デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
午後の6時。
一通り学校内の施設を案内を終えて(十香が一緒にいる為、〈ラタトスク〉からの指示はソフトな物になり、好感度を上げる事はできなかった。が、神無月が空気を読まずまた変態的な提案をして黒服の機関員に連行された)、士道と十香と別れて、1人夕日の道を歩く狂三。
「ーーーああ、ああ。いけませんわね。ーーー少し我慢しないと、せっかくですもの。もう少し学校生活を楽しみたいですわ」
自分に言い聞かせるように呟き、ステップを踏むようにクルリと身体を回転させる。
「・・・・うふふ、お楽しみは、最後にとっておきませんと」
と、踊るように道を歩いていた狂三は、ピタッと止まると、何故か人目を避けるように路地裏にコッソリと入っていった。
「あらあら・・・・」
『グゥゥゥゥゥ・・・・!』
路地裏を少し歩いた狂三が周りを見ると、進む道先に、『ファントム グール』達が現れ、槍を狂三に突き立てるように構えていた。
「まったく。『メデューサさん』も『フェニックスさん』も、相変わらず不粋な事をしますわね・・・・」
すぐ目の前に異形の怪物達がひしめいているにも関わらず、狂三はうんざりしたような声色を発した。
『グゥゥゥ、ウッ! ウォオッ!!』
グールの一体が槍を突き出し突撃しようとしたが、突如、グールの足元から影が広がり、そこから現れた白い手が無数に生え、グール達の身体を影に引きずり込んでいく。
『グワァアッ!!』
『ガァアアッ!!』
『ゴォアアッ!!』
他のグール達が一斉に悲鳴を上げるが、もう遅い。
「うふふ、ふふ」
狂三が唇を笑みの形に歪めると、グール達は全て、影の中に引きずり込まれた。
「ふぅ、“食べる”と少し胃がもたれますけれど・・・・近いうちにメインディッシュが控えていますし、肩慣らしならぬ舌慣らし、としておきますわ」
狂三は、パン、と両手を合わせた。
「ーーーいただきます」
狂三は料理を味わうようにしばし目を伏せると、息を吐いてお腹をさすり、少し顔をしかめた。まるで苦手な食べ物を食べたかのようにーーー。
「やはり、“精霊の霊力と魔獣の魔力は反発し合う”だけあって、あまり食べたいと思えませんわね・・・・あら?」
狂三は自分に向かって迫り来る風切り音に、眉をピクリと動かした。
「っ!」
狂三が空を見上げると、ちょうど頭上から、“橙色の大型の鳥が4匹”、狂三に向かって急降下するが、狂三は寸前で回避すると、鳥達は地面に激突して地面を少し爆裂させて消えていった。
「ーーーち、避けやがったでやがりますか、相変わらず勘が良いようでやがりますね、〈ナイトメア〉」
狂三の正面に、緑色の複眼に、ライオンの鬣を彷彿させる金色のマスク、黒のインナースーツと、左肩に金色のライオンの頭を装備し、右肩にはハヤブサのような頭部がついた橙色のマントを装備させ、左手にはサーベルを持ち、士道のウィザード、識別名〈仮面ライダー〉と似た感じがする仮面の戦士が舞い降りた。
「あらあら、あなたは・・・・“崇宮真那”さん、でしたかしら?」
狂三が小さく首を傾げながら言うと、“真那”と呼ばれた仮面の戦士はフンと不機嫌そうに鼻を鳴らして、手に持っていたサーベルを狂三に向けて突き出す。
「私の名前を覚えてやがった事は褒めてやりやがりますが、気安く呼ばれるのは反吐がでやがります」
「あら、これは失礼しましたわ」
狂三はペコリと頭を下げ、素直に謝ったが、“真那”はサーベルを下ろさなかった。
「でも、お名前は大事でしてよ。わたくしも〈ナイトメア〉なんて呼ばれるのは悲しいですわ。時崎狂三と呼んでくださいませんこと?」
狂三がそう言うと、“真那”は突き出したサーベルを握る手を強くする。
「大事だから、貴様には呼んで欲しくねーんです。大事だから、貴様は呼んでやんねーんです」
「難しいお方」
「黙れよ、精霊。そんなに呼びたいんなら、そうでやがりますね・・・・『ーーーー』、とでも呼べば良いでやがりますよ」
“真那”は突き出したサーベルを構え直し、狂三は、肌の表面がちりつくのを感じた。
ー士道sideー
「おー! 我が愛しき麗しき君よ! 俺も君に会えなくて寂しいよー!」
「シドー? おっちゃんはどうしたのだ?」
「・・・・多分、奥さんからの手紙が来たんだな」
《おばさんからの手紙なんて三ヶ月ぶりね・・・・》
目の前で手紙を片手にブロードウェイみたいに芝居のようなポーズをする輪島を見て、十香は首を傾げ、士道は半眼になり、まだ通信が繋がっていたインカムから、琴里の呆れた声が響いた。
狂三と別れた後、士道は十香を伴って、近所のスーパーに夕食の材料を買った。ちょうどタイムセールが始まったばかりの店に入り、三割引の合い挽き肉が大量に手に入った。
スーパーを出るとちょうど輪島から「ちょっと来てくれ」と、連絡があったので面影堂に来てみれば、この有り様であった。
「おお士道に十香ちゃん! 良いところに来た! 実はな!」
「おばさんからの手紙が来たんだろ? 分かってるよ」
「なんだ見てたのか。なら見ろ! 我が最愛の妻からの手紙だ!」
士道が手紙を読み、手紙と一緒に送られた写真を見ると、輪島の奥さんが写っていた。
「おばさん確か仕事で今はメキシコだったけ?」
「あぁ! メキシコの本場タコスは中々辛口で旨いと言っていたぞ!」
キャリアウーマンである輪島の奥さんは、数ヶ月ごとに世界のあらゆる国を飛んでいて仕事をこなしている。普通ここまで行くと浮気や不倫を心配するが、輪島夫妻に対しては、ドラゴン&琴里もそういう雰囲気を微塵も感じないと言っていた。
一応士道も浮気や不倫なんて有るわけ無いと言ったが、ドラゴンは。
【≪お前ごとき無知蒙昧で人を見る目がまったく無い善意優先、世の中みんな優しくて良い人ばかりだ、とほざいている性善説に酔ったお花畑脳ミソの眼力など、充てになるとでも思っているのか? 自己評価が随分高いのだなこの身の程知らずのナルシスト≫】
と断言されてしまい、悔しい思いをしたのは割愛する。
「それとな、女房がこんな物を送ってきたんだ・・・・」
急にシリアスな顔になった輪島は、手紙と写真が入っていた箱から、“赤い石”を取り出した。
「っ! おっちゃん、それって・・・・!」
「シドー。あの石はなんなのだ?」
「あれは魔法石。あの石をおっちゃんが生成する事で、俺が使う魔法のリングが出来るんだ。どんな魔法になるかは、おっちゃんにも分からないけどな」
「おおっ! つまりシドーが新しいマホーを得るのだな?!」
《ふぅん、あれが魔法石か・・・・》
十香は目を光らせ、琴里は通信と浮遊カメラ越しで魔法石を見ていた。
「だが士道。俺の魔法石と向き合ってきた半生の経験が騒ぐんだ。この魔法石はかなりの力を秘めているような気がするな・・・・」
「えっ?」
「まぁ一応造っては見るが、使いこなせるかどうかは士道、お前しだいだぞ」
◇
「(ドラゴン。あの魔法石からどんなリングが生まれると思う?)」
面影堂を出た士道はドラゴンに聞いてみた。
≪魔法石から漏れ出る魔力から推察するに、おそらく今までのような魔法用のリングではなく、変身用のリングなのかもしれん≫
「(変身用って事は、新たな力を使うって事なのか?)」
≪ふん。使いこなせるかどうかは貴様しだいと、あの中年も言っていたが、お前のような軟弱で貧弱で脆弱で極弱なモヤシなボクちゃんに使えるとはとてもじゃないが考えられんのだがな≫
「(だからお前はもう少し言い方をだな・・・・!)」
「シドー! 今日の夕食はなんだ? ハンバーグか?」
ドラゴンに文句を言おうとした士道に、十香が材料からメニューを推し量り、興奮気味に聞いてきた。
《あ、私もそれに1票》
ちゃっかり聞いてくる琴里。士道は小さく肩をすくめると、気分を変えて話をする。
「あー、どうすっかなあ。大根のそぼろ煮とか三色丼って手もあるんだがなー」
「む、むう、まあそれも悪くないが、ハンバーグは駄目なのか?」
《ちょっと何言ってるのよ。せっかく挽き肉がいっぱいあるんだから、小出しにしないで一気に使いなさいよ》
と、十香が眉を八の字にしながら言い、インカムから琴里の声が響いたところで。
「ん・・・・?」
≪ぬ・・・・?≫
前方から、スニーカーの底でアスファルトの道を擦るような音が聞こえてきて、ふと士道と、何かの気配を体内のドラゴンがそちらに向けた。
「・・・・・・・・」
そこには、ポニーテールに泣き黒子が特徴的な、琴里と同年代くらいの女の子が、驚愕に目を見開きながら立っていた。
≪(この娘・・・・)≫
パーカーに両開きの扉のようなバックルを着けたベルトを巻いてキュロットスニーカーというラフな格好。白いスニーカーには、何故かついて間もないと思われる赤い汚れが目立っていた。・・・・まるで、血痕のような跡があった。
「・・・・?」
見知らぬ顔・・・・のはずなのだが、士道は小さく首を捻った。
「(なんだこの子? 知らない筈なのに・・・・どこかで会った事があるような・・・・??)」
≪おい。その娘、お前の方を見ているぞ≫
「(え?)」
ドラゴンにそう言われ、士道は改めて少女を見ようとしたところで。
「に」
少女が、震える唇を動かした。
「に?」
士道が聞き返すと、少女は答えず、バッとその場から駆け出すと、士道の胸に飛び込んできた。
「な・・・・」
そのまま身体に手を回し、感極まったようにぎゅぅぅ、と抱きついてくる。戸惑う士道を余所に、少女が士道の胸に顔を埋めながら、こう言ったのだ。
「ーーー兄様・・・・ッ!!」
《「は・・・・はぁっ!?」》
その瞬間、路上と〈フラクシナス〉艦橋で、五河兄妹の声が見事なまでにシンクロした。
≪・・・・・・・・・・・・≫
≪・・・・・・・・・・・・≫
だが、“士道と少女の体内にいる同居人達”は、体内越しでお互いを睨み合っていた。
◇
「おお、ここが兄様の今のお家でいやがりますかっ!」
五河家の前に辿り着くなり、少女が短いポニーテールをブンブンと振りながら、敬語になっているんだかいないんだかよく分からない言葉を弾ませた。
自称・士道の妹。名前は崇宮真那と言うらしい。
胡散臭い事この上ない少女ではあったが・・・・路上で突然士道に抱きついたあと、その場にへたり込み、目に涙を浮かべながら、自分がどれだけ士道に合いたかったのかを切々と語りだし、仕方なくここに連れて来たのである。
無論、琴里にも許可をとってある。と言えかーーー真那を五河家に連れてこいと言ったのは、他ならぬ琴里なのだった。
「む、しかし驚いたぞ。シドーにもう1人妹がいるとは・・・・」
と、十香がマジマジと見つめながら言ってくる。
「いや・・・・そんな記憶はないんだけどな」
「そうなのか? シドーによく似ていると思うのだが・・・・」
「当然です! 妹でいやがりますから!」
十香がそう言うと、真那が自信満々と言った様子で腕組みする。
だが真那はすぐにハッとした顔を作ると、複雑そうな表情で十香と士道を見てきた。
「・・・・しかし兄様。真那はあまり感心しねーです」
「は? なにがだ・・・・?」
「決まっていやがります! 鳶一、じゃなくて、ええと、ね、義姉様<ねえさま>というものがありながら、他の女性とも関係を持つなどと・・・・」
真那がコホンと咳払いをしてから、頬を朱に染めて言ってくる。
「は・・・・はぁっ!?」
「? どうかしやがりましたか」
「ツッコミどころ多すぎるわ! まず何だって? お前、折紙と知り合いなのか?」
「ええ、まあ。ひょんなことから」
真那は誤魔化すように目を泳がせながら言ってくる。しかし今は他に気に留めなければならない事があった。
「それで・・・・その義姉様ってのは一体なんだ・・・・?」
「いや、私もそのよびかたに抵抗が無くはねーですが、将来的にそうなるからと・・・・」
「そんな予定はないからな!?」
「そ、そうなのですか・・・・?」
真那は困惑気味に眉をひそめた。
「しかし、そうだとしても兄様の二股疑惑は・・・・」
「ふたまた。なんだそれは?」
十香が首を傾げ、また不穏な言葉に食いついてくれたものだ。
士道が弁明、というより誤魔化しに入る前に、真那が十香に向けて声を発した。
「単刀直入に訊きます。十香さんでしたね。貴女は兄様とお付き合いしていやがられるのですか?」
「な・・・・っ!」
顔を赤くした士道が二人の間に入る。
「な、何言ってやがんだ、そんなわけねえだろ!」
しかし真那は十香に訝しげな目を向ける。
「・・・・十香さん? 兄様とデートなどしやがったことは?」
と、真那が士道の脇から顔を出し、十香に質問を投げた。
「おお、あるぞ!」
「・・・・・・・・」
真那が、じとーっとした目で士道を睨んでくる。
「い、いや、そのだな・・・・」
嘘でない分否定がしづらい。士道は顔中に汗を浮かべて後ずさった。
「十香さん。もしかして、“ちゅー”も既に・・・・?」
真那が頬を染めながら、恐る恐るといった調子で、十香に再度質問した。
「“ちゅー”?」
「き、“キス”のことです」
「ん、したぞ?」
「・・・・ッ!!」
あっけらかんと答えた十香。真那はくわっと見開いて士道を睨む。
「ふ、不潔ですっ!」
「お、落ち着けって・・・・」
「まさか兄様がこんなジゴロになっていようとは・・・・! 真那は悲しいです! 矯正です! 矯正が必要です!」
「シドー、ジゴロとはなんだ?」
「あー、もうッ!」
今度は十香がまたしても、興味津々といった様子で問いかけてくる。士道は頭を掻きむしると、十香の背を押して隣のマンションの前に移動させた。
「ぬ? シドー、なぜ押すのだ?」
「話がややこしくなるから、とりあえず自分の部屋に戻っててくれ! な!?」
「むう、だがしかし」
「今日の夕飯ハンバーグにしてやっから!」
「おお、本当か!?」
士道がそう言うと、十香は目をキラキラと輝かせて、手を振りながらマンションに駆けていった。
「シドー! 上に目玉焼きもだぞ!」
「はいはい」
士道も手を振り、その背を見送った。
「・・・・随分と女性のあしらい方に慣れていやがるようですね」
真那が半眼を作りながらそう言ってくる。士道は聞こえなかった振りをしながら、五河家の門をくぐった。
そして、ノブに手をかけて、玄関を開けるとーーー
「ーーーおかえり、“おにーちゃん”」
「(あっ、さらなる嵐の予感・・・・)」
士道の背中に、嫌~な汗が流れた。
ードラゴンsideー
『・・・・なんだ? あの小娘の中から感じる気配は?』
士道の体内にいるウィザードラゴンは、士道の妹と名乗る少女、崇宮真那から感じる、『魔獣 ファントム』と似た気配に、ドラゴンは警戒心を露にしていた。
イヤ、それだけではない、初めて遭遇した時から気配だけでなく、“真那のスニーカーに付着している赤い汚れ”が、さらに警戒心を強くさせていた。
『あれは間違いない、“血”だ・・・・!』
次回、真那のもう1つの姿が登場します。