デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
玄関で待ち構えていた私服の琴里(黒のリボンを着けた司令官モード)が、妙に『おにーちゃん』の部分を強調して言ってきた。
「お、おう・・・・ただいま」
「あら、そちらはどなた?」
言い知れぬプレッシャーに嫌~な汗を滲ませながらも、士道は小さく手を上げて返し、琴里はわざとらしく、士道の隣にいる真那に視線をやってから定形通りの質問をした。
ずっと家にいたということになっている琴里が、先ほどの路上の出来事を知っているのはおかしいので仕方ない。
「あ、ああ・・・・ちょっとそこで出会ってな。なんでもーーーーーー」
「お家の方でいらっしゃいやがりますか!? ウチの兄様が世話になっていやがります!」
士道の言葉の途中で、真那が先に進み出て、満面の笑みでそう言って、半ば無理矢理琴里の手を取ってワッシワッシと握手を交わし、珍しく琴里(司令官モード)が、辟易気味に汗を垂らした。
「兄様? 士道が?」
「はい! 私、崇宮真那と申します! 兄様の妹です!」
「・・・・まあ、とりあえず入って。詳しい話を聞かせてちょうだい」
「はい!」
鼻から息を吐き出すと、琴里は真那の手を払って家の奥を示し、真那は元気よく返事をして、琴里の後をついていく。
「・・・・はあ、なんだか厄介な事になりそうだな。なあドラゴン?」
≪・・・・・・・・・・・・≫
小さくため息を吐いた士道がドラゴンに話しかけるが、ドラゴンは先ほどまで狂三と一緒にいたときのように全身から攻撃的なプレッシャーを放っていた。
「あの、ドラゴンさん・・・・?」
≪早く行け。あの自称妹と名乗る小娘から目を離すな≫
士道はドラゴンの言葉に首を傾げながらも、靴を脱いでリビングに入っていくと、既にソファに向かい合って座る琴里と真那。
「・・・・・・・・」
琴里に顎で示され、真那の隣に腰かけ、まるで三者面談のようだ。
「ーーーさて、と。じゃあ話を聞きたいんだけど」
「はい!」
琴里の言葉に真那が快活に返事する。
「真那、って言ったかしら。あなたは・・・・自分が士道の妹だって言うのよね?」
「その通りです」
深々と頷く真那を、琴里はくわえていたチュッパチャップスの棒をピンと立てながら窺うように言葉を続ける。
「私は五河琴里。ーーー私も、士道の妹なのだけれど」
「・・・・?」
琴里の言葉に真那は一瞬首を傾げーーー。
「はっ・・・・! と言うことはまさか、姉様・・・・!?」
「違うわっ!」
「あ、これは失礼。ーーーごめんね琴里。お姉ちゃんてっきり」
「アナタの妹でもないわよ!?」
≪何だこの頭の悪い漫才は?≫
「・・・・・・・・・・・・」
「はっ・・・・コホン」
司令官モードの琴里では珍しく大声を発し、ドラゴンが呆れた声を洩らし、士道が驚いた目で見やると、琴里は小さく咳払いをした。
「いやはは、てっきり私の記憶にねー姉妹がいやがるのかと思いました」
「まったく・・・・」
琴里は、乱されたペースを立て直そうと、ため息混じりに頭をかく。
「しかし・・・・妹、ね」
琴里が半眼を作って真那を睨み付ける。士道は幼少の頃、実の母親に捨てられて以来、この五河家の子供として育てられた。
真那が本当に血の繋がった妹という可能性も否定できなかったので、嘘や妄言と断じることができない。
しかし、士道でさえ記憶が曖昧な幼少期に離ればなれになったことを、士道よりも年下の真那が覚えているというのも信じがたい話なのだが。
「ええと・・・・真那。ちょっと質問いいか?」
「はい! 何でしょう、兄様!」
「・・・・・・・・フン」
士道が声をかけると、真那は心底嬉しそうに、それこそ跳び上がらんばかりの勢いで答えた。琴里は何故か不機嫌そうに鼻を鳴らしたが。
「その・・・・すまん、俺は君の事を覚えてないんだが・・・・」
「無理もねーです」
真那が腕組みし、ウンウンと頷く。
士道はゴクリと唾液を飲み下すと、もっとも気になっていることを口に出した。
「1つ訊きたいんだがーーー君のお母さんって・・・・今は」
そう。もし真那が士道の実の妹だというのなら、それを知っているはずだ。
士道を捨てた、実の母親。
だがーーー。
「さあ」
「え・・・・?」
真那は首を傾げると、あっけらかんとした調子でそう言い、士道は眉根を寄せ、まさか真那も士道の後、捨てられたのではないかと思った。
士道の表情から思考を推し量ったのか、真那が首を横に振ってくる。
「あ、ちげーますちげーます。そう言うことじゃなくーーー」
真那は恥ずかしそうに苦笑すると、手元に置かれた紅茶を一口飲んでから言葉を続ける。
「私ーーー実は昔の記憶がスパッとねーんです」
≪何?≫
「・・・・なんですって?」
真那の言葉にドラゴンと琴里が不審そうな色を濃くした。琴里は軽く姿勢を直して真那に向かい、再び唇を開く。
「昔のって、一体どれくらい?」
「そうですね、ここ2、3年の事は覚えてやがるんですが、それ以前はちょっと」
「2、3年って・・・・じゃあなんで士道が自分の兄だなんてわかるのよ」
琴里がそう言いと、真那は胸元から銀色のロケットを取り出して、中に収められている、“幼い士道と真那の姿が写った”、やたらと色あせた写真を見せた。
「これ・・・・俺か?(どう思うドラゴン?)」
≪このマヌケ面には面影があるな。間違いなくこのアホ面は貴様だ≫
「(マヌケ面とかアホ面って言う必要あるかなっっ??!!)」
体内にいるドラゴンと口喧嘩する士道。しかし琴里は怪訝そうな顔を作る。
「ちょっと待ってよ。これ、士道は10歳くらいじゃない? その頃にはもう、家に来ていた筈でしょ?」
「あ・・・・そう言えば」
≪(それにロケットに収められていた写真の色褪せ具合を見ると、数年の年月が経っている感じがない・・・・。まるで十数年くらいの歳月が経ったような・・・・)≫
だがこの写真の男の子が士道にしか見えないのもまた、事実だった。
「そうなのですか? 不思議な事もあるものですねえ」
「不思議って・・・・他人の空似なんじゃないの? 確かに・・・・かなり似てはいるけども」
「いえ、間違いねーです。兄様は兄様です」
「・・・・なんでそう言い切れるのよ」
琴里がそう問うが、真那は自信満々に胸をドンと叩いた。
「そこはそれ、兄妹の絆で!」
≪≪≪≪≪真那(ちゃん)、根拠も何も無いって・・・・≫≫≫≫≫
真那の中の“同居人達?”は、こぞって呆れた。
「・・・・・・・・」
琴里も話にならないと言った調子で肩をすくめ、はふぅと吐息した。少しだけ安堵したような様子だった。
しかし真那は、感慨深げに目を伏せて言葉を続ける。
「いや、自分でも驚いてやがるのです。本当にビックリしました。兄様を見た時にこう、ビビっと来たのです」
「何それ。安い一目惚れじゃあるまいし」
「はっ、これは一目惚れでしたか。・・・・琴里さん、お兄さんを私にください」
「やるかッ!」
「・・・・・・・・・・・・」
≪・・・・・・・・・・・・≫
「ハッ!・・・・コホン」
思わず反射的に叫んだ琴里は、士道とドラゴンがジーと見つけていると気づくと、ハッとした様子でわざとらしく咳払いをした。
「とにかく、よ。そんな薄弱な理由で妹だなんて言われても困るわ。第一、士道はもうウチの家族なの。それを今さら連れて行こうだなんてーーー」
「そんつもりはねーですよ?」
「え?」
真那があっけらかんと答えると、以外だったのか琴里は目を丸くする。
「兄様を家族として受け入れてくれやがったこの家の方々には、感謝の言葉もねーです。兄様が幸せに暮らしているのなら、それだけで真那は満足です」
そう言って、真那がテーブルを越えて、再び琴里の手を取る。
「む・・・・」
琴里はバツが悪そうに口をへの字に結ぶ。
「ふん・・・・何よ、一応わかっているみたいじゃない」
「ええ。ーーーボンヤリとした記憶ではありますが、兄様がどこかへ行ってしまった事だけは覚えています。確かに寂しかったですが、それ以上に、兄様がちゃんと元気でいるかどうか不安でした。ーーーだから、今兄様がきちんと生活できている事が分かってとても嬉しいです。こんなに可愛らしい義妹さんもいやがるようですし」
そう言って、真那がニッと笑う。
琴里は頬を染め、居心地悪そうに目を逸らす。
「な、何よ、そんなこと言ったってーーー」
「まあ、もちろん」
『(あ、嫌な予感・・・・)』
真那が琴里の言葉の途中で口を開くと、士道とドラゴン、そして真那の中の“同居人達”が嫌~な気配を察した。
が、真那は構わず続ける。
「“実の妹”! には敵わねーですけども」
「・・・・・・・・」
その瞬間、空気が『フリーズベンド』・『ブリザードクラッシュ』・『Attention freeze!』したように、ビシッ、と凍りつき、ビキッ、とさらにヒビが入ったような音が聞こえた気がしたのは、絶対に気のせいではない。
「お、おい、琴里・・・・?!」
士道が話しかけるが、琴里は聞こえていないようだった。ピクピクと頬の筋肉を収縮させながら、やたらひきつった笑みを浮かべる。
「へえ・・・・そうかしら?」
「いや、そりゃそーでしょう。血に勝る縁はねーですから」
「でも、遠い親戚より近くの他人とも言うわよね」
琴里が反撃のようにそう言った瞬間、今度は終始ニコヤカだった真那のコメカミがピクリと動いた。
そして1拍おいた後、真那が琴里の手を放し、テーブルに手を突く。
「いやっはっは・・・・でもまあほら? やっぱり最後の最後は、血を分けた妹に落ち着きやがると言うか。三つ子の魂百までって言いやがりますし」
「・・・・ぐ。ふ、ふん。でもあれよね、義理であろうと、何だかんだで一緒の時間を長く過ごしているのって大きいわよね」
「いやいや、でも結局は他人ですし。その点“実妹”は血縁ですからね。血を分けてますからね! まず“妹指数”の基準値が段違いですからね!」
「(妹指数ってなんだ?)」
≪聞いたことのない単語だな・・・・≫
しかし、琴里は疑問を差し込む感じもなく、言葉を返す。
「血縁血縁って、他に言う事ないの? 義理だろうが何だろうが、こっちは10年以上妹やってんのよ! どっちが“妹指数”高いかだなんて明白でしょうが!」
≪なんで妹指数が通じているのだ?≫
しかし、真那は琴里の言葉に、『意義あり!』と云わんばかりに立ち上がって口を開く。
「笑止! 幼い頃に引き裂かれた兄妹が、時を越えて再会する! 感動的じゃねーですか! 真の絆の前には、時間など関係ねーですよ!」
すると今度は琴里が『意義あり!』と云わんばかりに立ち上がる。
「うっさい! 血縁がナンボのもんよ! 実妹じゃ結婚だってできないじゃない!」
「「え・・・・?」」
≪ほぉ~~~≫
≪≪≪≪≪へぇ~~~≫≫≫≫≫
なんだかおかしな事を訊いて、士道と真那の声がハモり、ドラゴンと真那の中の同居人達はニンマリとした笑みを浮かべていた。
琴里はハッと目を見開くと、頬を真っ赤に染め、誤魔化すようにテーブルを叩いた。
「と、とにかくよ! 今の妹は私なの!」
「何を! 実の妹の方がつえーに決まっていやがります!」
「強いって何よ、妹関係ないじゃない!」
もはや遠慮無用の妹のプライドを賭けた仁義無き戦いが繰り広げられた。実妹と義妹によるノーガードの殴り合いであった。
「ま、まあ落ち着けって、二人とも」
このままでは下手をすると拳での殴り合いに発展しかねないと思った士道は、額に汗を滲ませながらなだめようとするが、琴里と真那は同時にバッ! と士道に顔を向けてきた。
「士道、あなたは!」
「実妹、義妹、どっち派でいやがるのですか!?」
「え、ええっ!?」
突然予想外の問いを振られ、情けない声を発する。
「い、いや・・・・どっち派って・・・・」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」
琴里と真那が、ジーっと見つめてくる。どちらを選んでもろくなことになりそうにないのは容易く知れた。
≪責任重大だな小僧・・・・!!≫
完全に他人事のドラゴンは笑いを堪えているように声を震わせていた。
「(他人事だと思いやがって!)」
≪他人事だからな≫
「(少しは助けてくれよ!)」
≪フゥ~。ま、良いか。そろそろ“あちらの中の奴ら”の事が気になるしな≫
「(“中の奴ら”ってなんだよ?)」
≪小僧。あの自称実妹の中にな、ーーーーーー≫
「(なっ!?)」
士道はバッ!と真那の方を凝視した。
「おっ! 兄様はやっぱり実妹派でやがりますかっ!」
「ちょっと士道!・・・・えっ?」
真那が勝ちを確信したようにふんぞり返り、琴里が士道に険しい顔を向けるが、士道の顔が強ばっているのを見て、首を傾げる。
士道は真那を見つめて、唇を震わせながら声を発する。
「真那・・・・お前、“何匹いるんだ”?」
「えっ・・・・?」
「お前の中に、“何匹いるんだよ”っ!?」
「中に、ってまさか・・・・!?」
琴里も士道の言葉から何が言いたいのか察したのか、真那を凝視する。
「兄様? 琴里さん? 一体どうし・・・・えっ?」
真那も士道達の様子に戸惑うが、一瞬だまると、士道の方を見る。
「兄様・・・・? 兄様の中にも、何がいやがるのですか・・・・?!」
「っ!」
真那がそう言うと、士道もビクッ!と身体が強ばる。
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
三者三様に膠着状態になるが、真那の方が動いた。
「なるほど、兄様の中に“魔獣”がいやがるって事ですか?」
「「っ!?」」
真那がポケットから、士道の丸っこい形状のウィザードリングと違った角ばった形状のリングを2つ取り出し、シャッターのようなデザインがされたリングを右手中指に嵌めた。
「兄様の中の魔獣は、真那が退治してやがります! 行くでやがりますよ! 『ビーストキマイラ』っ!!」
真那は嵌めたリングを、両開きの扉のようなバックルにかざした。
[ドライバーオン!]
バックルに金色の魔法陣が展開されると、バックルがさらに大きくなる。真那は今度は左手中指に顔がデザインされたリングを嵌める。
真那がリングを嵌めた左腕を上に伸ばすと、両腕を大きく回し、中腰になって両腕を力強く右側で力こぶを作るようなポーズを取った!
「変~身!」
体制を戻して、バックルの扉の左斜め上にある穴にリングを押し込み、鍵を開けるように回すと、バックルの扉が勢い良く開いて、黄金のライオンの顔面と、開いた扉の裏側に左右それぞれに金色の動物の絵柄が現れた!
[セット、オープン! L!・I!・O!・N! ライオーン!!!"]
ガァオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッ!!!
バックルから真那の身体を上回る金色の魔法陣が展開され、真那の身体を通過すると、獅子の雄叫びのような声が響き、真那の身体が黒いインナースーツに、ライオンの鬣を意識させるマスクと緑色の二つの瞳、左肩のライオンの頭が装備された金と黒の姿となった!
「「なっ!!!???」」
≪ほおっ!!≫
士道と真那は驚愕し、ドラゴンもまた驚嘆したように声を発した。
「この姿の真那は、『ビースト』、でやがります。さて、『キマイラ達』、ランチタイムでやがりますよ!!」
はい、仮面ライダービースト役、真那さんがやってもらいました。
キマイラとの出会いは、『アンコール4 真那ミッション』を読めば察しがつきます。