デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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さぁ、いよいよ精霊バトルロワイヤルも大詰めです!


精霊バトルロワイヤル&天香攻略・最終局面

ー六喰sideー

 

空は、乱戦の様相を呈していた。

ーーーー折紙と、琴里と、六喰。いずれも強大な力を有した3人の精霊の、全力全開の三つ巴。光が空を舞い、炎が猛り、空間に突如として『孔』が開く。それぞれが1撃で勝負を決める力を持った天使の権能が、無秩序に乱れ飛ぶ。

 

「ーーーーーーーー」

 

そんな、一瞬でも気を抜けば即座に致命傷を貰ってしまいかねかねない緊張感の中、折紙は冷静に状況を分析していた。

六喰の【放‹シフルール›】によって潜在能力を解放させた為か、いつもよりも思考がクリアーになっている気がする。混戦の中、琴里と六喰の動きな普段よりも良く見えた。

戦況はーーーー拮抗状態と言った所であろう。手数の多さでは折紙の〈絶滅天使‹メタトロン›〉が、接近戦と再生能力では琴里が、空間を操る天使〈封解主‹ミカエル›〉を持つ六喰には、下手に攻撃すれば『孔』で攻撃が返される。

しかし、いつまでも拮抗状態を維持するだけでは埒が明かない。折紙は覚悟を決めると、スゥッと息を吸いながら意識を集中させた。

 

「ーーーー〈絶滅天使‹メタトロン›〉ッ」

 

そして、その名を呼びーーーー新たに『羽』を顕現させる。

その総数は、なんと100。折紙の残りの霊力を殆ど使った、正に捨て身の作戦である。

 

「な・・・・っ」

 

「ーーーーむん」

 

折紙が勝負を決めに来た事を察したのだろう。琴里と六喰が緊張感を表情に滲ませる。

折紙はゆっくりと手を天に掲げると、無数の『羽』達に号令をかけるようにし声を発した。

 

「突き崩せ、【光剣‹カドウール›】!」

 

折紙の言葉に従い、100もの『羽』が、光の軌跡を残しながら同時に空を舞った。

通常の数倍の数の光の天使〈絶滅天使‹メタトロン›〉が、琴里と六喰に四方八方から光線を放つ。琴里は身を翻してソレらを避け、或いは〈灼爛殲鬼‹カマエル›〉で打ち払い、どうにか包囲網を逃れようと空を駆けていった。

六喰の行動も似たようなモノであるが、六喰には鍵の天使〈封解主‹ミカエル›〉で空間に『孔』を開け、折紙に〈絶滅天使‹メタトロン›〉の光線を返してきた。虚空に開いた『孔』から発された光線は、折紙の霊装を貫き、或いは足を掠めていく。

 

「ぐーーーーッ」

 

だが、折紙は避けなかった。身体を光化して光線を避けるだけの霊力が惜しかったのもあるがーーーー何より、この六喰の反撃は想定の範囲内であったからだ。だからこそ、“攻撃を返されたとしても数発程度は耐えられるよう、敢えて出力を絞っておいたのだ”。

折紙の『真の狙い』は、一斉攻撃ではなく、【光剣‹カドウール›】での攻撃で2人の注意を引きつけ、隙を作る為の『囮』でしか無かったのだ。

 

「ーーーー今」

 

琴里が〈灼爛殲鬼‹カマエル›〉を振り抜いたタイミングと、六喰が〈封解主‹ミカエル›〉を虚空から振り抜いたタイミングが合致したタイミング。彼女らが天使を使い終えた、一瞬の間。折紙は研ぎ澄まされた意識でソレを見極めると、『羽』から発される光線を網状に組み合わせ、彼女らの退路を塞いだ。

 

「え・・・・っ!?」

 

「コレはーーーー!」

 

異常に気付いた琴里と六喰が息を詰まらせるが、もう遅い。折紙は掲げた両手を一気に振り下ろす。

 

「ーーーー【砲冠‹アーテイリフ›】!」

 

瞬間、折紙の声に応え、既に琴里と六喰の頭上で冠形に結集していた『羽』達が、それぞれに、極大の光線を放出する。

コレこそが、折紙の光の天使〈絶滅天使‹メタトロン›〉の最終手段と言う名のとっておき。

夥しい数の【光剣‹カドウール›】は、2つの【砲冠‹アーテイリフ›】を誤魔化す為のカモフラージュでもあったのだ。

 

「・・・・・・・・!」

 

「ーーーーーーーー!」

 

琴里と六喰は声にならない悲鳴を残しーーーー光りに、呑まれていった。

如何に力を解放された2人と言えど、【砲冠‹アーテイリフ›】の直撃を喰らえば無事では済むまい。折紙は勝利を確信しながらも、油断する事なく霊力を放出し続ける。

が・・・・。

 

「か・・・・〈灼爛・・・・殲鬼‹カマ・・・・エル›〉、ーーーー【砲‹メギド›】・・・・ッ!」

 

皓々と輝く霊力の本流の中、微かに影が蠢いたかと思うと、次の瞬間、折紙目掛けて真紅の炎が一直線に放たれた。

 

「ーーーーーーーーっ!」

 

すんでの所で折紙は身を反らした。一瞬前まで折紙の頭があった場所を、灼熱の炎が通り抜けていく。霊装を纏っていなけれれば直接触れずとも身体が発火していたであろうと思える程の濃密な熱気が、折紙の肌を灼きながら空に散っていった。

 

「・・・・惜・・・・っ、しい・・・・」

 

片腕に、砲門と化した〈灼爛殲鬼‹カマエル›〉を装着した琴里は、悔しげに笑ったかと思うと、その言葉だけを残して、ユラユラと地面に落ちていった。ーーーーその身に纏った巫女のような霊装と焔の天使を、美しい赤い粒子に変えながら。

凄まじい耐久力と、執念。折紙は崇敬の念を抱かずにはいられなかった。〈絶滅天使‹メタトロン›〉の渾身の1撃をその身に浴びながら、まさか反撃に転じてこようとは。

 

「・・・・っ」

 

だが、ソレで終わりではなかった。新たな気配を感じ咄嗟に空中で身を捻る。しかし、琴里の【砲‹メギド›】を避けるのに体勢を崩してしまっていた為、一瞬動きが遅れてしまう。そしてーーーー。

 

「ーーーー主様はーーーー誰にも渡さぬ・・・・ッ!」

 

六喰相手には、その一瞬こそが命取りである。

ボロボロになった霊装を纏った六喰が虚空から現れ、罅の入った天使を放ってくる。鉾となった〈封解主‹ミカエル›〉の刃が、折紙の霊装を捕らえる。瞬間、六喰が〈封解主‹ミカエル›〉を捻りながら叫びを上げた。

 

「〈封解主‹ミカエル›〉ーーーー【解‹ヘレス›】ッ!」

 

〈封解主‹ミカエル›〉の先端を起点とするようにーーーー折紙の霊装が、木っ端微塵に分解される。

 

「ーーーーーーーー」

 

折紙は一糸纏わぬ姿で空を漂いながら、意識が遠くに引っ張られていくような感覚に襲われた。

 

「ーーーーぁぁぁぁぁぁぁぁーッ!」

 

ーーーー全身を、激情が駆け巡る。

六喰は今にも崩れ落ちてしまいそうな程に損傷した〈封解主‹ミカエル›〉の柄を握りながら、目に涙を浮かべ、勝利の雄叫びをあげた。

眼下には、電子を失い落ちていく琴里。眼前には、気を失った折紙。

どちらも、思わず身震いする程の強敵であった。実際、六喰ももう限界が近い。辛うじて霊装と天使を保ってはいるもののの、〈絶滅天使‹メタトロン›〉の1撃から身を守るのに相当量の霊力を使ってしまった為、1度崩れてしまったなら再顕現は難しいだろう。

しかしーーーー勝ったのは六喰である。この激戦の空に最後まで立っていたのは、六喰だった。

とは言え、喜んでばかりもいられない。確かに六喰は大乱戦の末、琴里と折紙と言う強大な相手を退けた。だが自然公園には、まだ他の精霊が残っているのかも知れなかったのである。

ならば、まだ終わりではない。一旦身体を休め、状況を把握してーーーー。

と。

 

「ーーーーっ」

 

ソコで、六喰は緊張に息を詰まらせた。刺すような殺気が、六喰の全身を包んだのである。

その理由はすぐに知れた。いつの間にやら六喰の周囲に、折紙の意識と共に消えた筈の〈絶滅天使‹メタトロン›〉が、幾つも浮遊していたのだ。

 

「な・・・・!?」

 

まさかの思わぬ事態に、六喰は目を見開いた。

 

「(ーーーーよもや、【解‹ヘレス›】で霊装を砕かれてなお、折紙が戦闘不能に陥っていなかったとでも言うのか・・・・!?)」

 

ソコで六喰は気づいた。自分を取り込む無数の『羽』。その様相が、〈絶滅天使‹メタトロン›〉のソレとは微妙に異なる事に。

光り輝くような、『純白な羽』と対となるような、闇を凝縮したかのような、『漆黒の羽』。

かつて六喰は、ソレを見た事があった。

そう、ソレはーーーー。

 

「ーーーー“ごめんなさい、六喰さん”」

 

六喰の思考を遮るように、下方からそんな声が聞こえてくる。見やると、意識を失った筈の折紙の身体が、フワリと浮遊している事が分かった。

ーーーー折紙が、ユラリと顔を上げる。

その瞳には、普段の折紙とは異なる意志の光が灯っているように見えた。

 

「でも、私もーーーー負ける訳にはいかないんです。五河くんの事がーーーー好きだから」

 

「・・・・! ウヌはーーーー」

 

六喰は『漆黒の羽』からの集中砲撃を受け、霊装と共に意識を失った。

 

ーーーー識別名称〈イフリート〉・五河琴里、脱落‹リタイア›。

ーーーー識別名称〈ゾディアック〉・六喰、脱落‹リタイア›

ーーーー理由・ダメージ過多。

ーーーー残存精霊、10人中、残り3人。

 

 

 

 

ー折紙?sideー

 

「・・・・っ、あーーーー」

 

短く息を吐いて、折紙は意識を取り戻した。

 

「ーーーーーーーー!」

 

微睡みは一瞬。折紙は瞬時に身体を緊張させると、自分が今置かれた状況を把握した。

ーーーー空から、落ちている。折紙はソレを理解すると同時、意識を集中させ、身体を浮遊させた。

次いで、自分の身体を見やる。霊装は残っていなかったがーーーー身体の中には微かに霊力を感じる事ができた。でなければ、空を飛ぶ事さえもできなかったろう。

 

「ふーーーー」

 

短く息を吐き、霊力を顕現させる。ーーーー『限定霊装』よりも心許ないとのであったけれど、一応身体を薄絹のような霊力が覆っていた。

限界は近い。近いがーーーー限界ではない。折紙は不思議な感覚に眉をひそめた。

折紙は、極限まで霊力を使っていた筈。不完全な状態とは言え、再度霊装が展開できるとは思っていなかったのである。まるで、何者かに霊力を分け与えられたかのような感覚だった。

周囲に琴里と六喰の姿はない。琴里を倒した所までは覚えている。だが次の瞬間、折紙は六喰に肉薄された筈だ。しかし、コレはーーーー。

 

「ーーーーっ」

 

ソコで折紙は地上に『あるもの』を発見し、その場から急降下した。そしてフワリと地を降り立ちーーーーソコに倒れていた少女に歩み寄る。

 

「ーーーー六喰」

 

そう。ソコにいたのは、霊装を失った状態で静かに寝息を立てる六喰であった。

折紙は困惑した。この状況は、どう見ても折紙が六喰を倒したようにしか見えない。だが折紙には、その瞬間の記憶が無い。一瞬とは言え、完全に意識を失ってしまっていた。忘我の境地で身体が反応して六喰を倒したとでも言うのだろうかーーーー?

 

「・・・・・・・・」

 

しかし、折紙はソレ以上考えなかった。思考を放棄した訳では無い。ただ、今はまだ思い悩む時ではないと判断したのである。

過程はどうあれ、今立っているのは六喰ではなく折紙なのである。ならば勝者として、次なる戦いに備えねばならない。

確かに琴里、六喰と言った戦闘力も危険度も高い精霊を退けたとは言え、折紙も相応のダメージを受けてしまっている。今誰が残っているのかは分からないがーーーー。

 

「ーーーーーーーーっ!」

 

ソコで、折紙はバッと後方を振り向いた。

本当に微かにではあるが、ソチラから物音が聞こえた気がしたのである。

次の瞬間、折紙の反応で気づかれた事を察したのか、声の主は凄まじいスピードで地を蹴り、折紙に向かってきた。

 

「ーーーー〈絶滅天使‹メタトロン›〉・・・・ッ」

 

意識を集中させ、天使を顕現。現れた『羽』は1つのみであったが、今の折紙にとってはソレでも僥倖である。狙いを定め、光線を放つ。

が、謎の襲撃者は弾丸の如くその身を回転させると、〈絶滅天使‹メタトロン›〉の光線を逸らし、そのまま折紙の懐に入り込んできた。

 

「なーーーー」

 

刹那の間に圧縮された意識の中、折紙は思考を巡らせた。

 

「(ーーーー誰? 一体? 脅威であった琴里と六喰はもういない。七罪や二亜、美九の出せるスピードじゃない。と言う事は耶倶矢か弓弦が、いや、ここまで勝ち残っている可能性が最も高いのは、恐らく狂三がーーーー)」

 

と、次の瞬間、折紙の目は、漸く襲撃者の姿を捉えた。

ーーーーその、“傷だらけになった、白銀の鎧を”。

 

「ーーーーーーーー“四糸乃”ーーーー」

 

その言葉を最後に、折紙の意識は、再度闇へと沈んで行った。

 

ーーーー残存精霊、10人中、残りーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ー???sideー

 

(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

度重なる表層への顕現の為か、彼女はもう1人の自分ーーーー十香の感覚器を通して、世界の事を断片的に感じ取る事ができるようになっていた。

否、ソレだけでは無い。ソレまで感じ取っていた十香の感情の動きもまた、よりハッキリと捉える事が出来るようになっていたのである。

最早彼女に、退屈を覚える時間は殆どない。十香の住んでいる場所。十香の通っている『学校』。十香の食べている『食事』。十香が『父親』とも『兄』とも思える存在。十香の楽しんでいる『日常』ーーーーそんな物の情報が、目を、耳を通して少しずつではあるが流れ込んでくるのである。

そして、そんな『日常』の中、いつも中心にいるのは、あの男ーーーー五河士道であった。

美味しい物を食べると、十香の心は『喜び』を感じる。

綺麗な物を見ると、十香の心は『幸せ』を覚える。

楽しい事をすると、十香の心は『ウキウキ』と弾む。

けれどソレが士道と一緒だと、その感情が、何倍にも何十倍にもなって彼女に伝わってくるのであった。

否、ソレだけではない。彼を見る十香の心には、他の者を見る時に感じ取れない謎の感情が芽生えていたのである。

 

(コレは・・・・)

 

次第に彼女もまた、十香にそんな事を思わせる士道に興味を持っていった。十香の目に士道が映る度、その姿を追うようになっていった。

が、彼女自身は士道を通して、『彼』の姿を感じ取っていた。その声を聞くのが心地良く感じ取っていた。

そして、少しずつ理解していった。

コレは。この、感情はーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

「ーーーーさあ、どうだ天香。ここからは、天宮市の街並みが一望できるのだ」

 

長い階段を上り、高台の公園に辿り着いた十香は、何処か得意げにそう言った。

そう。1年前、十香と初めてデートをした際、最後に訪れた公園である。台地に沿うような形で延びた階段の先にあり、その眺めはまさに絶景と呼ぶに相応しく、ここまで来るのは少し大変だが、ソレだけの価値があるスポットである。

しかし天香は辺りを見回すと、何かに気づいたように唇を動かした。

 

「ふむ・・・・ああ、ここか。お前の記憶から見た覚えがーーーー」

 

「む、そうだったか・・・・」

 

天香の言葉に、十香がシュンと落ち込んだ子犬ような雰囲気を出すと、天香が即座に首を横に振った。

 

「いや、気の所為だった。初めてだ。案内してくれ」

 

「! おお、そうか!」

 

十香がパァッと顔を明るくし、犬であれば尻尾を激しく動かしているであろう。ソレを見てか、天香が小さく息を吐いた。

 

「・・・・はは」

 

その吐息に込められたものが、面倒とか辟易ではなく、安堵に近く、まるで十香に過保護なウィザードラゴンのように見えて、士道は思わず頬を緩めそうになる。

確かに天香の目的は杳として知れないし、片時も気が抜けない相手である事に変わりはない。けれど、こうして共に過ごしてみると、何だか十香と天香が、自分の『宝物』を紹介したくて堪らない『妹』と、そんな妹が大好きな『姉』のように見えてしまう。

いや、実際十香としてはそんな感覚なのだろう。桜並木を抜けた後、十香と天香は、十香に連れられ様々な場所を巡っていたのだがーーーーソレラの場所は全て、士道や精霊達と行った事のある『ど~なつ屋はんぐり~』やレストランやゲームセンター等であった。

きっと、もう1人の自分である天香に見せたくて堪らなかったのだ。

ーーーー自分がこの世界で見知った、楽しい事を。皆と一緒に過ごした、幸せな時間を。

と、士道が感慨深げに目を細めていると、十香が何かを思い出したようにポンッと手を打った。

 

「そうだ、この景色を眺めながら食べるソフトクリームがち絶品でな・・・・ちょっと待っていてくれ。下の売店で買ってくるぞ!」

 

「え? じゃあ俺もーーーー(ズキッ!)うっ・・・・?」

 

士道がそう言った瞬間、何故か頭に鋭い痛みが走った。まるでドラゴンの尻尾ド突きを食らったような感覚である。

すると十香は士道の言葉を遮るように手の平を広げる。

 

「良いのだ! 2人はベンチに座っていてくれ!」

 

言うが早いか、今し方上がってきた階段を凄まじい速さで駆け下りていってしまった。

 

「(・・・・確かに、俺が手伝うよりも、十香1人の方が早く済みそうだな・・・・)」

 

ーーーー学習能力ゼロの塵芥虫以下な脳細胞しか持ち合わせていない下等生物めが。先ずは『彼女』を攻略する事を優先して欲しいと十香が暗に言っている事に気付かんのか?

 

「!?」

 

一瞬、ドラゴンの嫌味が聞こえたような気がして周囲を見回すが、当然ドラゴンの姿はなかった。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

確かに、天香の攻略が『目的』ではあるが、ソレはソレで新たな問題が1つ生まれてしまった。十香がいなくなった公園で天香と2人っきりになってしまった士道は、額に汗を垂らしながら無言になる。

今日のデートで、天香に対するイメージが変わったのは本当だが、ソレはあくまで十香と一緒にいる時の話であって、士道自身に対する態度は最初とあまり変わっていないのだ。

とは言え、このまま無言でいる訳にもいかない。元より今日のデートは、この天香と行うつもりだったのだ。彼女の心を開く事が出来なければ、恐らく霊力を封印する事は不可能だ。

今更ながら、この時間は十香の気遣いであると漸く理解できた。全く、ドラゴンの言う通り、本当に学習能力が無いと自嘲してしまうが、士道は気合いをいれるように拳を強く握った。

 

「と、取り敢えず・・・・座ろうか」

 

「・・・・む」

 

天香が短く答えて、公園外縁部に向いたベンチに腰掛ける。

存外素直に応じてくれたがーーーー多分ソレは、十香が残していった言葉に従っただけだろう。勝負はココからである。士道は天香の隣に腰掛け、言葉を続けた。

 

「なあーーーーどうだった、今日は?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「俺は楽しかったぞ。十香も楽しんでたみたいだし。何処か気に入った場所はあるか?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「桜並木とか、はんぐり〜とかさ。ほ、ほら、桜餅やドーナッツも美味しかったよな」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

士道がそれとなく話題を振ってみるも、天香は無言のまま、と言うか士道の存在など眼中にないと言わんばかりに街並みを見つめるだけだった。

 

「むぐう・・・・」

 

早くも心が折れかける士道だったが、こんな所で

諦める訳にはいかない。何か天香の興味を引く事のできる話題はないか、必死に無い頭を巡らせる。

 

「あ、そうだ天香。あのーーーー」

 

「ーーーー何故、こうなる」

 

と、不意に士道の言葉を遮るように、天香がポツリと言葉を零す。

 

「え・・・・? な、何の話だ?」

 

「今日の全てだ。ーーーー何故十香は私を顕現させた。何故貴様とのデェトとやらに私を連れ歩いた。貴様と共に過ごす事が、十香の『望み』ではないのか」

 

「ソレはーーーー」

 

士道はソコで言葉を止めた。

別に、『答え』を窮した訳では無い。十香が天香をデェトに誘った理由なんて、天香と一緒に楽しみたかったからに決まっている。もう1人の自分にも、自分の知る『素敵なもの』を見せたかっただけだろう。

けれど、士道には気になってしまったのだ。

天香の言葉が。ーーーー天香が何故、そんな事を言ったのかが。天香は今この時に置いては『神』のような存在と言っても過言ではない。だからこそ士道は『違和感』を覚えてしまったのだ。まるで十香に振り回されているかのようなーーーー否、“十香を中心と捉えている”かのような、その言葉に。

 

「天香、お前はーーーー」

 

だから士道は、半ば無意識の内に、その問いを発してしまった。既に1度発した問いを。ーーーー全ての『疑問の起点』となる、その問いを。

 

「ーーーー何で、この世界を創ったんだ?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

士道の言葉に、天香はピクリと眉が揺れる。

その表情に、士道は一瞬、しまったと思った。また感情に流されて余計な事を言ってしまった、と。しかし、言ってしまったものは仕方無い。ソレにコレは、いつかは必ず問わねばならない事だったのだ。

天香は暫しの間無言でいたが、やがてフンと鼻を鳴らし、士道を見下すように顎を上げた。

 

「言った筈だ。世界を手中に収めるのも悪くないと思った、とーーーー」

 

「ーーーー嘘だ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

士道が真っ直ぐに天香の目を見つめながら言うと、天香は顔を顰めて小さく舌打ちをした後、心底侮蔑したような視線で士道を見下す。

 

「随分と自信ありげに言うではないか、人間。力を求めるのに理由など要るものか。貴様とて偉そうな言葉をほざいているが、『彼』を失った恐怖心を埋める為に、精霊達の力を好き放題に振り回して、見苦しく無様で滑稽な姿を晒した事があっただろう?」

 

「うぐぁぅっ・・・・!!!」

 

天香に言われた言葉の刃が、【鏖殺公‹サンダルフォン›】となって士道の心臓に深く突き刺さって抉られ、士道の身体は少し蹲る。

散々精霊達に偉そうな言葉を言っておきながら晒した醜態の数々は、決して簡単に拭えるものではないであろう。

しかしコレまで、ドラゴンからのエゲツない程の嫌味・皮肉・悪口・暴言・毒舌・罵倒・面罵・痛罵の『逢魔時王必殺撃』を受けてきた士道は何とか持ち堪えて、天香の目をまた真っ直ぐ見据える。

 

「天香・・・・お前は俺みたいな、凄い力を手に入れて調子に乗って悪戯に振り回す大馬鹿野郎じゃあない。・・・・だから、お前の言っている事は『嘘』だと思う」

 

「ほう。少しは身の程を弁えているな。しかし、何故私が『嘘』を吐かねばならんのだ」

 

「ソレはーーーー分からない。でも、どうしても、お前がこんな事をするとは思えないんだ」

 

「戯れ言を。貴様が私の一体何を知ると言うのだ」

 

「ーーーー知ってるさ。少なくとも、お前が十香を大好きな事や、負けず嫌いな事、ソレにーーーー実は優しいって事くらいはな」

 

「貴様」

 

士道が言うと同時に、天香は憤然と息を吐いてベンチから立ち上った。

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