デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

274 / 278
デート・十香&天香、桜舞う場所で

ー士道sideー

 

ほんのりと暖かい春の風が頬を撫でる。

学校を後にした士道達は、すっかり春の色に染まる街の風景を眺めながら道を歩いていった。

いつも歩く通学路や、駅前の通りに向かうのとは別の方向である。学校から離れていくに従って、段々と大きな建造物や車道が少なくなっていき、代わりに木々や野原など、自然の景色が増えていった。

十香と天香は、それぞれ士道の隣を歩いている。

 

「おおシドー、何だアレは?」

 

十香の方は物珍しそうにあたりを見回しながら、楽しげに言って来たりするのだが。

 

「・・・・・・・・」

 

天香の方はムスッと唇を引き結んだまま、あまり言葉を発さなかった。

がーーーーどれくらい歩いた頃だろうか、天香が不意に眉をピクリと動かしたかと思うと、その場で足を止めた。そして、何やら遠くを眺めるように顔を上げる。

 

「ーーーーこの感覚は・・・・ふん、成る程な。〈囁告篇帙‹ラジエル›〉の宿主は勘がいいと見える」

 

「え?」

 

天香が何かをポツリと呟き、士道は思わず聞き返した。

が、天香は不機嫌そうに眉を歪めると、士道に睨み付けるような視線を返してきた。

 

「何でもない。私に構うな。貴様は十香のみを見ていればよい」

 

「いやいや、そう言う理由にはいかないだろ。折角3人のデートだって言うのに・・・・」

 

「ふん。『彼』となら兎も角、貴様のような塵芥などと・・・・」

 

士道が頬に汗を垂らしながら苦笑すると、天香はまたも鼻を鳴らし、何やら小声で呟いた。

 

「それより、見せたいものとやらはまだ着かんのか。あまり十香の時間を無駄にするな」

 

そして、不満そうにそう言う。するとそれを聞いていた十香が、フルフルと首を横に振った。

 

「無駄などではないぞ、天香。こうして、シドーやお前と知らない道を歩いていただけで、私は楽しいのだ。ーーーーデェトとは何かをするからデェトなのではない。誰かといて楽しいと思ったなら、その瞬間こそがデェトなのだ」

 

「ーーーー、そうか」

 

まさか十香からそんな言葉を返されるとは思っていなかったのか、天香が小さく目を見開く。十香はそんな天香の表情の変化に気づいているのかいないのか、自信ありげにエッヘンと胸を反らしてみせた。

 

「デェトに関しては私が先輩だからな! 天香に色々と教えてやろう! 何と言っても『先輩』だからな!」

 

「・・・・ふむ。ならば見せてもらおう。デェトの真髄とやらを」

 

天香はそう言うと、士道の方を一瞥してきた。

 

「ーーーーと言う訳だ。命拾いしたな人間」

 

「えっ、今俺生きるか死ぬかの瀬戸際だったの?」

 

「今、ではない。全てのやり取りに命が掛かっていると思え。少しでも十香に不快な思いをさせてみろ。その瞬間に、首と身体を永遠に仲違いさせてやろう」

 

「ええ・・・・」

 

あまりに物騒な物言いと、ソレを冗談と思わせない気迫に圧されて、士道は一歩後退りそうになった。が、ソコでそんな天香に、十香が眉毛を寄せる。

 

「こら天香、そんな事を言ってはいけないぞ。それに、デェトとはお互いに『楽しい』を持ち寄るものなのだ。シドーにばかりそんな要求をするものではない」

 

「・・・・そうか。ならばやはり、私が随行する必要はあるまい。私は十香や人間に与える享楽を持ち合わせてはいないのだからな」

 

「何を言う。先程も言っただろう。ーーーー私達は、お前と一緒にいるだけで『楽しい』のだ。なあ、シドー」

 

十香が同意を求めるように微笑みかけてくる。士道は大きく頷いてソレに返した。

 

「ああ、勿論だ」

 

「・・・・ふん」

 

天香が視線を逸しながらそう言ってくる。あまりに無愛想ではあったけれど、ソレは彼女なりの同意らしかった。何やらドラゴンが女性で十香の姿になっていたら、こんな風になっているように士道は思えた。・・・・そんな事を口にすれば、冗談抜きで首をふっ飛ばされそうなので黙る。

十香は満足気に頷きながら続けてくる。

 

「うむ、分かれば良い。では仲直りだ。シドーに『ごめんなさい』をしよう」

 

「・・・・何、だと?」

十香の言葉に、天香は物凄く嫌そうに渋面を作る。

が、十香のニコニコ顔には逆らえなかったのか、口の中を歯噛みで切ったのか、僅かに血を垂らし、屈辱の極みと言わんばかりの顔をしながら士道に視線を向けてくる。

 

「ゴ、メ、ン、ナ、サ、イ・・・・!!」

 

「・・・・お、おう」

 

こんなにも一言一言に殺意を込められた謝罪は士道の十数年の短い生涯で、未だ嘗て聞いた事がなかった。コチラを射殺すような眼光と共に発された言葉に、士道は背中を冷や汗で濡らしながら首肯した。

とは言え、コレで気圧されているようでは、あのウィザードラゴンの相棒なんてやれていない。気を取り直すようにコホン、と咳払いをすると、2人に向き直った。

 

「ーーーーさて、十香、天香。実はソロソロ目的の場所に付くんだ。で、2人にお願いがあるんだけど・・・・」

 

「む? なんだ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

十香は表情を明るくしながら、天香が無言のまま、士道を見てくる。士道はそんな2人に、それぞれ右手と左手を差し出してみせた。

 

「ここから『目的の場所』に着くまで、目を瞑っていてくれないか?ーーーー2人を、驚かせたいんだ」

 

「おお! ソレは面白そうだな!」

 

士道が言うと、十香は直ぐ様に目を瞑り、士道の手をガッシと握ってきた。

反して、やはり天香は不服そうな顔をして士道を睨んでくる。

 

「私はいい。貴様と十香だけで・・・・」

 

「「天香」」

 

が、士道と十香が同時に名を呼ぶと、天香は苦虫を噛み潰したような顔こそしたものの、素直に目を閉じ、士道の手に自分の手を乗せてきた。

 

「よし、じゃあゆっくり進んでいくぞ。足元に気を付けてな」

 

言いながら、2人を導くように手を引き、後ろ向きに歩いていく。まるでかつて、崇宮真士が崇宮澪とのデートで、初めて海に連れて行った時のようである。どうやら本質的には、自分は真士と大差ないようで少し笑ってしまう。

しかし、目を瞑っているというのに2人の足取りは確かなものだった。何なら、後ろ向きに歩く士道よりも歩調が速いくらいだ。余程士道を信頼しているのか、それとも視覚を閉ざした位で歩けなくなるような柔な感覚器ではないのか。

 

「(・・・・まぁ、十香は両方で、天香は後者だろうけど)」

 

士道は2人に追い越されてしまわぬよう後方を振り向きながら歩みを進めると、道の角を曲がった所で足を止めた。

 

「ーーーーさ、2人とも。着いたぞ。目を開けてくれ」

 

そしてそう言って、2人に合図を送るように、手に少しだけ力を入れる。すると十香と天香は示し合わせたように同時に足を止めると、コレまた全く同時に瞼を開いていった。

そしてーーーー。

 

「ーーーーファーーーー」

 

「ーーーーーーーー」

 

2人は、開けた目を、そのまままん丸に見開いた。

恐らくだが士道も、初めてこの景色を見たなら、似たようなリアクションを取っていたであろう。

ーーーーそう。視界いっぱいに広がる、見事な桜並木であった。

一体幾本あるのかも知れない桜の木に、開花したばかりの花が咲き乱れている。その様は豪壮にして流麗。絢爛にしてーーーー儚げ。見る者の目を奪う幻想的な光景であった。

瞬間、一陣の風が吹き、木々の間を通り抜けた風は、天を仰ぐように伸びた枝を微かに揺らし、無数の花弁を一斉に散らしてみせた。

 

「おお・・・・!」

 

「・・・・・・・・」

 

桜吹雪とはよく言ったものである。夥しい数の花弁は薄紅の奔流となって、正に吹雪の如く、目を剥く十香達を呑み込んでいった。

 

「な、何だコレは・・・・、花ーーーーなのか?」

 

髪や肩に桜の花弁を載せた十香が、興奮したように頬を紅潮させる。士道は花弁を手で払ってやりながら、フッと微笑んで見せた。

 

「ああ。桜って言うんだ。ーーーーずっと、十香に見せたかった」

 

士道はそう言って、桜の木を見上げるように顔を上げた。

そう。十香とのデートと言われて、士道の脳裏に浮かんだのが、ここだったのだ。

理由は単純ーーーー十香が、まだ見た事のない風景だと思ったからだ。

去年の4月10日に出会ってから、士道は十香と共に様々な景色を見てきた。学校、街並み、海、紅葉、そして雪景色ーーーーその度、十香は目をキラキラと輝かせてくれたのである。

けれど、十香の霊力を封印した時には既に、天宮市近辺の桜は全て散ってしまっていた為、この風景だけはまだ見せられていなかったのだ。

とは言え、ソレも怪我の功名かも知れなかった。今まで十香に見せられなかったからこそ、十香はその初めての瞬間を、天香と共に迎える事ができたのだから。

 

「ーーーーどうだ、天香。綺麗だろ」

 

「・・・・・・・・・・・・む」

 

士道が声を掛けると、ボウッとした様子で桜を見上げていた天香が小さく肩を揺らし、士道にしてやられた事が気に食わないのか、視線を逸らした。

 

「私よりも、十香に聞け。十香が楽しめているのであれば、私はソレでーーーー」

 

ソコまで言った所で、天香は言葉を止めた。

背後から忍び寄った十香、

 

「とおっ!」

と、拾い集めた桜の花弁を、紙吹雪のように天香の頭上に放ってみせた。

無数の花弁がブワッと舞い上がり、ヒラヒラと天香に降り注ぐ。見る見る内に、天香は花弁まみれになってしまった。

 

「ははは、隙ありだ!」

 

「・・・・やったな?」

 

一瞬にして花の妖精のような姿となった天香は、半眼を作りながらも何処か楽しげに言うと、水に濡れた犬のようにブルブルと身体を揺すり、身体に付いていた花弁を舞わせた。

 

「はっ」

 

そして目にも留まらぬ早業で花弁を拾い集めると、お返しとばかりに十香に桜吹雪をお見舞いする。

 

「うわぷ・・・・っ!」

 

「ふ、コレでおあいこーーーー」

 

と、またも天香が言葉を止める。

天香が十香とじゃれ合っている間に、士道も花弁を拾い集めており、背後から天香に花弁のシャワーを浴びせたからだ。

 

「ふっ、背中がお留守だせ、天香」

 

「ーーーー貴様」

 

「えっ・・・・?」

 

天香が濃厚な殺意の波動を放出し、ギロリと士道を睨み付けると、道に転がる小石を拾い集めながら、ビュンっ、と士道に向かって弾丸よりも速いスピードで投げつける。

 

「うわっ!? ちょ・・・・っ、なんか俺の時だけ報復重くないか!?」

 

「黙れ。貴様のような塵芥以下に舐められていると思うと言いようのない殺意が湧いてくるのだ。私を舐めた罪、その命で贖うが良い」

 

天香が次々と、小石を投げ付ける。避けた先を見ると、桜の木の一本に小石が弾丸のように食い込んでいた。マトモに食らえば全身がレンコンのように穴だらけにされているだろう。

しかし、士道とて〈仮面ライダーウィザード〉として数々の死線をくぐり抜けていった。その経験を生かして回避していく。

 

「小癪な、死ね」

 

「と、十香ー! たーすけてー!」

 

「うむ、待っていろシドー! すぐに次の花弁を集めるからな!」

 

「な・・・・、おのれ、卑怯だぞ人間」

 

等と、桜舞う桜並木で、3人の追いかけっこは始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

ー六喰sideー

 

「なーーーー」

 

木々が生い茂る林の中、六喰は目を見開き、言葉を失った。十香とデートしている筈の士道の姿があったのだ。

六喰だけでなく、向かいにいた二亜とマリアもまた、驚愕の表情を見せる。

六喰は構えていた〈封解主‹ミカエル›〉を下ろすと、士道の方に向き直った。

 

「主様・・・・こんな所で一体何をしておるのじゃ? 十香とデートをしているのではなかったのか?」

 

六喰が問うと、士道は感慨深げに息を吐いた後、言ってきた。

 

「ああ。十香とのデートは無事終わったよ。もう安心だ」

 

「! なんと、本当か?」

 

士道の言葉に、六喰はまたも目を丸くした。すると、士道は優しげに微笑みながら続ける。

 

「ーーーー事情は琴里から聞いた。皆、俺と十香のデートの為に頑張ってくれたんだってな。本当にーーーーありがとう。俺が頑張れたのも、皆のお陰だ」

 

「主様・・・・」

 

「でも、もう大丈夫。もう戦う必要なんてないんだ。さ、皆の所にーーーー」

 

「ーーーーちょーっと待った」

 

と。ソコで士道の言葉を遮るように、二亜が声を発した。右手の指で〈囁告篇帙‹ラジエル›〉の紙面を撫でながら、士道に鋭い眼光を向けてくる。

 

「二亜・・・・? どうしたのじゃ?」

 

「んっんっんっ♪」

 

六喰が不思議そうに言うと、二亜は奇妙な含み笑いを漏らしながら士道に指を突きつけた。

 

「何か、やーったらと話が出来過ぎだと思ったよ。念の為〈囁告篇帙‹ラジエル›〉で調べてみて良かった。ーーーー少年に化けて騙し討ちしようなんて、中々ズッコい手を考えるじゃない。ねえ、“なっつん”?」

 

「なんじゃと・・・・!?」

 

六喰は息を詰まらせると、再度士道の顔を見た。その顔は紛れもなく士道のものであったがーーーー二亜の言葉を突きつけられた瞬間、小さく眉根に皺が寄るのが見て取れた。

 

「・・・・く・・・・っ」

 

ソレを見てか、二亜がニッと笑みを浮かべ、小学生名探偵か名探偵の孫よろしくに言葉を発する。

 

「相変わらず見事な変身だねぇ。でも、ムックちんだけならまだしも、アタシ相手にそれは悪手じゃあないかにゃあ? なっつんならそれくらい分かりそうなものだけどーーーーああ」

 

ソコまで言った所で、二亜が何かに気付いたように眉を揺らした。

 

「成る程、よっしーを助ける為か。あのままだと次にやられるのはよっしーとみっきーだったもんね。まぁアタシも女の子だから、みっきーをさっさと退場させないと、色々と身が危険だから早く退場させないとだけど、よっしーと仲良しななっつんとして見過ごせなかった訳だ。うーん、コイツはラッキー。思わぬ獲物が釣れちゃったね。ふーははは!」

 

二亜は悪役のような調子で笑い声を上げると、再度指を士道ーーーに化けた七罪に向けた。

 

「ここに現れたのが運の尽きよ! 六喰先生、お願いしやす!」

 

「ソコまで煽っておいて最後は六喰頼りなのですね」

 

二亜の背後にいたマリアが半眼を作りながら呆れ混じりに言う。が、二亜(額に汗を滲ませ)は取り合わず、信頼に満ちた視線を六喰に向けてきた。

 

「ふむん・・・・」

 

しかし、六喰はすぐには動けなかった。

反論しない所から見ても、あの士道が偽者であると言うのは間違いないのだろう。となれば勿論、士道の姿を使って六喰を謀ろうとした七罪への怒りもないではない。

だがーーーー。

 

「・・・・確かに」

 

と、そんな六喰の心境を察したかのように、七罪が士道の姿と声で話しをした。

 

「馬鹿な事をしたんでしょうね、私は。〈囁告篇帙‹ラジエル›〉がある以上、どんなに上手く化けたとしても正体がバレるのは必定だもの。ーーーーでも、ね」

 

士道の姿と声の七罪はカッと目を見開くと、六喰の顔を見つめてきた。

 

「私は私の行動を後悔してない。例え此処でやられたとしても本望よ。ーーーーアンタはどうなの、六喰。二亜の口車と手に乗って最後まで勝ち上がって、ソレで『告白権』を獲得したとして、堂々と胸を張って士道の前に立てるの?」

 

「・・・・っ、むく、はーーーー」

 

言われて、六喰はズキンと胸が痛むのを感じた。

先程からずっと心に引っかかっていた事を言語化され、目の前に突きつけられたかのような感覚だ。『偽者』てあると分かっていても、士道の姿と声でソレを告げられるのは非常に応えるのだった。

ーーーー実の処、別に六喰は士道に告白したい事があると言う訳ではなかったのだ。

士道は六喰を受け入れ、家族になろうと言ってくれた。六喰にとってはソレが『全て』。この上何かを求めるつもり等無かったのである。

ならば何故六喰が『告白権』を得る戦いに参加しているのかと言えば、2つの理由がある。

1つはーーーーこの世界を元に戻さなければ、もう1人の家族、“ウィザードラゴンがこの世界に帰還できない”からである。これは狂三の推測だが、『もう1人の十香』を攻略しない限り、始原の精霊の力を得た彼女によって、『この世界』から除外されたドラゴンが戻ってこられないからだ。故に、この戦いに参戦して、士道が攻略できる時間を稼ぎ、叔父として慕っているドラゴンを帰還させる。

そしてもう1つの理由ーーーーソレは、“誰にも『告白権』を使わせたくないから”、に尽きる。

六喰は士道が大好きで、だからこそ、いつまでも変わらぬ士道でいて欲しかった。誰かしか見ない士道になって欲しくなかった。

けれど、今の六喰は、そんな士道の前に立てるのだろうか。

別に二亜のやり方を否定するつもりはない。こういった戦いで誰かと手を組む事は常道。勝ち残る為に最善を尽くそうとする姿勢は寧ろ美しい。

だがーーーー六喰の性には合わない。ただ、ソレだけだった。

 

「ちょ・・・・ちょちょちょ! 何してくれてんのさなっつん! 偽者キャラは正体バレたら『ちっ、バレたか!』って逃げるなり倒されるなりしなきゃ駄目っしょ!? 何ムックちん籠絡にかかってんの!?」

 

「・・・・はっ、言ったでしょ。バレるのなんて最初から分かってたって。でも、六喰が二亜のやり方に合わないってのも何となく分かってた。ーーーー六喰! もっと自分に正直になれよ!」

 

「少年の口調で喋るのズルいからやめぇぇぇぇいっ! 騙されるなムックちん! アタシと天下を取ろうぜ!」

 

「ーーーー二亜、二亜」

 

と。ソコでマリアが二亜の肩を指先でトントンと叩く。二亜は鬱陶しげにソレを一瞥した。

 

「何さマリア! 今忙しいんだけど!?」

 

「もしかしたら、非常事態かも知れません」

 

「いやだからソレはわかってるから! マリアもムックちん引き止めてくんない!?」

 

「いえ、そうではなく。別件です」

 

「・・・・え?」

 

マリアの言葉に、二亜が眉毛を寄せる。

 

「へっ、へへ・・・・」

 

ソレに次いで何かを察したように、士道に化けた七罪が小さな笑みを浮かべた。

 

「・・・・ああ、ゴメンね六喰。あんまり気に病まないで。私の言った事、大体勢いと出任せだから。ただーーーー“時間稼ぎが出来れば良かったのよ”」

 

「何じゃと・・・・?」

 

「へ・・・・?」

 

六喰は訝しげに首を傾げた。ソレに合わせるように、二亜とまた不審そうに眉を歪める。すると、七罪はゆっくりと天を仰ぐように顔を上に向けた。

六喰と二亜はその視線に導かれるように上を向きーーーー。

 

「むんーーーー」

 

「あ・・・・っ」

 

いつの間にかソコに現れていた人影を見て、目を丸くした。

だが、ソレはそうだろうとしか言いようがない。何しろソコにいた2つの影ーーーー。

 

「く、か、か・・・・やってくれた喃、やってくれた喃」

 

「憤激。覚悟は・・・・できているのでしょうね」

 

お互いにスレンダーとナイスバディ「だから悪意を感じるっての!!」ーーーー目の保養にも毒にもなる眩しい肢体をボロボロの霊装で纏い、その表情を憤怒の色に染める、耶俱矢と夕弦だったからである。

 

「シェー!!??、か、かぐやん、ゆづるん・・・・!? マリア大隊にやられたんじゃ・・・・ていうか何でここがーーーー」

 

古いギャグポーズをして驚く二亜が、ソコで言葉を止める。

恐らく、六喰と同じく気づいたのだろう。ーーーー近くに生えていた木の上部が、『二亜はここ↓』、とデカデカと記された看板に変貌していた事に。

 

「な・・・・なっつぅぅぅぅん!」

 

「あはは・・・・耶俱矢と夕弦がまだギリギリ脱落していないのは調べがついていたからね。こうしとけば、仕返しに来てくれるでしょ?」

 

言いながら、七罪がその手に本の形をした天使を出現させる。ーーーー〈囁告篇帙‹ラジエル›〉を模した〈贋造魔女‹ハニエル›〉だ。どうやらソコで、八舞姉妹の無事を確認したらしい。

 

「は、謀ったな、なっつん! ズルいぞー! 自分の力で正々堂々勝ち抜こうって気概はないのかーっ!」

 

「どぉぉぉぉの口がほざきおるかぁぁぁぁッ!」

 

「報復。容赦はしません。夕弦達の決着‹デュエル›の邪魔をした罪、その身で贖って貰います」

 

「「さぁ、貴様(あなた)の罪を数えるが良い(数えて下さい)!」」

 

耶俱矢と夕弦が怒気を露わにして叫び、空を蹴って二亜に襲いかかった。

 

「どっしぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 助けてマリアぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

二亜は情けない悲鳴をあげながら、ダバダバとゴキブリのような走行で走り、木々の合間を縫うように逃げ去った。

ソレから暫くは悲鳴と怒号、後は凄まじい風圧に木がなぎ倒される音が響いていたがーーーーやがて、静かになる。

二亜が仕留められたのか、ソレとも逃げおおせたのかは分からなかったけれど、八舞姉妹もコチラに戻ってくる様子は無かった。




次回、次々と脱落する精霊達。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。