デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー琴里sideー
ふと、1つの質問をしてみよう。
ーーーー『精霊』の中で1番強いのは誰?
コレを聞けば、十香や八舞姉妹、或いは六喰ならば、自分を指差すだろうが。実際に誰であろうか?
『最強』と一口に言っても、判断基準は様々である。
『霊力の扱いに長けた者(十香。折紙。八舞姉妹)』。
『強力な天使を持つ者(琴里。四糸乃。美九。二亜。六喰)』。
『知略を巡らせるの事を得意とする者(狂三。七罪)』。
ーーーーきっと各々の分野でそれぞれの王者がおり、戦いの結果というのはソレらの要素が複雑に絡み合って決されるのだろう。『最も強い者』等というのは、そう簡単に定義できるものではない。
「くーーーー」
ーーーーだが、1体1の純粋な決闘のみを想定するならば、その頂点を争う者の中に、『鳶一折紙』が必ず入ってくるのは間違いないだろう。四方八方から発射される光の羽の光線を紙一重でかわしながら、琴里はふとそんな事を思った。
膨大な霊力量。全てを破壊する光の天使〈絶滅天使‹メタトロン›〉。
そしてーーーー精霊達の中で、精霊となる前から数多くの修羅場の中を生き抜いてきた『最も実戦慣れした経験値』と、魔術師‹ウィザード›特有の『強靭な精神力』。
涼やかで美しい容貌とは裏腹に、その純白の精霊は、相対する者の心肝を寒からしめる圧倒的な力を有していた。
復讐の為に研鑽してきた数々のモノが、今まさに生かされ、精霊となった今では脅威以外の何物でもなくなってしまっている。味方としては頼もしいが、敵対するとココまで恐ろしいのだ。まぁ士道が見れば複雑な顔を浮かべるだろうが。
しかしーーーー。
「〈灼爛殲鬼‹カマエル›〉・・・・!」
琴里とて、黙ってやられている訳では無かった。吠えるように自身の天使の名を叫び、炎と化した戦斧の刃を操って、空に散った無数の〈絶滅天使‹メタトロン›〉の『羽』を討ち落とす。
「ーーーーふーーーーッ」
折紙はその度に、新たな〈絶滅天使‹メタトロン›〉の『羽』を顕現させ、絶え間なく光線を発射する。しかし、いくら折紙とは言えその霊力が無尽蔵と言う事はあるまい。いつか霊力が尽きて〈絶滅天使‹メタトロン›〉が消えた時ーーーーその瞬間こそが、琴里の勝機である。
だが、その瞬間が訪れた時、琴里の力が残っていなければ意味がない。〈絶滅天使‹メタトロン›〉の光線は、琴里の天女のような霊装を、焔の天使を、或いは手足を、幾度も射貫いてきている。〈灼爛殲鬼‹カマエル›〉がその度に治癒の炎を以て身体を再生してはいるものの、ソレも琴里の霊力があればこそであり、霊力が尽きてしまえば再生能力は発揮されなくなり、その時点で琴里の敗北は決してしまうだろう。
要は、全力と全力のぶつかり合い。どちらが先に力尽きるかという、正にバチバチの殴り合いであった。
「ちーーーー」
が、そんな戦いの中、琴里は小さく舌打ちをした。
戦況はほぼ互角ーーーーと言いたい所であったが、実の所、僅かばかり琴里は折紙に押され始めていたのである。
理由は恐らく、“人間としての”戦闘能力の差だろう。
焔の天使〈灼爛殲鬼‹カマエル›〉と光の天使〈絶滅天使‹メタトロン›〉は、得意分野や権能こそ違えど、どちらも戦闘向けの強力な天使であり、その力は拮抗していると言って良い。
しかし、日頃デスクワークが多い上、中学生と言う体力も身体が出来上がっていない琴里と、高校生で同じくまだ身体が出来上がっていないが、日常的に鍛錬を励み、コレまで幾度も死と隣合わせな前線で『実戦』を経験してきた折紙との差が、この極限状態になって表れたのである。
「もう少しーーーーちゃんと鍛えとくんだったわね」
コレならば、普段『アンダーワールド』でドラゴンに過激にイジメられーーーー厳しく鍛えられていた士道のように、自分も時間を見て自己鍛錬をしていれば良かったとボヤきそうになる。
が、ソレはソレとして、〈灼爛殲鬼‹カマエル›〉を振り抜いて炎の刃を空に舞わせる。琴里に光線を放とうとしていた〈絶滅天使‹メタトロン›〉の『羽』が、炎に巻かれて燃え落ちた。
が、その攻撃を逃れた1本の『羽』から発せられた光が、じゅッ、と琴里の脇腹を灼く。
「ぐ・・・・ッ!」
凄まじい痛みに苦悶の顔を歪めながらも身体を捻り、その『羽』を打ち払う。
灼熱感と共に、傷を負った脇腹と、破れた霊装が再生していくのを感じながら、琴里は折紙を睨みつけた。
ーーーー敵は一騎当千、万夫不等の光の精霊・鳶一折紙。
しかし、琴里は引く訳にはいかなかった。何故ならばーーーー。
「・・・・妹を差し置いておにーにゃんに告白しようだなんてーーーーそんな事、許される筈が無いでしょうがぁぁぁぁッ!」
琴里が叫びを上げると、〈灼爛殲鬼‹カマエル›〉を両手で振りかぶり、折紙目掛けて空を蹴った。
すかさず無数の〈絶滅天使‹メタトロン›〉がその先端を琴里に向けてくるが、構う事無く猛進する。
このまま消耗戦になっては、恐らく琴里の方が先に力尽きてしまう。ならば、再生の為の霊力が残っている今のうちに、折紙に有能打を与える事こそが必須。
ーーーーが、その瞬間。
「な・・・・っ!?」
胸元に予想外の感触が生まれ、琴里は狼狽に満ちた声を上げた。
一瞬、死角から〈絶滅天使‹メタトロン›〉に攻撃されたのかとも思ったがーーーー違う。見やると、虚空に『孔』が開き、ソコから現れた鍵のようなものが、琴里の胸に突き刺さっている事が分かった。
痛みはない。しかし、その事実を脳が認識した瞬間、琴里は自分の油断を呪った。
これは間違いなく、六喰の〈封解主‹ミカエル›〉だ。折紙に気を取られていた為、攻撃されるまで気づく事ができなかった事もあるが、武人気質で正々堂々と戦う性格をしている六喰が、こんな横入りの不意打ちを仕掛けてくるとは思わなかったからだ。
「くーーーー」
このまま鍵を回され、力を『閉じ』られたなら、その瞬間に敗北は決定する。琴里はどうにか〈封解主‹ミカエル›〉から逃れようと身を捩った。しかし、間に合いようがないーーーー!
だが。
「ーーーー【放‹シフルール›】」
『孔』の向こうから微かに聞こえてきた声は、琴里の予想とは異なるものだった。
「え・・・・?」
次の瞬間、琴里は身体に力を漲るのを感じた。ーーーー先程よりも、〈絶滅天使‹メタトロン›〉の動きが良く見える。琴里は放たれた光線を全て躱すと、グルンと身体を回転させながら後方へと離脱した。
「コレって・・・・」
ーーーー間違いない。対象の記憶や感情や能力を封印する【閉‹セグヴァ›】ではなく、対象の秘められた力を解放する【放‹シスルール›】だ。琴里も1度、ウェスコットとの戦いの時に、この権能を施された事があった。
「ーーーーっ」
と、琴里が自分の手の平に視線を落としていると、前方から折紙の吐息が聞こえてきた。
見やると、先程の琴里と同様に、折紙の身体にも〈封解主‹ミカエル›〉の先端が突き刺さっている事が分かる。
そしてコレまた琴里と同じようにーーーー鍵が回された瞬間、折紙の身体から発せられていた霊力がグンと増す。
「・・・・六喰」
折紙が不審そうに眉根を寄せながら虚空に問う。
するとその声に応えるように、先程よりも大きな『孔』が開き、六喰が姿を現した。
その身に纏う霊装は、平時のものではない。【放‹シフルール›】によって本来の力を解放した、武将の如き勇猛な姿。その手に握られた〈封解主‹ミカエル›〉も錫杖形から戟のような形へと変貌を遂げていた。
「むん。邪魔をするのじゃ。先ずは不意を衝いた非礼を詫びよう。ーーーー【放‹シフルール›】で力を解放してやると言っても、信用されぬと思ったものでな」
「一体何のつもり?」
折紙が言うと、六喰は大仰に頷いてみせた。
「ーーーー知れた事。戦いで疲弊したうぬらを横から倒したとて、むくはきっと満たされぬ。コレで、全員掛け値無しの全力じゃ。ーーーーさあ、掛かってくるがよい。2人同時でも構わぬぞ」
言って、六喰が不敵に微笑みながら〈封解主‹ミカエル›〉を構える。
「・・・・・・・・」
瞬時に状況を判断したらしい折紙が、微かに眉を揺らしながらも、琴里と六喰双方を相手取るように〈絶滅天使‹メタトロン›〉を展開させる。
琴里は息を吐くと、〈灼爛殲鬼‹カマエル›〉の刃を全身に纏わせながらーーーー吼えた。
「ーーーー良いわ。2人纏めて、妹‹私›の力を思い知らせてあげる」
ー七罪sideー
「〈贋造魔女‹ハニエル›〉ーーーーッ!」
裂帛した気合いとともに〈贋造魔女‹ハニエル›〉を振り上げると、【千変万華鏡‹カリドスクーベ›】でその姿を変化させた。
鏡の天使が光を放ち、そのシルエットを、輝くウィザードラゴンの戦斧『アックスカリバー・アックスモード』。士道とウィザードラゴン、2人が変身する〈仮面ライダーウィザード〉の最強の形態『インフィニティスタイル』の武器である。
[ハイタッチ! シャイニングストライク!! キラキラ! キラキラ! キラキラ! キラキラ! キラキラ!]
七罪はアックスカリバーを振り回して巨大化させると、四糸乃の駆る〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉に向けて振り下ろし、緑色に光り輝くウィザードラゴンが、四糸乃に向かって大顎を開ける。
「よしのん!」
『はいよー!』
四糸乃は〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉を操ると、氷の天使の口から極低温の冷気を吹雪として放つと、ソレが獄氷のウサギへと変貌し、七罪の放つとウィザードラゴンてぶつかり合うと、相殺し、七罪に衝撃が、四糸乃に冷気が跳ね返る。
弓弦のようなスピードを持っていない四糸乃は、七罪の攻撃を避けず、その天使の中でも随一の防御力と本来攻撃にも絶大な力を発揮する〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉の能力を以て、七罪との攻防戦を繰り広げていたのである。
本物のアックスカリバーを、本来の持ち主であるインフィニティスタイルとなった士道とドラゴンが操れば話は別なのだろうが、七罪の〈贋造魔女‹ハニエル›〉にできるのはココまでである。
「(〈贋造魔女‹ハニエル›〉の弱点は、『本物程の力を引き出せない』。どんなに便利でも、贋物は所詮贋物って事よね。ーーーー全く、つくづく私に相応しい器用貧乏な天使よね!)」
七罪は戦いの中、自嘲気味に笑った。
「ーーーーでも・・・・贋物には贋物の戦い方ってのがあるんだから・・・・!」
七罪は叫ぶと、握ったアックスカリバーを高らかに掲げた。
すると〈贋造魔女‹ハニエル›〉は再び輝きを放ちーーーー今度はその姿を、巨大なウサギの人形へと転じさせた。
ソレは、四糸乃の駆る〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉。ソレをそっくりそのままコピーしたのである。
「え・・・・っ!?」
「きゃー! よしのんの生き別れの双子!?」
流石にコレには驚いたらしい。四糸乃とよしのんがそんな声を上げてくる。
「弾けろ、〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉!」
七罪は偽の〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉を操ると、巨大な氷弾を幾つも放った。
「くーーーー」
四糸乃がソレを防ぐ為、新たな氷壁を生成する。が、驚きがタイミングを遅らせてしまい、巨大な氷の塊同士がぶつかり合い、弾け、辺りにキラキラと氷の粒を散らす。
一瞬。ほんの0.36秒の刹那の時間であるが、四糸乃を守る氷の壁が全て砕け散った。
そしてその僅かな隙こそがーーーー七罪が切り開いた勝機への活路であった。
「〈颶風騎士‹ラファエル›〉ーーーー【天を駆ける者‹エル・カナフ›】!」
叫びと共に、〈贋造魔女‹ハニエル›〉がまたも姿を変える。
ーーーー翼のような形をした巨大な弓。その矢は全てを穿つ槍。その弦は全てを縛める鎖。八舞姉妹の風の天使〈颶風騎士‹ラファエル›〉。2人のそれぞれの天使が合体した嵐の最強形態である。
「おおおおおおおおおおおおおおおおーーッ!」
七罪は叫びをあげると、渾身の力を込めて弦を引きーーーー〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉の額目掛けて、矢を放った。
ーーーー瞬間。
矢の先端を起点に凄まじい暴風が巻き起こり、辺りに生えていた木々や、近くにあった休憩所、ついでに長椅子に縛り付けていた寝ている美九すらも吹き飛ばした。
螺旋状に渦を巻く霊力の暴風が、全てを薙ぎたおしながら四糸乃と〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉へと向かっていく。如何に精霊随一の防御力を持つ四糸乃とて、今から氷壁も迎撃の吹雪を作っても間に合わないだろう。
がーーーー。
「・・・・・・・・っ!?」
暴風渦巻く中、目を細めていた七罪は思わず息を詰まらせた。
〈颶風騎士‹ラファエル›〉必殺の矢が届こうかと思った瞬間、不意に〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉の姿が消えてしまったのだ。
「なーーーー」
瞬きにも満たぬ刹那の後、七罪は悟った。
〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉は消えたのではなくーーーーその姿を、極限まで凝縮したのだと。
「〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉ーーーー【凍鎧‹シリヨン›】・・・・!」
白銀の鎧を、〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉の奥義ともいえる堅牢無比な城を纏った四糸乃が、その装甲の一部を犠牲にするようにして〈颶風騎士‹ラファエル›〉必殺の1撃を逸らし、七罪に肉薄してくる。
「ぐ・・・・っ!」
七罪は慌てて〈贋造魔女‹ハニエル›〉を発動させようとするもーーーー。
「ーーーーあぁぁっ!」
四糸乃の繰り出した吹雪の渦によって、その霊装は完全に剥ぎ取られた。
ーーーー識別名称〈ウィッチ〉・七罪、脱落‹リタイア›。
ーーーー理由・霊力切れ。
ーーーー残存精霊、10人中、5人。
◇
「・・・・はぁ・・・・っ、はぁっ・・・・」
四糸乃は肩を大きく上下にさせながら呼吸をすると、そのままガクリと地面に両膝をついた。
全身に纏った白銀の鎧ーーーー【凍鎧‹シリヨン›】は、左側頭部と左肩の装甲が弾け飛んでいる。本当なら再度鎧を生成し直したい所だが、四糸乃の霊力も限界に近い為、それも難しそうだ。本当にーーーーギリギリの戦いによる辛勝であった。
『OH! MY! GOOOOD! よしのんのお耳がぁー!』
「ご、ごめんね、よしのん・・・・後でちゃんと直してあげるから・・・・」
〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉を凝縮して身に纏う攻防一体の形態【凍鎧‹シリヨン›】。つまり今よしのんの意識は、鎧に宿っている。本体であるウサギのパペットそのものは四糸乃の懐にあるものの、よしのんの感覚としては頭部と肩が半分ない状態なのだろう。四糸乃はウサギの左耳があった部分を撫でながら言った。
「あっーーーー」
と、ソコで思い出したように顔を上げ、仰向けに倒れ、身体の所々に氷が張っている七罪に歩み寄る。
「だ、大丈夫ですか、七罪さん」
「・・・・あ、ああ・・・・うん・・・・全身が痛いのとメッチャ疲れたのと死ぬ程寒いのを除けば大丈夫・・・・ぶぇっくしょん! アクション!」
弱々しく言って、七罪が乙女を捨てたような盛大なクシャミをする。
『果たしてソレは大丈夫なのだろうか』
よしのんが冷静なツッコミを入れると、七罪は力なく笑いながら手をヒラヒラと振ってきた。「う~ん・・・・七罪さん、四糸乃さん、2人で私のおっぱいを吸ってぇ、可愛いですねぇ〜・・・・」と、何やら向こうの方から〈贋造魔女‹ハニエル›〉によってへ変身していた縄が元の蔦に戻り、ソレが千切れたのか長椅子からずり落ちた美九が妙な寝言を言っているが、七罪と四糸乃とよしのんは聞こえなかったフリをする。そうしなければ、本気でトドメを刺さなければならないと言う気持ちが湧き上がってくるからだ。
「・・・・ホントに大丈夫よ。霊力を限界まで使い切ったからか・・・・ソレとも、四糸乃と全力で戦えたからか分かんないけど・・・・へへっ」
七罪は笑いながら続ける。
「なんか・・・・気持ち良いや・・・・」
「七罪さん・・・・」
友達だけど、いつも何処かお互いに遠慮している所があった四糸乃と七罪が、こんな形だが全力でぶつかり合った。ソレが2人にはとても心地良く、四糸乃は穏やかな笑みを浮かべると、寒さか悔しさか分からないが、微かに震える七罪の手を握った。
と、次の瞬間ーーーー。
「ーーーーああ、ああ、なんと美しい光景でしょう。死力を尽くした者同士が健闘を称え合う。本当に、心が洗われるようですわ」
後方から聞こえてきた声に、七罪と四糸乃はハッと身を震わせた。
「・・・・っ」
「狂三・・・・さん」
四糸乃がその名を呼ぶと、地面に影が蟠り、ソコから、この精霊バトルロワイヤルの発起人であり、最悪の精霊と呼ばれた少女ーーーー時崎狂三が淑やかな笑みを浮かべて現れた。
その姿に、七罪はチッと小さく舌打ちをする。
「・・・・随分と、タイミング良く現れるじゃない。消耗した勝者を倒して漁夫の利を狙う為に、私達の勝負が終わるのを待ってた訳・・・・? ホント・・・・性悪ね」
「あら、あら。そんな誤解をされるだなんて、悲しいですわ」
言って狂三が、目で涙を拭うような仕草をする。が、涙1つ流れていない何処か、その顔が楽しげな笑みに染まっている時点で、泣き真似にすらなっていなかったのだけれど。
「理由や過程はどうあれ、大事なのは今ですわ。美九さんと七罪さんは霊力を使い果たし、脱落。そしてこの場には、四糸乃さんとわたくしが立っている。ーーーーならば、すべき事は1つではありませんの。わたくしも、士道さんにお伝えしたい気持ちが山程ございますし」
狂三がニィッと唇の端を歪めながら言う。四糸乃は全身に纏った【凍鎧‹シニヨン›】を軋ませながら立ち上がった。
「・・・・よしのん」
『うん。やるしかないよねぇ。ーーーー狂三ちゃん、悪いけど士道くんへの『告白権』は四糸乃がもらうかんね!』
よしのんが、微塵も諦めを滲ませない声音で言う。普段はそんな物言いに恥ずかしがる四糸乃ではあったけれどーーーー今この時だけは、その言葉に同意を示すようにグッと頷いた。
四糸乃に残された霊力は残り少ない。纏った【凍鎧‹シリヨン›】は半壊状態である。
対して、狂三の霊力もあまり消費されておらず、霊装にも傷1つ見受けられなかった。戦力差は歴然である。
だがーーーー。
「・・・・負けません。士道さんに想いを伝えるのは、私です」
だからといって此処で退く事など出来なかった。戦いもせずに諦めてしまったなら、全力を尽くしてくれた美九や七罪に合わせる顔がない(七罪と違って、美九の場合は邪な情欲がかなり混じっていたが)。
四糸乃は細く息を吐くと、自らの身を氷の弾丸とするように、ググッと身体を前傾させ、絶対零度の冷気を纏う。
「その意気や良し、ですわ。まさか精霊の中で1番温厚で大人しい四糸乃さんがここまで『戦士』として進化するとは、わたくしも驚きを隠せないですが。ーーーーさあ、さあ、では始めようではありませんの。持てる力を全力で以ていらっしゃって下さいまし。相手はか弱いわたくし。四糸乃さんの頑張り次第では、もしかしたら勝てるかも知れませんわよ?」
「・・・・いや、アンタがか弱いなら、耶倶矢や夕弦、折紙に十香だって、十分か弱い女の子になるわ」
狂三の言葉に、七罪がボソッとツッコミを入れるが、狂三は構わず四糸乃に向けて、挑発するように手招きをしながら言ってくる。
「・・・・ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーっ!」
四糸乃が、全身に纏った絶対零度の冷気を激しくし、狂三に突進した。
ーーーー残存精霊、10人中、4人。
さぁ、いよいよ精霊バトルロイヤルも佳境です。