デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー六喰sideー
同盟相手である二亜が八舞姉妹に追いかけられるのを黙って見送った六喰は、
「・・・・むん」
小さく息を吐くと、未だ士道の姿をしたままの七罪の方へと歩いていった。
「・・・・っ!」
七罪は一瞬ビクッと肩を震わせるも、観念したように構えを取ってきた。
「・・・・まあ、そうなるわよね。・・・・良いわ。けしかけたのはこっちだし、駄目で元々、精々霊力発散して散ってやるわよ」
七罪も、六喰と正面から戦って勝てるのかを天秤に掛けて、どちらに軍配が上がるかなんて、とっくに分かりきっているのだろう。
自分はやれる事はやったと諦めた様に言う。が、六喰は無言のままその姿を見つめると、両手を広げて、士道に化けた七罪の身体をギュウと抱き締めた。
「な・・・・っ、えっ? ちょっと・・・・?」
その行動が余程以外だったのだろう、七罪が狼狽に満ちた声を発してくる。六喰は細く息を吐いてから、小さく言葉を零した。
「ーーーーうぬの言葉が時間稼ぎの為の出任せであったとしても、ソレによって気付かされた事は事実じゃ。礼を言う。ーーーーむくは、むくが心から誇れるような勝利を掴み取る事にするのじゃ」
六喰はそう言うと、七罪から身体を離した。
「・・・・例え『偽者』であろうと、主様に2度刃を向ける事は出来ぬのじゃ。ーーーー次また会う事があったなら、別の姿で現れるがよい。その時は全力で仕合おうぞ」
そしてフッと微笑み、地を蹴るようにして空へと舞った。ーーーー己が全力を振るうに相応しい戦場を、求めて。
ー七罪sideー
「・・・・、・・・・、・・・・」
1人その場に残された七罪は、暫しの間息ができずにいた。
肋骨を突き破って出てくるのでは無いかと思える程に心臓が激しく脈打つ。指先が痺れ、視界さえも霞みかける。
「・・・・・・・・っはぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」
六喰の姿が見えなくなって漸く、七罪は大きく息を吐くのと同時に、身体が淡く輝き、士道の姿から元の姿へと変貌する。
「・・・・何かちょっと今日、九死に一生を得すぎじゃない・・・・? マジ今度こそリタイアかと思った・・・・」
言いながら、七罪は自分の体を見下ろし、ペタペタと触った。ーーーー今し方抱き着かれた、とても同い年とは思えない六喰の雄大で柔らかい感触を反芻するように。
「・・・・・・・・おっぱい、スッゴ」
ポツリと呟いた七罪は、他の精霊に見つからぬよう、茂みの中に消えていった。
ー二亜sideー
「ひ・・・・っ、ひっ・・・・」
二亜は息を切らしながら、木々が生い茂った林道を必死に走っていた。後方からは、耶俱矢と夕弦が巻き起こす暴風と、無数のマリア達がぶつかり合う音が響いてきている。
マリアの足止めによって、怒り心頭の八舞姉妹から、命からがら逃げ延びた二亜だが、安心なんて欠片もできない。不意打ちでも完全に倒しきれなかった八舞姉妹だ。如何にマリアの数が多いからって、ソレで仕留めきれるとは思えない。そして、マリアの数の暴力の壁が破れた瞬間、耶俱矢と夕弦と言う最速の精霊の2人は、アクセルフォームかトライアルかマスターモードよろしくの超スピードを以て二亜を追いかけ、強烈かつ猛烈かつ激烈かつ鮮烈なお仕置きを繰り出し、二亜は無双系ゲームで吹き飛ばされるモブ兵士よろしく枯れ葉のようにぶっ飛ばされて一巻の終わりである。
だからこそ二亜は急いでいるのだ。七罪の口車によって、空中分解され、もう協力は望めない六喰に代わる、新たなパートナーを見つける為に。
「今、誰が残ってる・・・・!? 教えてラジえもーん・・・・!」
等と上擦った声を上げながら〈囁告篇帙‹ラジエル›〉を顕現させ、逃げる足は止めぬままその紙面をなぞっていく。
こと諜報において〈囁告篇帙‹ラジエル›〉の権能は強力無比。絶対に乗ってくる精霊はきっといる筈である。できれば現在戦闘をしている琴里か四糸乃、後からの見返りが恐いが折紙と美九の戦闘が終わり、疲弊していれば、助力を乞われる可能性が高い。六喰のように気性や信条から共闘を嫌がる者はいるだろうが、〈囁告篇帙‹ラジエル›〉の力を欲しがらない者等・・・・“1人しかいない”。取り敢えず、“その1人”に見つからないように、上手く残りの4人の誰かと上手く話を運びさえすればーーーー。
「うわぷっ!」
と。そんな事を考えながら走っていた二亜は、不意に何かにぶつかり、尻餅をついてしまった。
一瞬、木か何かにぶつかったのかと思ったがーーーー違う。ぶつかった感触は、もっと柔らかく、ソレでいてしなやかなものだった。
「あったたたた・・・・何よ一体ーーーー」
ソコで、二亜は言葉を止めた。
今、自分がぶつかった者の正体に気づいて。
「ーーーーあら、あら、二亜さん。そんなに急いでいかがされましたの?」
左右不均等に結われた艷やかな黒髪に、白磁の肌。その身に纏うは十字架のあしらわれた禍々しくも美しい紅と黒のドレス。
ソコに立っていた少女は、“1度見たら忘れ得ぬ時計の瞳”を笑みの形にしながら、優しく微笑みかけてきた。
「ーーーーッ!」
その柔らかい表情と和やかな声音に、二亜は襟元から氷を放り込まれたかのような錯覚に襲われた。
何故ならば、その少女こそーーーー“二亜の〈囁告篇帙‹ラジエル›〉の力を必要としない1人”であったからだ。
「く、くるみん・・・・」
「ええ、ええ」
二亜が震える声で名を呼ぶと、少女ーーーー時崎狂三は、戯けるような調子で頷いてみせた。
「さて、あまり争いを好まないわたくしではありますけれど、出会ってしまったなら戦わねばならないのがこの戦場の掟ーーーー」
「・・・・ハハ、ナイスジョーク・・・・」
正式なお仲間になる前から結構な大暴れをしてきた癖に、いけしゃあしゃあと芝居がかった調子で言ってくる狂三に、二亜は小さな声で呟いた。
「念の為に聞いておきますけれど、何か、言い残す事はございまして?」
「え、ええと、くるみん。一応聞くけど、あたしと共闘したりとかーーーー」
「ーーーー何の為に、ですの?」
言って、二亜と同じく“〈囁告篇帙‹ラジエル›〉を持った精霊”は、ニィッと凄絶な笑みを浮かべた。
ーーーー識別名称〈シスター〉・本条二亜、敗退‹リタイア›。
ーーーー敗因・敵前逃亡。
ーーーー残存精霊、10人中、8人。
ー八舞姉妹sideー
「・・・・二亜だ」
「確認。二亜ですね」
マリアの大軍を退けた耶俱矢と夕弦は、その先の林道で、潰れたカエルのように地面に突っ伏し、霊装は剥がれて半裸状態で、時折足の先がピクピクお蠢いており、時折うなされるように、何やら「た、『竜田揚げ工場』はいや・・・・!」と呟きながら、何とも見事な負けっぷりの二亜を見おろしながらそう呟いた。
「途中でマリア達が消えてっからまさかとは思ったけど・・・・私達の前に誰かにやられちゃったって事?」
「推測。恐らくそう言う事かと。まあ、マリアの反乱にあったという可能性も無くはありませんが」
「あー・・・・それもなくはないか・・・・くっそぉー何処の誰だし。私達の獲物を横取りするなんて。絶対仕返ししてやろうと思ったのに」
悔しそうに地団駄を踏む耶俱矢に、夕弦は顎に手を当てて少し考えてから口にする。
「・・・・推理。マリア以外だとするとーーーー消去法で狂三だと思われます。空でマリア達と戦っている時に、チラッと見えたのですが、向こうでマスター折紙と琴里の戦闘はまだ続いていたようですし。先程置いてけぼりにした六喰と七罪の可能性も低いでしょう。六喰は漁夫の利を得ようなんて性格の悪い事はするような子ではありませんし、わざわざ弓弦達を呼び寄せた七罪が二亜を倒そうとするとも思えません。心優しい四糸乃でしたら、倒した二亜を放置などせず、安全地帯にまで運んでくれそうですし。美九でしたら最悪ーーーー今頃二亜は人気の無い場所に連れて行かれて、そのまま全身をくまなく舐め回されて、(ピー!)されていると思います・・・・!(ブルッ・・・・!)」
「(ブルルッ・・・・!)な、成る程・・・・ソレは確かにあり得そうだし・・・・!」
美九が情欲にまみれたギラギラと血走った目で、ケダモノのように舌をベロベロと出しながら、気絶した二亜の全身を余す事無く舐め回して、(ピー!)している姿を想像し、夕弦と耶俱矢は背筋どころか、全身をムカデの大群が這いずり回ったような悍ましい悪寒が駆け巡るが、取り敢えず一旦置いておこうと考えた。
「・・・・ああもう、呑気に寝ちゃって」
「注意。霊装が顕現できていないと言う事は、二亜は既に脱落しています。お尻ペンペンしたい気持ちは分かりますが、脱落者に危害を加えるのはルール違反ですよ」
「わ、分かってるし」
夕弦に言われて、耶俱矢が気勢を収める。
「「・・・・・・・・・・・・」」
耶俱矢と夕弦は、暫しの間二亜の背中を眺めると、どちらからとも無く顔を上げ、当時にお互いを見ると、耶俱矢が口調を厨二モードに切り替えた。
「ーーーーさて、図らずも邪魔者がいなくなってしまった訳だが」
「首肯。このままでは振り上げた拳の下ろしどころがありません」
「であれば」
「当然」
耶俱矢と夕弦は示し合わせたかのように同じタイミングでニッと笑うと、これまた同時に地を蹴り、距離を取って互いに天使を構えあった。
耶俱矢の握る巨大な突撃槍【穿つ者‹エル・レエム›】。
夕弦が操るペンデュラム【縛める者‹エル・ナハシュ›】
最速の風の天使〈颶風騎士‹ラファエル›〉を構成する2つの武器は、双方度重なる戦いによってその表面に細かなヒビが入っていた。
否、ソレだけではない。2人が纏った拘束衣のような霊装も、それぞれの肩に顕現した片翼も、所々が千切れ、砕け、断面から淡い霊力の輝きを覗かせている。
双方限界が近い事は、言葉を交わさずとも理解できていた。
無論、『共闘』という選択肢もないではない。他の精霊達よ
状況は良く分からないが、全員が万全の状態でいると考えづらい。であれば、八舞姉妹の最強のコンビネーションで勝利をもぎ取れる可能性はゼロではなかった。
ーーーーしかし、耶俱矢と夕弦は、一瞬の逡巡もなくこの選択肢を選んだ。
確かに『士道への告白権』と言うのは魅力的だ。耶俱矢も夕弦も、まだ士道に伝えきれていない想いが胸の中に詰まっている。照れ臭さや、どんな応えを返されるだろうかという恐れ、或いは他の誰かへの遠慮。そんなものの積み重ねの中で、大事にしまい込んでいた淡い気持ち。ソレを吐露する事ができるかも知れないキッカケと言うのは、本当に得難いものだった。
しかし、ソレ以上に。
血どころか存在を分けた自らの半身が、自分以外の誰かの手によって脱落してしまうという結末はーーーーどうしても耐えられなかったのである。
「ーーーー行くよ、夕弦」
「応戦。望む処です」
2人はグッと足を踏み込むと、全く同時に地を蹴った。
瞬間、周囲の木々がザァッとざわめく。微かに地面が震え、一拍遅れて辺りに衝撃波が発せられた。仮にこの勝負に立会人がいたとしても、そんな周囲の変化でしか、二人の動きを感じ取れる事はできないであろう。
それくらいにーーーー耶俱矢と夕弦の動きは疾すぎた。双方、霊力の限界を近づいていると思えない程に。
けれど2人は互いの動きを正確に捉えると、極限まで圧縮された意識の中で、無数の攻防を交わしていた。
耶俱矢が【穿つ者‹エル・レエム›】をドリルのように回転させながら繰り出す。すると夕弦は【縛める者‹エル・ナハシュ›】を渦のように回転させ【穿つ者‹エル・レエム›】に巻き付ける。2つの力が相克し合い、一瞬にして双方の天使は弾け飛んだ。
「ふーーーーっ!」
「ーーーーッ」
しかし2人は止まらない。耶俱矢と夕弦は固めた拳にありったけの霊力を込めると、力一杯相手を殴り付けた。
2人の腕が綺麗にクロスし、双方の身体に突き刺さる。
「か、は・・・・ッ!」
「苦・・・・悶・・・・」
2人の1撃が爆裂した箇所から凄まじい衝撃波が巻き起こり、既にボロボロになっていた2人の霊装を一気に吹き飛ばす。半裸状態になった耶俱矢と夕弦は、フラフラと姿勢を崩すと、そのまま仰向けになって倒れ込んだ。
双方大の字になり、頭と頭を隣に並べるような格好で。
「はぁ・・・・っ、はぁ・・・・っ」
「・・・・、ふーーーーはぁ・・・・」
暫しの間、2人の胸元が激しく上下し、荒れた息遣いが辺りを支配する。
こんな姿をドラゴンが見たら、『お前達は半世紀も昔の青春ドラマの番長達か?』と、ツッコんでいたであろう。
やがて、ソレが収まった頃ーーーー耶俱矢が、空に向かって笑い声を上げた。
「は、はははは・・・・っ、あーあ・・・・やーっぱこうなるかぁ。一瞬いけるかと思ったんだけどなぁ・・・・」
ソレに合わせるように、夕弦もまたフッと笑みを作る。
「同意。夕弦もです。【穿つ者‹エル・レエム›】を砕いた瞬間、いけるやもと思いました」
「ええ? ソコまで一緒? って事はええと、コレで・・・・」
「概算。封印後のものを別とすれば、これで100戦25勝25敗ーーーー50分けです」
夕弦が言うと、耶俱矢がまたも笑った。
「次こそーーーー私が勝つからね」
「小癪。返り討ちにしてあげます」
耶俱矢と夕弦はお互いに視線を交らわせると、ヨロヨロと腕を上げ、拳をコンと打ち合わせた。
「悲願。そして必ず耶俱矢と士道の(ピー)の初めてをーーーー」
「んんっ!? ちょっと待てぇぇぇぇい! ソレ私を更に本気にさせる為の冗談とかじゃなかったの!?」
「微笑。ええ冗談ですよ。ーーーー2割程」
「な〜んだ疲れ切っているって言うのに悪ふざけ・・・・んんんっ!? 待って夕弦! 『2割』って、残りの8割は!?」
「安心。大丈夫ですよ耶俱矢。いずれ夕弦が耶俱矢に、耶俱矢がベッドの下や本棚の裏、机の2番目の引き出しの二重底に隠したエッチな漫画や小説のような色々な事をしてーーーー」
「ちょっと待てぇぇぇぇいぃっ!! 何で私の秘蔵の書物の隠し場所を知り尽くしているの!? 止めて夕弦! 私のお尻の辺りをジ~っと見ないで欲しいんだけど!!」
ボロボロの身体なのに、横になったままの耶俱矢は凄まじい勢いでツッコミを炸裂させていく。
ーーーーこれからは夕弦に簡単に背後を取られないようにしようと、固く心に誓う耶俱矢なのであった。
ーーーー識別名称〈ベルセルク〉・八舞耶俱矢、八舞夕弦、脱落‹リタイア›。
ーーーー理由・引き分け。
ーーーー残存精霊、10人中、6人。
ー士道sideー
ーーーーと、精霊達のバトルロワイヤルが激しさを増している中、桜並木で一頻りはしゃぎ終えた後。士道達は、遊んでいる最中にお腹を空かせた十香の為に小腹を満たそうと、その道のほど近くにある甘味処を訪れた。
中々に風情のある造りの店構えで、店先に赤い毛氈の敷かれた縁台と野点傘が設えられており、舞い散る桜と相まって、何とも風流な風景を作り出している。士道達はそんな景色の一部となりながら、先程購入した品が運ばれてくるのを待っていた。
「ーーーーあ」
と、風に運ばれた桜の花びらがフワリと舞い、士道の湯飲みに張られた緑茶の表面に微かな波紋を描く。
ソレを見てか、隣に座っていた十香が目を丸くした。
「おお、シドーのお茶に桜が舞って来たぞ! むう、綺麗だな・・・・私のお茶にも来ないだろうか」
「はは、ソレばっかりは桜に聞いてみないと・・・・」
「ーーーーふん」
と、士道が言いかけた所で、天香が小さく鼻を鳴らした。
瞬間、ブワッと風が巻き起こり、桜の花びらが2枚、十香の湯飲みに舞い降りる。
「おおっ! 私の方にも来たぞ! しかも2枚だ!」
「・・・・天香、今何かしたか?」
「何の事だ?」
士道が汗を滲ませながら問うと、天香は恍けるように目を伏せた。・・・・あまりにわざとらし過ぎる。ここは彼女の世界。コレくらいは造作もない。
まあ、とは言えソレを追及した所で仕方が無い。十香も喜んでいるようだし、黙っておこうと判断して、士道は苦笑するする事に留めた。
「ーーーーお待たせしましたー」
と、ソコで和服を着た店員が、お盆に皿を載せてやってくる。十香がその声に反応してパァッと顔を明るくした。
「おお、来たか! 待ちわびたぞ!」
店員も、笑顔で応じて縁台の上に並べられた皿の上に載った丸いお菓子を見て、十香がそのお菓子と同じく目をまん丸に見開いた。
「おお!? これは何だシドー」
「桜餅だよ。ほんのりピンク色が綺麗だろ。中にはアンコが入ってるんだ」
「ほうほう、桜・・・・と言う事はあの花の色を模している訳だな。成る程、綺麗だ。それで、ソチラは何というのだ?」
十香が天香の皿に載っている平たい生地で餡を円筒状に包んだ菓子を見て問うた。
どちらも桜餅で、十香は関西風で天香は関東風であると教えると、十香はさっそく食べようとした。
がーーーー。
「ーーーー待て」
と、天香が桜餅の載った皿を手にしながら、ギロリと士道を睨んできた。
「どうした、天香?」
「この菓子に張り付いているものは木の葉ではないのか? 貴様、斯様なものを十香に食べさせる気か」
言って、桜餅の表面に巻かれた桜の葉を指差してくる。士道は得心がいったように苦笑した。
「最初は確かに面食らうよな。桜の葉の方は塩漬けだよ。ちゃんと食べられるから安心して良いぞ」
「・・・・本当だろうな?」
「勿論、本当ーーーーむぐっ!?」
「ならば貴様から食してみせよ」
ソコで天香が、桜餅を士道の口に突っ込んできて、言葉を止めさせられた。
「・・・・!・・・・!?」
突然の事に驚くも、天香に疑わしげな目でジッと見つめられては、咳き込む事もできなかった。どうにか呼吸を落ち着かせて、口の中に放り込まれた桜餅を咀嚼する。桜餅時代の味が良い事が不幸中の幸いだった。
するとソコで十香が、不満そうに唇の尖らせる。
「むう、ズルいぞ天香。1人だけ『あーん』をするとは。ーーーーシドー、私も『あーん』だ!」
「・・・・っ!?」
言って、十香が楊枝で桜餅を刺し、士道に差し出してくる。士道としてはどうにか天香の桜餅を飲み込みきってから頂戴したいところだったのだがーーーー。
「・・・・・・・・」
ーーーー何故十香の桜餅を食べない? 死にたいのか?
と言うような天香の視線を浴びせられては、拒む事はできなかった。半ば無理矢理、2つ目の桜餅を頬張る。
「おお、どうだシドー、美味しいか!?」
「・・・・、・・・・」
流石にすぐには口が開けなかった。笑顔で首肯する事で首肯を示す。すると十香が、満足気に笑みを作った。
「うむ、ソレは良かった! では天香、私達もいただこう!」
「・・・・ふむ、ソレは良かった! では天香、私達もいただこう!」
「・・・・ふむ」
どうやら半ば無理矢理ながらも士道が毒見をした事で納得したらしい。天香が桜餅に楊枝を刺す。
が、ソコで十香が手を合わせながらペコリと礼をするのを見てか、天香はその手を止めた。
「ーーーーこの世の全ての食べ物に感謝を込めて、いただきますだ!」
「・・・・・・・・」
一旦持ち上げかけた桜餅を皿に落ち着け、天香賀十香に倣うように手を合わせる。
「・・・・この世の全ての食べ物に感謝を込めて、いただきますだ」
そして、十香と同じ様にそう言ってから(神も仏もない、自分が頂点だと言わんばかりの傍若無人な性格をしてそうなので、思わず笑いそうになるのを必死に堪えた)、桜餅を矯めつ眇めつ眺め、口に入れた。するとソコで、一足早く桜餅を頬張っていた十香が、目をカッと見開く。
「! おお、これは美味しいぞ・・・・! 甘くて、しょっぱくて、何だかフウワリと良い匂いがして・・・・初めて食べる味だ!」
「はは、お気に召したなら何よりだ。ーーーー天香の方はどうだ?」
「・・・・悪くない」
士道が問うと、天香は目を逸らしながらそんな事を言ってきた。
眼光は鋭く口調はぶっきらぼうなままであるが、何故だろうか、その表情は何処か満足気に見える気がしてならなかった。
一泊置いて、気付く。天香のその反応は、出会ったばかりで人に不信感を持っていた頃の十香とそっくりだったのだ。
「・・・・・・・・」
ソレに気づくと同時、士道はふと思ってしまった。ーーーー確かに少し天の道をゆく男のような俺様な所がある天香ではあるが、やはり彼女も、私利私欲の為に世界を改変してしまうような精霊には見えない、と。
「・・・・何だ人間。何か文句でもあるのか」
「あ、いや・・・・」
どうやら無言のまま天香を見つめてしまっていたようだ。誤魔化すようにそう言って視線を逸らす。するとソレに合わせるようにして、士道の右隣から、楊枝に刺された桜餅がヌッと飛び出してきた。
「天香! コチラの桜餅も美味しいぞ。食べてみるのだ!」
「・・・・、む」
天香は目の前に差し出された桜餅に視線を落とすと、自分もまた手元にあった桜餅を楊枝で刺し、十香の方に差し出した。
必然、士道の前で2人の手がクロスするような格好になる。
「おお、ありがとうだ!」
十香が顔を輝かせ、パクっと差し出された桜餅を頬張る。すると天香もソレに倣うように、十香の差し出した桜餅に食いついた。
士道の顔の真ん前で、2人がモグモグとお菓子を咀嚼する。何とも不思議な光景に、士道は思わず苦笑してしまった。
「むう・・・・! コチラも美味いな! 先程とはまた違った食感が楽しいぞ!」
「・・・・うむ、成る程」
十香が満面の笑みを浮かべながら頷き、天香は何やら難しげに眉根を寄せる。2人の反応はそれぞれ違ったけれど、どちらも満足している事は何となく分かった。
とーーーー。
ーーーードォォォォォォォンン・・・・。
「・・・・っ!?」
次の瞬間、遠くの方から不意に何かが爆発するかのような音がした。