デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

271 / 278
さぁ、遂に彼女の名が明かされます。


十香の姉、その名は天香

ー士道sideー

 

ーーーーまるで十香が、自分の死期を悟っているように、見えた。

考え過ぎである事は分かっているが、初めて出会った場所に差し掛かったものだから、懐かしくなってこの教室を訪れたくなったとか、そう言った理由だ。

けれど、このまま放っておいたなら、その不穏な妄想が現実となってしまいかねない。士道はスウッと息を吸うと、十香に向き直った。

ドラゴンがいれば、「何が起こるか分からないのに迂闊な真似をするな」と言うだろうが、士道は止まらない、止まる事ができない。

 

「ーーーー十香」

 

「む? どうしたシドー」

 

十香が不思議そうに目を丸くしてくる。士道は意を決して、唇を開いた。

 

「聞いてくれ、実はーーーー」

 

そうして、2人以外誰もいない教室の中で、士道は告げた。

十香の中にはもう1人、『別の十香』がいる事。

その『十香』が澪から霊結晶‹セフィラ›を奪い、『この世界』を創り上げた事を。

そしてーーーーこのままでは、十香は『この世界』と共に死んでしまうやも知れない事を。

 

「なんと・・・・」

 

一通り話を聞き終えた十香は、目を見開きながら声を発した。

 

「私の中にもう1人の私が・・・・? シドーとドラゴンのようなものなのか?」

 

「・・・・ああ。俄には信じられないと思うけど、嘘や冗談じゃない。信じてくれ」

 

士道が言うと、十香はフルフルと首を横に振った。

 

「馬鹿な。私がシドーの言う事を疑う筈がないだろう。それにーーーー」

 

十香は目を細めながら、自分の胸元に手を置く。

 

「ーーーーもう1人の私。ボンヤリとではあるが・・・・心当たりが無いではない」

 

「そうなのか?」

 

「うむ。私が辛くてどうしようもない時ーーーー恐ろしい、しかし頼りなる『何か』が、ここにいてくれるような気がするのだ。とは言え・・・・だからと言って、具体的にどうすれば良いのか皆目見当が付かん。やはりその『私』を表に出してから封印をせねば駄目なのか?」

 

十香が手を下ろしながら顔を上げ、士道に問う。

 

「・・・・分からないって言うのが正直な所だ。仮にそうだとしても、もう1人の十香がどうやったら表に出てきてくれるかどうかも・・・・」

 

「むぅ・・・・」

 

十香は難し気な顔をしながら腕組みをした。

 

「・・・・澪の霊結晶‹セフィラ›とやらが私の体内にあること事態は確かなのだな? そして、もう1人の私はその力を以て、この世界を作り変え、ドラゴン達魔獣‹ファントム›を追い出した・・・・」

 

「ああ、それは確かな筈だ」

 

「ふむ。ならば・・・・・・・・ふんむむむむむむむむむむむ・・・・」

 

十香はそう言うと、手と手を組み合わせ、眉間に皺を寄せながら、まるで祈祷師のように唸り始めた。

 

「と、十香・・・・?」

 

「ーーーーセイヤァァァァァァァっ!」

 

そして、裂帛の気合いを欲望のライダーの叫び声で上げながらカッと目を見開く。突然の事に、士道は思わず体をビクッと震わせてしまった。

 

「・・・・むう、駄目か」

 

暫しの沈黙の後。十香が残念そうに溜め息を吐きながら、組み合わせていた手を解く。

 

「な、何をしようとしてたんだ、今」

 

「いや、私の中に澪の霊結晶‹セフィラ›があると言うなら、私にもその力が使えるのではないかと思ってな。『もう1人の私よ出てこい!』と念じたつもりだったのだが・・・・」

 

言いながら、十香が自分の身体を見下ろしたり、手を握ったり開いたりしてみせる。

・・・・見た所、何も変化はないようだった。と言うか話が繋がっている時点で、別人格になっていない事は明白だった。

 

「はは・・・・まあ、そう上手くはいかない・・・・よ、な・・・・」

 

と。

頬を掻きながら苦笑していた士道は、半ば無意識の内に言葉を途切れさせた。

突然、十香の身体がボンヤリと輝いたかと思うと、徐々にその光が十香の身体から離れていきーーーー人の形を作り始めたからだ。

 

「こ、これはーーーー」

 

「! なんと・・・・」

 

士道と十香の驚愕の中、その光はやがて1人の少女の姿となって、ソコに顕現した。

ーーーー夜色の髪に水晶の瞳。漆黒の騎士鎧とドレスが一体となったような霊装を纏ったーーーー十香と瓜二つの少女に。

 

「・・・・何?」

 

少女ーーーー反転十香は薄っすらと目を開けると、怪訝そうに眉根を寄せた後、目の前にいた士道を睨み付けていた。

 

「ーーーー人間。貴様、一体何をした」

 

そして殺意を隠す事もなく、剣呑な調子でそう言ってくる。小動物位ならば気絶してしまいかねないそのプレッシャーに、士道は思わず1歩後退った。

 

「い、いや、俺は何も・・・・」

 

「ふざけるな。『彼』のいない貴様如きが私を表に出すなど、一体どんな魔法を使ったのだ? 隠し立てするつもりならーーーー」

 

「おお!」

 

反転十香はソコで言葉を止めた。否ーーーー正確に言うならば、すぐ隣から響いた十香の声に、止めさせられたような調子だった。

 

「お前がもう1人の私か! 初めまして・・・・ではないな?」

 

「なーーーー」

 

十香に肩を掴まれ、反転十香が初めてその表情に困惑めいた色を覗かせる。しかし十香は構う様子もなく、目をキラキラさせながら続けた。

 

「ううむ、もう1人の私よ出てこいと願いはしたが、まさかこう言う形で出てくるとは。しかし確かに私にソックリだな・・・・だが少し違う様な気もするぞ。髪の結い方か?」

 

「待て。・・・・待て」

 

十香の勢いに押されかけていた反転十香が、十香を制するように手の平を広げる。

 

「どう言う事だ。何故私とは別に十香がいる。・・・・まさか、澪‹あの女›の力を使って私を具現したというのか」

 

「良く分からんが、多分そう言う事だ!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

笑顔で言い切った十香に、反転十香が無言になる。その表情から、まさか十香とこう言う形で顔を合わせる事になるとは思わなかった、と言う感情が何となく察せられた。

 

「・・・・何と無駄な事を。私は戻る。貴様らは勝手に遊んでいろ」

 

「! ちょ・・・・待ってくれ!」

 

言って目を伏せた反転十香を、士道は声を裏返らせながらも呼び止めた。

1度は十香の中に引っ込んでしまった反転十香と再会できたのである。この機を逃す訳にはいかなかった。

 

「何だ。『彼』なら兎も角、貴様如きボウフラが私を呼び止めるとは、殺されたいのか」

 

「い、いや、そうじゃなくて・・・・」

 

ギロリと睨み付けられ、士道はたじろいだ。今反転十香を逃がす訳にはいかない。けれど、士道の事を完全に虫けら以下の存在としか見ていない相手に、一体どんな言葉をかければ良いのか分からない。

判断を誤れば、反転十香はまた十香の中に消えてしまう。それどころか下手を打ったら士道が殺されてしまいかねない。

 

「(何か、何かこの十香を引き止める良い手はーーーー)」

 

と、士道が思案を巡らせていると、十香が何かを思いついたように声を上げてきた。

 

「聞いてくれよ私よ! 私は今、シドーとデェトしているのだがな」

 

「・・・・、む?」

 

反転十香が微かに目を細める。十香はハシッと反転十香の手を取ると、目をキラメーイと輝かせながら続けた。

 

「良かったら私も、一緒に行かないか? きっと楽しいぞ!」

 

「・・・・!」

 

十香の言葉に、士道は拳を握った。

 

「それだ! ナイスアイディアだ十香! 俺と、お前と、お前、3人でデートしよう!」

 

十香が意識していたとは思えないが、ソレは正に最適解と呼べる答えであった。

確かに本来であれば精霊とのデートは1対1が好ましい。だが、十香と反転十香は2人で1つの存在であるようだしーーーー何より、反転十香の十香に対する態度は、まるで十香を溺愛するドラゴンのように柔らかいような気がしたのである。

 

「・・・・何だと?」

 

だが反転十香は、射殺すような殺意を込めた目で士道を睨め付けてきた。

 

「貴様と十香のデェトなのだろう。ならば2人のみで行け。私を巻き込むな」

 

反転十香が十香の手を振り払う。すると十香は、途端に悲しそうな顔をした。

 

「駄目・・・・なのか?」

 

「ぐーーーー」

 

反転十香が、世界を支配する精霊らしからぬ、困った顔をする。その様子を見て、士道は思わず頬を緩めてしまった。

 

「・・・・何がおかしい。死にたいのか、人間」

 

「あ、いや・・・・スイマセン」

 

やはり士道に対する態度は、士道に対して当たりが強く、辛辣過ぎるドラゴンを、更に冷酷にしたようなものだ。大人しく頭を下げる。

すると反転十香は暫しの間士道を睨み付けた後、小さく舌打ちをして、諦めたように息を吐いた。

 

「ちっ・・・・仕方あるまい。少しだけだぞ」

 

「本当か!?」

 

反転十香の返答に、十香がしょげていた顔を明るくし、再び反転十香の手を握ってブンブンと振っタイヤ。

されるがままの反転十香の姿を見て、士道はまたも笑みを零しそうになってしまったがーーーー。

 

「(ギロッ)」

 

「っ!」

 

反転十香の鋭い眼光に射竦められて、慌てて口元を手で覆った。

 

「ーーーーフンっ」

 

反転十香は不機嫌そうに鼻を鳴らすと、フッと目を伏せた。次の瞬間、彼女の纏っていた霊装が淡く輝き、春らしい格好をした十香よりも、黒を基調としたシックな服へと姿を変えていく。

 

「おお、カッコいいな!」

 

「ふん。我が世界を歩くのにわざわざ装いを改めねばならん道理はないがーーーーまあ、ここは十香の顔を立てて、貴様らのやり方に合わせてやろう」

 

「はは・・・・そりゃ光栄だ」

 

「笑うな。囀るな。殺すぞ」

 

「こら私、そんな事を言うものではないぞ」

 

「む・・・・」

 

士道が口を開けば問答無用の殺気を飛ばすが、十香に注意され、反転十香が口を噤む。

その様子がまた妙に可笑しくて、思わず笑いそうになるのをどうにか堪えた士道が頭を上げた。

 

「と、兎に角・・・・宜しくな。ええと・・・・」

 

頬をピクピクと動かしながらもそう言い、士道は言葉を止めた。

ーーーー彼女の名をどう呼べば良いのか分からなかった。

今まではそのまま『十香』、もしくは『反転十香』と呼んでいた。しかし今はすぐ隣に本来の十香がいるので、流石にややこしいのかも知れなかった。

士道の表情からそんな思案を察したのだろう。反転十香がフンと鼻を鳴らしてくる。

 

「『名』か。・・・・確か十香の名を付けたのも貴様だったな。ーーーー良い。任せる。好きなように呼べ」

 

「えーーーー」

 

「おお! それは良いな!」

 

言われて、士道は絶句した。まさか、十香に続いて反転十香にまで名を付ける事になるとは思っていなかった。

しかも十香は十香で期待の眼差しで士道を見つめてきている。プレッシャーが半端ない。

 

「えっ、ええと・・・・っ」

 

一瞬、ドラゴンからのド突きの鋭い痛みが走ったようにした。『シャンせい!』と言われたような気がした。

士道は必死に思考を巡らせーーーー。

 

「じゃあーーーー『天香』・・・・でどうかな?」

 

数秒の後、その名を発した。

すると十香が、パチパチと手を叩いてくる。

 

「おおっ! 流石シドーだ、良い名だ! どう書くのだ?」

 

「ええと・・・・」

 

言われて、士道はチョークを手に取ると、黒板に書かれた『十香』の名の隣に『天香』と書いてみせた。

 

「おお、格好良いではないか」

 

「ふん」

 

十香が言うと、反転十香ーーーー天香が小さく鼻を鳴らし、右手をヒュン、ヒュン、と振ってみせる。

次の瞬間、天香の指先の軌跡をなぞるように、黒板に巨大な傷跡が刻まれる。

 

「わっ!」

 

士道は思わず身を反らした。

よく見ると、その刃創には、歪だが巨大な『天香』の文字を形取っていた。

 

「・・・・ふん。まあ良いだろう」

 

天香が面倒くさそうに、しかし拒絶せずに言ってくる。

咄嗟に考えた名前なのだが、どうやら取り敢えず認めてもらい、士道はホウと安堵の息を吐く。

 

「(・・・・『十香』の『十』を英語読みにしただけーーーーつまり『TEN香』であると言う由来は、墓場まで持っていこう)」

 

と、士道が内心思っていると、十香が天香に注意するような声を上げる。

 

「こら天香、名を貰って嬉しいのは分かるが、教室を壊しては駄目だぞ。皆が授業を受ける時に困ってしまうではないか」

 

「・・・・・・・・む」

 

そう言えば、十香の名前を初めて付けた時も、十香は黒板を指が伝った後が綺麗に削り取られ、下手くそな『十香』の文字を書いていた事を思い出し、士道は少し苦笑した。

十香に言われた天香は、微かに眉をひそめた後、指を鳴らす。するとソレに合わさるようにして、黒板に刻まれた大きな刃創がみるみる内に修復されていった。

 

「おお、偉いぞ天香」

 

十香がヨシヨシと頭を撫でると、天香は居心地悪そうにソレを払うと、士道に視線を向けた。

 

「ーーーーして」

 

天香が腕組みしながら、顎を上げるようにして言ってくる。士道は、十香と天香のやり取りを微笑ましく感じてしまったのを察されたかと思い、微かに肩を揺らした。

しかし、天香の目に浮かぶのは怒りや不満ではなく、士道を値踏みするかのような色だった。

 

「デェトと言ったな。一体どこへ行くつもりだ」

 

「おお、ソレは私も気になるぞ。私の我が儘で寄り道させてしまったが、今日は何をするつもりだったのだ、シドー?」

 

天香が氷のように冷たい目で、十香が夜空の星のようにキラキラした目でそう問うてくる。士道は同じ貌から発されているオーラの温度差に戸惑いつつも、気を取り直すようにコホンと咳払いをした。

 

「ああ・・・・今日は、十香ーーーーと天香に、見せないものだあったんだ」

 

士道が言うと、十香と天香は不思議そうな、或いは不審そうな顔をして目を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

ー七罪sideー

 

「ひ・・・・っ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーッ!?」

 

小さな魔女のような霊装を纏った七罪は情けない叫びを上げながら、自然公園外縁部の道を逃げ回っていた。

だがソレも当然だ。何しろ後方からはーーーー。

 

「ーーーー不満。逃げ回ってばかりでは勝負になりませんよ。はっぷっぷーです」

 

全身に凄まじい風を纏わせ、そのナイスバディを拘束具のような霊装で包んだ、かなり過激な格好の夕弦が、木々を薙ぎ倒しながら迫ってきていたのである。

その様は正に意思を持った竜巻。夕弦は逃げ惑う七罪の背にピッタリと張り付きながら、公園の風景を一変させていった。街灯が拉げ、ベンチが舞いカーペットを持ち上げるように地面が剥がされていく。

しかも吹き荒れているのはただの風ではない。風の天使〈颶風騎士‹ラファエル›〉によって巻き起こされた、霊力を帯びた暴風だ。さして強度が高いとは言えない七罪の霊装では、巻き込まれた瞬間ポロ雑巾状態になってしまいかねなかった。

 

「無茶言うなぁぁぁぁっ! こんなんフツーに死ぬでしょぉぉぉっ!」

 

七罪は悲鳴を上げながら自分の不運を呪った。まさかバトルロイヤル開始の合図が鳴ってすぐ、こんな暴風娘に見つかってしまうとは。

普段大人しげな印象がある夕弦なのだが、実はその本性は精霊の中でもトップクラスに血の気が多く、好戦的な精霊なのだ。否、もっと正確に言うならば、勝負事や比べっこが好きーーーーと言った方が良いだろうか。常日頃はその矛先は耶俱矢に向いている為あまりに気にならなかったが、こうして戦場で相対して初めて、その恐ろしさが実感できる。

とは言え、このまま逃げ回っているだけでは、いつか捕まってボロ雑巾コースである。七罪は必死に逃げ回りながら、喉を潰さんばかりに叫びを上げた。

 

「はッ、〈贋造魔女‹ハニエル›〉ーーーー【千変万化鏡‹カリドスクーベ›】!」

 

その声に応えるように、七罪が手にしていた箒の形をした鏡の天使〈贋造魔女‹ハニエル›〉が輝きを放ち、その姿を変容させていった。竜の形をした斧ーーーー『アックスカリバー』だ。

 

「よっと」

 

七罪はその柄を両手で握って、ハンドオーサーにタッチした。

 

[ハイタッチ! シャイニングストライク!! キラキラ! キラキラ! キラキラ! キラキラ! キラキラ!]

 

「と、とりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

グルンと身体の向きを変え、その勢いのまま『アックスカリばー』を両手で持って、綠色な魔法陣が展開され、『アックスカリバー』に変身した〈贋造魔女‹ハニエル›〉が巨大化していき、キラキラと綠色に光るウィザードラゴンが現れ刃に入り刃が輝き、夕弦目掛けて振り抜くと、綠色の光の斬撃が放たれ、風を切り裂きながら夕弦へと向かっていく。

 

「反応。ふーーーーッ」

 

しかし夕弦はその斬撃が届く寸前で身を翻すと、紙一重で避けてみせた。せっかく切り裂いた風の壁も、数秒と掛からず戻ってしまう。

 

「無駄。中々の1撃でしたが、それくらいで夕弦は討ち取れませんよ」

 

「嘘ぉ!?」

 

七罪は目を剥くと、またも必死に竜巻から逃げ始めた。

その後もどうにか竜巻から流れながら、〈贋造魔女‹ハニエル›〉を変化させて反撃を試みるも、夕弦には通用しなかった。

〈鏖殺公‹サンダルフォン›〉の斬撃も、〈絶滅天使‹メタトロン›〉の光線も、〈灼爛殲鬼‹カマエル›〉の炎の砲撃も、挙げ句〈封解主‹ミカエル›〉による死角からの攻撃さえも、夕弦は神がかった反射神経と見事な身のこなしで交わしてみせたのだ。

しかしそれも道理ではある。如何にウィザードの魔法や天使の力を真似られる鏡の天使〈贋造魔女‹ハニエル›〉とは言え、元の権能を100%再現できる訳では無い。加えてソレを扱うのが、恐らく精霊の中で基礎能力が最も低い七罪ときたものだ。幹部以下の魔獣‹ファントム›に、下級のグールやインプ、ASTやDEMの一般魔術師‹ウィザード›程度ならまだしも、1つの天使を極限まで使いこなす精霊に敵う筈も無い。

正に、究極の器用貧乏。権謀術数と搦め手を巡らせながら立ち回って、初めて最大効果を発揮する天使である。精霊と正面からの真っ向勝負で、七罪に勝ち目などなかった。

 

「うな・・・・っ!?」

 

どれだけ公園を逃げ回った頃だろうか、油断からか、体力の限界(何度もドラゴンから「体力作りはしておけ」と注意されていた事を聞いておけばと悔やんだ)からか、七罪は木の根に足を取られ、派手にその場に転んでしまった。顔面から地面に突っ伏し、勢い余ってゴロンと一回転する。

そして夕弦が、そんな隙を見逃す筈が無かった。身体を包んでいた風が大きくなり膨れ上がったかと思うと、七罪を包み込むように左右にその手を広げていく。

強かに打ち付けた鼻頭を擦りながら顔を上げた時にはもう、七罪は夕弦の作り出した竜巻の中に閉じ込められてしまった。

 

「な・・・・っ、なななな・・・・」

 

「捕獲。もう逃げられませんよ。さあ、尋常に勝負です」

 

言って夕弦が、ペンデュラムの形をした風の天使の片割れーーーー〈颶風騎士‹ラファエル›〉・【縛める者‹エル・ナハシュ›】を構えて見せる。

2人がいる場所はまさに台風の目。その場こそが無風だが、周囲には凄まじい風が渦を巻いている。最早七罪に逃げ道はなかった。観念して、震える手で〈贋造魔女‹ハニエル›〉を構える。

 

「賞賛。その意気やよし、です。ーーーーでは、行きますよ」

 

「ひ・・・・ッ!」

 

夕弦が構え、七罪が小さく悲鳴を上げる。

 

「断言。これで1人減りましたね・・・・」

 

「あ夕弦、それ死亡フラグ・・・・」

 

ーーーー夕弦は空を蹴って思わず呟いた言葉に、七罪がこれまた思わず条件反射的にツッコミを入れた瞬間。

 

「ーーーー隙ありぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーッ!!」

 

突如そんな声が響いてきたかと思うと、夕弦の作った竜巻の真上から、“もう1つの竜巻が降ってきた”。

 




次回、精霊バトルロワイヤルは、増々ヒートアップ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。