デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
精霊の転校生
ー士道sideー
「ちょっと。何してるのよ、士道」
「へ?」
自宅のリビングで。士道は妹の琴里(司令官モード)に声をかけられ、素っ頓狂な声を発した。
振り向いてみると、琴里は丸っこい愛嬌のある双眸は不機嫌そうに歪められ、口にくわえたチュッパチャップスの棒は、動物が威嚇するようにピンと立てられていた。
「何をって・・・・学校に行こうとしてるんだが」
士道の格好は来禅高校の制服(夏服)を着て、右手に鞄、左手に弁当の入ったランチパックを握り、どう見ても登校スタイルである。
が、琴里はアメリカのホームドラマのように肩をすくめ、首を振った。
「オーケイ、話を整理しましょう。士道が持っているものは何?」
「弁当だが」
「自分が食べるもの?」
「いや・・・・十香のだけど」
「それをどうやって十香に渡すの?」
「あん? 今日はバイクじゃなくて、十香と一緒に登校しようと思ってな。弁当はその時に渡すつもりだけど・・・・」
「・・・・あら? 以外ね。せっかくお隣に住んでて、クラスも同じだってのに、十香が隣に越してきてからの2週間、登校イベントを無視し続けてバイク登校していたのに、急にどういう事?」
「いや、まあ、そういえば十香と登校してなかったなぁっと思ってな・・・・」
「ふーん」
実のところ、士道は登校イベントの事を、まっっっっっっっっったく気づいておらず、先日の夜に“ある人物?”に助言されたのだ。
「(ドラゴンが助言しただなんて、言えないよなぁ・・・・)」
≪・・・・ふん≫
琴里はどうもドラゴンの事を嫌っている節があるので言えなかったが、実は前の日の夜、十香に弁当を作ろうと献立を考えていた士道に、ドラゴンが助言したのだ。
【このケジラミ以下の低級脳みそが。また新しい精霊が出現した時、〈プリンセス〉に構ってやれる訳にもいかなくなるのだ。一緒に登校したりして、一緒にいられる時はなるべく一緒にいて、好感度の調整をやっておけ。そんな事にも気づかないのか? 何のためにあんな“しょうもないゲームの訓練”をやっていたのだ? お前には家事以外の経験を活かす感性すら無いのか、このゴミクズが。下等生物からやり直してこい。いやお前ごときと比べられたら下等生物共が気の毒すぎるな】
四糸乃を封印してからの2週間あまり、ずっと黙りしていたドラゴンが、いきなりの暴言と毒舌の機関銃によるアドバイス?によって、それに気付き、士道は十香と登校しようと思ったのだ。
まあ、ドラゴンの助言で士道が、精神的に甚大なダメージを負い、思わず泣きそうになったのだが、そこは割愛する。
士道は鞄を拾い上げて玄関の方へ歩こうとすると、琴里が声をかけた。
「ちょっと士道。忘れ物よ」
「あ? 他に何かあったか」
「これよ、これ」
琴里に小さなインカムを渡され、『十香に嫉妬させないよう振る舞う訓練』を開始させる事になった。
琴里曰く、十香は士道が他の女の子と仲良くしているのが面白くないとの事。
士道が「何でだ?」と言うと、琴里と体内のドラゴンは心底小馬鹿にするように息を吐くが、とりあえず琴里はインカムを士道に装着させ、途中〈ラタトスク〉の機関員が十香の嫉妬を煽るように工作をし、士道はそれを受けつつ上手く対応しろとのことだ。
士道は司令官モードの琴里に逆らっても無駄だと知っているから、やれやれと肩をすくめて、玄関に向かった。
「(なあドラゴン。またある程度アドバイスしてくれねえか?)」
≪ま、貴様のようなウジ虫が嫉妬を煽られた〈プリンセス〉のフォローなど、〈プリンセス〉に暴食をやめろと言うのと同じくらい不可能だからな。特別にフォローしてやるから、しくじるでないぞ≫
「(分かってるよ・・・・)」
なんやかんや思っても、士道はドラゴンの知謀を宛にしているのだ。ドラゴンの存在が無ければ、士道は魔獣ファントムとまともに戦闘もできなかったからだ。
と、そこで士道の背に、再度琴里が声をかけた。
「ああ、そうそう、もう1つ。今日はちょっとした“ゲスト”がいるんだった。まあ挨拶程度になると思うけど、ちょっと話してあげてちょうだい」
「“ゲスト”?(誰の事だろうな、ドラゴン)」
≪察しろ、たわけが。おそらく“あの娘”がようやく検査を終えたのだろう≫
「(ああ、なるほど)」
ドラゴンに指摘され、士道もゲストが誰なのか察したところで、琴里はトントンと階段を上っていった。指示を出すと言っていたから、多分二階のベランダから〈フラクシナス〉に回収してもらうつもりだろう。
士道は玄関の扉を開け、外に出ると、眩しい日差しが網膜を襲った。
「ん・・・・まだ、6月5日なのに、日差しが強いな」
≪先月のウチに雨を使いきったのかもしれん。何しろ街が氷漬けになったほどだからな≫
とーーーそこで。
≪おい、ゲストが来たぞ≫
「お・・・・?」
陽光の中、五河家の真ん中に立っていた人物を目にして、思わず目を見開く。
そこにいたのは、琴里と同い年の女の子だった。
薄手の涼しげなワンピースを身に纏い、目元を覆い隠すように白の麦わら帽子を目深に被っている。帽子のつばの下からは、海のように青い髪が覗き、さらにその合間から、蒼玉<サファイア>の瞳が、チラリと士道の方を見ていた。
そして、もっとも特徴的なのはその左手に装着された、コミカルな意匠の施されたウサギの人形<パペット>だった。
そんな個性的な風貌の少女は、忘れる筈がない。士道は少女の名を呼んで、少女の元まで足を進めた。
「四糸乃!」
『やっはー、士道くん。ひっさしぶりだねー!』
「おう、『よしのん』も久しぶりだな」
と、四糸乃の左手に装着されていたウサギのパペット、四糸乃の友達の『よしのん』が、口をパクパクさせながら話しかけ、士道も小さく頷きながら『よしのん』に返事をした。
『よしのん』は言うなれば、四糸乃の中にいる別人格であり、パペットを通して周りとコミュニケーションを取ることができるので、『よしのん』のセリフと動きは、四糸乃の意思とは関係無く行われる。
ある意味では、士道とウィザードラゴンのような感じだ。関係制は大きく異なるが。
「もう検査とかは終わったのか?」
『んー、検査自体は結構前に終わってたんだけどねー。ちょーっと練習をしてたのさー』
『よしのん』は短い腕を楽しそうに動かしながら言ってくる。
「練習って?」
士道が言うと、『よしのん』が四糸乃の帽子のつばをくっと上げた。
「・・・・っ」
四糸乃が、怯えるようにビクッと肩を揺らすが、コクンと唾液を飲み込む仕草を見せたあと、震える唇を開いた。
「お・・・・っ、おはよう、ございます、士道さん・・・・っ!」
「おお!?」
≪始めて会った時に比べると、はっきり喋るようになったな≫
士道は目を見開いて軽く身体を反らし、ドラゴンが感心したように声を上げた。
しかし、恥ずかしがり屋で人見知りな四糸乃は、自分ではあまり喋りたがらず、少なくとも士道は、四糸乃のこんな大きな声を聞いたのは初めてだ。
と、そこで右耳に、〈フラクシナス〉にいる琴里が、フフンと言う声が聞こえた。
《どう? もう私や令音なんかとも話せるようになったのよ?》
「本当か? 凄いじゃないか四糸乃!」
士道が言うと、四糸乃は恥ずかしそうに帽子のつばを下げるが、口元をモゴモゴと嬉しそうに動かした。
すると右耳のインカムからチュッパチャップスを口の中で転がす音をさせてから、琴里が話を続けてきた。
曰く、まだ先になるが、四糸乃も艦外に住まわせるつもりであるとの事だ。四糸乃にはよしのんっという話し相手がおり、十香よりもストレスの蓄積が少ないが、〈ラタトスク〉としては、精霊にキチンと社会性を身につけて貰い、幸せな生活を送ってほしいとの事。
士道(&ドラゴン)も賛成の意を伝えると、艦外で暮らす事になれば第一候補は五河家の隣に建てられたマンションとなるので、顔見せとして四糸乃を送ったのだ。
と、そこで、マンションの自動ドアが静かに開いて、夏服の十香が大きな欠伸を溢しながら歩いてきた。
「・・・・っ」
≪夏服ごときでときめくな、このムッツリスケベが≫
「(う、うるせぇ!)」
十香の夏服にドキッとした士道にドラゴンが呆れた声を上げると、士道は平静に戻った。
「ん・・・・? シドー!?」
十香はそこでようやく士道の存在に気づき、目を見開いて声を上げて士道に近づく。
「どうしたのだ、朝に会うとは珍しいではないか!」
≪なるべく目を泳がせるな。自然体で接しろ≫
「あ、ああ。たまには十香と一緒に学校に行ってみるのもいいかなぁ・・・・なんてさ」
ドラゴンに指南された士道は、内心必死に目を泳がせないように十香を見ながら言うと、十香が薄く頬を染めながらパァっと明るくした。
「そうか! うむ、それは、その、あれだ、良いと思うぞ!」
十香が嬉しそうに深く首肯しストレートなまでに喜ぶのを見ると、士道もなんだか気恥ずかしくなったが、手にしたランチバックを十香に差し出す。
「あと、これ。今日の分な」
「おお!」
十香は満面の笑みを浮かべて受け取った。
「今日の、今日のオカズは何だ!?」
「ん、今日はアスパラのベーコン巻きとメンチカツに卵焼き、それとマカロニサラダにプチトマトだな。あ、ご飯はチキンライスにしてあるぞ」
「なんと・・・・!」
士道がメニューを言うと、戦慄したような顔を作った十香は、何やら辺りの様子を窺い始め、ランチバックを抱え込む。
「だ、大丈夫なのかシドー」
「何がだ?」
≪ハァ・・・・≫
士道はポカンとなり、ドラゴンは呆れたため息を洩らし、十香は声をひそめながら続ける。
「アスパラのベーコン巻きとメンチカツを一緒に入れてしまうなどという贅沢な真似、皆に知られれば大変なことにならんか・・・・? 最悪、この弁当を巡って暴動にーーー」
「いや、ならねえって」
≪どうしたらそんな発想になるのだ?≫
等と駄弁っていると、十香が不意に四糸乃の存在に気づいた。
「ぬ? おお、四糸乃によしのんではないか。久しぶりだな!」
「・・・・っ!」
十香は屈託のない笑みを浮かべて話しかけるが、四糸乃は肩を震わせる。
『がんばれっ! がんばれっ!』
「っ、う、うん・・・・」
よしのんからエールを送られ、踏みとどまった四糸乃は、息を吸って、意を決する。
「あ・・・・っ、あめんぼ、あかいな、あいうえお・・・・っ!」
≪発生練習をしてどうする・・・・≫
「・・・・むう?」
「四糸乃?」
ドラゴンがあちゃーと言わんばかり声を上げ、十香は困惑気味に眉をひそめ、士道が苦笑するが、すかさずよしのんがパタパタと手を振る。
『あー、今のナシ! 練習の成果が出すぎただけだからね! リテイク! もっかい!』
よしのんは四糸乃と二、三言葉を交わし、四糸乃が小さく頷き、再び十香の前に話しかける。
「おーーーおは、よう・・・・ござい、ます・・・・」
「おお、おはようだ!」
士道の時よりも小さな声で、しかしはっきりと、言葉を口にし、十香も元気良く返答した。
それからドラゴンや琴里達からアドバイスを受けながら、十香と四糸乃の服装を「可愛い」とベタ褒めしたり、〈フラクシナス〉に戻る四糸乃と別れて、登校しようとするが、十香がブラジャーを着けてなく、それを士道が着させると言うハプニングが起こったり、琴里達が用意した『登校イベント』や、学校に到着すると勘違いで『ラブレターイベント』のフラグを、士道自身でへし折ったりしたが。
ペナルティ無しになり琴里は残念そうにし、どんなペナルティなのか士道が聞くと、『昔士道が初めて髪にワックスをつけて、「俺ちょっとカッコいいんじゃね?」な顔で角度に拘って撮った写真を、街中にばら蒔く』だった。
士道は「洒落にならねえ!」と悲鳴を上げ、ドラゴンは≪お前は簡単に弱味を握られるな、このナルシスト≫と侮蔑の言葉を冷徹に呟いた。
《さて、私もそろそろホームルームだし、学校に向かわせてもらう事にするわ。じゃあ、今日の教訓を忘れないようにね》
「まったく・・・・」
≪今日の教訓を後でノートにでもメモっておけ、お前の拙すぎる脳みそでは3歩歩いたら忘却の彼方だろうからな≫
「(うるせぇよ!!)」
琴里との通信が切れて、ドラゴンの暴言付きアドバイスにため息を吐く士道は、そのまま十香を連れて、とりあえず教室に到着すると、黒板近くにいたクラスメートの殿町が、士道の方に目を向ける。
「あー? なんだよいつもより遅いと思ったら十香ちゃんと一緒かよ。うーわ、うーわ」
なんて、渋ーい顔で言いながら、手にしていたチョークで黒板に相合い傘を描き、もちろん名前には、『五河』『夜刀神』と。
「小学生かよ」
≪くだらん≫
乾いた笑みを浮かべる士道と呆れた様子のドラゴン違い、十香は士道と殿町を困った様子で交互に見た。
「む・・・・むう、一緒に学校に来るのは駄目だったのか・・・・? 知らなかったぞ・・・・」
「い、いやー、んなこたぁないのよ十香ちゃん? これは様式美見たいもんと言うかー、リア充爆発しろ的なアレと言うかー」
殿町が焦った様子で落書きを消し、あたふたと手を振りながら説明すると、十香は目を丸くしてキョトンとする。
「リア充。なんだそれは」
「あー、五河みたいに女の子に不自由しないファッキンナイスガイのことだよ」
「おい・・・・」
≪女に不自由しまくりの負け犬が・・・・≫
士道が半眼で睨み、ドラゴンは心底呆れた様子で呟くが、殿町は悪びれた様子もなく、「いー!」と、士道に向けて歯茎を見せてきた。
「むう、そうなのか。だが・・・・シドーが爆発するのは、なんだ・・・・とても悲しい。何とかすることはできないだろうか・・・・?」
茶化しても冗談に乗っている様子でもなく、真摯に言う十香のピュアな視線に殿町はーーー。
「ち・・・・ッ、ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
と叫んで廊下の方に走っていった。
「ど、どうしたのだ、殿町は?」
「まあ・・・・なんだ、気にしてやるな。そのうち戻ってくるだろ」
士道はそう言ってから自分の席に歩くと、そこにはいつものごとく、折紙がのである。
「おう、おはよう・・・・鳶一」
「・・・・・・・・」
凄まじいプレッシャーを放つ折紙。
≪・・・・名前で呼べ≫
「お、折紙」
「おはよう、士道」
言い直した士道に、折紙は小さく頷きながら返した。が、士道の肩越しにいる十香の姿を認めると、視線を鋭くする。
「一緒に登校してきたの?」
「え? あ、ああ・・・・そ、そうだけど」
「そう」
「・・・・ぬ?」
そこはかとなく威圧感を十香に向けて放つ折紙に、十香も気づき、自分の席に鞄とランチバックを落ち着けた十香が、折紙に顔を向けた。
「なんだ、何か用か?」
「別に」
「・・・・ふん」
不快感を隠すことなく、十香が鼻を鳴らす。
「(この二人、仲良くできないのかよ・・・・)」
≪前にも言ったが、本当にお前は脳みそが蕩けているな。そんな簡単にお手て繋いで仲良しになれる間柄だと思っているのか? この平和にボケて現実を直視しない、自分にとって都合の良い事しか考えられない愚か者が。そのウチに大失敗をするかもな、そのボケた考え方を改めない限り≫
「(うるせぇよ・・・・!)」
と、そこでスピーカーからチャイムが鳴り響いた。
「・・・・! ほ、ほら、ホームルームだ! 十香、ちゃんと席に着け。な!?」
「ぬ? う、うむ・・・・」
とりあえず十香は席に着き。周囲に散らばっていたクラスメート達も次々と着席した。ちなみに殿町も目立たないように帰って来た。
ほどなくして、教室の扉が開き、タマちゃん教諭が入ってきた。
「はい、みなさんおはよぉごさいます。あ、いけない。今日はみんなにお知らせがあるんでした」
いつものごとくホワホワした挨拶をしてからタマちゃんがそう言って、教室がざわめく。
「ふふ、なんとねえ、このクラスに、転校生が来るのです!」
ビシッ、とポーズをつけながらタマちゃんが叫ぶ。すると教室中から、『おおおおおおおおおおおおお!?』と地鳴りのような声が響いた。
「・・・・ん?」
≪この気配は・・・・≫
だがしかし、士道は首を捻らせ、ドラゴンは訝しそうに教室の扉に目を向ける。
このクラスは十香が二ヶ月前に来たばかりであり、人数が不足しているわけでもない。
「さ、入ってきてー」
タマちゃんが扉の方に顔を向けと、ゆっくりと扉が開き、転校生が教室に入ってくる。
その瞬間、教室は水を打ったように静まり返った。
姿を現したのは、一人の少女だった。この暑い中で冬服のブレザーをきっちりと着込み、足には黒のタイツを穿いていた。
影と形容がよく似合う、漆黒の髪色。長い前髪は顔の左半分を覆い隠しており、右目しか見とれなかった。
そして少女が、十香に、人外の美貌を備えた精霊に、勝るとも劣らない妖しい魅力を放っていた。まるで妖しい魅惑的な妖花の美貌を備えていることは容易にしれた。
ゴクリ、とクラスの皆が唾液を飲み込む音が聞こえる。
「さ、じゃあ自己紹介をお願いしますね」
「ええ」
タマちゃん先生が促すと、少女は優美な仕草で頷き、チョークを手に取った。
そして黒板に、美しい字で『時崎狂三』の名を記す。
「時崎狂三<トキサキ クルミ>と申しますわ」
そして、そのよく響く声で、その少女、狂三はこう続けた。
「わたくし、『精霊』ですのよ」
「・・・・ッ!?」
≪ッ!!≫
その一言に、士道達は心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われ、ドラゴンは鋭い視線を狂三に向けた。
心なしかその狂三の視線は、士道に向けられているような気がした。
ざわつく生徒達の中。十香と折紙だけは、士道と同じ反応をしめす。
タマちゃん先生が狂三が言葉を継がないので、終了を示した。
「それじゃあ時崎さん、空いている席に座ってくれますか?」
「ええ。でも、その前に、1つお願いがあるのですけれど」
「ん? 何ですか?」
タマちゃん先生が言うと、狂三は指を1本立てて顎に当てた。
「わたくし、転校してきたばかりでこの学校のことがよくわかりませんの。放課後にでも構いませんから、誰かに案内していただきたいのですけれど」
「あ、なるほど。そうですねえ・・・・じゃあクラス委員のーーー」
だが狂三は、先生の言葉の途中で前方に歩き出すと、士道の席の真ん中までやって来た。
「ねえ、お願いできませんこと? 士道さん」
「え・・・・? お、俺・・・・? て言うか何で名前をーーー」
「駄目ですの・・・・?」
予想外の事態に、士道は目を点にして呆然と声を発すると、狂三は、さも悲しそうに、断られたら泣いてしまいますわ、みたいな顔を作る。
「い、いや、そんなことは・・・・」
「じゃあ決まりですわね。よろしくお願いしますわ、士道さん。それと・・・・」
狂三は、スッ、と士道の顔の右側、右耳に口を近づけ、ソッと呟く。
「よろしくお願いしますわね。・・・・『ドラゴンさん』」
「≪ッッ!!??≫」
士道と、士道の体内のドラゴンが目を見開いて驚愕するが、狂三は士道から離れ、ニコリと微笑むと、ポカンとしたクラスメートの視線の中、軽やかな足取りで指定された席に歩いて行った。
次回、新たな精霊と士道(&ドラゴン)がデートに挑む。