチ。前腕23.9センチ。バスト82.2センチ。ウエスト70.3センチ。ヒップ87.6センチ」

 

「・・・・はい?」

 

「視力は右0.6、左0.8。握力は右43.5キロ、左41.2キロ。血圧は128~75。血糖値は88mg/dl。尿酸値は4.2mg/dl」

 

「す、ストップストップ! そこまでは聞いてねーです!」

 

「そう」

 

焦るように叫ぶ真那に、折紙は小さく頷き返した。

 

「て言うか、え、何ですかその詳細なデータ。冗談ですか?」

 

「冗談ではない。全て正確な数値」

 

「・・・・いや、まさか、確かにちょっと怪しいでやがりますが・・・・」

 

折紙が真顔で返すと、真那は頬に汗を浮かべて眉をひそめて、またもやこっそりと独り言を呟いた。

 

「・・・・失礼、鳶一一曹と兄様は一体、どのような関係でいやがるのでしょうか?」

 

真那の問いに、折紙は間髪入れず、何の迷いも躊躇いも逡巡もなく唇を開いた。

 

「恋人」

 

「・・・・え? えっ?? えぇっ??? そ、それはその・・・・っ!?」

 

折紙の言葉に、真那は茫然となり、何度もまばたきを繰り返し、正気を取り戻すと、折紙に問い詰めようとするが、突然ビクッ! と身体を強ばらせると、急いで格納庫から出ていこうとした。

 

「・・・・どこへ行くの?」

 

「す、すまねーです! ちょっと用事を思い出したので、続きはまた後で!!」

 

真那はそう言って、土煙を上げながら格納庫を出ていった。

折紙は後を追おうとしたが、まだ随意領域<テリトリー>を解除した影響がまだ抜けておらず追えなかった。

 

 

 

 

 

 

格納庫から出た真那は、人気の無い裏手に回り、人がいないのを細心に注意し、片手を上げると、真那の頭上から、『緑色のメカニカルな鳥のような模型』が飛んできた。

 

「『グリフォン』。タイミング悪すぎでやがりますよ・・・・!」

 

『クルルルル・・・・』

 

『グリフォン』と呼ばれた模型は、シュンとするように項垂れ、真那が慌ててフォローした。

 

「あぁゴメンゴメン、悪かったでやがりますよ。・・・・それで、見つけたでやがりますか?」

 

『クルルルル!』

 

『グリフォン』がジェスチャーするように身体を動かした。

 

「フムフム。“ヤツ”ではなく、“エサ”達を見つけたでやがりますか。それはそれで上々でやがりますよ」

 

真那は『グリフォン』の頭を撫でると、懐からリングを取り出して、指に嵌めた。

すると、真那の頭に、“複数の声が聞こえた”。

 

≪真那よ。ワシらは腹が減ったぞ≫

 

≪つーかよ。あの鳶一って女、怪しくね?≫

 

≪そうね。恋人とはいえ、あそこまでプライベートの情報を知ってるのは不自然じゃない?≫

 

≪アレって下手するとストーカーのようだよ≫

 

≪あの五河士道って小僧も、本当に真那の兄様なのか?≫

 

「ああもう、みんなで一斉に喋るでねーですよ! 頭がごちゃごちゃになりやがるです!」

 

端から見ると、真那が独りで喚いているような光景であった。

 

「兎にも角にも! とりあえずはアンタらの“ご飯”の調達でやがりますよ! 行くでやがりますよ・・・・『キマイラ』!!」

 

真那はリングを嵌めた手を、『両開きの扉のようなベルト』に翳した。

 

[ドライバーオン!]

 

ベルトから響いた音声が流れ、次に目映い光が溢れだし、真那の身体を包んだーーー。




次の話で『狂三キラー』を本格的に開始。
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